PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ハッピーエンドは茨の道

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●貴族の老女からの依頼
「ローレットの評判はお聞きしています。信頼に足る傑物揃いだとか――」
 車椅子に乗った1人の老齢の女性が、メイドに連れられてローレットを訪ねてきた。貴族然とした身なりの老女は、依頼内容について語る。
「ここでは、どのような依頼も引き受けて頂けると聞いて参りました。どうか、私の孫を救って頂きたいのです……」
 老女は何やら深刻な表情で言葉を続けた。
 老女の話によれば、彼女の孫息子のユアンは、幻想種の女性と駆け落ちすることを計画しているらしい。
「ユアンの恋人のリアナは、旅芸人の娘でした。ユアンはリアナの竪琴の才に惚れ込み、竪琴の稽古のために、リアナを屋敷に滞在させました。きっとユアンは、一目見たときからリアナを見初めていたのでしょう……。2人の仲は、見ていて大変微笑ましいものでした」
 しかし、ユアンがリアナとの婚約を望んでいる旨を父親に伝えると、父親は激怒した。ユアンには父親が決めた許嫁(いいなずけ)がいた。貴族同士の結びつき――ひいては権力との結びつきを強めたい父親は、ひとり息子のユアンを貴族の令嬢と結婚させることに執着していた。リアナをユアンから引き離すためなら手段を選ばず、父親はリアナを毒殺しようとまでした。
「――その時はなんとか阻止できたのですが、ユアンはいよいよ父親と決別する意志を固めました」
 父親にとって、自分は道具でしかないことを悟ったユアン――孫が自らの人生を生きられるように、父親から逃れる手助けをしてほしいと、老女はローレットを頼ることにしたのだ。
 「こちらのメイドが、愚息の謀(はかりごと)を聞き伝えてくれました」と、老女は召し連れたメイドを指して言った。
 父親はリアナを亡き者にすることをあきらめてはいない。幻想から深緑へ向かおうとする2人に追手を差し向け、暴漢を装ってリアナを殺すことを目論んでいる。
 父親の味方をする使用人も多いらしく、老女自身も官憲の人間に報告することをためらっていた。
「勝手なことは承知しています――しかし、私にはたった1人の息子なのです。事が公にならないよう、どうか孫たちをうまく逃がしてください」
 そう言って、老女は深々と頭を下げた。老女の言葉に静かに耳を傾けていた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は力強く頷くと、
「お任せください! お孫さんとその婚約者さんの無事は、必ず保証します!」


●2人が向かう先
「――という訳なのです!」
 張り切って老女からの依頼を請け負ったユリーカは、その概要を招集されたイレギュラーズに説明した。
 ユリーカは幻想内の地図を広げて見せ、ユアンの住む屋敷の位置を示すと、
「皆さんには、屋敷から抜け出したユアンさん、リアナさんの2人を尾行し、リアナさんを狙う追手を撃退してもらいたいのです」
 2人に直接事情は伝えないのかと問われたユリーカは、渋い顔をして依頼主の懸念について話した。
「依頼主のおばあさんは、息子さんの罪が明るみになってほしくないようなので――」
 ごにょごにょと口籠るユリーカは、「ユアンさんが告発するかもしれませんし……」と罪悪感をにじませながら続けた。
 追手側もユアンの父親とは無関係を装い、あくまで暴漢に襲われ不運な死を遂げたことにしたい思惑があるようだ。
「依頼主の希望に沿うためにも、ユアンさんにはいろいろ内緒にした方がいいかもなのです……」
 ユリーカが言うように老女の希望を汲むのなら、通りすがりを装って助成するのが妥当だろう。
 ユアンは国境の門付近にひそかに馬を手配させている。夕刻に屋敷から抜け出し、その場所を目指して徒歩で向かう計画だという。門に向かう道中で、追手は2人を襲撃するに違いない。
 ユリーカは改めてイレギュラーズの協力を仰いだ。
「2人がハッピーエンドを迎えられるよう、どうかよろしくお願いします……!」

GMコメント

●情報精度
 このシナリオの情報制度はBです。依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。


●成功条件
 ユアンとリアナを幻想から無事に脱出させること。

 父親の謀略であることをユアンに知られても、成否には影響しません。よりスマートに助けられれば、ボーナス的な扱いになります。

●シチュエーション
 日が沈みかけた頃。
 屋敷の裏口から門へと向かう2人を追跡してください。(門までの距離は、徒歩10分程度)
 門にたどり着ければ、2人は馬に乗って脱出します。

●敵の情報まとめ
 ユアンの父親に雇われた盗賊崩れ×8人。
 一見それほどの手練という訳でもありませんが、中には強敵もいるかもしれません……。
 攻撃は【物至単】のみを扱います。


 個性豊かなイレギュラーズの皆さんの参加をお待ちしています。

  • ハッピーエンドは茨の道完了
  • GM名夏雨
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年02月15日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)
あいの為に
微睡 雷華(p3p009303)
雷刃白狐
佐藤・非正規雇用(p3p009377)
異世界転生非正規雇用
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す

リプレイ

 『折れた忠剣』微睡 雷華(p3p009303)はファミリアー――鳥の使い魔を使役し、周囲の地形を把握する。上空の使い魔と視界を共有することで、雷華は申し分なくその能力を発揮する。雷華は屋敷の裏口から出たユアンとリアナの進路を見極め、仲間と状況を共有した。
 リアナを守るため、イレギュラーズたちは各々の役目に徹する。
「失礼、そちらのお方――」
 『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)は、偶然を装ってユアンらと鉢合わせする。
「国境の門はどちらか、お教え願えませんでしょうか……?」
 声をかけてきたライを2人は警戒している様子だったが、同じ場所を目指していることがわかると、どこか表情が和らいだ。
 『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)もライに続き、人畜無害そうな柔和な態度で2人に接する。
「同じ門に向かうのですねー。よかったら、そこまでご一緒しませんか? ついでに道案内をお願いできたらうれしいですわー」
 メリルナートは少し離れた場所にある馬車を指して、同乗することを勧めた。馬車のそばには『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)、ルナ・ファ・ディール(p3p009526)の姿があった。
 メリルナートはエイヴァンとルナについて触れる。
「あの御二人には護衛を依頼していますー。ローレットから来てくれた方ですわー」
 メリルナートは商人を装い、ユアンらの不信感を払うように振る舞う。
 2人は遠慮がちに渋り、メリルナートの誘いを断ろうとしていたが――。
「こんなとこでのんびりしてていいのかよ? 時間に間に合わなくなっちまうぜ」
 そこへ歩み寄ってきたルナがメリルナートを急かした。判断を迫られる形となった2人は、最終的には馬車に同乗することを決めた。
「では、ご案内しますね」
 リアナだけが馬車に乗り込み、ユアンは門へと案内するために先導する。
 エイヴァンは馬の手綱を引きながらユアンの後に従った。同様にユアンのそばにつくルナだったが――。
(――てめぇの孫の女を殺す気満々の息子を、正しもしねぇ婆ぁ……ハッ。反吐が出るぜ。自分勝手なそのガキも、親父もな)
 ユアンたちが駆け落ちを決めた経緯に対し、ルナは心中で悪態をついた。
 リアナ、メリルナート、ライの3人を乗せた一頭立ての箱馬車は、落ち着いた速度で進んでいく。メリルナートとライの向かいに座るリアナは、どこか浮かない表情で馬車の外を見つめていた。
 「何か心配事でも?」とメリルナートは何食わぬ顔でリアナに尋ねる。
「女性だけでは何かと物騒なことも多いですが、彼氏さんがいるなら心強いですわねー」
 にこやかに会話を切り出したメリルナートだったが、リアナはただ苦笑するばかりで、緊張している様子が見て取れた。
 2人の行く末を案じている様子のリアナを見つめるメリルナート。彼女の先祖は種族の違いを乗り越えていることを知っているため、ユアンとリアナの未来がより良いものになることを純粋に祈っていた。
 一方で、ライは馬車の窓越しに見えるユアンの背中を、無言で見つめる。
(何不自由なく育ち、贅沢な食事をして上等な服を来て――)
 どことなく相手に清純そうな印象を抱かせるライだったが、その胸中には吐き出された毒を湛えていた。
(……しかし、貴族としての義務を果たす段階になったら、それは嫌だと全てを投げ出す息子――子どもが子どもなら、親も親ですね)
 ライ自身の生い立ちは決して恵まれたものではなかった。そのために、貴族という存在に一方ではない思いを抱いているようだ。

 各々が様々な思いを抱きながら、リアナの危機を救うために尽力していた。その内の『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)は、ユアンにそれほど悪い印象を持ってはいない1人だった。
 ――傍目にも山のように障害が待ち受けている御二人ですが……ひとりの人間として共にあろうとしているユアンさんは嫌いじゃないですね。
 他人を物扱いする貴族のイメージとは異なるユアンとリアナの関係に対し、瑠璃は力を貸すことに前向きだった。その瑠璃を含む雷華、『揺るがぬ炎』ウェール=ナイトボート(p3p000561)、『ほんとにほんとに』佐藤・非正規雇用(p3p009377)の4人は、通行人を装って馬車を追う。
 一定の距離を保ちながら追跡を続ける中で、道の向かい側を歩く1人の男が目に付いた。帽子を目深に被る浮浪者のような風体の男は、イレギュラーズらと同じ進路を進んでいく。その自然な振る舞いからして、たまたま進路方向が同じというだけなのかもしれない。男は4人と同様に、馬車とつかず離れずの距離を保っている。気にかかる対象ではあったが、ウェールは男の動向を注視するだけに留めた。
 ユリーカから見せられた地図をすべて記憶していた瑠璃は、馬車の進路について言及する。
「このルートは……、突き当りまで真っ直ぐ一本道ですね」
 瑠璃が言うように、上空にも目を持つ雷華はその記憶が確かであることを保証した。
 イレギュラーズたちは、住居などの建物に挟まれた石畳の通りをしばらく進む。死角の路地の間に敵の気配がないか確かめつつ、注意深く歩みを進めた。
 例の帽子の男はしばらく馬車の後ろについていたが、脇の路地へと踵を返し、どこかへ走り去る。使い魔に男を追跡させた雷華は多くを理解し、敵影の所在を共有した。
 研ぎ澄まされた感覚を駆使する者は、馬車の進路の先に複数の気配を感じ取っていた。帽子の男は仲間と合流し、他の男たちを引き連れて突き当たりの角の向こうからやって来る。
 馬車の跡についていた4人も徐々に距離を縮め、雷華は先行して、ユアンたちのそばにつくエイヴァンとルナに状況を伝えた。
 曲がり角に差しかかろうとした直前で、通行人らしき1人の青年が馬車のそばを通り過ぎようとした。しかし、急に踵を返した青年はユアンへ接近しようとした。
 帽子の男たちとは逆方向から現れた青年に、エイヴァンは即座に反応した。
 エイヴァンは、青年が衣服の下のナイフに手を伸ばした瞬間を見逃さなかった。砲身を備えた巨大なオノを担いでいたエイヴァンは、それを青年に向けて軽々と振り抜いた。エイヴァンの殺気を感じ取った青年は、すばやく飛び退く。
 斧を振るエイヴァンに続き、即座に拳銃を構えたルナも青年を狙う。青年は更にユアンから
距離をを取り、軽快な身のこなしでコートの裾を翻した。
 銃声に驚いていななく馬の手綱を手に取り、ユアンは慌てて馬をなだめた。
 ユアンの前に現れた青年の目的を問う間も
なく、帽子の男は馬車のドアに手をかけよう
とした。しかし、その直前で開け放たれたドアの向こうには、銃口を向けたライが待ち構えていた。ライの拳銃から撃ち出された銃弾は、帽子の男のこめかみをかすめ、どよめく男たちは一斉に馬車から離れた。
 相手に態勢を整える隙を与えまいと、ウェールは背負った鋼の翼を駆使し、飛行能力を発揮することで男たちの注意を引いた。
「見つけたぞ賊共め!」
 ウェールの刀は熱を帯びた鉄のように輝きを放ち、剣を勢いよく振り抜いた瞬間に生じる風圧は、熱波となって男たちを襲う。
 非正規雇用、瑠璃、雷華の3人も続々と加勢する。
「婦女子を狙うとは......」
 そう言って、大剣を翻した非正規雇用は気炎をあげる。
「成敗してやる!」
 非正規雇用は一気に攻めかかり、怒涛の勢いで男たちを吹き飛ばした。
(父親からの刺客……で間違いないよね)
 イレギュラーズの乱入に身構える男たち、1人1人を見回しながら、雷華は心中でつぶやいた。
(せめて、これ以上互いに争う事の無いように……上手く終わらせられればいいんだけど――)
 大振りのナイフを握り締め、雷華は2人が無事に逃げ延びることを願って行動する。
「困りましたねー。一体何が目的なのでしょー?」
 メリルナートは素知らぬ顔で青ざめたリアナと顔を見合わせ、リアナの安全を考慮して馬車の中に引き止めておく。
「それではー、一刻もはやく片付けましょう――」
 その響きは特異な力を帯び、メリルナートはその号令と共に戦闘に臨み、馬車の一部のように備えられていた戦旗を翻した。
 ユアンは怯える馬があらぬ方向に馬車を走らせないよう、必死に手綱を引いて路肩に留める。
 青年はユアンから注意を逸らすことなく、ルナやエイヴァンと対峙していた。ナイフを構えて踏み出した青年は、立ち塞がる2人を抜いて、馬をなだめるユアンへと迫る。無防備なユアンを狙ったようにも見えたが、青年の狙いは別にあった。青年のナイフは馬と馬車を切り離し、追い立てられた馬はその場から走り去った。
 今にも腰を抜かしそうな引きつった表情を浮かべるユアンとは対照的に、青年は冷静に動く。対処すべき相手を確実に見極め、瞬時に至近距離へと迫った瑠璃にも応戦した。刀を振り向ける瑠璃は青年と剣戟を交わし、繰り返しかち合う刃が接戦を物語る。
 低空飛行を続けるウェールは、恐怖によって棒立ちになっているユアンを抱えるように運び、リアナと一緒に馬車の中に押し込めた。
「巻き込んですまない……この賊共には、俺たちも用があってな。すぐに片付けよう」
 そう言って、ウェールは馬車を背にして、ひとまず2人の安全を確保した。
「ところで、お似合いのカップルさんや」
 ウェールはドア越しに、ユアンとリアナに語り掛ける。
「危険が多い世の中だが、2人で助け合って生きるのが重要だぞ」
 ウェールはどこか後悔の念をにじませて、一言言い添えた。
「独りで無茶すると俺みたいになるからな」
 手短に手向けの言葉を贈り、ウェールは再度戦線に臨んだ。
 チンピラ程度の男たちは、1人、2人とイレギュラーズに手込めにされていく。躊躇なく 攻撃を向けるイレギュラーズに対し、腰が引けている男たちの戦意の低さは明らかだった。
 恐らく寄せ集めに過ぎない男たちの中でも、最初にユアンに近づいた青年は際立った動きを見せた。格閱術を得意とする雷華を相手に、青年は肉薄する。
 剣戟を制しようとナイフを振りさばく両者だったが、連続で放たれる雷華の回し蹴りの勢いに圧倒され、青年はよろめきながら後退する。しかし、青年もただやられるばかりではなく、雷華は蹴り技を放った片足に鋭い痛みを感じた。
 青年のナイフによって切り傷を受けた雷華だったが、傷をかばいながらも迎え撃つ構えを見せる。雷華を退けようとする青年は一気に接近しようとしたが、響く発砲音が青年の勢いを挫く。青年の脇腹をルナが放った弾丸がかすめ、青年は血がにじむ箇所を押さえながら、苦々しい表情で踏み留まっていた。
 イレギュラーズの徹底した攻勢になおもめげず、青年はどこかふてぶてしい表情を見せると、
「本当は言いたくなかったんですが……」
 「ユアンの坊っちゃん」と青年は馬車の中のユアンに向けて語りかける。
「そんな簡単に他人を信用しちゃいけませんよ。こいつらがあなたの恋人さんの命を狙っているとは考えもしませんでしたか?」
 青年はあろうことか、イレギュラーズを父親からの刺客に仕立て上げようとしてきた。
「おばあさんはあなたのことを心配していましたよ」
 それらしい口実を並べる青年によって、ユアンの心はぐらつく。青年と疑心暗鬼になるユアンの反応を窺うエイヴァンは、
(依頼人については触れないでおきたいところだったが……)
 思わしくない事態にわずかに表情をしかめた。
「ふん、二枚舌め……賊の分際で、信用しろと?」
 非正規雇用はそう言って刃を向けつつも、どこまで白を切るべきかと考えあぐねて睨み合う。互いに相手の動きを探り合う最中、ルナは馬車を背にしながらユアンに向けて声を張り上げた。
「おい、坊ちゃんヨォ。てめぇの事情だなんだは知らねぇがな。今のこの状況で、てめぇが一番大事なのはなんだ? てめぇの命か? 隣の嬢さんか?」
 ユアンは馬車の窓越しに、ぶっきらぼうながらも真摯に語りかけるルナの姿を見つめていた。
「覚悟がどんなもんか知らねぇけどよ。……本当に大事にしてぇもんがなにか、それを忘れんじゃねぇぞ」
 ルナの言葉に後押しされ、ユアンはリアナの手を握り返すと、
「僕にはこうすることしか考えられないんだ――」
 その強い決意を示すように、ユアンはリアナをまっすぐに見つめて言った。
「君を失う以上の不幸はないよ、リアナ」
 こう着状態にあったわずかな間に、2人は馬車から外へと飛び出し、門を目指して走り出した。男たちの視線は手を取り合って走り出した2人に一斉に注がれ、青年は誰よりも速く行動に移ったかに見えた。
 真っ先にリアナを狙って駆け寄ろうとした青年だったが、ルナはその進路上に踏み出すことで青年の注意を自身に向けさせる。青年は邪魔だと言わんばかりにルナに向けてナイフを突き出した。勢いよくルナの懐に飛び込んだ青年だったが、ルナは青年を押し退けるほどの勢いを見せた。「あァークソ、痛ぇ!」と痛みに表情を歪ませるルナは、ぶつぶつと文句を言いつつも拳銃を構え続けた。
「死にそうに痛ぇが、これがパンドラってやつか。死ぬに死ねねぇんだとよ、運命様様だな、クソが」
 地面に横たわったままの3人を除いて、男たちは逃げ出した2人を追いかけようと躍起になる。しかし、イレギュラーズはその行く手を阻み、更に攻勢を強めていく。
 メリルナートは戦線を維持する一助となり、その清らかな歌声と共に、治癒の力を引き出す。激しい戦闘の中でも怯まず、メリルナートは自らの能力で仲間の傷の治癒を促進させた。
 メリルナートの歌声によってあふれる力を糧に、非正規雇用は一層激しく攻めかかる。居合の構えから放たれる一閃――ほとばしる紫電が男たちを襲った。相手が次々とくずおれるほどの非正規雇用の一撃に合わせて、エイヴァンは更に追撃を試みる。
 斧と一体化している砲口を向けたエイヴァンは、氷の砲弾を撃ち出した。砲弾の衝撃と共に、辺りは飛散する氷の粒に覆われる。その一帯だけが凍結し始め、大量の雪によって北極のような有様へと変わっていた。
 瑠璃は魔眼の能力を発揮し、視線が交わった瞬間に1人の命を奪った。瑠璃の魔眼の威力に動揺する男たちに向けて、ライは容赦なく銃弾を撃ち込む。他の男たちとの力量の差を見せつけていた青年だったが、次々と戦力が削がれる状態には焦りを覚えているようだ。
 ナイフを構える青年は、イレギュラーズ一同を見回しながら言った。
「本当に……腹が立つくらい有能だな、君らは」
 その直後、青年はガクッと膝をつく動作を見せたかと思えば、瞬時にライへと接近した。ライは青年を撃ち抜こうと、引き金を引く。青年は右肩に銃傷を負いながらも、ライの両手を押さえて組みつき、ライを利用することで他の者からの攻撃を躊躇させた。
「いけ好かない貴族に利用されるよりも、僕に利用されてみない? 君らのように有能な仕事相手なら歓迎だよ」
 ライは決して育ちがいいようには見えない青年の目付きを間近で見て、どことなく自身と同じ匂いを感じ取った。
「『いけ好かない貴族』という点には同意しますが――」
 ライは一瞬青年から視線を逸らすと、
「私を舐めているあなたの態度も、気に入りません」
 小柄なライは青年目掛けて頭を突き出し、青年のアゴを強打した。青年はわずかな差でライの胸倉をつかみながら、真後ろへ大きく身を逸した。そのまま傾いたライの体を、巴投げの要領で宙へと放り投げる。流れるような青年の動きに誰もが目を見張る中、受け身を取ったライは隙のない動きで青年を捉えようと拳銃を構え直した。
 すでに青年の姿は消え失せ、あっという間に路地へと入り込んだ青年を雷華は追う。ライも雷華の跡に続くと、路地の向こうには、縄梯子を利用して屋根の上まで逃げる青年の姿があった。縄梯子をすでに回収した青年は、憎たらしい笑顔でアゴをなでながら、こう言い残した。
「僕の名前はシンガ――またどこかで会えるかもね」

 戦線から離脱した青年に合わせて、残る男2人も一目散に逃げ出した。イレギュラーズはユアンとリアナの道程を案じ、目標としていた国境の門まで出向くことにした。門の前には、2人の代わりにユアンの祖母にも付き添っていたメイドの姿があった。
 イレギュラーズに向けて労いの言葉をかけたメイドは、2人が無事に深緑に向けて出発したことをイレギュラーズに報告する。
「ユアン様に代わって、感謝申し上げます。この度は御尽力を賜わりまして、ありがとうございました」
 雷華は再度使い魔を使役し、ユアンらの位置取り、逃げ出した男たちの行方を確かめた。ユアンの父親に感づかれないよう、雷華は刺客たちを始末するつもりでいたが、青年――シンガの行方だけはつかむことができなかった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました。イレギュラーズの働き振りを見て、シンガは関心を寄せたようです。依頼人としてローレットを訪ねることもあるかもしれません……。

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