PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ポリカ・ポルカ。或いは、赤い花の咲く場所で…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●綺麗な花の咲く畑
 独立都市『アドラステイア』。
 その下層にある花畑には、1人の女性が住んでいると老婆は言った。
 彼女の名はカリ・ガリ。
 彼女はかつてアドラスティアのマザーであったが、その非道に耐え切れず脱出を図ったと言う経緯がある。
「血に濡れたような赤い花の咲く畑さ。中央にある粗末な小屋が彼女の住処だが……」
 ベッドに横たわったまま、掠れた声で語る彼女の傍らには1人の童女が立っている。
 豊かな金の髪に、黒い肌。
 名をエクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)と言う。
「花畑? そこは、何か重要な施設なの、か?」
 エクスマリアの問いかけに、カリ・ガリは1つ頷き語る。
「子供たちの洗脳に使う薬の原材料なのさ。もっとも、その花が材料のすべてではないがね」
「とはいえ、花畑を焼くなりしてしまえば……」 
 多少は洗脳される子どもの数も減るだろう。
 そう考えたエクスマリアであったが、カリ・ガリは静かに首を横に振る。
「うん? 無理、なのか?」
「あぁ、その花畑は既に廃棄されているよ。花から抽出した薬には強い副作用があってね、子どもたちの寿命を著しく短くさせる」
「なる、ほど……では、なぜマリアにその話を?」
「そこの管理人である女性……“ポリカ・ポルカ”を助け出してほしいんだ」
「その者も、アドラスティアのマザーなのではない、か?」
「そうなんだけどね。彼女の場合は事情が違う。彼女はね、今も夢の中にいるのさ……」

 カリ・ガリ曰く、ポリカ・ポルカには1人娘がいたらしい。
 出産前に夫を失い、女で1つで彼女は娘を育てていた。
 貧しいながらも幸せな親子。
 けれど、ある日、娘は病魔に侵される。
 薬では治せない。
 手術でも治せない。
 日に日に弱っていく娘を前に、ポリカはただ泣いて謝ることしかできなかったのだと言う。
 そんな彼女の元を、ある日1人のマザーが訪れた。
『あぁ、優しい貴女。どうしてそんなに悲しんでいるの? 私に理由を聞かせてちょうだい』
 藁にもすがる思いで、ポリカは事情を説明した。
 そのマザーは、親子をアドラスティアへと連れて来た。
『ここでなら、きっと娘さんの病気も良くなるわ。貴女には、そのための薬を育ててほしいの』
 それが娘を救う対価よ、と。
 その女は、ポリカに告げる。
 娘のためにとポリカは花畑を一杯にした。
 その花が、洗脳に使われる薬の原材料とも知らずに。
 長く花畑に住んだせいか、いつしかポリカは正気を失した。
 そんな彼女を放置したまま、アドラスティアは花畑を放置した。
「花畑を離れれば、正気を取り戻すかもしれない……それに、今後その花が悪用されないとも限らないしね」
「つまり、花畑を燃やしてくれば、良いんだな? ところで、ポリカの娘は……」
「薬に身体が耐え切れず、とっくに亡くなってるよ。ポリカはそれを知らないだろうが……」
 仮に教えられたとしても、今の彼女がそれを理解できるとも思えない。
 彼女はただ、花を育て、花を守り続けているのだ。
 最愛の娘と再会する日を、夢の中で今も楽しみにしているのだ。
「……まったく、酷い話もあるもの、だな」
 暫しの沈黙の末、エクスマリアは絞り出すような声でそう呟いた。

●夢の終わり
 数日後。
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)に呼び止められたエクスマリアは、ギルド・ローレットの一室を訪れていた。
 先日、カリ・ガリに聞いた話を彼女に伝え、情報収集を依頼していたのだ。
 呼び止められたということは、ある程度の調査が終わったのだろう。
 しかし、ユリーカはどこか暗い顔をしている。
 そのことに疑問を抱いたエクスマリアは、首を傾げて「どうかした、か」と問いかける。
「調査が終わったのだろ、う? 何か問題でもあったの、か?」
「そうですね……カリ・ガリさんのお話通り、花畑はあったです。花畑への侵入経路も判明したですが……」
「うん? ならば、殴り込んでポリカ・ポルカを助け出せばよいのだろ、う?」
 と、彼女は問うた。
 けれど、しかし……ユリーカは眉間に皺を寄せたまま、ゆっくりと首を横に振る。
「花畑にいるのは、ポリカ・ポルカだけではないのです。他にも10名ほどの子供達がそこにはいて、ポリカと共に暮らしているのです」
 ユリーカ曰く、その子供たちはおそらくアドラスティア下層に住む孤児たちだという。
 ポリカ同様、その子供たちも夢の中にいる状態。
 ポリカは子供たちを“自分の娘”だと認識している。
 子供たちは、ポリカのことを“母親”だと思い込んでいるのだという。
「加えて花畑の周囲には6名の大人と、1体の“聖獣”がいるです」
「うん? 放棄された施設、なのでは?」
「そのはずですが……何らかの理由があって監視しているのか、それとも」
「再利用の目途が立った、か」
「おそらく……これは、モタモタしているとポリカさんの命も危ういかもしれないですね」
 正気を失ったポリカの存在は、アドラスティアにとって既に不要なものである。
 万が一にも外に逃がして、情報を漏らされるリスクも考えれば、始末した方が手っ取り早いということだろう。
「白い衣装にガスマスク。散弾銃を携えた大人たち……ガスマスクは花畑の【魅了】や【恍惚】対策でしょうか」
 花畑に長くいると、花の香りによって【魅了】や【恍惚】といった異常を受ける。
 その対策としてガスマスクを装備しているのだろう、というのがユリーカの予想であった。
 銃火器の射程は10メートルほど。
 一度に複数の対象を攻撃できるという特徴がある。
 そして、さらに厄介なのが“聖獣”と呼ばれる怪物の存在だ。
「人間を改造して生まれたモンスター……と言えば分かりやすいでしょうか。今回、花畑にいるそれは白い翼を持つ肉塊のような姿をしているです」
 肉塊からは、人のそれに似た手足が十数本ほど垂れ下がっているという。
 その手足で地面を這いまわり、肉塊から吐き出す酸……胃酸のようなもので攻撃してくることが判明していた。
「胃酸を浴びると【暗闇】【懊悩】【毒】などの異常を受けることになるです」
「つまり、そいつらを倒して……花畑を燃やしてくれば、いいんだろう?」
「倒す必要は必ずしもないです。第一目標は花畑を燃やすこと……申し訳ありませんが」
 救出したところで、正気に戻るかどうか不明なポリカ・ポルカや子供たちは、最悪の場合見捨てることになるだろう。
 言葉にせずとも、ユリーカの言いたいことは分かった。
 その話を聞いたエクスマリアは、何の言葉も返さない。
「……」
 いつも通りの無表情で、ユリーカの顔をただ黙って見つめ返した。

GMコメント

こちらのシナリオは「カリ・ガリ。或いは、パラサイト・ハピネス…。」のアフターアクション・シナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4646


●ミッション
花畑の焼却

●ターゲット
・ニグラス(聖獣)×1
肉の塊から、白い翼や10数本の手足が生えた怪生物。
アドラスティアで作られる“聖獣”という名のモンスター。
飛行能力はなく、無数の手足で地面を這いまわる。
白服たちの命令には従うが、それ以外の生き物はすべて“食料”としか見ていないようだ。

胃酸:神近範に大ダメージ、暗闇、懊悩、毒
 腐肉混じりの胃酸を吐き出す。


・白服×6
アドラスティアの大人たち。
揃いの白い服にガスマスク。
肩から散弾銃を背負っている。
花畑の警護や調査といった役割を担っているようだ。

散弾銃:物中範に中ダメージ


・ポリカ・ポルカ
アドラスティア所属の女性。
花畑に長くとどまったことにより、正気を失している状態にある。
彼女にとって、幼い子どもは皆“娘”のように見えているようだ。
また、10人ほどの幼子たちを保護している。
子どもたちも、ポリカのことを“母”だと認識している。



●フィールド
花畑。
アドラスティア下層、貧民街から幾らか離れた場所にある花畑。
周囲を金網に囲まれている。
花畑の範囲は直径500メートルほど。
視界を遮るものはなく、中央にある小屋にポリカ・ポルカたちは暮らしている。
また、対策なしに長時間花畑に留まることで【魅了】【恍惚】といった状態異常が付与される。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • ポリカ・ポルカ。或いは、赤い花の咲く場所で…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
あたしの夢を連れて行ってね
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
三國・誠司(p3p008563)
一般人
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
最強のダチ
司馬・再遊戯(p3p009263)
母性 #とは
レべリオ(p3p009385)
特異運命座標

リプレイ

●幸福夢見る花畑
 アドラスティア下層、花畑。
 血に濡れたような、色鮮やかな花の咲く場所。
 その真ん中に建てられた粗末な小屋には、ポリカ・ポルカという名前の女性が住んでいた。
 そして、10人の幼子たち。
 彼女が呼び集めたのか、それとも自然に集まったのか。
 ただ1つ、確かなことがあるとすれば……。
「ガキや傷ついた奴をヤク漬けにして利用する奴らにゃ天誅をだ」
 カウボーイハットを押し上げて『銀河の旅人』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)はそう告げる。
 ふわりと鼻腔を擽るスパイシーな甘い香り。
 瞬間、ヤツェクの視界が僅かに揺らぐ。
 花粉の香りには、強い幻覚作用が……例えば、洗脳に使う薬の原材料になるほどの……あるのだ。そんな花の咲き誇る花畑に長く住んでいるポリカ・ポルカや子供たちは、言うなれば常に幻覚症状に苛まれた状態ということだ。
 アドラスティアの大人たちが、洗脳薬の原材料生産のために作製し、そして破棄した施設である。
「ポリカ殿の娘はここへ来てから亡くなったのだな……往くべきところへ逝けただろうか」
 ポリカ・ポルカは娘の病気を治すためにこの地へやって来た。そこで彼女が与えられたのが、花畑の管理である。当の娘は既に死してこの世にいないというのに、彼女は今も夢も現も曖昧模糊とした状態で、花畑を管理し、娘の帰りを待っているのだ。
「ポリカ殿の娘はここへ来てから亡くなったのだな……往くべきところへ逝けただろうか。娘の霊魂が留まっているのなら、ポリカ殿にその想いを伝えることもできるだろうが……今の彼女にはキツすぎるか」
 彼、アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は死の側から生者と死者の境界を保つものに仕える身である。ゆえに生者だけでなく死者の心もまた案じていた。
 ただ1つだけ“正しい”と言えることがあるとすれば……。
「アドラスティアめ。まだこんなくだらねぇもん作ってやがったか」
 額に青い筋を浮かべて『太陽の勇者』アラン・アークライト(p3p000365)は怒りも顕わに吐き捨てた。
 その視線の先には、6人の白服たちと、1体の怪物。
 花畑の調査に訪れたアドラスティアの大人たちと、彼らが作った聖獣“ニグラス”であった。
「ガラじゃあねぇが……ポリカと子供達を助けるぞ!」
 彼のその一言を合図として、イレギュラーズは花畑へ向け駆け出した。

「帰ってこない娘の為に危険な植物を育てさせるとは、なんとも酷い話だね」
 『特異運命座標』レべリオ(p3p009385)は仮面の位置を直しながらそう言った。彼を含めた一行は、皆口元をマスクや布で覆っている。
 幻覚作用をもたらす花の香りを可能な限り遮断するための試みである。もっとも、これほどまでに多くの花が咲いていれば、いずれ影響を受けることになるだろうが。

 花弁を散らしながら駆けるレベリオは、一直線に白服たちへと近づいた。
 レベリオの接近を察知し、白服たちはニグラスの後ろへと下がった。ニグラス……肉塊に無数の手足が生えた怪物だ。
 生物らしからぬ容貌であるが、元は人間であるらしい。
 ニグラスの腕が振るわれるのとタイミングを合わせ、レベリオは手にしたナイフを一閃させた。
 飛び散る肉片。
 しかし、ニグラスは腕を止めない。腐った汁に塗れた拳がレベリオの腹部を強打した。
「……っぐ」
「っと、早速出番ですね」
 白い髪を風に靡かせ『目指せ拘束バニーの第一人者』司馬・再遊戯(p3p009263)が前へ。
 倒れたリベリオへ向け、手を翳した。
「さて、と。しっかり戦線支えますか」
 飛び散る淡い燐光が、レベリオの身体に降り注ぐ。
 リィン、とどこかで鐘の音が鳴り響くと共に、レベリオの受けたダメージが癒えていく。
「このあたりって特にバチボコやばい気がする。しょうがない、とりあえず外にいる面倒なのを処理してさっさと連れ出すか…!」
 小屋を見やった『一般人』三國・誠司(p3p008563)は、愛用の火器“御國式大筒【星堕】”を肩に担いで膝を突く。
 大口径の砲を目にした白服たちが誠司へ向けて銃を構えた。
 白服たちが引き金を引くのと、誠司が砲弾を撃ち出したのはほぼ同時。ちょうど2人の中間地点で、砲弾は炸裂し激しい爆炎をまき散らした。
 爆風の吹き荒れる中を、アランとアーマデルが突き抜ける。
 白服たちの注意がそっちに向いた瞬間、小屋に向けて2つの影が駆け出した。
「子供たちに慕われているポリカ・ポルカさんは、こんなところで死んでいい人ではないんです」
「ポリカ・ポルカと子供達をアドラステイアから救出する。花畑も焼却する。それがカリ・ガリの望みだから、な」 
 手で口を覆った『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)と、金の髪を隙間なく口元に巻き付けた『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)だ。
 白服たちには目も向けず、2人は小屋へと疾駆する。

●夢見る者らに這い寄る悪夢
 綺麗なお花。
 暖かな日の光。
 穏やかに流れる時間。
 笑顔の素敵な娘たち。
 ここはなんて幸福な場所。
 ここはなんて素敵なところ。
 こんな時間が、永久に続けばいいのにな……。

 あぁ、ところで……。
「私はここで、一体何をしていたのかしら?」
 
 ポツリと零した彼女の言葉。
 その微かな声を耳にして、ポリカ・ポルカのもとに子供達が集まって来た。
「泣いているの? お母さん?」
「……え?」
 何が? なんて、疑問の言葉を口にしたポリカ・ポルカはそこでふと気が付いた。
 果たしてそれは、どのような感情に起因するものだっただろうか。
 ポリカ・ポルカは自身でさえも気づかぬうちに、涙を流していたのであった。
「なに?」
 何故か胸がざわつくわ、と。
 そう呟いて涙を拭った、その直後……。
「お母さん! ここにいちゃいけないの!」
「逃げよ、う。花畑が、燃やされ、る」
 小屋の扉を開け放ち、2人の娘がそう叫ぶ。
「まぁ、まぁまぁ! 私の娘たち! 良く帰って来たわね。あぁ、幼かった貴女もすっかり大きくなって! あぁ、そっちの貴女は髪がすっかり伸びたわね!」
 突如現れた見知らぬ2人を一瞥し、ポリカ・ポルカは花が咲いたように笑った。

 肉のうちより伸びた幾つもの腕が、アランの手足を掴み、捩じった。
 裂けた皮膚から血が零れ、圧迫された筋と骨とが悲鳴をあげた。
「こんな姿にされちまって可哀想にな……今、楽にしてやるよ!」
 皮膚が破れることさえ構わず、アランは1歩後ろに下がる。
 破れた皮膚は、肉塊のうちに取り込まれた。食っているのだ。目も口も鼻も無いかのようなその外見からは分かりづらいが、ニグラスには口にあたる器官があるようだ。
「くれてやるよ、その程度」
 流れる血に腕を赤く染め、アランは剣を大上段に振りかぶる。
 その一撃が、アランに向けて伸ばされた無数の腕を一息に斬って地面に落とした。落ちた腕は溶解し、花畑に黒い染みを作る。
 本体から離れれば、形さえ保ってはいられない肉の塊。
 けれど、その切断面は蟲のように蠢きながら盛り上がり、すぐさま腕を再生させた。
 腕が再生するまでのほんの一瞬の間……その間にアランは【古き月輪】を発動させた。手にする2本の剣の名は太陽の聖剣《ヘリオス》と、月輪の聖剣《セレネ》である。
 光輝を放つ両手の剣を、大上段から肉塊に向け振り下ろす。

 半ばほどまで裂かれた肉の内側から、無数の腕が生えてきた。それと同時に、煙を上げる黒い体液が溢れだす。
 それはニグラスの胃酸であろう。
 至近距離からそれを浴びたアランの顔や首、胸部には大きな火傷。胃酸は皮膚を溶かしつつ、意志を持つかのようにアランの身体を這いまわる。
「安らかに眠れ……と、言いたいところだが、一筋縄にはいかないか」
 肉塊の頭上をアーマデルが飛び超える。
 絡み合いながら、無数の腕が彼を追うが届かない。赤黒く濡れた指で、哀れにも虚空を掻くばかりであった。
 一閃。
 アーマデルが蛇腹の剣を振るう。
 刃と刃をワイヤーで連結させた形の、まるで鞭のような剣だ。
 それは生きた蛇のように宙をうねり、肉を抉り、ニグラスの身体を傷つける。
「ォォ、ォォオ……」 
 痛みに耐えかねたのか……或いは、別の目的か。
 下部に生えた腕で地面を掻きながら、ニグラスは突如疾走を開始。
 アランの身体を踏みつけて、アーマデルを引き摺りながらニグラスの向かうその先には、今まさに小屋から外に連れ出されたばかりのポリカ・ポルカの姿があった。

 ニグラスの目的を誰よりも先に察知したのはヤツェクだった。
 白服たちへ向けていた牽制射撃の手を止めて、彼はリボルバーの銃口を疾駆するニグラスへと向ける。
「野郎、ポリカを喰らう気か⁉ 利用されたあげくここが墓場になるなんて、よくない。させてなるものかよ」
 狙いは正確。
 距離も十分に射程圏内。
 ニグラスの巨体に弾丸を撃ち込むことなど、ヤツェクにとっては造作もない。
 1点、彼に誤算があったとするなら……。
 否、或いは彼は“そうなること”を理解したうえで、ターゲットをニグラスに変えたのか……。
 ニグラスへ向け、弾丸を撃ち出したその瞬間……背後より放たれた鉛弾の雨が、ヤツェクの背を撃ち抜いたのだ。
 ヤツェクを撃ったのは白服の1人だ。
 ヤツェクは、その白服が自身を狙っていることにきっと気づいていただろう。
「ははっ! 自分の命より、錯乱した女やガキの命が大事か?」 
 白服は笑う。
 血に濡れたヤツェクの後ろ姿を見て高揚しているのだ。
「安心したまえ、すぐにあの世で思う存分語り合えるぞ!! そうだ、そんなにガキが好きだというなら、お前の死体のうえに孤児どもを山と積み上げてやる。うん? 俺は優しいだろ? 寂しくないよう、気を使ってやるってんだぞ?」
 引き金に指をかけたまま、白服はケタケタと耳障りな哄笑を響かせる。
 その様を見て、再遊戯はギリと奥歯を噛み締めた。
 そうしなければ、罵声や怒号の叫びとともに、胃の中身をぶちまけそうになったのだ。
「ほんと……どうやったら胸糞連中ばかり、これほど大勢集められるのか、興味が出てくるほどね」
 類は友を呼ぶとは言うが、それにしたって限度というものがあるだろう。
 彼らにとっては、自分たち以外の誰かの命も、誰かの意志も、路傍の石頃程度の価値しかないのだろう。
「っていうか、俺は優しいんだよ。わざわざニグラスを連れて来たのは、あの女を喰わせるためだ! ニグラスの腹ん中にゃ、あの女のガキがいるんだからよ!」
「……は?」
 ぽかん、と口を開けたまま再遊戯はそう呟いた。
 それがひどく不愉快で、そしてあまりに悍ましい真実。
 救いがあるとするのなら、ポリカ・ポルカが正気を失した状態にあるというそれだけか。
 彼女がもし、白服の言葉を耳にしたなら。
 その意味するところを、正しく理解したとするのなら……。
「こいつら……」
「待った!」
 杖を掲げ、白服へ向け駆けだしそうになる再遊戯にストップをかけたのは誠司であった。
「再遊戯君は回復を。こいつらは僕がやる。ダメだ、ダメだわ、こいつら救えねぇ。本当に……こいつらは、野放しにしておいたらダメだ。潰さなきゃ、ダメだ」
「同意だね。典型的な悪の組織で、ある種の感動すら覚えるな。さっさと消えてほしいものだ……いや、俺が消してやった方が手っ取り早いか」
 再遊戯を押し留め、誠司とリベリオが前に出た。
 ヤツェク、再遊戯、誠司、リベリオの行く手を阻む白服は4人。2人はニグラスについて、小屋へと向かっている途中だ。
 再遊戯が回復術式の展開に移ったその直後、誠司とリベリオは白服へ向け駆け出した。
 白服たちのばら撒く弾丸が、リベリオの身体を穿ち、抉る。血をまき散らし、ナイフを振るうリベリオに白服たちの注意が向いた、その刹那……。
「全員動かなくなるまで、ひたすら吹っ飛ばし続けてやるよ」
 轟音。
 火を噴く誠司の大砲が、撃ち出したのは白い砲弾。
 それは空中で炸裂すると、直線状へ白いトリモチをまき散らす。

 ヤツェクの撃った弾丸は、正しくニグラスの腕を射貫いた。
 巨体を支えていた腕の1本を撃たれたことで、バランスを崩しニグラスは転倒。その隙に、アーマデルは巻き付いていた蛇腹の剣を引き戻す。
 ニグラスの前方に回ったアランが、その下方へ向け剣を振るう。
 肉片と腕を落としつつ、ニグラスは前進。その後ろから続く白服へ向け、アーマデルの剣が閃く。
「お母さん! ここから逃げて! わたしに親孝行させて!」
 ニグラスの目的はポリカ・ポルカや子供たちだろう。
 腐った胃酸を吐き散らしながら、花畑を疾走する。喰らうのなら、柔らかい肉が良いということだろうか。
 ココロに背中を押されながら、ポリカが小屋を離れていく。その瞳には困惑の色。困ったようにココロの頭に手を伸ばし、彼女はくすりと微笑んだ。
「逃げる? でも、お母さん、このお花畑を管理しないといけないのよ。貴女が早く帰って来るように……貴女が、早く、帰ってくる? あら?」
「わ、わたしならここにいるから! ほら、他の皆も、急いで!」
「……ダメ、だな。追いつかれる。ここはマリアが」
 金の髪を蠢かせ、エクスマリアは踵を返す。
 アランの制止を振りほどき、跳んだニグラスがエクスマリアの眼前に。
 ニグラスが腕を伸ばした先には子供が1人。
 その腕へ、エクスマリアの髪が巻き付き食い止める。
 ニグラスはエクスマリアに目を向けず、次は別の子供を狙った。
 その様子を見て、ココロは気づいた。
「まさか……子供を優先している? 喰らうため? いえ、もしかして……」
 ニグラスの伸ばした腕をアランがその身で受け止めた。
 衝撃が内臓を貫き、アランは吐血し、顔を顰める。
 その瞬間、ココロの目にはニグラスが確かに笑ったように見えたのだった。
 
 肉塊から突き出す無数の腕を、アランとエクスマリアが捌く。
 防戦一方。
 血や肉片の飛び散る様を、子どもたちは茫然と眺めているばかり。
 泣き喚き、狂乱しない精神状態を幸運とみるべきか、それとも恐怖をそれと感じない心の在り様に嘆くべきか。
「罪の有る無しをわたしが決めていいのなら、たしかに有る。知らずとも、花を育てたポリカさんにも……でも、何より一番罪深いのは」
 こんなものを育てさせたアドラスティアの大人たちだ。
 噛み締めたココロの奥歯が、ミシと軋んだ音を鳴らす。
 ココロの意識が、ニグラスへ向いた、その一瞬……その隙を突き、ポリカ・ポルカは駆け出した。
 彼女は瞳に涙を浮かべ、エクスマリアの元へと走る。
 どうして?
 否……当然だ。母とは、子を守るものなのだから。
「危ない!!」
 エクスマリアの身体を抱いて、ポリカ・ポルカは叫びを上げる。
 その細い背を、ニグラスの腕が強打した。

●あぁ、愛しき子たち
 霞む視界。
 意識が次第に明白になる。
 背中の痛みと、流れる血。
 少しずつ、夢から覚めていく感覚。
「……怪我は、ない?」
 私の娘に……いや、彼女は私の娘ではないのだろう。豊かな金の髪をした、黒い肌の愛らしい幼子。名も知らぬ子ども。怪物に向かっていった、勇気ある子。
 その顔も、霞む目にはもうはっきりとは映らない。
 けれど……。
「なら、良かった」
「……うん」
「貴女は、私の子供では無かったのね」
「………うん」
「私は、長い夢を見ていたのね。長い、長い夢。きっと、何年も経ったのね」
「……うん」
「私の娘は、もう……この世にはいないのね」
「…………………………………………うん」
 それっきり、ポリカ・ポルカは黙り込む。
 静かに涙を流す彼女を、エクスマリアはココロに託した。ココロの治癒があれば、彼女は命を取り留めるだろう。
 ポリカ・ポルカの身体を抱きしめ、ココロは治療を開始した。子供たちは、どこか虚ろな目をしたままで、その光景を見下ろしている。
「アラン」
「おう」
 言葉は短く。
 黄金の髪は紫電を纏い、エクスマリアの頭上に雷弾を形成していく。
 飛び散る紫電で花が焦げた。
 問題ない。どうせ余さず焼くつもりだ。
 エクスマリアの放ったその雷弾は、音を置き去りにし宙を疾駆。ニグラスの中心部を射貫き、焦がした。
 落雷のごとき轟音。 
 跳ぶように駆けるアランが、エクスマリアの開けた穴に飛び込んだ。
 外からの攻撃は、厚い肉に阻まれ届かない。
 ならば、体内からならどうだ?
「土に還れ、クソ野郎」
 ドクン、と1度。
 震えるように肉塊は跳ね、それっきりその動きを止めた。

 絶命した6人の白服。
 戦況を不利と見るや、所持していた毒を飲んで自決したのだ。
 アーマデルとリベリオによって一ヶ所に集められた死体に、誠司が松明の火を着ける。
「子供たちは……回復はさせないほうがいいですかね」
 子供たちの手を引きながら、再遊戯はそう問うた。
 一瞬、思案した後にヤツェクは頷く。
 彼は自慢のギターを鳴らし、子どもたちへと微笑みかけた。
「これからおじさん達とちょっとしたピクニックに行こう。黄色いレンガの道を通って、な」
 燃える花畑に背を向けて。
 ニコニコと笑う子供達は、ヤツェクの後に付いて行く。
 その光景を一瞥し、ポリカ・ポルカはくすりと笑んだ。
 アランに背負われたポリカの手は、エクスマリアと繋がれている。

成否

成功

MVP

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘

状態異常

アラン・アークライト(p3p000365)[重傷]
太陽の勇者
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)[重傷]
最強のダチ

あとがき

お疲れ様です。
お待たせしました。ポリカ・ポルカや子供たちは救出され、花畑は焼けました。
依頼は成功となります。

ポリカや子供達が、その後正気を取り戻すのか。
正気を取り戻した後、どのような人生を送るのかはまた別の話。

この度はご参加ありがとうございました。

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