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シナリオ詳細

再現性東京2010:アイカメウン

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●巻物 伍
[注:この書物を確認中は必ず背後に誰も居ないことを確認して下さい]

 アイカメウンとはS県が発祥とされる怪異である。
 一説によれば児戯より派生した者であるそうだ。睨めっこを行う際の掛け声であるとされる。
 この怪異は古くは室町時代から伝承が残り、掛け声と共に睨めっこを仕掛けてくるのだという。風貌は鬼であるとされているが、時代の移り変わりにより能面であるともされる。
 面を模しており、怪異を知った者の顔面に張り付いて睨めっこを行い続ける。
 敗北するまで永遠にその能面は外れることなく、時間経過によって肉に張り付き顔面ごと剥いでしまうともされていた――そもそも、能面なので笑うことはないのだが……。
 人食い能面との呼び名も存在し、安易に発生するために要管理が必須となる。
 巻物の中では複数の人間を描き、アイカメウンに飽きが来ないようにと永遠の睨めっこを演じさせる術式を描いた。正し、一度でも巻物を開いた場合はその術式が一度消去され、アイカメウンが外へと飛び出す可能性があることに留意されたし。
 アイカメウンは何処へでも発生する。アイカメウンは気紛れに人に声を掛け、振り向いた人間に寄生する。
 また、この巻物を読んだ者が振り返った際に最初に聞こえる声が「アイカメウン」であった場合――……(此処から掠れて読めない)

●音呂木神社
「こんにちは、早速なんですが音呂木神社に封印されていた怪異が逃走しました。
 以前、煤払いの際に大掃除を手伝って頂いた蔵に存在した巻物から発生した存在なのですが……」
 音呂木神社の巫女、音呂木・ひよのは開口一番目からそう言った。巻物から霧散したと思われた怪異が生きていたと聞いた『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)は「ひいいい」と言いながらスクールバックで顔面を隠したままだ。
「ひ、酷いですよお! しにゃ――しにゃ――」
「と、言うわけでアイカメウンという人食い能面が現在しにゃこさんの顔面を狙っております」
「しにゃが幾ら可愛いからって――!」
 ひよの曰く、巻物を手にしていたしにゃこが最初にアイカメウンに追いかけ回されているのだそうだ。
 アイカメウンは『睨めっこ』を永遠に行う能面である。アイカメウンという言葉を合図にして睨めっこし、顔面の皮ごと剥いで行ってしまう怪異だそうだ。尚、通常の人間は顔面の皮が剥がれればショック死する事が多いのでアイカメウンは次の獲物を狙って無差別に殺戮を繰り返すのだという。
 解除するにはアイカメウンを睨めっこで負かすしかない――が、能面はそもそも表情が変わらない。故に、アイカメウンは睨めっこでは敗北することはないのだ。
「まあ、どうすればいいか……という話なんですが、アイカメウンが此方に接近してきてますので、皆さんは、各々顔面を護りながら倒して欲しいのです」
「そ、そんなざっくり――!?」
「まあ、此処は此処で希望ヶ浜では有名な神社ですので曰く付きの書物や物品も預かっている、と言うことですね。
 それではお気を付けて。私も顔面を護りながら背後で控えてますので……あ、流石にひよの先輩は顔面を剥がれたら死にますから見える位置でヘルプを求めますね」
 にんまりと微笑んだひよの――曰く、イレギュラーズなら一回くらいパンドラで何とかなるでしょうというざっくばらんさであった。

GMコメント

どつける怪異は怖くない! 倒せない真性怪異の方がよっぽど……。
夏あかねです。

●成功条件
 アイカメウンの討伐、及び復活前の封印

●アイカメウン
 宙に浮かんだ肉付きの能面。アイカメウンの掛け声で睨めっこを仕掛けてきます。
 人の顔面に張り付いて、睨めっこで敗北するまでその対象者の顔面に張り付き続け、最後はその皮と肉を奪い去って行きます。
 能面ですが、故に『笑顔以外の苦悶の表情』を映すことが出来ます。移り出す表情は今までのアイカメウンの被害者の貌です。

 悪性怪異として顕現しています、が、本質的にはどうしようもないので封印しましょう。
 通常の戦闘を行った後に封印して下さい。
 戦闘能力はざっくばらんに以下であろうとひよの先輩談。

 基本的には神秘攻撃での単体・複数攻撃を中心とするでしょう。
 1.5m程の宙に浮いています。CT値、FB値どちらも高そうです(貌的に)
 ブレイク等所有しています(貌的に)
 顔面に張り付く:1Tを使用して顔面へ向けて突進します。特殊抵抗何とか抗えます。
 (他の仮面を顔面に付けるなどで1度凌げます。また張り付かれたら強制的にパンドラ復活1度。取れます)

●封印方法
 封印が施されていた巻物に戦闘不能になったアイカメウンを押し込みましょう。
 不殺などで対応せずとも戦闘不能状態になれば一定時間は動かない能面となって地面に転がっています。

●音呂木神社
 今回のフィールド。希望ヶ浜では有名な神社です。
 音呂木とは古くはこの周囲の地名であったそうです。本来は『御路木(おろぎ)』『戸路来(とろぎ)』とされ、神々のお通り道である神木を指していたのだとか。それが転じて『御途路来』となり、『音呂木』になったのだとか……。そんな逸話のある場所です。
 希望ヶ浜に於いて味方陣地と考えて下さい。

●音呂木ひよの
 音呂木神社の巫女、希望ヶ浜学園の学生。皆のセンパイ、皆の生徒。
 愉快でクールな可愛い先輩です。顔面を護りながら後方待機してます。
「流石に私や一般人は顔面に張り付かれたらぽっくりなので人払いはしときました」

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 再現性東京2010:アイカメウン完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年02月05日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
一条 夢心地(p3p008344)
殿
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
バスティス・ナイア(p3p008666)
猫神様の気まぐれ
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
九重 縁(p3p008706)
戦場に歌を
糸色 月夜(p3p009451)

リプレイ


「しにゃこ……思い返せば良い奴じゃった……」
 ――まるで、亡き者になったかのように唐突なる回想シーンをお送りするのは『殿』一条 夢心地(p3p008344)。
 音呂木神社に所蔵されていた巻物から夜妖が『逃げ出した』と言う情報を耳にして『黒狼領主』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は「あー、うん。そうだな」と言葉を濁した。
「しにゃこに対してはツッコミは入れないでおく方が優しさという奴か」
「うんうん、これは分かるよ。これはあれだね、しにゃちゃんの不始末をあたし達が何とかしないといけないっていうヤツだね。
 んふふー、まー良いんじゃないかなー? ほら、あたしってば寛大な神様だからー?」
 全然良くなさそうな『猫神様の気まぐれ』バスティス・ナイア(p3p008666)の傍らで「笹木が叱ってくれているだろう」とやけに寛容な様子を見せるベネディクト。
 そう、あらすじについては『はなまるぱんち』笹木 花丸(p3p008689)がとっても詳しいだろう。
「つまり、今回のお仕事ってアレだよね? この前の大掃除でしにゃこさんが余計なことをしてて、ソレの尻拭いって事になるんだよね?
 一言で言えば、\しにゃこさんが悪いんだよっ!/」
 びし、と指さされたのは『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)。がーんとあからさまにショックを受けたっような仕草を見せた彼女はその手にウェヌスの嘲笑を握りしめていた。美貌の仮面でその超絶美少女な顔面を覆うのは悲しいけれどとしにゃこは目を伏せる。
「解っています、しにゃが悪いんですよね!
 しにゃが超絶美少女なせいで…封印が解けちゃう程しにゃの顔が欲しくなっちゃったんですよね!
 可愛いって罪ですね……! ですがそんなそんな世界の至宝損失を防ぐためにこんなにたくさんの人が集まってくれました!!」
「………」
 覆面を被りレスラーかテロリストを思わす風貌で立っていた『太陽の勇者』アラン・アークライト(p3p000365)のその姿にしにゃこは何もつっこみを入れることはない。
「……可愛いは罪であり正義でもあるのです! よし、行きますよ皆さん! このふざけた可愛い泥棒を解らせてやりましょう!」
「……まあ、そう、だな……」
 ケチって覆面を被っていたアランは何とも歯切れの悪い返事をした。もっと良い仮面を被れば良かったと己の風貌を鑑みて呟くがそんな準備時間も無いだろうか。
「それで、『アイカメウン』……『あっかんべー』か」
「成程。アイカメウン、アイカメウン……掛け声にしてはやたら言いにくく感じましたが『あっかんべー』なら納得です。
 相仮面が訛ってそのようになったのでしょうかね。民俗伝承、民俗語彙というのは少し興味深いです」
 アランの言葉に納得したとでも言うように頷いたのは『月下美人の花言葉は』九重 縁(p3p008706)。ふと、視線を送れば悲劇に涙を浮かべるしにゃこが瞳を輝かせて此方を見ているのが目に入る。
「……まあ、うーん。顛末的には同情より先にため息が出ちゃいそうですけど、女の子のお顔は大事ですもんね。大変なことにならないようにがんばります! たくさんの苦悶の顔。そりゃあ、笑っていられるわけ無いですもんね」
「そうだな。と、いうか……いや、能面が宙を浮いて顔に張り付いてくるってマジでホラーじゃねぇか」
 縁とアランに糸色 月夜(p3p009451)はあんな風にか、と指さした。浮かび上がった能面が存在して居る。
 景色は先程まで見て居たものと変わりないが能面が浮かび上がっているだけで非日常を感じるというものだ。
 月夜にとってはこれがイレギュラーズとしての初めての仕事であった。普段なら心底喜べるはずだったが戦闘や事やらでもう、そんなことどうでも良いとでも言える有様だ。正直、月夜には悪性怪異よりも恐ろしい者が待っていた――そう、年次最終学力試験だ。
「余り驚いてないみたいですね?」
「……ったりまえだろ。時期が悪りィ! こんな依頼で時間かけるたァまじやばい。また試験引っ掛かったら親がうるせェんだよ。
 おい、おとろぎだがなんだか知らねェが、顔面守ってやるからよォ、俺に勉強を教えやがれ!」
 びしりと指さされたひよのは「良いですよ」と微笑んで舞踊のための仮面を付けてイレギュラーズにエールを送ったのだった。


 貴公子の仮面を着用した縁の傍らでヒーロー物の仮面をシャキーンと装備した花丸は「しにゃこさん反省した!?」と問い掛ける。
「今回は花丸ちゃんの都合がついたからいいけど、いつだって手助け出来るって訳じゃないんだからね?
 今後は変なモノには勝手に触らない事っ! しにゃこさん、返事っ!」
「可愛くってご免なさい!」
 ――はなまるぱんちが飛び出しそうな気がした。仮面を付けて残機1UPの花丸も直ぐにしにゃこの仮面を剥ぎとりたい気分に陥ったのだった。
「しかし、睨めっこを行う怪異ね…そっか、そっか、怪異。
『倒せる』夜妖ではない『倒せない』怪異はこういった形で対処が必要なわけだね。なるほどなるほど……どーりであっちはあんな大掛かりな……と、今回は関係ない話だね」
 バスティスの脳裏に過ったのは音呂木神社の巫女であるひよのと共に調査を行っている石神地域のことだろう。倒せない怪異、通称『真性怪異』が其処には存在して居るそうだが……それとこの睨めっこの怪異は同じと云う事だろう。
 ウェヌスの嘲笑をそっと付けてもその威光(とのおーら)は霞むことがない――夢心地は「見てみよ!」と天晴れと言わんばかりに扇で己をぱたぱたと仰いでみせる。
「仮面をつけた日常というのも悪くないものじゃ。
 何と言ったか、ほれ……スケバンな刑事が鉄仮面をかぶるやつがあったじゃろ。しにゃこもアレ見たいになれば良いのじゃ !はい決まり! オーケー! 依頼大成功!!」
「ええっ、そんなドラマに出てるヒロインみたいってことですか!?」
「……しにゃこ、アイカメウンが此方を見ているようだが」
 漫才のような会話を繰り返すしにゃこと夢心地の様子を見ながらベネディクトは指を差す。浮かび上がった能面がタイミングを見計らうように此方を見ているのだ。
「冗談(半分本気)はさておき、じゃ。倒せるなら倒し、封印できるのなら封印する、それが麿たちの流儀じゃからの」
「ああ。さて、そろそろ気を引き締めよう──来るぞ」
 貴公子が付けた貴公子の仮面。ベネディクトの言葉に(現在の己の格好が外へ流出することを防ぎたい)アランは「さっさと終わらすぞクソッタレ!」と叫んだ。
 すう、と息を吐いた花丸は何時もの如く『だぶるぴーす』で敵を誘う。だが――今回は少しばかり都合が違うか。
「うわっ、変な顔した能面が本当にすっ飛んできたっ! なんかちょっと怖いよコレっ!?」
 能面がぐんぐんと進み来る。アイカメウン(睨めっこ)と行っている場合ではないぐらいに恐怖心をそそるその様子にしにゃこは堂々と叫んだ。
「よし、ゆけぃベネディクト! 笹木ぃ! しにゃこ姫を守るのです!
 やはり持つべきは友ですね! 笹木さんのご飯奪うのやめます!! 一ヶ月くらい。バスティス様も今日だけは後光がさして見えます!」
「……天才じゃな!」
 夢心地は気付いてしまった。しにゃこは驚かんばかりに天才的に煽っているのである。出店で売られていたミイラ男の仮面を着用したバスティスは「いつかおっきく返してくれればそれでいいよー? んふふー、楽しみにしてるからね。ほんとに良いよ良いよ」と軽口を叩いているが、その『おっきく返す』は中々骨が折れそうだ。
「花丸ちゃんが凄い嫌そうな顔してるよ。しにゃちゃん。
 いや、ほら、元凶だし、ね? 大丈夫だよ! 先っちょだけだから! 痛くないから!」
「うゔぇあー!? ちょ、誰か! ヘルプヘルプ!! しにゃのご尊顔がぁー!
 ダメですって! 先っちょだけでも美少女力削れますっておああああーー!?」
 懸命に後方へと下がろうとするしにゃこに紳士的に「下がっていろ」とそう言ったベネディクト。しにゃこは「今日も紳士ですねー!」と囃し立てるが、花丸から何故か非難がましい視線が来た気がしてベネディクトは苦い笑いを浮かべた。
「長々とは戦っては居たくない相手──ならば、狙うは短期決戦!」
 届く範囲に、その手を伸ばすように。ベネディクトは手を伸ばす。アイカメウンの横面目掛けて放たれる破壊的な攻撃が強かに能面へとぶつかった。
 続き、月夜が後方より怨念を放ち、アランが(見た目はちょっとアレだが)戦い続ける。覆面のテロリスト風勇者の傍らに立っていたしにゃこは「成程、なかなか良い格好ですね!」と大きく頷くが――
「前に行くか?」
「ああああ、止めて下さい!」
 アランのさり気ない一声に叫び声を上げるのだった。
 凄まじい勢いで飛び込んでくる怪異。顔面を狙うそれを受け止め、弾くが勢いの良さは止らない。短期決戦を狙えども、隙を突いて飛び込む其れが花丸の仮面をがらりと落とす。
「ッ、中々の勢いだよね!」
「いける?」
「……いける!」
 支えるバスティスに頷いて、花丸は落ちた仮面を其の儘にアイカメウンと睨め合う。イレギュラーズなら一度くらいは顔面にべったり張り付かれても大丈夫だと聞いていたが、この勢いとあの恐怖心を煽る姿は中々心に来る物がある。
「だがしかし! 下手をしたら顔の皮を剥ぎ取られるかも知れぬという、ただその一点が!!!
 こやつを恐るべき怪異へと押し上げておるのじゃ。うう……こわい……あほしにゃこ……。
 うっ、うっ、近接攻撃しかできぬ我が身を嘆きつつ、とにかくぶった切り続けることに専念しよう。
 なんか逆に呪いをかけられそうじゃが……恨むならしにゃこを恨んでおくれ……」
「いや、しにゃがかわいいからでは!?」
 泣き続ける夢心地にしにゃこはそう言うが背をぐいぐいと押し続けるバスティスに「ダメですー!?」と慌てるだけだ。夢心地は知っていた。此方の顔に向かって飛んでくるという単純な動きだけを見れば雑魚だ。アイカメウンは雑魚だと言えるが、下手をすれば顔面ごとさようならというのだから末恐ろしい怪異でしか無いのだ。
 震える脚に力を込めて、逃げるなと言い聞かせる。アイカメウンと戦い続け顔面が危険になれば交代を強いられる。そんな戦略と己の心の強さを試してくる――流石は、怪異! 天晴れだ、褒美をやりたい!
 そんな気持ちを他所にして、花丸が「あ」と叫んだ。顔面を掠めたアイカメウン。傷ついたからだに気付いたようにバスティスが「下がって!」と指示を飛ばす。
 気付く縁は癒しを送る。その声を響かせて、アイカメウンの動きに注力したままに。
「満点のはなびらひとつ ひらひら咲いて。きらめく刃はきららとうった。
 ともれ太陽、うすぐも月夜にほえろ狼 猫神様のしるべにそって……♪ きっとそれは夢心地。……なんてね」
 くすくすと小さく笑い歌い続ける。縁の歌声が響けば、仮面を手で押さえていた花丸の体から負担がするりと抜け落ちる。
 顔面に張り付かれてしまっては強制的に可能性を失うというのはある意味で危険そのものだ。故に、出来る限りの消耗を避けるべく縁は後方での位置取りにも気を配っていた。
「突き穿つ! 耐えれるもんなら耐えてみやがれぇ!!」
 地を蹴った。抉れた地面から僅かに土が立つ。腿の筋が僅かな音を立て、其の儘の勢いで放たれたのは神速の突き。アランの体に返る反動の分だけ仮面には見えぬダメージが蓄積されているのだろうか。
「俺の顔はまだ無事だぞ、アイカメウン。それとも、俺の顔を奪うのは諦めたか!」
 そう、嘯き笑う。花丸の素顔を狙ったアイカメウンへと声を掛け挑発的に笑ったベネディクトのかんばせを包んだ貴公子の仮面はその美貌を曇らすことはない。
 マイクロフォンを握りしめ、一に愛嬌、二にルックス、三が実力と四番目のアイドルの商売道具で声を生かして響かせる。縁の声を聞きながら、滑り込んだのはアラン。
「あんがとよ、これであの覆面をつける意味が無くなったってもんだ!」
 に、と唇を吊り上げる。仮面が音立て落ちたベネディクトと交代するように飛び込んだアラン。覆面の息苦しさを越えるように疑似聖剣を駆使した二刀の構えをアイカメウンへと叩き付ける。
「おどろ――音呂木! 気をつけろよ!」
 月夜は試験のためにひよのを護ると決めていた。距離をとり攻撃を重ね続ける。死合う大太刀は死者の怨念を一条として放ち続ける。
「チッ、弱ェて嫌だな、チマチマやンのは性に合わねェ。ここから必ず強くなってやる」
 呟いた月夜の眼前で、鮮やかなる紅と蒼の奔流が浮かぶ能面を包み込んだ。それが、アランの繰り出した光の奔流だと気付いたときには能面は怯えるように後方へと飛び退いた後だった。
「――今じゃ! はよ! はよ! 畳み掛けるのじゃ!」
 さあ、往けと夢心地が声を掛ければ、月夜は「勉強が待ってんだよ!」と苛立ったように攻撃を放ち――
 からん、と落ちた能面は最早動くことはない。先程までの奇っ怪な動きも見られぬままに大人しく地へと転がったのだった。


「オイ、そのなんたらウンを封印する前にちと寄越せ」
 ほら、と油性の赤ペンの蓋を外した月夜が手招けば動かぬようにと警戒した様子の縁は「どうぞ」とそっと差し出した。
「一体何を? ほほう、まさか……」
 その様子ににまりと笑みを浮かべた夢心地。やっと覆面から解放されたと一息吐いたアランは「面白い趣向だな」と能面の口角を上に向けるように唇の紅が差し込まれていく様子を見遣る。
「これでコイツァ、永遠に負けだな。ハッ! 次テメェが睨めっこした時が、テメェの最初の敗北で最期だ。肝に銘じておけ、肝があればな?」
 小さく笑った月夜の手元のアイカメウンをまじまじと見遣ったベネディクトは「良い笑顔だな」と小さく頷いた。
「はよ! はよ! はよ! はよ! しにゃこさんはやく!」
「ええ~? 美少女に手ずから封印されたいってことですか? 全く罪な仮面ですよね! 
 この封印の中で一生後悔しやがれこの不細工仮面ー!! ふっ、正義と美少女は必ず勝つ!!」
 もごもごとアイカメウンが動いた気がするが――それは気のせいという事にして夢心地としにゃこは「イェーイ!」と手を合わせて微笑んだのだった。
 無事封印は成功したのだろう。バスティスは「此れにて一件落着ってことだね」と胸を撫で下ろす。封印できるだけましな存在だと認識しておいた方が良いだろうか。
「次はもうこの様な事が無い様にせんとな?」
「そうだよ。しにゃこさんは貸し一つね?」
 父のように叱るベネディクトの傍らで花丸がしにゃこにずずいと近寄った。この貸しは三日ぐらいで忘れるしにゃこだが一先ずは頷いておくことだろう。
「これは倉庫に戻せば良いですか? ……願わくば永遠の沈黙がありますように。
 それにしても、こういうのっていくつもあるもんなんでしょうか? さっきの戦いで気を抜けばうっかりしにゃこさんの顔面がアイカメウンしそうでしたけど……」
 ひよのが指示した場所へと巻物を直しながら縁は振り返る。ひよのは「まあ、ここは曰く付きも多いので」と肩を竦めた。
「あ、巻物もっと厳重に保管してくださいね! またしにゃがうっかり手を出さないように!
 え、なんですか!? なんか皆さんの視線が冷たい気がします! しにゃの可愛さに免じて許して☆」
 にんまりと微笑んだしにゃこに花丸とベネディクトは縁が仕舞い込んだ巻物を直ぐに開いてアイカメウンを顔面に被せてやろうかと言う考えが頭に過った気がした。
「あ、ところでひよのちゃん、ところでしにゃちゃんを封印するにちょうどいいアイテムって知りませんかね?」
「あー……アイカメウン被せておけば静かになるのでは……」
「ええー!?」
 猫神様への提案に、何とも酷い返事が返ってきたとしにゃこは叫ぶ。縁はくすくすと笑い、夢心地は「しにゃこさん、良い奴だったのに……」と涙(うそ)を滲ませた。
「で、現実が一気に戻ってきた感覚だが――オラ、音呂木。あとで連絡をするからよ。憶えておけよ」
「ええ。月夜さん。一緒に勉強して無事に良い点数をとりましょうね」
 勉強会も良いかも知れませんと微笑んだひよのに月夜は頷いた。アイカメウンに殺された霊たちへ『早く成仏しろよな』とはくりと口を動かした彼は試験勉強をしなくてはと慌てたようにその場を後にする。
「つーかてめぇら、俺が覆面で剣振り回してるの絶対言いふらすんじゃねぇぞ!?」
「え?」
「音呂木?」
 アランの忠告にひよのがにっこりと微笑んで居る。aPhoneの中にはばっちりと覆面姿で武神の刃を振り回す勇者の姿が収められていたのだった――

成否

成功

MVP

糸色 月夜(p3p009451)

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 アイカメ-ウンというのは埼玉県東部で実際に存在して居る語彙なのだそうです。「ウン」で目を合わせるのではないかと考えられているそうなのです。室町時代にそんな記録も残っているのだとか……。
 MVPは迷ったんですが、能面に笑顔をくれたあなたに差し上げます!にっこり笑顔ですね。

 それでは、また希望ヶ浜で会いましょう!

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