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シナリオ詳細

再現性東京2010:旧希望ヶ浜団地跡攻城作戦

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●旧希望ヶ浜団地跡
 四階建てのコーポラティブハウスがひと棟。所謂低所得者向けの簡易構造団地である。
 古くさび付いた、看板すらも剥がれ落ちたゲートの先にあるそれは、ひどく老朽化していた。
 外側に面したむき出しの通路は手すりで守られてこそいるが、その殆どはさび付き表面素材が剥がれかけていた。
 この団地に住民はいない。かわりに、『トランスジャック』という違法グループがこの巨大な廃墟を占拠し、城塞化していた。
「チンピラどもが調子のりやがって……」
 煙草をくわえ、団地を見上げる黒スーツにオールバックの男、キリング。
 一方で団地のあらゆる扉が開きサイケデリックな装束の男達が姿を見せる。
 手にはナイフや鉄パイプ、木刀や角材といった『街の景観になじんだ』武装。それが見た目通りの性能でないことは彼らの振る舞いからも明らかだ。
 やがて男達は正面玄関前にぞろぞろと現れ、各階でも手すりを棒で叩くなどして威嚇の音を鳴らし始める。
 キリングは煙草を地面に放り捨てると、足で踏んで火を消した。
「じゃ、行くか? お掃除やさんの出番だぜ」

 戦いの始まり。
 だが、少しだけ待って欲しい。
 こうなるまでの経緯を、どうか聞いていってくれ。

●まほろばモラトリアム
 テレビニュースは中東が水資源を巡る平等共有会議に中国が出席しなかった旨について報じ、経済評論家と元芸人のコメンテーターが議論らしからぬ議論を四角い枠の内側で交わしている。
 日本は水資源に恵まれているわけではないんです。治水が優れているにすぎません。蛇口をひねれば水が出るのは街の人々が見えない所で働き続けている結果なのです。
 そうしたり顔で語るコメディアン崩れの映像を、黒いスーツ姿の男は胡乱げな顔で眺めていた。
「この街じゃあ毎日こんなデタラメを流してんのか。お気楽なこったな」
 懐から煙草を取り出し、マッチを三度ほどこする。それでも火がつかないのをいらだったのか舌打ちする彼に、プラスチック製の百円ライターが差し出された。
「こいつの言ってることは嘘だが、真実だ」
 差し出されたライターに火がつく。
 炎でやや暖色に照らし出された無名偲・無意式の顔は、ギザ歯で笑っていた。
 特待生(ローレット・イレギュラーズ)にとっては希望ヶ浜学園の校長として知られる彼だが、彼が校長室にいることは少ない。
 いつもどこかに消え、仕事もせずに夜遅くにふらりと帰ってくる。数日あけることもザラだ。そんな彼が訪れる場所のひとつが、この希望ヶ浜北区に位置するダイナーKUDOKANである。
 外に開かれることのない内向的な商店街に位置し、その住民しか入らないような店。その日は他の客もなく、灯りもつけずに無名偲と『彼』テーブルを挟んでいた。
 火のついた煙草から煙を吸い、けだるそうに息を吐く。男の名はキリングと言った。
「あ? 嘘なのか本当なのかどっちだよ」
 いかにもヤクザ屋さんらしい黒スーツに黒シャツ、そして深い赤のネクタイをしめ髪をオールバックにした彼の威圧を、しかし無名偲はギザ歯の笑顔で返すのみだった。
「聞き違えるなよチンピラ。『嘘と真実』は同居する。この街は地球どころか地球世界にすらない。日本国外どころか、21世紀の法律すら通用しない混沌世界の練達島の端だ。
 だがテレビをつければ日本のバラエティ番組だのドラマだのアニメだのが流れてくる。台風情報は日本列島で示される有様だ。『蛇口をひねれば水が出る』んだよ、ここは」
「ああ……」
 難しい話はごめんだというしかめっ面で生返事をするキリング。
「で? モリブデンからの移住はできるんだろうな」
「可能な限り手配しよう」
 対して無名偲の態度は鷹揚としていた。はじめから自分の手のひらだとでも言わんばかりだ。
「ただ条件がある」
「前科なら山ほどあるぞ。住所不定も無職もだ」
「知らんな。希望ヶ浜は過去を詮索せん」
「だったら――」
 いらだつキリングにを制するように、無名偲はテーブルにドンとUSBメモリを置いた。
「ここに記録されている奴らを撃滅してもらいたい。暴力は得意分野の筈だ。そうだろう?」
「…………」
 流石のキリングも言わんとしていることを理解したようだ。
 『街でおかしなマネをすれば、このUSBに記録されるのはお前の番だ』というわけだ。
「崩れとはいえマフィアを顎で使うたぁ、あんたクズだな」
「よく言われる。俺の長所だ」
 再びギザ歯で笑う無名偲。そして席を立つと、わざとらしく『おっと』と言って立ち止まった。
「今回の作戦はローレットと一緒にやってもらう」
「あ? おい、知ってんだろ俺らは奴らと――」
 反論しようと立ち上がるキリングに、無名偲は振り返る。
 冷たい、そしてまっすぐな目だった。
「この町でスイーパーをするなら、彼らとの共闘は必須。これは試験だ、キリング君」
 言われて、キリングはため息交じりに椅子へと腰を下ろした。
「……ったく、しょうがねえ」


 所変わって希望ヶ浜学園校長室。
 ブランデーをグラスに注ぐ校長と、その話を聞きに集まった特待生(ローレット・イレギュラーズ)たちがそこにいた。
「今回やってもらうのは違法グループの撃滅だ。希望ヶ浜団地――いや旧希望ヶ浜団地跡を占拠したトランスジャックというグループが、希望ヶ浜北区にMURDERというアブナイお薬をばらまいているらしい。奴らは小銭稼ぎのつもりだろうが、それが希望ヶ浜全域を真の闇に落としかねない危険行為だというのは、お前達にはわかるよな?」
 希望ヶ浜は『平和な日常の現代社会』。しかしそれは見せかけの、希望ヶ浜学園をはじめ多くの団体が日夜ケアし続けることで作られた薄氷の上の平和である。市民達はそれそ知らずに享受する。そうでなくてはならない。
「おっと、そこのイケイケな少年。その混沌世界じゃ当たり前のごつい武器を取り出すんじゃあない。そっちのライフルも、そっちの魔道書もだ。
 今回の案件は夜妖退治じゃあないんでな、あくまで不良グループ同士の抗争ということにさせてもらう。
 情報は優秀なスタッフがキッチリといじるから素性がバレる心配はないが……できればファンタジックな武器は収めておいてもらえると助かるな」
 校長はそこまで説明するとグラスに口をつけ、椅子の背もたれによりかかった。
「それと、今回は敵の数も多いんでな。こちらも人員を増やすことにした。キリングという男とその部下達だ。この町では暮らしやすい風貌の連中だが、如何せん希望ヶ浜初心者でな。作法を教えてやってくれ。
 ……説明は以上だ」
 資料を机の上に投げ出して、無名偲校長は背を向ける。
「健闘を祈る」

GMコメント

 団地を舞台にした攻城戦を行います。
 情報操作のしやすさという観点からできるだけ飛行や壁抜けといったファンタジックな技を使わずに解決してほしいとのこと。
 要するに素手や棒でぶん殴って進めということです。

■オーダー内容
 旧希望ヶ浜団地跡を占拠した違法グループトランスジャックを壊滅させます。
 彼らは団地をある意味要塞化しているので入り口からの侵入は極めて困難です。
 団地手前の広場での乱戦をおこして敵の大部分を引き出し、脚立やハシゴをかけるなどして二階通路へ侵入。残る敵を倒しながら最上階のフロアを目指していきます。
 このとき最上階のリーダー連中が証拠品諸々を処分してしまわないように可能な限り素早く最上階へ到達する必要があります。
 端的に言うと『ここは任せて先に行け』を2階、3階それぞれでやりましょう。各フロア2人くらいいるとベストです。

■武装について
 全員ステータスシートどおりの能力値及びアイテム降下をもっているものとします。
 ただし外見は現代日本ぽく変装し、ステゴロないしは木刀やステッキなどを装備した状態になっています。
(飛行や物質透過等々は『できるけどやらない』といった感じになります)

■味方戦力について
 キリングという元マフィアの男とその部下連中が味方になります。
 結構な頭数のある集団なので、彼らと一緒に広場で戦うことになるでしょう。
 キリング以外の戦力はほぼ広場で敵をかき乱す役目を負います。
 また、彼らの戦闘力は『PCたちのエモさ』に依存します。
 勢いよく突っ込んでいったり格好いい台詞を言ったり危ないとき颯爽と助けてやったりすると彼らは心強い戦力として皆さんの役に立ちます。

【おさらい】
・舞台は団地。攻城戦だ!
・みんなステゴロ。突っ込め!
・エモさで味方が強くなる。格好つけろ!
・広場、二階、三階で『ここは任せて先に行け』チャンス!

・キリングについて
 一度はローレットと敵対した元マフィア『クーロン会』の実質的リーダーでしたが拠点にしていた鉄帝モリブデンが物理リセットされたことでここに居られなくなり、割と気風の合う希望ヶ浜へと移住してきました。それなりのワルですが仕事に忠実なため今回は頼れる仲間として機能します。ワルさでは校長や一部のローレット・イレギュラーズも負けてないので気にしないでください。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/2506

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
 希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
 練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
 そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
 それも『学園の生徒や職員』という形で……。

●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。

  • 再現性東京2010:旧希望ヶ浜団地跡攻城作戦完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年02月04日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ジル・チタニイット(p3p000943)
薬の魔女の後継者
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
メイ=ルゥ(p3p007582)
シティガール
わんこ(p3p008288)
雷と焔の猛犬
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
秋野 雪見(p3p008507)
エンターテイナー

リプレイ

●一瞬の命を燃やせ
 ひび割れたアスファルトを歩いて行く『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)。
 左右から加わるライダージャケットを羽織った『無名の熱を継ぐ者』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)と『シャウト&クラッシュ』わんこ(p3p008288)。
 二人は襟をはじくように直すと更に左右から加わった希望ヶ浜学生服姿の『ネコメイド本領発揮♪』秋野 雪見(p3p008507)と『シティガール』メイ=ルゥ(p3p007582)。
 スマホでどこかへ電話をかけると、電源をきって懐へとおとす。
 進んでいくと横道から数人が現れた。
 晴れた空の下にも関わらず傘をさした『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)。科学の教科書を閉じて顔をあげる『薬の魔女の後継者』ジル・チタニイット(p3p000943)。
 フードのついたロングコートでシルエットを隠した『怪盗ぱんちゅ』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)がポケットに手を入れたまま加わり、集団は八人となった。
 そんな彼らの正面から歩いてくるのは、黒いスーツにオールバックのキリングである。
 彼の後ろにはそれなりの数の男達が集まっていたが、いつか見たような大人数ではない。
 くわえていた煙草をその場に捨て、ハッと苦笑半分の笑みを浮かべるキリング。歯を見せてニカッと笑う千尋――がいきなり関係ない車に横から撥ねられた。
「ぁっ……」

「かっこよく外車でエントリー決めようと思ったんだけどよ。
 いや~~~、やっぱ俺車ダメだわ。な! しにゃこ!」
「前世でなんかしたんです? 前世って言うか前の世界」
 案外無傷でからから笑ってる千尋を、しにゃこはジト目で見ていた。
「久しぶりじゃんキリング。何人か兵隊借りてくぜ。なぁに、悪いようにはしねえよ。仲間だろ? 今回はな」
「あ? なにナメた口きいてんだ? ツブすぞテメェ」
「ハァーン? やってみろオラァ」
 半笑いのままガチ恋レベルに顔を近づける千尋とキリング。
 しにゃこはそれをウンウンと頷いて見ていた。
 そんな空気の一方、集団の後ろの方でぐるっときびすを返す雪見とメイ。
 スマホを自撮り棒でかざすと、二人して横ピースした。
「突撃隣の団地ご飯!
 どうもみなさんこんにちはお宅のご飯をいただきにゃ! でお馴染みの雪見ちゃんですにゃ!
 今回はこちらの団地にお住まいのよくわからん怪しい方々からご飯を頂戴しに来ましたにゃ!
 というわけでですね、これから私たちはここの人たちをとりあえずボコボコにすればいいらしいので張り切って頑張るにゃ!」
「なるほど、大体理解したのですよ! では、メイも舐められないようにこのヘルメットをしっかり被って行くのですよ!
 なんか早速ケンカしてるけど、ローレットも色んな人がいるので、昨日の敵は今日の味方なんてよくあるのですよ! …………多分!」
 集団の中から前に出たわんこ。
 指ぬきグローブをしっかりと装着すると、若干ギザった歯で笑った。
 黒いバチを握った男が大太鼓を設置すると、ゆっくりとリズミカルに打ち始める。
「いや~前から一回やってみたかったっていうか、言ってみたい台詞あったんですよ。言う準備しとかなきゃ」
 被っていたフードを目深にして薄く笑うアルヴァ。
 その横では学ラン姿のニコラスがポケットに手を突っ込んだままニヤニヤしていた。
 ポケットから取り出したのは赤い砂のゆうなものが入った小瓶だった。近くで取引していた奴をのして取り上げたものだが……。
「薬。薬ねぇ。もっと健全な遊びしろってんだ。ポーカー、麻雀、パチンコと楽しめるもんはいっぱいあんだろうが。
 小銭稼ぎにしたってもっと他にあんだろ。カツアゲとかギャンブルとかよぉ。たっく仕方ねぇなぁ」
 一方でジルは非常勤講師として町に潜入する際の変装をそのまま学ラン姿に換装した姿で立っていた。控えめに言ってゴリラだったし変装っていうかもう着ぐるみの域だった。
「キリングさん……新天地で周囲に溶け込むって、ホント大変っすね。
 僕もウォーカーだし、違う文化に馴染む大変さは少し分かるっすよ」
「それなじんでるって言えるんデス?」
「まああの学校色な奴いるしな」
 集団はやがて団地の前へと到着した。
 ぞろぞろ出てくる男達。通路の手すりを鉄パイプで威嚇するように叩く連中たち。
 荒れ果てた希望ヶ浜団地のゲートはWELCOMEという文字が大幅に欠けてしまっていたが、僅かにそれが団地だった面影を残していた。
 この要塞と化した団地を攻略するのが、今回の依頼内容である。できるだけ一般人のケンカに見せかけるようにして。
「そんじゃさ、早速アレやっとく?」
 千尋はグーにした手で自分の頬をポンポンと叩いてみせると、目を見開いて叫んだ。
「行くぞテメーーーーーーーーーらァ!!!」

●男達のカルマ
 違法グループ『トランスジャック』。練達を中心に活動し、依存性の強い薬物によって資金を得ている集団である。そんな彼らにとって希望ヶ浜は美味しい隠れ蓑だった。
 市民達が偽りの日常に対して盲目的になっている状態は、裏返せば大量の死角が町に転がっていることをさす。
 日常を維持するために練達の主要な機動部隊諸々の介入を拒む希望ヶ浜という『聖域』を利用して、薬物製造、拉致、実験、その他様々な悪が外側から入り込む。
 だがそれをはねのけるのもまた、希望ヶ浜学園の使命なのだ。
 かくして――希望ヶ浜の不良グループと団地を乗っ取った不良グループによる抗争。そんなベールを被った潰し合いが始まるのだ。

 全力で走り正面玄関の集団へとぶつかっていくキリングとその部下達。
 トランスジャックの兵隊たちは木刀や鉄パイプに偽装した魔剣を起動すると飛び込む希望ヶ浜愚連隊へと迎撃を始めた。
 その先頭をきり、跳躍からのパンチで兵隊を殴り倒す千尋。
 が、そんな彼の頭部にビールの空き瓶が叩きつけられた。
 上階の通路から次々に投げ込まれた瓶である。もちろんこれにも魔術が込められ、見えない爆発によって千尋は吹き飛ばされた。
「ここで戦っててもキリがねえ! 脚立もってこい脚立!」
 工場などで使われるような木製パレットを担ぎ盾にすると、見えない爆風に耐えながら脚立を運んできたメイとアルヴァたちをかばって走る。
「俺たちは後から追いかける、お前らは先に行け!!!」
「さて、この広場はメイ達に任せて先に行ってくださいですよ おや?
 アルヴァさんも残るですか? 体育祭の大玉転がしコンビ再結成ですね!」
 頷き合うメイとアルヴァ。
 脚立を二回の通路手すり側へひっかけると、それを蹴倒そうと迫るトランスジャックの兵隊たちへと身構えた。
 繰り出される鉄パイプをひつじのリュックで受け止めるメイ。
 アルヴァも拾った木刀で同じように攻撃を弾くと、かぶっていたコートを放り投げた。
「怪盗ぱんちゅだ!! 名前だけでも憶えて逝ってもらおう!!」
「あ? なんて?」
「二度名乗らせるな!」
 アルヴァは団地の上階からぶら下がった荷物引き上げ用のロープを掴むと、振り子の原理で兵隊たちの上を踏みつけながら駆け抜けていく。
 その間に雪見とニコラスは二階通路へと到達。
「ああ、こりゃいけねぇ。楽しくなってきた。かはは!!」
 脚立の上を階段をあがるように駆け上がったニコラスは迎撃しようとした兵隊を跳び蹴りによって壁に叩きつけると、打ち込まれた鉄パイプをガードからのつかみで強引に通路奥側へと押し込んでいく。
「テメェらはこんなもんか? 俺はまだまだいけるぞ。まだまだ遊び足らねぇぞ!!!
 もっと。もっと。もっとだ!!! 魂を燃やせ。意志を燃え上がらせろ。その先の輝きを見せやがれ!!!」
 一方で雪見は反対側から木刀を持って威嚇する兵隊めがけてビッと指をさした。
「皆さん、やっちゃってくださいにゃ!」
 すぐさまなだれ込んでいくキリングの部下達。通称『希望ヶ浜学園定時制チーム』。
 その勢いに押される形で引き下がる兵隊たち。が、すぐにその力関係は拮抗しはじめた。
 上階から敵兵が流れ込んでいるためである。
「こっちの通路はもうだめにゃ。抑えておくから反対側から行くにゃ!」
「恩に着るっす!」
 ジルは火炎瓶を取り出すと、ライターで火をつけて放り投げた。
 入り口側の敵兵たちが二階へ増援にこないための足止めである。
「さあ、ドンドン進むっすよ!」
 一方でジルは階段を駆け上がり、上階から足止めしようと襲ってくる連中を強引に押し返しにかかった。
 階段の踊り場で拮抗する戦力。
 が、しかし。
「ここは任せて、先に行けぇっ!! 負けたら承知シマセンヨ!!」
 わんこが壁をジグザグに蹴ることで集団の真上をとり、スタンピングをかけまくることで踊り場の敵兵達を押し倒した。
 しにゃこたちが『健闘を祈る』とビッと二本指を立て、駆け抜けていくのを見送ると、三階から移動しようとする敵兵たちに身構えた。
「付き合わせてスミマセンネ、ジルサマ。……さぁ、エスコートは終わりデス。こっからは、"喧嘩"の時間だァ!!」
 最上階の通路を抜け、部屋へと突入するしにゃこ。
 団地の一室ではあるが、いくつもの部屋を無理矢理ぶち抜いているらしくかなり広い部屋の中心に、赤い髪の男がサングラスをかけて座っていた。
 ビッと指さす千尋。
「まいどぉ~~~~~正義の味方です。やぁっておしまいしにゃこ!」
「ふっ、皆の意思を背負ったしにゃ達に勝てるわけないんですよ!」
 畳んだ傘で殴りかかるしにゃこ。
 が、部屋の隅でじっとしていたドレッドヘアの男が飛び出ししにゃこの傘を握って止めた。
「おお、やってんな」
 そこへ悠々とした調子で入ってくるキリング。
 赤髪の男もまた立ち上がり、サングラスを脱いだ。
「クーロンのキリング……なんでスチールグラードのマフィアがこんなとこ出張ってきてんだよ」
「人間いろいろあるんだよ。な、キリング!」
 ぽんと肩を叩いて笑いかける千尋に、キリングは苦笑した。
「慣れ慣れしくしてんじゃねえぞコラ」
「あァン?」
 そうしている間に、相手から距離をとるようにしにゃこが飛び退いてきた。
「独り占めしてもいいんですけど、シェアします?」

●伝説の始まり
「捕まえ――いやぶっ殺せ! 首切って持ち帰れ! でねぇと俺らが殺されンぞ!」
 鉄パイプや金属バットを握った男たちが広場を走り抜け、団地裏にできたごみごみとしたエリアへと入っていく。追いかける対象はメイひとりである。であるにも関わらず……。
「そんな動きじゃメイの髪の毛一本掴めないのですよ!」
 軽トラの上へワンアクションで登り宙返りをかけながら反対側へと飛び降りる。その反動をスニーカーで蹴り返すことで瞬発力とし、トップスピードで走り抜け障害物だらけの細道を越えていく。
 しかし地の利はあるのか、袋小路へ追い詰めた――かに思われたその時、ブロック塀で囲まれたエリアの向こう側。つまりは壁の外からアルヴァが飛び込み、跳び蹴りによって先頭の男を蹴り倒した。
「ここにいるメイちゃんが目に入らないか!! あの小さくて華憐で、尊い姿が目に入らないというのか!!」
 ビッと指を立てたアルヴァ。
 バタフライナイフを開いて刺しにかかる男が現れたがアルヴァにはかすり傷ひとつ追わせられない。喋りながら上半身の動きだけでかわすと、相手の腕を掴んでひねるように投げ落としてしまった。
「可愛いは、正義なんだよなあ!」
「さあ反撃ですよ! 必殺技メイパンチをうけるのですよ!」
 塀を蹴って二段階に跳躍すると、自分より50センチほど背の高い相手に高所から殴りかかるメイ。

 一方こちらは二階通路。
 三階へ援軍に出ようとする連中を押さえつけるべく雪見と愚連隊がもみ合いになり、何人かが手すりから外へと放り出されていく。
「ああっ! 山下さんに佐藤さん! あと蟹!」
「蟹ィ!?」
 手すりから振り返る雪見に『誰が蟹ジャア』とキレる愚連隊の皆さん。雪見は『怪我がなさそうでなによりにゃ』と頷くと、迫る虹色ゴーグルの男へと向き直った。
「こうなったら私のジツリキを見せるしかなさそうにゃ」
 腕まくりをする雪見に、ゴーグルの男はバタフライナイフを二つ、格好良く展開して斬りかかってきた――が、雪見はそんな相手の『股下』を万歳姿勢のスライディングで抜け、両足を掴んでスピン。
 強引に姿勢を崩されたゴーグル男が手すりから転げ落ち、その後方で悠々としていた男へついでの起き上がりハイキック。
「これに懲りたらネコカフェにもどうぞ! 心を入れ替えてこんなところで悪いことするのはやめてからいらっしゃいにゃ!」
 その間ニコラスは三階へ向かう踊り場でこきりと首をならしていた。
「つーわけでテメェらにゃまだまだ俺と遊んでもらうぜ。先になんざ行かせねぇ。逃しもしねぇ。火をつけたのはテメェらだ。今更後悔なんざするんじゃねぇぞ」
 そう語るニコラスに挑みかかるのはスキンヘッドの三人組。
 空を小さくチョップするみたいに右から三人を数えると、小さく頷いて手のひらを上にしてクイクイと手招きした。
 一斉に襲いかかるスキンヘッドの攻撃を受ける――かにみせかけて半テンポ先に踏み出し先制のスネイクパンチ。腕をしならせたこぶしが先頭のこめかみをうちバランスを崩壊させた所で腹を蹴りつけ階段の下へと転げ落とす。
 残る二人がハッと振り返った所に飛び込み、両手で二人の顔面を掴んで階下へ……いや、それすら飛び越えて手すりまで跳躍した。
 手すりに後頭部を強打し気絶する二人。
 ニコラスは熱い吐息を吐き出した。

「ウホッス!」
 三階の通路中央。敵の襟首を掴んで持ち上げ、ボーリングのボールのようにスローするジル。
 魔力を込めたフルスイングによって地面と水平に飛んでいった敵が他の連中をボーリングピンよろしくなぎ倒していく。
 ジルは白衣のポケットに手を突っ込むと、ザワッとした敵たちににらみをきかせながら……栄養ドリンクを取り出した。ラベルには『347KDR』。
「ウホホッス」
 そう言って放り投げた先は後ろで戦うわんこだった。
 キャッチし、親指のワンアクションでスクリューキャップを外し開いた口へ直接流し落とすように飲み干すわんこ。
 空っぽになった瓶を放り投げると、両肩を一度上下させて姿勢を整える。
 ライダージャケットの男たちが顔をしかめて鎖を手に取った。
 振り回す鎖が不自然な軌道を描いて暴れ回る。おそらく魔力を込めた偽装武器なのだろう。この鎖からは逃れられないぞという目の光りに、わんこはしかし『真正面から』突っ込んだ。
 手足に絡みつく鎖。引き絞られた鎖が通路の足場や天井を通してわんこをその場に磔にしようとした。
 が。
「ぬるいデスネ」
 両目を見開いたわんこはそれをすべて無理矢理引きちぎり、相手の顔面を殴り倒した。
「そろそろ……決着がつくころデス」

 一方のしにゃこ。
 ドレッドヘアの男を傘で何度も殴りつけるが微動だにせず迫ってくる。ドレッドヘアは前蹴りでしにゃこを突き飛ばし壁に叩きつけると、首をひねりながら更に迫ってきた。
「ちょ、ちょっと!? こんな可愛い女の子に蹴り入れるとか恥ずかしくないんですか!」
「知らん」
 次なる蹴りを入れよう――としたその時、しにゃこの傘が『発砲』された。
 先端の偽装キャップがはずれ、隠しトリガーの操作によって銃弾が発射されたのである。
 脇腹に直撃をくらい、目を見開くドレッドヘア。
 しにゃこはテヘペロの顔をしたまま容赦なく連射。
 崩れ落ちる男を横目に、キリングは千尋へ振り返った。
「てめーらも大概だな」
「カッケーだろ?」
 そこへ殴りかかる赤髪――を、千尋とキリングは同時に繰り出したパンチによって殴り倒した。
 倒してから、ハッとして顔を見合わせせる。
「あれ、こいつトランスジャックのボスだよね?」
「……の、はずだな」
「雑魚かったんだなあ……こいつだけ」
 とりあえず倒れた赤髪を殴りまくって顔をボコボコにすると、千尋とキリングはそれを引きずって四階の手すり上に掲げて見せた。
 これで終わりだ。誰が見ても明白な、それは落城であった。

●MURDER
 後日談、というか今回の締め。
 問題になっていた薬物MURDER。それがぎっしりはいったケースを手に取って、キリングがまじまじと眺めている。
「おいおいキリちゃーん、それ持って帰るの? 許さねえよ。好きに出来ると思うなよ?」
「あ? 誰がテメェの許しが欲しいつったよ」
 と言いながら、キリングはケースを足下へと投げ捨てた。ガラス瓶が砕け、中身が散っていく。それを踏みつけてから煙草を取り出す。
「舐めんな。俺らはプロのマフィアやってんだぞ。こんなダセぇもんに手ぇ出すかよ」
「あっそ」
 千尋は歩み寄り、ジッポライターをつけてやった。

成否

成功

MVP

ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

 ――希望ヶ浜学園(ハマガク)の不良グループが団地に巣くった不良グループをツブしたという噂が流れました。

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