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シナリオ詳細

<アアルの野>ひとりの夜にサヨナラ

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『真なる夜魔』エルス
 まるで夢のようだった。
 めまぐるしく変わる風景と、いつまでもこの場所にいたくなるような温かさと、きっとこれは嘘なんだという、こころの棘。
 だからきっと、夢のようだった。
 現にさいた、夢の花だったのだ。
「おはよう」
 そう、彼女は言った。

●クリスタルの迷宮
 ラサ砂漠地帯に発見されたファルベライズ遺跡群。その地下深くに見つけた『扉』より、クリスタルの迷宮へと突入したイレギュラーズたち。
 彼らた受けた依頼内容は迷宮の攻略であり、この奥に待ち構える『博士』を見つけ出すこと。
 些細な願い事をかなえる程度の力しかもたないとされていた秘宝『ファグルメント』から博士が引き出した真の力として『ホルスの子供達』とこのクリスタル迷宮を作り上げていた。
 ホルスの子供達とは死者の名前を奪い姿を模し、まるで魂を与えられたかのようにみせかける術式である。
 むろん写し取るのは名前と姿のみ。魂なきそれに思い出も経験も還ることはない。死不可逆という世界絶対のルールをやぶるものでは決して無いのだ。
 とはいえ死した者の姿を真似る人形たちに多くの者たちが苦しめられ、迷宮探索は険しいものとなったのだが……。

「『真なる夜魔』を知ってるか。奴を摸した人形が迷宮内に防衛ラインを築いたという報告が入った。
 奴の真名を知る者から奪ったんだろうが、こいつがどうにも厄介でな……」
 情報屋の話に寄れば、『真なる夜魔』の姿をもした人形は夢でできた空間を迷宮内に映し出し、侵入した人々を強制的にバラバラに分散させてしまうという。エルスの待ち構える部屋までたどり着けるのはごく僅かなメンバーのみとなるだろう。
 しかも分断された先では当人の思い出から抽出されたような模造風景が広がり、さらには配置された『ホルスの子供』一体が当人の知る死者の名と姿を奪って襲いかかるという罠を仕掛けていた。
「こいつを突破し、奥のフロアで待ち構える『真なる夜魔』の人形を打ち倒して欲しい。エルスの部屋に行く方法は今んところハッキリしてないが……おそらく当人への強い思いや何かしらの偶然性によってたどり着くだろう、っていうのが俺たちの予想だ」
 情報屋はそこまでいうと、『真なる夜魔』によっておこされた一連の事件やその裏にあった魔種の物語を集めた資料をイレギュラーズへと渡した。
「あと、これも言っておくぜ。過去ってのは時に心地よいもんだが。ゆめゆめ、囚われちまわねえようにな」

●常夜の呪いと、少女エルス
 むかしむかしあるところに、エルスという少女がおりました。
 少女のパパは心優しい神父様で、お願いをされれば決して断らない素晴らしいひとでした。お金も取らず、ただ喜ぶ顔と人々の安寧だけを求めて。
 街の人々はそんな神父様をたよりにして、たくさんたくさんお願いをしました。
 神父様はその全部を一生懸命にこなして、決して弱音を吐いたり嫌な顔をすることはありませんでした。
 だから、神父様は死んでしまったのでした。
 教会にはエルスと過労死した父親の死体だけが残りました。
 お金も食べ物もなにも残らなかった教会の中で、少女エルスは思いました。
 『もう、おやすみ』
 優しい夢の中で、幸せな眠りの中で、静かに静かに、現を感じぬまま、死んでいけばいい。
 それから、街は明けない夜に覆われました。
 住民達も死に絶えて、ただ教会の一室で眠る少女だけを残して。
 もう誰も、少女の名前を呼ぶことはありませんでした。

「…………これが、私」
 幸せな表情のまま朽ちた冒険者の手から資料をとりあげて、『真なる夜魔』……否、それを摸した人形のエルスは最後のページを閉じた。
「私は、エルス。『真なる夜魔』、エルス……けれど、なんでだろう」
 眠そうに目を擦って、枕をぎゅっと抱きしめる。
「私(この子)は、どうして死ななきゃいけなかったのかな」

 ここに来る誰かは、それを教えてくれるかな。

GMコメント

このシナリオはラリーシナリオです。仕様についてはマニュアルをご覧ください。
https://rev1.reversion.jp/page/scenariorule#menu13
章は一章構成。採用人数は20~30程度を予定しています。

■グループタグ
 誰かと一緒に参加したい場合はプレイングの一行目に【】で囲んだグループ名と人数を記載してください。所属タグと同列でOKです。(人数を記載するのは、人数が揃わないうちに描写が完了してしまうのを防ぐためです)
 このタグによってサーチするので、逆にキャラIDや名前を書いてもはぐれてしまうおそれがあります。ご注意ください。
例:【もふもふチーム】3名

■個別パート制
 迷宮に突入したイレギュラーズたちは一切の例外なく個別に分断され、それぞれ別々の部屋へと転送されます。
 ここでは専用の風景と専用の『ホルスの子供達』があなたを襲うことになります。

 プレイングには自分にとって『思い出のある場所』と『亡くしてしまったひと』を書きましょう。
 もしなにもない場合、デフォルト状態の部屋でランダムな錬金モンスターと戦うことになります。
※グループタグで2人以上のグループを組んでいる場合は、全員で一緒の部屋に飛ばされます。偶然に。そこで発生する『ホルスの子供達』の数はケースバイケースでかわります。

■エルスパート
 ふつうは個別パートへ飛ばされますが、『真なる夜魔』エルスへ強い思い入れや伝えたいことなどがある場合はこのエルスの部屋へと転送されることがあるようです。(それ以外に、ただ仲間と一緒に戦いたいという想いがここへ繋がったケースもあるようです)
 『真なる夜魔』エルスは人形とはいえ高い戦闘能力をもち、影から湧き上がる無数の手やそこから召喚する影の獣たちをけしかけるなどして戦います。
 この部屋では仲間と力を合わせて戦うことになるでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <アアルの野>ひとりの夜にサヨナラ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月26日 18時05分
  • 章数1章
  • 総採用数15人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)

 ゲートを潜った直後、『砂食む想い』エルス・ティーネ(p3p007325)は見慣れた世界に立っていた。
 『夜の世界』と呼んだこの場所で、彼女は絶望や悪夢の代名詞だった。
 吸血鬼の王、その娘エルス。
「もしあの話が本当なら……現れるのはきっと……」
 恐れか、期待か、それとも好奇心か。あまりにも多くの感情が交ざった胸を抑えて歩き始めれば。
 ほら、そこに立っている。

「エルス様」
 笑みとも、泣き顔ともとれない顔で、『人間』はこちらを振り返った。
 記憶の中に蘇る、あの叫び。
 ――『エルス様に殺して欲しかったのに!』
 その叫びが、今にも聞こえてきそうな顔だった。
「あなただけでも助けたかった。他はみんな、殺してしまったから。
 けど、それすらも私には許されなかったのね」
 迷宮の守護者として襲いかかる、『ホルスの子供達』。
 エルスは笑って、そして指輪を鎌へと変化させた。
「来なさい。――今度こそ『殺してあげない』わ」

 ――私、とても悲しかったのよ?
 ――あなたは私の奴隷として与えられた使用人だったけれど
 ――私は、唯一の友人と会えた気がしたから

成否

成功


第1章 第2節

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽

 ――知っているが、知らない男が目の前にいる。
 ――知ってるのはその軍服と両の青い目。知らないのはその顔立ち。
 ――立っているのは揺れる船長室。背後に旗を負う異形の姿。
 ――きっと外は赤い雨の降る、絶望の青だろう。
 ――覚えているよ。名も、今なら知ってる。

 海の揺れを感じながら、『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)はゆっくりとライフルにてをかけた。
「しかしまぁ、私なら誰が出るかと思えばこう来たか。
 そろそろ旗を返しに行けという事だろう。
 忠告痛み入るよ」
 『彼』より早く動く……必要は無い。
 ラダは狙いを外さない。撃たせれば良い。
 自分の脇腹を攻撃がかすめていくのを感じながら、ラダは目を細めて引き金をひいた。
「さぁ、寝言の用も済んだのだからまた眠ると良い」

成否

成功


第1章 第3節

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!

「案の定というか、狙い通りというか……まー俺はこっちだわな!」
 『ザ・ゴブリン』キドー(p3p000244)は世にも楽しそうに、現れた男の姿を指さして笑った。
 広い砂漠のど真ん中、ジッポライターで自らの顎を焼く男。ファイヤパターンのタトゥーを顔半分にいれた彼の名を、キドーは心に刻んでいた。
「灼顔のカイシングオ!
 俺はよ、ずっと後悔してたんだよ。
 お前のことは気に入っててさ……もっと火遊び出来るもんだと思ってたからさぁ……あの程度で死ぬとは思ってなくてよお……。
 だから精々楽しもうぜ!」
 ゲヒャヒャと笑いながら爆弾に手をかける。
 カイシングオの放つ銃弾がキドーの胸を正確に狙うが、キドーはそれを予測していたかのように払い落とした。
 転がらせた爆弾が爆ぜ、燃え上がるカイシングオ。
 キドーは笑みをぴたりと止め、そしてがくりと肩を落とした。
「……やっぱ偽物は駄目だな」
 崩れる人形。
 背を向けるキドー。
「あいつはもっとド変態だったぜ。『顔に似合って』よ」

成否

成功


第1章 第4節

マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形

「おお、憐れな泥の子よ。なぜ生まれ出た」
 ため息のような、泣き声のような、しかし満面の笑みで、『泥人形』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)は『彼』の名を呼んだ。
 景色はすっかり泥の沼。
 雷の吼える夜のこと。
 あのとき『死んだ』何者かを、マッダラーは知っている。
「お前には家族がいた。妻の温かいスープを飲み、子供と一緒になって遊ぶような、そんな男だったはずだ。だが断じてそれは『俺』ではない」
 ビッと指をさすマッダラー。
「その通りだ。『私』は『お前』ではない。『私』は死んだのだろう?」
「そうだとも、あの雷の夜に!」
 爪をむき出しにして飛びかかる人形と、同じく爪をむき出しにする自称泥人形。
 二人は互いの首を掴み、その握力によって握りつぶした。
「土へとかえれ。泥の子よ」

成否

成功


第1章 第5節

ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)
ワルツと共に

 仲間の助けがいるのだと、迷宮を走る『ふたりのワルツ』ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)。
 待っていてねお姫様。いま私が迎えに行くから。
 そんな彼……いや彼女の足を止めさせたのは、美しい花畑だった。
 見覚えのある、花畑。
 その中心で花かごをもったメイドが、微笑みをもって振り返る。
「……エルマ」

 一番仲の良かった、家のメイド。
 自分のせいで命を落としてしまった彼女。
 無力な自分を庇って、彼女は、彼女は――。
「ぐ、う!」
 思わず漏れ出しそうになった感情を、アントワーヌは片手を顔に押し当てることでこらえた。
 白い布の手袋ごしに、優しい香水のかおりがする。
 そうだとも。これは、あのひとが好きな――。
「ごめんね、その名前は君たちにあげられない」
 花かごから取り上げたナイフ。
 微笑みのまま、『アントワーヌ様』と囁いて、エルマは駆け寄ってくるけれど。
「それは、私が持っていなくちゃいけないんだ」
 胸に突き刺さるナイフの冷たさを、アントワーヌは愛した。
 そして、彼女の首へと手を伸ばす。

成否

成功


第1章 第6節

墨生・雪(p3p009173)
言葉責めの天災

 雪にとって、よく知る場所だった。
 旧墨生邸別荘。もしくは、蔵。
「そっか。ここがボクの……」
 酷く寂れた郊外の家。畳の上へ直に座っていた女性が……母が、振り返って微笑んだ。
 『雪』と呼んで、手招いている。
 涙が出るほど美しくて、喉が枯れるほど懐かしくて、けれど痛いくらいに……。
「幻なんだ、こんなのは」

 『言葉責めの天災』墨生・雪(p3p009173)はまわりに一人も仲間がいないことに、内心感謝すらしていた。
 もし誰かがいたなら、礼儀正しくおとなしい『墨生雪』の仮面を被ったままだった。
 今なら、素直になれる。
「きれいな思い出の姿をとるな。
 このクソ泥人形が」
 母の姿をした人形は『これは残念』といって小刀を手に取った。
 だがそれを抜くことすら許さないほどの速度で、雪は横を駆け抜ける。
「もうこんなものは帰ってきませんし、縋る子供でもありません。だから、ボクは――私は」
 ごろん、と後ろで椿が落ちた音がした。

成否

成功


第1章 第7節

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器

 仲間の救援要請を受けて迷宮へと駆け込んだヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)。
 彼は気づけば、見知った屋敷の部屋に立っていた。
 かつて暮らしていた世界に置き忘れた、ヨゾラの隠し部屋である。
 天井窓から見える夜空が、それをはっきりと認識させた。
 世界に帰ってきた……わけではない。それは、直感で分かる。
 ではこの場所は一体何故……。
 そうして浮かんだ疑問は、後ろから声をかけられた事で氷解した。
 自分にそっくりな青年。けれど眼鏡も魔術紋のない彼を、ヨゾラは知っていた。
「この身体が欲しくなったのかな? いや、違うか……」
 迷うことは無い。紋様を淡く輝かせ、魔術を解き放つ。
 咄嗟に構えて同種の魔術を放つ青年に、ヨゾラは『それはあんまりだ』とつぶやいた。

 戦闘によって荒れきった部屋。土塊へとかえっていく人形。
 ヨゾラはそれを見下ろして、肩を落とした。
「それは……その名前も姿も、あの人のものだから」

成否

成功


第1章 第8節

カイト(p3p007128)
雨夜の映し身

「へえ、こいつが噂に聞いた常夜の呪い、ね……」
 ハンドポケットで雨ふる街を歩いていた。
「いや、その紛いモンか」
 情報屋曰く、この景色も色宝が生み出した仮想空間であるのだという。
 なじんだ街の景色も。
 肌にかかる雨も。
(かつての、凄惨な都市伝説を演じるだけだった頃の風景だ……)
 明滅する街灯。
 まるで浮きあがる記憶のように現れた彼女は――。

(俺の傷痕から掠め取りやがった、盲目の女を。
 まるでなぞるように、慈悲ある聖母みたいに)
「……紛い物如きが」
 武器を手に歩み寄ってくる女。
 『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)は呪符を握りしめると、強大な呪力を拳に纏わせた。
「あの女みたいに。
 俺の心に。
 踏み込んで来るんじゃねぇ」

「……所詮踏み込める程の愛なんざ欠片も持ち合わせていない分際が!!!」
 女の胴体を、カイトの拳が貫いていく。

成否

成功


第1章 第9節

黎 冰星(p3p008546)
誰が何と言おうと赤ちゃん

 見知らぬ土人形を倒すべく走り、跳び蹴りをくらわそう……としたその時、『耐え忍ぶ者』黎 冰星(p3p008546)は全く別の場所へと転送されていた。
 よく見知った風景。それも、生まれ育った家の風景だ。
 空気が重く淀んだような室内に、敷き布団がひとつ。
 布団に寝転んでいるのは、冰星の母親だった。
 否。母の名と姿を奪った人形、というべきだろう。

 ――母上は死んだのだ。
 ――12のとき、母が病に倒れた。当時は内心少しほっとしていた。
 ――これで解放される。母親の所有物として権利を奪い取られる日々から。幼い自分には、絶対服従の親である貴女を殺すという選択肢すら奪われていたから。

 むくりと起き上がる母。姿こそ母なれど、中身は全く異なる土人形だ。
 思い出も、記憶も、ましてあの時のような――。
「見捨てる事で既に死を与えたのに、更に殺せと仰るので……私を恨んで化けて出たかと思いました。流石に自意識過剰ですかね」
 目を見開き、襲いかかってくる母の人形。
 冰星は初速からトップスピードを出すと、拳に炎を纏わせ、人形を粉砕した。
「二度とその姿を盗むなよ!」

成否

成功


第1章 第10節

緒形(p3p008043)
異界の怪異

「ほう……」
 『異界の怪異』緒形(p3p008043)は見慣れた風景に思わず足を止めてしまった。
 『学校』……と呼ばれる場所。校舎エリア、1R番教室。
 机には生徒達が座っている。
 都伝部の六名。いずれもよく、名前を覚えている。
 教卓の前に立つと、緒形は落ち着いた口調で述べた。
「問題だ。自分が死んだ時の死因を答えなさい」
 すべての生徒が伏せていた顔を上げ、それぞれ不似合いな武器をとって緒形へと飛びかかる。
「少し早いが答え合わせだ」

 ――君は扼死。全身が腕と同じ蒼白色に

 ――君は壊死。内側から腐って土色に

 ――君は惨死。動かない片足も真っ赤に

 ――君は悶死。潰れた目は視界も墨色に

 闇のような閃きが走り、最後の一人の顔面を鷲掴みにしてつり上げている。
 四人は見るも無惨な格好で倒れ、そうなるまいともがく手の中の存在に、緒形はどこか優しそうに囁いた。
「君は、理不尽に殺されるんだよ」

成否

成功


第1章 第11節

灰羽 裕里(p3p009520)
期怠の新人

「……まぁ、そうなる、な」
 『怠惰な新人』灰羽 裕里(p3p009520)にとって、転送される場所が『ここ』であることは予め想像がついていたことだった。
 かつて暮らしていた世界。地球の、日本の、自宅の、リビング。
 テーブルの色も形も、ちょっとだけ散らかった様子も、思い出のなかのままだった。
 きっと色宝が裕里の心を読み取って映し出したのだろう。
 今なき母の姿も、また。

 ――最期の時より、ずっと、顔色も良く
 ――薬で、眠りながら、苦しそうに、息をするでも、無く
 ――あんな、楽しみも、喜びも、無いままに
 ――無理矢理、生かされる姿は、見る影もなく
 ――だから。

「其れは、失態だったな」
 腰の後ろ。ホルスターに収めていた大型拳銃を抜いた。
「“お前”のその姿には、そんな母さんの“最期”が無い」
 立ち上がり、襲いかかろうとする偽物の母。
 その脳天に、躊躇無く鉛球を打ち込めた。
 なぜなら。
「俺達に残してくれた、最後の愛が無い」
 彼はちゃんと、うけとっていたから。

成否

成功


第1章 第12節

ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
最強のダチ

「――!?」
 突如おきた転送に警戒し、素早くリボルバー拳銃を抜く『銀河の旅人』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)。
 構えた先に見えたのは、一面砂だらけの殺風景だった。
 青い空。二つの月。
『ヤツェク――』
 呼ばれた気がして振り返ると、そこには見慣れたオアシスの街。
 そのなかに立っていた一人の女性に、ヤツェクは目を見開いた。

 まだヤツェクの目尻に皺が寄っていなかった頃。口ひげもなくハンサムな若者だった頃。
 船に密航したヤツェクはある女性と出会った。
 醜い女だった。屍蝋の白肌に、白目のない黒い瞳。歪み痩せ細った黒髪の幽鬼。
 おれは美しくあれと強制され続けた娘の抵抗が、その姿への変身だった。
 そんな彼女に、ヤツェクは……。

「夜魔の嬢ちゃんよ、見ているか? 次に進むために、夜の夢は醒めなきゃならん。泣いても足掻いても、朝の現実は来るんだ」
 あの子は死んだ。父に拷問を受けて死んだ。
 あの日の逢瀬と、恋と共に。
「だから、思い出に泣けるのさ」

成否

成功


第1章 第13節

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣

「君の父上は、人の為に自身の犠牲を厭わない方だったんだね。
 その結果、君を残して亡くなられてしまったのはとても悲しい事だ。
 救われた命は、沢山あったのだろう、それでも……他の結果を導くことができなかったのかと思うと、切ないものだ」
 天義の、思い出深い戦場。
 そしてギラギラとした笑みと共に剣を握る父、シリウス。
 天義の歴史に深く食い込んだ楔。
 それが、リゲルの前に立ちはだかっていた。
「貴方の父上―神父様は、人々の心の中に宿ったことだろう。
 そんな神父様が愛した娘、それが君、エルスだ。
 神父様は勿論、俺も君の事を、ずっと覚えているよ」
 だからこそ、終わらせよう。
 こんな夢は、もう。
「『常夜の呪い』はあってはならないものだった。
 エルスもある意味、犠牲となった一人なのだろうから」
 襲いかかるシリウスの人形を、リゲルは一瞬にして切り裂いた。
 もう、迷いはしない。
 この剣の輝きが、絶えることは無い。

成否

成功


第1章 第14節

リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
アイシャ(p3p008698)
スノウ・ホワイト

 次々と展開されてはイレギュラーズ立ちを阻んだ夜の迷宮も、これで最後の一部屋。
 『常夜の谷』に作られた石の遺跡のその上へ、『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)はたどり着いていた。
(魔種は決して許さない、ただそれだけだった。
 私が『あの子』に躍起になったのも夢魔としてのプライドの話、魔種なんかがまやかしの夢で人を滅びに至らしめるのを認めたくなかった。
 けど……)
「なんも、なんも二度も苦しむ必要なんてないじゃないの」
 魔剣グラムを抜いて、真なる夜魔エルスへと構える。
 手にしていた資料の束を足下へ棄てるように落としたエルスは、利香の顔をじっと見つめていた。
「辛いわよね、逃げたいわよね。
 しあわせな夢に逃げて、逃げ続けれたらどれだけいいかって私も思う。
 私たち夢魔も幸せな夢を見せる悪魔なんだから。
 けれども夢は明日に歩みを進めるためのものじゃなくちゃいけないの、幸せでも貴女の魂は苦しいって言ってるのが、聞こえた気がしたのよ」
「……だから、『私』は死ななきゃいけなかったの?」
「そう、かもしれないわね」
 エルスから伸びる無数の影の手。
 それを次々と切り払いながら距離をつめる。
 そんな利香を、突如として飛び出した巨大な影の手が鷲掴みにする――が、フロアへ駆けつけた『スノウ・ホワイト』アイシャ(p3p008698)が放った魔法の翼が影の手を切り裂き、消し去った。
「あなたのお父さんはとても優しい人だったのですね。
 でも、家族であるあなたを遺して逝ってしまうだなんて哀し過ぎます」
 目にたまった涙が、ぽろぽろとこぼれ落ちていく。
「ねぇエルス。あなたは我慢ばかりしていませんでしたか?
 『私だけを見て』って言えましたか…?」
 一人きり残されたエルスに、自分を重ねたのだろうか。
 だからこそ、だろう。
「誰に『おやすみ』と伝えたかったの?
 お父さんに?
 それとも自分自身に?
 生き残って独りになるより、死んでしまっても二人でいる方を選んだの?」
「わからない、けど――」
 ありったけの『影の手』を解放したエルスへ、同時に斬りかかる利香とアイシャ。
 魔法の刃がエルスの身体を交差して切り裂いていく。
「悪夢はもう、おしまいよ」
「おやすみ、エルス。いつかあなたが生まれ変わったら……大好きな人とずっと一緒にいられますように」

 崩れ消えてゆく風景の中で、子守歌だけが響く。

成否

成功

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