PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<祓い屋>灯火の途

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 暗き途を一つの明かりが降りていく。
 木の階段は足を乗せる度に軋んだ音を立てた。
 黒い羽織袴を着た男の後ろには、白い布を被った者が付いてくる。
 赤い紐でお互いを結び、はぐれないように階段を降りていくのだ。

 剣檄が聞こえる。
 つばぜり合いに橙の火花を散らし、振るわれる剣筋に蝋燭の明かりが走った。
 踏み込んだ足袋と敷かれた畳が摩擦を起こし、足首に隙間が生まれる。其処へゆるり伝う汗。





 剣圧に押され弾かれた小柄な身体が座敷牢の中に転がった。
 蝋燭の明かりが黒い羽織袴を纏った『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)の怪訝そうな顔を照らす。
「どうした、あまね。何時もより覇気がない」
 暁月の視線の先には白い和服を身に纏った『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)の姿があった。
 何時もであれば透き通るアメジストを讃える廻の瞳が、今はペリドットに変わっている。
 それに、暁月は廻に向かって『あまね』と言った。

 練達国の一区画、再現性東京2010街『希望ヶ浜』において夜妖憑きを祓うことを生業とする者達がいた。
『祓い屋』と呼ばれる夜妖憑き専門の討伐組織――『燈堂一門』は希望ヶ浜の南部に居を構える。
 本来なら交わる事の無かった夜妖と人間の結びを断ち切り、元の道へ還すこと。
 夜道を迷わぬよう、燈籠の灯りで導いていくのが燈堂の教えだった。
 訳も分からぬまま夜妖憑きになり彷徨うしか無かった者達の受け皿としても機能する燈堂家は、彼等に安らぎを与え居場所を用意していたのだ。
 同じ国の首都セフィロトでは研究機関『プロテオミクス』が怪王種なる新種を発見したという話題で持ちきりなのだという。滅びのアークがこの世界の生物に結びついて生まれた新たな種とは中々に興味深い。
 砂の都ラサではホルスの子供達と呼ばれる錬金術によって作られた土人形が出てきたのだと、カフェ・ローレットに出入りしている情報屋が話してくれた。

 されど、暁月は目の前の『あまね』から視線を逸らさない。
 対峙しているのは廻の中に入っている夜妖『獏』のあまねなのだ。
 廻は獏の夜妖憑きで、月に一度、新月の日に夜妖の性質が濃くなり暴走してしまう。
 それを最小限の被害に納めるために、暁月は廻と共に燈堂家の地下にある座敷牢に入るのだ。
「今回の性質は『憤怒』だろう。それなのにどうして掛かってこない」
「消化不良かな」
 飛んで行った剣を拾い上げながら、お腹を擦るあまね。
「年末に食べた夜妖がお腹の中に幼体を沢山抱えてたみたい」
 廻の掃除屋としての能力は獏の『思食み』そのもの。戦闘の爪痕や夜妖の死骸を一瞬にして喰らう力。
 その代償は重たいもので、他者から生命力を分け与えて貰わなければ命が危ぶまれる程なのだ。
「だから、廻がずっと体調が悪そうだったのか」
「この子達が生まれて来たいって言ってる。でも、生まれても直ぐ死んじゃう。
 多分、一日ぐらいしか生きられないし、依代が無ければ自由に行動出来ないから」
「生まなければ廻の体調は悪いままなのか?」
 悲しげに視線を落とすあまねは、腹に鈍痛を抱え畳に膝を着いた。
「そうだね。幼体の命をボクが喰らい尽くすまで廻は風邪引いたみたいにフラフラしちゃうかも」
「すぐに食べられないのか」
「無茶言わないでよ。単純に食べるだけじゃ、この子達は悲しんで消えるだけ。そんなの可哀想でしょ?
 廻の夢の中で遊んであげてから満足した時に食べるんだよ。幸せのまま。眠ったまま」
 苦しげに眉を寄せるあまねの頭を撫で落ち着かせる暁月。

「でも、ちょっと廻に負担が掛かってるのはボクも気になってた。一気に消化できれば良いんだけど」
「もし、生んだらどうなる」
 暁月の言葉にあまねは思考を巡らせる。誰も傷付かず廻が楽になれる方法を考える。
「廻の生命力を少し分けて自由に行動出来るようにして、例えばイレギュラーズに依代になってもらう。
 まあ、猫耳や犬耳が生えたり、小さくなったりぐらいはするかもしれないけど」
「それはつまり――擬似的に『夜妖憑き』になるという事か」
「そう、そうしたら満足して消えるよ。それぐらい小さな生き物だから」
「廻の生命力を分けても大丈夫なのか?」
 ローレットのイレギュラーズであれば、短い時間依代になることを引き受けてくれる者も居るだろう。
 されど、それを行うには廻の生命力を分けなければならない。大丈夫なのかと暁月は問う。
「命に関わることは無いよ。補給してれば。ただ、やっぱり小さくなったり猫耳生えたりするかも?」
「……まあ、それぐらいなら問題無いか」
「良いんだ」
 暁月の言葉にくすくすと笑うあまね。
「とにかく、人手は沢山いた方がいいだろう。カフェ、ローレットにも掛け合ってみよう」
「うん。よろしくね。じゃあ、ボクは廻の中に戻るよ。おやすみ」
「ああ、お休み」


「という訳で、君達には猫耳や犬耳、またはうさ耳や虎かと思ってよく見れば猫の耳を生やして小さくなったりしてもらいたい。大きいままでもいい」
 うん、はい。イレギュラーズは暁月の説明にとりあえず頷いた。
 カフェ・ローレットから連れてこられたイレギュラーズ達は燈堂家の大広間に通されていた。
 周りを見渡せば、燈堂の門下生達も猫耳やら狸耳を生やしている。
 あと、何やらふよふよと浮いている魂魄みたいなものも見えた。
「この私の狸耳は自前ですよ~。はい、お茶どうぞ」
 イレギュラーズの前にお茶を置いて行くのは湖潤・狸尾だった。人好きのする笑顔でテキパキとお茶を配っていく。
「まあ、要するに、このふよふよ浮いてるのを捕まえて友達になって遊ぼうってことよ!」
「仁巳ちゃん、それじゃちょっと端折り過ぎだよっ! ローレットの人わかんないって」
 銀髪を揺らし勝ち気な表情をした湖潤・仁巳の袖を掴む煌星 夜空。
 狸尾と仁巳と夜空。三人は燈堂の門下生だ。狸尾が仁巳の姉で、夜空が仁巳の親友らしい。

「……えーと。このふよふよ浮いてるのが、廻の生み出した夜妖の幼体。
 こいつらは、ふんわり曖昧なものだから、自分じゃ上手く遊べないんだ」
「だからね。自分に憑依させて、一緒に楽しい事や面白い事を体験させてあげてねって事なの」
 夜妖の幼体を受入れる事。それは、擬似的な『夜妖憑き』になると言うこと。
「一つ良いだろうか。夜妖憑きになったとして影響は無いのか?」
 小首を傾げた恋屍・愛無(p3p007296)がアメジストの瞳を向ける。
「動物の耳や尻尾が生えるのと、小さくなる可能性があるね」
 愛無の問いかけに暁月が応えた。
「何で小さくなっちゃうのかなぁ~? 可愛いからいいんだけどねぇ~?」
 シルキィ(p3p008115)は畳の上にちょこんと座っている子供の姿の廻を膝に抱きかかえる。
 愛無と同じアメジストの色をした瞳がシルキィを見上げ、こてりと首を傾げた。
 夜妖の幼体に生命力を与え、自分の身体から解き放った後、廻は猫耳が生えて身体が小さくなってしまったのだ。先ほどからしきりに愛無とシルキィの手をにぎにぎしている。暫くすると今度は眠たげにうつらうつらと船を漕ぐのは子供特有の動きだろう。
「おそらく、幼体は己と近い、小さい身体の方が動きやすいんだろう。まあ、小さくても大きくても何方でも構わないよ。完全な獣型にもなれるようだから。好きな形を取るといい」
 夜妖の幼体と心を通わせれば好きな姿形の動物になれる。

 燈堂家には本物の犬や猫も存在していて、その動物たちと戯れてもいいだろう。
 数十人を下宿させている燈堂家の敷地は広く、さながら寺や旅館のような趣がある。
「この子達の命は、持って一日。だから、日中遊んですやすやと眠れば明日の朝にはお別れだ。
 お布団も用意してあるから泊まっていくと良い。決して敷地の外には出ないように」
 屋敷の周りには結界が張ってあり、夜妖の幼体を外に出さないようになっているらしい。
 希望ヶ浜という無辜なる混沌の日常を受入れられない者達への配慮なのだろう。

「さあ、迷える子供達。たくさん、沢山遊んでおいで――」

GMコメント

 もみじです。祓い屋シリーズ。
 貴方も夜妖憑きになれる! ゆるい感じで行きましょう。

●目的
 夜妖の幼体と遊んで祓う

●ロケーション
 希望ヶ浜の燈堂家の敷地内。
 お寺や旅館といった風情のある家です。
 門下生が下宿する東棟と様々な修練場がある西棟、食堂や温泉等の生活を担う南棟、北には当主が住まう本邸があります。中庭は美しく整えられ、中央には茶室があります。
 本邸の地下には座敷牢があります。暁月の許可があれば立ち入る事が出来ます。

●夜妖の幼体
 ふよふよした魂魄です。心を通い合わせた者を映した、たった一つの色になります。
 祓われた母体と一緒に廻に憑いている夜妖の獏(あまね)に取り込まれました。
 何も知らないまま消えてしまう事を憂いたあまねが、彼等と遊んで欲しいと提案してきました。
 擬似的な夜妖憑きとして、幼体を憑依させることが出来ます。
 幼体と共に遊んだり、お昼寝したり、温泉に入ったり、本を読んだりして過ごします。
 そうすれば、満足した幼体はスヤスヤと眠ったまま消えて行くでしょう。

●憑依されると?
 猫耳や犬耳、うさ耳、虎耳が生えます。尻尾も生えたりします。
 小さくなる人も居ます。大きいままでも大丈夫です。
 完全な獣型にもなれます。

●できる事
【1】室内
 おはじきやお手玉。クレヨンでお絵かき、紙芝居。本を読むなど。
 燈堂家は小さな子供も受入れているので、遊び道具には困りません。
 疲れたらお昼寝をしましょう。猫も居ます。

【2】中庭
 広い中庭で元気よく走り回る事が出来ます。
 犬を散歩させたり、ブーメランで遊んだり、縄跳びや竹馬なんかもあります。
 鬼ごっこやかけっこなんかも楽しいですね。
 中庭には美しい庭園もあり、冬の花が楽しめます。
 真ん中の茶屋でゆったりお茶をしても良いでしょう。

【3】ご飯と温泉
 晩ご飯は家庭的なものを中心に振る舞われます。温泉のお食事処みたいなイメージです。
 今日は子供向けにシチューやオムライス、ハンバーグ等が出ているようです。
 勿論和食なんかもあります。お酒は今回はやめておきましょう。

【4】おやすみとさよなら
 客室に敷かれた布団でゆっくり疲れを癒しましょう。
 誰かと一緒に寝るのも良いですね。
 朝、起きたら幼体は消えて元の身体に戻っています。
 夢の中で眠りながらお別れが出来るかも知れませんね。

●NPC
○『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)
 希望ヶ浜学園大学に通う穏やかな性格の青年。
 裏の顔はイレギュラーズが戦った痕跡を綺麗さっぱり掃除してくれる『掃除屋』。
 今回は猫耳尻尾が生えて子供の姿になっています。
 生命力が薄いのか少し眠そうです。縁側で寝ていたりします。

○『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)
 希望ヶ浜学園の教師。裏の顔は『祓い屋』燈堂一門の当主。
 記憶喪失になった廻や身寄りの無い者を引き取り、門下生として指導している。
 色々な所を見回っている。子供達に何かあれば何時でも対処できるように。

○門下生
 湖潤・狸尾、湖潤・仁巳、煌星 夜空など。門下生も沢山います。
 動物の耳や尻尾を生やし元気に遊んで居ます。
 暁月にこれも修行の内と言われているようです。
 恋屍・愛無(p3p007296)さん、シルキィ(p3p008115)さんの関係者です。

●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目は自由です。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないもの。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

●夜妖憑き
 怪異(夜妖)に取り憑かれた人や物の総称です。
 希望ヶ浜内で夜妖憑き問題が起きた際は、専門家として『祓い屋』が対応しています。
 希望ヶ浜学園では祓い屋の見習い活動も実習の一つとしており、ローレットはこの形で依頼を受けることがあります。

  • <祓い屋>灯火の途完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2021年01月26日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
武器商人(p3p001107)
闇之雲
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

リプレイ


 木とい草の香りが敷き詰められた和室。
 美しく整えられた室内の風景は、貴族の部屋の様に豪奢では無いのに格調高く見える。
 燈堂家の大広間に集まったイレギュラーズは『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)の説明に頷いた。
「成程、事情は分かった」
『黒狼領主』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は辺りに漂っている『子供』たちに手を広げる。
「俺と一緒に遊んでくれる子は居るかな?」
 ベネディクトの声に小さな声できゅうきゅうと鳴き出す夜妖の幼体。
 ふよふよと漂いベネディクト達の周りに集まってくる。
「俺はベネディクト、普段は領主代行を……と、説明しても解らないか。
 外に遊びに行きたい子は居るかな? 俺と一緒に行こう」
 ベネディクトの前に銀と青が混ざった幼体が飛んで来て頭の上に乗って溶けた。
 心の奥に温かな鼓動を感じベネディクトは目を細める。

「廻さんが小っちゃい猫耳姿……。これは色んな人が見たいって思うのでは? aPhoneで写真を撮っておいていいでしょうか、暁月先生っ!」
「構わないよ。私も撮っておこう」
 aPhoneを取り出した『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)と暁月は『la mano di Dio』シルキィ(p3p008115)に抱っこされている『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)の写真をカメラに納めていく。
「だっぁ」
「廻君降りるの?」
 手から離れようとする廻を床に下ろすシルキィ。
 ぽてぽてと歩いて行く先には『砂の幻』恋屍・愛無(p3p007296)の姿があった。
 廻の頭を撫でた愛無は辺りに漂う魂魄を見つめる。
「廻君の子供か。しかし廻君には、あまり似ていないのだな。小さい廻君は、とても愛らしいが。このまま連れて帰ってしまいたいようだ」
「う?」
 こてりと小首を傾げた無垢な瞳に愛無は眉を下げる。
「冗談だ。それにしても夜妖とは不思議なモノだ。狂気とは、また違うのだろうが。何にせよ、彼らの思い出をつくればいいのだろう。平和でいい」
 近づいて来るアメジスト色の魂魄に触れた愛無。みるみるうちに小さくなって犬耳と犬尻尾が生えた。
「きゃぁあ!」
「ふふ、尻尾が気になるのかな?」
 パタパタと動く愛無の尻尾に廻が目を輝かせる。
 愛無の後ろを見遣ればシルキィがパールホワイトの魂魄にあぐあぐされていた。
 小さくなったシルキィの頭には白い猫耳が生え、尻尾が揺れる。
「めぐりくんとおそろいだし、よそらちゃんよりせがひくい! しんせんでたのしいねぇ?」
「おそろ、ろ」
 拙い喋り方で嬉しそうにシルキィの手を握る廻。
「シルキィ君と愛無君は廻の事をよろしくね」
 小さくなった二人の頭を撫でる暁月。
 血を吐き混濁した意識の中で尚、苦痛を耐え抜き朝方まで幼体を生んでいた廻の体力と生命力は限界まで落ちているのだという。廻の身体が小さくなったのは防衛本能でもあるのだろう。
「おいで、夜妖の子供たち。お母さんはお疲れだから、私たちと一緒に遊ぼう?」
 ポテトの周りにふよふよと漂う幼体。ハニーゴールドの優しい色を持った個体がポテトに頬ずりをして溶けていく。
 猫耳猫尻尾の生えたポテトの身体は子供の姿になる。
「リゲルが見たらどんな反応するかな。とりあえず、今日はみんなと一緒に遊ぼうか」
 愛らしいポテト達の姿をカメラに納めていく暁月。

「魂でも幼き者は可愛いものだ……」
 ぽてぽてと歩いて行くシルキィやポテト、幼体達をみやり目を細める『戦場のヴァイオリニスト』ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)。その隣には『闇之雲』武器商人(p3p001107)が寄り添っていた。
「どうせ消えるなら、優しい夢の中で。お優しいこと。ヒヒヒ」
 ブルーサファイヤの輝きとヴァイオレットスピネルの光彩が二人の胸に染みこんでいく。
 とくりと弾ける温かな鼓動を胸の奥に感じるヨタカと武器商人。
 元の姿に猫耳が生えたヨタカは傍らの武器商人に視線を送り微笑んだ。
「ことり?」
「ふふ……皆と遊んで、ゆっくり深い眠りにつけるよう導こう」
「うん」
 小さくなった恋人を抱え上げて嘴で頬を撫でるヨタカ。

「ねぇ、花丸ちゃんと……私達と、一緒に遊ぼう?」
 スカーレットの魂魄へ触れる花丸。温かい旋律と共に視線がどんどん下がっていく。
「お、おぉ……おぉおおっ!? 花丸ちゃんに犬耳と尻尾が生えちゃってる!?」
 小さくなった身体に視線を流せば指先もまあるくなって、肌もマシュマロの様になっていた。
「はわぁ! すごい。皆はどんな風に変化したんだろう」
 花丸はくるりと辺りを見渡す。窓際によく知っているポメラニアンのお尻が有った。
「ポメ太郎? どうしてここに居るんだろ……」
 窓に近づいてポメ太郎に手を伸ばす花丸。
「今日はポメ太郎は家で留守番だよ、俺だ。ベネディクトだ、笹木」
 くるんと振り返ったポメ太郎――の姿をしたベネディクトは前脚で器用に自分の事を指しながらはっはと笑う。愛らしい。
「ポメ太郎が……ベネディクトさん? ……どうして!?」
 ふるふると尻尾を振る姿はポメ太郎そのものだというのに。
 毛並みを楽しむ花丸の耳に『痛みを背負って』ボディ・ダクレ(p3p008384)の声が聞こえてくる。
「今日一日で消えてしまう夜妖、ですか。
 えぇ、分かりました。ではいっぱい遊んで傍にいましょう。消えゆくときまで」
 パキラートグリーンの魂魄がボディのモニターに吸い込まれていく。
 一瞬だけ画像が乱れにっこりとした顔が浮かんだ。
「さて」
 何処からともなく降ってきたキラキラとしたエフェクトと光の帯がボディを包み込む。
 謎の光がボディの機会頭を通り抜ければ其処には柔らかい兎耳が生える。
「では」
 光の帯は彼の全身を華やかに彩り、ころんとした尻尾がボディのお尻に咲いた。
「参りましょう」
 大きな身体を強調するように光の帯が解けていき、筋肉にスポットライトが当たる。
「全霊で依頼を遂行します」
 スパンコールを散らした様なエフェクトと『巨躯隆々異形頭ケモミミマッチョ』のテロップが表示され、音楽が最高潮に締めくくられた。
「おおー!」
 廻やシルキィ、ポテトの拍手が室内に響く。


「むかしむかし、あるところに……」
「ふふ……」
 ヨタカは武器商人の声を聞いて微笑む。
 小さくなった武器商人を膝に抱え絵本を読み聞かせていたのだ。
 もふもふになった身体に寄りかかれば、ベルベットのように優しい肌触りなのだろう。
 首筋を擽る羽毛の感触を楽しむように武器商人はヨタカに身体を預けていた。
「ただ読むよりも、声にだして聞かせてあげたほうが、幼児たちも楽しいからねぇ」
「そうだね」
 一生懸命に絵本を読み聞かせる武器商人の姿が可愛くてヨタカは鳥の爪が生えた細い手で武器商人の頭を撫でる。傷つけないようにそっと。優しく。
「いい子……いい子だね……」
「……小鳥? どぉしたの?」
 頭を擽る爪の手からは、傷つけないようにという気遣いが感じられる。
 彼が心配するから傷付かないようにヨタカの爪を避けて、武器商人はお返しに彼の頭をなでた。

「どうしんにかえるねぇ……ってわたしヨウショウキとかなかったねぇ、カイコだし!」
 くすくすと楽しげに笑うシルキィにつられて廻もにっこりと笑顔になる。
「しるきーが室内で遊ぶと言っていたな。よし、しるきー遊ぼう!」
「私もご一緒してもいいでしょうか」
 ポテトとボディも集まってきてわいわいと声が木霊した。
「うん、いいよぉ」
 まずは何が良いだろうか。
 画用紙とクレヨンがあるからお絵かきでもしてみようかとシルキィは振り向く。
「おえかきしよぉ」
「私自身、絵を描いたことが一度も無いのですが、やるからには全力です」
 頷くボディに廻が画用紙を手渡して来た。握られた部分がくしゃっとなっている。
 そっと、くしゃりとなった部分を伸ばしてクレヨンを取るボディ。
「私の題材は何に……おや、目の前に猫が。ではコレにしましょうか」
 夜妖に実体があれば猫のようにしなやかに、のびのびと動き回っただろうか。
「……そう思うと、この猫は雑には描けませんね」
 意外とじっとしていない猫を観察して丁寧に仕上げていくボディ。
 猫を描いたあとは木々やポテトやシルキィを描いてみようか。
 クレヨンが擦切れるまで。身体の中に居る幼体が楽しいと思う事を祈って。
「じゃあ、私は青をつかう! リゲルのいろ!」
「わたしはいっぱいの色をつかって、カラフルにしよぉ」
 ポテトは青色を使って大切な人の姿を描いていく。
「できたぁ、みてみて! めぐりくんにあかつきさん、よそらちゃんにひとみちゃん!」
「じょーずっ!」
 シルキィ画伯の愛らしい絵を見つめる廻は拙い言葉で喜んでいた。

「おはじきはどうやって遊ぶんだ?」
 ポテトの問いかけに暁月は畳の上におはじきを並べ弾いていく。
「むぅ……むずかしい!」
「ふふ。最初は難しいかもしれないね」
「あ、猫! ふわふわ可愛いなー」
 色々な物に興味を示す子供特有の動きに暁月は微笑んだ。
 耳をぴこぴことさせ、尻尾をぱたぱたさせるポテトにじゃれる猫。
 ふと、ポテトが視線を上げれば縁側で丸くなっている廻が見えた。
「廻寝てる……あ、暁月せんせー! 毛布貸してくれないか? 廻風邪ひかないように掛けるんだ」
 ポテトが声を上げるのにボディも視線を上げる。
 縁側で小さく丸まっている廻が寒そうだと思ったのだろう。
 小さなポテトの身体では毛布を持ってくるのに一苦労だと、ボディはその役を引き受ける。
「風邪を引いたら体に悪いですからね」
「ありがとう、ボディ。でもちょっと具合悪そうかな? 廻大丈夫か?」
 ポテトは心配そうに廻の頭を撫でる。少し熱があるようだ。
「僕が生命力を分けよう」
 顔を覗かせた愛無が指先を擬態解除して廻の口元へ宛がう。
 薄らと目を開けて差し出された愛無の粘指を不思議そうに見つめる廻。
 ゴムのように伸びる黒い指にこてりと首を傾げた。
「ほら、あーんだよ廻君」
「あーん」
 廻はぱくりと咥えた愛無の黒い指をおしゃぶりの様に吸う。
 食材適正も相まってミルクのように美味しい味わいなのだろう。
 生命力を吸われる甘くむず痒い痺れと温かな舌の感触に愛無は唇を引き結ぶ。
「おいち」
 口元を涎でべちゃべちゃにした廻が満足そうに微笑んだ。
 愛無の生命力を吸ったお陰で瞳は輝き、唇にや頬に赤みが戻る。
「良かった、元気になった」
「廻、よかったな」
「あい!」
 廻はすくりと立ち上がり、愛無の指を咥えたまま走り出す。今度は外に興味があるらしい。
「あ、廻君。そのまま走ると危ないから」
 伸びる黒い指を追いかけて愛無も外に飛び出した。


 今日は歩幅の違うヨタカと武器商人。
 転けそうになる小さな身体を支えたヨタカはそのまま武器商人を抱きかかえる。
「庭園の方に行ってみようか」
「うん。そうだねぇ」
 髪を浚う寒い外の風も。お互いの温かさの前では気にならない程で。
 冬の庭に咲き誇る椿や蝋梅の花に美しいと呟いた。
 こういう景色を見るのも、きっと子供達には必要なのだ。

「さて、廻君。いい加減お口を離したまえ」
「だぁっ?」
 愛無に抱きかかえられた廻は名残惜しそうに咥えたままの黒い指を離した。
「よしよし。じゃあせっかく広い庭があるのだ。身体を動かすのも良いだろう」
 この小さな身体ならば手加減はいらない。思う存分駆ける事ができるだろう。
「ほら、逃げてごらん、廻君。僕が鬼の役をしよう」
 其処へ通り過ぎるのはフリスビーを口に咥えたベネディクトだ。
「君はどっちに行きたい? 興味のある方に行って良いんだぞ」
『あっち!』
「よし、向こうか? ならば行くとしよう!」
 心の中に居る幼体の言葉を聞きながら縦横無尽に駆け抜けていく。
「暁月先生も花丸ちゃん達と一緒にやろうよ!」
 花丸の誘いに暁月も庭へと出てきた。
 黄緑色のフリスビーを暁月が空へと放つ。それを追いかけるベネディクトと花丸。
 空に浮かぶフリスビーに気を取られ、ベネディクトと花丸は縺れて転がった。
「あはは! びっくりしたあ!」
「すまない。追いかけるのに夢中だった」
 驚きと笑いと心配そうな表情。そのどれもが、幼体には新鮮な思い出なのだろう。
「じゃあ、次は鬼ごっこしよう! 最初の鬼は花丸ちゃん達がやるねっ!
 準備は出来てるかな? ……いっくよーっ!」
「よしきた! こっちだ!」
 走り出すベネディクトを追いかけて花丸が飛び出す。
 其処に併走するのはボディと犬だ。
 追いかけっこなのか、かけっこなのか最早分らないけれど。
 それでも楽しいと思う心が大切なのだろう。
「皆で走るぞぉー!」
 花丸の声と共にボディやベネディクトの声が庭に響き渡った。


 夕陽がオレンジの明かりを窓に落として。
 美味しい匂いが南棟の食堂から漂い出す。沢山遊んだ後は皆でご飯を頂くのだ。
「\いざ、ご飯タイムっ!/」
 満面の笑みで食堂に入ってきた花丸はハンバーグやオムライスに目を輝かせる。
「えへへ、花丸ちゃんお子様向けのメニューって大好きっ! 一杯お代わりしちゃおうーっと!」
 胸の奥に居る幼体に美味しいものをいっぱい食べて欲しいから。
「花丸たちは何して遊んだんだ? 私たちは絵本読んだり、お絵描きしたりしたんだ」
 オムライスにシチューを掛けたお皿をつつきながらポテトは花丸に問いかける。
「えっとねぇ、フリスビーとか鬼ごっこして遊んだよ!」
 ハンバーグを口に含みながら花丸は頷く。

「まちにまった、ごはんのじかん!」
 シルキィは小さい身体でお盆を一生懸命持っている。その上には二人分の山盛りのオムライス。
「えっ、どうみてもににんまえいじょう……? きのせいだよぉ~」
 頑張って運んだ甲斐があってでんとテーブルの上に鎮座するオムライスが眩しい。
「いっぱい」
 目をまあるくする廻に、シルキィはスプーンでひとすくいして口に宛がう。
「めぐりくんめぐりくん、はい、あーん!」
 多めにオムライスを持ってきたのはこの為でもあるのだ。
「あーん……ん、ぅ、おいち、ねぇ」
「ねぇ~!」
 ほっぺを両手で包み込んで美味しいを表現する廻の頭をなでるシルキィ。
「君は何が好きなんだろうな」
『これ、すき』
 ベネディクトは暁月に抱えられ色々な物を少しずつ味わうように食べていた。
 犬の身体ではスプーンが上手く使えないからだ。
 この幼体が好きなものはどうやらハヤシライスらしい。

「子供が好きなものが沢山あるね。シチューにでもしようかな」
 ヨタカはシチューを持ってテーブルに着く。
 隣には武器商人がちょこんと愛らしく座っていた。
「紫月、熱くない……?」
「てがちいさくて、もちづらいかなぁ? にぎってもっていいよね」
 武器商人は小さな手でスプーンをぐーで持つ。
 白いシチューの海の中。泳いでいるお肉を見つけて掬い上げた。
「小鳥、好きでしょ。あーん」
「肉をくれるの……? あーん」
 ほろほろと解ける肉の旨味はきっと二人で、否四人で食べるからより一層美味しく感じるのだろう。

 ご飯のあとは寝る前にお風呂に入らなければならない。
 愛無は廻と一緒に温泉に浸かる。
「ふむ。こっそり泳いでみるかね? この身体のサイズならいけそうな気がする」
「あい!」
 小さな身体で大きな浴槽を泳いでみせる愛無。
 それに習って廻も深い場所へ足を踏み入れる。だが、届かない。
「あびゃ!」
「おっと。大丈夫かね」
 溺れそうになる廻を抱えて湯船から上がれば。鬼の形相をした暁月と目が合った。


 何処からか小鳥の歌が聞こえてくる。
 子供達がむずがらないように眠りに誘う子守歌。
 隣で瞼を落とす愛しき恋人が居てくれたからこの姿も苦じゃなくなった。
 ありがとうと小さな彼の頭を撫でれば、どんな姿だって大好きだと武器商人は紡ぐ。
 誰かが怖がったとしても、自分だけは愛していると伝うから。
「おやすみ、おやすみ、愛しいコたち」

「命は廻るモノだ。縁があれば、きっとまた会えるだろう。ゆえに」
 愛無は隣で眠る廻の頭を撫でる。
 その向こう側にはシルキィが廻の手を握っていた。
「廻君。ねむっちゃうまでおはなしようねぇ……くぅ」
 直ぐさま寝息を立て始めたシルキィに愛無は微笑み電気を消した。

 一人で眠るのは寂しいからと、ポテトは花丸と一緒に眠る。
 ぬいぐるみを胸に抱き。幼体へと語りかけるのだ。
「今日は楽しかったか?」
 ベネディクトも隣の部屋で同じように紡ぐ。
 クレヨンでお絵かきをして、おはじきをして。庭で鬼ごっこ。
 色んな思い出が蘇ってくる。楽しかったと魂が震えていた。
 朝になったら消えてしまう子供達にボディも言葉を掛ける。
「さようなら、そして、おやすみなさい」

 誰しもがきっと同じ気持ちで目を閉じた。
 今日という日を忘れない。楽しかった思い出は残り続けるから――
 だから。「またね」と小さく呟く。
 煌めく幼体の欠片は灯火の途を辿って、インクブルーの空に昇っていった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 子供達は幸せな気持ちで眠りにつきました。
 ご参加ありがとうございました。

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