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シナリオ詳細

【お雑煮】乱れ飛ぶズワイガニポーション、荒ぶる高級黒毛和牛

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 瑞鬼殿。

 先日のお礼に、山海の美味をわしがこの手で別いて馳走したく存ずる。特異運命座標のお仲間とご一緒に松竹梅に参られよ。どすこいの雑煮も用意いたしておりまするゆえ。
 先にお急ぎのことがござらぬならば、風呂も馳走いたしましょうほどに一晩ゆるゆるとお泊りくだされ。


「これは、これは。嬉しい誘いじゃ。大膳司長、もとい、元大膳司長の作る馳走であれば、さぞ美味いじゃろうて」
 『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)は、読み終えた文を丁寧に折りたたんだ。
 文の差出人は、伴野忠房(ともの ただふさ)。昨年、豊穣を揺るがした大事件で縁を得た人物である。
 忠房は、一度は肉腫となりながらもイレギュラーズの活躍で人の心を取り戻し、罪を償うために高天京のはずれにて蟄居していた。瑞鬼が忠房と知り合ったのは、彼が肉腫であった時に作りだした魔物を退治する依頼だった。
 文に書かれている『どすこい』は、その時壊した呪具が生み出す魔物のことだ。もちもちとした体は、まさしく餅のようで、倒した後は食べられる。が、ここに書かれている『どすこい』は呪具の鏡餅のほうだろう。瑞鬼もその時一緒に戦った仲間たちも、どすこい入りの善哉を食べている。
(「しかし、松竹梅とは……いずこにあるのじゃ?」)
 調べてみると、松竹梅とは豊穣の若狭というところにある町の名前だと分った。海ではズワイガニやフグが、野では黒毛和牛が名産らしい。
 大膳司長の任を自ら辞した後、どうやら忠房は諸国を歩いて美味を求めているようだ。
「では、皆を誘って行くとするかの」


 高原京と若狭大原の一帯は、冬は雪が深く寒さが厳しい。若狭の冬の海は灰色の波の中に小さな魚影がもまれるきびしい姿である。

 ――ぶもぉぉぉう!!

 禍々しいほど大きな角を振りたてて、黒毛の牛が漁から戻ったばかりの漁師たちを追いかけ回していた。角も大きければ、図体も山ほどでかい。額に赤いバッテン傷がある凶暴な魔牛だ。
「く、わしとしたことが。腕が鈍っておったか」
 でかい蹄で踏み砕いたズワイガニが、岩に当たって砕ける荒波のごとく、雪が舞う浜にしぶいている。
 カニ肉を狙って、海から四角い奇妙な生き物が、ぽんぽんと飛びあがっていた。時折、魔牛の尻に針をさしては、もっとカニの殻を砕けと、怒りを煽っている。
 忠房は、魔牛の角に突かれた脇腹を手で押さえた。赤い血がぼたぼたと白い雪を汚す。
 町の人々から畑を荒らし、人を襲う魔牛を退治して欲しいと頼まれたのは二日前のこと。ちょうど、瑞鬼からの返信を受け取ったあとのことだった。
 魔牛の正体は、元々地元で育てられていた高級黒毛和牛。これを倒し、尋ねてくるイレギュラーズたちに、ズワイガニともども振舞ってやろうと思ったのだが……。
「おのれ、箱不具(はこふぐ)め。いっしょになって調子づきよって」
 箱不具とは、真四角の箱のような形をしたフグの魔物で、なんと短時間ながら空も飛べる。たまに陸に飛んできて海に戻れなくなるものもあるが、見つけても、うかつに近寄ってはならない。猛毒の針を出して刺してくるからだ。
 ごくごくまれに、箱不具の毒にあたっても死なず、魔物と化す人や犬もいるらしい。魔牛は陸に上がった箱不具をうっかり踏むか何かして針に刺され、魔物になったのだろう。
 ちなみに箱不具は海洋にもいて、あちらでは怪魚・ハッピーボックスと呼ばれている。やはり毒を持っているが、倒した後に毒のある部位をきちんと取り除けば食べられそうだ。たんぱくな白身で、美味しいらしい。
「忠房さまー! これを」
 抜けたような青空を、くるくると回転しながら殻の取れたズワイガニの脚が飛んでくる。
「かたじけない!」
 忠房は豪快に手づかみすると、上をむいて口を大きく開けて新鮮な生の身を食べた。
舌の上で身がトロ~っと甘く蕩ける。
「美味じゃ!」
 ズワイガニポーション――とくに回復効果があるわけではないが、美味い物を食えば元気が出る。イレギュラーズたちがやってくるまで、なんとか持ちこたえられそうだ。

GMコメント

遊びに来てみればとんでもない事態に……。
速やかに魔物を倒して、みんなでわいわい御馳走を食べましょう。
ゆずを浮かべたヒノキ風呂も用意されていますよ。

●魔牛……1体
 大きな角をもつ巨大な黒毛和牛の魔物。額のバッテン傷は忠房がつけたものです。
 ワンボックスカーほどの大きさがあります。
 時々、箱不具に毒の針でつつかれて怒り狂っています。

・踏み砕き/近単……脚で踏みつけてきます。
・角突き/近単【出血】……禍々しいほど肥大した角で、敵を突きます

●箱不具……4体
 やや丸みを帯びた四角い魔魚です。
 海洋附近に出没する怪魚・ハッピーボックス(そうすけの『迎春厳寒の海で怪魚を獲れ』で初出)の近種ですが、ハッピーボックスほど大きくありません。大きさはクーラーボックス程度です。
体に毒を持っているものの、その身は極上の美味。
 とある世界の「ふぐ」のような味……ですが、墨を吐きます。
 短い距離ですが、飛ぶことができます。

 ・体当たり/近単……時には海面から飛び出し、飛んでくることも。
 ・毒の棘/近単【猛毒】………体を膨らませ、毒の棘を出します。
 ・墨吐き/近列【暗闇】………海中のみ。墨を吐いて敵の視界を奪います。

●NPC
伴野忠房(とものただふさ/元べイン)
宮中儀礼に料理を提供するお役所、大膳司(だいぜんし)を束ねていた者です。いまは役を自ら辞して引退の身。
複製肉腫であったころに、呪具『大鏡餅』を使って『とすこい(複製肉腫)』を作ったり、妖や死にかけた金魚に『大鏡餅』の欠片を食べさせて肉腫化したりしていました。
左わき腹を魔牛の角で突かれて負傷しています。
指示がなければ戦闘にはでません。借屋敷に戻って、調理の準備を進めます。

●元呪具『大鏡餅』
イレギュラーズの活躍で呪いが解け、再びただの大鏡餅に戻っています。
『黄泉津瑞神』の乱後、三分の一ほど砕かれて食べられています。

●その他
魔牛も箱不具、もちろんズワイガニも。退治の後は料理して食べられます。
ただし、箱不具に関しては【調理】のスキルが必要です。
ほかの食材は、ブリ、大根、シイタケ、ニンジンなどなど。
特に大根は、寒さでよく身が締まり甘くなっています。
もちろん、大鏡餅を砕いた餅もあります。

  • 【お雑煮】乱れ飛ぶズワイガニポーション、荒ぶる高級黒毛和牛完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月27日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
孫・白虎(p3p008179)
特異運命座標
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
浜地・庸介(p3p008438)
凡骨にして凡庸
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
瑞鬼(p3p008720)
幽世歩き
エドガー(p3p009383)
タリスの公子

リプレイ


 眼下に広がる、阿鼻叫喚を絵にかいたような冬の浜辺――。
 浜へと下るなだらかな丘の縁に立ち、『貴族騎士』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)はため息をついた。
(「また……忠房が関わっている事件か」)
 波打ち際で、やたらと体が大きい黒牛――魔牛を相手にたった一人で戦う男がいた。伴野忠房だ。
 伴野は帝の料理番ともいうべき大膳司長を務めていたが、都を恐怖に陥れた先の大事変後に職を辞し、いまは各地の美味を求めてさすらっているらしい。
「なにやら嫌な予感はしていたのだがな」
 愚痴っていてもしかたがない。目の前に助けを求める人々がいるのであれば、手を差し伸べる。それが騎士と言うものだ。
 シューヴェルトはマントを開いて魔銃を抜きだすと、雪を踏みしめて丘を下り始めた。
「アイヤ~、大変なことになっているアルね」
 などといいつつ、『特異運命座標』孫・白虎(p3p008179)の声は切迫していない。
 『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)も、この予想外の展開を鷹揚に笑って流す。
「なに、腹ごなしの運動と思えば丁度よい。白虎、わしらも行くぞ」
 『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)もまた、豪快に笑いながら後に続いた。
「こいつぁしっかり仕事こなして、調理のご教授願わねぇとなぁ!」
 伴野は突進して来た魔牛の角を、刀のような包丁と長箸で受け止めた。押してくる力に逆らわず、体を横に開いて魔牛をかわす。
「伴野の旦那、久々だな!」 
「おお、ゴリョウどの! シューヴェルトどのに瑞鬼どのも、それに運命特異点の方々。よくおいでになられた!」
 伴野の後で、黒い巨蹄に踏み砕かれたズワイ蟹の殻が、波しぶきに暗褐色のアクセントを加えて散る。
「見ての通りの惨状じゃ。すまぬが魔牛退治を手伝ってくれ」
 波を砂ごと踏み散らしながら、伴野の後ろで黒い巨体が回った。イレギュラーズに向かって荒々しく吹きだされた白い鼻息は、やれるものならやってみろ、と言っている。
 ゴリョウは突進してきた魔牛の面に、挨拶代りの張り手を一発かました。
 魔牛はよたりながらも、さっきの位置まで戻っていった。
「伴野の旦那は下がってろ」
 もろ肌脱いで、かわりに英霊の魂を肌に纏わせる。
「おっと、いかん! 牛のやつ、漁師たちを追いかけ始めやがった」
「こらぁ、やめるアル!」
 白虎とゴリョウは魔牛を追いかけた。
「他にも魔牛を狂わせる海の妖が四体おる。シューヴェルトどのとそちら方々、退治してもらえぬか」
 『魔法中年☆キュアシャチク』只野・黒子(p3p008597)は承諾の意として伴野に黙礼すると、革の黒手袋をはめた。有為転変廟算籌、高度な術を使うときに術式演算を補助してくれる魔道具だ。
「あの海から飛び出す、箱のようなものに対処すれでよろしいのですね」
 ざっと浜全体に目を走らせて状況と敵の戦力を見極め、作戦を計る。
 奇妙な姿をしているが、四角い体にヒレや尾ビレがついている。魚が魔物化したものならば、逃走を防止するために海へ入らねばならない。
「ところで伴野様、あれは何という生き物でしょうか。フグのように見えますが」
「フグ……箱不具という魔物だ。河豚は濁らずふくと読んで、食すると幸福になると言われておるが、箱のような成りのあれはうかつに食べると不具になる。故に箱不具と呼ばれておる」
「なるほど」
 仕事は早く正確に。引き受けたなら躊躇はしない。黒子は身を切るような冷たさに顔色一つ変えず、ザフザブと波を割って海に入った。
(「あとでお風呂をいただくとしましょう。冷えた体も温まり、疲れもとれるはず……柚子を浮かべたヒノキ風呂、楽しみです」)
 魔牛は相変わらず怒っていて、角を振りたてながら浜を行き来している。
 瑞鬼は魔牛に追われて逃げる漁師たちに、はやく浜から去るように言った。
「蟹も魚も、これ以上魔物どもの好きにはさせぬ。はよう、去れ」
 漁師たちの退路を確保するため、魔牛と漁師たちの間に割り入る。
(「さて、先に忠房の手当をしてやるかの……」)
 遠目に伴野が負傷していることは判っていた。着用している白い袍(ほう)に血がにじんでいるのが見えたのだ。伴野には先に戻って料理の支度を始めておいてもらうとして、とにもかくにも傷の手当てをしてやらなければならない。
 柏手を一つ、乾いた音で波音を消す。幽世の技にて雪雲の裏から薄く照らす太陽が裏返り、黒月と化した。慈悲深き闇の明かりが伴野の脇腹に伸び、傷を塞ぐ。
「かたじけない」
「よい。それより料理の支度をしに戻るのじゃ。みな、おぬしの馳走を楽しみにしておる」
 伴野は海と陸の二手に分かれて戦うイレギュラーズたちに深く頭を下げると、背を向けて走り去った。
「とはいえ牛の相手とはな……」
 まさか牛年の始まりに牛と戦うとは、なんとも奇妙な縁だ。これは縁起がいいのか、悪いのか。
 瑞鬼は襟を合わせると、暴れ狂う魔牛に立ち向かった。
 軍馬に跨った『タリスの公子』エドガー(p3p009383)は、海面から飛び出してくる箱不具にスピア―を振るっていた。
「ふむ……牛に蟹、魚とは豪勢だな。……いやいや、そうではなく!被害が出る前に討伐せねばな!」
 打ち寄せる波は冷たく荒々しいが、それしきのことで訓練された軍馬が怯むことはない。膝頭が海につかるまで軍馬を進め、仲間が箱不具を追いたてて、飛び出してくるのを待ち構える。
(「魚にしてはなかなか用心深い」)
 馬上でスピアをひと回しし、冷えて強張った体をほぐす。
 丘から見下していたときに気づいたのだが、どうやら箱不具たちは頭を使ったチームプレイができるらしい。黒い魔牛の尻に交互に体当たりして暴れさせ、蟹の殻を割らせていたように見えたのだ。推測通りなら、思っているよりも手こずるかもしれない。
 冷たい雪が横殴りの風に乗って頬を打ちつけたが、エドガーはまばたきを堪えた。
 甘い香りでタイならぬフグを釣り出そうとしている『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)の動きを注視する。
「ふっふっふ……今宵の食材はあなた達です!」
 ベークは自らオトリ役を買ってでていた。集中攻撃を受けるようなことがあっても、多少の傷ならたちどころに治せる自信があるからだ。
「美味しい料理に温かいお風呂……御厚意はありがたいですが、それにしても奇怪な状況ですねぇ……」
 誘われて、楽しい小旅行のつもりで来てみれば、まさか食材と戦うことになるとは思ってもいなかった。
「自ら獲って、料理して、食べる。ちょっとしたサバイバルになってしまいましたね。ですがまぁ、皆で力を合わせればきっと何とかなるでしょう」
 そのためにも、自分が箱不具を海から狙ったところに釣り出さないといけない。しかし、浜を縦横無尽に暴れまわっている魔牛とは対照的に、箱不具たちはしばらく前から海中に身を潜めている。
(「最初はうまくいっていたんですけどねぇ……」)
 食事を邪魔された箱不具たちは、食欲を刺激する甘い香りを放つベークを狂ったようにつつきまわした。
 黒子たちは時に襲われながらも、海から飛び出す箱不具を狙い打ちにした。しかし、それができたのは最初だけだ。
(「どこに行ったのでしょうか? 近くにいるはずですが」)
 海は広い。海に面したこの浜も、意外と広い。ところどころ、波を砕く小さな岩礁があるので、もしかしたら箱不具たちは影に身を寄せて受けた傷を癒しているのかもしれない。
「ベーク殿」
 声に振り返る。
 罠を仕掛け終えた『凡骨にして凡庸』浜地・庸介(p3p008438)が、難しい顔をして小岩の上に立っていた。
「やつらは?」
「それが……ちょっと前から僕に食いついてこなくなったんですよ」
「確か四体いたな。シューヴェルトが浜から、エドガーと黒子が海から、それぞれ一体ずつ攻撃していたが、どっちも致命傷にはならなかった?」
 ベークは頷いた。
「そうか。しかし、連中が得物を残したまま撤退するとは思えないが……」
 このところ依頼に出ていなかったので、なまった体に活を入れるいい機会だ、と思っていたのに。
「まあ、撤退したなら撤退したでいい。魔牛退治に専念するまでのこと」
 曰く付きの業ものを振るい、吹く風ごと雪を切る。
 足元で刹那に砕けた波しぶきに紛れ、二体の箱不具が左右から庸介を挟み撃ちするように飛び出してきた。


「――ちっ、小賢しいマネを!!」
 遠くで銃声がとどろき、左から襲い掛かってきた箱不具の尾ビレが吹き飛んだ。くるくると回りながら海に落ちていく。シューヴェルトだ。
 庸介は体をねじり倒しながら、右から飛んできた箱不具に太刀を振るった。
「雑魚に戯れている暇などない!」
 目で追わずとも、頭の上を越えていく白く四角い腹に刃を食い込ませ、まるで半紙を切るかのようにするりと掻っ捌いてみせる。
 一刀両断。
 箱不具合は臓腑をまき散らしながら、濡れた砂に墜落した。
 庸介もまた、技を放った反動で受け身が取れず、うつ伏せのまま頭から岩を滑り落ちた。
「アイヤ~!?」
 白虎は、斜め前から落ちてきた庸介の頭を、なんとか蹴らずに跳び越えた。顔に砂をかけてしまったが。
(「庸介はん、ごめんアル!」)
 白虎は心で詫びて、魔牛の黒い大尻を追いかけた。
 魔牛がこれ以上、蟹を踏み潰さないように波打ち際から遠ざけねばならない。
「蟹シュウマイのために!」
 庸介の罠に足を取られて魔牛がよろけるたびに追いついて、黒尻に拳を見舞う。
 前方で、肉と肉がぶつかる鈍い音がした。黒い大尻がぶるり、と揺れて魔牛が止まった。いや、よくみると、蹄の後ろにもりもりと砂の山が作られていく。じわり、じわりと押し返されているのだ。
 海から離れたところで待ち構えていたゴリョウが、正面から魔牛と組みあっていた。
「ぶはははっ! いまのはいいぶつかりだったぞ」
 金眸が強い光を放つ。
 ゴリョウは挑発的な視線を、下手から魔牛の目にねじり込んだ。
 黒い巨体が怒りで大きく盛り上がる。
 ゴリョウの足がずずっと後ろへ滑った。
 魔牛はパワーアップした突き押し相撲で、海へ電車道を作り始めた。
「わしらが来る前に、箱不具どもにさんざん尻を刺されでもしたかのう……やつらの悪戯が、よほど腹に据えかねておるようじゃ」
 瑞鬼が霊刀『雪月花』を手に舞う。
 刀が薄日にきらめいた時、下段から刀を切りあげた。蒼く冷たい光が魔牛の体を奔り抜ける。
 白虎は魔牛の背に飛び乗り、背骨を拳で叩いた。瑞鬼も吹雪の舞で、黒く大きな体を凍てつかせる。
 魔牛は荒々しく鼻息を吹きだした。体についた霜と白虎を振るい落す。
 涎を垂らしつつ、脚をひとつ持ち上げは前にだし、ひとつ持ち上げてはゴリョウを海へ押しやっていく。
「ほれ、ゴリョウ。牛に相撲で負けておるぞ。頑張るのじゃ」
「誰が負けて――」
 小さく悲鳴が上がった。
 白虎が魔牛の後ろ脚に踏まれて砂に沈んだのだ。
 すぐに瑞鬼がすぐに魔牛の下に潜りこみ、砂に手を入れて、大きな蹄の下から助け出した。
 ゴリョウは小さく悪態をついた。
 エドガーは海にスピアを突きたてた。
 加勢に行きたいのはやまやまだが、こちらも片がついていない。四体中一体は庸介が切り倒したが、まだ三体残っている。
 スピアから迸った稲妻が、墨で黒くなった海面を割る。一瞬、抉れた砂が見えたが、刃に箱不具は刺さっていなかった。エラや目などの急所を突こうとするのだが、やはり姿が見えていないと難しい。
「うおー! 食べられませんよ!」
 浜に向かって走るベークの後ろに四角い魚影を見つけるや、黒子は殺意の波動を海中に走らせた。
 海から飛び出したのは、シューヴェルトに尾ヒレを撃ち飛ばされた一体だった。ヒレがないせいか飛距離が伸びず、すぐに海に落ちた。墨を吐いたらしく、落水したあたりが真っ黒になる。
 シューヴェルトが長引く戦いに遠距離からの狙撃を放棄し、厄刀を抜いて駆けてきた。
「どこへ行った?」
 黒い体に赤い血を幾筋も引きながら、魔牛がゴリョウを波打ち際まで押してきていた。海へ逃げたと思っていたヒレ無しが、渾身の大ジャンプを決めて黒い尻に棘を刺す。
 魔牛はゴリョウに頭を抑え込まれたまま、後ろ脚を跳ねあげて、予測不可能な動きで暴れ出した。
「後ろです!」と黒子。
 シューヴェルトは、横から飛んできた魔牛の巨体とまともにぶつかって海に倒れた。立ちあがったところへ、今度はヒレ無しに刺さされた。太ももに深く食い込んだ棘が動脈を傷つけたらしく、波が寄せ返すたびに血が沖へ流れて行く。
 エドガーは仲間を助けるため、軍馬ごと魔牛にぶつかって行った。だが、逆に軍馬ごと弾き飛ばされてしまい、落馬して海に沈んだ。
「ベーク様、箱不具たちが二人に向かっていきます!」
 黒子は叫びながら、海から飛び出した一体に殺意の波動を放った。ヒレ無しではない、別の個体だ。ヒットしたが、海中で毒針の反撃を受けた。
 残り二体が、ようやく立ちあがったエドガーに迫る。
 ベークが救助に駆けつけた。
「早く浜へ、早く! ――いったぁい!」
「こいつ」
 エドガーがベークのお尻を齧る箱不具にスピアを突きたてる。が、箱不具はヒレにスピアの刃を食い込ませたまま、沖へ泳ぎだした。
「エドガー君!」
 ベークは、海に引きずり込まれたエドガーを助けようとして、とっさにスピアの柄を掴んだ。
 とたん、今回甘い香りに反応を示さなかったベークの食レポ・オペレーターがなぜか起動、喚いた。
「ヒーーーット! いまだ、竿をあげろ!」
 食レポならぬ、釣りレポに動かされ、ベークは掴んでいたスピアを思いっきり振り上げた。
 勢いスピアから外れた箱不具が空を飛ぶ。
 瑞鬼が霊刀を振るって蒼光を放ち、箱不具の体を切った。
 その時、ついに魔牛がゴリョウを振り払った。
 海に入って仲間と箱不具を蹴散らしていく。
「オイ、てめぇの相手は俺だろ!」
 ゴリョウは金眸をぎょろりと剥いて魔牛をねめつけた。四股を踏み、両手を広げて待つ。
 果たして魔牛は海から出てきた。頭を低くして、大きく開かれた胸に突撃する。
「庸介、頼んだぜ!」
「わかった」
 庸介は横からゴリョウの前に出た。死極を下段に構え、切っ先で弧を描くようにゆらゆらと揺らす。
「『落首山茶花』、どれだけの威力かその突進力で思い知るがいい」
 刃が下弦の月を空でなぞり上げた。
 魔牛が釣られて顔を回しあげる。
 巨体を紙一重でかわした刹那、庸介は体を回し、黒く太い首に死極の刃を落とした。


「ついでに余裕があれば蟹もいくつか拾っておくぞ。美味そうじゃし」
「いや、最初から回収するつもりでしたよ」
「終わったら鍋ですね。鍋じゃなくてもゴリョウさんには鍋を作っていただきます!」
 瑞鬼と黒子、ベークの三人で箱不具二体とズワイ蟹を拾い集める。箱不具四体中の二体は、魔牛の断末魔を聞いた途端、海へ逃げ帰って行った。
「残念です。でも二匹分あれば、美味しい刺身や唐揚げも作ってもらえますよね?」
 ゴリョウと庸介はエドガーから軍馬を借りて、首の落ちた魔牛を伴野の別荘へ運んだ。
 怪我人たちはベークが付き添って、一足先に戻っている。今頃は風呂に入っているはずだ。
 玄関前で出迎えた伴野と一緒に、外で魔牛を解体した。
「調理に関してわしは戦力外、というかあれだけ働いたのじゃからサボるぞ」
 瑞鬼は蟹と箱不具を調理場へ運んだあと、解体を見学するため徳利を持って戻ってきた。
 黒子はようやく風呂へ。冷えた体を温めに行ったようだ。
「料理が出来たら宴会ぞ」
「まあ、待て。全部作り終えるのは、そうだな、月が出たあとだな」
「待てるか。先に座敷で呑んでおるぞ」
 もう呑んでいるじゃないか、と庸介が突っ込む。
 笑い声があがった。
「おう、瑞鬼。座敷に戻るなら『牛のタタキ』を持っていけ。生姜や山葵、塩でどうぞ! 酒に合うぞ!」
 そこへ材料を切るぐらいならできるというシューヴェルトと、白虎がやってきて、料理を手伝い始めた。
 白虎は、持参した蒸し器で自慢の「白桃肉まん」と蟹シュウマイを作るようだ。異国の料理に興味を示して手を止めた伴野を、ゴリョウが「俺が先」とまな板の前に連れもどす。
「伴野の旦那にゃ、いろいろ教えてもらいてぇんだ。特に箱不具の毒抜きは、今後のために是非とも学びてぇからな」
「あー、私にも手伝えることはあるだろうか……? 生憎、料理はした事が無いのだが」
 それならと、エドガーは『牛のタタキ』と出来上がったばかりの『フグ刺し』の大皿を腕に押し付けられた。瑞鬼のあとについて、ベークが待つ座敷に運んで行った。
 最後に、ゴリョウが浜辺でグズグズになったズワイガニや魚のすり身を纏めて煮出し出汁にし、椎茸、人参と米を入れて炊き込みご飯を作った。
 黒毛和牛のすき焼き鍋の横にてっちり、寒ブリの刺身にズワイガニの刺身、山海の炊き込みご飯に蟹シュウマイ、その他いろいろ。豪勢な料理がずらりと並ぶ。デザートはもちろん「白桃肉まん」、それとどすこい餅のおしるこだ。
 近くにすむ漁師や町の人たちが、地元の銘酒を土産に下げてやって来た。
 魔牛を仕留めた庸介が代表で乾杯の音頭を取る。
「乾杯!」
「いただきます!」
 その夜は遅くまで、伴野の別荘にイレギュラーズや人々の賑やかな声が響いた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)[重傷]
天下無双の貴族騎士

あとがき

倒した魔牛は、すき焼き、タタキ、ステーキなどに……。カニやフグ、その他の食材でいろんな料理がたくさん作られましたが、一晩でみんな食べきってしまいましたとさ。
どすこい餅も鍋に入れられて全部なくなりました。
逃げた箱不具二体は、どこか遠くへ逃げていったようです。恐らく、浜へ戻ってくることはないでしょう。

ご参加ありがとうございました。

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