シナリオ詳細
【イレクロ】夢の残滓
オープニング
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夢の乗り物って、考えたことがあるかな。
どこでも走れて、絶対に安全で、家のように広々と快適で、ドアを開ければ、あっという間に目的地。
世界中を旅して、皆で幸せに暮らせたら、どんなに良いだろう。
誰かが、夢見た鉄の塊が、今もここには眠っているかもしれない――
鉄帝国スラム街モリブデン。
かつて歯車大聖堂なる古代遺跡が動いた事件があった地――
ここでは戦後復興が続けられている。
甚大な被害はあったものの、それでも人は前へと進んで……
「――それで、ここですわね? 例の古代遺跡らしき跡が発見されたのは」
「はいお嬢様。しかしまだ近付かれない方が……内部はまだ探査もされていません」
その一角。復興の最中に偶然見つけられた地下へと続く道の前にいたのは、レベッカ・ヴィクトリアだ。鉄帝の首都郊外に屋敷を構えるヴィクトリア財団の令嬢たる彼女は、この周辺の復興事業にも関わっており、その縁から不審な地下への情報を一早く入手していた。
――なんでも古代遺跡へと続く道だと目されているのだとか。
まだ真偽の程は判明していないが、古代の文明に繋がる……かもしれないと耳にした彼女はその瞬間から血が沸き上がった。遥か太古に存在していた『何か』には常々魂を惹かれていたのである。
故にお抱えの家来や学者と共にその入り口へと来ていた。
……いや、訂正しよう。正に今内部へと入り込んだ所である。近くにいる執事らしき男は危険です! と止めてくるのだが、魔物らしき存在がいるような気配は見受けられない。むしろ生物がいるのかすら怪しい程に静かで。
「御令嬢。どうやら……ここは地下道の様な構造ですね。
迷宮の様に入り組んでいる訳ではなさそうです」
であればと学者が一人言葉を紡ぐ。
降り立った地は暗く、故にランプで照らせば――正に地下道の様に見える。
トンネル、とでも言おうか。壁から天井にかけてアーチ状になっている。
この奥には一体、何があるというのか……
「いやまさか――これは――」
が、その時。
レベッカは足元に気付いた。そこには『線路』の様なモノがあった事に。
大分古いものだ。最早使える様なモノではないが、しかし確かに『線路』の跡だ。
――故にふと記憶が疼いた。
見た事がある。以前取り寄せた古代書の中に、太古の時代の産物――
「多くの列車が行き交う伝説の地があったと聞きます……たしかその名を」
――鋼鉄神殿列車。
暗闇。そこへと掲げたランプの光に映ったのは――無数の機関車が死に鎮座している、壮大な光景であった。
●
『鋼鉄神殿列車』
鉄帝国には幾つか列車が稼働している場所もある。鉄や古代文明に豊富である鉄帝国にはそういった技術も存在している訳だ。科学技術が集まる練達には列車と言うよりも電車なる存在があるそうだが――まぁそれはともかく。
「ふむ。古代の列車技術の跡地が発見されたという訳か」
「ええ。端的に申し上げて、レイリー様達にはその地の探索をお願いしたいのです」
後日。レベッカは知古であるレイリ―=シュタイン (p3p007270)――引いてはローレットへと話を持ち込んでいた。歩きながら話すのは『鋼鉄神殿列車』の詳細。
遥か以前。古代書として語り継がれる程の前……この地では列車が運用されていた。
当時としては、それはもう夢の如き乗り物だったという。
広々とし多くを乗せて、重厚たるその姿は羨望の嵐。
……結局、大災害か何かが発生した折にその文明は滅んでしまったらしいが。しかし当然そのような物が運用されていたからにはどこかに車両基地の様な拠点もあった――それが、今回発見された地下道の先にあると目されている。
「この先に多くの列車が眠る場所があります。調べてしまおうかとも思ったのですが、流石にこれ以上は危険だと傍仕えの者がうるさ……私の身を案じる次第でして、ならば皆様にお任せしようかと」
「ヒヒッ、成程ねぇ……かつての夢が眠る地、か」
レベッカに案内されながら武器商人 (p3p001107)が眺めた先には――確かに在った。
列車の大群。いずれも動かぬ、既に死んだ夢の跡地が。
トンネルに沿って並ぶ様に幾つもの車両が見える。トンネルは複数存在していて……何とも、すし詰め状態にも見えるが、車両たちの保管拠点として考えれば――こういう並びにもなるものだろうか。
「数は多いが、見た限り動かなそうだな」
「まぁどれだけの期間メンテナンスしてない事やら、って代物ばかりだしね」
その内の一つにエクスマリア=カリブルヌス (p3p000787)が触れ、同時にイーリン・ジョーンズ (p3p000854) もまた列車を眺めながら言葉を紡ぐ。
そう、動くはずがないのだ。空気が淀む程に放置されたこんなものが。
しかしそれはそれとして眠れる魔物達がいないとも限らない。
レベッカが独自に進まなかったのは正しい事だろう。とにかくこの地が安全であるのか確認するのがイレギュラーズ達のオーダーである。
――進む。
列車は只管に並んでおり、はたしてどこまで続いているのか……
道中にては衝突しているかのような車両も多々あった。ここが埋まった時の勢いか、地震でもあった時に大きく揺れた結果か……いずれにしても全てが規則正しく並んでいる訳でもない。
各所の扉は錆びついている所もあり、開かなければ強引にぶちやぶる他なく。
「……待って。なにか、いる」
その時だ。フラーゴラ・トラモント (p3p008825)が気付いたのは。
隣。窓から見えた隣の車両に、何か影が見えた。
人影、か? 生きている人間などいる筈もないのだが……
――51番ホームにハルベン号が停車いたします。ご注意ください――
瞬間。誰かの耳に、掠れるように何かの音が聞こえてきた。
気のせいか――? いや違う。
「車両が……動いている?」
エクスマリアが見た。感じた。窓の窓の、更に先で動いている車両があるのを。
同時に響くのは微かな衝撃だ。動いた結果で、何かに当たったか?
――生きている車両がある。正常な動きではないかもしれないが、この遺跡には、まだ。
「おや、おや。まだ生きているエネルギーがあるのかね、欠片かもしれないけれど」
ならば音の方に進んでみようと武器商人は提案する。
興味深い地だ。どこまでも並んだ車両群。時折見える人影。まだ動くモノ……
この先には何がある? 迷えば中々難儀をしそうでもあるが。
それでも――太古の車両を進んでみるとしよう。
かつて人々の夢を乗せた、残滓の中を。
- 【イレクロ】夢の残滓完了
- GM名茶零四
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年01月27日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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かつて栄えた夢の跡。錆に塗れて土に埋もれ……今や見る影無しの古代遺跡。
「――ヒヒッ。いいね、情緒に溢れてるじゃあないか。
古代の遺跡っていうのは『こう』じゃないとねぇ……」
だからこそ『そそる』のだと『闇之雲』武器商人(p3p001107)は言う。
残滓の匂いがそこかしこ。めくるめく古代のベールに鼻先を擽らせ。
眺める周囲――車掌たちの間で念話の様なものが使われていないだろうかと注意して。
「レベッカ殿、私の傍へ。
大丈夫――私、ヴァイスドラッヘが護ってあげるからね。安心しなさい!」
「ええ! 光栄ですわ、レイリー様……!」
同時。遺跡の知識を宿すレベッカに同行を願い、その守護は『ヴァイスドラッヘ』レイリ―=シュタイン(p3p007270)が引き受けていた。とある出来事で知り合い、その際の英雄たる姿に魂が見惚れていたレベッカにとって、すぐ近くにレイリーがいるというのは――
「ああなんたる事……感極まりますわ……ッ!」
半ば遺跡の事を忘れそうな出来事であった。口元抑え感動の情をなんとか抑え。
進む一歩。一つの車両の中へと歩めばかつての鉄が、靴の音を鳴り響かせる。
鉄帝にはこのような古代遺跡、あるいは文明も多くあるとは聞くが。
「イレギュラーズなら空中神殿があるけど、他の人なら鉄道を使うと便利かも? 昔の人なら特に尚更……便利な道具があれば乗るよね。資源やお医者さんも安易に運べちゃう訳だし」
「かなりの技術と、文明だったようだ、な。どれほど古くかは、わからない、が。ここには、人の営みが、たしかにあった訳、だ」
錆びつきし壁を指でなぞりながら『恋の炎に身を焦がし』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は呟き『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)もまた――周囲から推察される『かつて』の光景に想いを馳せる。
これだけの数の車両があるという事は当然、当時に活用されていた数でもあるのだろう。
これらが再び動き出せば世の変化も大きそうである――尤も、再び動く事が出来る代物が、一体幾つあるかは分からないが……
「いずれにせよ動いている目算が高いハルベン号、でしたっけ? そこまでなんとか辿り着きたい所ですね。障害も少なければいいんですけれど」
「ええ。なんとも、探索の心得は皆さんに及びませんが……こういった重い物は自分にお任せを」
とにかく前へ進もうと『心臓もさもさらしいわ!?』ヨハン=レーム(p3p001117)はランプの灯りを掲げ『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)と共に周囲の警戒を行っていた。
同時。眼前にあるは壊れた扉だ――どこかから圧が掛かったのか、三分の一程は開くのだがそれ以上では止まる。故にオリーブは足を踏ん張り手に力を。
その膂力をもって扉を強引に開けるのだ。
荒事と力仕事はお任せあれ、と。技術が必要な専門的な事は得手の者に任せよう。
例えば――
「よし。こっちの扉は鍵の方でなんとかなりそうだな……
誰かドアをしっかりと支えてくれるかい? なぁにほんの少しでいいんだ」
『観光客』アト・サイン(p3p001394)がその一人に値するだろう。
鍵を開ける為の道具を取り出しピッキング開始。開き扉か? 引き戸か?
モノによって開錠の順が変わるのだ――観察と共に指先に込めた集中が全てを決める。
鉄さびと油の臭いがすればどことなく高揚がアトの胸中に。
ダンジョンだ。やはりここはダンジョンだ。しかし同時にここは墓場でもある。
――気合の入れ時だと。
「天主、我らに力を帯びさせ―――」
どうかこの巡りに祝福をと。
開かせる手応えを感じながら――彼らは奥へと進むのだ。
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古代遺跡、巨大な列車。『かつて』を感じさせる夢とロマン……
独特の空気だ。肺に欠片を取り込む度に『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は故郷の様な愛おしさを感じていた。
淀んだ温い感覚さえも、不思議と心を落ち着かせる。
理屈ではないのだ。これが彼女の感性であり、魂そのもの。
「――神がそれを望まれる」
そのような設計であるのだと思考しながら、彼女は前へ。
侵入口から最寄りの別ホームへ――歩きながら探すのは切符や、或いは車掌共に遭遇した際に何かしら偽装に使える物を。しかしやはりほとんどのモノは風化している……紙の類は言わずもがな、マトモに残っているのはそれこそ強固な車両や付随している一部の金属だけであり。
「エスコート、頼むわね?」
「ああ。任せてくれ、レディ」
更に車両侵入前にエクスマリアと息を合わせる。
活動個体の有無を調べてから内部へと物質をすり抜ける術にて侵入。
繰り返し、なんらか扉を妨げる障害があれば排除して――
「シッ、待って。どうやらこの先に……いるみたいだわ」
調査を行いながら聞き耳を立てていたイーリンは皆を手で制する。
聞こえる足音。ここにいるメンバー以外の……となれば例の『車掌』か。
余計な接触はしないに限る。可能であれば迂回も考慮に入れるべきだろう。
「ああ確かにいるみたいですね……こちらからもよく見えます」
「ふ、む。だが、多くの車両が、ある事が、逆に幸いの様だ、な。こちらの方から、いけそう、だ」
同時。車両の壁の向こう側に車掌がいるのをオリーブとエクスマリアの透視の目が捉えた。まだ向こうはこちらに気付いていない様子ではある……耳を澄ませて足音の行く末を把握すれば。
「まぁいざとなれば多少の荒事も止む無し、だろうけどねぇ。
それもまた探検の醍醐味の一つ……面白い要素の一つさね――ヒヒヒヒ……!」
武器商人が扉をすり抜け向こうの方へ。
改めて目視でも確認してみるが、もういないようだ。であればと閉まっていた扉の鍵を確認。中には扉自体が錆びついていて開けること自体が困難なものもあるが……
「まだ開ける事が出来るものもあるみたいだしねぇ」
「どうしても開ける事が出来ないもの以外は柔軟に対応していきたいね。
早めに移動出来る事に越したことはないさ。時間を掛けてしまうのは悪手悪手……」
扉を開く武器商人にアトが返事を。固くなったモノを開ける手段は色々あるが、どれもやはり時間がかかってしまうものだ。迷宮の踏破になるのであればアトが厭う事はないが、より楽な手段があるのであればそれが最上。
或いは窓の方に目を向けてもいいかもしれないと、錆びたネジには尖ったピックで錆び落とし。溝を露出させそこからドライバーで音を出さないように慎重に――布を当ててハンマー一閃。
「こっちからでもいけそうだ。今の所は順調だね」
「しかし思ったよりも扉やらが多い……レベッカ殿、こんなに扉があって危なくなかったのかしら? 何かの拍子で開かない?」
「恐らくですが運転中に誤って開いたりはしないように全てに固定装置があったのかと……それ故に、長年の劣化による錆びや圧がこのように障害として出ているのかと思われますわ」
アトの作った道――レベッカに手を差し伸べながらレイリーが語れば、レベッカは己が見解を。全く、このような車両を幾つも作っていたなど古代には幾つもの夢があったようである……滅んでしまえばなんとも物寂しさだけが残るものである、が。
「これお店みたいだけど、何を売ってたんだろう……お酒?」
「ラベルは読み取れませんが、アルコールかジュースの類に感じられますわね」
「――昔はこれを乗客が買っていたり、楽しんでいたりしたんでしょうね……」
しかし同時に、通った道に確かに在るモノを頼りにレイリーは過去を思い浮かべる。
通った道筋をマッピングすれば出来上がる地図。
されど、地図の上からでは分からぬ情景が目の前に浮かぶのだ。
人々の観覧があったのだろう。人々の楽しみがあったのだろう。
レベッカと語りながら進む。埃だらけとなったボトルを――再び机の上に置きながら。
『――乗車券を拝見シ、まス。お客様。乗車券――ヲ、切符――ヲお見セ、クダサイ』
瞬間。扉をまた一つ攻略した先、の座席側にいたのは車掌が一体だった。
その身は下半身――が故障しているのか無い。耳による探知を抜けたのは動きがなかったからか? 周囲で動く気配を感知し今しがた動き出したという雰囲気故に探知から漏れたのか――?
「おっと……ミスると笛で呼ばれるかもね。ちょっと任してくれ、誤魔化してくる」
そこへ出たのがアトだ。
切符の拝見。ああなんとも面倒だ、が。要は乗客だと思ってもらえればいい訳だろう?
その辺りに落ちていたガラクタから帽子らしきモノを広い、目元を隠して車掌へ切符を懐から取り出した。無論それは正規のモノではないが――こんな事もあろうかと用意した古びた切符であり、雰囲気だけは正にソレ。
車掌は眺める。差し出された切符を……そして。
『――――ゴ乗車、アリガトウゴザイマス、ドウゾ、ごゆックり、と……』
「待て、聞きたい事が、ある。この鉄道は……車両は、何で出来て、いる? 機関部の場所など、分かれば、尋ねてみたい、のだが」
『当車両ハ、198531646-α8721KGTにヨリ作成された、カルバー駅への、おトイレは後部車両右側に存在し、左手をご覧いただけますとコーウェンアルバハラ将軍の記念、車両内ではお静かに……』
「うーん。これは何だか単語の羅列ばかりで……駄目ですねこれ。やっぱり判断能力が完全に失われてるみたいですよ。切符に誤魔化されるのもこういう所なんでしょうね」
エクスマリアが咄嗟に尋ねるが、返ってきた言葉には果たして意味があるのかないのやら……ヨハンがオフにしていた灯りを再び翳せば、車掌はこっちを見てなどいない。
――壊れている。誰が見ても、明らかに。
「……やはり駄目、か。少なくともこの場で言葉の真偽は分からないな」
「それでも――この場で得る情報に何一つ無駄なことはないと思う」
些か落胆するエクスマリア。それでもと、紡ぐのはフラーゴラだ。
意味不明な言葉でもそうではないかもしれない。
彼らの内にありし羅列であるならば。
「後で解読出来たりする……かもしれないしね。マリー、言葉だけは覚えておこう?」
古代の遺物。きっと彼らが歩んだ軌跡に意味はあるのだと。
フラーゴラからを愛称で紡がれたエクスマリアは、その言葉の一つ一つを記憶に根差す。
きっと意味はあるのだと信じて。
今に繋がっているのだと。
「これもまた、過去の欠片、夢の残滓、だ」
……やがてアトの咄嗟の機転により事無きを得たイレギュラーズ達は前へと進む――
車掌たちはもう壊れており、正常な判断が出来てないが故にこそ『それらしき』様子を出せれば誤魔化せたようだ。他者に成りきる瞬時の技能、こんな事もあろうかと用意していた切符が無ければ、流石にこう簡単とまではいかなかっただろうが……
「大分進めているわ……そろそろハルベン号に辿り着きそうな気がするわね」
ともあれと、イーリンは慎重な歩みを継続し前へと進む。
過去の残留物たる車掌達を躱し。今を生きる者達は――歩み続けるのだ。
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『切符ヲ拝見します。切符を乗車券を切符を乗車券を――』
「ええいしつこい奴もいるものですね……ある意味分かりやすいのは助かりますが!」
衝撃音。車掌の振るう拳が鉄すら捻じ曲げる中、様子に相対する一人はヨハンだ。
壊れているからこそ先程の様に誤魔化せた車掌もいたが、壊れているからこそほんの些細な動きですら怪しいと感知して攻撃して来る個体もいるようだ――まぁここまでなるべく戦闘を回避して来られた事こそ幸いと思うべきか。
それにヨハンにとってはこういう瞬間の方こそが『いつもの』お仕事だ。
「レベッカさんの安全を確保する必要もあります。他の車掌達が間に合っても面倒です――殲滅する勢いで攻めるんだ! 攻撃開始! 一刻も早い撃滅が、僕達の負担を減らしますよ――!」
「ええ、騒ぎが起こった時点で手遅れみたいなものですからね……
ならば後はいっそ派手に。全力をもって潰してやりましょう!」
ヨハンの的確なる指示と共にオリーブは往く。
こういう時、古来より言うものだ……泥棒が見つかった時はいっそ火をつけた方が良い、と――え、言わない? 嘘、言いますよね? あれ、違いましたっけ、言いましたっけ?
「ともあれ南無三……!」
眼前の一名を潰す勢いで至近の戦いを。かつての働き者よ、今こそ終焉を。
「さぁ、レベッカ私の後ろへ! 君には傷一つ付けさせやしないよ!」
飛び散る鉄の破片あらば全てレイリーが叩き落とす。
決死なる盾はレベッカを常に守護するのだ。勇ましき立ち姿はまるで神々しく、後ろにいるレベッカはまたも感極まって感動の涙を流しそうな勢いである。
「さぁさぁ魅せてみなよ君達の輝きを。只の人形に突破できるかね――ヒヒ!」
同時。前へと出たのは武器商人だ。
鉄すら捻じ曲げる車掌の拳が飛んでくるが――しかし、効かない。
腹への一撃。しかしまるで水面を打ったかのように手ごたえがないのだ。
それは魔力障壁。物理も神秘も遮断する武器商人の完全なる備えだ。同時に紡ぐは破滅の様な呼び声……滅さねば、自らの破滅へと繋がるという危機感が車掌の注意を無為に武器商人へ。
「やれやれ、ハルベン号も目前なんだ……お宝を前に邪魔はよくあるけれど、さっさとご退場願おうか」
直後、最後の扉を開錠したアトが近くにあった鋭い鉄破片を足で蹴り上げ――浮いたソレを手でキャッチ。車掌の横っ面へとぶち込んで、撃と成す。
激しい音を立てる車掌。あまり壊したくはないものだ――これも貴重な資料なら。
「でも、仕方ないよね……増援は呼ばせないよ」
それでも掛かって来る個体がいるなら仕方ないとフラーゴラは跳躍。
自らの安全装置を外すかの如き超速を。蒼き彗星が輝きが――全てを貫く。
速い、というのはそれだけで力となるのだ。
――破壊する。
声を発させる事もなく、一撃で。アトの紡いだ隙に間髪入れず撃ち込んだ撃は、強烈。
「よし、皆、無事だな? 念のため、治癒を、しておこう。また来ないとも、限らない」
「僕の出番っていうのも複雑なものですね。出番が来ればお役に立てるのですが、そんな状況があるとピンチも近い訳で……まぁもうすぐゴールなら良しとしますか」
であればと戦闘後にエクスマリアとヨハンの治癒術が紡がれるものだ。
二人の様に治癒を行える者がいれば、余程大量の数が襲い掛かって来る様な激戦でない限りは万全で歩める。尤も……先程アトが『開いた』おかげで――
「じゃあ、行くわよ」
ハルベン号への障害は最早ないのだが。
イーリンが扉に手を掛ける。この先が、そうなのだ。
まだ生きている古代の神秘。
心臓の鼓動が鼓膜にまで届けば、イーリンは微かな口内の渇きと共に――開く。
「うわぁ……」
同時、吐息一つ。
他とは異なり本当にまだ生きていた。風化が左程されておらず、比較的無事な部分が多い。
知識の扉が開く。片っ端からスケッチ、スケッチ、スケッチだ!
「これが当時の車両内部なのね……! ああこんな構造が遥か古代から存在してたなんて、やはり人の知識は年月を跨いでも共通する所があるのかしら!? いえ、それよりも機関部、機関部よ……技術の結晶、当時の職人の叡智をこの目に収めないと……!」
「おおう……こんなにはしゃいでるお師匠先生はじめて見た」
目を煌めかせるイーリン。普段の様子からは中々想像できない様子にフラーゴラも思わず驚くが……しかしそう、機関部だ。
フラーゴラにとっては例えば線路上に現れた魔物の対処をどのようにしていたかも気になる。先端部分に何か撃退の装置でもあるのではと……皆で前へ。
さすれば至る。古代の中枢へ。
微かに命を宿している――魔力石が組み込まれている、中枢部へ。
「……おや。成程、こいつがこの子の心臓って所かい?」
「ふむ。ですが、風前の灯火……といった印象を受けますね」
武器商人がのぞき込むように見据えれば、同時にオリーブも。
魔力石……取り外す事も出来そうだが、さてどうするか。
「ハルベン号自体は特に悪しきことを成している訳ではなし、ひとまずは回収でいいね?」
「まぁ然るべき所へ持ち帰り、然るべき対応をするべきでしょう――取り外してもいいとは思いますが何か悪影響を及ぼさないとも限りません。ご注意を」
アトが言葉を紡ぎ、ヨハンも同意を。
これは貴重な古代の遺物だ。故にイーリンは慎重に手を伸ばして。
「嗚呼――お疲れ様」
五指に感じる微かな熱を愛しく思いながら、取り外した。
もしもこの車両にも霊なる存在があるならと、どこかへ届く様に――小さく声をかけながら。
……幸い、取り出しても崩壊などはしないようだ。
手中にはまだほんのりと熱が。微かな神秘と命の輝きがそこに残っていて……
そしてレイリーは言う。レベッカの方へと向き直りながら。
「折角だし昔の気分に浸りましょ」
そう、折角の機会だ。近くには車掌もおらず……危険はなさそうであれば。
少しぐらいは楽しもう。
『かつて』を感じる事が出来るこの場所で。
鋼鉄なる夢。神殿が如く敬われた、かつての夢の中で……
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
車両の墓場の中に、しかし確かに命はあったのです。
――ありがとうございました。
GMコメント
リクエストありがとうございます――
●依頼達成条件
鋼鉄列車『ハルベン号』に辿り着く事。
●フィ-ルド『鋼鉄神殿列車』
鉄帝国の地下、無数のトンネル群が存在する遺跡です。
無数の列車と車両が並び、薄暗い地となっております。また地下であるので高度飛行が出来ません。車両の上に浮かぶ程度は可能です……が、崩落している場所などもあり、車両の上をずっと進むという事は困難です。
反面、崩落していても車両が鋼鉄だからか中の通路は無事な様で、車両の中を只管に突き進むことは出来ます。車両を進み、時折降りて、次の車両に乗って更に進む――と言う事をすると徐々に奥に進めていくことでしょう。
扉は錆びついている場所などがありますが、破壊する事は可能です。鍵などが掛かっている訳ではないのですが、開錠の類のスキルがあれば破壊活動がより簡易になるものとします。
奥の奥からはなにやらまだ動いている列車がある様な気配がありますが……?
●鋼鉄列車『ハルベン号』
古代文明が作り出した列車にして、未だに動いている最後の列車です。
その動力源は大きな魔力石であり、機関部に取り付けられています。
実はこの魔力石は『乗車した人間から魔力をほんの少しずつ貰う』ものでした。いわゆる料金代わりだったのかもしれません。最盛期には多くの人間と――夢を乗せ――同様に魔力を溜め込んでいたのですが、今となっては欠片程度の力が残っているのみです。
これを回収するか、破壊して終わらせるかは自由です。
ちなみに他の車両も同じなのですが、魔力が尽きると人で言う所の『死』と同じ状態になり二度と使えなくなる様です。
●車掌×??
古代文明が作り出した自動人形とも言うべき人型の個体達です。
いくつかの列車に乗り込んでおり、力が残っている個体は未だに活動しています。
……しかしながら長年の経過により彼らの判断能力には陰りがみられ、車両のメンテナンスまがいの事をしているに過ぎない遺物と成り果てています。話しかけると意志の疎通がされているのかよく分からない返答が為される事でしょう。
彼らは皆さんがただ歩いている限りでは攻撃してきません。
ただし、車両へ攻撃を行ったりするのを目撃されると『不審者』と認識される様で攻撃を行ってきます。また時折切符を持っているか問うてくる個体もいる様です。
また、敵と認識された場合、笛の様なモノを吹かれて周辺から集まって来る事もあります。
彼らはただ只管にこの車両を護ろうとします。
彼らは未だに――この列車たちの車掌なのですから。
●レベッカ・ヴィクトリア
ヴィクトリア財団の令嬢にして今回の依頼人です。
この『鋼鉄神殿列車』に対するある程度の知識を持っています。
本依頼の開始時、彼女が『探索に同行しているか』を選ぶことが出来ます。
同行している場合だと鋼鉄神殿列車をスムーズに進むことが出来る可能性があります。
ただし依頼人ですので彼女を守護する必要もあるでしょう。
待機してもらう場合には特に危険はありません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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