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シナリオ詳細

Spiel Games~Sandman

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●幻想貴族の暇潰し
 ヴァルツァーレク領南部に所領を構える貴族シュピール子爵は、大のボードゲーム好きだった。チェスやバックギャモンといった伝統的なゲームは勿論のこと、旅人種たちが持ち込んだ異世界のゲーム、更には練達製VRボードゲームに至るまでの幅広いコレクションが彼の決して小さくなどない屋敷を手狭に変えていることは、彼の屋敷を訪れた者なら誰もが知っていただろう。
 あるいは、より親密な間柄の者たちであれば、彼のコレクションの中に、彼自身が考案したボードゲーム(と数々の試作品)も大量に含まれていたと語るやもしれぬ……恐らくは、またテストプレイに付き合わされたという苦笑とともに。

 そんな彼の元に今日、馬車数台分に及ぶ荷物が届いたのであった。
「おお! 私が練達の工房に発注していたゲームが、ようやく届いたか!」
 使用人さえ押しのけて御者の前に飛び出した彼が見たものは、8台のカプセル型ベッド付の没入型VR機器を備えた魔法装置だ……コアとなる制御装置の筐体には『Spiel Games』なるロゴがある。早速起動して制御盤を投影すれば、目の前に子爵のお気に入りや彼デザインのゲームの名前が一覧となって現れる。
「ふむ……私の新作もちゃんとインストールされているな? よしよし、テストプレイヤーを探そうではないか」
 子爵はそわそわするさまを隠さずに、ローレットに依頼を出した。本当は自分が真っ先に遊びたいんだけど、練達製だと何があるか怖……げふん、デザイナーが自分で遊んでも問題部分に気づきにくいからね。

●なんで題材コレにした
 ボードゲーム『ザントマン』は、幻想種を捕らえて奴隷として売り払おうと目論む奴隷商陣営のプレイヤー4人、彼らの侵入から村を守ろうとする幻想種陣営のプレイヤー4人で遊ぶ、計8人用のボードゲームです。参加者は最初にカードを引き、どちらの陣営のどのユニットを操作するかを割り振られます。
 基本的には、奴隷商陣営は幻想種の村を滅ぼして奴隷を持ち帰れれば勝利、幻想種陣営はそれを阻止できれば勝利となります……が、どちらの陣営にも1ユニットずつ、相手陣営が勝利した場合に勝利となる裏切り者が存在します――奴隷商陣営の場合は彼らの仲間のふりをして幻想種を守ろうと奮起する【潜入捜査官】、幻想種陣営の場合は私利私欲のために同胞を売らんと目論む【内通者】が裏切り者に該当します。

 舞台は、縦横5×5エリアからなる深緑の森。奴隷商陣営の移動&攻撃ターンを先手、幻想種陣営の移動&攻撃ターンを後手として、交互に6ターンずつの攻防を行ないます。ゲーム終了時、幻想種陣営の【長老】ユニットが『脱落』しており、なおかつ、奴隷商陣営のいずれかの【奴隷商】ユニットが『脱落』せずに残っていた場合は奴隷商陣営が勝利、それ以外は幻想種陣営の勝利です。
 このゲーム、プレイヤーにできることは『移動する』『攻撃する』『ユニット能力を使用する』だけではありません……騙し、探り、交渉し、情報を入手したり他者を操ったりする部分こそ真の醍醐味です。

 プレイヤー同士の情報戦は、初期配置を決定する前から始まっています。通話はできても盤面全体を確認できない没入型VRゲームだからこそ、自分の情報を誰に、どのように伝えるのかが重要なのです。
 存分に、互いを騙し合ってください……そしてその騙し合いを楽しんでください。
 ボードゲーマーである皆様ならばご承知のこととは思いますが、ゲームでの恨みを決して現実に持ち込まないでください。

GMコメント

●本シナリオの運営に関して
 本シナリオでは、参加者の確定後24時間以内に、運営チームより各参加者に対して『配役』と『同一陣営に含まれる他の参加者の一覧』を通知するメールが送付されます。各参加者はそれをご確認の上、ご自由に相談を行なってください……シナリオの相談掲示板のみならず、手紙等による個別連絡も推奨されます。
 つまり、全員が「各陣営の参加者は把握できているが、誰が裏切り者であるかは本人以外には判らない」という仕組みになっています。裏切り者であることを隠して行動相談しつつ敵陣営に情報をリークしたり、逆に本当は裏切り者ではない参加者が情報リークを装って敵陣営を騙したりという行為も可能、ということです。

 なお、上記のような特徴のため、本シナリオでは以下のように禁止行為を定めます。
 下記の行為(及びその他、シナリオ趣旨に適切でない個人攻撃などの問題が生じた)結果として、シナリオ運営の趣旨目的、参加者の利益等が著しく損なわれると判断された場合、シナリオ中止を含む措置を行なう可能性もございます。あらかじめご了承下さい。

・同一プレイヤーが複数のキャラクターを参加させてはならない
・運営からのメールを公開してはならない(文章をコピーする程度であれば、内容改変による立場偽装が可能であるためOK)
・その他、ゲームの公平性を著しく損なう行為(他の参加者をアイテム等で買収する等の行為は、買収に応じたフリをして嘘を吐かれれて無駄になる可能性を承知で行なうのであればOK)

●具体的なルール
 ゲームは、奴隷商陣営の第1ターン→幻想種陣営の第1ターン→奴隷商陣営の第2ターン→幻想種陣営の第2ターン→……、のように、幻想種陣営の第6ターンまで行ないます。

 各ターンは、移動フェイズ・攻撃宣言フェイズ・戦闘フェイズに分かれます。
 移動フェイズでは行動中の陣営の各ユニットが、自由な順番で移動を行ないます(他のユニットと同一のエリアに侵入してもかまいません)。
 全員が移動を終えるか移動しないことを選択すると、攻撃宣言フェイズに移行します。攻撃宣言フェイズでは、行動中陣営の各ユニットは同一エリア内の相手陣営ユニットに対する『攻撃宣言』を行なうかどうかを決定できます。
 全員が攻撃宣言を行なうか攻撃宣言しないことを選択すると、戦闘フェイズに移行します。戦闘フェイズでは、攻撃宣言が行なわれたエリアごとに『攻撃宣言を行なったユニットの数』と『相手陣営のユニットの総数』を比較します。両者が同一か、前者の方が多い場合は、相手陣営のユニットは全て『脱落』します。『脱落』したユニットはゲームから除外され、これ以上は何もできなくなります。後者の方が多い場合は何も起こりません。
 戦闘フェイズでは、『攻撃宣言を行なったユニットの数』と『相手陣営のユニットの総数』がエリア内の全てのユニットに周知されます。

 各ユニットがそれぞれどのような選択を行なったか、誰がどのような情報を取得したか等の情報は、特に明記のない限りは他のユニットには通知されません。
 ただし、ユニット間での情報の伝達は、敵味方問わずいつでも可能です。どのような情報を誰に伝えるか、誰の情報を信じて動くか、等をプレイングにて指定しておくことで、柔軟な行動選択が可能になります(具体的にどのような行動を行なうかはGMが決定しますが、各参加者が入手していると思しき情報を元にした際に明らかに不利になる選択肢は選ばれません)。

●ボードマップ
 A1 A2 A3 A4 A5 ↑森の深部
 B1 B2 B3 B4 B5
 C1 C2 C3 C4 C5
 D1 D2 D3 D4 D5
 E1 E2 E3 E4 E5 ↓森の外周

●奴隷商陣営のユニット
【奴隷商】(3人)
・初期配置:E1~5の5エリアの中から1つ指定する。プレイングにて指定されない場合、ランダムに選ばれる。
・移動:可。奴隷商陣営の移動フェイズに、自身を上下左右に隣接するエリアのいずれかに移動してよい。
・能力『偵察』:奴隷商陣営のターンの開始時、上下左右に隣接するエリアを1つ指定してよい。指定した場合、指定エリア内に存在する全てのユニットの名称を確認する。
・勝利条件:奴隷商陣営の勝利。

【潜入捜査官】(1人)
・初期配置:E1~5の5エリアの中から1つ指定する。プレイングにて指定されない場合、ランダムに選ばれる。
・移動:可。奴隷商陣営の移動フェイズに、自身を上下左右に隣接するエリアのいずれかに移動してよい。
・能力『極秘任務』:能力『偵察』の対象となった際、名称を【奴隷商】に偽装する。
・勝利条件:幻想種陣営の勝利。

●幻想種陣営のユニット
【長老】(1人)
・初期配置:A2~4・B2~4の6エリアの中から1つ指定する(これを『村』とする)。プレイングにて指定されない場合、自動的にB3となる。
・移動:不可。常に『村』の位置から移動できない。
・能力『儀式呪術』:幻想種陣営の2・4ターン目の終了時、『村』以外のエリアを1つ指定してよい。指定した場合、幻想種陣営の次ターンの終了時に、指定エリア内に存在する奴隷商陣営のユニットを全て『脱落』させるかやはり何もしないかを選択する。
・勝利条件:幻想種陣営の勝利。

【戦士】(2人)
・初期配置:A1~5・B1~5・C1~5の15エリアの中から1つ指定する。プレイングにて指定されない場合、ランダムに選ばれる。
・移動:可。幻想種陣営の移動フェイズに、自身を上下左右に隣接するエリアのいずれかに移動してよい。
・能力『斥候』:各ターンの開始時、上下左右に隣接するエリアを1つ指定してよい。指定した場合、指定エリア内に存在する全てのユニットの名称を確認する。
・勝利条件:幻想種陣営の勝利。

【内通者】(1人)
・初期配置:A1~5・B1~5・C1~5の15エリアの中から1つ指定する。プレイングにて指定されない場合、ランダムに選ばれる。
・移動:可。幻想種陣営の移動フェイズに、自身を上下左右に隣接するエリアのいずれかに移動してよい。
・能力『本心偽装』:能力『斥候』の対象となった際、名称を【戦士】に偽装する。
・勝利条件:奴隷商陣営の勝利。

●(一応)シナリオ成功条件
 陣営・勝ち負けを問わず、両陣営が勝利を目指して努力すること。

  • Spiel Games~Sandman完了
  • GM名るう
  • 種別EX
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2021年01月27日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談10日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
倫敦の聖女
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
アウレウス(p3p009222)
金色の煙霞
一・和弥(p3p009308)
粋な縁結び人

リプレイ

●Game Start
 目の前にポップアップしたボタンに指を伸ばした途端、『粋な縁結び人』一・和弥(p3p009308)の視界は無機質なカプセル内部から、木々の香満ちる深緑の森へと引き込まれていった。
「さァてっと、これほど大人数でゲームするなんて何時ぶりだかなァ!」
 気合を入れて叩いた頬は、現実と同じように心地よい痛みを伝えてくれる。
 擦れる下草の肌触りから、肺に吸い込む空気の涼しさに至るまで。何もかもがリアルな仮想現実の世界の中を意気揚々と進んでいって……そこでふと、和弥の脳裏に一抹の不安がよぎるのだった。
(これ……やられる時はどうなるんだ? ここまで頭使うモンは得意かっつわれるとなァ……。
 ま、せいぜい生き残れるだけ生き残ってやんよ!)
 ……そしてその意気込みは、いきなり暗雲が立ち込めるのである。

「なんで他の奴と被るんだよ!?」
 すぐ隣で『初日吊り候補』セリア=ファンベル(p3p004040)がうんうんと頷いて、日頃のいろいろは忘れてしっかり楽しもうなんて独りごちていた。幾ら何でも称号が不穏。ついでに……「最後にルール違反の爆発オチとかありませんように」とかよくわからんことを呟いている。
(畜生め、信用できねェぜ! 俺は敢えて別の道を行かせてもらう!)
 和弥はそんな決意を心に刻むと、セリアと袂を分かつように左に90度方向を変えた。
 ……まあ、E4→E3は元々の想定ルートだったし、いくら和弥が『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)を黒めに見てるからといって、最初からセリアなら信じてたわけでもないんだけどね。

●第1ターン
【現在の奴隷商陣営の判明情報(虚偽の可能性含む)】
・セリア(E4)
・カイト(??)
・クレマァダ(??)
・和弥(E4)

【現在の幻想種陣営の判明情報(虚偽の可能性含む)】
・エクスマリア(C3)
・シュバルツ(??)
・アリア(??)
・アウレウス(B5)

(なるほど、セリア殿はE4を選んだか。では我はE1を選ぶとしよう)
 『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)はセリアの初期位置を聞いての自らの判断が、正しかったのかさえ判らなかった。彼女を襲う感覚は、モスカの巫女であったが故に触れることの乏しかった遊戯というものの、思ってもみなかった奥深さゆえのもの。
(やり甲斐はある。そして【内通者】が誰かも我は知っておる)
 その感覚とはきっと、高揚であったろう。しかも彼女がその秘密を知ると知ってか知らずか、セリアが「【内通者】本人より受け取った情報」だとして、先ほど異なる人物の名前を突然打ち明けてきた。
(これは、【潜入捜査官】の情報も得たも同然か?)
 解ってはいる。実のところセリアこそ正しくて、『希望の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)が【内通者】を装った幻想種陣営だという可能性も否定はできぬ。
(が、信ずるべきは我自身の見聞きした言葉であろう)
 目を閉じて自らのあるべき姿を見定める。それは彼女にとって必要な儀式であって――その様子を密かに伺っていた人物にとっては、確かな隙に他ならない!
「きひひ……【奴隷商】、みぃつけた! 今だ、攻撃だー!!」

 アリアが奴隷商陣営に攻撃を仕掛けることにしたという情報は、直後には既に『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の元にも届けられていた。
 アリアは偶然にもちょうど敵と相対する位置にいたということか。ひるがえってマリアのほうは、いまだに奴隷商陣営の姿を捉えられないでいる。
(難しい、な)
 これは双方の勝利条件から導き出される勝利への最短経路だけでなく、それを読まれている前提での搦め手も必要になる戦いだった。必要なのは情報であり、その真偽を見定める能力だと言える……それは確かに難しくはあるが、同時に面白さを感じてもいる。
(敵は、中央突破はしてこなかった、な。だとしたら次は、右か、左か)
 マリアは小首を傾げつつ、一旦は後退して様子を見ようかとも逡巡した。だがその直前に……新たな連絡がやって来る。『死を齎す黒刃』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)からの情報だ。
「エクスマリアはC3にいたな? そこを動く必要はない。C2はこちらで見るから次はC4に『斥候』を出してくれ。D3は――1ターン目に何もなかったなら2ターン目に見る必要はない場所だろう」

 ――時は少しばかり遡る。ユニットカードを引いてからこの方、『金色の煙霞』アウレウス(p3p009222)の胃袋はきりきりと痛み続けていた。
(だって1/8っすよ? よりにもよってどうしてこのユニットなんすかねぇ!?)
 つまり……【長老】を引いたってことさ!
 移動もできないからできるのは呪うだけ。他にはせめて勝利を祈るくらいか? まあ特殊すぎて他者が騙りにくいという性質上、情報操作の要としての役割はある……“要”って。やめてくれ、オレにそんな重大な責任を負わせないでくれ!
 しかも何が酷いって、こっそりA2に決めたはずの『村』の位置がシュバルツに見抜かれて、自分が【長老】だと即バレたことだった。あっ死んだ。「【戦士】なのでB5から出撃するっすよ」とか偽装してたのがいきなり全部飛んでった。これでシュバルツが【内通者】だったら幻想種陣営の負けでーすもうダメでーす……。
「……いや俺が【内通者】なら『斥候』は使えないからな?」
 あっ生き返った。呆れ顔のシュバルツに指摘され、ようやくアウレウスの胃痛は収まってくれた。しかもシュバルツは既に【内通者】の正体を、アウレウスともうひとりまで絞っていたらしい……アウレウスが【長老】と確定した今、つまりは【内通者】を確定させたということだ。
「無論、俺がB2からA2を偵察したってのが嘘で、単に当てずっぽうが当たっただけの可能性もあるけどな――っておいいきなり倒れてどうしたアウレウス! しっかりしろ返事しろ!!」

●第2ターン
【現在の奴隷商陣営の判明情報(虚偽の可能性含む)】
・セリア(E4→D4)
・カイト(??→??)
・クレマァダ(E1→D1)
・和弥(??→??)

【現在の幻想種陣営の判明情報(虚偽の可能性含む)】
・エクスマリア(C3→??)
・【戦士】シュバルツ(B2→B2)
・アリア(C1→D1『攻撃』)
・【長老】アウレウス(A2→A2)

「……なーんてね」
 身を強張らせたクレマァダの目の前で、激情に駆られていた紅い目のアリアは幻のように消え失せていった。代わりに現れた灰色の目のアリアこそ、くるくると面白いように表情の変わってゆく“本当”の彼女。
「そんなわけで幻想種陣営には攻撃宣言したって伝えておいたけど実際には攻撃しないので、金のほうはよろしくお願いしますよぐへへ」
 下卑た表情を浮かべるアリアは、まるで本当にそれが本性であったかのように役になりきっていた。思わず、その演技に惹き込まれそうにはなるが……役割を演じることに関しては、決してクレマァダとて引けを取ることはない。
「金じゃと?」
 できうる限り重々しく、クレマァダは口を開いてみせた。
「それはお主の働き次第じゃろうに。しかし、他の者にも我から伝えておいてやろう……幻想種陣営のお主が口を出せば、纏まるものも纏まらぬ故の」
 実際に攻撃してこなかった以上は信用できるが、それすらも策略ということもある。あくまでも、主導権は自分が握る……さもなくば、政治とは足を掬われるものだから。

 その頃――。
(……いねェな)
 『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)のサイバーゴーグルは、一切の敵対反応のない空間を前方に映し出していた。
 これが現実ではないVR空間に過ぎないせいか、はたまた自分が初期位置を決めず、VR機器任せにしたせいかとも考える……が、やはりそのどちらでもないことがすぐに証明される。無駄にリアリティを追求したゲームマシンが偶に放り込んでくる腹を空かせた肉食獣(流石にルールへの影響はできないようになっているのか、幸いにも簡単に撃退できた)は正常にゴーグルに反映されるし、ヘルプ画面を呼び出したなら、ここがどこか滅茶苦茶な場所ではなく確かにD2エリアであることが示されている。
 ……だとすれば。
(俺の作戦は、今のところは成功だってことだ)
 敵を欺くにはまず味方から。自分でさえ居場所をゲーム開始時に初めて知るのなら、その場所が【潜入捜査官】を通じて敵方に流れる心配はないと安堵した。理論上は幻想種陣営が全ユニットの内訳と初期位置を完全に把握していれば1回裏で奴隷商陣営が壊滅してコールドゲームに終わることもありうるこのゲームにおいて、E2からC2までの間をクリアリングできたことには大きな意義がある。
 ……だが、それだけで勝利を得られるほどこのゲームは甘くない。もちろん、そんなことはよく解ってる。
 だから、気を緩めずに思考する。
(問題は、横手からの攻撃か。あるいは――)

(――B2から俺が攻め込むか、だ)
 だがシュバルツは可能性を検討し、すぐさまそれを保留した。
(ここで攻めればカイトは討ち取れるだろうが、次に俺自身が別の奴に攻撃されないとも限らねぇ。【長老】は先手を取って攻撃できねぇ以上、こっちが攻撃に使える駒は2つまで。一方で敵にはそれが3つある以上、相打ちになるなら負けるのは俺たちだ)
 反撃がないと確信できる時でなければ、攻撃することそのものがリスク。せめて、他の奴隷商陣営の動きが判っていれば……。
「……そうだエクスマリア。C4の『斥候』結果はどうだ?」
 すると、収穫があったという確かな声が、マリアから返ってきたのだった。

 それは幻想種陣営にとって、福音とも呼べる調査結果であった。
「C4のセリアは、【潜入捜査官】だ」
 【潜入捜査官】の能力『極秘任務』は、【奴隷商】の『偵察』に対する偽装はしても、【戦士】の『斥候』を欺くことはない。その偶然を引き当てたのはマリアの幸運であり……しかもそのセリアが最初に和弥と遭遇していたということは、奴隷商陣営4人のうち3人までの居場所と内訳をほぼ特定したと同義であったろう。
「しかも今なら、同時攻撃が可能だ、な」
 一時的に戦力を拮抗にできてもすぐに戻されるのが幻想種陣営の弱点であるのなら、同時に2人を落としてしまえばそれを克服できた。和弥がセリアと同じE4から開始して、セリアからの報告――彼女の今いるC4に和弥はいないというもの――が正しいのならば、居場所は幾つかのエリアに限られる。敵陣を探索しなければならない奴隷商陣営にとって足踏みはなるべくしたくないだろうこと、なるべく多くのエリアを探索できるよう位置取りたいことなどを加味すれば……恐らくは和弥は最初の一歩以外は左右には振れず、真っ直ぐにD3へと進んでくるだろう!
(つまり、マリアの攻撃圏内にいる、な。ここで、2人をもろとも落としてしまえば……)
 そして彼女は宣言する。
「マリアは、B3まで、撤退する」

「ギャーッ!?」
 アウレウスの胃袋はまた死んだ。2対3という数的不利を一挙に2対1にまで逆転できる絶好の機会に対し、まさかの撤退という判断を下した仲間の存在に。
 否……そもそもマリアを【戦士】と考えたシュバルツの判断を、ひとまずは信じておくことにした自分が悪かったに違いない。どんな手を使ったのかマリアはシュバルツを完全に丸め込み、この瞬間まで正体を秘匿し続けた。そして、この致命的な瞬間に、つい尻尾を出したに違いない! 【潜入捜査官】を騙った【奴隷商】セリアと結託し、和弥がD3にいるという虚偽情報を流したことを隠したいあまり。
 だが、それだけであればまだよかっただろう。さらに悪いことにその直後、村の門番モブたちが何者かの来訪を告げる……シュバルツだ。彼まで村に退却してきたということは、アウレウスから見れば理解の範疇を超える、何か恐ろしいことが起こっていることの証拠であった。
 それが何であるのかはまだ判らない。今の彼にできることがあるのだとすれば、これまで自分が考えてきたものを信じ、『儀式呪術』の行使先を決定するだけだ――折りしもその時アリアが唐突に伝えてきた敵の居場所は、はたしてアウレウスにとって信用に足るものだっただろうか?

●第3ターン
【現在の奴隷商陣営の判明情報(虚偽の可能性含む)】
・【潜入捜査官】セリア(E4→D4→C4)
・【奴隷商】カイト(E2→D2→C2)
・【奴隷商】クレマァダ(E1→D1→C1)
・【奴隷商】和弥(E4→E3→D3)

【現在の幻想種陣営の判明情報(虚偽の可能性含む)】
・【戦士】エクスマリア(C3→C3→B3)
・【戦士】シュバルツ(B2→B2→A2)
・【内通者】アリア(C1→D1→D2)
・【長老】アウレウス(A2→A2→A2)
 『儀式呪術』1回目:??

「……妙だな」
 B2の敵対反応を走査したカイトが感じていたのは、あまりにも不気味な静寂だった。
 ゲームも中盤に差し掛かり、各人の動き次第では終盤ともなりうるタイミングにて、敵の姿がいまだに見えないという盤面。無論、自身に関しては戦略が上手くゆきすぎたという可能性はある……けれども、他の奴隷商陣営からも接敵の報告がないというのは奇妙な限りだ。
「現状報告が欲しい」
 カイトが陣営全体に出したのは、自身の情報は一切出さずに、まずは相手の情報を探ろうという意図の連絡だった。それに応じる義理など誰にもないことは、当のカイト自身が最も承知……けれども相手の出方次第では、こちらかも情報提供を考えることができる。
「今のところ敵影は見てないけれど、もしも『村』を見つけたら連絡するね」
 まず、セリアからもたらされたのは、そんなあやふやな情報だった。自分の居場所情報が【潜入捜査官】に知られるのが嫌なだけなのか、それとも彼女自身が【潜入捜査官】であるが故、いつでも『村』の場所を偽装できるようはぐらかしているだけなのか――いずれにせよ向こうがそのつもりなら、こちらも同様に伝えればいいだろう。
 和弥も同様の返答だ。当然だろう。カイト自身とて同じ連絡を受けたなら、全く同じように返しただろうから……が。
「ダンナ、情報提供の報酬は弾んでくださいよー?」
 クレマァダに連絡した時ばかりは、何故だか敵陣営のはずのアリアがペラペラと捲し立ててきた。
「今までの感じだとセリアちゃんが【潜入捜査官】っぽくて、私はもうすっかり幻想種陣営には【内通者】だって疑われてる感じかなー? ……あっ、私はD2、クレマァダちゃんはC1にいるよ。カイト君は今C2だよね? クレマァダちゃんが『偵察』してくれたらしいから偶然見つけちゃったけど、このまま合流しとこうか?」
「ええい! お主経由では話がややこしくなるから黙れと言っておろうに!!」

 ……ひとまずその後のすったもんだについては割愛するとして。
「この段階で此方が誰も脱落しておらぬということは、幻想種陣営は防御寄りに固めて情報収集を優先しておるのであろうな」
「ざんねーん。不用意に出てきてくれれば、こっちの『村』攻撃に間に合わない【戦士】が出てきて有り難かったんだけどねー」
 そんなクレマァダとアリアのお喋りを流し聞きながら、カイトは合流すべきか否かを思案した。
(メリットはある。一方でデメリットも大きい)
 ここでカイトが足踏みすることは、時間的にA4への到着を諦めることと同義なのだ。もしも『村』がA4に存在した場合……少なくとも【奴隷商】のうち2人が『村』攻略に関われぬこととなる。
(ならその可能性は、どれほどのものだ?)

 もし【潜入捜査官】のセリアが『村』の場所を偽装するつもりなら、“騙された者が偶然途中で本物の『村』を見つけてしまう”動きは選ばぬに違いなかった。そんなことをすれば偽装をしてやったつもりが、逆に【奴隷商】を『村』に呼び寄せたも同然であるからだ。
 ゆえに可能性が高いのは、本物の『村』とセリアの偽装先は2エリア以上離れるというもの。【長老】の心理を考えるのならば、開始地点次第では到達不能になる敵が出てくるA2かA4に『村』を配置したいことだろう……つまりセリアの選択は、『村はA2にあり、「A4にあった」と嘘を吐く』、あるいは『村はA4にあり、「A2にあった」と嘘を吐く』のいずれかか。
(だが知りたいのは、そのうちのどちらが選ばれたか、だ)
 自分のところに皆を呼び寄せたい可能性。それから、誰かが調べている場所は行かなくて十分だろうと油断させたい可能性。
 それらを検討した結果……どうせ4ターン目には全員がA行を『偵察』しうる以上、セリアも前者の目論見がどうせ無駄になると解っているだろうとカイトは結論付けた。つまり、彼はA4を射程に入れねばならぬ。単純に、セリアが『村』の位置も知らずに村の位置を騙る気満々なだけという可能性も否定はできぬが――実際、本当に知らぬまま行き当たりばったりでどちらにするか決めようと考えているのだが――、その場合はやはりA4も視野に入れておかなくてはならない。

 なので、彼に進む以外の道はなかった。一歩、B2へと踏み入れる。
 そして……ひとつの異状に気付く。

「なんだ、これは?」
 それはざわめく木々の声だった。怒るような、嘆くような。
 次に……何かに責め苛まれる感覚。それが森そのものからの敵意であることに気付いた時にはもう遅く、手足が力を喪いその場に倒れ込む。

(頼む……当たりであってくれ!)
 配下の呪術師たちの祈祷の輪を眺めながら、アウレウス自身もまた祈願していた。
 もしもあの時シュバルツとマリアが前に出ていたならば、カイトを倒したシュバルツがクレマァダに狩られ、その後はマリアがクレマァダに追い付くより早く、クレマァダに村に到着されていた――そのことに気付いたのはつい先ほどだ。だから2人の判断を信じられずに自らの判断を信じ、最も近くに見つかったカイトより一歩奥――B2に『儀式呪術』の行使先を置いた。
 その結果……2人を信じきれなかったのは間違いだった。だとしても、幸運がアウレウスに味方した……その点では同時に正解でもあった。
「呪術を受けた――」
 クレマァダへとその一言だけを遺したカイトのアバターは、静かに森の土の中へと消えていった。

●奴隷商陣営第4ターン
【現在の奴隷商陣営の判明情報(虚偽の可能性含む)】
・【潜入捜査官】セリア(E4→D4→C4→B4)
・【奴隷商】カイト(E2→D2→C2→B2:『儀式呪術』により脱落)
・【奴隷商】クレマァダ(E1→D1→C1→B1)
・【奴隷商】和弥(E4→E3→D3→C3)

【現在の幻想種陣営の判明情報(虚偽の可能性含む)】
・【戦士】エクスマリア(C3→C3→B3→A3)
・【戦士】シュバルツ(B2→B2→A2→A2)
・【内通者】アリア(C1→D1→D2→C2)
・【長老】アウレウス(A2→A2→A2→A2)
 『儀式呪術』1回目:B2

 『儀式呪術』によるカイトの脱落は、奴隷商陣営に対して重くのしかかっていた。
 【内通者】や【潜入捜査官】に自陣営を攻撃するというオプションがないということは、残る【奴隷商】2人を用いて【戦士】2人と【長老】1人を排除しなければならなくなったのだ。もしも3人が全て『村』に集まっていたならば、決して勝利が叶うことはない。
 それでも、アリアはクレマァダを急かす。
「ここまで仲間を売らせておいて、『無理だったから金はナシ』は通らないよねー?」
「……成る程。つまりお主は、『遊戯は最後まで勝ち筋を探すもの』と言っておるのじゃな?」
 そういうこと。
「私が【内通者】だって完全にバレてて、偽の奴隷商陣営の居場所を教えても無視されたってのは、逆に何かの役に立ちそうじゃない?」
 なるほどそれは可能性を検討する価値がある。ふむ……考えろクレマァダよ。お主が今日まで培ってきた力は、遊戯すら満足にこなせぬ程度のものであったか。
 否。この程度で音を上げてしまっては、モスカの一族に顔向けができぬ……そこで、彼女はふと顔を上げる。
「ところでアリアよ。ひとつ尋ねるが。
 『儀式呪術』にて脱落させたユニットは、【長老】に伝達されるのじゃったか……?」

 奴隷商陣営に唯一の勝機があるのだとしたら、こちらがカイトを喪ったことを悟られることなく『村』へと接近することだった。
 いまだ3対3だという虚構を押し通すことができたなら、【長老】を動かせぬ――つまり同数は攻撃側有利の法則を2対2までにしか適用できぬ幻想種陣営の有利は完全に瓦解する。必然、彼らは【奴隷商】が合流を果たすより早く、何らかの形で各個撃破しておかねばならぬ……わけだが。
「脱落ユニットが【長老】にバレるなんて話は聞かなかったよね!」
 アリアが裏切り者の愉悦を作って嗤ってみせた。
「……じゃな。カイトの脱落が知られる前に圧力を掛け、出てきたところを撃破する」
 クレマァダも力強く頷いて返す。
 けれどもそれには重大な問題がひとつあるのだ――すなわち【潜入捜査官】を警戒して個人行動を選択している和弥を説得し、完全な協調行動を実現しなければならないという。

 さて、ここで逆算してみることにしよう。仮にカイトが健在で、幻想種陣営全員が『村』に防御陣形を築いていたとして、奴隷商陣営の勝利を妨げるものは何か?
 それは……【長老】の『儀式呪術』による【奴隷商】1人以上の脱落だ。
 では、それを避けることはできるだろうか?
 確率的である。第6ターンになるまでA2に辿り着けない和弥にとって、“わざと動きを止めて『儀式呪術』の行使先をずらす”という戦略は不可能だ。必然、B2かA3、どちらかのエリアで必ず5ターン目に止まる。【長老】が当てれば幻想種陣営が勝ち、外れれば奴隷商陣営が勝つ。
 このギャンブルに勝つために、幻想種陣営には策を講じ得た。もしもどちらかが【戦士】2人で埋められており、通行不可能になっていたならば? B3を通るのが和弥だけなら確実にもう片方に誘導できるのだから、【戦士】たちが和弥の移動の後に『村』に戻れば3対2の構図を発生させられる。
(でもそれは、他の人がB1かC2を通ってる時だけの話なのよね)
 残りは各人のお手並み拝見とばかりに、セリアは高みの見物と決め込んでいた。仕方ない。今更「A4に村を発見した」なんて嘘を吐いても誰も信じてくれないし、かといって戦闘に関われるわけでもないから合流しても意味がない以上、できることなんてそれくらいしかない。
 ただ……完全に敵味方がはっきりした現在は、思索のための材料は幾らでも幻想種陣営から聞くことができた。だからゆっくりと推理を続けてみせる。
(もしもこのターンで隣に入り込んでくるのがいたら、移動した瞬間を狙われるだけよね……と言っても【戦士】2人が通行不能にする以外の隣接エリアを『斥候』してみて、誰もいなかったら安心して通行止めすればいいだけなんだけど)

「……けれども実際は、マリアは今、『村』ではなく、A3にいるわけだ、な」
 マリアは、こちらは当事者として思索した。彼女が『村』に辿り着いていないということは、【戦士】の分散運用に対しての有利要素にはなっている……一方で、集中運用に対してはその逆になってしまっていたのは否めない。
(封鎖戦術に出るのなら、封鎖エリアはA3に限られる、な……。一方で、A1とB2、両方を『斥候』することは叶わない、か)
 もしもカイトが先ほど和弥と合流していたのなら、それを早期に察知できるというメリットがあった。けれどもそうでなかったら、マリアは既知の情報を、繰り返し得ただけにすぎなくなってしまう。それはもどかしい葛藤であり、同時にこうも考える。
(楽しい、な……)
 敵味方の中での騙し合いから始まったゲームが、敵と味方の間の駆け引きに変わるということが。今、幻想種陣営は奴隷商陣営の布陣に対しても対処の手札を手にしてはいるが、どの手札にもその圧倒的優位を覆しうる敵の行動があるという妙が。

「……なるほどな。このタイミングで新しい腹の探り合いが始まるわけか」
 ぞくりとする感覚が、和弥の中にも駆け抜けていた。
 セリアは裏切り者で確定し、『村』はA2に配置されている──それを信じるしか勝機はないというのがクレマァダの言だった。具体的な敵配置パターンを幾つも交えつつ、しかしながらカイトの脱落という事実の前に、全てが悲壮に彩られた青写真。実際、カイトへの通信は通らない……ただし。
(これは、針の穴に糸を通す方法を探ってるのか? それとも俺に絶望をちらつかせて操って、まんまと勝利を奪ってやろうとでも画策してるのか?)
 カイトが脱落した今は、【潜入捜査官】であるセリア以外の2人が完全に手を結ぶしかない――そんな都合のいい要請は、もしもクレマァダが【潜入捜査官】として和弥を騙そうとしている時にも成り立つ話であるのだ。それが和弥を悩ませる。
 そもそも、クレマァダは和弥が最初、裏切り者の匂いを嗅ぎ取っていた相手じゃないか。セリアの「A4に『村』があったよ」報告のほうがまだ信憑性の上ではマシだ。……が。

「聞かせてくれよ。そいつが妥当だと思うなら、なるべく意に沿うようにやってやるさ」
 どこかに自身の口許が自ず吊り上がる感覚があるのを、和弥とて否定はできなかった。

●幻想種陣営第4ターン
【現在の奴隷商陣営の判明情報】
・【潜入捜査官】セリア(E4→D4→C4→B4→A4)
・【奴隷商】カイト(E2→D2→C2→B2:『儀式呪術』により脱落)
・【奴隷商】クレマァダ(E1→D1→C1→B1→??)
・【奴隷商】和弥(E4→E3→D3→C3→??)

【現在の幻想種陣営の判明情報】
・【戦士】エクスマリア(C3→C3→B3→A3)
・【戦士】シュバルツ(B2→B2→A2→A2)
・【内通者】アリア(C1→D1→D2→C2)
・【長老】アウレウス(A2→A2→A2→A2)
 『儀式呪術』1回目:B2

 森の中に張り詰める緊迫した空気は、誰もがその肌で感じ取っていた。その後も多少の消化試合が続くかもしれないが、事実上の決戦ターンはこの幻想種第4ターンと次の第5ターンになるだろう……その事実が生み出す緊迫感はいまだ盤面に残る7人のみならず、仮想現実の森を見下ろす観戦室にて全てを見守るカイトとシュピール子爵さえをも呑み込んでいる。

「問題は、アリアが今更“奴隷商陣営の配置”を伝えてきた意味は“どちら”か、ってことだが」
 その緊張に耐えきれずに祈りはじめたアウレウスに代わり、シュバルツが幾つかのパターンを地面に描いて検討していた。
「嘘を鵜呑みにさせたい……なんて話はないな。普通に考えれば、嘘だと思わせて別のことをさせるため、敢えて真実を伝えている、って話になるだろうが。だが、裏の裏って言葉もあるか……」

 このターンの頭、マリアはB3を『斥候』し、そこに【戦士】――和弥の姿を確認した。元はC2に進むつもりでいた和弥ではあるが、クレマァダを信じるならば2つの選択肢でA2に迫れるB3が都合がいいし、セリアを信じるとしてもB3からならA4を射程に収めることができる。
「で、問題は俺がどこを『斥候』するか……だ」
 シュバルツの思考を棘のように苛んでいるものは、アリアからの『カイトは単独でB2に向かった』という通告だ。それが真実ならば幻想種陣営の勝利は確実だ……何故ならその場合、彼らは和弥とカイトを同時攻撃し、確実な3対1へと持ち込めるからだ。万が一クレマァダがA1に位置していた時も、彼女が『村』を落とした直後にシュバルツが反撃してやればいい。それ以外の場合も、マリアとシュバルツのいずれかに反撃したクレマァダはもう一方に再反撃されることになる。
 また、もしも本当はカイトとクレマァダのペアがB2にいたならば? それでも勝利は確定だ。マリアがこのターンで『村』に移動してしまったならば、3人集まればならない奴隷商陣営はB2で和弥の隣接を待つことになる。すっかり『儀式呪術』の格好の餌食だ。
 だから誰もいない時のことだけを考えればいい。それが幻想種陣営の勝利の方程式だ――と思いきや、実のところこれらの勝利も、B2を『斥候』して答えを出した時にこそ言える話ではある。「だから誰もいることはない」などと安心してしまったら、それを逆手に取られてしまう可能性は常にある。

(あの女、俺にB2の『斥候』を強いてきやがった)
 アリアが何も言わずとも、シュバルツがA1かB2を『斥候』することは確定ではあった。どちらを『斥候』するのだとしても、さほど変わらぬはずだった2つのエリア。
 が、そこに精神的揺さぶりが加われば主観は大きく変わる。今や2つのエリアの対称性は失われ、一挙に選択次第で勝負の行く末を決める非対称なものへと変わる。あるいは、“両方の情報を同時に得なければならない”と錯覚させる……これこそ裏切り者の真骨頂と言えようか。
 しかし――。

 ――そんなものに圧し潰されるほど、シュバルツの精神はやわじゃない。やるべきことは承知しており、それら全ての可能性を冷静に健闘できる。
「俺はB2を『斥候』するぜ……よしゼロだな。なら、次はA1に移動して攻撃宣言だ――」

●第5ターン
【現在の奴隷商陣営の判明情報】
・【潜入捜査官】セリア(E4→D4→C4→B4→A4→A3)
・【奴隷商】カイト(E2→D2→C2→B2:『儀式呪術』により脱落)
・【奴隷商】クレマァダ(E1→D1→C1→B1→B1)
・【奴隷商】和弥(E4→E3→D3→C3→B3:エクスマリアの『攻撃』により脱落)

【現在の幻想種陣営の判明情報】
・【戦士】エクスマリア(C3→C3→B3→A3→B3『攻撃』)
・【戦士】シュバルツ(B2→B2→A2→A2→A1『攻撃』)
・【内通者】アリア(C1→D1→D2→C2→D2)
・【長老】アウレウス(A2→A2→A2→A2→A2)
 『儀式呪術』1回目:B2
 『儀式呪術』2回目:??

 B3に前進したマリアが和弥を討ち取っていたのと同時、シュバルツはそこにどのような敵もいなかったのだという事実を理解するに至った。
「そうか……答えは、B3に1人、B1に2人だったのだ、な」
 シュバルツからの報告を受けて、マリアの髪が憂いを帯びて揺れる。それはすなわちシュバルツが、B1にいる敵に狩られることを意味していたわけだから。
 消えゆくシュバルツのアバターを見下ろして、感慨深げに呟くクレマァダ。
「これで、【長老】には王手というところじゃな。しかし……次に【長老】を取ったところで、戻って参ったエクスマリアに討たれるのみか。実に惜しい敗北じゃった」

 が、その肉体はエクスマリアの報復どころか【長老】攻撃すら待たず、すぐさま無数の泡へと還ってゆく。
「あの男、自らの居場所に『儀式呪術』を打たせたわけじゃな……」
 またもや幾らかの胃壁と引き換えの、アウレウスの2度目の一撃が炸裂していた。B2に誰もいなかった以上、いるのはB1かA1に限られる。だが、いずれでもシュバルツを狩ろうと思った瞬間、奴隷商陣営は必ずA1で第5ターンを終えることになる……そこで『脱落』することを防ぎたければ、カイトが『脱落』していなかったとしても『E1スタートが2人おり、両者が最速でA1に到達していることでシュバルツの攻撃を弾き返し、その後片方だけがシュバルツを攻撃してもう片方が同時に【長老】を攻撃する』という困難を成し遂げねばならなかったろう。だがカイトがE2スタートだと知られていた以上、その可能性は最早ない。
 本来アウレウス自身には、和弥をマリアが倒すならB1の敵もA1の敵も倒し得るA1に、くらいの思惑しかなかったはずなのだ。だが、それはシュバルツの大胆な策により銀の弾丸へと昇華する。
 クレマァダの口から溜め息が漏れる。
「釣ったと思いきや我の方こそ釣られておったとは。まこと、興味深い遊戯じゃな――」

●Game Set
【最終時点での奴隷商陣営の情報】
・【潜入捜査官】セリア(E4→D4→C4→B4→A4→A3→A2)
・【奴隷商】カイト(E2→D2→C2→B2:『儀式呪術』により脱落)
・【奴隷商】クレマァダ(E1→D1→C1→B1→B1→A1『攻撃』:『儀式呪術』により脱落)
・【奴隷商】和弥(E4→E3→D3→C3→B3:エクスマリアの『攻撃』により脱落)

【最終時点での幻想種陣営の情報】
・【戦士】エクスマリア(C3→C3→B3→A3→B3『攻撃』)
・【戦士】シュバルツ(B2→B2→A2→A2→A1『攻撃』:クレマァダの『攻撃』により脱落)
・【内通者】アリア(C1→D1→D2→C2→D2→E2)
・【長老】アウレウス(A2→A2→A2→A2→A2→A2)
 『儀式呪術』1回目:B2
 『儀式呪術』2回目:A1

 勢いよく蒸気を吹き出しながら、カプセル型ベッドはその蓋を跳ね上げた。その瞬間セリアが「よかった……爆発オチとかなかった……!」と喜んでいた様子が印象深いが、ともあれ『Spiel Games』初のVRボードゲームのテストプレイは成功裏に終わり、特異運命座標たちはベッドの中から起き上がることとなる――ある者は敗北の悔しさを、ある者は勝利の喜びを噛み締めながら。
「応接間にお茶を用意してございます」
 ゲームを終えた8人を出迎えたのは、白髪交じりの使用人だった。彼によればシュピール子爵は興奮した様子で自室に戻り、自身の気付いた点を忘れぬうちに開発ノートに書き留めてから応接間にやって来るらしい。

 今後『ザントマン』はそのメモと、応接間にて特異運命座標らが語った感想を元に、改良を加えてから練達のネットワークを通じてオンライン配信されるとシュピール子爵は語る。
 それが人気を博すかはおろか、どれほどの期間配信されるかもまだ判らぬが……少なくともその際『ザントマン』のヘルプ機能の末尾には、テストプレイヤーとして8人の特異運命座標の名が刻まれることだろう。

成否

成功

MVP

シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃

状態異常

なし

あとがき

 このゲーム、実は独立して動くより、積極的に情報交換したほうが有利になりやすかったりします。実際、勝敗は信用できる相手をより多く見定めることができていたかどうかで決まったようなところもあるのではないかと思います。
 上級テクにはなりますが、「全員に違った情報を出しつつ相手の動きを見ることにより裏切り者を炙り出す」やら、「裏切り者なら相手陣営に問い合わせたくなるような質問をして、回答までの反応時間をチェックする」やら、その気になれば変な技も使えるかもしれないのでもし次回があれば試してみてもいいかもしれません。

 なお本リプレイ、いきなり最初のターンから本来は知ることのできない同一エリアの他者情報を得るシーンがございますが、これはあくまでも演出上のものとなっております。実際にはこの情報がなくとも幻想種陣営の悩みの種が少し増えただけで、形勢を逆転するほどのものにはならなかったはず。悪しからずご了承下さい。

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