シナリオ詳細
ゴブリンごろごろごんゴロリン
オープニング
●それはある日突然に
「……ゴロリン、お前だったのか……」
愕然とした顔で村長はそう呟いた。
名を呼ばれたゴロリンはゲンコツを喰らった頭を押さえて、涙目で村長を見上げた。
リーナ・シーナ(p3n000029)と名乗る女商人が現れたのは朝方のことだった。
「すみませんが、今、暇していて、ええと『さっかー』とか『やきゅう』とか『ごるふ』とか『てにす』? などが得意な方はいらっしゃいませんかー? いえ、ちょっと丸いものを打ち返してくれればいいんですが」
訳がわからないまま依頼を受けたイレギュラーズたちはそのまま馬車に積み込まれて、とある村まで運ばれた。
その村は山の麓にあった。高い「裏山」に隣接した小さな、しかし平穏な村だ。
馬車から降ろされ、そそくさと案内されたのは村役場の裏側で、そこには登るのは骨が折れそうな急な坂があった。
「ようこそ、ゲーム『ごろごろごん』会場へ」
リーナが言った。
●ゲーム「ごろごろごん」
坂にはたくさんの分厚い板壁が不規則に建てられていた。
とある世界の旅人ならば「さながら巨大なピンボールの盤面を連想するモノ」で通じるだろう。また、幻想の酒場のどこかで見かけた者もいるかもしれない。
「この、さながら『なんか落ちて来ます』みたいなこの坂については、村長のお子さんのゴロリンさんに説明して頂きますー」
すると、村長の後ろからビクビクとした小さな少年……いや、ゴブリンが現れた。
「あっ、大丈夫ですっ、ちょっと個性的な顔かたちしてますが俺の息子です! さ、ゴロリン、挨拶しなさい」
村長に背中を押されて、ひょこっと頭を下げるゴロリン少年。多少パステルカラーだったが、緑とオレンジのゴブリンに見える。
「あの……ごめんなさい……僕……」
涙目のゴロリン少年の話はこうだった。
村長の息子として、村で元気に過ごしていたゴロリンだったが、最近ちょっとした悩みを抱えていた。
「……僕、村の中でちょっと見た目が浮いてないかな?」
そんな悩みを抱えたゴロリンは、ある日、裏山に住むゴブリンたちと出会った。
『崩れないバベル』によってゴブリンとゴロリンの意思の疎通は出来たし、ゴブリンたちは村人とある種の共存関係にあった為、ゴロリンは彼らと交流を持つことが出来た。……勿論、彼の外見もあってのことである。
親近感を持ったゴロリンは裏山のゴブリンの村へ時々遊びに行くようになった。
「でも、ゴブリンさんたちの遊びは、狩りとか狩りとか狩りとかばかりで……僕、もっとゲーム的なものを遊びたかったんです」
そこで、ゴロリンが提案したのは、以前、都市から来た商人が見せてくれた「ピンボール」というゲームだ。
裏山のゴブリンたちは自分たちで道具を作る程度の器用さを持っていたので、彼は一度見たピンボールの仕組みとルールを説明してゲーム台を作ろうと提案したのだが……。
ある程度の意思は通じていたが、意図は通じなかった。
この場合、「ゲームをやりたい」「ゲームをしよう」「ゲームを作ろう」という意思は伝わった。
──そして、ゴブリンたちはゴロリンが描いた図面通りの配置で、頑丈な板壁を裏山の坂の上から坂の下に設置し、坂から転がる遊びを始めた。
「いやあ、びっくりしました。昨日、山の上から大量の丸まったゴブリンが落ちてきて」
村人談。
昨日、身体を丸く丸めたゴブリンたちが数体、突然、裏山の坂から転がり落ちて来たのだ。
この村の裏山に住むゴブリンたちは皮膚が厚く身体が頑強だ。
ゆえに、転がったゴブリンたちは村役場の壁を突き破り、馬小屋を壊し、畑に突っ込んだ。
すわ、襲撃か! と慌てる村人を後目に、しかし、ゴブリンたちは村人へ片手で軽く礼をすると淡々と山へと帰って行った。
「あ、あれは……試運転みたいなもので、本番は今日の午後からなんです」
半泣きのゴロリンが言うには、ゴブリンたちはこの遊びがすっかり気に入り、今から止めるのは難しいという。
戦って倒す手も無いではないが、長い間ゴブリンたちと共存してきた村人たちはいい顔をしない。
何もしないゴブリンたちを殲滅すれば、後々何か起きるかもしれないし、そもそもゴブリンの存在のお陰でこの村が守られている部分もある。
「そこで、数々のトンデモ依頼をこなして来たという武勇伝持ちのイレギュラーズさんたちにフリッパー役として転がって来るゴブリンを打ち返して欲しい! んだそうですー」
リーナはにっこりと微笑んだ。
●ゴロリン少年
「あ、すみません、ちょっといいですか?」
今後の相談を始めようとしたイレギュラーズたちを、村長は小声で呼び止めた。
「実はゴロリンのことなんですが……」
村長は他の村人に軽く叱られながら、軽食の支度を手伝う息子をちらりと見て言った。
「ゴロリンは……じつは皆さんのお仲間と同じウォーカーなんです。本人は憶えちゃいないんですが、もっと幼い頃にこの村に辿り着いて俺が拾って育てました。だから、ゴブリンに似ていても狂暴さなんてこれっぽっちもないんです」
ゴロリン少年は『The First Day』以前に召喚された旅人だという。
だが、それならば彼は一度は『空中庭園』に召喚されたはずだが、幼過ぎて覚えていないのだろうか……?
「わかっていただけたでしょうか。つまり、その……意外でしょうがゴロリンは養子なんです……」
それは、わかる。
- ゴブリンごろごろごんゴロリン完了
- GM名依
- 種別通常
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2018年06月03日 21時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●ready...
「なるほど、ゴブリンとピンボールで遊べってことね……ってどうしてそうなったの!?」
『ツンデレ魔女』ミラーカ・マギノ(p3p005124)のツッコミが炸裂する。
全員が思っていながら口に出さないままここまで来たソレをぶった切った彼女を村人たちは賞賛した。
『千法万狩雪宗』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は唸る。
「いやはや、中々愉快な事になっているな。これが、新しいエクストリームスポーツか……」
「えええ……。まぁ、ちょっと面白そう」
若干引き気味ながらもミラーカも同意する。
「ゴブリン達が純粋にゲームを楽しもうとしている以上、無下には出来ないですね。今後の事もあります。ここは、全力で楽しみながら対応しましょう。勿論、損害は出さないようにする方向で」
『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)も柔和な笑みを浮かべた。
「ふみ……ゴブゴブがごろごろ……なの。建物壊しちゃうのはあれ……にゃけど、上手くすれば……村の名物になりそうな気がする……の。……でも、まずは満足させることから……にゃね」
『しまっちゃう猫ちゃん』ミア・レイフィールド(p3p001321)が白猫の耳をぴくと動かした。
そして、秋嶋 渓(p3p002692)が張り切り、『ジュリエット』江野 樹里(p3p000692)もふわふわと微笑んだ。
「今後も楽しめるお祭りになるよう頑張って盛り上げないとですね!」
「イレギュラーズの腕力が、一般人に劣るはずがないと信じて……ホームランに挑戦です?」
『ナンセンス』オーカー・C・ウォーカー(p3p000125)が徐に口を開いた。
「ところで提案なんだが、あの坂、もう少し弄った方がいいんじゃねえの。ピンボールって確か──」
皆は顔を見合わせた。
「んー……。ピンボール……なら、打ち返した玉……が得点源になる穴……とか、ゲートとか欲しい所……にゃ」
記憶を手繰り寄せるミアへ頷くオーカー。そして、手伝いを申し出る汰磨羈と渓。
鶫は考えた末、忙しそうな村人たちの方へ向かった。料理の心得のある彼女は摂り易く疲労に効く物を用意しようと思ったのだ。
「何か食べたいものがありましたら、遠慮なく言って下さいね」
バナナシェイクとか蜂蜜入りミルクとかシュークリームとか。そう言うと子供たちが顔を輝かせた。
汰磨羈は未だに不安げなゴロリンと村人に向けて、軽く胸を叩いて見せた。
「ああ、大丈夫だ。私達に任せてくれ」
『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)も乗じて元気よく手を挙げる。
「では、ゴブリンごろごろごんゲームで遊ぶのじゃー♪ もとい、ゴブリンどもをゲームとしてもてなして丁重に引き取り願うのじゃ」
村人と共に、オーカーが地面に描いた図を元に手短に打ち合わせる。
「とりあえず、今回は……飛距離で楽しむべき……にゃ?」
時間を考えてミアが言った。
「分からねぇところはあるか? 大丈夫だな、それじゃアウトホール作成開始だ」
オーカーが声をかけると人々はそれぞれ持ち場に散った。
陣地構築の力を使って穴を掘り坂をなだらかにしてよりピンボールの盤面に似せたものを目指すオーカー。
更に穴を掘った土は村を守るために土嚢に変える。
そんな彼に学ぼうと隣で働くゴロリン。
「休んだらどうだ?」
「僕のせいだから」
「ゴブリンと村人が仲良く遊べるんだ。おかげ、だろ? 確かにちょっと大変だけどな」
少年はポジティブに笑うオーカーを眩しそうに見上げた。
「模範になるかどうかはわかりませんが、頑張っていきましょう!」
「村を守りつつ気張らずにやろうか」
渓とオーカーへ皆は応と答えた。
「一度に五人ずつフリッパー役として参加し、残りの者は休憩を取りながら順次交代していくのじゃ」
改めて確認するデイジー。
「順番じゃが、妾は最初は休憩させて貰うかの」
すると、渓と汰磨羈が前に進み出た。
「先頭の五人チームに入りたいですね! こういうのは最初が一番ですから!」
「気分がノっているからな。ここは、初期面子で行かせて貰いたい」
樹里もまた困ったように立候補する。
「突破されないよう護ってくださる方も居るので……私は、最初の方にチャレンジ希望しますね。
……別に、撃ち返せる自信がないとかではないのですが。万が一、億が一にでも力が足りていなかった場合に、被害を出さず他の方にカバーしていただけた方がいいかと」
バリバリのフィールドワーカーである樹里だが、気力はともかく体力は無い。
「ミアは、エネミーサーチで……ごろごろゴブリンをサーチする……の」
こてんと首を傾げるミア。万全を期す意味もあるし、何よりゴブリンの位置が把握できれば動きも楽になる。
オーカーは唸った。
「まだ勢いがわからねぇから俺は最初から打った方がいいだろうな。渓、汰磨羈、樹里、俺──あと一人は鶫とミラーカで決めてくれ」
「……」
おずおずと手を挙げたのはゴロリンだった。
「ゴロリンは転がり役でもいいのよ?」
「それも楽しそうだけど、僕もやらせて」
ミラーカの提案に首を振ってゴロリンはもう一度手を挙げた。
その体格では打ち返しは到底無理に思えたが、イレギュラーズたちは頷き合って彼を輪に入れた。誰かがフォローに入ればいいのだ。
──ジャンケン……ぽん!
どこぞより伝わったゲームで順番を決める。
「こう見えて、野球の経験はあるんですよ。任せて下さい」
頼もしく、櫂をブンと鳴らす鶫。
「後ろ、守れる?」
「はい!」
ゴロリンはミラーカの後を張り切って小走りについて行った。
●打者:オーカー・鶫・渓・汰磨羈・樹里
「よし、準備は万端だ。何時でも来い!」
ブンブンと素振りをするノリノリの汰磨羈。
鶫がゴブリン達を櫂でビシッと指すと応えるように鹿笛の音が響く。
木々が軋むようなそれが開始の合図だ。
砂埃を上げながら転がり落ちて来る五体のゴブリン。
オーカーは櫂を構えて一歩踏み出す。
「さてっと、キャビネットの外までぶっ飛ばしても構わんだろう?」
一番体格の良いゴブリン目がけて櫂が動いた。
ドガン!
「ん?」
力一杯振り抜いた櫂によって打ち返されたゴブリン弾はそのまま穴にぼこッとハマった。穴の大きさがジャストフィットしたようだった。
この辺りは記録しとかないとな、などと思いながら救助へ向かうオーカー。
「大丈夫か? ほら、手を貸せ、引っ張り上げてやる」
穴のゴブリンはニカッと笑った。
村を守った確実なヒッティングを狙う鶫。
「ここは……流し打ちで!」
集中しスナイパーアイで高めた目が弾の動きをしっかりと見据え、確実に当てる。
見物人から歓声が上がった。
鶫は続けてゴブリンの弾道を読みながら仲間へも叫ぶ。
「渓さんへ行きます! ──結構な勢いで」
ギフト『通りすがりのファイター!』を使用し焔と氷のエフェクトを纏った渓は頷くと慌てて櫂を構え直した。
「秋嶋 渓、全力で打ち返します! いくよ、スキルショット!」
変身バンクで鮮やかに着替えた彼女は名乗り口上を上げて櫂を振った。
だが、鶫の予測通りゴブリン弾の勢いがありすぎた。
手加減をしたのに渓の一撃はクリーンヒットしてしまった。
「すみません!」
慌てて駆け寄るとゴブリン的には男前な顔つきの彼がサムズアップした。
村のガード役をこなしながら、エネミーサーチでゴブリンたちを観察していたミアがぽつりとこぼす。
「……敵対、存在ではない……にゃ……」
ドッカンドッカン打たれながらも、ゴブリンからは村に対する敵対心は微塵も感じられなかった。
その頃、休憩所ではデイジーが持ち前のカリスマを発揮して村人を仕切っていたのだが……それは支度の段取りから始まり、なぜか応援の準備にまで及んでいた。
「手の空いた者はゲームを盛り上げる応援役をやってみてはどうかの?」
ウォーカーの行商人から買い付けたというチアリーダーのユニフォームと学ラン、そしてポンポン、応援旗が並べられる。
「うむ、折角の祭じゃ、賑やかでは無くてはの♪ 即席じゃが応援チームを完成させるのじゃ」
率先して学ランとハチマキを身に着けたデイジーが応援の舞と称した見事な榊神楽を舞う。
「ケガせぬよう支援じゃ」
「バッティングセンターを思い出す、というレベルでは無いな。予想以上に攻めてくるじゃないか!」
顔を輝かせる汰磨羈。
軌道を予測して待ち構えた櫂は集中した攻撃で打ち返し汰磨羈は笑顔で弾の行方を見守った……が。
あちこちの柵に当たったゴブリンが予想外の方向から戻って来る。このまま行けば村だ。
「残念だが、ゴールなどさせん!」
アクロバットを駆使した跳躍でゴブリン弾に食らいつくと厄狩闘流『破禳』──強烈かつ豪快な蹴戦で弾を撃ち抜く。
結果、ゴブリン弾は見事、坂の上まで戻って行った。
「ふむ。蹴りも意外といけそうか……?」
ひらりと着地した汰磨羈は満足げだ。
一方、端の方で少し小さめの櫂を握る樹里。
「さあ、行きま……」
べこっ。
勢いよく転がったゴブリン弾にあっさり圧し負ける樹里。
勢いが落ちたゴブリン共々ぐるんぐるんと回って土嚢の前にぺたんと座り込む。
「……?」
状況がイマイチ理解できず首を傾げる樹里とゴブリン。互いに遠慮がちにそれぞれのポジションへ戻る。
ぶんぶんと櫂を振って準備する樹里。
「行き……?」
べこん、ごろごろ。ぺたん。
「……ふむ」
ゴブリンに手を振って別れてから、樹里は理解した。
「無理そうですね。……それなら、これでどうでしょうか?」
櫂を手放し、正面から突きの構えをとる。
「行……」
べちん、ごろごろ。
「…………ふむふむ」
再度、ゴブリンさんと別れてから樹里は自分の荷物を漁る。そして、四人の後ろに取り出したそれを並べ始めた。
樽、何かの骨、壺……。
樹里は三角形にそれらを並べた。そして、その頂点にと立つ。
「いざ、尋常に勝負です」
ばちーん! ごろごろ、がっしゃん!
「……一本倒し損ねてしまいました。もっと精進しないと駄目ですよ?」
そうして、片隅でどこかの世界でボウリングと呼ばれる遊びが始まった。中々好評であった。
●打者:デイジー、ミア、ミラーカ、ゴロリン達
「何してるのよ」
期せずして受けてしまったダメージを治癒している樹里へミラーカが尋ねた。
「再生で回復を……これで無理なくゴブリンさん達と遊べます……♪」
「そこまでしなくて──じゃなくて、あたしの出番が無くなるでしょ! 代わりなさい!」
グイグイと休憩所に樹里を押し込むミラーカ。
「そろそろ、交代かの?」
ヘルメットを被り野球用ユニフォームを着たデイジーがひょこっと顔を出した。背番号は八だ。
「がんばれー! ディーちゃん! キバってーこー!」
村の少年少女たちによる応援団が旗とポンポンを手に声援を送る。
言葉を失うミラーカ。
それを他所に、デイジーはゴロリンに尋ねた。
「ゴロリン、お主も遊んでみるか」
少年は顔を輝かせる。
ミラーカは軽く肩を竦めた。
「華奢で可愛い魔女のあたしに腕力なんて無いけど、櫂に風の魔力を纏わせて吹き飛ばすわ!」
「ミアは撃ち返しに使うのは……鉄槌『イオ=ン=モール』……しょーてんがいを滅ぼす……とかよく分からにゃい……けど、大きくて強そうだから……きっと遠くまで吹っ飛ぶ……の♪」
非常にヤバイ雰囲気がヒシヒシと感じる鉄槌を掲げるミア。
「ごっ、ゴブリンがぶつかっていくんだし、守るんだからね!」
「……逸話があるのは……ゴブリンじゃなくて」
「? ミアが言ってるのは」
「わぁああっ! そろそろ行きなさいよ!」
無性に焦りを感じたミラーカは必死で二人を戦場に押し出した。
最高飛距離を目指して鉄槌を振るうミアはご機嫌だった。
「……にゃふふ……♪ ナイスショット……なの」
カキーンといい音を立てる鉄槌。
「山向こうまでかっ飛ばすような大ホームランを決めてやるのじゃ! それ右の半ばじゃ」
デイジーはゴブリン達が同じ穴に落ちてぶつからぬよう声をかけながら打ち返していく。
ミラーカもまた術を混ぜながらゴブリンたちを押し返していく。
「おおー、綺麗に飛んでいくわね。ふふん、さすがあたし! 何だか楽しくなってきたわ! 高ポイント目指すわよ!」
張り切って櫂を振って──ふと、我に返る。
「……転がるゴブリンも楽しめてるかしら?」
これって打つ方が楽しいんじゃ? などと不安に思ってゴブリンを見て見れば。
「♪」
「楽しそうね……」
ゴブリンたちは元気に弾き飛んでいた。
「あ、ゴロリンは?」
ミラーカが振り返ると、ゴロリンはオーカーに付き添ってもらいながらなんとか櫂を振っていた。
「約束が守れたようでなによりじゃの」
「……にゃ」
デイジーとミアは再びゴブリンたちに向き直る。
「私もお手伝いします……♪」
休憩所で村人と冷やしたドリンクを配る樹里。
打ち漏らしで村に来ないか、穴は問題無いか──軽食を摘まみながらもオーカーはゲームを監視する。
その横で村長たちとゲーム観戦をする汰磨羈。
「おおっと、バウンド! これはいけるか!?」
再び某鉄槌がゴブリン弾を高く飛ばす。
村人と一緒に歓声を上げながらハイタッチする汰磨羈。釣られるように皆も盛り上がっていく。
「これはゲーム。ならば、楽しまねば損!」
汰磨羈の言葉に成程と頷きながら、樹里も勧められるままに軽食に手を伸ばした。疲れた体に染みわたるそれらに「美味しいです」と顔を綻ばせると、鶫もまた嬉しそうだ。
「よかった。こちらもぜひ。村の特産品で美味しいですよ」
応援しながら村人たちとお喋りしていた渓は村長の様子に気付いた。彼はデイジーと櫂を振るゴロリンを少し潤んだ優しい目で見つめていた。
「元気になって良かったですね」
「そうだな……」
渓と村長が話し込んでいると、休憩所にデイジーとミラーカとゴロリンが現れた。
「ふう……疲れたのじゃ。交代して、次はチア服に着替えて榊神楽を舞うかの。ケガした者がいれば治癒符で癒やしてやるぞ」
「交代なら!」
席を立つ樹里を押し止めて、ミラーカは村人たちに話しかける。
「聞いて。あたし達が去った後、ゴブリン達はまたこのゲームで遊びたくなると思うのよ。面白かったら余計にね! やっぱり遊びって親しい相手……村人達としたいと思うのよ。
怪我の可能性あるし、無理には誘わないけど」
「それは」
「もちろん、フォローはするつもりよ」
ミアがツインテールを揺らした。
「……一緒にあそぼって言ってるにゃ」
「別に、村の人がローテに入ったら楽できるってだけ!」
「フォローしながら楽できるも無いと思うんじゃが、真面目じゃの」
デイジーに揶揄われ頬を赤らめたミラーカは横を向く。
後半はイレギュラーズたちのフォローの下、村人も混じって行われた。
「悪いが、止まってくれや! ゲストを怪我させるわけにはいかないんでな」
飛び出したオーカーが飛び出し、構えそこねた村人を守るべくゴブリン弾に終結の螺旋を使う。
首を傾げるゴブリン。
「今度は村人もフリッパーで参加だ」
気のせいか、ゴブリンたちも嬉しそうに見えた。
●新たなゲーム
長く続いたゲームは大盛り上がりで幕を閉じた。
「貴方達も、お腹が空いたでしょう? これからも、仲良くしてあげて下さいね」
鶫がゴブリン用に作った菓子を渡す。
「アフターケアまでしっかりしないとですからね! けが人などの手当を手伝いますよ!」
渓が呼びかけると幾人かの村人とゴブリンが集まって来たが、幸い皆かすり傷だ。
「村人達を相手にする時は、手加減してやってくれよ?」
楽しかった、そう伝えながらゴブリンたちにハイタッチを教える汰磨羈。
「ゴブゴブが満足な……ら……セーフティネットを作るのを提案したい……の」
ミアの提案に渓も頷く。
「フィールドバックを行えばより良い遊びになると信じています!」
独白のようにミアが続けた。
「……ごろりんレース会場……とかできたら、楽しそうなんにゃけど……なの。……一位のゴブゴブを予想……胴元で一儲け……なの♪ 一番のゴブゴブ……にも、商品の食べ物……とかで上手くいかない……かにゃ?」
「そ、それはともかく。ゴブリンのピンボール……手を加える必要はあるけど良い観光資源にもなるんじゃない? 村の為の防護柵とか、ゴブリンが怪我しないような対策とかあるけど。
──これも一つの共存の形、かしら。種族ってのは壁はあるわ。でも壁は壁。一度超えてしまえば残るはその人自身。親しくなった後は関係ないのよ。どっちにも居場所があるってのは、けっこー素敵じゃない」
遠回しにゴロリンへの応援を込めたミラーカの言葉は、聡明な少年には届いたようだった。
「あの……」
口籠ったゴロリンを制して、村長が代弁する。
「すんませんが、皆様でうちの息子をローレットまで送ってくれませんかね? こいつ、ずっと憧れてて」
驚くゴロリンに渓が微笑みかける。
「一緒に行く?」
顔を輝かせたゴロリンは父親に抱き着いた。
「次に皆様が遊びに来るまでには、もっと楽しいゲームにしておきます」
村人たちがそれぞれイレギュラーズたちにお礼を言い──。
「私たちも大変楽しかった。ありがとうございます」
ゴブリンたちも……流暢に感謝の言葉を述べたのだった。
成否
大成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
いつもながら、まったくもって文字数に収まりませんでした。
とても楽しいプレイングをありがとうございます!
ピンボール盤が本格的になっていてびっくりしました。
ご参加、ありがとうございます。
GMコメント
●目的:村に被害を与えずゴブリンを平和的撃退せよ
(ゲームとしておもてなしする)
●ゲーム『ゴブリンごろごろごん』
ゴロリンは「ピンボールのようなもの」を説明したつもりだったが
色々誤解と行き違いがあり、「ゴブリン自身が坂を転がって落ちていくゲーム」となった。
ゴロリンがゲームを説明したこと、不幸にも丁度良い坂が村に直結していたこととなど
色々重なって「村人が坂から落ちてくるゴブリンを打ち返す(受け止める)」ゲームと勘違いされている。
・ゴブリン弾のスピード:早い、受け止めないと村人を弾き飛ばし(怪我)・建物を破壊する
一度に五体くらいずつ、夕方まで続く
・フリッパー役:イレギュラーズたち
「フリッパー」と呼ばれるボートの櫂(オール)を渡され打ち返すように頼まれるが
打ち返すのは櫂でなくても構わない
PCなら、余程非力でなければある程度打ち返せる
ゲーム中は村人が軽食や飲み物、休憩のための支度をしてバックアップしてくれる
フリッパー役ができないPCはこちらを手伝っても良い
●NPC
・ゴロリン:ウォーカーの八歳の少年
外見はゴブリンに似ている(色は若干パステルカラー)
自分に似た外見のゴブリンと友達になろうとして、このような結果となった
(以下、PL情報)
召喚の際の記憶はあるが召喚前の世界の記憶は無い
実子として扱う村長を気遣って隠している
本当は自分はどうしたいのか……迷っている
本名はアルバート
・村長
村人の信頼篤い五十代男性、早くに妻を亡くしている
空腹で行き倒れていたウォーカーの幼児を拾った
以降、ゴロリンと名付けた少年に愛情を持って接し仲の良い親子として過ごす
ちょっと思い込みが激しく、愛情故にゴロリンの外見を「若干ゴブリン似」くらいにしか認識していない
他の村人もゴロリンを村の仲間・村長の息子として違和感なく扱っており、
彼の外見ににもすでに慣れていて村長と同じ認識
・ゴブリン(敵?)
普段は山の獣を捕って暮らす割と平和的に共存しているゴブリン
単純で思い込みが激しい
遊ぼうとしたゴロリンのゲームの説明を誤解した
無事にゲームが済めば、満足して帰って行く
身体が頑強で守備力が高い為、ある程度の打ち返しは平気
前提:
裏山のゴブリンを押し止めている村として、領主の重い税を免除されたり盗賊等の外敵から狙われることが無い
ゴブリンたちは割と平和的で知性のある亜種らしく、村人から野菜や酒を分けてもらっている為に村人を襲わない
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