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シナリオ詳細

<アアルの野>盗賊ブッチ&クロッコ。或いは、亡者に再度の深き眠りを…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●虹の扉より来る
 ラサ。
 ファルベライズ遺跡群の奥深くに発見された地底湖。
 その中央に浮かぶ小島には、淡い虹色を放つ不可思議な扉があった。
 虹の中より出でる影は無数。
 人の姿をした、けれど人ではないそれの名は“ホルスの子供達”と言った。
 粘土で出来た身体。
 与えられた“死者の名”により“何者か”の形を成す生きた人形である。
 
 ぞろぞろと湧き出る人形たち。
 その中に2人、異彩を放つ人影があった。
 片方は見上げるほどの巨漢。
 もう片方は、全身に包帯を巻いた痩身の男。
 彼らの名は“ブッチ”と“クロッコ”。
 かつてラサ近郊で暴れ回り、そして命を落とした盗賊である。

 身に纏う毛皮のコート。
 背に負った鉄板のごとき大剣。
 生前は、悪人ながらも快活な人柄で部下や仲間に慕われていたことで知られるブッチらしからぬ無表情。
 姿かたちは似ていても、所詮は人形。
 生前の記憶までを持って蘇生したわけではないのだ。
『――――――――――――』
『---------』
 ブッチは声にならない雄たけびを上げ、クロッコは意味の拾えぬ呟きを零す。
 かつては多くの部下を従えた大盗賊の頭目であれ、こうなってしまえば一介の魔物と遜色がなく……。
 ゆえに、だろうか。
 そんな2人に付き従うようにして、牛に似たゴーレムたちが周囲を囲む。
 2人と10頭は、少しずつだが前へと進む。
 果たして一体、何のために、彼らは地上を目指すのか……。

●盗賊たちに再度の眠りを
「大変大変、大変っすよみなさん! 突破力の高い“ホルスの子供達”が現れたっす!」
 作戦本部に駆け込むなり、『パサジールルメスの少女』リヴィエール・ルメス(p3n000038)が腕を振り回して叫ぶ。
 リヴィエールの告げた場所はファルベライズ遺跡群の地下。
 地底湖の周辺であった。
 それなりの広さを誇る地下空間だ。天井も高く、戦闘の妨げになるようなものは存在しない。
 しいて言うのなら、地底湖の存在が邪魔と言えば邪魔だろうか。
「障害物が無い分、相手も特性を十二分に活かせるみたいっす。突っ込んでくる牛の群れは怖いっすよ!」
 加えて今回は2体の“ホルスの子供達”もいる。
 両者ともに、かつてイレギュラーズたちが任務の中で刃を交え、そして打ち倒した相手だ。
 片や剛力巨漢の盗賊、ブッチ。
 大剣の一撃には【防無】【飛】【ブレイク】が備わっている。
 もう1人は、痩身に包帯を巻いた盗賊、クロッコ。
 舞うように軽い身のこなしと【猛毒】が付与されたレイピアによる刺突を主な戦法とする。
 そして、その2人に付き従う10体の牛型ゴーレム。
 その突進をまともに受ければ、後方遠くへ弾き【飛】ばされることは間違いない。
 以上12体の敵を討伐することが今回の任務の内容となる。
 主な戦闘場所としては、地底湖か遺跡入り口付近の砂漠となるだろうか。
「遺跡入り口で戦う場合は注意してほしいっす。連中は何もイレギュラーズと戦う必要なんてないっすからね」
 砂漠に解き放たれた“ホルスの子供達”がその後どうするつもりなのかは不明だ。
 とはいえ、碌な結果にならないであろうことは予想できる。
「1体たりとも逃がさないよう注意してほしいっす」
 なんて、言って。
 リヴィエールはイレギュラーズを送り出す。

GMコメント

●ミッション
ブッチ、クロッコ、10体の牛型ゴーレムの討伐

●ターゲット
・ブッチ
“ワイルド・ブッチ盗賊団”を纏めていた頭目。
毛皮のコートをまとった巨漢。
気性は荒いが生来の性格か面倒見が良い……生前はそんな評価で知られる人物だった。
鉄板のような大剣を武器として使用する。

獣染みた一撃:物至単に大ダメージ、防無、飛、ブレイク


・クロッコ(盗賊)×1
カルミネ盗賊団の団長を務めていた痩身の男。
かつて負った怪我が原因で、全身に包帯を巻いている。
直接的な戦闘よりも、搦め手による略奪を得意とする性質であり、非常に身のこなしが軽い。
左右の腰に下げた毒付きのレイピアを武器とする。

毒針:物近単に中ダメージ、猛毒
 毒を塗布したレイピアによる攻撃。

投擲:神遠範に中ダメージ、毒
 無数の毒針をばらまく攻撃。


・牛型ゴーレム(ゴーレム)×10
ブッチ、クロッコに追従する牛型ゴーレム。
実際の牛と近しい動きをする。乗馬やそれに類する技能によりある程度のコントロールは可能。
ブッチやクロッコが騎乗することもあるだろう。

牛角:物近単に中ダメージ、飛


●フィールド
ファルベライズ遺跡群。
地底湖周辺および、遺跡入り口付近。
地底湖周辺はそれなりに広いが、ターゲットは地上を目指して進軍するため1点に攻撃が集中しがち。
遺跡入り口は広く、自由に行動が可能。
その分、ターゲットの進路が読みづらく逃亡される可能性も高くなる。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <アアルの野>盗賊ブッチ&クロッコ。或いは、亡者に再度の深き眠りを…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月18日 22時01分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
冷泉・紗夜(p3p007754)
剣閃連歌
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
流星の狩人
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
カイル=ヴェル=リットベルガー(p3p009453)

リプレイ

●かつて生きた者たちへ
 ラサ。
 ファルベライズ遺跡群の奥深くに発見された地底湖。
 その中央に浮かぶ小島には、虹色に光る扉があった。
 光の粒子をその身に纏い、扉より現れるは死した“誰かの名前”を持つ粘土で出来た人型だ。
 毛皮のコートを纏った巨漢“ブッチ”。
 痩身に包帯を巻いた男“クロッコ”。
 彼らはかつてラサの地で死した盗賊たちだ。
 何者かに名を与えられた土人形……“ホルスの子供達”と成り果てた彼らは、10頭の牛型ゴーレムを引き連れ地上を目指す。
 けれど、しかし……。
「粘土の身で地上を目指すとな。どんな衝動がそうさせるのか知らんがきっちり止めてやろう」
 眼帯を付けた褐色肌の少女……『劫掠のバアル・ペオル』岩倉・鈴音(p3p006119)をはじめとする8人が、2人と10頭の前に立ちふさがった。

「今どこらへんでございますか~……って、大変!? もう湖を渡り終えるゾ!!」
 双眼鏡を投げ捨てて、鈴音は盾を構えて前へ。
「死人は死人らしく、思い出の中で死んでりゃ良いのにな」
 いかにも騎士らしい仕草でカイル=ヴェル=リットベルガー(p3p009453)が鈴音の隣に立ち並ぶ。
 視線の先には蹄で地面を引っ掻く牛型ゴーレムの姿があった。そのうち2頭の背には、既にブッチとクロッコが騎乗済だ。
 ブッチの踵が牛型ゴーレムの腹を蹴った。
 それを合図に、10頭は一斉に疾走を開始。
 巻き上げられた土煙に視界が霞む。
 地響きの音が地底湖に反響し煩いほどだ。『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)は耳を抑えて顔を顰めた。
「逃がすわけにはいかないし……ここから先には行かせないよ。花丸ちゃん達が絶対に止めてみせるんだからっ!」
 花丸のその手に武器は無い。
 彼女の武器は鍛えた己の拳であった。
 地面を蹴って、低く駆ける花丸は一直線に牛型ゴーレムの群れへと駆けこんでいく。

 矢を番え、弦をキリリと引き絞る。
 鈴音やカイルの背中越しに、弓を構えた『深き緑の狩人』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)。土煙の中に見える牛型ゴーレムの影を見据えて、片目を閉じた。
「密集している今のタイミングなら行けそうだな……逃さず狙っていくぜ!」
 番えた矢から指を離したその瞬間、弦がひゅんと風切る音を響かせて、それをまっすぐに射ち出した。
 宿る魔力が展開。形成されるは大樹の剣。
 顕現した魔剣による一射が、牛型ゴーレム2体を纏めて貫いた。

 ミヅハの放った矢の一撃は、まさしく開戦の狼煙となった。
 矢を追うように牛型ゴーレムへと殴り掛かっていく花丸。
 次いで、側面から回り込むようにして『風韻流月』冷泉・紗夜(p3p007754)が刀を構えて斬り込んだ。
「斬ることによって、永久なる安らぎと眠りをもたらしましょう」
 長い髪が、彼女の疾駆に合わせて揺れた。
 その様は水が流れる様子にも似て、穏やかで、そして至極自然。
 一閃。
 放たれた斬撃が、牛型ゴーレムの脚を斬る。
 姿勢を崩したその1頭を踏み越えて、残る9頭の牛型ゴーレムはただまっすぐに地底湖の出口を目指して駆けた。
 ブッチやクロッコ、牛型ゴーレムの目的はあくまで「地底湖を出て地上を目指すこと」にある。ともすると、進路を塞ぐイレギュラーズの存在など眼中にさえないのかもしれない。
 で、あるならば……。
「敵が正面に集中し過ぎているようですね……リスク分散で対応しましょう」
 その男は、ただそこに立っていた。
 ビジネススーツに黒い笠。
 短い髪に、眼鏡をかけたどこにでもいそうな男性だ。
 冷たい視線を牛型ゴーレムの群れに向け、ふぅと小さな吐息を零す。
 その様が。
 その仕草が。
 牛型ゴーレムたちの【怒り】を引いた。
 沸き立つ敵意を抑えきれず、何頭かが進路を変えて『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)へ向かっていく。
 数と勢いに任せた突進こそが牛型ゴーレムたちが“厄介”とされる理由である。ならば、それが崩れてしまえば……群れからはぐれた獣の末路など言うに及ばないだろう。
「牛型ゴーレムに騎乗して突っ込んでくるなんて、なかなか愉快な事やってるじゃないか。ちょっと牛型ゴーレム、数匹俺に分けてくれよ」
「えぇ、どうぞ。右端のなんか、活きが良いように見えますよ?」
 水色の髪とマントを揺らし『騎士の忠節』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)がひらりと宙へ身を躍らせた。
 寛治の指し示した牛型ゴーレムの背に飛び乗り、アルヴァはその角に手をかける。
 牛や馬に騎乗しての戦闘は、アルヴァも得意とするところだ。牛型ゴーレムに手綱はないが、それでも一時であれば十分に乗り物として活用できるだろう。

「こんな所でも厄介なゴーレムを引き連れてるとはお前らしいな、ブッチ」
 毛皮のコートを纏った巨漢、盗賊“ブッチ”はたしかに死んだ。
 乾いた荒野の真ん中で、仲間の盗賊たちを逃がすために身体を張ってイレギュラーズに立ち向かい、無念の内に死んでいった。
 だと言うのに、彼は再びここにいる。
 生前の姿そのままに、けれど生前の野心も、熱さも感じぬ抜け殻として、ここにいる。
『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)は、ライフルの狙いをブッチの乗った牛へと向けた。
 引き金を引く。
 火薬が爆ぜ、硝煙の臭いと火花が散った。
 螺旋を描き、疾駆する弾丸。
 それは正しく牛型ゴーレムの眉間を射貫き、体勢を大きく崩させた。

●手向けは砂漠に咲く花を
 姿勢を崩した牛型ゴーレム。
 その背の上で、ブッチは鉄板のような大剣を抜いた。
 牛の突進力に、ブッチの剛腕を乗せた斬撃はさぞや重く、そして威力も高いだろう。
 下半身を馬に変え、ラダは反転。一定の距離を保っての戦闘を維持しようとしているのだろう。
 ただ1点、誤算があったとするならば思いのほかに牛型ゴーレムが速かったことか。
 加速する牛型ゴーレムの上で、ブッチは剣を大上段に掲げて見せる。
 しかし、彼がそれを振り下ろすことはなかった。
「無視して外に出ようとするなんて、中々酷いじゃないか」
 背後に迫ったアルヴァ……そして、彼の騎乗する牛型ゴーレムが跳んだ。
 鋭い角が、ブッチの乗った牛型ゴーレムの後肢を貫く。後ろ脚が砕けた牛型ゴーレムが、頭から地面に激突。砕け散る破片の中、ブッチが着地。
 体を軸に大剣を旋回させた。
「っと……そんな大振りな攻撃、簡単に当たると思うなよ!?」
 牛型ゴーレムを足蹴に、アルヴァが跳躍。
 アルヴァの乗っていた牛型ゴーレムを、ブッチの大剣が打ち砕いた。
 直後、その後頭部に1発の銃弾が撃ち込まれる。
「あの荒野へ戻るつもりなのかは知らないがね、外には出してはやらんよ」
 狙いを定め、呼吸を止めて、引き金を引く。
 静かに。
 トリガーに指をかけ、引くだけ。
 銃身を駆け抜け、疾駆した弾丸は螺旋の軌跡を描きながらブッチの後頭部を撃った。
 人であれば、その1発で命を失っただろう精密射撃も、しかし粘土人形となった今のブッチにとっての致命傷には至らない。
「……まだ動けるのか」
 囁くようにそう呟いて、ラダは姿勢を低くした。

 鋼の驟雨が降り注ぐ。
 数体の牛型ゴーレムが、それを受けて地面に伏した。
 ひび割れ、砕けたゴーレムの身体が砂と化す。
 弾雨の中、ようようといった様子で立ち上がった1体が寛治へ突撃。 
 鋭い角が寛治の脇を掠めて抉った。
 零れる血。牛の額が腹部を打った。骨の軋む音に、内臓が圧迫された激痛。
 寛治は手にした傘の先端を牛型ゴーレムの額に当てる。
「取り囲まれるわけにもいきませんからね」
 牛の額に弾丸を撃ち込むと同時、寛治は飛翔。宙へと退避しながら、次の獲物へ狙いを定めた。
 飛ぶ寛治を追い、牛型ゴーレムが地面を蹴って跳びあがった。
 その角が寛治に届く、その寸前……。
 牛型ゴーレムの首に数本の矢が続けざまに突き刺さった。
「獲物に襲い掛かる瞬間は、どんな生き物だって隙だらけになるもんさ」
 首を砕かれ、牛型ゴーレムは力を失う。
 ミヅハはその結果を確認することなく、次の獲物に狙いを定めた。
 その、直後……。
「っと!? 危ねっ……!」
 ミヅハの首を狙い突き出されたレイピアを、彼は咄嗟に身を捻って回避した。
 牛型ゴーレムと、鈴音たちが激しく打ち合う中を抜け、1体の人形が接近していたのだ。
 包帯を全身に巻いた痩身男……名をクロッコと言っただろうか。
 ひゅん、とレイピアの切っ先が歪み、ミヅハの胸部から頬にかけてを切り裂いた。
「痛っ……毒か」
 熱を持った傷口を押え、ミヅハは後退。
 それを追ってクロッコが迫るが……。
「絶対に行かせないってば!!」
 牛を跳び越え、頭から飛んだ花丸がクロッコの腰にしがみついた。
 クロッコを地面に引き倒し、その腹部に馬乗りになるなり、彼女は拳を振り上げる。
「っらぁっ!!」
 怒号と共に振り下ろされる拳が、クロッコの顔面を打った。
 一撃、二撃と降り注ぐ殴打の嵐。
 クロッコは呻き声さえあげないまま、花丸の腹部にレイピアを突き刺した。

 土の破片が飛び散った。
 血の雫が散る。
 刺突と殴打の応酬。
 その様子を一瞥し、カイルと鈴音が牛型ゴーレムへと向き直った。
「あーあ。この牛どもが美女だったらもうちっとやる気出たんだがねぇ」
「熱烈アプローチに応えてあげないノ?」
「突進攻撃のことを言ってるのなら、俺の趣味じゃないな」
「体重プレスとか角によるぶちかましが危険そうだしネ!」
 牛型ゴーレムの突進に合わせ、カイルはその角を両手でしかと受け止めた。
 地面を蹴って、勢いをつけた膝蹴りを牛型ゴーレムの顎へと叩き込む。
 衝撃に角が根元から砕けた。
 仰け反ったその喉元を、視認不能な殺意が射貫く。
 それを放ったのは鈴音だ。
 砕けた牛の横を通過し、2頭が入り口へと疾走。
「マテマテ~。敵前逃亡は死刑ダゾ!」
「死刑云々は置いておいて、出てこられちゃ固まるからな」
 鈴音の放った魔弾によって、牛型ゴーレムの後肢が砕けた。
 その隙を突き、カイルは牛型ゴーレムの前面に回った。両腕を広げ牛型ゴーレムの突進を受け止める。
 衝撃がその身を貫いた。
 骨に罅の走る音。軋む内臓。
 喉の奥から血が溢れ、カイルの口元を朱に濡らした。
「回復……受けてる暇はねぇか?」
「まずはこいつらを土に帰すことが優先なんだゾ!」
 牛型ゴーレムも、既に半数近くが砕けた。
 残る数体を外に逃がすことが無いよう、2人はその身を盾に入り口を塞いだ。
 鈴音の掲げた盾に向け、牛型ゴーレムは交互に体当たりを慣行。力づくで防衛ラインを突破するつもりらしい。
 防御に注力する2人は、上手く攻勢に出られないようだが……。
「出口へと向かう流れを、まずは斬り乱しますよ」
 そこに駆け付けたのは紗夜により、その均衡は崩された。
 河川ように流麗に。
 怒涛のように速く、強く。
 【落首山茶花】。変幻自在の剣閃が牛の身体を斬り裂いた。
 振り回される角を潜るように回避して、返す刀でその喉元を深く裂く。
 その隙を突き、鈴音は【天使の歌】を行使。淡い燐光が降り注ぎ、カイルと自身の傷を癒した。
 暴れ回る牛型ゴーレムの後肢が、紗夜の腹部を強く打つ。
 紗夜の細い身体が宙へと浮いた瞬間、さらに1頭の体当たりがその胸部を殴打した。
 地面を転がる紗夜の頭部へ、振り下ろされる蹄はしかし、横合いから撃ち込まれた弾丸によって砕かれる。
 寛治の援護射撃を受けた紗夜は、地面を転がり退避。
 立ち上がる拍子に、牛型ゴーレムの前膝を斬った。

●還るべきところへ
 拳が裂ける。
 血が滲む。
「そうそう……直ぐには倒れないよ!」
 花丸の脇にクロッコのレイピアが突き刺さる。
 殴打を浴びて、クロッコの顔面に罅が走った。
 血に濡れながらも花丸は、拳のラッシュを止めはしない。
 傷だらけの少女はしかし、決して戦意を失わない。
 唇の端から血が零れる。
 クロッコの持ち味である身軽さも、地面に倒れた姿勢のままでは十全に活かすことは出来ない。
 で、あれば……。
「土に還るまで、抑え続けてあげるからねっ!」
 渾身の力で叩き込まれた花丸の拳が、クロッコの胸部を深く抉った。

 鋭い角を、鈴音の盾が受け止める。
 衝撃が彼女の身体を貫いた。しかし、彼女は両の脚で地面を踏みしめ、その場に身体を固定する。
 残る牛型ゴーレムは4体。
 入口付近で暴れ回るそれらの背上を、アルヴァが素早く飛び回る。
 うち1頭の背に跨ると、アルヴァはそれを操って近くの牛型ゴーレムに体当たりを食らわせた。
「っと、一旦後退だ!」
 ミヅハが叫ぶ。
 それと同時に、鈴音とカイルは通路の奥へと逃げ込んだ。
 逃げる2人を追って、牛型ゴーレムは入り口に集中。
 直後、銃声。
 ゴーレムたちの頭上で弾ける火炎、次いで響く轟音。
「さて、そろそろ単体攻撃に切り替えても問題ないでしょうか?」
 傘を振って硝煙を払い、寛治は告げる。
 次いで寛治が取り出したのは45口径の自動拳銃。
 弾丸の雨を浴び、弱った牛型ゴーレムへとそれを向け、マガジンが空になるまで弾丸を撃ち込み続けたのだった。

 牛の首に腕をかけ、カイルは体ごと地面に転がる。
 その勢いに引きずられ、牛型ゴーレムは転倒。衝撃で、元々ひび割れていた角が砕けた。
「大人しくおねんねしてな!」
 暴れる牛型ゴーレムを、無理矢理地面に抑え込み、カイルは告げた。
 そんなカイルに視線を送り、ミヅハや弓に矢を番えた。
 キリリ、と弦を引き絞る。
 パッ、と指を離した瞬間、空気を切り裂き矢が飛んだ。
「よし、残りの牛型とゴーレムは俺と新田サンで対応するぜ」
 牛型ゴーレムの首を、放たれた矢が撃ち抜いた。
 ミヅハの指示を受け、カイルは離脱。
 鈴音と共に、花丸の援護へ向かっていった。

「さて、外に出て何をするつもりかわからんが、暴れたいなら俺が相手になろう」
 アルヴァの操る牛型ゴーレムの突進が、ブッチの身体を激しく打った。
 よろけるブッチ。
 その手から落ちた大剣が、ガランと音を立て地面に転がる。
しかしブッチは牛型ゴーレムを蹴り飛ばし、その背に乗ったアルヴァの脚を強く掴んだ。
「う……おぉっ!?」
 驚愕に目を見開くアルヴァ。
 その細い身体を振り回し、地面に強く叩きつける。
 額から血を流しながら、けれどアルヴァはにやりと笑う。
 ブッチの背後に紗夜の姿を見たからだ。
「さあ、剣鳴の響きこそ、ブッチ、貴方への鎮魂の調べです」
 駆ける勢いを乗せた刺突が、頭、喉、鳩尾の3点を瞬きの間に貫いたのだ。
 崩れた腹部が、砂と化して地面に零れる。
 剣を失ったとはいえ、その剛腕は健在だ。振り回された太い腕が、紗夜の腹部を激しく打った。
「う……ぐ」
 腹を抑えた紗夜が呻く。
 その刹那……。
「今度こそ終わりだ。眠れ……ゆっくりとな」
 鳴り響く銃声は1発。
 土煙を突き抜け、疾駆する弾丸がブッチの額を撃ち抜いた。
 それはちょうど、紗夜が刺突で穿った箇所で……。
 硬直は一瞬。
 額の傷を中心に、ブッチの全身に罅が走った。

「死人は生前のことは忘れてずっと眠っていてほしいものだネ」
 地面に横たわった花丸へ向け、鈴音は手を差し伸べる。
 花丸の傍らには、砂と土の山が転がっていた。
 それは、つい先ほどまでクロッコだったものである。
 血塗れの花丸は、勝利を強調するように拳を天に突き上げ笑う。
 その手に拳をコツンと当てて、鈴音はくっくと肩を揺らした。
 
「っと、こいつは忘れずに回収しておかないとだよね」
 額の地を拭いつつ、アルヴァは小さな宝石を拾う。
 ブッチの残骸の中から回収されたそれは色宝と呼ばれるものだ。そしてそれこそが、此度の騒動の発端であった。
「……もう復活してくるなよ」
 死者の名と姿を与えられた土人形。
 そこに生前の記憶はなく、また意識もない。
 そんなことは理解しているけれど、アルヴァは思わずそう呟かずにいられなかった。

成否

成功

MVP

新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ

状態異常

アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)[重傷]
航空指揮
笹木 花丸(p3p008689)[重傷]
堅牢彩華

あとがき

お疲れ様です。
無事に牛型ゴーレムの群れと、ブッチ&クロッコは討伐されました。
依頼は成功となります。

この度はご参加ありがとうございました。
牛の群れに突破されないよう、とても良く策が練られていたかと思います。
また縁があれば別の依頼でお会いしましょう。

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