シナリオ詳細
運の悪かった男
オープニング
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その日の彼は、朝からついていなかった。
常備していた朝食用のパンは切らしていたし、鍵はどこかで落としたらしく探して遅れてしまった。外へ出れば、歩いていれば棒に当たる、と言って良いほど不運に見回れる1日だ。
犬には吠えられるし、鳥の糞は落ちてくるし、出会い頭には人とぶつかるし。
一つも良いことなどない。
そしてそれは、彼だけに止まらなかった。
発端は彼だ。
仕事中、地上三階のベランダから、うっかりと花瓶を落としてしまった。それは運悪く、下を歩いていた女性に命中することになる。
幸運にも命に別状はなかった女性は、不運にも顔に傷を残してしまうことになった。
必死に謝る彼に、女性は笑顔で構わないと告げていたのだが……。
●
「さて、仕事だ」
いつもの言葉に、イレギュラーズは集まった。
内容の説明を始めるショウは、依頼書を片手に持ち、声を上げる。
「とある貴族の娘が、怪我をしてね。命に別状は無いし、彼女自身は明るく前向きに、箔が付きますね、なんて笑っているようだが」
どうやら、その父親が怒り狂ってしまったらしい。
嫁入り前の娘を傷物にされた、と。
「まあ、確かにわからないでもないが、その怒りは冷めることはなくてね。こちらに話が回ってきたというわけだ」
つまりは。
「件の犯人である男を、可能な限り苦しめて殺せ、だそうだ。
……この依頼は、善良な一市民を、ただ蹂躙するものだ。無理に、とは言わない」
ローレットがやらなければ、別の殺し屋にでも話は行くだろう。
「彼は後日、仕事の関係で街道を移動するらしい。馬車に乗るそうだから、そこを狙ってほしい。そこには魔物対策で、護衛の同乗者が6人程居るらしいから、それも含めて処理してくれ」
護衛の生死は依頼の成否に関わらない。生かすも殺すも自由にしていい。
「君たちの襲撃を、貴族はどこかで見ているらしい。だからといって、それは気にしないでくれ。やることをやってくれれば、それで満足だろうから」
そこまで説明を終えてから、ショウは現地までの地図と馬車のルートが書かれた紙を手渡した。
「あまり気持ちのいい仕事ではないが、頼んだよ」
- 運の悪かった男完了
- GM名ユズキ
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年05月26日 21時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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晴天の空の下、並木道が続いていた。
細く、長く、どこまでも続くようなその道は、あまり人の通らない道だ。
なにせ、舗装が為されていない。歩くにも負担、馬車にしても揺れる。要は、人気がない。
ただ混まず、都市間では遠回りになるがストレスは少ない、人によってはありがたい道でもあった。
だからだろう。
木々の合間に身を隠した襲撃者達は、誰に知られるでもなく、そこに居れた。
「運が悪い、ですか」
木の葉の影、漏れでた光の筋を浴びた陰陽 の 朱鷺(p3p001808)は、呟きを漏らす。
「自分ではどうにもならないことを運勢のせいに、星の巡りのせいにする。言い方は沢山ありますけど」
私は信じてません。と、一息入れたと思ったら、
「因果応報って言葉、あるじゃないですか」
こっちの方が信じられます。と、言葉が続いていく。
「男は朝から調子が悪く、対策をせず放置し、故に彼女の顔を傷つけた。
この世に運なんて無いと思います。原因と、結果だけ。
男は女を傷つけ、親は男を許さず、イレギュラーズが頼まれ男を殺す。理不尽ですかね?」
「なァ、さっきから何ブツブツ言ってンだ?」
独白めいた朱鷺の声を遮ったのは、『同胞殺し』猟兵(p3p005103) だ。
馬車が止まるまで待機をするというので、近場に二人、潜んでいた所だった。
……ツイてねェ。
そう一人ごちる彼女はつまらなそうに空を仰ぎ見た。
ガタガタと、車輪の跳ねる音が聞こえてくる。小石を弾き、進んでくる音だ。
「ま。頼んだぜ」
●
馬車は、二頭の騾馬に引かれて走っていた。
大きな布の囲いをされたリヤカーを牽引し、中には箱詰めされた荷物が少なくない量乗っている。
「おい、誰かいるぞ」
そこにいる男と護衛達は、目的の町まで全然快適ではない旅行を楽しむ最中に、運転席からの報せを聞く。
「誰かって、誰」
「いや知らねーけど……なんか手を振ってる。狼煙みたいなのもあげてるし、困ってるかも」
そう言って見るのは、行く先を塞ぐように立つ三人の人物だった。
「止まってくれそうですね」
速度を落とした様子の馬車を見て、ガスの霧を分かりやすく撒いていた『幻想乙女は因果交流幻燈を夢見る』アイリス・ジギタリス・アストランティア(p3p000892)が言う。
ホッとした様な言葉を言う彼女の顔はしかし、どこか苦悩するようでもあった。
……これも仕事、です。
思う。
今から行う事を考え、その非道さはいつか、自分や依頼人に何かしらの形で返ってくるのだろうと。
「……止まるならいい」
腕を上にし、左右への大振りで停止を呼び掛けていた『赫腕の鉄』PXC-4=ソフィア(p3p000743)は、そんなアイリスの気持ちを知ってか知らずか言葉を返す。
ソフィア自身は特に思うところは無いようだ。ただ、ワザワザこんな事をして意味があるのか、という疑問は持っていて。
「……依頼故に、遂行はする」
結局のところは、仕事だから、だ。
「では行こう。手はず通り、ね」
ザッ、と地を蹴ったのは、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)を乗せた黒馬だ。
「弱者を攻めに、ですね」
「別に弱者を痛め付けろと言っているのではないよ」
向かう途中、視線も交わさない短い会話の中で、イーリンは思う。
自分達がやらなければ、他の誰かが心を痛める事になる。と。だから、
「神がそれを、望まれる」
●
馬車が止まった。
その時点で、イレギュラーズの行動指針は決定する。
運転席に二人いる護衛を見て、荷台には恐らく残りの四人と、ターゲットである男が一人、いるはずだ。
だから、まずは護衛から無力化をする。
「厄介な依頼を受けちゃったわ……」
馬車の後方から迫っていく『無明一閃』長月・秋葉(p3p002112)は、ため息に混ぜて言葉を吐いた。
気が進まないけど、仕事、だものね。
続けて口には出さなくても、そう思ってしまう。
「むっ、なんだお前ら……野盗の類いか!」
様子を見に顔を出した護衛が、叫びながら荷台から飛び降りてくる。
「はッ、ま、この格好ならそう思うだろうな!」
答えたのは、秋葉とは別の方向から、秋葉と同時に飛び出していた猟兵だった。
「ならば、容赦はーー」
「……無しで行かせてもらうッスよ……」
駆ける二人の更に後方から、二人の間を抜くように行くモノがある。
それは、『落ちぶれ吸血鬼』クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573) の放った魔術だ。
空を焼きながら駆け、まだ出揃わない護衛の体に、その一撃をぶちこむ。
「なに、コイツらほんとに野盗か……!?」
装備している盾が軽減したとはいえ、イレギュラーズが使う術式の威力は並ではない。
「……まぁ、やるからには徹底的に……器の小さい依頼でも、貴族様の仕事なもので……」
「でも依頼人にとっては、悪者なんだよね。難しい……難しいなあ……」
むむむ。と、唸りながらクローネの隣に立つ七鳥・天十里(p3p001668)は、飢狼と名を付けられた銃を片手に思う。
これは良い行いではない、と。しかし依頼人にとっての悪者退治であるなら、これはセイギなのか?と。
考えたところで答えは判らない。判らないから、依頼人にとってのセイギなのだと言い聞かせ、天十里は飢狼を護衛に向けた。
ーー発砲する。
回転しながら飛ぶ弾丸は、真っ直ぐに護衛の一人に向かっていく。
盾を持たない護衛だ。
着込んだ鎧に阻まれ貫通はしなくても、魔石の加護を受け、爆裂する火薬に押し出された銃弾の衝撃は重い。
そこへ、猟兵が飛び掛かる。
「死にゃしねェよ」
両手に握る大剣を振り上げ、一閃した。
「手足の何本か、逝ッちまう程度だ!」
それを、掲げる様にした護衛の剣が受け止める。だが、構わない。
猟兵は、叩き潰すと言わんばかりに大剣を振り切り、護衛を衝撃に弾き飛ばした。
「貴様、調子に乗るなよ!」
それは、荷台から飛び出る三人目の叫びだ。両刃の斧を得物とするその大男は、攻撃後の硬直を持つ猟兵に向かっていく。
「ごめんなさいね」
その間に、秋葉が割って入る。
鞘から抜いた刀、八葉を峰打ちに持ち、向かってきた男に相対した。
「退け、小娘が!」
男の両手に持たれた斧が、全霊を込めて放たれる。真上から叩き割るつもりの、迷いのない一撃だ。
「……!」
秋葉はそれを、前へ行く事で対処する。
刃の範囲を逃れ、懐に身を屈めて飛び込み、上から下へと身体を流す男に向かい、
「加減はするから」
下から上への峰打ちによるかち上げを行った。
真っ向からぶつかり合う形で、八葉の峰が男の顎を打ち上げる。
「よくもやったな!」
「……くっ」
一気に形勢を取りかけたイレギュラーズだが、護衛も雑魚ではない。
秋葉を吹き飛ばす様に、盾持ちの護衛は体当たりで攻撃。
猟兵に弾き飛ばされた護衛も、着地と同時に復帰し、決して浅くはない斬り傷をその身に与えている。
そして、
「まずいッス……!」
荷台に残る一人は、スナイパーだった。
縁に銃身を乗せ、安定させた姿勢からクローネと天十里を狙い打つ。
「殺さなきゃいけない相手じゃないけど……手加減するのも、大変だよね!」
「渡してくれたらなにもしませんよー……何も知らない人を深く巻き込む気はありませんし……」
一応の呼び掛けをしつつ、射線から身を隠したクローネはなんとなく思った。
……交渉、長引きそうッス。
●
運転席に座っていた二人の護衛と対面する三人も、戦闘を開始していた。
「男を一人、探しているの。それさえ達成出来れば何も起きない」
良いかしら。と、イーリンは端的に目的を告げる。
「……これは貴族からの依頼だ。……関わらない方が、そちらのためでもある」
言葉を添えるソフィアの、貴族、という単語に、護衛の一人は息を飲む。
「なるほど、そちらも仕事というわけだ。後ろじゃもうドンパチやってるみたいだし、なぁ?おい」
態度の変わらないもう一人は、やれやれと言った体で頭を掻いた。
……どうでますか。
恐らく彼がリーダーなのだろうと予測をつけ、アイリスは思う。
このまま大人しく引き渡してくれれば、と。
余分な戦闘も傷つけ合いも、避けられるならそれに越したことはない。
「そちらもそうだが、こちらも仕事として受けていて、なぁ。はいわかりましたじゃあ、ウチの信用に関わる」
「……抵抗すれば殺す」
やはりダメか。そう思い、先に行動したのはソフィアだ。
両手持ちの大盾を大地に突き立て、そう宣言する。
「やれるもんならやってみろテメェ!」
ソフィアの言動にキレた護衛は、両拳のガントレットを打ち鳴らし、感情のまま飛びかかっていく。
後先を思わない行動は、ソフィアだけを見るもので、その隙をイーリンは逃さない。
馬上から鋭角に跳んだ彼女は、護衛の横腹へ着地するように踏み込む。そのまま蹴り飛ばし、転がる男の頭にはアイリスの持つ杖の先端が突き付けられた。
「私達は、その男だけが、目当てなの。OK?」
そして、じろりと。
イーリンの言葉はリーダーに向けられる。
「……Okay、交渉と行こう。馬車と馬は攻撃してないみたいだしな」
それはつまり、攻撃していたら引かなかったかもしれない、という事だ。作戦次第では馬車の破壊もあり得たのにそうしなかったのは、それこそ運が良かったのかもしれない。
「元々、受けた仕事は荷物を無事に届ける事だ。同乗の男を守れとまでは、言われちゃあいない」
「……なら、この事は」
「内々で済ませた方が、よろしいでしょうね」
ソフィアとアイリスの理解に、リーダーの男は頷きを一つ入れる。そして三人の顔を見渡し、後ろの戦闘の音に振り返ると、
「じゃあ、そういうことにしよう」
と。
そう言った。
●
晴天の空の下、人気が無い街道の並木道。
そこから少し外れた所で、ソレは執り行われた。
「ああああああああああああ」
音が響く。
声だ。
泣くような声だった。
「もっと悲鳴をあげなさい、運が良ければ助かるかもしれないわ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめごめなさいごめんなさいごめんごめんなさいごめんなさああああああアアアア、ぁ」
裸に剥かれた男が、腕から指先にかけてをキツく縛り、無理矢理伸ばされて拘束されていた。
その指を、イーリンは手にしたオーラソードを用いて焼き消していく。
高温を持ったその光剣が、ミリ単位で男の身体を焼失させていくのだ。
それを男は、ただ見ているしかない。終わりを望み、許しを与えられる瞬間を、ただ待つしかない。
「良く鳴いたわね」
と、不意に押し付けられた痛みが離れていく。
……終わった。
「じゃ、次どうぞ」
そう思った希望は一転、絶望に落ちる。
「それじゃあ」
入れ替わる様に前に出る秋葉は、男の姿に動きを止める。
同情等ではなく、苦しめるとはどうやればいいのか、という悩みでだ。
とりあえず傷を付ける。そういう思いで、刀を足の甲へ突き刺した。
「ぎぃ!?ゃ、め……て」
「……朱鷺」
「回復ですね」
引き抜いて溢れ出る患部を、朱鷺の符が治癒する。
和らぐ痛みに男の強張った体は弛緩し、
「傷つけて」
反対の甲に突き立つ刃が引き戻す。
「回復させて」
治療は進み、
「傷つけて」
傷跡は増える。
「後は……指、斬り落としてみる?」
血と脂に濡れた八葉を血払いして、秋葉は言う。既に焼き爛れた指だが、全てではない。残った部分や、足の指もあるのだから、実行は可能だ。
「や、やめて、ください……それは、お願いします……やだ、嫌だやだやめてやめろや、」
だから、彼女はそれを裁断した。
「…………依頼人、どこで見てるのかな」
その様子を、見張りを任された一人の天十里が見ていた。
「……さあな」
見ると言うなら、しっかり見せた方がいいだろう。そう思う天十里の呟きに、ソフィアは呟き返した。
そうしている間も依然、苦しみは続いていく。
「……そういえば、昔々……吸血鬼や、魔女を見分けるための方法がありまして……」
「あン?」
「……あ、いえ、他意はないですが……」
ヴァンパイアと鬼の混血である猟兵が、クローネの言葉に反応したのは、仕方の無いことだろう。
そういうクローネも、後天的吸血鬼であるらしいのだが、さておき。
視線を男に戻して、一息を入れたクローネは、チラリと猟兵をもう一度見てから言葉を続ける。
「……その方法……拷問されて生きていられたらクロ、らしいです……その男、もしも生きてたら……冗談ッス」
「笑えねェな」
そうでしょうね。
と、そんなやり取りの間に、見せしめは佳境だ。
「はっ、はっ、ひぃ、ひっ」
過呼吸を起こし、それでも肺に空気を入れようと天を仰ぐ男は、口を大きく開ける。
そこへ、ふわり、と。
アイリスが白い布を被せた。
その上から、彼女は水を滴らせる。
布は直ぐに水を吸収し、細かい繊維の間に染み込んだそれは、隙間を無くす。
鼻と口にピタリとくっついた布は、更に注がれる水を吸いきれず、男の呼吸器を伝い腹へと落ちていく。
「ーーッ! っ、……!?」
ガタガタと震え、もがくように身体を跳ねさせ、不意にアイリスは布を引き抜く。
「ぶはっ!?はーっ、はぐぅ!」
たっぷり飲み込んだ胃袋を、外から彼女は思いきり殴る。逆流する胃液と水が吹き出し、中が空になるまでそれは続いた。
そして、また布が落ちる。
水が染み込み、腹に溜まり、全てを吐き出す。
「は」
「ははっ」
笑っていた。
「あはははははははははは」
男の笑い声だ。
どんなに傷を負っても死ねず、治った後から壊され、永劫続く様な地獄に、心が壊れてしまっていたのだ。
そうして心が死んだ彼はそのまま、苦しみの中で、肉体の死を迎えた。
「運が無かったな、ほんと。オレ以上に運がねェよ、てめェ」
依頼人に見える様に吊るされた亡骸へ、猟兵の言葉が静かに空へ溶けていった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
素敵なプレイングをありがとうございます。
またの参加をお待ちしてますね。
GMコメント
ユズキです。
こちら、みんな大好き(偏見)の悪属性依頼になります、成功後の名声値変動は通常と異なりますのでご注意ください。
●依頼達成条件
護衛を倒し、ターゲットをできる限り苦しめてから殺すこと。
●目標敵
男:
ターゲット。不思議な力も無いし戦う術はない、ただの人間。
護衛:
6人の護衛で、魔物対策として雇われているだけ。まさか人間が襲ってくるなんて露とも思ってない、民間企業。
なのでパッシヴ的なスキルとかはないです。攻撃種類は物理系のみ。
どんな武器を使うかは不明ですが、ショップに並んでる内のどれかでしょう。
●ポイント
特にないです。
思う存分暴れるもよし、苦悩するもよし。
皆さんのプレイングを楽しみにしています。
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