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シナリオ詳細

<八界巡り>リュグナーの世界

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『イデアの棺』
 大きな柱を中心に接続された八つのチャンバー。
 空中設備の音だけがするこの部屋に来るのは、一体何度目になうだろうか。
 たしか……。
「六度目、だったか」
 指折りして数えたリュグナー (p3p000614)は、手にしていたマグカップを口につけた。
 部屋の隅へ申し訳程度に設けられた休憩スペースには、なが机と十つほどのパイプ椅子。そして汚れた灰皿が無造作に置かれている。
 どこかの研究室で余った備品を適当に回して貰ったのだろう。どれも非常に古く、がたついていた。
 上谷・零 (p3p000277)は取り出したパンを千切って食べながらリュグナーへと振り向いた。
「次の世界って、たしかリュグナーの所だったよな。なんて世界なんだ?」
「世界に名を問われても困るな。世界に唯一無二のものは、固有名詞を持たない。どの世界でもそうだったろう?」
「まあ、たしかに」
 ランドウェラ=ロード=ロウス (p3p000788)の世界も『裏世界』というような呼び方をしたが、現地の人間がそう区別した空間だけを区切って述べたにすぎない。あの世界にどんな名前があるのかなんて、世界を出るまで考えたこともなかった。
「視野が広がったと……いうべきなんでしょうか。あの世界しか知らなかったら、今のような考え方はきっとしなかったでしょうから」
 桜咲 珠緒 (p3p004426)は自分のいた……ないしは囚われていた世界のことを想った。他世界人から見ればひどい仕打ちだったのかも知れないが、あれはあの世界では最善を尽くした上での方法だったのだと、珠緒は思う。
「みんなの世界を順番に見てきて思ったけど、『普通』ってすごく曖昧な概念なのかもしれないね」
 コップを両手で包むように持って。藤野 蛍 (p3p003861)は水面を見つめた。
 故郷だった世界の『当たり前』が、他の世界で通用するとは限らない。それはもしかしたら、人と人の関わり合いにも似たもので……。
 みんなひどくイビツなのに、自分の形が普通だと思ってしまう。他者の見えない部分を見ないまま、突き出たイビツさを羨んだり蔑んだりするものだ。
「今までって、いつも同じ立場に立ってものを見ていたよな。俺の『学校』だって、生徒と教師に別れてたつっても閉ざされた建物の中だけにしかいなかったしさー」
 野球のボールを自分のはめたミットに投げ入れる動きを続ける清水 洸汰 (p3p000845)。ちょっと高く飛ばしたボールを、マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス (p3p002007)がキャッチした。
「であると同時に、IFの体験でもあった。俺があの世界で生きて、得ることの出来なかった体験だ。世界の再現ではあっても、忠実ではない。この研究は世界の影響力を知るための研究だと言っていたが、ここまで『主観と客観』に拘るのはやはり意味があるんだろうか……」
「『主観と客観』、ね……」
 ジェック・アーロン(p3p004755)は自分の身体から抽出、再現された世界のことを思い出していた。懐かしい世界。なのに違和感のある世界。知らない何かが侵食して、世界を少しずつ歪めている。そんな風に思えていた。
 そしてきっと、その原因は……。
「次は、どんなミッションが課せられるのかな」
「さあ、な。我らは依頼された内容を遂行するのみ」
 いつも以上にドライな言い方をするリュグナーに、マカライトは眉をわずかに動かした……が、会話を遮るように開いた自動扉に彼らは振り返った。
 眼鏡をかけた男。そうとしか表現できないほど印象に残らない彼が、ファイルを片手に部屋へと入ってくる。
「お待たせしました。次のログイン作業に入りましょう」

●地球世界A6977『クリーク』
 そこは人類種と魔物種による終わりなき戦争の世界。
 世界を二分する種族は星の覇権を巡り互いを破壊し合っていた。その歴史はあまりにも長く、いつから始まったのかもわからない。
 『地球A0001(バベル的に言えばPLの住む標準的地球)』と比較してみると、中世後期のヨーロッパめいた文化で人類が統一されているが、一方で技術力は22世紀レベルまで進化し、鎧の騎士が空を飛び剣から光線を放つといった光景が当たり前となる。
 一方の魔物は生まれついて備わった魔力を発展させ高度化した独自性の高い文明を築き、知性や能力に大きく偏りがあるもののその技術を軍事力へ注ぎ込むことで人類と対等に競い合っていた。
 こうして幾度となく大規模な戦いが行われるこの世界の歴史は、しかし勇者と魔王の歴史といってもよい。
 不明な起源をもつ特別な魔物『魔王』は他の魔物を指揮する力と才覚をもち、全統一的魔王軍を結成。人類と対等の勢力を作り上げたとされる。
 一方で『勇者』は人類の中でごく稀に魔法の才能をもったイレギュラーであり、勇者に覚醒した者は例外なく人類の最前線へと送られる。その結果死亡することも多いが、永い歴史の中で勇者の出現が途絶えたことはなく、それが神の意志なのだとされていた。
 この世界もまた星を巡る争いを行ってはいるが、地球A0001の地図と照らし合わせればその形状はひどく異なっていた。これまで使用されたアースクラスの魔法や化学兵器によって大陸の形状はたびたび変化したというのが有力な説である。
 実際の大陸図は、地球A0001でいうマリアナ海溝を中心としたエリアにアルプスを越える山脈が広がり、そこを中心とした超巨大な『大陸(固有名詞はない)』を斜めに分割するようにして人類と魔物の勢力圏が分かれている。

 そんな世界で、介入者であるイレギュラーズたちに課せられたミッションは『人類側、魔物側、どちらかについてこの戦争を激化させる』ことである。

●縺雁?縺。繧?s繧呈ョコ縺輔↑縺?〒
 介入手続きを行ないます。
 存在固定値を検出。
 ――桜咲 珠緒 (p3p004426) 、検出完了。
 ――上谷・零 (p3p000277) 、検出完了。
 ――リュグナー (p3p000614) 、検出完了。
 ――リュグナーオルタ (p3pxxxxxx) 、検出完了。
 ――ランドウェラ=ロード=ロウス (p3p000788) 、検出完了。
 ――清水 洸汰 (p3p000845) 、検出完了。
 ――マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス (p3p002007) 、検出完了。
 ――藤野 蛍 (p3p003861) 、検出完了。
 ――ジェック (p3p004755) 、検出完了。
 ――イデア (p3pxxxxxx) 、検出完了。
 世界値を入力してください。
 ――当該世界ではありません。
 世界値を入力してください。
 ――当該世界ではありません。
 世界値を入力してください。
 ――蜒輔r谿コ縺励※
 介入可能域を測定。
 ――介入可能です。
 発生確率を固定。
 宿命率を固定。
 存在情報の流入を開始。
 ――介入完了。
 ようこそ。今よりここはあなたの世界です。


 ――システムに侵入した異常の特定に成功しました。
 ――疑わしいデータがサンドボックスへ隔離されました。


 ――サンドボックスを消去しますか? YES/NO

GMコメント

 ご用命ありがとうございます。黒筆墨汁でございます。
 当シナリオは、旅人8名の出身世界を個別にめぐる非連続シリーズ<八界巡り>企画の第六弾でございます。
 そうなることはそうそうないとは思いますが、全ての世界(8世界)を巡ることが必ずしも出来るとは限らないことを、あらかじめご了承ください。

■ミッション
 ミッションは『人類側、魔物側、どちらかについてこの戦争を激化させる』ことです。
 どちらかの勢力さえ決まっていれば立場や能力は自由。魔王の四天王や勇者や人類軍の元帥など好きなポジションを選べます。
 能力も天を割くなり時間を巻き戻すなり好きに選ぶことができます。
 ただしこの規模でのスパイ行為や裏切りはほぼ禁止とします。よほどの理由がなければやらないでください。

 フックとして、人類側が勇者を筆頭とした超大規模な山脈越え作戦を敢行する予定があるのでそれにひっかける形がベターでしょう。

■この世界でできること
 世界をシミュレートしている状態です。混沌ルールは適用されません。
 また非介入側世界にしか存在しない技術を習得ないし持ち帰ることはできません。

・魔物
 生まれついての魔物です。魔王によって統一された軍隊で、人類に比べ統率力があります。
 形状や能力は自由に選んでください。竜になろうがスライムになろうが自由です。チート級の能力を持っていてもいいですが、その場合自動的に四天王扱いになります。
 なお。『魔王』のポジションを得ることはできません。なぜかできません。

・人類
 皆さんの想像しているとおりの人間種です。魔物との戦争が紀元前から続いているので人類同士の戦争とかばかばかしくてやっていません。一応利権だなんだという水面下の小競り合いはおきていますが、表面的には人類勝利のため一致団結しています。
 人類軍は中世ぽい装備にSFじみた科学力をつけた超兵士たちです。肉体もだいぶ改造しています。
 装備や立場は自由に選択してください。ただし魔法が使える場合自動的に『勇者』扱いになります。

・ラグナロク作戦
 超大規模な山脈越え作戦です。
 人類のあらゆる勢力が団結し、あらゆる方法で山を越えます。飛空戦艦で突っ込んだり超兵士の大部隊で陸路を進んだりします。
 当然魔王軍の苛烈な攻撃にさらされるので、世界史上最大の戦いが起こるはずです。

■■■アドリブ度■■■
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度は■■■■■
 信用し■■■■■■■

  • <八界巡り>リュグナーの世界完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年01月21日 22時01分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者

リプレイ

●電脳の隙間
 『イデアの棺』はシミュレーターである。
 ウォーカーの肉体から世界情報を抽出し、予測によって補完し、再現された世界という名のプログラムへ複数人を同時に介入させるシステムだ。
 だが今回、介入直後の僅かな時間。
 星の巡る銀河めいた空間に八人は立っていた。
 それぞれの立場を定める必要がある今回のため。存在固定が完全に終了してから混乱してしまわないための、いわばバイパスなのだろう。
「あのさ、ひとついい?」
 『恋揺れる天華』上谷・零(p3p000277)は床もないのにつかつかと歩き、振り返る仲間達に手をかざした。
「イデアって誰? リュグナーオルタって誰? なんでこんなにイレギュラーな奴らいるんだ?」
 その疑問は当然というべきなのだろうか、『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)へ視線という形で向けられる。
 リュグナーはといえば目を合わせず(というより目を合わせようのない目隠しをして)くつくつと笑っていた。
「愉快な闖入者……というべきだろうか? 我はこれが何者であるかという情報は残念ながらもっていない。
 だが……心当たりはあるのではないか? 洸汰、ランドウェラ」
 急に水を向けられて、『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)ははたと顎を上げた。
 ポケットに入っていた紙切れが全部真っ黒に塗りつぶされていたのを不思議がっていたところだったから、だろうか。
「あー、もしかしてだけど……僕の世界で見たっていう『ランドウェラに似た男』の話かな?」
 逢ったのは確か蛍だったよねと言われ、『桜花絢爛』藤野 蛍(p3p003861)は今日一番の難しい顔をした。
 そして、本能的に自分の首筋を撫でる。
 『……いや、『違う』な。はやく帰りなさい。こんなまやかしに、魂まで囚われることはない』
 出会ったとき、彼は確かそう言った。
 まるであの世界がシミュレーションであることを理解しているかのような口ぶりだったと、今なら思う。
「あれも、『ランドウェラオルタ』だったってこと? だとしたら、ジェックさんが出会ったって言う彼も……」
「ん」
 ガスマスクを装着しようとしていた『鎮魂銃歌』ジェック・アーロン(p3p004755)が、『理想のにーちゃん』清水 洸汰(p3p000845)の顔を見て目を細めた。
 彼とほとんど同じくらいの外見の、しかしどこか大人びた印象の男は、自らをシミズコータと名乗った。
「その定義でいうなら、あれは『洸汰オルタ』なんだろうね」
 崩壊した世界で50年は生きたと話す彼は、どう考えても洸汰と同じとは思えない。
 もし。もしだ。
 もし洸汰が『どういう人間なのか』を知っている者がいれば、その理由を推測することができただろうが……。
「ま、今はハッキリしたことわかんねーもんなー。分かってんのは、イデアとオルタっていう二人がオレたち以外にこのシステムに干渉してるってことだ」
「外部からのハッキングという線はないのか?」
 『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)が問いかけたが、『桜花爛漫』桜咲 珠緒(p3p004426)はログの書かれたウィンドウを開きながら首を振った。
「それはないでしょう。そもそも今回の目的が外界研究ですし、そとから侵入があったならその痕跡が残るはずです。そしてそれを姉ヶ崎研究員はよしとしていませんでした」
「『でした』?」
 語尾をとりあげる形で聞き返すマカライト。
 珠緒はログウィンドウを閉じて肩を落とした。
「今回の実験前に、あの眼鏡の……そう、眼鏡のひとに確認したんです。姉ヶ崎さんというらしいんですが」
 それで? と続きを促すマカライト。珠緒は手をかざしジェスチャーを交えて話し始めた。
「私は、もしかしたらこれが協力を装った搾取ではないのかと疑ったんです。それが蛍さんを害するものであるかもしれない、と」
「珠緒さん、そんなことしてたの?」
 蛍と珠緒の関係性については周知のこと。零も『まあそうなるな』という顔で頷いていた。
「データの取得は正常に行えているし、私たちの肉体や存在に何か一方的な干渉をするようなものではないと保証してくれました。裏をとってみましたが、嘘をついてはいないようです」
「けど、実際に何かは『いる』」
 ジェックはつぶやいて、自分の手のひらを見つめた。
 べっとりとした血の感触を、今でも思い出す。
 自分の腕の中で息絶えた、イデアという青年のことを思い出す。
「また、出会うのかな。その時は、どんな顔をしたら……」

●リュグナーの世界
「やあ、君がジェックか。噂は聞いてるよ。凄腕なんだってな」
 目の前に、イデアが立っていた。
「僕の名前はイデア。星の勇者だ。人類の存亡を欠けたこの作戦、絶対に成功させよう!」
 握手を求めて差し出された手と、イデアの顔。
 それを交互に見てから、ジェックは無言でガスマスクを装着した。
「……ヨロシク」

 地球世界A6977『クリーク』。
 人間と魔物が永遠の戦争を続ける世界。
 いつから戦いが始まったのか、そしていつ終わるのか。誰も解らぬまま、戦争が日常となってしまった世界。
 そんな世界で……たとえば21世紀の標準地球人類が月への移住を計画するように、このラグナロク作戦は発動し実行されていた。
 人類側の総力ともいうべき超弩級飛行戦艦『上谷』は、その設計から建造までに携わった英雄上谷零にあやかってつけられた名をもつ。そのコントロールデッキにて、零は軍服と軍帽に身を包んで立っていた。
「ついに、山脈を越える時が来たのですね」
 美人秘書官に言われ、零は小さく『ん』とだけ返した。
 視線は前方。大きな透明板ごしに見える山脈地帯に向けられている。
「反応多数。魔王軍と思われます」
「まもなく接敵。神聖王国騎士団第一から第十三部隊、魔道帝国結社第一席から三十三席、および――」
 マジックスクリーンに並ぶ無数の部隊名とシグナルアイコン。
 全人類が結託したさまが、そこには現れている。
「全部隊出撃準備よし。『星の勇者』イデア、『桜花の勇者』蛍も出撃準備に入ったとのこと。元帥……」
 振り返るデッキのスタッフたち。
 視線は零ひとりへ集まっている。
 そしてベテランクルーの一人がおどけた調子で言った。
「お出になられますか?」
「ああ、防衛部隊の先頭に出る。攻撃部隊は蛍とイデアに任せれば良い。ジェックはいるか?」
『いるよ』
 魔道電動管から応えるジェック。
「艦の砲台をたのむ。俺は――『Infinite bread』で出る!」
 そう述べると、零はかたわらに置いていた魔法の大鎧を装着。
 ショートカット用のハッチから戦艦の真上に出ると、大空に巨大な壁を生成した。
 否、壁ではない。極小の魔方陣が大量に組み合わさった特殊召喚陣群である。
「開幕ののろしだ! 全軍出撃!」
 掲げた腕を振り下ろすと、大量の魔法剣や聖槍が出現し降り注いでいく。
 ケテルクラスの魔物を一撃で葬るような武装が大量に、そして一度に打ち込まれたのだ。
 戦艦からは無数の部隊が出撃。ジェックはその砲台に立ち、コントロールライフルを手に取った。訓練用の木銃にもにた作りだが、彼女がマジックスクリーンに映った対象に狙いをつけると戦艦の主砲がそれにあわせて狙いをつける。
「まずは、こいつから……」

 ジェックが狙いをつけたのは魔王群の中でもトップクラスの人望を誇るジェネラルコータ。
 雄々しいバッファローのような角と悪魔の翼。そして世界樹の根をもぎ取ったとされる伝説の棍棒を備えた悪魔だ。
 広げた翼を羽ばたかせ、降り注ぐ魔法剣たちを野球バットのような棍棒で打ち払うと、山一帯に暴風を起こして降り注ぐ武器をなぎ払っていった。
「この山脈を防衛しろとのお達しだ。みんな、気合いいれていくぜー!」
 洸汰が空に向けて咆哮。すると暗雲を突き抜けて巨大な鉄の壁が降り注ぎ、山脈上に何十メートルもの壁を次々に高速建造していく。
 そこへジェックの放った主砲が打ち込まれ、鉄板を破壊。
 その穴から人類軍が突入をはかるも洸汰は次なる砲撃をバットでもって打ち返した。
「面白くなってきたな! どんどん撃ってこい!」
 打ち返した砲弾ははるか彼方へきえていく。ジェックはスクリーンごしにコータへ狙いをつけ、魔術で作られた引き金を連続で引いた。
 戦艦に備えられた主砲および副砲のすべてがコータへ狙いを定め、巨大な退魔弾や銀のフレシェット弾が発射されていく。
「うおお!?」
 コータは弾幕に晒されるも、連続して振り回した棍棒によってその内一発の砲弾を戦艦へと返した。
 右舷の障壁を破壊された戦艦が傾き、山脈へと落ちていく。
 だが、途中で離脱したジェックたちは主砲を含めた武装をパージしてコータへの反撃を続行した。

 激しい爆発が起こり、続けてあちこちで魔法の爆発と剣や爪のぶつかり合う音が響く。
 人類軍と魔王軍の人的衝突が始まったのだ。
 その中を駆け抜けるのは勇者蛍とその側近である珠緒。
 聖法鎧からはえた魔法の翼を羽ばたかせ、二人は飛来する魔物たちを次々と切り払っていく。
「蛍さん、前方に強力な反応。来ます!」
 大地を突き破って現れる巨大な円錐状の物体。それは大量の黒い鎖にほどけ、内側から身の丈10mほどの巨大な人影が現れた。
 胸に狼の意匠が施された巨大な鎧魔人である。
「魔王軍兵の殆どを倒しきったつもりだろうが……俺の存在を忘れてはいないか?」
「魔人マカライト!」
 クククと笑ったマカライトは腕を小さく掲げ自らの力を周囲へと干渉させていった。
 すると真っ二つにした魔物や焼き尽くした魔物たちがまるで糸にほどけるかのように鎖へと変わり、再び編み上がった鎖が新たな魔物となって人類軍へと襲いかかった。
「こいつを倒さない限りいくらでも敵は蘇る、ってわけね」
「その通りだ勇者蛍。もう一人の勇者を呼んだらどうだ?」
「それには及ばないわ! 珠緒さん、お願い!」
 蛍の呼びかけに応じて、珠緒は自らの血の力を完全解放。
 赤い鎧を纏うと、吹き出る血が自己増殖を重ねマカライトと同等なまでの10m近い鎧へと変化した。
「ほう……」
「ここは通して貰います。人類の未来のために!」
 鎧を操作して殴りかかる珠緒。
 マカライトもまた拳を叩きつけ、赤と黒の鎧巨人は真正面から激突した。
「皆、あの桜花だけを見て、駆け抜けなさい!
 花は桜木 人は騎士!
 咲くも散り果てるも気高く美しくありましょう!」
 その一方で蛍は蘇っては荒れ狂う鎖の魔物たちめがけて桜色の剣を振り込んだ。
 大量に分裂したシートがそれぞれ剣を形成し、魔物達へと飛んでいく。
 一発一発が悪魔を殺す力を持った模写聖剣の一斉射撃である。
 だが、魔物側の切り札はマカライトだけではない。
「手子摺ってるみたいだね。けど、まだ戦えるだろう? 戦わなければいけないよ。戦えないのかい?」
 空間を切り裂いたワープ移動によって現れたランドウェラ。
 悪魔の翼でゆっくりと空に浮かぶと、魔法の糸によって倒された魔物達を再生。更に強化していく。
 マカライトとランドウェラ。この二人の悪魔が揃った時不滅の軍隊ができあがる。
 人類軍がいかなる物量をもってもこの山脈を越えられなかった原因だ。
「さあ、宴を始めよう」
 ランドウェラが膨大かつ緻密な魔術式が刻み込まれた腕を振り上げた途端、大地の底に眠っていた死した魔物たちが一斉に復活。咆哮をあげて人類軍を押し返していく。その中には太古の魔人や山そのものとなっていた巨人なども含まれ、人類軍はその圧倒的戦力に潰されようとしていた。
 だがそんな人類軍を助け導くのが勇者蛍と珠緒である。
 二人は力を絡み合わせ、血と紙による模写聖鎧『最小単位の聖堂』を作成。大量の人類軍兵士たちへと装着させ、一人一人に準勇者級の力を付与させていく。

 実力は拮抗し、人類軍と魔王軍は互いを破壊し合い、そのたびに再生させていく。
「けれど、こんな戦いもこれまでだ。僕は……この戦いを『終わらせる』!」
「……ほう?」
 流星の如く空を走った勇者イデア。それを迎え撃つのは魔王軍の知将リュグナーである。
「来るが良い! 他者に命の使い道を選ばれた愚かなる存在、勇者よ!」
 目隠しを剥ぎ取り、両目を見開く。
 『世界に認識を従わせる』という能力によって地形ごと変化した山々がイデアを包み込み、ごく小さなマントルがイデアへと叩きつけられる。
 が、イデアは星の力をもってそのすべてを掌握、支配下において山と空を切り裂いた。
「現実改変能力は同等、と言ったところか。ならばこれならどうだ?」
 リュグナーはイデアの精神に対して直接干渉しはじめた。
「奢り高ぶり自惚れよ。無抵抗を晒し、心臓をさらけ出すがいい」
 地獄の大総裁オセ、さらには地獄の大公爵アガレス、地獄の大総裁ボティスが姿を現し、イデア一人を集中的に狙い始めた。
「――戦争故、手加減は出来ぬ。死んでも文句は言ってくれるなよ?」
「負けない。俺は、俺は……この世界を守るんだ……!」
 歯を食いしばってオセ、アガレス、ボティスたちの猛攻を凌ぎきるイデア。
 星の聖剣が彼らを切り払い、銀河の彼方へと消し去っていく。
「ハァ、ハァ……これで」
 息を切らせたイデア――の背後に、リュグナーはいた。
 大空のただなか。
 誰もが見上げる光景。
 それは、リュグナーが自らの腕でもってイデアの鎧と肉体を貫き、心臓をもぎ取る瞬間だった。
「――ぁ」
 力を失い、墜落していくイデア。
 勇者の死に、人類軍に衝撃が走る。
 と、その時だ。

『退くのだ、人類軍よ』
 大空に映し出された魔王の姿。マカライトにもランドウェラにも、ましてイレギュラーズたちからして見慣れない、誰とも分からない姿だったが、リュグナーにだけはそれが誰だかわかった。
「……リュグナーオルタ」
『我は魔王。魔を統べる者なり。人類軍よ、退け。この戦いで滅び去るべきではない』
 リュグナーが振り返ると、人類軍の兵士や勇者蛍たちは小型の飛空艇に乗り込み撤退を始めている。
 足下には、勇者イデアの死体。
 答えはないだろうが、問いかけた。
「貴様は、戦争を『終わらせる』と言ったな……我々の『真なる意思』とは正反対に。それは、この世界の破壊を意味すると、分かっているのか?」
 答えはない。
 戦いの終わった山脈と、無数にあがる黒煙があるだけだ。
 戦いは続く。
 いつまでも。
 いつまでも。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――リュグナーの世界、介入終了。
 ――データの取得に成功しました。

 ――システムに侵入した異常の特定に成功しました。
 ――疑わしいデータがサンドボックスへ隔離されました。
 ――データを消去しますか?
 ――YES
 ――データの消去を完了しました。

險ア縺輔↑縺
縺雁?縺。繧?s繧定ソ斐@縺ヲ
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縺雁?縺。繧?s繧定ソ斐@縺ヲ
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