PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<アアルの野>君は人間らしいから

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●こゝろ
 名前なんて、忘れたわ。
 お父さんとお母さんは、盗賊(わるいやつ)だと殺された。
 私にとっては良い両親だったのに、世界は二人を許せなかった。

 私は偶然魔術を使えたから。
 ボスが「お前は使えるな」と私に言った。
「復讐しねぇか?」
 私は、どうしてと問うた。お父さんもお母さんも死んだから、それ以上も無い。
「両親を殺したヤツを殺すんだよ、惨たらしく」
 私は、必要は無いと応えた。そんなことしたってなんとも思わないから。
 錆付いた。
 心を動かす事ほど、恐ろしい事はないから。
「じゃあ、一緒に行くのは? 怖くねぇか?」
 ボスのそれをやさしいというのだと学んだ。私は首を振った。
 怖がる事なんてなかった。
 どうせ、弱ければ殺されるし、着いていかなければ子供一人じゃ死ぬだけだし。
 それなら戦ったほうがマシだった。一緒に行くと私は言った。

 ――お前は心がないからハートロストだ。シンプルで分かりやすいだろう?

 だから、私はボスの為に戦った。
 戦って、戦って、辿り着いたこの場所に。

「おかあさん……?」

 あなたがいるなんて、知らなかったの。

●introduction
「ファルベライズの遺跡群、その中核の向こうからイヴって名乗る女の子が出てきたんだって。
 守護者、らしいけど……前の戦いで『死者を模した人形』が出てきたのは扉の向こうでは『ホルスの子供達』って呼ばれてるらしいんだ」
 色宝を使用して土塊の人形に死者を投影して再現する、のがこの技法なのだと『サブカルチャー』山田・雪風 (p3n000024)は言った。
「今回、大鴉盗賊団も扉の向こうに向かってるみたいで……まあ、『また』だけどハートロストを見つけた」
 遺跡の中でイレギュラーズが相対したことの或る一人の盗賊、その名前も『ハートロスト』。両親を傭兵に殺された盗賊のこどもは、魔術の才覚を買われ大鴉盗賊団に所属しているらしい。
 特筆すべきは感情が錆び付き、『心がない』とさえ揶揄される状況であるために、彼女は恐怖心も惑いもない。教えられた『かわいそう』や『こわい』を宛がうように使用しているだけだという。そんな彼女が、立ち止まっているのだという。
「ハートロストはコルボの協力者。それで、扉の向こうまで部下を連れて向かったみたいだけどさ、ホルスの子供達と相対したみたい」
 彼女はそれと相対して歩みを止めている。一時的にでも良いから彼女を今一度扉の外まで撃退して欲しいというのだ。
「彼女は、『ホルスの子供達』と出会ったよ。
 ハートロストと同じ、勿忘草の色の髪をした女の人を模した人形……彼女の、おかあさんと」
 雪風は言い辛そうにそう言った。
 少女にとってそれが根底を揺るがすものである事には違いない。
 だが、放置しておいて色宝を奪われる事も見過ごせないのが現状だ。
「モンスターも周回している場所だし、気をつけて欲しいんだ。
 ハートロストは、動揺していると思う。けど、心が欲しいって願ったあの子はそれでもって進もうとすると思うんだ」
 だから、止めて欲しい。そう願う雪風は「気をつけて」と歯痒そうに言った。

GMコメント

日下部あやめです。

●達成条件
・『ハートロスト』の撃退
・『モンスター』の撃破

●シチュエーション
 中核の扉の向こう側、クリスタルの迷宮。
 色宝が作りだしたのはハートロストの心象風景。真っ白の部屋です。

●大鴉盗賊団 『ハートロスト』
 又の名前は『こゝろ』。大鴉盗賊団に所属する少女。盗賊であった両親は傭兵に殺され、その結果、感情(こころ)が動かなくなりました。
 無表情。色宝を多数集め、ボス『コルボ』に献上した後、分け前で自身に『感情(こころ)』を取り戻したいと考えています。
 両親を殺した傭兵や其れを依頼した商人を殺しても良いと考えています。其れ等全てが『こころの存在意義』になるからです。
 後衛魔術士タイプ。魔術があったからこそボスに目を掛けて貰えたと彼女は知っています。
「<Common Raven>待宵のこゝろ」「<Raven Battlecry>私を私たらしめる唯一の」に登場しました。

 ……母を模したホルスの子供達にどうする事もできません。呆然としています。
 母が倒された時点で部下も捨てて一人で逃走するでしょう。彼女にとっては動揺するきっかけです。

●大鴉盗賊団 部下*5名
 ハートロストにとっては捨て駒でしかない部下です。イレギュラーズに対して戦いを挑みます。

●ホルスの子供達『母親』
 ハートロストの母親です。言葉は通じません。ニコニコと微笑んでいます。
 前衛タイプの傭兵でした。故に同じように戦うようです。

●モンスター *2体
 大きな蝶々を思わせるモンスターです。ホルスの子供達『母親』と共に行動し、生命体からいのちを吸い取ります。
 美しい外見をしていますが、毒蝶であり毒粉など遠距離魔術を使用してきます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <アアルの野>君は人間らしいから完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
リディア・T・レオンハート(p3p008325)
勇往邁進
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
微睡 雷華(p3p009303)
雷刃白狐

リプレイ


 少女がその名を呼んだのは、その心には常に両親が居たからだ。
 居る筈のない、死んだら戻る筈がない。其れは当たり前の事であったのに。
「どうして」
 ボスの為と願って進んで。そうやって来た少女の心を揺らがす唯一。

 感情が揺れ動くことがなく、理性的な判断を行った結果が盗賊団の一人であったというならば。
 それが魔術の素養を利用された子供であろう共、他の盗賊たちと区別する必要はないと『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)は考えていた。故に、どれ程までに彼女に同情したとしても彼女が盗賊であったという罪は消える訳がない――だが、ハートロストと呼ばれた少女がこころを取り戻したときに感じる傷は大きくない方がいい。
「……ハートロストの状況は聞いた」
『折れた忠剣』微睡 雷華(p3p009303)は彼女の現状を憂う人々が、彼女としっかり話す事が出来る様にと願う。道を開き、その声を届けなくてはならないと雷華は『アアルの野』と呼ばれたクリスタルの迷宮へと突き進む。
「大鴉盗賊団の『ハートロスト』ね」
 呟く『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は悩まし気に呟いた。ラサの傭兵であるルカにとって大鴉盗賊団に所属する盗賊は明確な敵である。そして、ハートロストからすれば傭兵であるルカは仇に分類されるだろう。助けようとして手を伸ばせど拒絶されることは目に見えており、助ける必要の欠片も感じる事もなかった
「仲間が助けてぇっつーんなら『仕方ねえ』……女の頼み一つ聞けねえで、ラサの男が務まるかよ」
 有難う、と静かに返した『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)はハートロストの元へと向けて走っていた。当初、彼女の姿を見つけた『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)はハートロストとの二度目の邂逅で『彼女に変化』があった事を僅かばかりに喜ばしく感じていた。
 瑠璃の言った通り、ハートロストは今まで理性的であった。人を殺す事に感情が動かぬために躊躇いなど存在せず、言われるが儘であれども、躊躇いを覚えずに選び抜いてきた。そんな彼女が母の姿を見て動揺しているならば――『これが話す機』なのだと。
(あなたの心は瀕死の重傷。今すぐに自己治療が必要なの、気がついてよ……)
 唇を噛み締めて。師は精神の医者であったことを『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は思い返す。師ならばどの様な言葉であの心を解すのだろう。半人前である少女にとって、ハートロストの心を治癒する事は難しく感じていた。
 ――それでも、彼女の心へと届けば、と。そう、願わずには居られない。
 踏み入れればそれは少女の心象風景を顕わすかのように真白の空間であった。静寂と、静謐だけが溢れた歪な白。美しい、と感じる前にそれは悍ましい程の空虚であると『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)は息を飲む。
「あらあら……悲しい子ね」
 呟きと共に『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は目を細めた。部屋の白にも溶け入ってしまいそうな美しき冬の吐息の儚き色彩。其れを身に纏った娘は立ちすくんだ色彩を有する少女を双眸へと映す。
「……心を殺して、他人を排して。まだまだ先はあるのだから、もっとより良い未来を見れると良いのだけれど」
 ハートロスト、とリディアの唇が震えた。ミルクコーヒーの様な柔らかな色彩は、砂漠の太陽の如き赫々たる色の瞳は――嘗て、沙月が耳にした盗賊の少女。リディアが相対したことのある『こゝろ』を失った少女。
 心の赴くままではなく、選び取ってきた未来が盗賊団のボスの為という依存にも似た行動指針。其れを否定することも肯定することもなく、瑠璃は仲間達の方針を尊重する事を決めていた。

 ――ハートロストを救いたい。ハートロストを、助けてあげたい。

(……盗賊と傭兵の間柄で、其れに協力するってのも可笑しな話だよな。けど、泣きそうな顔で其れを頼む奴が居るんだぜ。俺は、アイツにとっちゃ――)
 息を吐いた。盗賊と傭兵なんて天敵だ。姿勢を脅かす盗賊を討伐する傭兵達。故に、その一連の仕事で命を失う者が居ることもある。ハートロストが幼い少女と言えども彼女は盗賊団である。彼女が誰かの命を奪った可能性も――だが、それ以上は考えても詮無き事だろうか。

 今、彼女は『傭兵が殺した母』をその双眸に映して、立ち竦んでいたのだから。


 呆然と立ち竦む少女の背後で何事だというように訝しげな表情を向ける男達。盗賊の許へと我先にと飛び込んだリディアは「状況は理解できるでしょう! 命が惜しければ投降しなさい!」と声を張り上げた。鮮やかな月を思わす髪は豊かに広がり、輝剣リーヴァテインの切っ先が鮮やかな蒼光を湛える。
 モンスターと盗賊団、其れ等に視線を向けたルーキスは微動だにしないハートロストと訝しげな表情に『やっとお出ましだ』と言わんばかりに笑みを浮かべた盗賊達を見比べる。
「誰が投降するって? あのガキにとっちゃ俺達は捨て駒だ。
 ――なら、俺達にとっても『魔術士のガキ』なんざ、捨て駒でしかねぇんだよ!」
「……仕方ないか」
 囁く声と共に、ルーキスは白百合と瑠璃雛菊、その二つの名を冠する刀を構え声を張り上げる。怯えぬ者は掛ってこい――武者の一声は複数の盗賊を引き付けた。
「……今回の仕事にあなたたちの事は含まれていないから……抵抗しなければ手出しはしない。
 逃げるのも構わない。どうして、戦おうとするの?」
 雷華は情報屋より伝え聞いた此度のミッションについて思い返す。リーダー格として活動するハートロストの撃退、それは彼女の一時的撤退を指すのだろう。動揺する彼女ならば其れは容易にも思える。そして、彼女の周囲を飛び交うモンスターは来訪者を餌のように認識し『ホルスの子供達』と共に進軍する足を止めることはないのだ。
「俺達が盗賊だからだ」と男達はそう言った。その言葉はささくれだった男達の心を顕わす様だと雷華は感じていた。彼等も、ハートロストも、心に何か一つ抱えているのだろうか。頑丈さと扱いやすさを重視した大ぶりのコンバットナイフをぎゅう、と握りしめた雷華はモンスターを睨め付ける。
「……盗賊だから、なら仕方ないよね……」
 ルーキスに引き付けることを任せ、雷華は地を蹴った。盗賊と、そしてモンスターを狙うのは派手な動きである。注意を惹きつけるるその動きで無力化を図るが為に靱やかに少女は飛び跳ねる。
 瑠璃はモンスターへと虹の如く煌めく雲を放った。それは殺めること亡く力を奪う術。ぬばたまの色彩宿した刀身を振るい上げた女の闇色の髪が大きく揺らぐ。
「特に減刑も何もありませんが、今死ぬ確率は下がります。
 どれほど罪を重ねたとしても、生きていれば幸福になる機会はあります。
 投降するなら戦闘に巻き込まれない場所で膝をつき手を挙げていなさい。抵抗する者、逃走する者は背中から撃ちます――それでも、戦いますか」
 抵抗と、否、それは此処を退かぬと言う確固たる意志の如く。幼い少女と、盗賊達。盗賊達へと追い縋る亡者の群れ。重装がその目を曇らせると知るように。
「投降すれば良いものを――」
「なら、お前はするのか?」
 盗賊の言葉に瑠璃はNoを静かに返した。血を蹴れば白き空間に僅かな土が立つ。この場が迷宮の一部で在る事を嫌というほどに感じさせる異質な気配。
 話を聞く相手ではないけれど、と肩を竦めたヴァイスの白薔薇のドレスがふんわりと揺らぐ。美しきは無垢の色。棘さえ悟らせぬ優美な指先は茨に並んだ棘のように迫りくる者を拒絶する。
「まったく、あんまり激しく暴れる子にはお仕置きしなくちゃいけないわね」
 溜息と共にヴァイスはふわりと地を蹴った。美しい白薔薇を侮る勿れと執念の刃が盗賊達へと迫り往く。
「もうやっても無駄だってわかんだろ? それでもやろうってんなら相手になるぜ」
 ルカは盗賊達がこれしきで退く相手ではないことくらい気付いていた。此処は宝物庫である。堰き止められていた道が開かれ、無数の宝が眠る場所。それを、彼等が諦めてなる者かと牙を剥きだし噛み付くことは想像も易かった。
 ルーキスは色宝では彼女の心は満たされない、とそう言った。だが、その言葉を届ける前に、少女は『母』と其れを相手取ったリディアしか見ていないことに気付く。
(母を傷付ける『傭兵』の図に見えるとでも言うのでしょうか――)
 幼い少女は盗賊であった両親を傭兵に討たれた。まるでそれを再現するかのような此の現状に。
 嫌な巡り合わせもあったものだとルーキスはモンスターを一つ、地へと叩き付ける。地を蹴りながら跳躍した雷華の銀の髪が月の光のように揺らぎ、落ちる。
 雷華の着地点で腕をぐ、と差し出したルカ。その腕を足場に再度少女は飛び上がる。牙を剥いて地へと叩き付けたモンスター。
 癒しの魔術は魔道書の蒼と紫の光を湛えてリディアを支え続ける。その様子を眺めながらも瑠璃は盗賊の脚を絡めるように悍ましき亡者の怨念を差し伸べた。


「貴女の相手は私です! かかって来なさい!」
 ホルスの子供たちに――ハートロストと似たかんばせの女を惹きつけるリディアはハートロストと『母親』の間に位置取るように動いた。
「……お母さんに、何をする」
 低く、それは今までに聞いたことのない声であった。振り仰いだリディア、心優しき騎士の娘。彼女はホルスの子供たちが模した『彼女の母親』からハートロストを護るつもりだったのだろう。
「――ハートロスト」
 鮮やかな雷光が、一閃する。其れを受け止めた腕がびり、と痺れたことに沙月は気付いた。モンスターに敵対する彼女はその刹那に、無作為に放たれた魔術に気付き寸での所で避けたのだ。
「……また合いましたね。この前とは随分と違う様子ですが、どうしましたか?」
「……あの女を殺さないといけない」
「どうしてですか? あの女、とは貴女の母を模した人間と相対する彼女の事ですか」
 沙月の問い掛けに憎悪の滲んだ瞳を向けたハートロストは大きく頷いた。ホルスの子供たちの攻撃を受け止めたリディアが唇を噛む。
「コレが本当に貴女のお母さんですか!?」
「違う」
 沙月とリディアは静かに頷きあった。リディアは彼女を救いたいと――だから、耐え続ける覚悟を胸に立ち向かうと決めていたのだから。
「なら、どうして!? 母と同じ姿をしているからと云うならば……
 ――呼び掛けてみなさい! 私を止めてみなさい! 動きなさい! 選びなさい!」
 剣先に『お母さん』が握りしめたナイフがぶつかった。背後よりばちり、ばちりと音を立てて魔術がリディアの背を灼いた。その無抵抗な背中に。ハートロストの憎悪にも似た気配が迫る。
「お前を殺さないといけない。『お母さんを二回も殺させない』
 傭兵はいつもそうだ。お前達だって、生きるためにわたし達を殺しているくせに――ボスが言ってた。

 わたしは、ボスの云う事だけを聞いていれば人を恨み続けて殺さずに、済んだのに」

 その言葉に、リディアは「そうでしょう」と静かに返した。それでも、そこで立ち止まっていては彼女は『普通の少女』に戻ることは出来ない。その憎悪も、その悲哀も、その全てが『ハートロスト』と呼ばれた少女を人間たらしめる感情であるはずだからだ。
 ヴァイスは可哀想な子であるとハートロストをまじまじと見る。その名の通りに感情を失ったと言う少女。心に蓋を、想いなど忘れた彼女の心が刺激され、掻き混ぜられて広がってゆく。
 それでも、リディアは、ハートロストの未来を願う少女は言う。
「――いいですか? 今から私は、この者を滅します。
 本当のお母さんは、きっと優しい人だったのでしょうね。
 母が子供を愛する事、子供が母を愛する事に、善悪など存在しません。
 だからこそ私は、貴女のお母さんの尊厳を護りたいと思います。貴女には、其れを見て欲しい!」 自身を恨むだけではなく、自身が為したいことをするために。
「わたしが支えるから、あなたもしっかりとやりきって!」
 リディア支えるココロは祈るように魔法式医術でリディアを支え続けた。ヒールの鳴る音は、祝福を与え、団結促す大鐘の如き荘厳さを醸し出す。
「ハートロスト、わたしは人の心がわからなかった。だから探し求めた。
 それから。いろんな人と会って話して戦って。大皿に皆が思い思いの料理を持ち込んで載せていくかのように、皆がわたしにいろんな気持ちを寄せてきた」
 ――期待、嫉妬、羨望、感謝、不信。それは人間ならば当たり前に感じる感情だ。
 ココロは『心』を知らないから。ココロは『心』を理解できないから。だからこそ、テーブルに並べられたディナーを攫うように感情を抓み続けた。
 ハートロストを見詰め、ココロは唇を震わせる。自分も、『心』が何かなんて、分からないけれど。
「……関わる人が勝手に渡してくる気持ちが集まって心になるのだと思う。
 自分を『ロスト』だなんて卑下しないで。色宝の力に頼らないで。自らで心の扉を開けて欲しい。無い、なんて言わせない。母のようなそれが壊れた時、何て思ったの?」
「わたしは、『ボスが呉れた此の名前』が大事だった。わたしの、居場所だった。
 ……お母さんを壊した、お前達が、憎い。どうして、『二回も』目の前で……」
 ハートロストは、自身を堰き止め、説得する者が居るとは思って居なかったと小さく呟いた。
 母の人形はつちくれに。彼女が死んだことを、察するように少女の声は、震えていた。
 唇を噛み締めて、戦慄く想い。二度とは沸き立つことのないと感じた心臓が痛いと感じるほどに何かを伝える。胸に手を当て、戸惑いと、そして苛立ちを溢れさせた少女へと向き直り沙月は静かに囁いた。
「戸惑っていますか? 知らないのであれば教えてあげましょう。それが感情……貴女の言う心というのものだと思います」
「心……?」
「ええ。いるはずの人がいないことにより衝撃を受けているのでしょう。
 今の様子を見ると母のことは好きだったようですね。その時の気持ちを思い出してみませんか?
 いなくなったことにより閉ざしたその感情を……そうすれば貴女は心を取り戻したいなど思う必要はないのです」
 沙月は穏やかに、そう告げた。母への想いは確かだ.故に、彼女がその感情を抱いたならば。
「貴女が感じている憎悪も、苦しみも、悲しみも――
 全てを感じないままでいたいのか、そうでないのか選ぶ時がきたのではないですか?」
 沙月の言葉に、ルーキスは静かに頷いた。彼女が無理な選択を行うならば、その足を止めさせローレットで保護することを考えた。だが、今の彼女ならば。故に、問うこととする。
「逃走を黙って見過ごすことは出来ません。この先、一人で戦う覚悟はありますか?
 今見たこの光景……それ以上の困難に見舞われる可能性もある。無論、命の保証もない。それでも進む覚悟があるのなら、道を開けましょう」
「お前達に、庇われるくらいなら野垂れ死んだ方がましでしょう」
 それが彼女の『心』であったか――その眸に燃え滾るような焔の色彩を湛えた娘は唇を噛み締める。
「俺はラサの傭兵だからお前に取っちゃあ俺は仇だ。憎いならいつでも殺しに来い。受けて立つぜ」
「―――」
 ハートロストの眸に、初めて色彩が灯ったとルカは感じていた。人間の感情で最も感じさせることが容易いのは憎悪であるだろうか――此方のやさしさは、彼女には伝わらない。
(いや、『ハートロスト』はそんな感情知らないか――)
 誰かの愛情に疎い故に、愛情を向けられることに気付かない。心優しきイレギュラーズの心を怖れるように背を向ける。
「……『君は人間らしいのだ。あるいは人間らし過ぎるかも知れないのだ』」
 沙月は静かにその背を見送った。名を、と背を追うようにリディアは問い掛ける。
「名前は、思い出しましたか?」
「『大鴉盗賊団のハートロスト』、それ以外でもない」
 心なんて失ったかのようなかんばせで、その眸には激情を乗せて彼女は言った。

 ――けれども口の先だけでは人間らしくないような事をいうのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

この度はご参加有難う御座いました。
彼女の心は確かに揺らいで、その影響を大きく受けたように感じられます。
また、お会いした際にはきっとハートロストではない彼女がお会いできるのではないでしょうか。

またご縁がありましたらどうぞ宜しくお願い致します。

PAGETOPPAGEBOTTOM