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シナリオ詳細

オレの厄を払ってくれえぇぇぇぇ!!!!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●急募の依頼って大体無茶ぶりな事が多いよね
 集まったイレギュラーズを前に、情報屋の男は持っていた用紙へ目を落としたきり伝え方に悩む様子を見せた。
 煮え切らない。早く言え。
 そんな言葉が口々に飛ばされて、情報屋の男は少しずつ話しだした。
「鉄帝の方からの依頼が来てね。なんでも、どうも正規な勝ち方をしたと思えない人が居るんだ」
 歯切れの悪さに眉を顰めるイレギュラーズ。
「例えば?」
「試合の直前に相手が腹を下した、試合を翌日に控えて対戦相手の身内に不幸があった、試合当日の対戦途中で相手が自滅による大怪我を負う、など……」
 一度か二度ならば偶然かもしれないが、何度も起きているとなると不正があったと疑われるだろう。
 となると、今回の依頼はその対象に関しての調査ないしは戦うという事なのか。
 それにしては歯切れが悪い。
「で、調査をするのか? それとも懲らしめてくれとか?」
 その質問に対し、情報屋の男は端正な顔立ちを少し歪めた。困ったような、そんな顔になった。
「…………いや、厄払いをしてくれ、と」
「はい?」
 どういう事なのか。
「周りから不正を疑われている人物の調査とかじゃないの?」
「違うんだよ。そもそも依頼人がその不戦勝などの勝利を飾った人なんだよ」
「え、えぇぇぇ?」
 今度はイレギュラーズが困惑する番だった。
 情報屋によると、こういう事らしい。
 本人が戦うとどうしても何かしらの力が働いたとしか思えない勝利へと導かれ、本人は大変悔しがっているとの事。
 周りの人物に不正をしていないか尋ねるも、全員が「誇りに懸けて全くやっていない」との返答。
 なのに、どれだけ戦おうとしても不戦勝扱いになる。このままではモヤモヤしたまま年を越す事になるし、不正の疑いを持たれる。
 そこで、もしかしたらイレギュラーズ相手ならこういった事態を招かないのではないか。ついでにこの厄を払えないか、と思いついたという。
「そういう訳で、こちらに依頼が来たってわけだよ」
「はぁ……」
「ま、とりあえずは、本人に会って話をしてほしい。戦いの場を用意しているそうなので」
 そんな訳で、向かう事になった。

●ところで、厄って殴って払えるものなの?
「待っていたぞぉぉぉぉ!! イレギュラァァァズッ!!」
 暑苦しい。
 開口一番、叫び声にも近い程の大声で呼ばれて誰もが思わず耳を塞いだ。
 到着したのは闘技場ラド・バウである。観客も大勢居る。
 そして、その中心で腕を組んで立っているのは、髪の毛はフサフサな、少しばかり顔と髭の濃い男だった。
 肩当てと胸当てのみを着けている軽装。しかし、右腕は鉄帝人の例に漏れず鉄騎種になるだろう。
 男の少し後ろには、似たような姿形の機械人形が五体立っていた。唯一の違いは全身が機械であるという事か。こちらも彼と同じく腕を組んでいる。暑苦しい男は一人で十分だ。五倍になるのは勘弁してほしい。
「我が輩がァ! 依頼人の、デストニー・ラバーズであるッ!!」
 自己紹介をありがとう。
 イレギュラーズも一人ずつ自己紹介をしていく。
「それで、厄払いと聞いたんですけど……」
「うぅむッ! そうなのだッ! ぜひとも、貴殿達に頼みたくてなァ!」
「は、はぁ……」
「これまで我が輩は幾度も戦いに勝利したッ! しかし、まともに戦った回数が少ないッ! 戦いを挑んでも、何故か不思議な力が働いているとしか思えん偶然で勝利を収めるッ! これでは武人としての誇りが許さぬゥ!」
 誇りの問題であれば、依頼するのも頷ける。
「そこで、もし何かしらの力が邪魔しているのならば、それが効かないというイレギュラーズに聞けばどうにかなるのではないかと思ったのだァ!」
「あ、はい」
 実際、自分達でどうにかなるのだろうか。
「我が輩はこれが今年の厄だと思っておるッ! なんでも、以前、年齢による厄年なるものがあると聞いた事があってなぁッ! 聞けば、我が輩は今年四十二歳ゆえ、それに当てはまるという訳だッ! 今年だけでこのような事になるのは明らかに厄であろうッ!」
「はぁ……」
 ツッコミするのすら疲れてきたぞ。
 気にしていないのか、デストニーは話を続けていく。
「このままでは新年を安心して迎えられぬッ! そこで、貴殿達には厄を払ってもらいたくて来てもらったッ!!」
「ええと、具体的にはどうすれば……?」
「我が輩とこの後ろに居る人形五体と一緒に戦ってほしいのだッ! 我が輩やこの人形達は遠距離攻撃などという生ぬるい事はせんッ! 純粋に殴って立ち向かわせていただくッ! 貴殿達にも純粋な力で戦って欲しいのだッ! それが厄払いというものだろうと聞いたのだァ!」
 それ、厄払いでいいのかなぁ。
 思ったものの、来た以上はやるしかないだろう。それでこの依頼人の気が……もとい、厄は払えるというのなら。
「それと、この機械人形達はァ! 厄を払うためにも破壊してもらいたいッ!」
 そういう事らしい。

GMコメント

 これが古里兎の今年最後のシナリオとなります。
 一年の締めとして厄払いという事になりました。
 純粋な殴り合い、頑張ってください。
 来年もよろしくお願い致します。

●達成条件
・デストニーと殴り合って厄を払う
・機械人形の撃破
・観客の前で戦い、デストニーの疑いを晴らす

●デストニー・ラバーズ
 今年一年、何故か戦おうとすると不戦勝に近い勝ち方ばかりをしてしまい、悔しがっている四十二歳。
 右手は機械の義手。利き手。主に殴り合いを主としており、近接攻撃のみを行なう。遠距離攻撃も出来なくはないが、厄払いが目的のため今回は封印している。
 不正の疑いをもたれており、それを解消すべくローレットへと依頼した。
 【体勢不利】【崩れ】を有する。
 厄払いが目的のため、命を奪う行為はしない。

●デストニー人形×五体
 見ての通りの機械人形。全身機械だが、動きは俊敏。
 デストニーと同じで近接戦闘を主とする。遠距離攻撃は出来ないように制限されている。
 【体勢不利】【崩れ】の他、【混乱】を有する。
 こちらは厄を払う意味も込めて破壊してほしいとの事。

●戦闘場所
 闘技場ラド・バウ
 整備チェックされているため、舞台などに仕掛けは全く無い。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • オレの厄を払ってくれえぇぇぇぇ!!!!完了
  • GM名古里兎 握
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月19日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
アウローラ=エレットローネ(p3p007207)
電子の海の精霊
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形
ユリウス=フォン=モルゲンレーテ(p3p009228)
貴族の儀礼
ニコル・スネグロッカ(p3p009311)
しあわせ紡ぎて
藪蛇 華魂(p3p009350)
殺した数>生かした数

リプレイ

●繰り返しますが、これは厄払いの依頼です
 舞台に上がったイレギュラーズは、戦う前に体をほぐしていく。
 これもデストニーの希望である。
「準備運動も無しに戦うなど、身体に負担がかかるであろうッ!」
 という事らしい。
 思い思いに身体をほぐし、温めておく。
「なんていうか、いい人だよね……?」
 『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)が準備運動という時間を与えてくれた事に対して、そんな感想を呟く。
「大変助かるな。おかげで戦闘の準備も出来る」
 『泥人形』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)は連れてきた協奏馬二体にアラームをセットする。何のアラームかは戦いの最中でのお楽しみだ。
 準備運動の一つである柔軟をしている最中の『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は、同じように準備運動をしているデストニーを見ながら思った事を口に出す。
「傍からみれば幸運なことでも当人にとっては仕事の妨げの不幸である、なかなか大変ですね……」
「厄とは言いますが、本当に残念なのは戦えなかった相手側なのでデストニーさんだけが不幸というわけでもないのですがねぇ。まぁお仕事はお仕事、全力でお相手しましょう」
 シフォリィの言葉に対して、呟く『男の娘の魅力』ヨハン=レーム(p3p001117)。屈伸運動を終えた彼は、装備の簡単な確認を始めた。
 準備運動を一段落させた『殺した数>生かした数』藪蛇 華魂(p3p009350)は、集まっている仲間達を確認して、歓喜の笑い声を低く零す。
「おやおや、今回は盾役の皆様が勢揃いでございますねぇ。これは全力で治療に集中する事が出来ます、行幸ですねぇ」
 『貴族の儀礼』ユリウス=フォン=モルゲンレーテ(p3p009228)が、疑問の声を彼に投げかける。
「貴公は攻撃に参加しないのか?」
「こう見えても一介の呪術師、それなりに攻撃手段も持ち合わせているのですが……厄払いの場で下手に呪いの力を使う訳にもいきませんからね、今回は医者らしく大人しめに治療に専念でございます」
 笑いながら肩をすくめてみせる華魂。
 「そうか」とだけ返して、武器の点検をするユリウス。
 準備運動をしながらもまだ困惑を隠しきれない『電子の海の精霊』アウローラ=エレットローネ(p3p007207)は、胸中でのみ独り言を呟く。
(んー、厄払いってこんな感じだっけ?)
 自分が聞いたようなものとは違うが、本人が望んでいる以上は全力で当たらねば失礼というもの。
 気持ちを切り替えるように一つ頷いて、「よし」、と胸中でもう一つ呟いた。
 『しあわせ紡ぎて』ニコル・スネグロッカ(p3p009311)も準備運動に参加しながら胸中で考え事を吐き出す。
(勝ちたいだけであれば厄というよりもむしろ美味しいのでしょうけれど、そうでないあたりは鉄帝の栄えある闘士ということなのでしょうかね!)
 最後の屈伸運動を終えて、気持ちを切り替えるように大きく息を吐いて、吸った。
「まあなにはともあれ、それが『幸せ』でないのなら、全力で払ってさしあげましょうとも!」
 誰かを「幸せ」にすること。
 それが自分の役割だと、改めて自覚する。
 準備が出来たと、順次にデストニーへ進言していく。
 デストニーの方も準備運動を終えたようで、「準備を終えたのであるッ!」と返答があった。
 両者、それぞれの位置をとり、構えをとる。
 審判の合図の声が闘技場に大きく響き渡る。
「それでは……ハジメッ!」
 切って落とされた火蓋。
 厄払いの始まりだ。

●壊して、殴って、本気(マジ)の力を見せつけて
 ヨハンの足下から雷のような光が煌めく。
 独自の魔力で対価を支払うそれを確認すると、彼は口元に笑みを浮かべる。
「雷光術式展開……さぁ状況を始めよう!」
 その言葉を皮切りに、飛び込む者が一名。
「では、いざ尋常に勝負といきましょう!」
 ニコルだ。
 彼女は真っ先にデストニー人形へと切り込む。速さを威力に変換するその刃は、人形へと叩き込まれる。
 数歩よろめく人形だが、倒れる事は無い。ならばもっと威力を叩き込むだけだ。
 黒刃を握る彼女の近くで、光の筋が走る。カインが放ったその光は、迷いなく人形を貫いた。
 倒れはしないが、それなりにダメージを与えたのを見て、彼は言い放つ。
「さぁ、仮に厄があったとしてもこの聖なる閃光で消毒だ――!」
 もう一つ攻撃を、と狙う彼の近くで、一人の女性が駆け抜けていった。
 女性――――シフォリィが人形の一体に近付く。白銀の片刃剣を煌めかせ、洗練された動きで一閃する。
 あまりにも鮮やかな一閃。意思が無いはずの人形も思わずその動きを止めるほどに魅了する一手。
 だが、他の人形はそうではない。
 他の人形が彼女に襲いかかろうとするのを察して、ヨハンがある人物に向けて一つの支援を行なう。
 それは月の加護。暫くの間、力を底上げしてくれるもの。
 贈られた対象はユリウス。
 自身に湧く力に、彼からヨハンへとお礼の言葉がかけられる。
「感謝する!」
「どういたしまして!」
 力強く交わされるやり取り。
 ユリウスが叫ぶ。
「私はユリウス=フォン=モルゲンレーテだ! 我こそはと思う者はかかってこい!」
 彼が上げた声に対し、二体ほどの人形が動き、襲いかかる。
 自身の身体でそれらの攻撃を受けるユリウス。頭をぐらりと揺らす何かを振り切るように、手に持つ指揮棒を横へと一直線に薙ぐ。
 華魂が彼の受けた傷を癒やしていく。再び彼の口から感謝の言葉が紡がれ、華魂へと届く。
 お礼を言われた華魂は「ひっひひ……」と笑うだけ。彼なりの照れ隠しなのだろうか。ただ笑っただけというだけかもしれない。
 残りの人形を出来るだけ引きつけるべく、マッダラーが声を張り上げた。
「このマッダラー=マッド=マッダラーは泥人形! 泥の身体、機械程度で崩せるか試してみるかい?!」
 注意を引いた人形二体が彼へと向かう。
 彼の旗が振るわれ、それに合わせて控えていたロバ・ロボットが音楽を奏でた。
 協奏馬達が奏でるは、勇猛果敢に挑まんとする行進曲。仲間を鼓舞するその曲は、仲間達に力となって分け与えてくれる。
「闘技場にふさわしき勇壮な英雄達が魔神の如く奮迅する! 厄を払うだけじゃあ埒が明かない。どうせなら災い転じて福となそうではないか」
 口元に笑みを浮かべるマッダラー。
 しかし、彼らと人形ばかりが戦いではない。
 デストニー本人もまた、戦う為に駆け出した。
 対象はユリウス。
 力を底上げした彼は鎧にてデストニーの拳を受け止める。
 義手から伝わる衝撃。崩れそうになる膝。だが、耐える。
「ほう! 崩れ落ちぬであるかッ!」
 デストニーから感嘆の声が上がり、ユリウスの口元がにやりと歪んだ。
「私にも矜持があるのでな、そう簡単に守りを抜けさせてやるつもりはない。命を奪うつもりはないからと手加減しているのならば、要らぬ気づかいだ。殺す気で構わん、全力で来るがいい! デストニー・ラバーズ!」
「望む所であるッ!!」
 男と男の戦い。
 至近距離で起きる戦いの中で、彼への回復支援をしていく華魂。
 そんな中で、アウローラは人形へ魔力を一発をぶつけた。他の仲間達からの攻撃が集中していた事もあり、その人形は派手な音を立てて砕けた。
 まずは一体。
 彼らの攻撃によって一体の人形が破壊されるという一部始終を横目に確認したデストニーは、思わず笑い声を上げていた。
 至近距離からの笑い声に堪らず、ユリウスが距離を取る。
 彼の行動など気にもせず、笑い声を収めたデストニーが歓喜の言葉を紡ぐ。
「嬉しい……嬉しいぞ、イレギュラーズッ! やはり貴殿達に頼んで正解だったッ!
 我が輩がァ! まともに戦えているッ! これほど嬉しい事は無いッ!」
 一度だけ目元をなぞったデストニーを見て、シフォリィが口元に微笑みを浮かべる。
「……楽しんで貰えているようで何よりです」
 その間にも、人形への攻撃の手は緩む事はない。
 ヨハンは人形に対してハッキングを行なっていた。人形が持つ厄介な能力があるなら解除しようという試みだ。
 すぐに繋がる人形との回路。自身の望むように弄っていく人形の性能。
 彼の支援が行なわれる横で、直接攻撃を叩き込む他のメンバー達。
 カインの閃光、その後にニコルがナイフを閃かせて叩き込む。
 シフォリィが片刃剣を振るう。優雅に舞うような動きで攻撃を入れていった。
 別の人形がマッダラーの後ろへと回る。マッダラー本人は気付いていない。
 だが、それは彼が仕掛けた物の範囲内であると、人形は知らない。
 けたたましく鳴り響くアラームの音。彼が事前にセットしておいたその音は、不意打ちを警戒するもの。今回、それが見事に成功した。
「不意打ちは効かぬよ」
 振り返ったマッダラーが泥の腕を振るう。それは、黄金神界の不滅闘法を纏った泥の腕。
「君たちの駆動音、いい音色を響かせるねえ。できればセッションしたかったが、依頼人の願いだ。せいぜい派手に壊れてくれたまえ」
 彼の一撃は人形をよろめかせるに留まる。
 だが、その攻撃を繋ぐように、近付いてきたアウローラが至近距離から一撃を放つ。光による一撃はデストニー人形にヒビを入れた。
 人形もただやられてばかりではない。一撃が彼女へと振り下ろされる。それを受けた彼女の傷を、華魂が癒やす。
 ヒビの入ったその一体を早くに落とすべく、カインが閃光にて射貫く。
 ガラガラガラ……と、人形の細かな部品が崩れていき、身体が壊れていく。
 金属の崩れる音を聞きながら、マッダラーは「いい音だ」と笑う。
 残るは三体。
 一体一体を確実に仕留めに行くイレギュラーズの戦いぶりを見て、デストニーが高揚していくのが、至近距離から見える表情から伝わってきた。
 歓喜しているのだろう。実際に彼も先程叫んでいた。
(まともに戦える嬉しさはわからなくもないな)
 だからこそ、手を抜かす真似はしたくない。
 ヨハンが叫ぶ。「成功しました!」と。
 それは、人形の回路をこちらに有利になるように書き換えた事を意味する。
 理解したイレギュラーズに勢いが増す。
 ユリウスはデストニーの足止めに力を更に込め、イレギュラーズが人形に集中出来るように努める。
 ニコルはアクロバティックに跳んだりしつつ、人形に一撃を確実に入れていく。
 その合間を縫ってアウローラの光撃が叩き込まれ、ダメ押しとばかりにシフォリィの剣が人形を斬る。
 人形の攻撃はイレギュラーズに当たるものの、彼らが不利になるような攻撃を与える事は無い。
 カインが人形のみを識別し、攻撃の光を当てていく。
 少しずつ、そして確実に削り取っていくイレギュラーズの猛攻撃。
 破壊される度に大きな音を立てて崩れる人形。
 やがてそれが最後の一体の音を鳴らした時、観客席から歓声が沸き上がった。
 残るはデストニーただ一人。
 ニコルがナイフを向けて笑いながら問いかける。
「さあ、いよいよ大詰めね! 楽しく戦えているかしら?」
「楽しいッ! 楽しいぞッ、イレギュラーズッ!!」
 負けない程の大声で返すデストニー。ユリウスとの戦いの中でも傷ついた様子はあれど、気にしていない様子の彼には、今アドレナリンが大量に出ているのかもしれない。
 改めてデストニーと向き合うイレギュラーズ。
 舞台のあちこちに散らばる人形の破片に気をつけながら、足運びをしていく。
 離れた所で、周りに比べればダメージを殆ど負っていない華魂がイレギュラーズに応援の言葉を投げる。
「さあさあ皆様、へばっている場合ではございません。小生の居た世界において厄払いは立派な医学、バーナム効果もプラシーボ効果も立派な薬でございます。労働分の報酬を頂くべく、給料分はきちんと動いていただきますよ」
「華魂も回復をしっかり頼むぞ」
「お任せくださいですよ」
 ンフフと笑う彼の回復技能には信用を置くとして。
 デストニーと睨み合う事しばし。
 最初に駆け出したのはシフォリィ。
 彼女の手に剣はない。代わりに拳でもって彼に戦いを挑む。
 一撃をギリギリで交わすデストニー。
 今度はデストニーが彼女の胸に掌底を叩き込む。たたらを踏む彼女。
 次にニコルの刃が閃いた。速さを威力に変換する技で彼に切りつける。
 義手に傷を付ける事に成功した彼女はすぐに宙返りをして距離を取った。
 マッダラーは協奏馬に音楽を奏でさせた。今鳴らすのは英雄を讃える詩。
 デストニーの攻撃を受けるはユリウス――――だけではない。
 ヨハンもまた盾となるべく前に出た。今までの彼の動きを見ていたデストニーからすれば、ちょっと目を見開くような動きだ。
 しかし、その一瞬が隙でもあった。
 カインの神聖な光がデストニーへと放たれた。命を奪いはしないものの、それなりにダメージを与える光は、デストニーに膝をつかせた。
 そこへ、アウローラが歌を紡ぐ。それは魔性の歌。耳に入れた者の精神を支配する。
 動きが阻まれた彼に、ユリウスが一撃を与えた。
 自分の力を雷に変えて、相手にぶつける一撃。
 それを食らったデストニーが宙を舞う。
 彼の姿が地面に落ちた時、審判が無事を確認し、そして旗を振り上げる。
「勝者――――イレギュラーズ!」

●来年への祝いを音に乗せて
 勝敗は決した。
 無残に散らばるデストニー人形、そして舞台上にて仰向けに倒れているデストニー。
 戦いを終えた両者へ、観客席から拍手の嵐が贈られる。
 周囲を見回し、舞台上での被害状況は浅くはないが、観客席にまで攻撃が及んでいる事は無い事の方に、アウローラは安堵した。
 シフォリィからデストニーへ、声がかけられる。
「ご要望にお応えしましたが、いかがでしたか?」
「満足であるッ! これにて厄も払われただろうッ!」
「それは良かったです」
 久々に本気で戦う事が楽しいと思ってくれたのなら何よりだ。
 横からカインが会話に割り込む。
「うんうん、これで厄が完全に払われたと思うよ」
「太鼓判であるかッ! ありがたい限りッ!」
 気分は上々なデストニー。
 ヨハンがカインにそっと耳打ちする。
「そんな事言って良かったんです?」
「いいんだよ。こういうのは気の持ちよう。きっとなんとかなるさ。
 何とかならなくても……その時はまたイレギュラーズに頼んで"厄払い"をすれば良いだろうしね!」
「来年にそんな依頼が無い事を祈りますよ……」
 似たような依頼が来たらどうしよう、と思わなくもないが、祈るしかない。
 祈るといえば、ニコルがそのようなポーズを取っていた。
 華魂が「おや」と思い、彼女に問う。
「どうなさったのです?」
「デストニーさんの今後の健闘を祈っていたの。幸せに向かって頑張ってほしいわね!」
 笑顔で答える彼女。
 それを見て、華魂は唇だけを動かす。
「祈りねぇ……」
 「はてさて、意味はあるのかどうか」とまでは口にしなかったのは彼なりの良心か。
 戦闘を終え、深呼吸をする事である程度自身の体を整えたのか、ユリウスもデストニーに負けないほどの清々しい笑顔で彼に手を差し出す。
「とても有意義な戦いだった。貴殿の戦いぶりも見事だ」
「こちらこそだ。そちらも盾役としての行動、見事であったァ!」
 上体を起こすのを手伝い、改めて握手を交わすユリウスとデストニー。
 マッダラーが係員に尋ねて手に入れたリュートを短くかき鳴らす。
「厄を落としたデストニー君に、来年を先に祝う演奏を一つ」
 その申し出に、デストニーが「ありがたい!」と笑う。
 奏でられる音。紡ぐは軽快なアップテンポ。
 本気のぶつかりあいを見せた興奮も覚めやらぬ内に続けられた、ノリやすい音楽に、観客からも自然と手拍子が起こり出す。
 体を揺らしながら鳴らしていく音楽。観客席からも、仲間やデストニーからも手拍子が届く。
 時間にして、二、三分程の曲。
 終盤に差し掛かろうという所で、彼から観客席へ一つ。
「ワン、ツー、スリー、で一際大きな手拍子を頼むぞ!」
「おうっ!」
 返ってきた声は力強く。
 マッダラーの口の端が上がる。
「さぁ、行くぞ! ワン、ツー、スリー!」
 パァンッ!
 音の終わりの後、マッダラーは一礼をした。
 「ハッハッハッ!」とデストニーが笑う。
「今日は誠に助かったぞッ! 機会があれば、また手合わせを願いたいものだッ!」
 いや、もう勘弁してくれ。
 一部の心からの本音は口に出さず、沈黙のみで返すのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

皆様の全力に、デストニーも満足したようです。
お疲れ様でした。

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