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シナリオ詳細

<アアルの野>ウンネフェルの裁判

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『Rw Nw Prt M Hrw』
 理性と恋とはまるっきりそっぽを向き合っている。
 愛しさの余り、喪われた彼女を取り戻そうと願う人が居る。
 理性ではそんな禁忌を侵してはならないと理解していたのに。

 ――良いかい? 死者の霊魂とは肉体を離れてから死後の楽園へ向かうんだ。
 『取り戻したい』なら……そう。死後の楽園に入る前に『呼び出して』しまえば良い。

 魂の名を。土塊の体に。
 魂の名を。幽世と現世を結び付けるが如く――

●扉の向こう
 遺跡群『FarbeReise(ファルベライズ)』――その中核から判明した情報は驚くべきものばかりであった。
 小さな願いを叶える宝、『色宝(ファルグメント)』
 其れを使用して行われる歪な死者蘇生――否、死者を蘇生することは混沌に於いては叶わない。此れは、死者の再現に止まっている――はある旅人の残した負の遺産であるというのだ。
 ネフェルストを襲った水晶竜を始めとした生気を感じぬ歪な存在。其れ等も此の地より現われたのだと守護者を名乗る少女は告げたそうだ。

 ――『 あれは『ホルスの子供達』と呼ばれる――『博士』が生み出したモノ 』

 ホルスの子供達は博士と呼ばれた旅人による錬金術の代物だ。
 数種類のハーブと人体を煮込んだ煮汁に漬け込んで固めた粘土の人形の体に色宝を埋め込み作り上げる。器とした人形に『名前』を与える事で色宝は答えるように死者を再現するのだそうだ。
『ホルスの子供達』は中核の扉の向こうに無数に存在する。
 神秘と、宝玉に満ちた大精霊の眠るクリスタルの迷宮に――だ。

「興味が無いとは言わない。だが、『水晶竜』なんてものが出てくる事を考えれば、扉に関しても調査や見張りを立てるべきでは?」
 そう進言したラダ・ジグリ(p3p000271)にフィオナ・イル・パレスト(p3n00018)は「そうっすねえ」と呟いた。
「一先ず、扉の外と、扉の中と調査をしてみないといけないかなとネフェルストでは結論が出たっす。水晶竜に対して、ラサは警戒を続けるっすけど……『イヴ』が見つかった以上、其方を放置するわけにも行かないっすから」
 フィオナが悩ましげに呟けばラダは静かに肯く事しかできない。
 水晶竜がもう一度飛来すると想定するならば備えて起きたい気持ちは分かる。だが、だからといって発見されたファルベライズ中核と『ホルスの子供達』を放置することも出来ないのだ。
「一先ずは扉の外の確認に行こう。水晶竜がそうであったように外を目指す個体が居ないとは限らないからな」


 ――ファルベライズ、地底湖。

 イヴは「何処へ行くの」と静かな声音で問い掛けた。勿忘草のアクセサリーを身に付けた少女である。
 それはファレン・アル・パレストにとって知己であり、此の地の『元凶』ともされる『博士』の教え子であったとされる少女だ。
「ジナイーダ」
「……外に行かなくちゃ」
 唇が、そう音を紡いだ。それは土塊の人形だ。ホルスの子供達と呼ばれる少女。
 その中でも『ジナイーダ』と呼ばれる個体は無数に存在し、色宝があれば何度でも作り直される特異な娘であった。
「外に……?」
 イヴの問い掛けに、土塊の人形は頷いた。眸に色彩は無い。感情など無い、そうするようにと教わったとでも言うように。
「外に行かなくちゃ」
「どうして?」
「外に行かなくちゃ」
「………」
 イヴは話しても意味が無いのだと溜息を吐いた。ホルスの子供達は感情も個々の考えも存在して居ない。外に行かなくてはいけないとだけ望まれて、其れだけを胸に出てきたのが彼女なのだろう。ならば、それ以上の答えなど存在するわけも無い。
 湖の精霊達が怯えるようにその力を暴走させている。その中をすいすいと進みながら、ジナイーダは「皆、外へ行きましょう」と囁いた。
「――それを、博士(せんせい)は望んでる」

GMコメント

夏あかねです。ファルベライズに進展がありました。

●成功条件
 ・『ホルスの子供達』の撃破
 ・周囲に存在する恐慌状態の水精の沈静化

●扉前
 ファルベライズ遺跡、中核に通じる虹色の扉のある地底湖です。<Raven Battlecry>でも部隊になった場所です。
 扉は開かれており、入り口にはイヴと名乗る少女が立っています。(扉を守護しているようです)
 扉の周囲の地底湖では先の戦いで怯えた様子の水精達が恐慌状態に陥っています。扉の向こうから姿を現した『ホルスの子供達』はその様子を眺め、徐々に進軍してきているようです。

●『ホルスの子供達:ジナイーダ』
 土塊の人形です。色宝が埋め込まれており、どうしたことか死者を喚起させます。
 個体によって目的意識や戦闘能力は変化しており、ジナイーダは水精と共に『外へ出るため』に扉から出てきたようです。
 ジナイーダは『勿忘草のアクセサリーを付けた少女』です。微笑む少女は『外に出なくてはならない』と望まれているようです。
(ジナイーダにつきましては拙作のシナリオ『藍微塵すら残さずに』にも登場していますがご存じ無くとも問題はありません)

●水精*10
 恐慌状態でジナイーダと共に進軍する水精です。混乱し続けています。
 不殺攻撃で倒すことで正気に戻すことが出来ます。倒してしまっても問題はありません。
 其れ其れ個体ごとに戦闘能力が違います。回復役や盾役と分担は出来ていそうです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。何せ、未だ見知らぬ土地ですから……。

  • <アアルの野>ウンネフェルの裁判完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月15日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
杠・修也(p3p000378)
壁を超えよ
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
ハンス・キングスレー(p3p008418)
運命射手
月錆 牧(p3p008765)
Dramaturgy
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女

リプレイ


 その扉が存在した理由を問う――『どうして』と問うて答えられる物ではないのだろう。
 その場所が大精霊の居所であったことは御伽噺を辿れば判明する。
 それでも、其の守人であるという娘や外へ向けて歩き出す『ホルスの子供たち』の詳細を、彼女たちが知らぬと言うならば、外を目指す理由も此のファルベライズ遺跡群のあらましさえもこの場の誰もが分かりはすまい。

「――応えは扉の向こうにあるのだろう。なら、潜る前に目の前の物の始末からだ」
 アンティーク銃にアンバランスに添えられた近代的な部位を手にして『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)はそう言った。鶫の意匠のお守りが風も無く揺れる。
 そう、本音を言えば『扉の向こう側』に興味がそそられるのだ。『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は根源に迫りたいと願っていた。扉の前に立っているイヴをちらりと見遣ってから『白い死神』白夜 希(p3p009099)は外へ向かわんとするホルスの子供たちに疑問を抱き続けていた。
 どうして、と問うた所で意志なき『ジナイーダ』にはその理由も分からない。イヴさえもその目的を知らぬならば。開いた扉の向こうにこの機に乗じて入ろうとする者の存在を常に意識しなくてはならない。
『博士は内部に見つからなかった』とイヴは言っている。だが、入って出たならばイヴの観測範囲であるはずだ。もしも入るならば盗賊か。其方にも意識を裂きたくはあるが、今は眼前の存在に気を配るべきか。
「ねぇ、イヴさん。気付いた事は他に無い? 僕は“何故だか”知りたくてさ。
 彼らって存在がーーホルスの子供達が如何して、何が為にこの日の下に出現したのか、という事をね」
 柔らかな声音でそう言った『虚刃流直弟』ハンス・キングスレー(p3p008418)。イヴはまじまじとハンスを見た後に「何も」と一言返した。素っ気ないわけでは無い、彼女は本当に何も知らないのだろう。寧ろ、彼女の側は何も知らないうちに居所を荒らされた被害者だ。
「色宝による死者蘇生。そんなものを願ってはならない。
 それが紛い物なら尚更、それは土塊の偽物でしかないのだから……壊さなきゃいけないんだ。そう願ってしまう前に」
『騎士の忠節』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は苦しげにそう言った。土塊を使用して人間を作り上げようとした歪な死者蘇生。そも、『死者の蘇生』は混沌世界に於いて肯定されては居ない。旅人の中には死者の国で育った者や死者蘇生によって第二の生を得た者も居るかも知れないが、混沌世界というフィールドではそれは有り得ざる事柄である。
「錬金術による死者の再現か。どこの世界でも叶えられそうなら人はやってしまう、よな。
 ……神社の家系としての知識でも、俺の世界にもきっとそうしたい人たちがいて、そうやった伝説やら宝とかも伝わってるしな」
『壁を超えよ』杠・修也(p3p000378)にとってはそれは『在り来たり』であった。在り来たりで良く在る話。だが、それが『誰か』の迷惑であり、転じて大きくも国家を揺るがす規模に成り得るならば。
「害がないのならほっといてやりたい気もするが……こうなってしまうとな」
「くだらない。実にくだらない。死者が蘇るのは伝承伝奇の類のみ。もしできるのであれば、遥か昔に手法は解明されていますよ」
 呟く『Dramaturgy』月錆 牧(p3p008765)。そうは言いながらも心の中にふ、と浮かんだのは亡き夫――もしも旦那様、ともう一度呼び掛けて笑い合えたならば。
 もしも、それが『紛い物ではない正しき意味での死者蘇生』であったならば。長く危険な旅さえも顧みず、失笑しか禁じ得ない死者蘇生さえも動機は理解できてしまうのだ。
 誰もがそうやって何かを感じ、何かを求め、そうして生きている。揺らいだ影は一人の少女であった。勿忘草の髪飾りを付けた優しげな面差しの少女。『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)はそれが土塊で在る事を知っている。
「『ジナイーダ』……。確かアカデミアとかいうところの……ファレンのダチだったか。
 実験台にされたと思ったら、今度はホルスか。腑に落ちねえな」
 呟く、ルカの傍らでアルヴァはジナイーダとその名を呼んだ。土塊の人形は顔を上げ、首を傾いでいる。
「キミは誰に願われて造られてしまったんだい?
 どうして外に出ることを望まれているんだい?
 ――どうして水精を外に出そうとしているんだい?」
 屹度、その名を与えたのは博士であろうとルカは考えていた。どうして外に出そうとしているのかは分からない。ひしひしと感じる嫌な予感に扁桃を行うことなく『土塊のジナイーダ』は首を傾いで微笑んだ、それだけだった。


「あとイヴ、気をつけはするが流れ弾には一応注意しててくれ!」
「分かった」
 ラダの声掛けに小さく頷いたイヴは警戒する様にイレギュラーズの行動を確認していた。扉と自身を守るために力を使用しているのだろう。
 それは死者の軍勢と呼ぶには余りにも小規模で、精霊の行進であるならば余りにチープな者だった。
 水精は常に、少女の傍でふわりと浮かんでいる。勿忘草の髪飾りを付けた少女は首を傾げて「ファレン」と唇を動かした。ルカの言葉に反応したのだろうか――地を蹴って宙を踊る様にハンスが脚甲を鳴らす。神霊開花(ゼロ=フロス)は錬金術。鉛のように燻んだ人の想像を、黄金の如き神の業へ昇華が如く。
「突然お邪魔してしまってごめんよ! とりあえず、顔を洗って落ち着いて貰おうか!!」
 放つ『虚刃流波濤術』、水精を多く巻き込むように。地底湖の水辺、その水泡を味方に付けて、波濤となって襲い往く。
(死者蘇生。だって馬鹿らしくって。死者の真似事だなんてそんなの、嘘偽り其の物だ。
 さあ、真実なんて何処にも見えず、相手が呆れ果てる様な祈りでも――)
 ハンスの唇が、静かに音を奏でる。
「今日という日の花を摘め」
 牧の手にした刀がその言葉を繋ぐ様、袈裟斬りの技放つ。栗色の瞳が真っ正面から捉えた水精の周囲より、鮮やかなる波が立ち上る。混乱しているのだ、と言うことを希は感じ取っていた。水精たちは突如として此の地で行われた乱闘に恐慌状態に陥ったままジナイーダと合流したのだろう。
(……精霊を連れていこうとする理由はなんなんだろう?)
 問うて、応える相手ではないことは知っている。それでも気になるのだとアルヴァを視線に捉えた希は唇に言葉(おと)を乗せた――ああ、だが、それは聞こえず、囁かれたことさえアルヴァには感じられぬ死神の一声。
「ジナイーダ」
 見据え、アルヴァは地を蹴った。怪盗の心得を胸に抱いて虹色の軌跡を残すが如く流星がジナイーダへと襲い往く。
「何かしら」
「――、」
 唇が、確かな対話を行うように動いた。アルヴァはそれが『ジナイーダと名を与えられた土塊が行える行動の一つ』なのだと認識する。
「君に何か問い掛けようとも、意思を持たない土塊のキミに、答えることなんてできないよね。
 ごめんね。キミをこの先に進ませるわけにはいかないんだ……キミのことは忘れないから」
「どうして?」
「――どうして、だとよ」
 ルカは小さく笑みを零した。ジナイーダはアルヴァに任せながらも水精を相手取るルカは魔剣を振り上げ乱撃を放つ。両手で武器を一本使うより、片手で剣を握ってもう片手でぶん殴った方が強いだろうと、認識する青年はジナイーダのその問い掛けが『意味が無い』事に気付いていた。
「『どうして』って言われ続けりゃお前も言いたくなるよな。分かるぜ?
 けど、それには明確な答えがある。お前が此処から出てきちゃ駄目、ってことだ」


 ゼフィラの手にした冷たき霊刀は氷気と霜を纏い冷酷なまでの絶対性を感じさせる。魔性の直感でアルヴァへ蓄積する痛みを判別し、言霊の如く号令を放つ。
「騒がしくて申し訳ないね。少しの間、仲間と一緒に避難してくれないかな?」
 精霊疎通で呼び掛け続けるが、精霊達の混乱は余程に深いか――それとも、此の地に訪れる部外者に対する畏れが大きいのだろうか。その判別はつかないが、現時点では『殺さず』に対応することが必要か。
(滅する事は必要なさそうだな。パニックになっている程度だ。
 ……大鴉盗賊団との戦いで、精霊達にも負荷が掛ったのだろう。落ち着かせることが出来れば命までは奪うまい)
 修也が放つのは滅する光――しかし、それは命を奪うことはない。イヴや扉に対しても気を配り。それらに危害が加わらぬようにと逐一位置を変更し続ける。
(水精は敵愾心を持っていないが……『ホルスの子供たち』が敵勢対象に見えていないと言った方が正しいか)
 ラダは考察する――ホルスの子供たちは色宝と土塊という此の地には有り触れたもので作り上げられた存在だ。故に、それは生命体としては判別されていないのだろう。イヴのような自称を精霊種とする彼女やジナイーダが水精に受入れられているのは同様の種であるという認識や生命体ではないと言う判別からであるかもしれない。
「……生き物が怖い、と言うことですか?」
 静かな声音で問うた牧にラダは「恐らく」と頷いた。彼等にとっては此処への『侵入者』である以上は大鴉盗賊団でもイレギュラーズでも大差ないということだろうか。
 修也やラダを見て、水精達は驚いたようにジナイーダの背後に隠れた。それはジナイーダを生物だと認識していないという事なのだろう。
「すまない、突然の騒ぎで驚いたろう。安全な所まで動けるか? 動けなければ連れて行く」
 静かに精霊に声を掛ける。正気に戻った精霊をゼフィラの疎通を用いてラダは安全地帯へと誘った。
「まさしく、侵入者は体で止めるしかないって感じだよね……。
 ジナイーダは真逆で外に出て行きたいみたいだけど、水精は寧ろ違うよね? 『ここを荒らされて混乱してる』んだよね?」
「そうだろう。ジナイーダは『外に出るように望まれているからこそこの様な行動をしている』のなら、彼女を作った存在――博士による所が大きい筈」
 希は小さく頷いた。ゼフィラがアルヴァを支える様子に視線をちらりと向け、足下から伸びる影が殺さずの黒針となり水精達を襲い続ける。
(――……博士って何者なんだろう。『死人』だって聞いたけれど、コルボもどちらもこれ以上の混乱を引き起こすのは許せない)
 其れ等の姿は未だ見えない、だが、屹度。何処かで機を伺っている気がすると希はそう感じていた。


 水精の周辺でばちゃり、と音が立った。その水音を聞きながら、地を蹴った牧は刀では亡く自身の肉体を使って迎撃する。それ以上の攻撃が水精の命を脅かす可能性があるからだ。
「少し頭を冷やして下さい」
 そう呟き、体を反転させる。水精は大凡の数が減った。ジナイーダと呼ばれた土塊の少女が首を傾げて迎撃するアルヴァを無心に攻撃し続けていた。淡い光は紛い物らしい歪な魔力で土塊の体さえ灼いている。
(――ジナイーダの体自体も傷付けてる、けど……痛くはないんだよね。彼女は人形だから)
 ハンスは些か困ったように目を細めた。水精達へと目映い光を放ち、その行動を阻害しながらも、回復手を失った水精達が瓦解するまでは気も抜けない。それ以上に何処から増援が来る可能性が在るのではと言う危機感を感じていた。
 精霊達の様子に気を配りながら、ゼフィラは光撃を放った。妖邪使いの傍らで、空を踊る様に宙より攻撃を続ける修也の最大火力の魔砲がジナイーダを襲う。
 銃を構えたラダのゴム弾は死ぬほど痛いが、死ぬ事は無いと水精をぱちりと弾いた。
 水精が気を失えば、残るはぼんやりとその場に立ち、アルヴァに応戦するジナイーダだけだ。
「行かなきゃ」
「行かせやしない」
 修也は応える。だが、ジナイーダはその返答も聞こえないかというように再度「行かなきゃ」と唇を震わせた。
「君を外に出すわけには行かないんだ」
 首を振る。ゼフィラの言葉に反応は示さない。イヴも『彼女とは対話が出来なかった』。人の言葉を話すだけ、彼女は其れなりに成長した個体であったのだろうか。攻撃も其れなりに重たくアルヴァの体を傷付ける。
(それでも――こうして自分の体を傷付けても何も感じない存在を蘇りとは言えない……)
 苦しくなるほどに。それはただの土塊の人形であることを訴えかける。
「ちっとばかし気がひけるけどよ、お前さんを地上に出す訳にゃいかねえんでな!」
 ルカはジナイーダに向けて攻撃を放つ。体に僅かな衝撃が走りジナイーダの左腕がはじけ飛んだが、そでも人形は表情を変えることはなかった。
「行かなきゃ」
「……それで出て行っても何もないだろう? 外に出る、と言う目的しか――」
 ハンスは唇を噛んだ。ジナイーダにはそれ以上の目的はない。ただ、外に出ると言うことを望まれているだけなのだ。
「外に行けと言われたのか? それとも望んでいると自ら考えたか。
 どちらにせよ、日のもとへ出してやるつもりはないんだよ」
 ラダは静かに首を振った。ホルスの子供たちは其れ其れが其れ其れの能力を持っているのだろう。此のジナイーダは壊れれば壊れるだけだ。
 ひょっとすれば、博士は彼女という研究結果を世に公表したかっただけなのかも知れない。土塊の人形と御伽噺のファルベライズ遺跡群の大精霊『ファルベリヒト』が交わったことで死者の蘇生が出来るとアピールしたかったのかも知れない。
 それは博士本人に聞かねば分からない。そも、その博士自体が何処に存在するのか分からない以上、その応えを知る余地がないのだ。何処に行ったか、生きているか――故人として呼ばれていた博士が此の遺跡に『意志』を残したのだとすれば。それが、ジナイーダから紐解けるだろうか。
 少なくとも、彼女は。
「行かなくちゃ」
 ――インプットした行動しか出来ぬ彼女は、それを紐解く事が出来る程の能力を持っては居なかった。
「ごめんね、キミはただの土塊だけど、静かに眠ってくれ……」
 アルヴァは静かにそう囁いた。眼前に存在するジナイーダはその眸を丸くして首を傾げる。
 土塊に、僅かな罅が走った。がしゃん、と音を立てて崩れ落ちていく其れは人間を象っていたとは思えない程に呆気ない。
「ジナイーダ……」
 その名を呼べども、返答はない。どうして地上を目指したのか。


 崩れ落ちた体の内側から転がり出たのはジナイーダの核となっていた色宝であった。大ぶりの其れは赤く血潮が通ったかのようなルビーを思わせる。
「……これが、ジナイーダを動かしていた……」
 拾い上げようとした修也の前で色宝は僅かな光を帯びて、イレギュラーズの前に一言、小さな声を届けた。

 ――会いに行かなくちゃ、『会いたいと願ってくれた人が外に居たんだもの』。博士は優しいから。

 その言葉に呆気にとられたようにハンスは色宝を見遣った。光が失せていく。ルカは「ファレンや『魔種』の坊主……家族のことか?」と呟く。
 博士という存在は随分と善良ぶった存在なのだろう。少女を蘇生して家族の元に返したところで過去は変わらず罪滅ぼしにもなりやしない。そもそも、ファレンという存在が『成長』しているのだから、幼少の姿をしたジナイーダなど誰にも望まれていないというのに――
「……博士は、呆れるほどに人の心が分からないんだ」
 ハンスの呟きにアルヴァは小さく頷いた。
 希は無機物との漠然とする疎通を行おうとジナイーダであったものに埋め込まれていた色宝に問い掛ける。だが、それは『精霊の力の残滓』とされているだけであり、ジナイーダそのものの魂を捕える檻ではないのだろう。望んだ返事を得ることは出来なかった。
「色宝は回収致しましょう。これ自体も、ラサでは回収を依頼されている対象ですし……」
 そっと手を伸ばした牧はその芽を持ってしてもそれの生気を感じることは出来なかったと溜息を漏らした。
「騒がしちまった上にぶん殴って悪かった。大丈夫か?」
 ルカがアフターフォローをと水精に気を配れば、それらは何処か穏やかな表情で自身らの住処である地底湖に沈んでゆく。彼等が其れで満足したのなら良いが、問題は――
「扉は出来る限り、護っていた方が良い。
 今現在でも、イレギュラーズの隙を突いて中に入り込んだ盗賊達もいるだろうからな……」
 ラダの言葉の通り、この扉の向こう側に広がる迷宮にはもとより存在するホルスの子供達だけではなく、盗賊達も入り込んでいるだろう。
 修也は小さく頷いて、扉側も注視する。
「……さて、宝物庫にはどのような物が存在して居るか。興味深いね」
 呟くゼフィラの声に頷いて、守護者イヴは「自由に通って」と頷いた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加有難う御座いました。
 ジナイーダと言う少女はとても良い子です.人を疑うことも無く、誰もを愛して微笑んで居る、そんな子供でした。
 彼女の『人形』は他にも多数存在しているようです。また、皆さんと会う機会があるかもしれませんね。

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