シナリオ詳細
お上が見ぬ間に領地拡張!
オープニング
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豊穣の地のトップに君臨し、緩やかに滅びへと導いていた巫女姫、そして天香長胤。
彼らを討伐したことで、神威神楽に平穏が訪れた。
守護神は傷を癒すべくしばしの眠りにつき、逆に眠りから目覚めた指導者霞帝が国のトップにつき、晴明が所属する内務卿が省庁に加わって八扇となり、神威神楽は再建の道を歩む。
ただ、国を巣食っていた巨悪が倒れたからと言って、人に仇名す全ての存在がなくなったわけではない。
例えば、豊穣に生息する妖怪や怨霊達。ザントマンの遺した肉腫、呪詛による忌妖や呪獣。天香派の残党である魔種達も潜んでいる可能性は十分ある。
また、こんな者達の暗躍も……。
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豊穣の地方はそれぞれ、精霊種による部族や大名らが統治していることが多い。
国を揺るがすほどの高天京での事件に、一般民衆は日常を過ごしながらもその有事を見守っていたという形ではあったが、ここに来て活発な動きを見せる者達が出始めていた。
例えば、京の支配力が弱ったのを見計らい、国の覇権を取ろうと動く部族や大名。彼らは小競り合いを始め、自らの領地を広げて勢力を高めようとしている。
「行くぜ、まずは隣の弱小部族を傘下に置く」
高台から集落を見下ろす隻眼の男。片方には灰色の眼帯を撒いていることから、灰眼帯の雲海なる二つ名で呼ばれている。
「でも、ええんですかい? お上に目をつけられでもしたら事ですぜ?」
進言するのは、雲海を補佐する巨漢の男、雷雨の轟雷である。
だが、雲海は一笑に伏して。
「アホかお前は。今のお上に何ができる」
体制が変わったばかりのこのタイミングだからこそ、自分の領地を広げたいという野心を語る。
「領地が広がればいいものがたらふく食える。酒だって飲み放題だ」
「「おおっ……!」」
じゅるりと涎を啜る音が後方から聞こえてくる。
彼らは雲海の領地民であり、領主である雲海に煽動された若い鬼人種達だ。
「俺に尽くせ。まず、狙うは松方の領地だ!」
「「おおおおお!」」
吠える若者達は一斉に高台から駆け下りていくのだった。
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高天京は晴れやかな日差しに包まれる。
冬ということもあり、それでもやや肌寒く感じるのは致し方ないことではあるが……。
「皆さん、お疲れ様です」
此岸ノ辺にてイレギュラーズの来訪を待っていた『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)が丁寧に頭を下げて挨拶する。
平和が戻った豊穣の地……と思いきや、各地で不穏な動きが確認されているとのこと。
もっとも、この国を滅ぼさんとしていた巫女姫や天香長胤の印象が強すぎて、目立っていなかっただけなのかもしれないが……。
「政情不安定となったこの豊穣の地で、荒ぶる者達がおるのじゃな?」
この事態を大方予見していたアカツキ・アマギ(p3p008034)の問いに、アクアベルは頷く。
「今、国を立て直そうと中央が躍起になっているこのタイミングで、自身の領土を拡大しようとする部族がいます」
豊穣の地方は部族や大名の統治下にあることも多いが、そんな中で領地を拡大しようと企む者達もいる。
できることなら、今はそうした者達の動きを牽制したいのが国の意向であり、勢力を拡大せんとする部族の討伐依頼が高天京の政治機関である八扇から出されている。
「ローレットとしても、八扇が盤石な体制を整える為に協力する構えです」
今回は、隣の領地へと侵攻しようとする地方部族、盛多藩が対象となる。
「その長である雲海が30名ほどの領地民を連れ、隣の松方藩へと攻め込んできます」
そのほとんどは鬼人種の若者達で、武器となりそうな生活用品を手にしている。
長である雲海とその補佐役である轟雷はかなりの手練れで、荒々しい戦いで周囲の部族を恐れさせている。
彼らに力を見せつけることで、八扇の力は健在であるということをアピールできる。少なくともしばらくは周囲の領地を襲おうなどという野心を向きだすことは無くなるだろう。
「相手は地方の一部族ではありますが、油断は禁物です。くれぐれもご注意くださいね」
アクアベルは現地に向かうメンバー達を気遣い、説明を締めくくったのだった。
- お上が見ぬ間に領地拡張!完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年01月13日 22時01分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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豊穣……カムイグラ。
先の戦乱後、今日の力が弱まったことで、野心を抱く者達が動き出す。
「一団を蹴散らすのじゃ」
白塗りの肌にちょんまげというお殿様ルックな『殿』一条 夢心地(p3p008344)が前方へと刀を突きだす。
この場のメンバーは皆、一様に頷いて。
「火事場泥棒というか……まあ当然居るでしょうね。この手の輩は」
「あー、わかりますよ! 己の力を試したいとか、誇示したいとか、男の子ならあるあるですよね! 正直勝手にやってろー! ……って感じですけど」
小柄な和装女性、『月下美人』久住・舞花(p3p005056)は淡々と告げると、ピンク髪の獣種、『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)が大声で捲し立てる。
そこで、仲間の会話を聞いていた筋肉質な黒髪短髪の青年、紫月・灰人(p3p001126)が小さく唸って。
「領地を広げたいってなぁ解りますがね。にしても、やり方ってモンが有ると思うんスよ」
どうせやるなら、真っ当な手順でやる方が気分は良くなると灰人は主張する。これはこれで、戦国っぽいとも感じるそうだが、それはさておき。
「禍根も遺さず綺麗にしときゃ、後腐れも無いでしょうが」
「武勇頼みなだけでは、所詮いつもでも続くものでもないというのに。なんとも愚か」
続いて、舞花も討伐対象である集団の蛮行に呆れを隠せずにいた。
今回の敵は地方部族、盛多藩一団。
符を操る灰眼帯の盛多・雲海と、雷雨の轟雷。2人の精霊種が主となり、自身の領地民を従えた集団である。
依頼を受け、イレギュラーズ達はその集団の侵攻を止めに集落……松方の領地へと向かうが、相手の動きが読めぬ部分もあった。
「三班に分けて行動するぞ!」
やや不透明な状況の中、イレギュラーズ達が打ち出した作戦は灰色の髪の少女の見た目をした幻想種、『焔雀護』アカツキ・アマギ(p3p008034)が言うよう、3手に分かれての敵の抑え。
先手を打つことができればよし。だが、後手に回れば、敵に集落まで踏み入られてしまうことになる。
基本的には敵を抑えればいいと判断していた一行だが、出遅れれば、襲われる集落民を護る必要が出てくる。
しにゃこなどは彼らに村の外へと避難、無理そうなら家の中で身を護ることに専念をと呼び掛ける心づもりだ。
「俺に尽くせ。まず、狙うは松方の領地だ!」
「「おおおおお!」」
遠くに聞こえる若者達の叫び。どうやら、先手を打つことができたらしい。
「統率を使う必要はなさそうッスね!」
ピンクと水色のツートンカラーの髪を持つ『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)は、真っ直ぐ灰眼帯の男雲海の元へと向かう。
「符で炎を使いこなす輩が居ると聞いて、アカツキ・アマギ、参上したのじゃ」
相手は氷も使うそうだが、炎の魔女を自称するアカツキとしては見過ごせぬ相手。どちらの炎が上かと楽しみにしていた……のだが。
「え、今回は担当が違う? そっかあ……」
今回は舞花、夢心地と共に部下である若い鬼人種達の掃討に当たる役割。それもあり、少しばかりアカツキも残念そうだ。
「数がそこそこ多いのが何気に厄介じゃの」
奥に見える雲海の領地民は生活に使うような武器を携えている。
それ故に、素人に毛が生えたような力量と夢心地は推し量っていたが、逆に素人ゆえ何をするか分からない恐ろしさもあると感じて。
「まずは鬼の若人たちの抑えにかからねばならぬの」
先手を打てたことは大きい。避難に手を割かず、抑えに専念することができる。
「俺のやることは変わらんぜ!」
自らを閉じた聖域に包む大柄なオーク、『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)が単騎で轟雷の方へと向かう横、4人が雲海の方へと向かう。
「エアルの役割も先手後手関係ないデスね」
轟雷、部下と分断し、連携行動を封じて各個撃破と、ミステリアスなゆるふわ系美女『夜光蝶』驚堂院・エアル(p3p004898)は作戦通りに動く。
「ま、俺は俺の仕事をキッチリ頑張りましょうってな。いやまぁ、素人だしホント頑張らんとなぁ」
まだ、自らの実力が高くないと自認してか、自らにできることをと徒手空拳のまま突撃していく灰人。
このまま両者がぶつかれば、戦場は田畑の上となりそうだ。
冬場とあって、直接作物に影響は出ないのが幸いだが、足場が悪いと判断したしにゃこなどは低空飛行して接敵する。
「今ちょっと大事な時期なんでね。あんまり荒らされると困っちゃうんですよ!」
「力なきお上のことなど知らんな」
「それにこれ、完全に奇襲だし大義名分も無いですよね!」
もはや賊という認識の敵将雲海に、直接解らせてやろうと傘の如くデコレーションしたライフル銃を向けるしにゃこ。
「ぢゃぢゃーん! デイリーおはよう。出入りの際はイレギュラーズにご用命したほうが勝ちデス」
さらに飛びだすエアルが自らの存在をアピールする。
「混乱に乗じて領地拡張をはかるなどとッ。強欲悪党の所業はみすごせませんね」
「遮那さんのいるこの豊穣を乱すことは許さないッス!」
身勝手な連中だと辟易したエアルが告げると、鹿ノ子が魔剣を手に眼帯の男へと叫ぶ。
「剣をもって剣を制すッス! たとえそこに大義が無くとも!」
この戦いの大義など考える間もない。
ただ、今は松方の領地を賭け、両者の戦いが始まる。
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冬の田畑、ローレットと異国の部族がぶつかり合う。
単騎で雷雨の轟雷へと向かうゴリョウは高らかに笑う。
「ぶはははっ、良いガタイしてんなオメェさん! ちょいと喧嘩しようぜ!」
ゴリョウを越える体躯を持つ巨漢の男は自らへと雷を落として。
「ふん、鈍重そうな奴だぜ」
見た目に反して素早い動きをする敵を、ゴリョウは強引に拘束しようとする。
「広範囲の雷落としは何が何でも防がなきゃならねぇ!」
他の仲間が雲海や部下達を相手にする間、エルフ鋼を触手の如く轟雷の腕に絡みつかせ、態勢を崩そうとする。
「物好きな奴たぜ。俺の雷でチャーシューになりたいのか!?」
相手の注意を自分へと向けることに成功し、ゴリョウはぶははっと小さく笑っていた。
「メシだメシだあああっ」
「たらふく飲むぜえええ!!」
群がる部下達は晩酌のことで頭がいっぱいという印象だ。
その為に、力づくでも領土を広げる雲海の力となるべく武器を振るって暴れる。
(敵兵は見た所、所詮は扇動されただけの徴用された農民兵)
それらを一気に叩き潰せれば、敵の士気はがた落ちになるはずだと舞花は見ていた。
「――盛多の雑兵共、貴様らの好きにはさせぬ! 我ら神使、この地を奪いたくば破って見せよ!」
そいつらに対し、舞花が出来るだけ多くを引き付けるべく名乗りを上げる。
倒すべき障害を舞花へと見定めた敵の中で、近接武器持ちが近づいてくる。
ある程度敵が纏まったところに味方がいないのであれば、アカツキの思う壺。
「なるべく早く他の班の応援に行きたいのでな」
一気にドカーンと敵の数を減らすべく、アカツキは空中目がけて赤い光を飛ばす。
「人助けに使うなら朱雀殿もきっと満足してくれるじゃろう……なので焔王の加護を得た妾の炎、今宵はとっても良く燃えるぞ。一発ファイヤーしていくがよい! わははは!!」
その光はまるで赤い雨の様に敵陣目がけて降り注ぐ。
敵が落ちてくる光に打ち付けられ、呆けた敵へとパカダクラを駆った夢心地が迫り、刀をずんばらりと一閃させた。
早くも倒れる者が出始める状況の中、夢心地が高らかに告げる。
「盛多藩の企みは関知しておる。大人しく観念すれば、咎めも少なくなるのじゃ」
彼はさらに、抵抗を続けるならこの場で何人か必ず命を落とすこと、以降も討伐の為の戦力が国やローレットから差し向けられるであろうことを語る。
「そなた達はもう打つ手などないのじゃ」
そうして、夢心地は淡々と部下達へと状況が詰んでいるという事実を突きつけた。
「うろたえるな!」
そこで、4人がかりで抑えられる灰眼帯の雲海が叫ぶ。
「俺が全部蹴散らして奪ってやる」
「「おお!!」」
流石は領主といったところか、その一言だけで士気を高めた部下達はさらにハンマーを打ち込み、銃弾を発射し、銛や鉈を振るってくる。
「無力な人間から襲うなんて、男らしくないですね!」
雲海には、しにゃこが仕掛け、膨張した黒の大顎を被りつかせていく。
「しにゃにびびっちゃいましたか!? 悔しかったら、この程度の小娘くらい軽くひねって見せてください!」
「吠えるな、小娘!」
鋭く左目で睨みつける雲海は符を投げつけ、一気に炎を燃え広がらせる。
一般人がこの場にいないのが幸い。他の抑えメンバーも接敵して。
「雲海サン、止めさせて貰うッスよ」
自らの鼓舞しに暗闇を纏わせた灰人が雲海を殴りつける。
(とにかく、部下30人班が合流してくるまでに倒れちゃいけないですよ)
続き、エアルが隻眼の男に臆するべき立ち向かう。
最悪、後手に回ったのなら全力で雲海に挑むことも考えていたが、先手を打ったことで彼女は仲間と足並みを揃えていた。
「宇宙人の力見せてあげましょう! シュア!」
符の力を封じるべく簡易封印を叩き込もうとするエアルだが、敵もそうそう思い通りにはさせぬと氷と化した符で防御してみせる。
「させはせん」
抵抗する雲海へと、今度は鹿ノ子が仕掛ける。
部下の練度は決して高くはないが、4人に囲まれる状況でなお、部下を鼓舞する力はさすが部族の長だ。
これ以上、状況を俯瞰させぬようにと、鹿ノ子は雲海へと接敵して構えを取る。
「いくッスよ! 『星の型「天涙流星」』!」
降り注ぐ数多の流星の如く。天より落つる幾多の涙の如く。
鹿ノ子は雲海へと連撃を浴びせかけていく。
ただ、命中させるだけでは防がれてしまう。仲間の与えた傷を狙い、隙を突いて鹿ノ子は効率重視でダメージを与える。
4人を相手にしてなお、互角に渡り合う雲海。領土を広げるという言葉は大言壮語というわけではなさそうだった。
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集落外で繰り広げられる戦いは、松方の領地に住む者達の知る所となる。
「なんだ……?」
「盛多が攻めてきているそうだぞ」
家の中から、家の陰から、人々は自分達の田畑の上での戦いを見つめ、どよめいていた。
前線の1ヵ所、タイマン勝負を行う轟雷とゴリョウ。
「おおおおお!!」
落とした雷を纏い、猛然と殴り掛かる敵の攻撃を、ゴリョウはさらりと受け流す。
「タンクの戦い方ってもんを見せてやらぁ!」
彼は轟雷のヘイトを買い、周囲へと注意を向けさせない。
「ぶはははははは!!」
時折、雲海の声が聞こえていたようだったが、それすらも自分の笑い声でかき消し、耳をも奪う。
そして、彼は勢いのままに殴り掛かり、雷で包まれた轟雷の身体をさらに炎で包む。
依然として、4人がかりで雲海を抑える状況が続く中、その部下達は着実に数を減らしていた。
雲海がなかなかイレギュラーズを倒せずにいることで、夢心地の言葉が現実味を帯びてくる。
加えて、引き付け役になっていた舞花が抜いた刀を旋回させることで多数の部下を巻き込んで地面へと叩き落とす。
「狼藉を働くやつは燃やしても良い、古事記にも書かれておるはずじゃ! 多分な!!」
アカツキも舞花を巻き込まぬようにと気がけ、連なる雷撃を発することで纏めて部下を撃破していく。
改めて、先手を打てたことは大きい。アカツキも心置きなく敵の撃破を進めていた。
「この程度か。お前達に勝ち目は無い、死にたくなければ盛多に帰るが良い」
徐々に戦意を失いつつある部下達へ、舞花は剣を突き付けて。
「死にたいのなら――望み通り、全て斬って捨てて差し上げましょう」
「ひ、ひいいっ」
畑に腰を落とした部下が悲鳴を上げてたじろく。
「ほれ、このまま抵抗してよいのかの?」
さらに、パカダクラで駆け回る夢心地の呼びかけ。部下達も雲海の描いた絵図に対する疑心を抱き、やる気を損なってきていた。
(やはり、死力を尽くして歯向かう程の動機はなかったの)
もう部下を見ることなく、夢心地はゴリョウが抑える轟雷の元へと向かう。
アカツキはというと舞花と共に雲海の元へと向かおうとするのだが、その前に一度1人で轟雷と戦うゴリョウの方へと向かう。
傷は自己修復だけでは厳しい状況になってきており、アカツキは練達の治癒魔術でゴリョウの傷を塞いでいた。
雲海と交戦するメンバー達は一度に襲い掛かるなど、連携攻撃も行っていた。
「この四人がお相手つかまつるーッ、ヘヤッ」
なかなか敵の符を封じられぬエアルは、仲間とタイミングを合わせて敵の身体を黒いキューブに包み込んで。
「黒いキューブの味、ぶぶ漬けにして食いなはれや!」
「悪いが、茶漬けより肉が食いたいのでな!」
苦痛に耐える雲海は飛ばした符を大型の氷に変え、周囲の4人を薙ぎ払って来るのを灰人は目の当たりにする。
炎も氷も使いこなす雲海をすげぇ奴と評する灰人は、俺には出来ねぇとして。
「俺に出来るのはぶん殴って進む事だけだしな」
彼が殴り掛かる間、低空飛行するしにゃこは黒い顎を食らいつかせて雲海を苛む。
ただ、対雲海の攻撃が単調になっていたからか、彼女は飛び来る符から放たれた炎に焼かれ、地面へと落ちてしまう。
その際、しにゃこはパンドラを使い、再び起き上がっていた。
同じタイミング、鹿ノ子は雲海の注意を集落に向けぬよう、マークしながら煌めく斬撃で連続して浴びせかける。
そこで仕掛ける灰人は、全力の一撃で問うべく、踏み込んでいく。
「頭なんだろ? なら、ケジメはキッチリ着けていけよ」
灰人は敵が舞わせる氷を殴って砕き、飛んできた炎を握り潰し、雲海へと迫る。
「こんな事しといて逃げるのだけは許さねぇ。その程度なら、他の連中巻き込むんじゃあねぇよ」
猟犬の如く食らいつく渾身の一撃を雲海目がけて叩き込む。
しかし……。
「……浅いな」
口から血を垂らしながらも、雲海は灰人の背後から氷を叩きつけて。
「くぅぅ……」
意識を失う灰人はパンドラの力を使うことなく、崩れ落ちてしまう。
ただ、イレギュラーズの攻撃はそれで終わりではない。
「シュワッ! 炎の味、自分の体で確かめてみましょう」
仲間に紛れて接近していたエアルが掛け声を上げ、異能の炎を雲海へと浴びせかける。
「ぐああああっ!」
さすがに苦しむ声を上げた雲海を仕留めるべく、舞花が迫る。
「武勇に余程の自信があるのでしょうが……甘く見積もり過ぎですよ、盛多・雲海」
刀身に気を籠めた舞花が裂帛の居合で銀の剣閃を刻めば、雲海は赤いモノを噴き出し、前のめりに倒れて。
「……な、んだと……」
なんとか立ち上がろうとした雲海だったが、意識を失ってしまったのだった。
残るはゴリョウが抑えている轟雷のみ。
「ったく、実戦で磨かれた良い拳してんな! 大したもんだ!」
ここまで場を持たせていたゴリョウも、相手の雷を受け流し、耐えながらも炎を纏った拳を叩き込むが、かなりのタフネスを誇る轟雷はなかなか倒れる様子がない。
そこで、他の敵を全て倒したメンバー達が駆けつけてくる。
「ぶはは! どうやら他は片付いたようだな!」
「よくも、兄者をおおっ……!」
怒りに燃える轟雷は広域に雷を落とそうとするが、ゴリョウがなおもエルフ鋼で敵の身体を縛り付けてそれをさせない。
その間にメンバー達はゴリョウをカバーしつつ、一気に轟雷へと畳みかける。
「大将格に言葉であれこれ言っても仕方あるまい」
夢心地は火力を集中すべく、黒の大顎で轟雷を攻め立てる。
直後、アカツキが連打した魔光閃熱波が敵の身体を破壊していく。
「ぐううっ!」
体に駆け巡る痺れ。雷を操る轟雷だが、完全に耐性があるわけではないらしい。
そこで、合間に花の型で軽やかに切りかかっていた鹿ノ子がここぞと構えを取って。
「轟雷さん、いくッスよ!」
鹿ノ子の剣閃は刹那の輝き。再度降り注ぐ斬撃は残っていた轟雷の体力を完全に削ぎ落とす。
「あに、じゃ……」
悔しそうに畑の土をつかむ轟雷に、もはや雷を落とす力は残ってはいなかった。
●
盛多藩一団の掃討を終えて。
「また銀河連合の正義が勝ってしまった。じゃ!」
エアルはどこかの宇宙人よろしく、何処ともなく去っていく。
残るメンバーは襲撃された松方の領地民らへと声をかける。
集落にまで襲撃は及んではいなかったが、戦地となった畑がかなり荒れたこともあり、しにゃこらがその修繕に当たっていた。
その最中、盛多藩の者達も目を覚まして。
「それだけ元気が有り余ってるなら、国の立て直しに力を貸してあげたらどうですか!?」
「「…………」」
しにゃこの呼びかけにも、盛多藩の者達が素直には応じる様子はない。
自分達が思っていた食料や酒にありつけなかったこと、冷静になって罰の悪さを感じていたこと、そして、煽動していた雲海が倒されてどうしていいのか分からなかったこと。
複雑な感情を抱き、黙していた彼らへと倒れていた灰人が身を起こして近づく。
「旨い茶と茶菓子で一服してぇなぁ。雲海サンよ、良いとこ知ってるかい?」
「……ケッ」
同じく、意識を取り戻した雲海が顎を向けた先で、松方の者達が熱い茶と茶請けを用意してくれていたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
リプレイ、公開です。
ダイス目は28でしたので、「先手を取る」で判定させていただきました。
MVPは終始、轟雷の足止めを行っていた貴方へ。
今回はご参加、ありがとうございました!
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
こちらは、アカツキ・アマギ(p3p008034)さんのアクターアクションによって発生したシナリオです。
●概要
地方部族、盛多藩一団の撃退
●敵
盛多・雲海を長とする一団です。
◎灰眼帯の雲海……盛多・雲海(もりた・うんかい)
隻眼の精霊種男性。
右目に灰色の眼帯をした中背中肉の男で、一団を纏めております。
符を使い、炎と氷を使いこなします。
○雷雨の轟雷(ごうらい)
雲海を兄者と慕う精霊種の男。2mを越える巨体を持ちます。
名前の通り広範囲に雨の如く雷を叩き落とす他、自らの拳に雷を纏わせて叩きつけてくることもあります。
○部下×30名
多くは鬼人種の若者達。雲海らによって煽動された彼の領地民です。
ハンマーや銛、鉈、鉄砲といった武器を使って攻撃してきます。また、網、とりもちを使って相手の動きを止めることもあるようです。
●状況
雲海の狙いは地方の集落を襲い、自らの傘下に置くことです。
現場到着、襲撃は夕方、夕食時を襲撃される形です。
襲撃される松方藩領主のいる集落の規模は200名程度。農村主体の土地であり、その中央に集落、領主の屋敷があります。
なお、敵の集落突入のタイミングはダイスの出目で決めさせていただきます。シナリオ出発後にダイスを振り、あとがきにてその出目を記させていただきます。
・先手をとる(00~49)……敵が集落へと駆けこむ直前に相対することができます。戦場は田畑が主となります。
・出遅れる(50~99)……予見した以上に敵の侵攻が早く、集落内で松方藩の人々を護りつつ交戦します。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
それでは、よろしくお願いいたします。
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