PandoraPartyProject

シナリオ詳細

君が欲したあれやこれ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●輝かんばかりの夜に向け
 埃っぽく薄暗い倉庫に大量の荷物が運び込まれていた。
 人目につかないよう、秘密裏に二か月かけて蓄えられた箱の数々は、ただでさえ手狭な倉庫を余計に狭くしている。細身の男たちでさえ正面を向いて歩ける道は少なく、多くは荷物と荷物の隙間を縫うべく、体を横にして慎重に抜ける必要があった。ガタイのいい男ともなると倉庫内への立ち入りは物理的に不可能で、仕方なく荷物の運搬や物資の名称などをまとめた紙束の整理を担うことになる。
「武器にオモチャに……ぱんつ?」
「闇市で流行ってるらしいぜ」
「ふーん?」
 ペンを片手に荷物の一覧を眺めていた男が首を傾け、荷馬車から新たな箱を抱えておりてきた男は肩をすくめる。
「にしても集まったよな」
「よくもまぁ、バレもせずに盗んだもんだぜ」
「中には発売日に買い占めたやつもあるんだっけ?」
「そ。今年のシャイネン・ナハトに向けて発売された売れ筋のやつ。もう売り切れ続出で手に入らねぇんだってよ」
「いい額でさばけそうだな」
 男たちは顔を見せ合い、下卑た笑いをかわす。
「喋ってねぇで手伝えって!」
「まだ山ほどあるんだぞ」
「なー、誰か店まで車出してくんね? 内装の業者が壁の色、塗り間違えたって連絡してきたわ」
「行こうぜ、俺運転するわ」
 倉庫の内外から声が上がる。
 暇つぶしの為に在庫確認をしていた男が手を挙げ、荷物を下ろしたばかりの馬車に向かった。業者から連絡を受けた男がぶつくさと文句を言いながら荷台によじ登る。
 壁の色などどうでもいいのだ。
 男たちはただ、この大量の荷物を――転売の為に集めた商品を高額で売りさばけたら、それでいい。
「夜には戻って来いよ、前祝だからな」
「うえーい」
 疲れた様子の馬に鞭を入れ、店舗確認のために二人の男が敷地を抜ける。
 残った男たちは各々の作業を続けていた。

●許すな。
「てんばいやーゆるすまじ、なのです」
 怒りの炎を目の奥に宿して、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は今回の討伐対象について書かれた紙をテーブルに叩きつけた。
「シャイネン・ナハトのプレゼントとして喜ばれそうなもの、現在すでに品切れや品薄になっているものを盗んだり大量に買い集めたりして、高額で転売しようとしている悪い人たちがいるのです」
 中にはローレット御用達の例の闇市から、どういう手段を使ったのか仕入れたものもある、という情報が届いているらしい。
「つまり、皆さんが『今年のプレゼントにほしいなー』や『プレゼントしたいなー』などと思っていたものまで、倍以上の値段で販売される恐れがあるということなのです!」
 どうやら連中は恐れ知らずなことに期間限定で転売のための店を開くつもりらしい。
 開店は明日だ。
「こっそりビラ配りまでしていたのです。なめられているのです!」
 ボクがほしかったあの商品まで三倍の値段で売られているなんて、もうどこにも売ってないのに、とユリーカはテーブルに突っ伏して嘆く。
「商品はすべてしかるべきところに引き渡すことになっているのです。もちろん届け出が出ている盗品は持ち主に返すのです。
 そのためにも! まずは!」
 てんばいやーをめっするのです。

GMコメント

 はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。
 わるいこ!

●目標
・転売させない

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●シチュエーション
 幻想の西側、町外れにひっそりと建つ廃倉庫です。
 翌日オープン予定の転売店は町の中央部にあります。大胆不敵ですね。
 男たちは前祝のため、今夜は廃倉庫に全員集合して宴会を開くそうです。
 商品の搬出はまだ全く行われていないため、すべて廃倉庫にあります。無計画か?
 近くにこれといった建物はないため、廃倉庫周辺で十分に戦闘できます。

●敵
 転売をもくろむならず者たち、と魔術的な強化が施された番犬。
 男たちは喧嘩慣れしています。

・『主犯』×1
 一番の手練れ。傭兵崩れ。
 剣を扱うだけでなく魔術の心得もあるようです。
 物理攻撃力と防御技術に優れます。

・回復術(神・万能・単):HP中回復
・雷撃(神・中・単):【痺れ】
・剣技(物・近・単):【連】【出血】【体勢不利】

 が主な攻撃です。

・『男たち』×10
 町のチンピラみたいな連中の寄せ集め。
 好きなものは美女と金。
 銃を扱うものが5人、剣や斧を扱うものが5人です。

 大したことはしてきませんが、それぞれHPとEXFは高めです。
 しゅうねんぶかい。

・『番犬』×5
 男たちですらたまに噛まれると噂の獰猛な犬たち。
 主犯の男の命令には従順だそうです。

・噛みつく(物・至・単):【流血】
・引っ掻く(物・至・単):【体勢不利】
・遠吠え(物・自分から2レンジ以内):【怒り】【他の番犬の物理攻撃力が小し上昇】

●だめだよ!
 欲しいものがあってもこっそり持ち帰ってはいけません。
 きちんとローレットに引き渡しましょう。
 可愛いぬいぐるみも新作のおもちゃも、きれいな宝飾品も希少なシャンパンも。
 あとなんか高値で売れそうなぱんつも。

 皆様のご参加お待ちしています!

  • 君が欲したあれやこれ完了
  • GM名あいきとうか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月07日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
メルトアイ・ザ・ベルベットムーン(p3p000674)
悦楽種
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
結月 沙耶(p3p009126)
怪盗乱麻
インベルゲイン・浄院・義実(p3p009353)
破戒僧

リプレイ


 星の少ない夜だった。
 夜闇の中、本来なら打ち捨てられているはずの廃倉庫だけが明るい光を放っている。
 中からは男たちの歓声と、肉や魚が焼ける匂いが漂ってきた。
 冬のこの時期、開け放ったままでは寒かったのか、搬入用の大きな扉は閉ざされている。相伴に預かっているらしく番犬の姿もなかった。
「中で火を扱っているのか」
 引火でもしたらどうするのかと『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)がわずかに眉根を寄せた。
「まだ誰もこちらに気づいていないのだわ。見張りも立てないなんて不用心だこと」
 周囲の偵察を行っていた梟を細い腕にとまらせ、『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)は冷然と言い放つ。
「いつでもよしと」
 それは重畳、と『自称破戒僧』インベルゲイン・浄院・義実(p3p009353)が口の端を上げた。
「えいっ」
 無造作に持っていた聖夜ボンバーを『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)は構え、放った。
 途端、爆発音が響く。ついでにきらきらと星が散った。
「なんだぁ!?」
 がだがだと騒がしく扉が開き、武器を手にした男たちが泡を食った様子で出てくる。
「あなたさま方は完全に包囲されている! 逃げ場はないぞ!」
 堂々と宣告した未散が小さな声で「ふふ、此の台詞、一度云ってみたかったんです」と付け足す。義経が共犯者じみた笑みを愉快そうに浮かべた。
「ひーふーみー。あらぁ、全然足りませんわねぇ?」
 白く繊細な指で表に出てきた男たちを数え、『悦楽種』メルトアイ・ザ・ベルベットムーン(p3p000674)がとろりとした目を瞬く。
 面倒そうに『never miss you』ゼファー(p3p007625)が呼びかけた。
「はーい、ということでぇ、貴方達の悪事はモロバレでぇす。倉庫ごと丸焦げにされたくなかったら出てらっしゃーい」
 リーダーにでも追い出されたのか、渋々といった様子でさらに男たちと数頭の犬が出てくる。夜の来訪者を相手に全員が臨戦態勢だ。
「誰だお前たち! なにしにきた!」
「お前たちの悪事を懲らしめにきた、イレギュラーズだ」
 倉庫に保護結界を張り巡らせたポテトがランタンの先を男たちに向ける。
「イレギュラーズ!」
「ローレットの!?」
「げぇ!」
 口々に騒いだ男たちの足が下がった。
「お? いい感じじゃないか? このまま勝てたりしないか?」
 喉をするりと撫でて声を変えた『表裏一体、怪盗/報道部』結月 沙耶(p3p009126)が囁く。うん、とポテトが頷き倉庫の屋根をちらりと見た。
「狼狽えてんじゃねぇ!」
 撤退を視野に入れ始めていた男たちの肩が大きく跳ねる。
 大音声で澄んだ夜の空気を裂いた男が、倉庫から外に足を踏み出した。手には使いこまれた長剣がある。
「これまでの努力が無駄になるだろ? 一攫千金の夢もパァだ。ローレット? イレギュラーズ? 上等じゃねぇか」
 怯える手下たちに、男はニィと暗く笑いながら喝を入れた。
「数じゃこっちが上だ! 押し潰してやれ!」
「やってやらぁ!」
「おおおお!」
「行け犬ども!」
 戦意をとり戻した男たちと番犬の群れが前進する。傭兵崩れの男も前に出ようとするが、
「そこまでだ!」
 倉庫の屋根から飛び降りた『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)が行く手を塞ぐ。
 白銀に輝く剣を構え、リゲルは男を見据えた。
「転売は、社会にとって百害あって一利なし! その不正義を、断ち切らせてもらう!」
「いいだろう、やってみろ!」
 吼えた男が剣を横に薙ぐ。

 自身の背丈ほどもある槍を、ゼファーは軽く振る。
「いい歳こいた小悪党が、揃いも揃ってセコいセコい」
 怒りに任せて近づいてきた男たちを、ゼファーはべぇと舌を出して迎撃した。
 長槍に斧を弾かれた男を、沙耶が背後からレイピアで刺す。
「いってぇ!」
 力まかせに振られた一撃を危なげなく沙耶は下がって回避する。
「シャイネン・ナハトという希望を絶望に変えようとする者を成敗するため! 怪盗リンネ、ただいま参上だよ!」
「この!」
「はいはいよそ見してんじゃないわよ」
 顔をひきつらせた男をゼファーの槍が襲う。情けない声を上げつつも男が斧でそれを受けた。
 沙耶は足音を殺して物陰に移動し、次の獲物を狙う。報道部、そして怪盗という職業柄、こういう動きは得意だ。ポテトとの距離も目で測っておく。
 視線が交わり、ポテトが頷いてくれた。援護は任せろということだろうと判断して、沙耶も頷き返しておく。
「オラァ!」
「あらあら」
 怒声を上げながら突進してくる男に、メルトアイは怯まず、ただ困ったように頬に手を添えて微笑んだ。
 もう少しで凶器が彼女に届く、というところで。
「ひぃっ!?」
 小柄でありながら非常に――特に胸部が――豊満な体つきの『少女』の後ろから、ぞろりと触手が生えた。
 ピンク色にぬめる六本の触手の、少し太くなった先端がそれぞれ冷や汗を流す男に向く。
「そーれっ」
 笑顔で。可愛らしい声で。
 メルトアイが合図すると同時、どこか淫靡な触手から魔砲が放たれた。

 主犯の男と刃を交えるリゲルに、番犬が殺到する。
 そこにレジーナが無言で飛びこみ、刃を振るった。爪を弾き、大きく開かれた口に切っ先を突っこんで上顎を裂き、胴を斬り払う。
 空に散った血よりなお鮮やかな紅の片目は、敵を睥睨していた。奥には黒々とした怒りと殺意が覗く。
「……シャイネン・ナハトよ?」
 彼女にとって、それは強い意味を持つ日だ。
 今年は特に。絶対に欲しいと思った商品があって、できれば渡したいと思う相手がいた。
「プレゼントを買わないといけないのよ? 店の棚から消えた悲しみを知っていて? 店員から品切れを言い渡される絶望を知っていて?」
 レジーナは知っている。つい最近味わった。
 特殊な製法で作られたマニキュア。
 とある人気ブランドの最新カラーで、『奇跡の色』といわれたそれ。
「……朝から並んだの」
 長蛇の列を並んだ。すぐに売り切れた。レジーナも買えなかった。
 販売されるという情報があった店を他にも回ったが、どこにもなかったのだ。思い出すだけで泣きたくなってくる。
「それがここにあるそうね? ねぇ、どうしてかしら?」
 ――一部の商品だけですが、判明しているのです。
 ユリーカがそう言って盗品や買い占められた商品を列挙し始め、例のマニキュアの名前が出たとき、レジーナは思わず息を詰めた。
「美しい深青(ブルー)なの」
 感情が薄い声で語りながら、レジーナは武器を振るう。
「塗りたては鮮やかに。乾くにつれて深みを増して、最後には艶めかしいほどの青になる」
 それはきっと。
 あの『蒼薔薇のお嬢様』によく似合うだろう。――そう、思って。
 送りたいと。刹那でもあの綺麗な爪の先を飾れたらと。思って。
「分かっているのかしら。汝(あなた)の、汝たちのしたこと」
 奥歯を噛み締め、レジーナは問う。

 瀕死の男がこっそりと、戦場から抜け出していた。
「ひぃっ、ひっ」
 歯の間から不安定な呼気が洩れる。徐々にそこに笑いが混じっていった。
「やってられるか」
 少し離れたところから戦いの音と振動が伝わってくる。
 やれるかもしれないと男も思っていたが、触手少女や卓越した槍術、飄々とした僧侶に的確な背後からの攻撃に猛進する魔砲、近づく者すべて血祭りにあげていく少女、ここぞというときに放たれる治癒などを目の当たりにして、男はすでに戦意を喪っていた。
 挙句、凄腕だと思っていたリーダーとやりあう青年剣士だ。もう無理。
「逃げてやる。俺だけでも逃げて」
「何処にでしょうか?」
「へっ?」
 不思議そうに声をかけられ、思わず振り返った。
「危うい罠が在るなら先に対処しておく心算で追ってきたのですが、そうでもないようですね」
「いや、あの」
 女が一人。
 侮ってはいけない。魔砲を的確な位置から撃ってくる、やたらと素早い女だ。
「確保」
「ぎゃっ」
 数秒見つめ合った末、ポカッと未散は男を殴った。
「さて」
 気絶した男の襟をつかみ、ずるずると引きずりながら未散は戦場に戻っていく。

 最後の番犬がレジーナに斬り裂かれて倒れる。
 それを横目で確認した男が、リゲルの剣を押し返すついでに後方に跳んだ。
「は。なるほど、イレギュラーズってのは、少なくとも噂程度には腕が立つ集団らしいな」
「その技を、なぜ悪事に使う」
 戦闘は決して、イレギュラーズの完全優位に進んだわけではない。
 この男は戦場を的確に把握し、必要に応じて手下や番犬の治癒を行った。隙あらば手下たちを引きつけているゼファーや治癒を担うポテトにまで雷撃を飛ばそうとする。
 魔術だけでなく、剣術や体術のレベルも高い。
 そんな男がどうしてと、リゲルは苦さを噛み締める。
「まだ傭兵にでもなった方が、真っ当に力を活かせるだろう? 過去になにがあったかは知らないが、犯罪は長続きしない。これを機に足を洗うんだ!」
「今更!」
 嘲弄を頬に刻んだ男が剣を振り下ろす。半月の軌跡を描いてリゲルの剣がそれを受けた。刹那、男の足が跳ね上がる。
 脇腹を狙った一撃をリゲルは片腕で防御。痛みを押し殺し、男の剣を全力で弾いて鋭く踏みこむ。
 切っ先は男の肩口を掠めた。今度は男の剣がリゲルの首を狙う。白銀の騎士は仰け反って切っ先をかわした。
「……なぜここまで落ちた」
 薄皮一枚、喉元を斬られたことを自覚しながら青年は問う。男は嗤うだけだった。

 背後からの銃弾は身をひねってかわす。
 正面から剣が振りかぶられるが、脇があいていたので遠慮なく穂先を叩きこんだ。蛙が潰れたような声を上げて男がよろめく。すかさず沙耶が忍び寄り、男にとどめを刺した。
「あら、殺しました?」
「えっ死、死んで!?」
「冗談です、生きてるわよ」
 邪魔なので倒れた男を軽く蹴り飛ばしながらゼファーが片目をつむる。沙耶がほっとしながら物陰に戻った。
「さあて。束になってもこの程度? ケチなチンピラにも意地があるってんなら、見せてご覧なさいな」
 槍を片手で持ったゼファーは手のひらを上にして男たちを招く。挑発された男たちの頭に血が上った。
「くそ……」
 蹴り飛ばされて転がっていた男が懐に手を伸ばす。いつの間にか姿が見えなくなっている仲間が持っていたはずの銃を握った。先ほど拾って、隠し持っていたのだ。
「私、転売屋には容赦致しません。是非を議論する気もございません」
「……あ」
 にゅる、とメルトアイの触手が男に絡みついた。引き金に駆けた指もゆっくりと外される。
 冷たい地面に凶器が落ち、反対に男は持ち上げられていった。
「や、やめ」
「黙って叩き潰されるがよろしいですわ!」
「ふぎゃっ」
 頭を下にする体勢で思い切り投げられた男が地面に刺さって完全に脱力する。
「あっはっは、死ぬ死ぬ」
 窒息死しないよう、義実が引き抜いて適当に転がした。
「なんなら逃げてもいいのよ? モノは置いて行って貰いますけど!」
 気勢を上げながら振られた斧を体側で受け、ゼファーは長い脚で男の側頭部を蹴り抜く。
 よろめいた先にレジーナがいた。
「万死をもって償いなさい」
「ぎゃあああっ!」
 直死の一撃を受けた男が昏倒する。
「冗談よ、殺しはしないわ。同じことをするやつが出ないよう、噂を流してもらわないと」
「混沌中の転売屋を退職させる策で御座いますね」
 なるほど、と未散がなにかに納得した。
「自分が欲しくて買い占めるならまだしも、盗んだりぼったくり価格で欲しい人に売るのは犯罪だし、作った人たちにも欲しい人にも失礼で迷惑だ」
 リゲルに治癒をかけながらポテトも転売屋総退職を願う。
「僧侶としても見過ごすことはできんな」
「怪盗としてもだよ! どうやってこんなに集めたのかは知らないけど、こんなのを転売しようとするなんて! イメージダウンに繋がったらどうしてくれるんだ!」
 呑気に義実が顎を撫で、沙耶はゼファーの背後を狙っていた男の背を刺しながら訴える。
 最後のひとりをゼファーが槍で叩きのめした。
「そういうことらしいですから、ぶっ殺されないだけましだと思って。……ま、小悪党には牢屋で過ごす聖夜がお似合いですわ?」
 呻く男をヒールで踏みつけて黙らせ、さて、とゼファーは今なお存命の主犯を見る。


 イレギュラーズに囲まれてなお、主犯の男は怯んだ様子を見せなかったが、袋叩きにあえばさすがになす術がなかった。
 搬出時に荷物を縛るために用意されていたロープで男たちを縛り上げ、一か所にまとめる。大半の男たちがまだ気絶していた。
 売買できないものこそを欲するメルトアイが、万が一に備えて男たちの見張りに立つ。
「うふふ」
 愉悦の笑みを浮かべる少女の後ろにはピンクの触手。
 隠し持ったナイフで縄を切ろうとしていた主犯の男の手に絡みつき、ついでに服の中にまで侵入する。
「ひぇぁっ」
 全体的にゴムのように柔らかく、先端だけ硬いという感触に不意打ちされ、さすがの男も奇妙な声を上げた。メルトアイの笑みが深くなる。
「ほどほどに、かつちょっと強めにね?」
 屈んだゼファーがナイフを没収した。
「あちらは?」
「順調ですとも。ただ一度じゃ運びきれないから、一度何人かでローレットに戻って馬車借りて、ってなるでしょうけど」
 背後の倉庫では物資の押収と検品が行われている。ポテトの馬車があるが荷物の量が多く、往復の必要が出てきた。
 屈んだゼファーがナイフを主犯の鼻先に突きつける。
「こちとら本来なら浮かれムードの中であれやこれや、楽しいプランニングをしてるべき時期ってワケよ。分かる? そんないい気分の時期を、こんな事件で台無しにされたの。触手で弄られるくらいなによ」
「みなさまの身柄は管轄の騎士団に引き渡しますが、その前に」
 荷運びの休憩を兼ねてやってきた未散が、冷や汗を浮かべていた主犯の男に問う。
「是だけのものを買い占める資金の出所は何処ですか?」
「……知るか」
「成程。寒い塀の中でも、チキンとケーキが振舞われると良いですね?」
 口の端を上げて吐き捨てた男に未散は嘆息して言い残し、手伝いに戻っていく。ゼファーも立ち上がった。
「じゃー、あとはお願い」
「かしこまりましたわ」
 にゅる、とメルトアイの触手が揺れた。

 倉庫にあった複数のリストの内のひとつと対応する箱の中をざっと見比べながら、義実は頷く。
「よし」
「よくないよくない。袖に入れたものを今すぐ出すんだ」
「褒美としてここはひとつ」
「だめだ」
「そんなご無体な!」
 早く、と沙耶に急かされ、義実は自分用に買う予定だった限定の酒を袖から出して箱に戻す。そのまますごすごと箱を馬車に運んでいった。
「全く。それにしてもよく集めたものだね。高級そうなものに、普通に喜ばれそうなものに……。それに、これは……ぱんつ?」
 ぱんつだった。
 中くらいの箱一杯に色んなぱんつが入っていた。沙耶が持っているリストにもぱんつの種類と枚数が書かれている。
「こんなものが喜ばれるの? 分からない……この世界の人の感性が……」
 困惑しつつも怪盗は真面目にリストと箱の中を照らし合わせ、間違いがないことを確認してから箱を持ち上げた。
「ま、まあとりあえず、これらをしかるべき場所に渡しに行こう……」
 すれ違いざまに難しい顔をしている沙耶に首を傾けながら、ポテトも次の荷物を調べる。
「なにかお探しで?」
「ゼファー。リゲルと娘に贈るものをな。考え中なんだ」
「そう。素敵なのが見つかるといいわね。で? リゲルは?」
「第一陣で転売屋たちを運ぶため、声をかけに行った」
 その間にこっそりとよさそうなものを探して、参考にしようというわけだ。
「彼、これがいいとか言わなかったの?」
「いくつか目にとめていたようだったが……」
 欲しがっているという確証がないのだと、ポテトは肩をすくめる。
「ゼファーは? 誰かになにか贈らないのか?」
「内緒」
 唇に指をあて、ゼファーは片目をつむって見せた。ポテトは小さく笑う。
「そうか。……ああ、これはよさそうだな。ユリーカに聞けば本来どこで売っているか分かるだろうか」
 喜んでくれる姿を想像して、ポテトは目を細める。ゼファーの表情も和らいだ。

 青のマニキュアが入った箱を、馬車の荷台に載せる。
 複数の足音にレジーナは振り返った。リゲルに連れられ、メルトアイに見張られて、転売屋たちがやってくる。
「また悪事を働くなら、君たちの個人情報を調べ上げて転売しようか? はした金にもならないだろうが、少なくとも君たちは生きづらくなるだろう。それが嫌なら反省し、真っ当な職について、社会の役に立つことだ」
「今回は無計画さに免じて殺さなかっただけよ」
 得物を握り、レジーナは荷台に載せられた男たちを見る。
「この顔と紋章を覚えておくことね。また同じようなことをするならば、必ずやこのレジーナ・カームバンクルと蒼薔薇のタナトスの紋章が、狩りにくるのだわ」
 手下の男たちが希薄と殺意に負けて激しく首を上下に振り、主犯も俯く。
 残って照合する組と運搬組に分かれたところで、未散が手を叩いた。
「嗚呼、そうだ。何時も頑張って下さっている情報屋さんに、皆でお金を出し合ってプレゼントするのは如何でしょう? もちろん、正規価格でのお買い上げで、です」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。

有能美少女情報屋さんになにをプレゼントするか、ぜひ帰り道で話し合ってくださいませ。
男たちは地元の騎士団に引き渡され、く取り調べを受けました。
現在も調査中のようです。

それでは――思い出に残るシャイネン・ナハトを。

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