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シナリオ詳細

誰も寝てはならない

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●新天地の新たな出立
 カムイグラ。
 先の大戦の記憶は新しい。神使たちの活躍によって、脅威は退けられた。
 大地には新たな木々が芽吹き始め、生命はゆっくりと輝きを取り戻している。
 けれどもこの地にはまだ妖がはびこり、その爪痕は、未だ、民を苦しめていた。

●夜更けの訪問者
 森深く、道に迷った旅人は、揺らめく明かりの中に小さな寺を見いだした。
 もうずいぶんと歩いて足は棒のように重く、情けないことに凍えて動けそうにない。
「たのもう」
「はい」
 出てきたのは、鬼人種の尼僧と、それに従う、数人の尼たちだった。それから、ふすまの奥には、不安そうな子供がこちらを見ている。
「旅人様、このような夜更けにいかがされました?」
「見ての通り、道に迷ってしまった。一晩で良い、どうか止めてくださらないか」
「……ここは尼寺でございます。行き場を失った女たちが身を寄せて、なんとか生きている場所で御座います」
「どうかお頼み申す。無礼はいたしませぬ。この辺りには、夜になると妖が出ると聞いた。放り出されては死んでしまう」
「……そうですね……」
 旅人が必死に頼み込むと、尼たちは何か相談する様子を見せた。
「私どもも、みすみすと人死にを見たくはないもの。一晩、たいした馳走はありませぬが、どうぞごゆるりと。ただ、一つ。約束してほしいのです」
「どのようなことであろうか」
「夜、部屋から出てはなりません」
「ああ、無体はせぬと誓おう」
「……」
 尼たちの反応はどこか白々しいものだった。そうではない、身の危険を感じるのはそちらのほうだ、というような。
「出来ることなら身じろぎ一つなされるな、と言いたいところですが、声を出してはなりませぬ」

●深夜
 夜。
(眠れん)
 旅人はどうにも目がさえて眠れなかった。
 ふとんの上で、ごろりと寝返りを打つ。
 期待していなかった食事は、以外にも美味なものだった。慎ましやかな生活ぶりだが、それでも、なりに日々を過ごしているのだろう。
「どうぞ」
 床につく前に、尼が盆にのせて持ってきた湯飲み。
「これで、よく眠れます」
 じ、とこちらを見つめている気がした。きちんと飲むかどうか、確かめるかのように……。
 それが恐ろしくて、旅人はこっそり湯を捨てた。
 ……。
 そうだ。この違和感は。静かすぎることだ。
 小さな子供も多くいたというのに、静かにしろと言われてできるものだろうか?
 まさか……この尼寺こそが妖の巣なのではないだろうか。
 そして、自分は妖に捧げられる供物なのではないだろうか……。
『……は、……るか……』
 猜疑心に襲われる男は、不意に足音を聞いた。複数のものだ。
『……は、どこだ……』
『子供は、どこだ、イヒヒヒヒ』
 ひたりひたりと足音がする。提灯の明かりがふすまごしに動いているようだった。見回りの者だろうか。いや……。
 ふすまを開ける。勢いで、貼られていた札が破けた。
「ひっ」
『見つけたァ』
 妖はにたりと笑って、包丁を振り下ろす。

●尼寺
「申し訳ございませんが、今は……子供をお預かりすることは出来ぬのです」
 やってきたイレギュラーズに、どうしてか……問えば答えるだろう。
「ここには妖が出るようになりました。目の悪い妖で、札を貼って、おとなしくしておけば……少なくとも安全ではあります。
しかし……小さな子供にはそれができません。さりとてここを動くこともかなわず。私どもは……薬を盛って寝かしつけているくらいなのです。
手伝える年齢の子供は奉公に出しました。少しずつなんとかしてもいます。ええ、手放すなど出来ません。戦災孤児である彼らにとって行き場はないのです」
「ああ、夜も更けて参りました、お過ごしください。決して音を立ててはなりませぬ。こちらをお飲みくだされば、一晩、よく眠れるはずで御座います。……赤子には……使えぬのですが、そちらの子供は、……今晩だけは……命に代えましてもお守りいたします。ですからどうかあなたたちはお眠りくださいませ」
 そういうわけにはいかないだろう。なんたって、ローレットは……。
「大けがを負って逃げてきた男から、退治の依頼を受けている」のだ。

GMコメント

●尼の言うとおり、一晩を眠って過ごしますか?
 いいえ、対抗手段のある神使たちであれば! なんとかすることができるはず!
 というわけでアフターアクションです。安全を確保して預けてあげてください。

 寒すぎて、お布団から抜けられない最近です。

●目標
 妖の討伐

●登場
 妖:ハッグ×5
 目の悪い妖です。包丁をくわえた鬼女のような風貌をしています。丑三つ時に現れます。それぞればらばらに好き勝手動いているようです。
 部屋に魔除けの札を貼って、じっとしていれば逃れることが出来ます。
 CTが高く、一部の攻撃は必殺属性を持ちます。主に音に頼ります。
 防御面はそれほどでもありません。
 好物は人。

●状況
 冒頭の男が生還し、ローレットに駆け込む事態となり、妖に苦しめられている尼寺にやってきました。
 彼らは住み着いた妖を倒すことも出来ず、かといってこの地を離れることも出来ず、やりすごしています。

尼寺……身寄りのない子供や行き場のない女性の駆け込み寺となっている場所。助けを求めずに耐えようとしているなど、若干世間に疎い面はあるものの、親のいない子供たちにとっては良い場所となっています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 誰も寝てはならない完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月08日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 志(p3p000416)
遺言代行業
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
彼岸会 空観(p3p007169)
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
シガー・アッシュグレイ(p3p008560)
紫煙揺らし
エシャメル・コッコ(p3p008572)
魔法少女
リレイン・ヴァース(p3p009174)
新たな可能性
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤

リプレイ

●深夜
 妖に怯えて夜を過ごす――。
 彼らが抱いているのは、冷たい諦念だ。
(寄る辺無き者達が身を寄せ合う場所。寺と言う場所は救いの場であるべき筈だと言うのに)
『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)は静かな寺の内を見通すように目を細めた。
 静謐な寺という場所とはいえども、本来であれば、これほど子供がいれば、多少の話し声なんぞするのが道理。
 だというのに、寺の中は異様なまでに静まり返っている。
「人を喰らう化け物……と言えば有り触れた噺の一つだが。
寝ていれば難を逃れるとはまた珍妙な」
「どうするの? 鬼灯くん」
『零れぬ希望』黒影 鬼灯(p3p007949)を見上げ、小首をかしげる嫁殿。
「俺は忍、むしろ闇の中こそ舞台に相応しい。もちろん起きているとも」
 大切に抱えられた人形は、くすりと笑って、「それなら鬼灯くんと一緒にいるね」と告げた。

「失礼、一服構わないだろうか」
『スモーキングエルフ』シガー・アッシュグレイ(p3p008560)は煙草をくゆらせる。
 尼は息を飲む。
 かすかな残り香。シガーの精霊刀-熱砂-がそれに応える。煙草一回分の熱と引き換えに。
「武器……あなたたちは、戦うというのですか?」
「ヨーカイ博士なコッコがきたからにはもうご安心な!」
 沈鬱な空気を破ったのは、『魔法少女』エシャメル・コッコ(p3p008572)だった。
「コッコたちはヨーカイをやっつけにきたんだな」
「ですが……」
「ご安心ください、一夜あれば片がつきましょう」
『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)が進み出る。
「このままではいられないこと、分かっているはずだ」
 シガーは言った。その言葉はもっともだった。
(今は良いが、子供が薬を飲まない時があるかもしれない、夜中に訪問する人が居るかもしれない。
今回のように、薬を使えない子供が来てしまったら……)
 今までは、運が良かっただけなのだ。
「昔話であれば、依頼主は這う這うの体で逃げた所で幕引き。
山姥はずっと尼寺周辺に居続けていたわけですが」
 瑠璃はふっと息を吐く。
「こうやって立ち向かう選択肢が生まれているならば、
絶望の青を越えて来た甲斐もあるというものです」
「ええ、悪夢みたいな夜は、もう今夜で終わりにしましょう!」
『新たな可能性』リレイン・ヴァース(p3p009174)の心は弾む。
 今回は、正しく間に合ったのだから。
 やっと戦が落ち着いて、子どもたちはこれから安心して暮らせるようになるのだ。
 手を伸ばせばそこに在る可能性。
「夜は皆にとって、安息の時間でなくてはならないのだわ」
『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は、子供たちのいるほうに視線を向ける。
 いつものように、おやすみなさいをして――毎日、夜が明けるのを疑わずに、朝起きたら、おはようと言う。
 そんな生活が必要なはずだ。
(それを乱す妖は、……悪いけれど、見逃せはしないのだわ)
「まあまあ、そう重く考えちゃだめよ」
『自堕落適当シスター』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)が笑う。
「もう前金貰っちゃってるし。さって、仕事の時間ねぇ、ちゃっちゃか稼ぎにいきましょー」
「舞台の幕を上げようか」
 鬼灯に頷き、無量は尼僧に手を差し伸べた。
「此の寺の、在るべき姿を取り戻しましょうや」

●夜明かし
「コッコ、ヨーカイにはくわしいな! ヨーカイをウォッチングするのは地球ではやってたな! もちろんコッコもやってたな!」
「へえ、何処の世界にも食い意地の張ったアヤカシというのは居るものなのだわ。ま、それは主とする神々にも似た様なのはいるけれども」
 コルネリアは前金を数え終えて懐にしまい込む。
 大暴れの時間は、もうすぐだ。
「子供が安全に保護できるよう、一体も逃がさず倒してしまおう」
 シガーのくわえた煙草はぽつりと、木々で覆われたこの場所の明かりに加わる。

 子供たちは、今日ばかりは一カ所にまとまって寝る様にと言われて色めき立つ。
 今日の夜は、少しだけ様子が違う。
「ああ、どうか……」
「むむ、赤ちゃんだな!」
 なかなか寝付かない赤子に、尼は憔悴を浮かべている。
「ちっちゃいこが眠るのはたいへんなんだな。そこでコッコ、めーあんを用意してきたな!」
 きらりと光る、コッコのピンクの目。
「……? ……?」
 赤子はにこにこと首をかしげて、そのまますうと眠りについた。
「うんうん、おやすみだな! どれだけうるさくしてもぜったいに起きないな!」
「わあ、すごい! お薬なしで!」
「これはどんな術を使ったのですか?」
「ふふん、コッコの魔法だな!」
 見張りの尼たちは全員がそろって部屋を守る様に配置していた。
「子供たちは、これで全員ですね。大人の方も?」
「ええ。けれど、本当によろしいのですか? 戦うというのなら私たちも――」
「いいえ、大丈夫です。むしろ――貴方たちがけがをされないか、心配です。どうか、信じてくださいますか?」
 リレインの手には、懇願するような、驚くほど強い力がこもっていた。

 小さな弟妹たちは薬でぐっすりと寝ている。
「明日になったら、もうこのお薬飲ませなくていいのかな」
「なんだな!」
 もしかしたらこれが、怯えて過ごす最後の夜なのではないか――。
 今日ばかりは静かに、朝を待つ。
 怯えてやり過ごす日ではなくて、昇る朝日を待ち望む日だ。
 それでも音を立てそうで、少し怖かったけれど。
「布団を重ねて被るようにすれば、布団の中の空気が温度に加え振動も伝わり方を弱めるのですね」なんて、あの和服の人は言っていた。
 その人は――足音一つ立てずに、そっとふすまをしめていた。
「ふああ」
 ねかしつけ、自身も眠りにつく子供を、瑠璃は愛情深く眺めていた。
(私も昔は小さな子供を寝かしつけていた身、ああいうものに取られてしまっては、やりきれませんものね)

 漆黒の夜を行く、忍びの影が二つ。
 片方はなんなく夜を漕ぎ、片方は潜み微動だにしない。そして共通するのは、どちらも一切の物音をたてぬということだ。――かすかな、呼吸の音すらも殺して。
 廊下を素早く動く影。
 鬼灯は、気配を断って尼寺を移動する。廊下を曲がったその先に、包丁をくわえた妖がいた。
 見下ろすリレイン。チェシャ猫の足が、リレインの懐で笑った。
 リレインが映し出した閉じた襖。あるはずのない位置にある襖に、ハッグは首をかしげている。しかし、気がついてはいない。目が悪いのだ。
 そして、そこへ、一糸が、手裏剣へと形を変えていた。
『ッツグウウ!』 
 忍形劇『長月』。絡みつく黄緑の光は否応なくハッグの意識を引いた。
「嗚呼、眩しい光に誘われ考えなしに刃を振るうさまはまるで誘導灯に群れる蛾の様だ」
「ねぇ、私達と遊んでくださらない?」
 踵を返す。物音で、さらに一体が釣り出せた。
 目標の先は、暗闇に浮かび上がる光。
 シガーが用意した篝火だ。

 北に、2体。シガーはその場所で待機しながら、その音をしかと耳にしていた。
 たしかに、その妖は耳が良い。だけれども自分が発する物音には、無頓着だった。
(……妖と同じく、音を頼りにするっていう辺りが何とも言えない気持ちになるねぇ……)
 仲間が上手くやっているのがよく分かる。気配がこちらに近づいてくる。
 シャン、と、澄んだ音が鳴った。
 子供部屋に引き寄せられようとしていたハッグは、その音に引かれて振り向いた。また、別の方角からひらりと何かが舞い込んだ。
 その音は次第に大きくなっていく。
 錫杖の遊輪。
 無量の鳴らすその音に導かれるように、鬼たちが集う。

「へっ、来たな」
 コルネリアは獲物を構えてスコープを覗く。仲間が、上手くおびき出したようだ。
(ドンパチの音でガキ共を起こしちゃバケモンに気づかれちまう。だが単体で相手ってぇなると時間も掛かる)
 だからこそ、遠くで待ち構えていた。
(一ヶ所に纏めちまえば音が鳴っても近くのアタシ達が標的になるだけだ)
 先ずは攻勢いっぱぁつ……。
 スナイパーズ・ワンが、戦闘の狼煙をあげる。
「おや、逃げようなどとは」
 瑠璃はすばやく屋根をすりぬけ、縁側にて退路を断った。
「ええ、通したりはできないのだわ」
 華蓮が姿を現した。
「女子供相手に、何日も騙され続ける馬鹿な妖が居るなんてなぁ」
 不敵に笑うシガーに、妖たちは恐ろしい刃をむく。
 怒っている。そして、肉に飢えた目だ。
(ああ、やっぱりな。……実際問題、好物の人間を前にして食べられない日が続いてるなら……ストレス凄そうなんだよな……)
「よっし、ガキ共が万が一目が覚めても面倒だ。効率的に殺ってくぞ」
「無論」
「相違なし」

●夜を駆けていく
 無量の式神が、地面を大きく打った。妖が、それを狙って包丁を振るった。その軌道は――大きく、空を斬った。その勢いのまま木を斬りつけるが、木は無量の保護結界に守られていた。
(この寺を荒らしてしまえば、此処にいる方々が居られる場所がなくなってしまう。
だからこそ彼女らは今まで抗わず、静かにやり過ごして居たのでしょう)
 故に被害は最小限に。
 妖であっても急所は変わるまい。
 大妖之彼岸花を両手で構える。獲物を求めて刃が震えた。
 妖は頭を庇った。が……。
(目の悪い敵からすれば音は一撃、されど穿たれるは三撃)
 続く二撃は喉を突き、崩れた姿勢のその体重すらも見切った鳩尾への一撃が待っていた。
 見開く。
 第三眼が、その太刀筋を導いた。
 六道羅刹白蓮華。今、この一瞬ばかりは――無量は鬼だった。
 妖は理解するだろう。
 これは、決して獲物にしてはならぬ存在だったのだと。心身共に鬼と成り、斬り伏せ、また人へと戻る。

 恐れをなした妖の一匹が、群れから外れようとしたが。
 しかし、見えない何かに阻まれる。
「貴殿らの遊び相手は俺だろう? 抜けてくれるなよ」
 魔糸『暦』。鬼灯の操るその糸を繰れば、敵を刻む鋭い刃となる。
 鈴を転がすような、章姫の笑い声。
「鬼さんこちら! 手の鳴る方へ! なのだわ!」
「いくんだな!」
 サンサンサンの向日葵の杖を、コッコはくるくると回した。ちょー可愛い魔法少女服。うむ、きょうもきまっている。
 それは、コッコに力を与えてくれる。
(この元気をみんなにも分けてあげるんだな!)
 それが魔法少女というものだ。
「みんな! コッコに続くんだな!」
 ピューピルシールによって、口をばってんで塞がれる鬼たち。怨念を込めた包丁の一撃は、勢いを削がれる。
 それでもその一撃は、当てつけのように強く振るわれる。
「大丈夫……大丈夫。回復の心配なんていらないのだわ」
 華蓮は、ただ、そこに立ち、微笑んでみせる。
(ねぇ、あなたたちも不運だったのだわね)
 華蓮の慈悲は、羽のように柔らかい。
 そこに、憎しみはなかった。
(もしも人を害することがないのであれば、お互いに分かれて暮らせたかもしれない、けれど)
「もしも」の可能性は、ときには、心をえぐるようにつらいことがあるけれど。
 それでも、華蓮は考えてしまう。もしかしたら、と。
 きっとそれは希望を抱き続けるということ。
 希望に灼かれ続けるということ。
 それでも。
(夜の休息を取り戻さなくてはならないだわね)
 天使の歌声が、皆を癒していく。
――敵をおびきよせることはできなくて。
「っ、させませんよ」
 リレインの衝撃の青が、敵を吹き飛ばして注意をひいた。
――傷をつけないように、守ることもできなくて。
 ただ、こうやって上書きするように、癒しの力を与えるしかできないけれど。
(でも、もしも、の気持ちが、もっとできたら、という気持ちが)
 その旋律は焦がれるような情熱を帯びた。
「わあ、元通りなんだな! ありがとうなんだな! 良い子ポイント!」
(ふふ、私は良い子、かしら)
 でも、そう振る舞うことはできる。

 リレインの気配には。
 どこか、シガーに懐かしい日々を思い出させるような。そんな気配が、ほんの少し含まれている気がする。
 シガーはリレインに背を預け、武器を構える。熱を帯びたその一刀は、ハッグの包丁をかわし、喉を斬り裂いた。怒り狂った仲間が、シガーに斬りかかる。
 それで構わない。あえてかわさずに、致命傷だけを避けるように身を引き、誘いこんだところへ外三光を放つ。
 後の先から先を撃ち、縫い付ける刃。
 妖たちは――どうしてか焦っている。
(そうでしょう)
 妖たちは、神使たちの存在を何倍にも感じ取っていたのだ。
 囲まれている、と感じたはずだ。しかし、それほどの人数は実際にはいない。無量の式神や――鬼灯の糸。そして、瑠璃の包囲は、意図的に作り出したまやかしだ。
 コルネリアの銃弾によって、逃げることもかなわず。
 じりじりと一カ所に集まるハッグは、飛んで火にいる夏の虫。
 眩術紫雲。虹の如く煌く雲に音はなかった。何をされているのかもわからぬままに、ハッグの二体は崩れ落ちた。
(向かってきますか? いいでしょう)
 檻術空棺が、ハッグをその場にくぎ付けにした。そして、瑠璃はそのまま身をひるがえし、向かってきたもう一体を捌いた。
 とすれば、出番はコルネリアに移る。
「へっ、いい位置に止めてくるなぁ」
 瑠璃は、射線が通ることを理解していた。そして、コルネリアならばおそらく仕留められるだろうことも読んでいた。
 パアン、と、銃声は高らかに夜に向かって響き渡った。
(一人で捌くのは面倒だろ? ……アタシが少し引き受けてやらぁ)
 狙うは、一気に2体。
 まるで、お手玉のように。コルネリアは不敵に笑い、巧みに翻弄した。がむしゃらになる攻撃は、弱っている証拠だ。
(タダでさえ怒りで思考が乱されてんだ、アタシの弾丸はさぞ鬱陶しい事だろうなぁ?)

●朝を待つ
 シガーは、肩を鋭く切り裂かれた。
 それでは、その動きは少しでも鈍ったか?
 否。
 むしろ、その剣捌きは、死地において研ぎ澄まされていく。
 全てを捨てるような、怨念を込めた一撃を、ただひらりとかわす。
「馬鹿な妖だ、死ぬのは俺じゃない」
 妖がこの場を離れる事の無いように。脅かすことがないように、シガーは灯火をともし続ける。
「この國は漸く、朝日を迎えようとしているのです。その邪魔だけは、させません」
 無量の構えが変わる。
 辺りは、不思議と清涼な空気が満ちているように感じられた。
 悪鬼羅刹も極楽浄土に咲く白蓮の下に、黄泉路へと誘い仕る。
(この國が未だ弱き者たちを救う余裕がないと言うのであれば私が、私達が救ってみせる)
 様々な禍根は未だ神威神楽に根付いている。
(けれど、一歩ずつでも前に進まねばならない。その助けを私は、したいのです)
 踏み込む一歩。
 癒しの力を? 華蓮の問いかけに、シガーは首を横に振る。ああ。強い。あなたたちはとても――。
「みんなみんな、強くて妬ましいのだわ……。だから私も少しでも、戦えるようになっていかないと!」
 それは心に刺さって抜けない”小さな棘”。嫉妬の感情を乗せて、巨大な槍の形を成す霊力のかたち。
 けれど、けれど。恋の話を紡ぎましょう。そう、きっとあの子のように。
 怒りにかまけて突進する妖の前に、リレインが立ちふさがる。
「僕がいる限り、ここから先には行かせません……!」
 闇が蠢き、ハッグはようやく理解する。
 そこに射干玉の刃があったことを。
 穿法匕首。術者の血を纏う刃が、切り裂いた。
「さぁ、さっさと主の元へ送ってやれ。行けるかどうかは知らねぇけどな」
 コルネリアの弾丸が妖の足を撃ち抜いた。
 ゆらりと、何かの光を追いかけて妖が空を見た。
 あるはずのない、銀の月。
「闇は我ら忍の揺り篭、暗き運命に抱かれて逝くがいい」
 鬼灯のダークムーンが、妖を消し飛ばす。

●夜明け
「朝!」
「だめ、うるさくしちゃ!」
 けれど、いつもならば叱る尼はにこにことしているだけだ。
 リレインは何度も。人数を数えて。また数えて、一人も欠け落ちなかったことを理解して、そしてようやく微笑む。困ったような、あの笑みだ。
「おはようございます。もう、大丈夫ですよ」
「いいの!? もう、あのお薬飲まなくていいの!?」
「これで子供達も大人達も安心して夜を過ごせるかしらねぇ」
 手を取って泣き出す尼に、肩をすくめるコルネリア。
「いいって、いいってー。これが商売。毎度ありがとうなのだわー。またのご利用、よろしくどーぞぉ」
「ありがとう……ございます……ほんとうにありがとう……」
「また何かありましたらローレットへご連絡を。きっと、悪いようにはいたしません」
 瑠璃が一礼する。
「これから先、同じ様な事……何か困った事があれば中務卿か天香に知らせて下さい。彼らは信頼出来ますし、我々に話を持って来てくれるでしょう」
 無量の言葉に、尼は何度もうなずいた。
 上は頼れないと思っていた。……ひどい政治から、逃げ出してきた尼も数多かった。だから頼れないと思っていた。よそ者も――頼れないと思っていたのだ。
「どうか、苦しみを抱いたままで居ないで下さい。諦めないで下さい。私達神使は……貴方達を助けたい。此処にいる子らの笑顔が絶えぬ國に、共にして行きませんか?」
「よろしく、お願いいたします……」

「みんな、おはようなのだわ。たまには良いものだけれど、夜更かしは健康によくないのだわね。よく眠れたかしら?」
 ふわりと翼を広げる華蓮に、子供たちは飛びついていく。
「まあ、あなたたち! だめですよ。お疲れでしょう」
「いいのだわ。みんなも戦っていたのだもの。ねえ?」
 息をひそめて、じっと耐えることで――戦っていたのだから。
「ん、こっちくるんだな! みんなにしょーりのプリンをごちそーしてやるな!」
「……! なにこれ、とっても甘い!」
「お寺のねーちゃんもこどもたちもよくがんばったな! 腹いっぱいプリン食べるといいな!」
「おねえちゃん、ありがとう」
「……お母さん」
 一人がつぶやいた。華蓮が、不意に抱きしめる。

「舞台はおしまい。ハッピーエンドというところかしら」
「当然だ」
「鬼灯くんなら当然ね、ふふ」
「それにしても、嫁殿には眩しい朝日も良く似合う」
「まあ、鬼灯くんったら!」

 子供たちから離れて一服するシガーは、華蓮たちと追いかけっこをする子供たちをのんびりと眺めている。
「それにしても、妖も徘徊する場で子供達を守り続けたというのは凄い話だ」
 これほどまでに危険な場所で、耐え続けてきたのだから。
(子供を放り出す事も無く、妖に襲われる恐怖に耐えつつ日々を過ごしてきた辺り、優しく芯の強い尼さん達なんだろう)
 今の豊穣に、こうやって子供達を守ってくれる尼寺は大変貴重だ。
「今後も救われる子供達が居るだろうこの場所を、なんとしても護っていかないとだねぇ」

成否

成功

MVP

彼岸会 空観(p3p007169)

状態異常

なし

あとがき

夜は明け、子供たちは安心して眠ることができるようになるでしょう。
おはようございます!そして、お疲れ様でした。ゆっくりと身を休めて、そしてまた気が向いたら一緒に冒険いたしましょうね!

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