PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ホワイト・アウト

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●真白の檻
 ——吹き付ける風が、痛い。舞うだけなら冷たいだけの雪の結晶も、ここまで群れると視界を奪う。
 誤解のないように言えば、彼等とて素人の物見遊山で山を登ったわけではない。事前にルートを決め、装備も十分に用意した。当日の健康状態も、登山者の経験値的な部分も何一つ問題なかった。
 ただ一つ、当日の天候が激変したこと以外は。
「くそっ」
 後ろの方で仲間が悪態をつく声が聞こえた気がした。無理もない。朝に聞いた天気ではここまで荒れることは誰一人知らなかったのだから。
 視界が目の前の僅かな範囲しか残されず、先頭を歩く私では最後列の仲間の姿を認めることができない。腰に繋いだロープが時折危なっかしく揺れるが、それは同時に仲間の無事を知らせてもくれる。大丈夫。まだ誰一人欠けていない。
 ゴーグルの向こうの景色は、相変わらず白い。まるで純白の檻に囚われたようだ。胸元のコンパスと、頭に叩きこんだ地図を頼りに山小屋へと進んでいる筈だが、もう当初の到着予定時刻をとっくに過ぎている。恐らくどこかで道を逸れてしまったのだろう。
「隊長!」
 後ろで仲間が私を呼ぶ声がする。腰のロープが私を呼び止めている。立ち止まると、ロープを辿って仲間が私の後ろに立った。蜃気楼が実態を得たような気がしたのは、言わないでおこう。
「隊長、どうやら後ろの仲間によると近くに全員が入れそうな横穴があるそうです!」
 吹雪の風にかき消されないよう、大声で報告する内容は天の助けと言えた。
「そうか。それではその場所で吹雪が止むまで待機し、天候が回復し次第登頂を再開しよう」
 判断は迅速に。それは山で生きてきた私のモットーでもある。後をついてきた隊員に先導してもらう形で、ようやく私達は横穴に――当座雪と風を凌げる空間を手に入れた。

 テントを張り、携帯用の燃料に火を灯す。そこで隊員全員が一様に安堵した表情を浮かべた。
「しかし、とんだ登頂になりましたね、隊長」
 最年少の隊員が白湯を飲みながら愚痴る。私はこの程度の経験は何度か経ているのでそこまで苦痛ではないが、彼にとってはそうでもないらしい。
「この天気は予想できないさ」
「そうね。朝の時点では吹雪の予兆は何一つなかったわ」
 副隊長と紅一点がそう言って私の判断を擁護する。「また甘いこと言って」と隊員が口をとがらせるが、この生意気な所も憎たらしくは思えない。
 場所が変わったが概ねいつもと変わらない会話。それを遮ったのは、震動だった。
「なんだ!?」
「地震?」
 違う、と直感した。これは何かが崩れるような揺れ。つまり。
「雪崩だ!」
 言うが早いか、横穴の入口の白が何か別の白に覆いかぶさった。

●閉鎖空間
 燃料の火が揺れている。震動はなくなったが、代わりに閉じ込められた。
「状況を整理しよう」
 こういう時こそ冷静に。私の言葉に仲間の3人も頷いた。
「まず我々は、雪山で遭難している最中に入った横穴で不幸にも雪崩に巻き込まれた。幸いにしてこの横穴に被害はないが、出入口は塞がっている。他の出口は?」
「ありませんでした。この奥は行き止まりです」
「そうか、では次。我々の持っている食料その他は?」
「テントと荷物は全て無傷です。食料は缶詰等が少々、もって1日~2日程度。火があるので、雪を解かせば最低水には困らないかと」
「燃料を持っていたのは不幸中の幸いか。最後に、その他の装備は?」
「雪の壁を崩すのに有用な道具はありません。また、雪の壁は思いのほか厚いようで、仮に道具を使っても貫通するのに時間がかかると思われます」
 それぞれから上がった報告を聞き、私は判断を迫られる。
「……事前に計画書を提出しているから、救助隊が来る可能性は高い。だがそれをただ待っているのでは時間切れになる恐れがある」
 だからこそ、こちらからも行動せねばならない。救助をただ待つだけでなく、雪を掘り起こす作業を進めていく。
 私の指示に、隊員たちは神妙な面持ちで頷いた。
「さてと」
 私もため息交じりにそんな言葉が出る。
 ついさっきの評価を訂正しなければならない。

 こんな経験は初めてだ。

●二面性を有する大自然
「不明者捜索の応援ですか!」
 境界案内人――ファロ・プレゼレンの説明もそこそこに現場へと赴いた「あなたたち」を呼び止めたのは、この雪山を管轄する救助隊の一員という初老の男だった。初老と言えば不安になるが、彼はこの山を知り尽くしたベテランなのだという。実際、救助の音頭は彼がとっているようだ。
「概要について改めて説明します」
 18時間ほど前、面前にそびえる雪山で比較的規模の大きな雪崩が発生した。現場の確認と併せて登山者の有無を確認した所、4名の登山者が現場付近を通過する予定であったことが確認された。
 そこで、雪が小康状態になるまで待ってから捜索隊を結成、本格的な救助に当たっているが未だ発見に至っていない。
「以上です。皆さんには、雪崩の現場で登山者4名を探していただきたいのです。勿論、必要な道具は一式お貸ししますし、現場まではスノーモービルで送迎します」
 ただし捜索現場内でスノーモービルを使うことはできないという。万が一雪の下に登山者がいたら轢いてしまう恐れがあるからだ。
「現場付近の岩肌には横穴も多いですし、登山者達も熟練のようです。吹雪で視界の悪い雪山を無理して踏破しようとせず、どこかで雪が止むのを待っている可能性もあります」
 山小屋には、彼等の姿はなかったという。

 救助隊の長を務める彼の「よろしくお願いします」の声を聞いたあなたたちは、目の前にそびえる山を一望する。
 朝日に照らされた山は、ついさっきまで荒れ狂っていたとは思えないほど、凛として美しく聳えていた。

NMコメント

ライブノベルではお久しぶり、澪と申します。
冬なので、冬っぽいシナリオを一つご用意しました。皆様の創意工夫をお待ちしています。

●目標
 雪崩の現場内で生き埋めになっている登山隊を発見する

●現場概況
 雪崩の起きた冬山です。現在は早朝、雪崩発生から約18時間経過しています。OPは吹雪でしたが、現在は晴れています。寒いです。
 雪崩の発生現場は6~7合目、4人以外の登山者は無事が確認されているものとします。
 雪崩発生現場までは移送されますが、崩落個所内ではスノーモービルの使用は禁止されます。徒歩、或いはスキーのような道具、飛行などは可です。
 救助に必要な装備一式、道具等は救助隊側のものを貸してくれます。特別に欲しいものがあれば貸してくれます。なお、更なる雪崩を誘発しかねないもの(爆発物など)は貸し出しできません。

●要救助者
・冷静沈着で冬山の経験豊富な隊長
・隊長に全幅の信頼を置き、場を盛り上げるムードメーカーの副隊長
・剣呑になることもある場をとりなすのに長けた隊の紅一点
・3人とは少し年齢が離れ、それ故に一歩引いたところでモノを見ている男性隊員
の4人です。
 現在、雪崩現場内のどこかの洞窟内でビバークしています。このまま待っているだけだとジリ貧なのは承知しているので、彼等も中から脱出しようと動いています。
 非戦、ギフト等が有効に活用できる場面もあるかもしれません。

●特殊条件
 要救助者である登山隊の人数、予定登頂ルートは事前に提出された登山計画書で判明しているものとしますが、具体的な装備の状況等はリプレイ開始時点では判明していません。
 同様に、登山隊がビバークしているか、雪の下に埋まっているかも確定していません。(OP文章から「こうだろう」と推量して動くことは可能です)

  • ホワイト・アウト完了
  • NM名
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年12月31日 22時00分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
Binah(p3p008677)
守護双璧

リプレイ

●ハレ
 その威容は些かも揺るぐことなく。恐らくその頂きに登ろうとする人の営みなど羽虫の羽音程にも思っていない。そう感じさせるほどの峻険さを持つ峰々が4人を待つ。
 だがこの場に集った4人の特異運命座標は、そんなものでたじろがない。
「ふむ……今回の雪崩は表層雪崩ということで間違いないかな?」
 事前に提出された登山計画書に目を通しつつ隊員を捕まえ、情報収集を図るのは黎明院・ゼフィラ(p3p002101)。純然たる登山の経験はないが、それを補うだけの知識と手掛かりがある。
「ということは、同じことが起きる可能性がある……」
「そうなるな。時間も結構経ってるし、猶予はないな」
 Binah(p3p008677)の脳裏に危機感が過る。それを肯定するのは回言 世界(p3p007315)。ヤバいかもな、という言葉は呑み込んだ。罪悪感は湧かないだろうが、それでも現実のものとなったら目覚めは悪い。
――そうならないように俺達が来たんだからな。
「そうね、雪山なら――っと!」
 Binahの隣で同じく雪山を見上げている長月・イナリ(p3p008096)は言うが早いか変化を解く。現れたのは一匹の大きな狐。なるほどふわふわの体毛、滑り止めの効いた四足歩行は確かにこの気候に適している。リュックを背負っている様は中々ユニークだ。
「それじゃ、行こうか」
 くれぐれも気を付けて、ミイラ取りがミイラになってしまっては元も子もない。Binahの言葉に、残る三人も眦を決する。

●ハレ カゼヤヤツヨシ
 スノーモービルで辿り着いた被害現場には既に多数の救助隊員がいて、ストックで雪を突きながら生き埋めになっていないか探している。ゼフィラが最新の情報を集めるが、真新しいものはない。
 木々はなぎ倒され、お世辞にも登りやすいとは言えない山中。唯一の四足歩行であるイナリは不利な地形を軽快に登り、鋭敏な鼻を頼りに四人を探す。
「恐らく、正規のルートにある匂いは別人のものだ。外れたルートを進む匂いを辿ってくれないか」
「わかったわ!」
 その背後でゼフィラが指示を出す。登山計画書と地図、それと明晰な頭脳から弾き出される論理的帰結を元にルートの予測を立てながら、足場の悪い山道を進む。
「……そうか。地上に手掛かりはないか」
 ゼフィラと同じく精霊の助けを借りていた世界はその報告に肩を落とすこともなく、協力してくれた精霊に礼を告げた。地上に登山隊の手掛かりがあるか探ってもらったところだが、折りの猛吹雪で足跡は隠れ、彼等の持ち物と思しきものは見つからないようだ。
 一方Binahは温度と耳を頼りに雪をかきわける。捜索隊の温度が点在し、温度では手掛かりが得られない。だが、卓越した聴力が手掛かりをつかむ。
「どこかで……離れてるけど何かを掘る音が聞こえる気がする」
「こっちも手掛かりが得られたわ!」
 イナリが呼び寄せた霊魂――縁起ではないが――によると、「新入り」はいないという。それはつまり、行方不明者は全員生存しているということだ。
「だが、生き埋めで18時間以上経過していて生きているとは思えないな」
「確かに。となると視点を変える必要がある。つまり、彼等は18時間以上生きていられるだけの場所にいるということだ」
 世界の言葉にゼフィラが論理的思考を張り巡らす。
 表情が晴れると同時に至るは一つの仮説。ゼフィラは地図を取り出し、徐に地図の一点に大きく丸を描く。
「恐らく彼等は、ビバークをしているのではないか?」
「ビバーク?」
 問い返したイナリに、「不時泊のことだね?」とBinahが確認をする。
「そうだね。 雪崩発生時の天候、霊魂の証言、そして何かを掘る音。全てを総合させると、どこか風雪を凌げるところに避難したまではよかったが、そこで雪崩に遭い入口が塞がってしまった、そう考えるのが最も可能性が高い」
「……確かに。しかしそうなると、捜索隊の動きは無意味になるな」
 世界の言葉に3人も頷いた。捜索隊は生埋めを念頭にした捜索をしている。だが対象は雪の下にいる可能性が低いのだ。
「ゼフィラ君、その丸印は?」
「地図によると、この付近にはちょっとした横穴が点在するらしい。雪崩発生現場内で、他に風雪を凌げるような所はなさそうだ」
 捜索範囲を大きく絞ることに成功した4人は、急ぎゼフィラの記した地点まで歩みを進めていく。

●ハレ ヤヤクモアリ
「これは……」
 イナリが頭を抱える。他の者も何も言わないが、腹に抱える言葉はほぼ同じだった。
 目的の場所は雪崩の発生減にかなり近いようで、範囲こそ狭いが雪量が多く、木々は残らず倒され、岩肌さえ辛うじて見えるという程度。
 そんな状況なので、点在しているという横穴も軒並み塞がっているという有様。
「時間に余裕がないのは、あまり変わらないみたいだね」
 刻一刻と過ぎる時間に焦りの色が浮かぶ。Binahは先程と同じく温度で変化を探ろうとするが、雪の壁が邪魔で温度の変化を知覚できない。ただ、耳を澄ませると先程より遥かにはっきりと雪を掘ろうとする音が聞こえる。
 イナリも嗅覚を頼りに捜索を進める。雪の香り、木の香り。そうした自然由来の香りに混ざって食べ物のような、具体的にはチョコレートのような香りが微かに漂っていた。余談だが、どうやら世界の持ってきた物とは匂いが若干違う、らしい。
 二人はそうした痕跡を慎重に辿りつつ、徐々に発生源のあり得るエリアを特定していく。鋭敏化した五感は広範囲から手掛かりを得るのには有用だが、ここから絞っていくにはどうしても多少の時間を要する。だが、二人の探索範囲は徐々に狭まっていき、やがてある地点に収束する。
「ここだわ!」
「ここだね」
 果たしてゼフィラの推理した通り、そこは横穴が点在する地帯の一角だった。岩肌は雪に覆われ見えないが、4人が今切り立った崖の下に立っていることだけはその地形から判断できる。
「誰か生きてるか?」
 世界が呼びかける――大声で雪崩を誘発しない様、敢えて声を張り上げなかった――が、反応はない。しかしBinahによると、確かにこの奥で何かを掘る音が聞こえるという。
「少し焦げたような臭いもするわ」
 イナリもそれに同意するように続ける。彼女は試しに前脚で掘ってみようとしたがすぐに断念する。雪の壁の一部が昨夜の寒さで凍結し、壁のようになっているのだ。これでは生身の身体で掘り進めるのは不可能に近い。
「登山隊が自力で脱出できないのはこれが原因のようだね」
「夜の間に凍っちまったか、それとも元から氷の塊だったのか」
 ゼフィラと世界、二人でスコップを突き立ててみる。かなり固いが、不可能ではない。傍らにはBinahと、人間の姿に戻ったイナリの姿。
 雪崩が起きないように慎重に、最早氷壁となり果てた雪を少しずつ削り取っていく。
――誰かいるのか!?
「聞こえた!?」
「ああ、間違いなくこの先にいる」
「安心して、助けに来たよ!」
 超聴力を介さなくても、聞こえる声にスコップを握りしめる腕に力がこもる。少しずつ氷の壁を崩し、そして。
――がらがらがら!!
 瓦礫が崩れるような音とともに、洞窟への扉が開かれる。

●ハレ カゼツヨシ
「ああ……救助が来たのか。助かった」
 雪の壁が剥がれ、洞窟の全貌が露になる。最も入口の近くに立っていた男が、崩れた壁、そしてそこに立つ4人を見て心底安心した声を発した。その奥には、焚火の残骸を意味なくつついている男の姿。
「怪我はないようだね?」
 ゼフィラの問いかけに頷いて見せる男。その隣で世界が人数を数える。確認できる人影は2つ。
「行方不明者は4人だろ? あと2人は?」
 ポケットからチョコレートを差しだし、渡す。丁重にそれを受け取り口に放り込みつつ、男は奥のテントを指さす。緊張が走る中、Binahとイナリが中の確認に向かう。
「……あれ?」
「寝てるわね」
 中を確認した各人から安堵を含んだ声が聞こえる。奥にいた二人の隊員は熟睡しており、2人が救出に来たことさえ知らないようだ。
「洞窟内の酸素が無駄に消費されることを防ぐために交代で寝ているようにしていてね」
「怪我はしていない。叩き起こして貰っても構わない」
 言われた通り、Binahとイナリが2人を起こす。雪崩発生からほぼ一日が経過しつつある中で無傷なのだから奇跡と言っていい。
「隊長は誰なんだい?」
 入口に立っていた男が「私だよ」と返す。ゼフィラがその方向を向く。冷静沈着、或いは機転の利く智慧者同士の視線が一瞬交差する。
「敬服するよ。素晴らしい判断力と機転だ」
「ありがとう。だが君達も判断力と論理的思考力に優れているようだ。我々の命を救ってくれて、礼を言わせてほしい」
 深い礼に、ゼフィラが照れたように笑う。その奥で、イナリに起こされた隊員が彼女の手にある酒瓶を目敏く見つける。
「気になる? 気付けに飲むかしら?」
「いいねえ。だが、それは下山してからの楽しみにしておくよ」
 各々から差し出された食べ物、飲み物で体力を養い、イナリの酒で気力も充填できた様子。Binahが背負おうか、と打診するも彼等は固辞し、しっかりとした足取りで洞窟内を歩いて見せる。
「とても優秀な登山隊のようだね」
「嬉しいわ。あの隊長について行けば間違いないと私は信じてる。今までも、今もね」
 登山隊紅一点の言葉に、Binahも「そうだね」と首肯する。緊急事態下で最善の判断が下せるその力量に素直に敬服していた。
「では、隊員各位。これより下山に入る。天候は回復しているようだが引き続き警戒を怠らないように」
「……俺達も帰ろう。これ以上寒いのは勘弁だ」
 世界がいつもの本音かどうか判別しにくい言葉を吐きながら真っ先に洞窟の外へと足を進める。
 暗闇から這い出た向こうは、澄み切った空と銀雪が一面に広がりどこまでも美しく、そして雄大だった。

成否

成功

状態異常

なし

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