シナリオ詳細
『What for?』
オープニング
●ゼロの問い
境界案内人に勧められた店は、此処だろうか。
重い木の扉を押せば、古びたベルが、がらん、と鳴る。
カウンターのスツールに腰掛けていた青年が、その音にこちらを向いた。
真白な髪に、金色の瞳。身に纏う白の衣服は、形だけ見ればラサの旅人のようで――けれど、この男はラサの照り付ける日差しなどきっと無縁だろう。
「やぁ、待っていたよ」
待ち合わせなどしていない、そもそも自分とこの男は初対面のはずだ。案内人が事前に紹介していたのか、なんて思案が、顔に出ていたのか。
「違うよ、僕は此処でずっと皆の話を聞いているんだ。世界は退屈で、だから君達みたいな『運命』に選ばれた者の話は興味深いんだ」
一杯奢るから、付き合ってよ。その言葉にふらふらと誘われるように隣へ座る。
バーテンも居ない、メニューもない、この店には二人だけ。
「何にする?」
男の問いに「シンガポール・スリングを」と答える。彼が作ってくれるのだろうか、と瞬きをすれば――目の前には、真っ赤なロンググラスが在った。
「僕はゼロ。全てであり、なんでもないものさ」
だから、聞かせてほしいんだと前置きして。ゼロは、問いかける。
「ねえ、君はどうして戦うんだい?」
●蒼の溜息
「あの子達、どうして戦うのかしらね」
境界図書館の一角。得意運命座標を送り出したシーニィは唇をきゅ、と結ぶ。
此処から外に出る事は出来ない彼女の耳にも、外の話は聞こえてくる。
夏の盛りには海で途方もない力を持つものと戦い、新天地に辿り着いたと思えばその国を救って。休む暇もなく、今度は灼熱の国で盗賊退治に奔走しているとか。
けれど、シーニィは知っている。彼らが決して血に飢え、戦いを求めるだけではない者ばかりでないことを。時にはこの図書館で、人知れず深い溜息をついている者がいることも、平和な世界への冒険が息抜きとなっている者がいることも。
だから、そう。ゼロとのひと時が、少しでも彼らの心の整理になればいい。
シーニィはそう願うと、小さく溜息を零した――
- 『What for?』完了
- NM名飯酒盃おさけ
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年12月31日 22時01分
- 参加人数4/4人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●
「こんにちは、愛らしい君」
愛らしい、の言葉に『超絶美少女女子高生(自称)』松瀬 柚子(p3p009218)が右眼をきらりと輝かせる。
「いやー、なにやら変な人ですけれどこの私の魅力に気付いてしまうとは!」
高いスツールに腰掛ける時は、ミニスカートに気をつけて。サービスシーンは安売りしませんから!
振舞われたのは、赤に近い橙のジュース。ストローで吸えば、甘酸っぱい果肉の粒が口いっぱいに広がった。
「さて、ではではお話しようではないですか! 超絶美少女女子高生、松瀬さんの戦う理由ってやつを!」
――ズバリ、有名になりたいから! ですよぅ!
どやぁ、と胸を張る柚子に、ゼロは「有名?」と問う。
「そりゃこれだけ美少女ですから? むろん、何もしないでも有名にはなるでしょうけれど?」
ズバッといろんな依頼を解決しちゃえば、更に株も急上昇って寸法で――すらすらと滑っていく言葉は、明るく笑顔な美少女らしいもの。
しかし、ゼロはそれを是としない。
「君のその言葉は、僕の興味を満たさない。僕はね、嘘は楽しいと思わないんだ」
「……嘘くさいですかねぇ? ええー……」
深く、長く息を吐いて――仕方ないですねえ、と彼女は再び口を開く。
「まあ、私はまだまだこちらに来て日が浅いですけれど。
何故だか”人を守りたい”と思う……いえ、こちらに来て思うようになったんですよねぇ」
先程まで、ゼロの目を見ていたのとは違って。今度は壁を見つめたまま、笑顔で柚子は語る。
「そう。君は、優しい子なんだね」
「――さあ? 個人的には、他人なんてどーでもいいと思ってたんですけど……」
優しい子。その言葉に、柚子が自分の腕を掴んだのは無意識だろうか。
変わらぬ笑顔の中、ゼロは彼女の揺れを見る。きっとこの少女の『本当』は、他人などどうでもいい――そんな危ういもので。
「まぁ、不思議な事もあるもんですね?」
これも神からの贈り物のひとつか、なんて考えてみて。
「ともあれ、私はまだまだこれからの人間ですから?
善なる人を守って世間に貢献! がんばりますよぅ!」
ね、とゼロに向き直った柚子は――それはもう、美少女らしい笑顔で。
「……そうすれば、人の役に立てますから。ね?」
小さく自身に言い聞かせた言葉に、ゼロは何も返さず――ブラッドオレンジジュースを飲む柚子を見ていた。
●
「やぁ、麗しの悪魔の君。とっておきのワインでいいかな?」
「何とも不可思議なバーだと思ったら……先客は随分と良い嗅覚の持ち主だね」
天使だったら食べていたよ、と『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)は小さく肩を竦める。
深紅の雫は、永い年月を経た深い香り。喉へ落ちる紅は、懐かしいようで初めての味で――美酒は軽やかに舌を回す。
「古いワインは、時を内包した運命の雫だ。実に美しいよね?」
「同感だよ。神の血と言うに相応しい、時と物語が詰まったものさ」
だから、君の物語を聞かせてほしいとゼロは告げる。マルベートは、手の内のグラスを揺らすと――どうしてだろうね、と零し。
「私の場合は、そうだね……『幸せになる為』かな」
「幸せに?」
例えば――と指をカウンターに這わし、ぐるりと円を描く。
「これは皿だ。ここに美味しそうな料理がひとつあるとする。それに手を伸ばす人が多く居るとする。
その料理をどうしても食べたいとなれば……当然他の人を押しのけてでも手を伸ばすだろう?」
「当たり前だね。だって食べたいのだから仕方がない」
「そう、ならば手を伸ばそうとする者自体を減らせば、より手に入り易くなるとも考えられるよね」
それが大切な人の為であろうと、競争する事自体を楽しむのであろうと。
「上手く言えないけれど、その行動は全て幸せになる為の足掻きだよね。
その為に必要なのが『戦い』であり、勝利する為の『力』だと思うな」
「幸せになる為の足掻き――悪魔にしては随分と『努力家』だね?」
「あぁ、当然私だって料理に向かって手を伸ばすものの一人だよ」
マルベートはゼロの皮肉にも構わず、皿を描いたその指を唇に当て蟲惑的に微笑んで。
「幸い今の私には『力』がある。他人を押し退ける事にも戦う事にも躊躇いなどあるはずがないね」
「「自分の幸福以上に大切なものなど、ありはしないのだから」」
重なった男の声に、ふ、と互いに笑みが零れる。
「ふふっ、饒舌に過ぎただろうか。バーでは無作法だったかな?」。
そんなことないさ、との言葉に、マルベートは天井を仰ぎ見て。
「あぁ、美味しい。この幸せを再び得る為に明日からもまた頑張らなければね」
幸せを食する為、悪魔は今日もフォークを振るう――
●
「おや、ようやく男性が」
「……野郎では不満か?」
「そんなことないさ、男同士の方が気楽な事もあるだろう?」
否定はせぬな、とゆるく口角を上げ『咲々宮一刀流』咲々宮 幻介(p3p001387)が腰を下ろす。姉に後輩に、騒がしい女子達が居ないのもよいもので――似合いの一杯を、と頼めば徳利に入った熱燗が振舞われた。
酒を飲む事は多い、しかし好んでいるわけではない――そんな幻介とて、この酒が上質な事は解る。ならば、酒の礼にも話すとしよう。
「何故戦うのか……『仕事だから』と答えるしか無いので御座るよな。拙者、侍故に手に先を切り払うしか能が無い故に」
御猪口を片手に「つまらぬ話で御座ろう?」と苦笑する幻介。
「本当にそれだけ?」
真っ直ぐ幻介を見つめて問うゼロ。その言葉には「違うだろう」という意が籠められているのは明白で――店内に自分達以外が居ない事を確認し、幻介は観念して口を開く。
「……愉快な話でもないがな。拙者、元いた世界では始末人……要は暗殺者紛いの事をしておってな」
ぽつりと零したのは、かつて共に生きた『相方』のこと。
最期に残した言葉――自分の分まで生きろ、は。
「全く、厄介な呪いを残してくれたものに御座る」
「呪い、か――そうだね、言葉はいつだって呪いになる」
「拙者、先も言った通りに侍故にな……『生きる』という事は『他者を斬る』ということに他ならぬ」
幻介の腰に下がるは命響志陲。咲々宮家に伝わりしその刀は、生きる事を諦めるのを許さない。
その鍔に手が触れ――ふ、と息を吐く。
「……まぁ、蛇足を付け加えるならば。
その仕事は当然ながら失敗、拙者はめでたくお尋ね者となり、その日暮らしの浪人に成り下がったので御座るがな」
受けた『呪い』を身に宿し、望まれるまま斬って斬られて。
「楽しい話でも無かったで御座ろう? 肴になる話では御座らぬが、暇つぶしにはなったで御座ろう」
「ああ、十分だ。一杯でも二杯でも、好きなだけ呑むといい」
「ならば、日本酒をもう一杯頂こう」
――今宵は呑みたい気分になった故、な。男同士、付き合ってもらおうか?
●
「おや。嫌いだったかな?」
甘いバニラのラテに、たっぷりのクリームとメイプルシロップをかけたそれを『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)はじっと見つめていた。
「ううん、好き」
頼りない笑顔をゼロに返し、花丸は長い深呼吸をひとつ。
「花丸ちゃんが、『私』がどうして戦うのか、だっけ?」
「ああ。無理にとは言わないが――」
大丈夫、と前置いて。花丸が語り始めたのはこの世界に来たばかりのこと。
最初はただ、混沌の世界で生きる為に戦っていた。
ある時は探偵、ある時は交渉人、ある時は賞金稼ぎとして――多少荒事に偏ってはいたけれど、元の世界の『何でも屋』の延長線でしかなかった。
「でもさ、この世界で暮らしていく内に少しずつ変わっていったんだと思う」
友達が出来て、関わっていく人が増えた。
希望ヶ浜で出来た友人と、お揃いの帽子を買って。賑やかな黒き狼の部隊と笑い合い、時には背を預けて戦って。両手では全く足りない程の縁が出来た。
「この人達と過ごす日々を、少しでも守りたいなって思ったんだ」
「そうか、友か――良いものだね。君は元の世界へ帰りたいと思う?」
ゼロの問いに、花丸はうん、と返して。
「元の世界へ帰りたいって気持ちは変わっていないよ? あっちにだって残してきたモノが沢山あるから。
……でも、いつか元の世界に帰るその日まで、戦う覚悟は出来たんだと思う……かな」
でも、と花丸は両の拳を強く握りしめる。
硬く傷だらけのその手には――戦って、救って、救えなくて、届かないものがあった。
「あの時に手を掴んでいたらって、今でも後悔してる」
月が綺麗なあの日、金色の彼女の手を掴めていたら。守れるものを守り切れていたら。
嘘だ、と言いたかった。
嘘だ、とは言えなかった。
真実だ、とも言いたくなかった。
真実だ、と言わざるを得なかった。
口を開こうとして言葉が出ず、今でも喉が焼けたように苦しい。
再会した彼女の怒りの焔を受け止めて、それでも止める事が出来なくて。
「もう一度あの子と戦う事になった時、どうすればいいんだろうって悩み続けて……でも、正しい答えなんてきっとないんだよね」
ゼロは口を挟まない。そうやって吐露する事が、今彼女に必要だと解っているから。
「……よっし!」
ぱん、と両の手で頬を叩き、花丸はすっかり冷めたバニララテを一気に流し込む。
「御免ね、こんな事を聞かせちゃって。でもお陰でちょっとスッキリしたかもっ!」
「それならよかった……ふ、クリームがついてるよ?」
「わわ!?」
ここ、と指された口の端を恥ずかしげに拭い、花丸はいつものように笑ってみせる。
「花丸ちゃんファイト、オーっ!」
今日も少女は――マルっと頑張るのだから!
●
ゼロはひとり、最後の一滴を飲み干し、ふと気付く。今宵の客人は『旅人』ばかりだったと。
一人の少女は「帰りたい」と言っていたけれど――次に彼等『旅人』に会う事があれば、聞いてみよう。
――世界が救われたら、君は元の世界に帰りたい?
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
飯酒盃おさけです。
駆け出しの貴方も、沢山のものを抱えた貴方も。
年末に、少しPCさんの内側に向かい合ってみるのはいかがでしょうか。
●目標
ゼロの興味を満たすこと
●舞台
カウンター席だけの小さなバー。
バーテン不在ですが、ドリンクを頼むといつの間にか目の前にドリンクが現れています。
ご注文は如何様にでも。おまかせなら貴方らしいもの、が出てくるかもしれませんね。
お代は面白い話を聞かせてくれたお礼に、とゼロが支払ってくれるようです。
●ゼロ
白髪に金の瞳をした青年。
全てであり、なんでもないもの――と自称しています。
●話すこと
ゼロは貴方に「どうして戦うのか」を聞いてきます。
それに対し、理由や生い立ち、思い出深い依頼での気持ちや、混沌で過ごす中での変化などを好きなように語ってください。
こうなりたいという目標や夢を語っても構いません。
参照リプレイ、SSがあればタイトル記載やURL末尾の番号等でご指定ください。
これとこれとこれ、と沢山になり過ぎると薄味になりかねないので、いくつかに絞ることをおすすめします。
●注意
指定がない場合、完全個別での描写になります。
非参加者PC・NPCに関するプレイングの場合、リプレイでは名前をぼかしての描写となりますのでご了承ください。
●サンプルプレイング
戦う理由? 強くなりてーからに決まってるだろ。
俺はノルダインの男なんだ、誰より強くなって、そんでいつかラド・バウの頂点に立つ!
ギア・バジリカの騒動の時はすげー悔しかった、俺の拳が届かなかったんだ。
だから俺はあの悔しさを忘れない、でもって強くなる!
キャラの過去の掘り下げや言えなかった後悔、新たな決意でも。
短いSSの発注だと思って、自由にプレイングを書いてみてくださいね。
それでは、ご参加お待ちしております。
Tweet