シナリオ詳細
こぼれおちるなみだがしずまないりゆうをおしえてください。
オープニング
●わたしのあおはあなたのいろ
目が覚めた。いつもの青。いつもの?
あたまもからだもこころもいたい。いつからここにいたのだっけ。
わからない。
ぼんやりとした記憶をさがすように、そのあたたかい青をかきわけていく。
そうして、足元を見た時に私は気がついた。
そうだ、私は身を投げたのだ。
悲しみのあまり、あの高い高い崖から、真っ逆さまに。
愛したあの人は戦の為に帰らぬひとになってしまった。毎日毎日神様に祈りを捧げていたけれど、それももうやめにしたのだ。
あの人が愛した赤い赤い太陽のいろのパンプスと、お気に入りの白いワンピースを纏って、ふたりの結婚式を挙げた海辺のチャペルへと私は向かった。
けれど。私たちの想い出は、戦火で煤汚れ、見る方もなく焼け焦げて。
嗚呼、神様。
もしも私が悪いことをしたのならば、謝ります。
指の一本や二本、臓器だって四肢だって、この心臓だって捧げて構わない。
だから、どうか、愛しいあの人をかえしてください。
届くはずもない。
わかっている。
だから、私は身を投げた。
海に、どかんと。きっと、この紺碧の星屑を宿したあの海にとけてしまった、あの人を追うように。
ああ、いたくないわ。それどころか、しあわせ……。
あの人と一つになれた。
あの人のいのちが溶けた海におちた。
そして、私は命を失った。
後悔をしていないといえばうそになる、のだろうか。私は何百年もの間、こうしてこの美しい海に漂っているというわけだ。
●うみのおんながないている
「ああ、こんにちは。今回は、この女のひとのところへ行ってほしくって」
絢はやぁと手を振ってご挨拶。はにかみながら差し出したその本の表紙は海のような深い深いあおのいろ。
「海の中にね、うつくしいひとがいるのだって。
さびしいと泣いているみたいだから、おはなしをしに行ってあげてほしいんだ」
なにせずいぶんと泣き虫なんだとか。くすくすと笑いながら絢は付け足して。
「お腹もすいているかもしれないし、食べ物なんかもいいかも。笑顔にしたいならお洋服とか、靴とか、そんなものもいいかも。
もちろん欲しているのはひとの声と、ぬくもりだろうけれど」
物語のあらすじに目を細め、そして本のページを大切そうに一枚、一枚、ぺらり。
「……それに、海の中で呼吸ができるって、わくわくしないかい?」
茶目っ気たっぷりに絢は微笑んだ。
かくして、物語への道は開かれたというわけである。
- こぼれおちるなみだがしずまないりゆうをおしえてください。完了
- NM名染
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年12月27日 22時00分
- 参加人数4/4人
- 相談4日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●「その娘(こ)はね、笑顔をくれたわ」
一面の海水に驚きと興奮を示したのは『布合わせ』那木口・葵(p3p000514)であった。
大丈夫だと己を嗜めながらも青を進んでいく。
話に聞いていた女性とは彼女の事だろうか、眼鏡がぷかぷか浮いて逝ってしまいそうで些か不安になりつつも、青を掻き分けて進んでいった。
「こんにちはー」
「……あら、こんなところに、人?」
「はい、人ですよ。お裁縫が好きな人が居ると聞いたので来てみました」
「! あなた、お裁縫が好きなの?」
「ええ、とっても!」
頬をバラ色に染め、嬉しそうに微笑んだ女は『それでそれで?』と食い気味に話の続きを促して見せる。ずっと海の中に居れば流行りに疎いのも納得だろうか、混沌住まいの葵は葵が持ちうるだけの知識をもって面白おかしく、時にまじめに時にシリアスに、熱を込めたりちょっと誇張して見せたり、そうすることで女の心を明るくして見せた。
「――でね、あいにく私は誰かを好きになるという経験がないのですが…主に仕事やら趣味やらにのめり込むせいでゲフン」
「ふふ、それなら仕方ないわね。針はとってもたのしいから!」
くすくす笑って見せる女性に頷いて。葵は話し続ける。
「……どうでしょう、そこにあったのは悲しい思い出だけじゃないはずです。
そう、売れなかった商品より売れた商品のことを考える感じで! 帳簿からは目を逸して!」
「……それは目を逸らしちゃいけないんじゃないかしら」
苦笑いを浮かべて見せる女。えへ、と舌を出した葵に対して女の方は寂し気な空気を纏っていた。
「あ。あとはこんなのどうでしょう!」
ごそごそとかばんの中をあわただしく探し回って取り出したのは、イルカのぬいぐるみだ。
「今回は海の中ということでデフォルメしたイルカ型です!
周りをふよふよと泳いでもらえば癒やし効果バッチリのはずですよ。
まぁ本物ほどではないので、泳ぐというか漂ってるレベルかもしれませんが」
「まぁ、これすっごい可愛いのね……もらってもいいのかしら」
「はい! ぷかぷか浮いてるので逆にそこが可愛さポイントになります!
そうだと言ってください!」
「……あはは!」
お腹を抑えて笑った女は、イルカのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。水面の光がふりそそぐ。
少しだけ、せかいが明るくなったような気がした。
●「彼はね、ひかりをくれたのよ。魔法使いみたいね」
「さて話すと言っても何の話をしようかね。それと甘い物が好きって聞いたんでひとつぼしの菓子折りを持って来たぜ。これを食べながら話でもしようか」
「ええ。次はあなたなのね。ふふ、嬉しいわ」
『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は土産を片手に海の中へ。まっくらだけでは寂しいような、複雑なような気がしてひかりを灯す。ああ、よく見えた。
「なぁ」
「なぁに?」
「読書が好きって言うのも、聞いたんだが間違いないか?」
「ええ。とっても好きよ。
ここに来てからは本なんて読んでいないから、文字が読めるかはわからないけれど」
少しだけ不安な素振りを見せた女の不安を拭うように、世界は大きく咳ばらいをしてみせた。
「ごほん。……これは、ホライゾンアーカイヴスっていうんだけど。たぶんきっと楽しめるはずだ」
世界が手渡したのは、境界世界の数々の物語が綴られた一冊の本。
「例えば、俺が行ってみたやつだと……ああほら、ここ。このページ。ある妖精のいる世界の話や百鬼夜行なんてのに参加した話があってな」
「まぁ、ほんとだわ! あなたにそっくりなひとのことが書いてあるわ」
「あとは、そうだな。こっち。かなり昔には星の宴なんて祭りに参加したこともあったな」
「星のお祭り? 世界って広いのねぇ」
「ハハ、俺もそう思う。……他にもなんだかんだで百を超える世界について書かれてるんだぜソレ。まるで辞書みたいになっちまって持ち運びが滅茶苦茶大変なんだよな」
「……重くはなかった?」
「肩こりがひどい、かな」
「まぁ!」
あわあわと心配する女に大丈夫だと首を振って。
「……これ、やるよ」
「……え?」
「次に来たときはまた持ってくるから。それまで暇つぶしにでもしておいてくれ」
「……いいの?」
「ああ。持って帰るのも大変だしな」
「……ふふ、それもそうかしら。なら、遠慮なく!」
それに、あなたがくれた明かりもあるから。
照れたように笑った女は、少女のようにはにかんだ。
●「あの子は……久しぶりに、名前を、呼んでくれたの」
『新たな可能性』カルウェット コーラス(p3p008549)は青を掻き分け群青へと進んでいく、寂しげな女の姿が見えた。
ぐ、と拳を握って。一歩進んでいくと、『あら』と花が綻ぶように、女は笑って見せた。
「はじめまして、ボク、カルウェット コーラス、言うぞ。
名前、なんていう、するの?」
「わたし? わたしは……ジェーリーよ」
「ん。ジェーリー。海で人が泣いてる、聞いた。泣くのは、辛い、かなしい、だから、少しでも、笑う、してほしくて。
なにしたら、よい、するのかな」
「笑う……」
「どこにいく、したいのかな。知らないこと、だらけ。
だから、話し聞く、して。ボクに出来ること、一緒に、する、してあげたい。
誰かと一緒、心強い、する。知ってるから。ボクで、少しでも、力、なれる、したら」
たどたどしくて。言葉というにはぶっきらぼうな其の声が。
ジェーリーのこころに、ふかく、ふかくしみ込んでいく。
「泣きたいなら、泣けばいい。すっきりする。頭撫でてあげる、気持ちよくて安心、する。
笑いたいなら、笑わしてあげる。にーって、するよう、素敵なもの、見に行こう。ここなら、たくさんある、しそう。冒険。
…冒険、よいな。ボクは、君と、冒険、する、したい。だめ?
冒険、よいぞ!色んな発見、できる、する。色んな人、会える、する。どきどき、わくわく」
「……ふふ、そうね。じゃあ、冒険をしましょうか、カルウェット」
「うん。しよう、冒険」
深い海の中を潜ったのははじめてだと、のちにジェーリーは語った。
カルウェットがジェーリーの手を握る。ひんやりとしていて冷たい。
(……つめたい)
ぎゅう、と力を込めて握れば、ジェーリーが不思議そうに顔を覗き込むものだから、首をぶんぶんと横に振ってカルウェットは進んだ。
とびきりの冒険をするために。
「ここなら、なにがみつかる、かな。みる、した? いった、した?」
「ここはね、綺麗なサンゴがあるのよ」
「この下には、なにがある? あっちには? 上の方は?」
「あっちにはね、大きなお城が沈んでいてね。上の方には、さびているけれど鐘があったわ!」
「! ……いきたい!」
「ふふ、うん、いきましょう!」
兄弟のように仲良く手を繋いで、二人は青の世界を進んでいった。
やがて。
別れを告げる鐘がなる。
「……いってしまうのね」
「会えて、嬉しい。話せて、嬉しい。
君は泣き虫だけど、楽しかったから、ボクの友だち」
「また、会えるしたら、嬉しいぞ」
「……ええ。また会いましょう、カルウェット」
手を振る。光に包まれる。
ジェーリーは、笑っていた。
●「彼は……そうね。私の隣人かもしれないわ」
それは悲しい事だろうか。
それは愚かな事だろうか。
問うたのは、『灰色の残火』グリジオ・V・ヴェール(p3p009240)。双子姫の声を遠ざけながら、深い海の底へと進んでいく。
(後を追う気持ちは俺には分からないが、この海の中は静かに満たされているようにも思える。
話がしたいならそうしよう。知りたい事があるならば答えよう。
何一つ失った事のないものなど、いないだろうから)
「……あら、」
「やあ、ごきげんよう」
「今日は『たくさん』なのね」
「……ああ、」
グリジオの足元を駆け回る双子の幼女。女はくすくすと笑って、それを受け入れた。
『ようやく見つかったの』とフジツボ纏うティーカップを四人分。口にしたのはグリジオただひとりであったが。
たわいもない話をする女。それでも心は穏やかなのだろう、海には柔らかい光が降り注ぐ。
その静寂を引き裂いたのは、双子の幼女であった。
『あなたも置いていかれたのだわ』
『あなたも探しているのだわ』
「……そうなの?」
女は疑うことを知らない。双子姫は女の手を握って笑う。
『あの子はわたしたちを置いていった』
『あの子はわたしたちを残していった』
『『でもわたしたちは今もあの子を愛しているのだわ』』
「……ええ、わたしも。わたしもよ」
こくり、頷いた双子姫。片や女の頭を撫で、片や女の両手を握る。
『悲しくないの、嬉しいの』
『寂しくないの、楽しいの』
『わたしもあなたも残されたただの一欠けら』
『想いは常に愛したあの子の元にあるの』
「ふふ……そうね。きっと、そうだわ」
カトラリーを置いたグリジオは警戒するように、双子姫へと視線を送る。
「随分とおしゃべりだな、今日は。」
くすくす、揶揄うようにおんなの後ろへ隠れた二人。ひょっこりと顔をだせば、意地悪く笑って見せた。
『だって海は好きだもの』
『だって海は優しいもの』
『『まるであの子みたいに暖かくて柔らかくてどこまでも深くて昏くて残酷だわ!』』
瞬いた女。欠伸をかみ殺すけれど、グリジオは其れを見逃さない。
「……ああ、喧しくて悪いな。眠りにつくのなら子守唄程度に聞き流してやってくれ」
「ふふ、ごめんなさい……それなら、そうさせてもらうわね」
目を閉じた女はしばらくすると、穏やかに寝息を立て始める。きゃらきゃら笑う双子姫の声が、静かな海に響き続けた。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
どうも、染です。
涙は溢れて止まらないから。
●目標
海の中にいるという女性と話す。
ひとと話したい。悲しみを聞いてほしい。おしゃべりがしたい。
そんな気持ちからか成仏できずに海の中を漂っています。
楽しませてあげて成仏へと導きましょう。
●世界観
海の中。
魚やごみ、海藻さえ姿をのぞかせず、ただ青とあぶくが広がるだけの悲しい海です。
下へ行くほど暗く深く、上へ行くほど明るく。
女性は海から出られないようです。
皆さんは海の上へあがることができるでしょうが、女性がそれをよしとしてくれるかはわかりません。
また、地上へ上がったとしても何があるかはわかりません。
●女性について
「海は冷たいのに、涙はとってもあたたかいの。
だから、海に涙はとけないんだわ」
夫を若くして無くした女性。だいだい23歳くらい。
子供も家族もなく、病弱で、ただ愛した人を失っただけの不幸な女性です。
甘いものや可愛いもの、お花、お洋服、おしゃべりなどがすき。
趣味は針や毛糸、レースを編むことや読書だそうです。
●サンプルプレイング
ね、ね、こんにちは。
あなたのなまえをおしえて。そう。
ぼくのおなまえもね、おしえてあげる。
それから、そうだ。ぼくと、あそぼうよ。
……ふふ。ぼくね、うみのなかは、すきだよ。
それでは、ご参加をお待ちしております。
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