シナリオ詳細
傭兵の矜持。或いは、疾風の射手、火羅傘衆…。
オープニング
●疾風の射手
ところは豊穣。
とある渓谷。
火気に反応し、激しく燃える水が湧く……そんな噂があるせいか近隣に住む人間たちは誰もその場に近寄らない。
けれど、しかしどこにでも物好きというものはいるもので。
“黒煙谷”と呼ばれるその地に、長く暮らす一族があった。
黒く染めた厚手の装束。
瞳を覆うゴーグルに、頭に被った広い編み笠。
背に負うは火縄銃。
腰に下げた蓮根銃。
首から提げた大粒の数珠は爆弾である。
無言のままに、彼らはしかし統率の取れた動きで谷を駆けて行く。
先頭を走る細身の男が、素早く手を振ることで仲間に指示を出しているのだ。
編み笠を深く被っているため分かりづらいが、どうやら彼らは15~20前後の若者たちの集団らしい。
彼らの名は“火羅笠衆”。
黒煙谷に住まう傭兵の一族……その若衆である。
先だってカムイグラで巻き起こった大騒動。
多くの死者や被害を出した未曾有の惨事を前にして、若衆たちに命じられた任務は1つ。
待機し、里を守り抜けというただそれだけ。
磨いた狙撃の腕を活かすこともなく、騒動は終結を迎えた。
そして、高天京へと向かった“火羅笠衆”の精鋭達は、そのほとんどが生きて帰ってはこなかった。
騒動の中、命を落とした火羅笠衆が弱かったのか。
はたまた、大暴れしたという妖たちが強すぎたのか。
或いは……。
「イレギュラーズとかいう連中が、足ぃ引っ張りやがったに違いねぇ。さもなきゃ、親父たちが負けるもんかよ。俺たち火羅笠衆が妖なんぞに負けるもんかよ」
歯が砕けるほどに食いしばり、そう唸ったのは先頭を進む1人の青年。
彼の名は“雑牙”。若衆を纏めるリーダーであり、先の騒動で命を落とした里長の長男だ。
「親父たちは利用されたに違いねぇ。あぁ、ちくしょう。だったら俺らが、仇を撃ってやらねぇと」
●疑惑の傭兵隊
「まったく……どこにでも、頭の硬い連中ってのはいるもんだ。今回の件がその最たるものだな。逆恨みもいいところだぞ」
高天京での戦いは、ひどく凄惨なものだった。
民も、武士も、イレギュラーズの戦士たちも、皆が多くの血を流し、傷つき命を落としていった。
誰が、どこで死んでもおかしくはなかったと、先の戦いを振り返り『黒猫の』ショウ(p3n000005)はそう判断を下す。
火羅笠衆の精鋭達が多く命を落としたというのなら、それはきっと運が無かっただけの話だ。
「まぁ、やりきれないのだろうな。戦地に赴くことも出来ず、親や師の訃報だけを聞かされるのは、さぞ無念だっただろう」
世界は無念で満ちている。
多くの不幸が存在し、その上につかの間の平穏が成り立っている。
そんな危うい現実から、目を背けては生きていけない。
酒に酔い、友と語らうイレギュラーズの戦士たちとてそれは同じ。
肩を組んだ盟友が、明日には屍と化しているなんてこともある。
「怒りの矛先を向けられたのが、偶々イレギュラーズだった。同じ国に住む身内より、最近来たばかりの余所者を恨む方が気が楽なんだろう」
だからこそ、ショウは彼らの行いを「逆恨み」とそう称したのだ。
「火羅笠衆を討ったのは、凶暴化した牛鬼という妖であったと既に調べはついている」
逃げ遅れた老人、子どもを守り抜き彼らの多くは命を落とした。
伝令のために別行動を取っていた数名だけが、命を取り留め里に帰還したという。
里に戻った彼らとて、どういった経緯で仲間たちが散ったのかなんて、詳しく知りはしないのだろう。
「連中の挑発に乗ってやる義理も無いんだが、いつまでも付け狙われても面倒だ」
溜まった鬱憤は、どこかで解放するのがいい。
そう思うからこそ、ショウは火羅笠衆の挑戦を受けることにした。
「果たし合いだ。場所は黒煙谷にある演習場。竹林や平野、採掘場に小川……なかなか楽しそうな戦場だな」
火羅笠衆から参加するのは以下の5名。
リーダー格の次期里長、雑牙。
その部下である十ヶ郷、中郷、南郷、宮郷の4人となっている。
装備は揃いのライフルと、蓮根銃。
付与される効果は【連】【ブレイク】【業炎】【懊悩】となる。
火羅笠衆の扱うそれらの射程は長く、また高い命中率と連射性を誇ることが知られていた。
「あぁ、それとな……火羅笠衆に助けられたって老人たちから、こいつを預かっているんだが」
と、そう言って。
ショウが指し示したのは、長さ1メートルを超える巨大な牛の角だった。
血に濡れた角には、無数の弾痕が穿たれている。
「まぁ、こいつをどうするかは……お前さんらに任せるさ」
- 傭兵の矜持。或いは、疾風の射手、火羅傘衆…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年12月21日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●火羅笠衆
揃いの笠を目深にかぶり、風に羽織を靡かせる。
豊穣。“黒煙谷”に造られた演習場。
現れたのは都合8名の男女であった。
「我ら戦場に生きるもの。どれ程の強者であっても、いずれは命運尽きて散りゆくもの。どのように生き、どのように死んだか……戦士にとって、それが全てでありましょう」
姿の見えぬ火羅笠衆の若者たちへ『狼拳連覇』日車・迅(p3p007500)がそう告げる。
笠と羽織を脱ぎ捨てて、構えた拳は怒りの念に震えていた。
正午丁度。
太陽が真上に上った頃、乾いた大地に響き渡るは法螺貝の音。
それこそが決闘開始の合図であった。
瞬間、空気を切り裂き迫る弾丸が『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)の掲げた盾に着弾。
音もなく疾駆する弾丸が、盾にぶつかり火花を散らした。
「故人を悼むは良し、想うも良し。されど生還者の情報を分析もせず、倒れた先人に学ぶこともせず、死を無駄に捨てている態度は些か、許容しがたく思います」
ゴリョウの影に身を隠し『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)がそう呟いた。視線の先は、弾丸の発射地点を正確に捉えている。
「ぶはははっ、まぁ何だかんだ言うこともあるめぇよ! 恨みも辛みも受け止めてスッキリさせてやらぁ!」
豪快な笑い声をあげ、ゴリョウは進軍を開始した。
戦場へ出向いた父や師は、誰1人として生きて帰ってこなかった。
強かった父や師たちが、妖ごときに負けるはずがない。
だとすれば、きっと彼らは誰かに利用されたのだ。誰か? それは、つい最近になってカムイグラにやって来た、イレギュラーズたちではないのか?
怒りによる視野の狭窄が、疑念を確固たるものにした。
そうして出した挑戦状に応じて戦場に現れたのは8名の男女。なるほど彼らが父や師を利用し、手柄を立てた者たちか。
「実力の程、確かめてやる」
そう呟いた青年の名は雑牙。
火羅笠衆を束ねる、若き新頭領である。
音もなく疾駆する弾丸が続けざまに放たれる。
「私って囮側にいて良い人間なんでしょうか? めっちゃか弱いんですが?」
竹林へ駆け込む『星飾り』ラグラ=V=ブルーデン(p3p008604)の頭上を、1発の弾丸が通過する。
表情を微塵も変えないままに、ラグラは頭から跳び込むように竹林へ。
そこでふと、異臭に気づいて首を傾げた。
「油かな? お酒かな? 正純ちゃんちょっと弓つっこんでみてくれません?」
それ、とラグラが指さす先には地面から湧く黒い液体。
どこかどろりとしたそれは、どうやら油のようである。
黒煙谷の名の由来でもある“燃える水”がそれだった。
「いえ、あの、敵の位置の把握を優先したいので、そんなことをしている暇は……」
困惑した表情を浮かべる『不義を射貫く者』小金井・正純(p3p008000)。違うんですよ、作戦ですよ、とラグラはなおも食い下がる。
一体何が、ラグラをそうさせるのか。
「あんまりふらふらしないでね。クエーサードクトリンの指揮範囲から外れちゃうから」
ラグラを呼び止め『猫神様の気まぐれ』バスティス・ナイア(p3p008666)はそう告げた。
その直後。
バスティスの頬を掠めて迫る弾丸が、燃える水に着弾。
ごう、と空気の燃える音。
バスティスの目の前でラグラと正純が業火に飲まれた。
立ち昇る業火の柱を一瞥し、『鈴音首落』級都 燕姫(p3p009260)は立ち上がる。
「囮班が襲撃されたようですね。参りましょう」
白い髪を風に揺らして燕姫が駆ける。
竹林より姿を現し、向かう先は採掘場。
「うむ、彼等の気の済むまで暫く付き合うとしよう」
音も無く『闇討人』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)が影から影へと飛び移る。
咲耶の見やるその先で、竹林の中から1本の矢と、宝石が飛んだ。正純とラグラはどうやら無事に戦線に復帰したようだ。
次いで迅と瑠璃が竹林から平地へと飛び出すが……。
「……っ⁉」
背後より放たれた無数の弾丸が、2人の背や足を撃ち抜いた。
弾丸の威力が弱く致命傷には至らないが、少なくはないダメージを負い2人は倒れた。
「くっ……さすがは傭兵といったところですね」
口から零れた血を拭い迅は呟く。
2手に分かれて敵を挟撃しようと考えたのは、火羅笠衆も同様だった。
●傭兵の戦い
竹林に隠れていた火羅笠衆は1人だけ。
手にした蓮根銃を乱射しながら、潜伏班へと襲い掛かった。
鳴り響く銃声。
戦闘音が演習場に響き渡る。囮班はもとより、これで潜伏班の居場所も火羅笠衆に割れたことは間違いなかった。
弾丸を浴びながら、迅はくるりと身体を反転。
仲間たちの盾となる。
「水を被っていたのか。これでは、臭いも熱も分からんな……この寒空の下、よくやるものだ。流石は傭兵の一族。肝が据わっている良い兵でござる」
その場を迅に任せた咲耶は、先頭に立って採掘場へと駆けていく。
乱射される弾丸を浴び、迅の全身は血に濡れた。
ギリ、と歯を食いしばりながらも、迅は1歩ずつ敵へと迫る。
「我らを囮にした弱虫風情が、やるじゃないか。戦でもそれだけの気概をみせれば、師たちは死なずに済んだやもしれぬのに……よくも師を囮にしてくれたな!!」
「なるほど確かに使い捨てられたのならば残された家族が怒るのは当然でしょう
リロードの合間を縫って、迅は駆けた。
拳を握り、姿勢は低く。
加速した勢いを乗せ、振るう拳が青年の胸部を穿つ。
「ぐ……はっ」
血を吐きながらも青年は銃の狙いを迅に定めた。
6連射を浴び、捌き、或いは回避し迅はさらに前へと進む。
「囮に、と言いますが、皆さんの偉大な先達はそんなに間抜けな方ですか? 裏も取らずに勝手な思い込みで無用な戦をするのは懸命に戦った武人の最期を汚す事。やるせない気持ちは分かりますが……」
弾丸が、迅の胸部を撃ち抜いた。
ごぼり、と喉から血が溢れ迅は意識を失いかける。
けれど、ギリギリのところで【パンドラ】を消費し、彼は意識を繋ぎ止めた。
血に濡れ、荒い呼吸を繰り返し、鬼気とした表情で迫る迅の気迫に気圧され、青年は思わず1歩下がった。
「拳骨です!」
飛虎八閃拳。迅速強猛な拳打を特徴とするその型より解き放たれた渾身の突きが、青年の腹部に突き刺さる。
「ぐ……ぁ」
意識を失い倒れる青年を抱きかかえ、迅はその身を木の幹に横たえた。
1発、2発とゴリョウは銃弾を次々に盾で弾いて防ぐ。
3発目の弾丸は、しかしゴリョウの腹部を穿った。
「ぶはははっ、良い腕だ! だが俺を倒すにゃちと足りねぇぜ!」
唇の端から血を吐きながら、ゴリョウはゆっくりと前へ進む。
盾を持ち、体躯にも優れたゴリョウを脅威と見たのだろう。火羅笠衆の銃撃は彼に集中しているようだ。
「死に逝った者の想いを汲み取るは遺された者の役目なれど、その想いを真っ当に受け取る事もせず、友軍の、共に戦った仲間に牙を向けるのは言語道断」
そう告げるバスティスの声には魔力が宿る。
ハンドサインで進路を指し示しつつ、彼女はゴリョウの治癒を行う。
「キッツいお灸を据えて『ご理解』していただくよ」
すい、とバスティスが指示した先は、採掘場の斜面を流れる黒い水。
黒煙谷名物“燃える水”を戦術に組み込むことが出来るのは、何も火羅笠衆だけではないのだ。
「自身の慕う方々が戦死したのですから、憤り怒りをぶつけたくなる気持ちも分かります」
キリ、と弦を引き絞り正純は静かにそう告げた。
細めた瞳の見据える先には、採掘場の影から身を乗り出した1人の青年。その手に構えたライフルは、潜伏班……燕姫の方へと向いていた。
「……などと言うとお思いで? 燻ってるものがあるのが、自分たちだけだと思っているんじゃねぇですよ」
ひゅん、と風を切る音がした。
解き放たれた正純の矢は、まっすぐに宙を駆け抜けて青年の腕に突き刺さる。
思わず悲鳴を上げた青年は、その場で転倒。
放たれた弾丸は明後日の方向へと跳んでいった。
一方、ラグラはバスティスの指示に従ってポケットの中から宝石を取り出す。
「あの辺、敵さんはいないですけど……まあなんだっていいか。私の攻撃も届くし、投げろっていうなら投げますっと」
アンダースロー。
投げられた宝石が、陽光を反射しキラキラ光る。
どこか禍々しいオーラを纏った宝石が“燃える水”の流れる斜面に衝突。カコォン、と小気味の良い音が響き、火花が散った。
「ないしゅー」
「オッケー、上出来!」
パチン、とバスティスが指を鳴らした、その直後。
斜面にごうと、炎が広がり火羅笠衆と囮班の間に火炎の壁を築いた。
蓮根銃を乱射しながら、斜面を滑り降りる青年。
彼の名は中郷。火羅笠衆の若集の中でも、とくに蓮根銃の扱いを得意とする者である。
「十ヶ郷はやられたようだな……今度はどんな卑怯な手を使いやがった!!」
「多勢に無勢で勝てる方が異常でしょう……命を無駄に捨てるかのような行為は許容できませんね」
中郷に言葉を返し、前に出たのは瑠璃である。
手にした黒い刀を一閃。
その斬撃を中郷は身を低くして回避した。
斜面を削り、降下を止めた中郷は不安定な姿勢の瑠璃へ銃弾を放つ。
けれど、その直後、瑠璃と中郷の間ほどに煌めかしい色合いの煙……否、雲が立ち込める。
「なっ……射線が」
雲を吸い込まぬよう口元を押さえ、中郷は蓮根銃を構えなおす。
視線を素早く左右へと振り、敵の出方を窺っていた。彼の早打ちを持ってすれば、姿を視認してからでも、先制攻撃を見舞うことが出来るだろう。
だが、しかし……。
「中々の腕とお見受けするが此方も見縊られたままではおれぬ故……な」
雲を切り裂き、飛び出してきた鎖鎌が中郷の腕を切り裂いた。
【温度視覚】のスキルによって、雲の向こうの中郷の位置を咲耶は正しく補足したのだ。
衝撃で取り落とした蓮根銃が斜面を転がり落ちていく。中郷は血に濡れた手で、背に負う火縄銃を掴むが……。
「燕は速いのですよ。そう、銃よりも……」
鎖鎌の軌道を追って跳び出して来た燕姫の斬撃が、その首筋を打ち抜いた。
首を強打され、意識を失う中郷が斜面を滑り落ちていく。
狙撃地点に辿り着いた燕姫たちだが、そこに火羅笠衆の姿はなかった。
血の零れた染みや、人が隠れていた形跡は確かにあるが、彼らは一体どこへ姿を消したのか。
敵の奇襲を警戒し、燕姫は素早く周囲に視線を巡らせる。
そんな彼女の肩を瑠璃がそっと叩いた。
「あちらではないですか?」
と、瑠璃の指さした先には採掘場に空いた横穴。
その穴の向こうから、川のせせらぎが聞こえていた。
●繋ぐ想い
業火の壁を迂回して、ゴリョウたち囮班が採掘場へと辿り着く。
けれど、そこで一行が目にしたものはこちらへ向かって駆けてくる燕姫たち潜伏班の姿であった。
火羅笠衆の姿が見えないことに気づいて、ゴリョウは素早く視線を左右に走らせた。
「後ろ! おそらく、川の中です!」
瑠璃の声に反応し、盾を構えたゴリョウは背後を振り返る。
仲間たちの盾となるべく、ゴリョウは慌てて駆けだすが……。
「見かけ通り……あんた、遅いぜ!」
頑丈な盾を抜けぬのならば、盾の無い方向から撃てばいい。
だからこそ、雑牙を初め残る3名の火羅笠衆は小川に飛び込み採掘場から平野へと移動したようだ。
降り注ぐ弾丸を浴び、バスティスが斜面を落ちていく。
彼女を救助すべく、ラグラ、正純が手を伸ばした。
蓮根銃の威力は低い。けれど、塵も積もれば山となる。降り注ぐ無数の弾丸を浴び続けては、バスティスの回復も間に合わない。
「あぁもぅ……一緒に戦った相手に銃を向ける事を貴方達の先達は許すんですかね? っていうか、このままじゃ反撃に移る機会がねーです」
あまり打てないんですけど、と。
そう呟いたラグラの手から、ざらりと乾いた砂が零れた。
溢れた砂は風に舞い、砂塵と化す。地面を這うようにして溢れた砂が、採掘場の斜面を下り雑牙たちへと襲い掛かった。
岩を足場に宙へと待った雑牙は砂塵を逃れるが、南郷、宮郷の2人は砂塵に飲みこまれる。
弾丸の雨が止んだその隙を突き、ゴリョウが斜面を下っていった。
雑牙の放った銃をその身で受け止め、ゴリョウはゴボリと血を吐き出す。
「やるじゃねぇか! お前らの先達もそうだった。近距離特化の牛鬼相手に、狙撃屋が弱者守り切るとか見事と言う他ねぇんだよなぁ!」
高い防御力とタフネスを誇るゴリョウが壁を務めている間、仲間たちは自由自在に行動できる。
「これ以上、豊穣の地で無駄な血を流させるなんて許せない!」
復帰したバスティスによる回復術。
溢れた燐光が、仲間たちの傷を癒した。
盾を構え前に進むゴリョウ。
雑牙は僅かに逡巡した後、蓮根銃を両手に構え前に出た。背後には身動きの取れない仲間たちがいるのだ。彼らを見捨てて、自分1人退避することなど出来ないのだろう。
けれど、しかし……。
「……やはり、ことが全てこちらに都合よく動くわけもなし。これも予想の範疇です」
ゴリョウの背後で、弓を構えた正純が告げた。
放たれた矢は地面ぎりぎりを飛翔し、砂に巻かれた宮郷の腕を射貫く。
「ちっ……せめて、雑牙の援護を」
砂からの脱出を後に回し、南郷は火縄銃を構えるが……。
「やらせませんよっ!」
その腕を横から打つは、追いついてきた迅の拳だ。
ミシ、と骨の軋む音。
取り落とされた火縄銃が砂に沈む。
南郷と宮郷は蓮根銃を手に取り、至近距離から迅へ向けて引き金を引く。足を撃たれた迅が姿勢を崩した。さらに追撃を見舞おうと、2人は弾丸をリロードしたが……。
「後ろだ! 南郷、宮郷!!」
雑牙の叫びが戦場に響く。
その声に反応し、2人は背後を振り返り……。
「良い反応でござるな。そこらの妖や野盗であれば容易に殲滅が可能であろうが……生憎と、拙者達がただの雑兵ではないのでな」
「命までは奪いませんので、しばらく眠って、ゆっくり頭を冷やしてください」
左右より迫る黒い影。
咲耶の忍者刀と、瑠璃の黒刀による斬撃が2人の胸部を切り裂いた。
血を吐き、倒れた2人の身体が砂中に沈む。
こうして残る火羅笠衆は雑牙1人と相成った。
瑠璃の巻いた煌めく雲を回避して、雑牙が斜面を駆け上がる。
機動力を重視したのか、火縄の銃は既に破棄されていた。その手に握るは2丁の蓮根銃。牽制射撃を受け止めるゴリョウの背を足場として、燕姫が宙へ跳ぶ。
「空中じゃ回避できねぇだろ!!」
無数の弾丸が燕姫の身体を撃った。
飛び散った血が彼女の白い髪を朱に濡らす。
威力の低い蓮根銃とはいえ、連続して何発も撃ち込まれれば敵に重傷を負わせることも可能であった。
ごう、と空気の燃える音。
燕姫の身が火炎に飲まれるが、しかし……。
「ふむふむなるほど……こんなもんでしょーか」
「私がいる限り、仲間は倒れさせないよ!」
ラグラとバスティスの回復術が、炎を掻き消し、傷を癒した。
「なっ……ありかよ、そんなの。治療、できるってんなら……何で、親父たちを……」
そんな雑牙の呟きを聞き、バスティスが苦々し気に唇を噛んだ。
いかに傷を癒すことが出来るとはいえ、その手が届く距離には限りがあるからだ。戦場に居る全ての者を救えるのなら、どれほど幸福だっただろうか。
「他を傷つけてでも守りたいものがあるから、私は剣を取り戦場に立つのです」
燕姫のその言葉こそが真理であろう。
仲間を、家族を、恋人を、或いは無辜の民たちを……悪人悪禍から守るために、彼女たちは武器を手に取り戦った。
傷つき、倒れ、死んでいった者がいる。
仲間の死体を乗り越えて、前に進まねばならぬこともある。
乱射される鉛の弾を切り払いながら、燕姫は雑牙との距離を詰めた。
「私は出来る限り貴方たちを傷つけたくない……その怒りや悲しみは癒えないかもしれませんが、この戦いを続けると戦士として散った方々も救われないでしょう」
一閃。
燕姫の剣が、雑牙の喉元に突き付けられた。
「ぐ……こ、これだけ強いなら、親父たちを……救うことぐらい」
銃を手放し、雑牙は悔し涙を零す。
そんな彼の元に瑠璃は1本の牛角を持ち寄る。それは、火羅笠衆の精鋭たちが命を引き換えに打倒した、巨妖の一部だ。
「語りましょう。先人がどのように牛鬼と戦い、そして打倒したかを……」
ギフトによって読み取った、牛鬼最後の記憶と光景を瑠璃は語る。
その話を聞き、父や師たちが勇敢に戦い散ったことを知り、雑牙はその場に泣き崩れた。
悔しさと、悲しさと、怒りや苛立ち。無数の感情が綯い交ぜになった咆哮が演習場に響き渡る。
「少しは頭が冷えましたか? 失った悲しみ、苦しみ、私にもよく理解は出来ます。辛かった、ですよね。彼らは勇敢に戦い、あなた達にその技術を遺していきました」
貴方たちはこれからどうしたいですか?
正純の問いが、何度も何度も雑牙の脳裏で繰り返される。
どうしたい。
どうするべきか。
答えは出ないが、しかし……。
「降参だ……。俺らの勘違いで、喧嘩売っちまって、悪かったな」
ポツリ、と。
吐き捨てるように、雑牙は告げる。
いつか再び逢う時は。
敵ではなく、轡を並べる戦友としてであれば良いと。
正純は、そう願わずにはいられなかった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。
火羅笠衆との試合に勝利しました。
依頼は成功となります。
先人たちの戦いを知り、そして敗北と力不足を知った若者たちが今後どのような道を歩むのか。
ともするといずれ別の戦場で、味方や敵として相対することもあるかもしれませんね。
この度はご参加ありがとうございました。
また機会があれば、別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
火羅笠衆との戦いに勝利する
●ターゲット
・雑牙
火羅笠衆の次期頭領。
現在は、若衆たちの纏め役という立場。
先だってカムイグラで起きた騒動の折、出陣した火羅笠衆精鋭部隊は壊滅した。
その中には彼の父も含まれており、比較的被害の少なかったイレギュラーズ陣営が「火羅笠衆を利用した」と勘違い。
復讐……ともすると、やり場のない怒りを向けているだけかもしれないが……のため、イレギュラーズに果たし状を送りつけた。
里一番と噂される腕と、装填速度を誇る。
・十ヶ郷、中郷、南郷、宮郷
火羅笠衆の若き精鋭達。
次期頭領である雑牙とは長い付き合い。
友として、部下として彼に付き従う。
黒縄の射手:物超遠単に大ダメージ、連、ブレイク、懊悩
狙いすました精密狙撃。
蓮根銃:物中単に中ダメージ、業炎
二丁の蓮根銃によるアクロバティックな射撃。
・火羅笠衆
豊穣“黒煙谷”に住まう傭兵一族。
銃火器の扱いやゲリラ戦法に長けることで知られている。
主力であった精鋭部隊は、先の騒動で命を落としている。
精鋭部隊を壊滅させたのは、巨大な牛鬼であったらしい。
相打ちとなった牛鬼の角は、今回依頼に参加するイレギュラーズに預けられる。
火羅傘の必射:物遠単に中ダメージ、ブレイク、懊悩
狙いすました精密狙撃。音の響かない特殊な弾丸を使用する。
黒縄の蓮根戦術:物中範に小~大ダメージ、業炎
二丁の蓮根銃による格闘射撃。複数名が連携して行うこともある。
●フィールド
黒煙谷、演習場。
“燃える水”が湧くことで知られる危険な土地。
演習場には竹林や平野、小山を切り開いた採掘場、小川などが点在している。
そのうち“燃える水”が湧いているのは平野、採掘場の二箇所。
おおよその位置関係は以下の通り。
演習場は直径200~250メートルほどの円形をしており、外周は低い柵で囲まれている。
竹林 小川
竹林 小川
竹林 小川
平野 採掘場 小川
採掘場 小川
竹林 採掘場 小川
竹林 採掘場 小川
竹林 小川
小川
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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