PandoraPartyProject

シナリオ詳細

つみの、ありかた

完了

参加者 : 2 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 この道を、真っ直ぐ、真っ直ぐ辿るのです。寒々しい山でも、長閑な平和でもいい。
 けれど、彼は――蒼鷹は、往くと言っていました。
 愛しい人と、少しでも時を過ごすために。閉じたまちへ。

 その時、旭日の巫女は優しい笑みを浮かべていた。
 いのちの長さは変わらない。そこに、永遠も、不変も、何もないのだと。
 そう告げられようとも求めた『蒼鷹』のように。

 酷く怯えた顔をしながら、エーリカ・メルカノワ (p3p000117)は決めていた。
 その場所へ。閉じたまちへ向かうのだと。
 ぬばたまの髪を愛してくれる仲間(かぞく)が居た。
 薄氷の眸に微笑みかけてくれる家族(みんな)が居た。

 だから――だから、

「エーリカ、怖くはないか?」
「こわいよ、けど」

 あなたがいれば。大丈夫だと、そう思えるから。
 エーリカはラノール・メルカノワ (p3p000045)の手をぎゅうと握りしめた。

 永遠が欲しかった。永劫の、さいわい。
 愛しい人と共に何時までもあり続けられる、夢まぼろし。

 二人が向かうのは聖教国ネメシス。その、人間種だけの閉じたちいさな集落だった。
 背に白き翼を持つ人型に近しい飛行種や旅人ならば、彼等は『天の御使』と心からの敬意を。
 特に幻想種、或いは極端な外見を持つ者に対して彼等は憎悪にも等しい負の感情を。
 それ”タオフェ”の在り方だった。

 長耳を、両親の彩を持たず『ヒトならざるもの』として生まれ落ちたエーリカは『贄』であった。
 夜鷹であった彼女の、『夜鷹』としての恐ろしい記憶。その源。

 ――彼らは普遍による平穏を愛す。
 彼らは決して異端を許さぬ。
 彼らは決して涜神を許さぬ――

 けれど、普遍による平穏を乱した『蒼鷹』が歩いた軌跡を辿るように。
 行かねばならない。
 行かねば、始まらないから。

 鬱蒼と茂る森の中を、静かに、静かに進む。
 辿る脚は震え、怖れるように、エーリカはラノールと共に進んだ。

「あの場所に、あるのか?」
「うん。屹度。おかあさんは、わたしたちの歩む道を示してくれているから」

 命のみなもとを辿るために。進む。
 タオフェへ――その中に残された、確かなあかしをもとめて。

GMコメント

 リクエストありがとうございます。
 お二人の、せかいをつくるお手伝いができましたらば。
 当シナリオは『とこしえの、いのち』『えいごうの、さいわい』の流れを汲んでおります。

●成功条件
 教会から『罪過の記録』『ヘリガの手記』を入手する

●失敗条件
 村人を殺害する

●タオフェ
 エーリカさんの生まれた場所。エーリカさんの忌むべき記憶。夜鷹の、生きた場所。
 聖教国ネメシスの片隅にある人間種のみで構成された小さな村です。
 とても閉鎖的。人間種こそが『人間』であり、その他種族を迫害します。
 翼があれば天使様と、神様の使いであるとされるでしょうが、長耳は赦されざる禁忌です。

 特異運命座標達に対して表向きは一応の敬意を示しますが……あくまで表向き。
『夜鷹』を見つければ、直ぐさまに『牧師さま』を呼び出し捕えようとするでしょう。
 村の内部についてはエーリカさんもお詳しいでしょう。人間種のみが歩いています。
 ただ、周りは皆、敵だらけ。貴方のその髪も、眸も、耳も、悍ましいものとして扱われます。
 それは、きっと愛しい人も――……

●『牧師さま』
 唯一の教会で牧師を務める男であり、エーリカさんの実父です。
 名を、ディルク・マルトリッツ。巡礼の旅の急速に村に戻っています。
 エーリカさんが特異運命座標になったことは聞き及び、血眼になって彼女を探しています。
 牧師は酒に溺れ、落魄れたようにも見えますがその権威に曇りはありません。
 お前がいれば、全て解決するんだ。

●村人達 *無数
 タオフェの村人です。余所者には閉鎖的。ただし、特異運命座標には表向きは歓迎を行います。敬意を示すべき、可能性の塊だからです。
 エーリカさんを『夜鷹』と認識した時点で捕えようとします。牧師さまへと引き渡さなくてはならないのです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 あなたの、いのちのみなもとへと
 すこしでも、たどりつけますように。

  • つみの、ありかた完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年01月03日 22時30分
  • 参加人数2/2人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 2 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(2人)

ラノール・メルカノワ(p3p000045)
夜のとなり
エーリカ・メルカノワ(p3p000117)
夜のいろ

リプレイ


 暗闇は恐ろしい。けれど、それ以上に陽の光に晒される事に酷く臆病になるから。夜を纏って二人は進む。天義と呼ばれた神を尊ぶ国、かみさまを信じる深き森の奥にひっそりと存在した敬虔なる神の徒達の住まう場所。小さな村、小さな世界。噂話が町中を満たすにはあっという間の、そんな場所。”タオフェ”は、そうやって続いてきた。
「……ラノール、だから。わたしが、うまれおちたそのばしょへ」
 静かに、『夜のいろ』エーリカ・メルカノワ(p3p000117)は『夜のとなり』ラノール・メルカノワ(p3p000045)の袖をつんと摘んだ。緊張しきったかんばせに滲んだ不安に、決意が乗っている。
「わたしが、夜鷹となった、そのばしょへ。きっと、それはいたみを伴うけれど。いっしょに、……きて、ほしいの」
 俯いてばかり、わたしがわたしであることを捨て去っていた、そのからだを。支えてくれたのはあなただったから。だから、空を仰ぎ、息をして、『エーリカ』であることを誇れるために、『夜鷹』を受け入れなくてはならないから。
「あぁ、君が歩を進めるというのなら。
 私は君の隣を歩こう。気味がいつでも隠れられるように、いつでも支えられるように」
 袖を掴んだ指先を、するりと掌に誘って。そうやって握り締めてくれる掌が、何よりもいとおしい。
「安心してくれ、エーリカ。もう誰にも、君のことを傷つけさせたりはしないから。……今一度、かの地へと赴こうか、共に」
 言葉と共に、二人は進む事にした。
 故郷と呼ぶには余りにも不幸を煮詰めたような、暗闇だらけのその場所に。
 彼らは、人間のあるべき姿を定めていた。
 きんいろのかみ。みどりのひとみをもつもの。それがタオフェでの人間のありかたで。
 それはエーリカだけではなく、ラノールも、きっと。
 エーリカは恐れるようにラノールへと言った。力で、総てを支配する事は簡単だった。それでも、エーリカは『わがまま』を言うように――そんな事が言える自分が少し誇らしくて。
「でも、……でも。わたしたちはきっと、かれらを傷つけてはいけないんだって。
 そう、……そう、おもうの。そうしないと、……わたしたちが。かれらにとっての『わざわい』そのものになってしまうきが、するから」
 ことばを否定するのは易いけれど。彼女が決めた事ならば、其れに従おう。
 そうして、向かうのだ。4年もの間、娘を捜し求める牧師さまが居るその村へ。


 その村ではおんなは布を織り、おとこは土を耕した。うたを愛し、刺繍を、みどりの恵みを。
 すべてはかみさまからの授かりもの。女神像にいのりを捧げ、日々を謳歌する。
 そんな長閑な風景から隠れるように、エーリカとラノールは村へと忍び込んだ。
 ひゅう、ひゅうと。風の吹く音を聞きながら。『自由なる風乙女』シルフィードは言う。
「ダイジョウブ?」
 友を心配する声に、エーリカは小さく頷いた。側に、みんなが居てくれるから。
 強い風から遁れるように、村人達は窓を閉ざした。見張りは迂回して、柵の隙間を乗り越えて。
 静かに静かに二人は進む。心に決めたから、迷うことはもうしなかった。

 ――永劫の、さいわいのため。
 ――瞬きの、せつなにしか過ごせなかった母さまのために。

 エーリカは記憶を頼りに道を辿る。静まり返った村の中。
 夜更けに、おんなと子どもは眠りの中に。おとこたちも家を守るように眠っているだろうか。
 こんなにも静かで長閑な場所だったのだとタオフェを改めて見下ろしたエーリカは「聖堂に」とラノールを誘った。
「熱砂の恋心。それから……海洋で手を取り合う、海種と飛行種たち。
 たくさん、……たくさん、乗り越えないといけないものがあるけれど。それでも。わたしたちは、手を取り合えたから」
 かみさまが、其れを導いてくれたのかは分からない。繋いで手を離すことないラノールをちら、と伺いながらエーリカは紡ぐ。
「『どうして、わたしはみんなとちがうの』とは。喉の奥から出掛かって、何度も閊えた。
 それを口にすれば、母は髪を振り乱し泣き叫ぶことを、いっていたの。母さまは、怯えていたから」
 精霊の声が聞こえた事さえ、母は、酷く恐れていたから。
「ほんとうに”かみさま”がいるなら。いますぐに、母さまをたすけてほしかった。
 なんどもおいのりの真似をしてみたけれど……わたしの耳には、なにも聞こえなくて」
 どうして、どうして、と何度だって地を掻いた。爪が割れても、血が滲んでも。
 ここまで、心をさらけ出した事は初めてで、エーリカは不安が滲む。怯えたように見上げれば、ラノールはぎゅう、とその手を握り締めた。
 どれだけの悪意に晒されて、その在り方を拒絶されて来たのだろうか。この細い身体に、どれ程の恐れがあったのだろうか。
「助けたいものを助けられないのも。私が君とこうして出会えたのも。
 どちらも神の指し示しなのだとしたら……神とは何とも、気まぐれなものなのだろうね」
 優しくその頭を撫でて、ラノールは小さく笑みをこぼした。これからの、さいわいを願うために。
「私は、君の過去を救うことは出来ないけれど……
 二度とその手指が泥にまみれないように、この身をささげるよ」


 それは神様を祀る場所だった。教会の祭壇の裏、女神像の御許。
 ラノールは奇妙な感覚に眉をしかめた。かみさまの為に存在する御堂であるならば神聖さを感じるべきなのかもしれないが、ここの主が、信徒がしたことを。少女がされたことを思い出せば、その禍々しさと歪さに苛立ちを感じずに入られなかったのだ。
「あっち」
 小さく呟く少女が女神像の許へと歩いていく。その背を、その記憶を辿るように彼女の目当てのものを捜して。
「ここで、村の子どもがふざけていたの。牧師さまがすさまじい形相で叱責してた。だから、きっと――」
 ここだと思う、と囁く声と共に、そう、と身を屈めれば。女神像の側に添えられた一厘の花。淡く色づいたリスラム、澄んだ愛情の意味を持ち穢れを払う水を注いだその花。
 その側に、リスラムが彫られた小さな箱が存在した。
「……本と、手帳?」
 そう、と手をとってエーリカは表紙に綴られた名に、眼を見開いた。
「エーリカ」
「――、」
 言葉に、ならない程に。ヘリガ。それはたいせつな、たいせつな名前。
 泪が残るページに、痛みと悲しみが。おそらくは誰もが知りえぬ『みなもと』がそこに。
「――おかあ、さん」
「そうだ」
 その声は、ラノールのものではなかった。肩を跳ねさせたエーリカに、振り返り彼女を護るようにラノールが立ち上がる。
「……『夜鷹』」
 酷く苛立った声音であった。それは、総てを恨むかのように。地を這い蹲り、憎悪を煮詰めた声音。ラノールは立っているだけだった。余分にエーリカを護るのではない、エーリカが背後に隠れないのであればその覚悟に泥を塗らないように。
 エーリカは本を、手帳を抱きしめる。真っ直ぐに、その男を――『牧師さま』を見つめた。
 ラノールは彼女は護られるだけではないのだと知っていた。ただ守り、守られるだけではない。共に並び立ち、支えあう者なのだと示す様に。
「あなたさえ、認めていれば、母さまは、」
 言葉が震えた。エーリカの唇が音を孕んで溶けて行く。薄氷の瞳は、強い光を宿していた。
 いつまでも、泣いてばかりでされるがままの『夜鷹』ではないのだから。
「夜鷹、不義の娘よ。
 災厄をその身に宿したお前が悪いのだろう。ヘリガが死したのはお前が――贄として生まれ付いたからだ!」
「わたしはもう知っている。『蒼鷹』の名も――あなたの罪も」
 それは罪状を告げる裁判官のような心地であった。ラノールはただ、エーリカの横顔を見つめていた。

 ――長閑なところで……なんにもないけれど、”かみさま”を人々は愛して。
 おなじぶんだけ、”かみさま”もひとを愛してくれるんだって――

 母の告げた、その言葉は優しくて。牧師さまは濁流のようにエーリカへと言葉をぶつけ続けた。
 夜鷹と呼ばれた娘、不義と罪の証の如き長耳、気味の悪い宵の色。薄氷の瞳。
「夜鷹、お前さえ生まれなければ! ヘリガは――ヘリガは!」
 男は、災厄を、『かたち』にして齎したとそう言った。災厄が形作られればこれからはそれだけを怯えれば良い、と。
「ちがう」
 娘は『牧師さま』ではなく、父を見つめた。
 ただの一度たりとも、微笑んで『父さま』と呼ぶ事さえなかった男のそのかんばせをまじまじと見据える。
 痩せただろうか、酷くやつれて見える。食事は喉を通るのだろうか。美しく咲いた花は彼が用意したのだろうか。
 それでも――あいするひとにすべてを否定されたままでは、きっと、悲しくて、凍えるような想いでいるはずだから。
「ちがう。わたしは、エーリカ。
 あなたがわたしの生をのぞまなくても、わたしは、かれと生きると決めたの」
「何を言う。お前は災厄のかたち! 外に出る事など許されないのだ。夜鷹!」
「わたしは、エーリカ。……あなたの罪を、口にしない。
 ぜんぶ、わたしのせいにしてもいい。わたしが、災厄のかたちであったっていい。
 それで、あなたが救われるのならば。それで、おかあさんが救われるのならば」
 エーリカは、エーリカ・『マルトリッツ』であった少女は静かにそう言った。
「夜鷹――」
「でも、おかあさんの謂れなき罪を、晴らして。その『あい』だけは、どうか、否定しないで」
 母は確かに、父を愛していた筈だから。エーリカは懇願するように、そう言った。
 エーリカにとっての最初で最後の、父へのお願いだった。
 エーリカにとっての最初で最後の、父への言葉だった。
「さようなら、おとうさん。もう、……自分のことも、ゆるしてあげて」
 何かが、首を擡げた様な気配がした。がた、と大きな音を立てて男の身体が崩れ落ちる。
 美しいきんいろのかみ、みどりいろの瞳、母と父より受け継ぐ事無かった色彩。わたしの、罪のありか。

 ――ヘリガ。大丈夫かい。身体は……もうすぐ、子も生まれるのだから安静にしてくれ。

 ――ええ、ええ、大丈夫。ふふ、楽しみですね。もうすぐ、会えるのね。

 とん、とん。胎を蹴った愛しい気配。手を当てれば皮膚を境に感じる気配。そのいとおしさ。
 生れ落ちるまで日を数え、夜を数えて、待ち続け、そして会えた最愛の。

「エーリカ、」

 君の名を呼ぶ事が、これほど恐ろしかったとは。
 父は俯いた。それを我が子とは認められなくて。異端を受け入れるための『言葉』を重ねて連ねて。
「……ラノール、いこう。わたしたちのみちは、もうしめされているから」
「ああ……。牧師さま。
 この子は、貴方の亡き妻の罪の象徴などではない。貴方達の、愛しき愛の結晶だ。……失礼する。」
 努めて冷静に。その声音は水の様に降り注いだ。ラノールの本心は、彼のその命をここで終わらせたかった。
 それは、屹度、少女は望まない。
 嫌悪感から逆立つ毛と、喉を震わす唸り声をどうにか抑えて。青年は歩を進める。
「エー――」
 男の声など、もう遠い。

 村の外へと辿りついて、エーリカとラノールは手にした冊子をまじまじと見下ろした。
『罪過の使徒』、そして、ヘリガの――母の手記を見下ろした。

 罪過の使徒には乞う描かれている。

『神罰は我が手で下した。
 戒告。あゝ、矢張り。外の者など穢らわしい、悍ましい。全て、全てが不要也――』

「何か、分かったかい?」
「……うん」

 母の手記には、殴り書きのように文字が並んでいる。 
『エーリカ 荒野に咲く花 わたしたちの愛しい子
 あの人は ただ自身に流れる穢れを 認められなかっただけ
 いつか あなたに話さなくては
 いつか あのひとを どうか ■■■■ と――』

 かあさま。とおさまは、屹度恐ろしかっただけなのでしょう。
 エーリカとラノールは三つの情報を得た。いのちの源を追うたびの、その道筋。
 過去に悪魔が歌姫を拐わかしたこと、悪魔は西に消えた事。
 そして――父が、ディルクが蒼鷹の血を引いていた事――

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 このたびは、三度目の冒険をありがとうございました。
 おとうさまとの邂逅。燻んだ日々でも、その空に星が見えておりますように。

 貴女が、そして、貴女が共にと願った方と立たれた旅路の涯がありますよう。
 真実を知ったあなたが笑っていられる事を願って。

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