PandoraPartyProject

シナリオ詳細

すばらしき悪平等、つごうのいいかみさま

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●すばらしき悪平等
「やあ、神様を信じるかい?」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)の放った何気ない一言が、場をしんと静かにさせた。
 場所はギルドローレット。依頼を募るコルクボードの前に集まるイレギュラーズたちの背に、ショウは依頼書を翳してこう続けたのだ。
「信じることは罪じゃあないけど、信じさせることは時として罪になる……そんなオハナシさ、これは」

 あるところに敬虔な牧師がいました。
 牧師はあるとき、『万人は平等であるべき』と唱えました。
 当人を慕う人々は賛同し、自分たちだけでも平等な社会を作ろうとしました。
 優しさは平等に。
 苦しみは平等に。
 食料は平等に。
 衣服は平等に。
 差別は平等に。
 死は平等に。
 弱さは平等に。
 愚かさは平等に。
 やがて彼らは広大な土地に粗末な家々を築き、平等な暮らしを実現させました。
 彼らの名は『非競争妥協同盟』。

「だれもがイチバンのセカイ、さ」
 ゆれるろうそくの炎の前で、ショウは非憎げに語った。
「この思想は特に貧民の間で流行ってね。最初に主張した牧師は『教祖』と崇められて実質的なコミュニティの長になった。
 コミュニティは幻想東の荒れ地を自主的に開拓して、細々と暮らしているらしい。
 けれど、彼らの活動をよしとしない連中がいた。
 ええと、うーん……『匿名希望のだれかさん』さ。勿論、依頼主だよ。詮索はナシって約束でね。
 依頼内容は『コミュニティの消去』。
 やり方は問われてないんだ。と言うのも、その土地を所有してる貴族が『勝手に入ってきたよそ者が消えてくれるなら助かるよ』って話すものだから、よほどおかしなことをしない限りはお咎めナシにしてくれるんだそうだ。それと、これも貰ってきた」
 ショウはテーブルにスクロールタイプの地図を広げた。
 山に囲まれた荒れ地だ。コミュニティ(集落)ができる前の地図なので地形しか分からないが、ないよりはずっといいだろう。
「繰り返して言うよ。依頼内容は『コミュニティの消去』。
 最低でも今現在のコミュニティが壊滅する程度の行動は取って欲しいそうだ。
 できれば、二度と再構築がなされない程度に……とも言われたね」
 そこまで話すと、ショウはコインを地図の上に置いた。
「こいつは依頼主からのチップだよ。酒代にしてね」

GMコメント

【オーダー】
 成功条件:『非競争妥協同盟』コミュニティの消去

 このシナリオでは様々なアプローチが可能です。
 そのため、PC同士の行動がまるごとかぶって無駄打ちになったり、逆に相殺しあってしまったり、行動そのものが空振りになるリスクを伴います。
 充分に相談を重ね、『①依頼の着地点』『②そのための行動』『③各PCへの割り振り』を決定するようにして下さい。

【わかっていること】
・『非競争妥協同盟』というコミュニティがある
・コミュニティとしての『非競争妥協同盟』を消去する必要がある
・コミュニティは集落化している
・山々に囲まれた荒れ地を開拓している
・この土地を所有している貴族は承諾していない。
・貴族は『この件に一切タッチしない』代わりに『起こったことを無視する』という約束をしている

 コミュニティの規模は状況から察するにさして大きくは無いでしょう。
 戦闘ができる人間がどの程度いるかは不明です。ですが無力なだけの民衆が『ローレットを雇ってまで殲滅しようとする連中』からここまで逃げ切れるとは思えません。

※貴族、依頼主、情報屋から得られる情報は以上です。追加で引き出せる情報はありません。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • すばらしき悪平等、つごうのいいかみさま完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年05月21日 21時30分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

リィズ(p3p000168)
忘却の少女
トラオム(p3p000608)
刀根・白盾・灰(p3p001260)
煙草二十本男
河津 下呂左衛門(p3p001569)
武者ガエル
アルク・ロード(p3p001865)
黒雪
ヒグマゴーグ(p3p001987)
クマ怪人
原田・戟(p3p001994)
祈りの拳
エスラ・イリエ(p3p002722)
牙付きの魔女
十六女 綾女(p3p003203)
毎夜の蝶
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に

リプレイ

●利用する者、される者
 新興宗教団体『非競争妥協同盟』。彼らはある土地から逃れ、幻想の荒れ地に村を作った。
 教祖の名をとってジョーンズタウンと名付けられ、粗末な家と乾いた農地をせっせと磨き、彼らは彼らの掲げる『平等な暮らし』を始めたのだった。
 ある日のことである。
 野党に襲われ財産を失ったという医者の一行が村を訪れた。
 助けは平等に与えられるべきだと述べた教祖ジョーンズに従って、ジョーンズタウンの村人たちは医者とその付き添いたちに手厚い保護を与えた。
 医者の名は『カオスシーカー』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)。
 彼らジョーンズタウンの民らが幻想である程度の見聞を持っていれば、彼らの正体に気づいたかもしれない。
 だが誰も、気づく者はいなかった。それが終わりの始まりである。

「この規模で『タウン』とはな」
「理想が高くていいことじゃないか」
 ラルフはトラオム(p3p000608)の傷を手当てしていた。
 野党に銃で撃たれた傷だと主張するためのものだが、ラルフによってつけられた偽装である。
 ここはラルフたちに与えられた共同住居だ。ホームレス一歩手前の粗末な住居だが、住民たちはこれに満足していると話していた。
 はじめは住居の提供を断わったラルフたちだが、幹部たちの強い勧めを断わり切れず、かつ村の一員となる都合上自分たちだけ浮くことは避けたかったためにこの状態になっていた。
 外からは賑やかな声がする。
「平等なコミュニティ、か。誰も不幸になることなく、皆で同じものを分かち合い、暮らす。成程、確かに素晴らしい思想だ」
 傷の手当てを終えると、トラオムは外へ出ていった。
 村をあちこち見て回るのだという。

 トオラムが怪しまれない程度に見て回った中で、怪しい動きをする人物や怪しい場所はなかった。
 強いて言えば教祖や幹部の住宅に入ろうとすると自警団を名乗る連中に阻まれることくらいだ。プライバシーは平等に与えられるべきという主張によるものらしい。
 一見してただの貧しい村。
 ただし貧富に差は無く、教祖もまた粗末な家に住み食事は皆と集まって大きな食堂でとっていた。
 贅沢ではないが悪くもない暮らし。
 これが永久に続くなら、それはそれで立派なことなのだろうが……。
(にしても、本当に平等であるのならこのここまでこそこそする必要もないはずだが……)
 さらなる調査を続けるトオラム。
 彼が最初に違和感を見つけたのは、仲間の働きによってであった。

 『忘却の少女』リィズ(p3p000168)は村人に愛される少女だった。
 ラルフの医師団に同行するお手伝いさんを名乗った彼女は村人たちと親しく接し、そして親しく愛された。
 隣人との交流を積極的にはかる村人たちであったからこそ、リィズの評判は広まり、男女隔たり無く接する彼女の行ないに好意的だった。
 これが陰気で内向的なサークルであったなら、一ヶ月と立たずにコミュニティが崩壊していたことだろう。リィズはただ愛らしいだけでなく、異様に色欲を誘う接し方ばかりしていたからだ。
 殆どの住民たちはこれをただ受け入れるだけだったが、中には積極的に引き入れようとする者もいた。教団幹部たちである。中でも男性幹部のひとりケディ氏の接触が頻繁に見られた。ひどく油断した振る舞いをするリィズを今にも拐かしそうな様子で、家へ招き入れようとしていたのだ。

 一説には真に平等なコミュニティなど存在しえないという。
 全員が平等なふりをしているか、多くが平等だと思わされているかだ、と。
 十六女 綾女(p3p003203)は村の様子から後者だと判断したようだ。
 そして『思わせる者』『思わされる者』の関係のうち、前者を落とすことに決めた。
 やり方は、『いつも通り』である。
「ねえ、もっとあなたの話を聞きたいわ」
 指で胸をつくように、そしてなぞるようにして顔を覗き込む綾女。
 彼女の放つ強すぎる色香に、教団幹部のケディ氏はたちまち虜になった。
 狭いコミュニティである。綾女がケディ氏の家に一晩宿泊してどうなったのかなど、想像できない者は少なかった。
 翌日から、村人たちが綾女を見る目がかわっていった。ある者は柔らかく拒絶し、ある者は羨望を抱き、ある者は欲求をぶつけようとした。
 そして綾女はあろうことか……。
「こんな所にいるなんて勿体ない。外に行けば貴方ならもっと素晴らしい仕事があるはずなのに」
「そうか?」
「優秀な者ほど損をするシステムよね。下の人間はいいわ。何も出来なくても同じ扱いなんだもの」
 毎晩のように異なる男性の寝所に潜り込み、そんな話をしていった。
 それは毒のように、知らず人々に浸透していく。

●寸断
 ある日のことである。
 村から続く道のひとつが倒木によってふさがれていた。
「何かで切り倒したみたいだ」
「道を迂回すれば通れるが、馬車だと厳しいな」
「明日にでも人を集めてどかしておこう。とりあえず今日の所は買い出しを取りやめだ」
 そんな風に話して、馬車をひいた村人たちは来た道を戻っていく。
 村人たちの姿が完全に見えなくなった頃、『屑鉄卿』刀根・白盾・灰(p3p001260)が現場へと現われた。
「稼げて一日、ですか……結束の強い村だとそんなものですかね」
 灰は剣などで只管木を切りつけて倒木を起こしたが、一人でできる量には限度があった。
 勿論倒すより起こす方が難しいので数を稼ぐことはできるが、徒歩で迂回する分には充分通行可能なレベルまでしか道を寸断できていない。外界からの遮断、陸の孤島と化すにはまだ足りないところである。
「まあ、暫く続けていきましょう」
 大人数人がかりでも動かせないような大岩を担いで運べる技能でもあれば楽なのに、と思わないでも無いが、手元にあるのは剣だけだ。手持ちのカードでやるしかない。

 盾がああしてタイミングよく現われたのは、なにも近くに潜んでいたからではない。(それほど巧みに身を隠せる技術をもっていない)
 『牙付きの魔女』エスラ・イリエ(p3p002722)が森の動物を使役して伝書鳩代わりに使っていたのだ。
 エスラの使役した鳥はジョーンズタウンのどこかの屋根から、森の木々の枝から、状況を観察しては時にサインを送って仲間たちを支援していた。
 彼女の最初の役目は、村の構造と主要施設の把握である。
 井戸、食料庫、道具の製作場や倉庫、建築に関わる拠点、その他諸々だ。
 村という小規模コミュニティだけあって、主要な施設は中央に集中し、その周りを民家が囲む方式になっていた。尚、最も重要とされる教祖の住居と集会場は村の中心にあった。
 位置決めは掘り当てた井戸を基準にしているらしく、集会場のそばに井戸がある
「まずはこれを潰せば……」
 エスラは地面に図を描いて、井戸の場所を丸く囲った。

●夜に忍び寄るもの
 川を下る何か。
 幾度かの息継ぎを経て、川辺の陸地に手を出した者がいた。
 緑色の肌。ぎょろりとしたつぶらな目。水面から出た頭はカエルそのもの。『武者ガエル』河津 下呂左衛門(p3p001569)である。
「誰もが平等な世界、でござるか……人間の欲はそう簡単に御せるものではないと思うのでござるがな。歴史に産声を上げた聖人は本物か、偽物か。見定めさせて貰おう」
「…………」
 合流視点に歩いて行くと、既に侵入を終えていた『祈りの拳』原田・戟(p3p001994)が腕組みをして立っている。上半身は裸。腰には松明。夜中に遭えば悲鳴をあげてもおかしくないような人物だが、味方と分かっていればかえって心強いものだった。
「それにしても、十六女殿のあの色香は何なのでござろうか。女人とは恐ろしい生き物でござる」
 世間話のつもりで話しかけ、額をぬぐって見せる下呂左衛門。
「…………」
 戟は綾女の力が通用しづらい特殊性癖の人らしく、いまいちピンときていない顔で首を傾げていた。
 ややあって、夜闇に紛れるようにして『黒雪』アルク・ロード(p3p001865)が現われた。
 暗い色のマントで身を包み、懐中時計をちらりと見る。
「全てに平等か……そんなことが出来るなら世の中平和でいいだろうな。まぁ、身を以て無理だって体感してもらおうか」
 かしゃん、と音を立てて装備を外す『クマ怪人』ヒグマゴーグ(p3p001987)。
 野生の熊のごとき外見になると、腕をぐるぐると回し始める。
「『適者生存』『弱肉強食』――いくら綺麗事を並べようとも、それこそが世の摂理よ。平等など絵空事に過ぎない事、その身をもって証明してもらおうではないか!」
 大きな声をあげそうになって、ぺたりとアルクに口を押さえられるヒグマゴーグ。こくこくと頷き、彼らは行動を開始した。

 このとき主な行動を起こすのは、忍び足によってこっそりと移動するアルクと戟と下呂左衛門の三人である。ヒグマゴーグが一緒に歩いてしまうと足音を消している意味が無いので別行動だ。
 まず戟は家々の間をこっそりと抜けていき、井戸へとたどり着いた。
「…………」
 黙って井戸の水をくみ上げる、木桶の中の水は清く、そのまま飲める程だ。
 対して戟はお腹を壊すような草や煙草の葉、動物の糞尿などを水に混ぜ込み、そのまま井戸へと戻してやった。
 念入りな除去作業を行なわなければ、暫く井戸の水は使えないだろう。
 一方でヒグマゴーグは川の上流でせき止めを試みていた。
 水道の蛇口のようにキュッとやれば止まるものでもないので、ひたっすら土を盛っていくことになる。下呂左衛門が中を泳いで移動するくらい深さと幅がある場所なので、凄まじい重労働になった。更に言うと、かなり頑張ったが完全にせき止めることはできなかった。一日くらい勢いを弱めたり魚の移動を少なくしたりする程度である。雨でも降ればたちまち決壊するだろう。
 だがそれでもいい。上流に陣取って定期的に土を盛り続ければいいだけなのだ。

 さて、こちらは下呂左衛門とアルク。
 彼らはこっそりと食料庫へ侵入していた。
 逆に言えば非合法な集落が食料庫に警備の一つも配置していないということなのだが、それだけ村人にセキュリティ意識がないなら儲けものだ。ここぞとばかりに二人は作戦通りに動き始めた。
 まず下呂左衛門は倉庫に秘密の蓄えがないかどうかを調べることにした。
 例えば幹部や教祖が自分たちだけを肥やすための蓄えである。
 しかしそう言ったものは全く見られなかった。
 近くの町で買い付けた保存の利く食料類が沢山あるばかりである。
「…………」
 夜中とはいえ普通に入れるレベルの倉庫に秘密を放置しておくほど愚かでは無いということか。それとも本当に心がキレイな教祖様なのか。
(もし後者なら、気の毒というほかないでござるな)
「……」
 倉庫の外で見張りをしていたアルクが小さくノック音を立てた。
 誰かが近づいてきたという合図だ。
 外へ飛び出すと、剣をもった兵士がアルクと対峙していた。
「お前、そこで何をしてる。……この村のやつじゃないな?」
 おいだれか! と声を上げようとした途端、後ろから忍び寄った戟が口を押さえて釣り上げるように拘束した。
 素早く接近するアルクと下呂左衛門。
 男の首には針が、腹には刀の柄が刺さり、何度かびくびくとけいれんした後、ぐったりと意識を失った。
「顔を見られたな」
「ならば」
「『犯人』になってもらうだけだ」
 三人は協力して男の身体を担ぎ、食料庫の中へと寝かせた。
 その際に、火をつけた松明を食料庫に置いていくのも忘れない。
 酒や油をまき、速やかに村を脱出するのだ。

 村の脱出を終えた三人は、ヒグマゴーグや灰たちと合流した。
 彼らは土を掘って何かを埋めていたらしい。
「何を?」
「埋めてるのよ」
「……何を?」
「死体をです」
 スコップを手に振り返るエスラと灰。
 ヒグマゴーグは血の付いた手を払っていた。
 どうやら村からこっそりと抜け出そうとしていた人間を捕まえ、殺害していたらしい。
「夜逃げかしら。案外もう、コミュニティの崩壊は始まってるのかもしれないわね」

●不満
 ある日、ジョーンズタウンは騒然となった。
「一体なにがあった」
 住居を出るラルフに、集会場から戻ってきた村人が首を振った。
「食料庫が火事にやられたんだ。皆の食料を集めていたのに、建物ごと焼けてしまった。小麦も肉も全滅だ」
「「…………」」
 トラオムとラルフは顔を見合わせた。
「やっぱりあんたの言ったとおりかもしれない」
 村人が、そんな風に呟く。

 集会場に行ってみると、食料庫から燃え移った炎で集会場が焼け落ちていた。
 粗末なつくりだったからか、他の建物も酷い有様だ。
「見ろ、井戸が……」
「誰がこんなことを」
「あの兵士だろうか……」
 井戸の周りに集まった人々が不安げに話している。
 リィズが『なにがあったの?』と問いかけてみると、村人は苦しい表情で応えた。
「誰かが井戸に毒を混ぜたんだ。暫く塞いでおかないと」
「食料庫で兵士が焼け死んでいてね。彼のしわざじゃないかって……」
 兵士というのは自警団のことである。村をタウンと呼ぶようなもので、彼らの中では一ランク上の存在であるらしい。いや、あったという過去形で語るべきかもしれない。
「でも、食べ物はどこかに残ってるんでしょ? お腹すいちゃった。ご飯作ってほしいな」
 笑顔で言うリィズ。
 今日の食事すらままならない彼らにとって、それはひどく心を痛めた。
 それは無理だよと首を振る者。だまりこくる者。
 だがそんな中に『石を投げる者』があった。
「お前のせいだろうが! よそからやってきて、俺たちをかき乱したんだ!」
 教団幹部のケディ氏だ。
「あの女の言ったとおりだ。こうなったのも皆、お前のせいなんだろう!」
 激怒したケディ氏はリィズに過剰な暴力をふるいはじめた。
 教団でも一定の信頼を得ている人物がここまで取り乱すなど、普通ではありえない。仮にこんなことが起こったとしても誰かが止めるはずだ。
 だが皆、遠巻きに見るだけだ。
 いや、見てすらいない。
 透明な壁でもあるかのように大きな円を作り、皆目をそらして立っている。
 それもこれも、ラルフが密かに彼らに『環境への不満』を露出させるように誘導していたからだ。
「やめて! やめて! 痛い! なんでこんなことするの……!」
 ケディ氏の暴行に、何人かが加わっていく。
 その何人かが綾女と関係をもった男たちだということには、殆どの者が気づかなかった。
 そして当然というべきか、綾女は昨夜の内にこっそりと姿を消していた。
「嘘だったんだ! 平等なんて! みんな嘘つきだったんだ!」
 ボロボロになったリィズが、空を見ながら狂ったように笑っている。
 そこへ。
「なんと傷ましい……」
 教祖のジョーンズ氏が現われた。
「この状態のどこが平等なのだ!」
 声を張るラルフ。トラオムもその通りだと追従した。
「ええ、その通りです。残念ながら、これは平等とは言えません」
 ジョーンズ氏は本当に悲しそうに首を振った。
 それは誰が見ても明らかな、本心からの悲しみであるように見えた。
「また別の場所を耕し、新たな村を作りましょう。ついてきてくださいますか?」
 ジョーンズ氏の呼びかけに、応えるものは少なかった。
 というのも、教団幹部の殆どがこの場にいなかったからだ。

 一方その頃、村の外へ通じる道。
 倒された木を迂回するように、大きな鞄を持った何人かの男女が移動している。
「お出かけですか?」
 倒れた木に腰掛けて、灰が言う。
 茂みからエスラが、下呂左衛門が、戟が、アルクが、ヒグマゴーグが現われる。
 誰もが完全に武装し、男女を次々と殺害していった。
 その集団の中に綾女が混ざっているのを見て、女がヒステリックに声を上げた。
「あんた……裏切ったわね……!」
「あら」
 テーブルを流れるメイプルシロップのようなとろんとした声で、綾女は唇に指先を当てた。
「私は最初から『こちら側』よ」
 女の首を、灰の剣が通過していく。

●それから
 『非競争妥協同盟』のジョーンズタウンは壊滅した。
 教祖のジョーンズ氏が嫌がる住民たちを巻き添えにして自害したためである。
 後にこれらはジョーンズタウンの白い夜として世間に知られることになるが、その裏で暗躍した十人のイレギュラーズの存在を知るものは、少ない。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete!

 コミュニティは無事消滅し、多くの死によって村は潰えました。
 後の調べによれば教祖は非の打ち所のない人格者でしたが、彼を利用して幹部たちが私腹を肥やしていたようです。王都に隠し財産があっただとか、自宅に高級な酒その他が隠されていただとか、そんな話がありましたが……全てはもはや、闇の中です。

PAGETOPPAGEBOTTOM