PandoraPartyProject

シナリオ詳細

念願のマイタワー

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

⚫︎念願のマイタワー
 王都から離れた郊外。貴族達も手を付けていない殺風景な草原の丘。近くにあるのは大した物も無ければ動物も生息していない小さな森くらいである。
 そんな何も無い土地に、その塔は建てられた。
 高さは15メートル、円柱形の内部に広がるのは最上階へ続く螺旋階段と緑一色の蔦(ツタ)のみ。
 一見するとレンガ造りの古びた塔にしか見えないこの建造物だが、近付いて目を凝らせば誰でも気付くだろう。
 なんとこの塔は木造の壁や階段にレンガ模様の壁紙を貼り付け、土や砂で汚しながら蔦っぽく編み込んだ毛糸が上から張り巡らされただけの……ハリボテなのである。
「できたぁーー! ここまで作り上げるのに苦労したなぁ……はぁあ感動的……」
 最上階の天窓を開け放って風を塔内に通している全身を鎧に包む若い女。
 彼女こそ元々は風車として使われていた廃墟を塔として改装し、わざわざ大量の壁紙や毛糸で『それっぽく』仕立て上げた本人である。
「古びた塔、そしてこの玉座に座るのは封印されし特異運命座標の古代騎士……くぅっ! 堪らないぜ私ぃい!!」
 若い女は禍々しい形の貝を二つ接着剤で付けた鉄兜を頭に被り、バイザーを下ろして暗闇に差し込んだ陽の光を浴びて独り叫んでいた。
 何も知らない善良な民が見たら真っ先に回れ右をして塔から逃げ出す事は間違い無い。色んな意味で。
 だがしかし、それはあくまで善良な民が飛び込んで来た場合の話。
「……んゆ? 何だか外が騒がしいような」
 彼女が玉座(綺麗な貝殻をたくさん貼り付けた揺り椅子)に座って悶えながら手鏡でウットリしていると、塔の外から幾つかの叫び声が聴こえて来た。その声はいずれも怒声の類であり、獣らしい獣もモンスターも出ない地域ではまず聞く事の無いものだった。
 不思議に思った彼女は、何となく螺旋階段を降りて外の様子を見に行こうとする。
 薄暗い螺旋階段を半分ほど降りた時。下から木扉を激しく打ち鳴らす音に驚き、点々と壁に打ち付けていたブラケットキャンドルを危うく落としそうになる。燃えやすい塔が大惨事になる所だった。
「早くこっち来い! 追い付かれてるぞ!」
「あの中へ入れ!!」
 一人、初老の男がいきなり塔の扉を開け放って飛び込んで来た。そうと思えば更に一人、二人、次々と塔内に男達が中へと駆け込んで来る。
 その様子を上から見ていた塔の主である女が驚き叫んだ。
「な、なっ!? なんだお前達は!」

⚫︎盗賊に捕まりました
「盗賊なのです!」
 スパゲッティを食べているイレギュラーズ達の前で『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が告げる。
「依頼者はとある貴族さんからなのです、えーと……」
 彼女曰く、今回イレギュラーズに任せる仕事は銀行強盗を働こうとして失敗し逃走した『盗賊一派の撃破』と、『偶然盗賊達に捕まった清楚な貴族令嬢の救出』の二つだという。
「盗賊さん達は強力な仲間や用心棒を元々連れていましたが、銀行で憲兵との一戦で捕縛され現在逃走中なのは残りの七人なのです。武装はクロスボウや短弓といった飛び道具オンリーなのですが、逃げ込んだ先が厄介だったみたいなのです」
 イレギュラーズが首を傾げる。それがもしや清楚な貴族令嬢の事かと問う。
「はい、実は逃走した盗賊を追った憲兵さんの中にとある貴族さんのご友人が居たみたいでして。盗賊達の逃げ込んだ塔の頂上、屋根上に貴族令嬢が鎧姿で助けを呼んでいたみたいなのです」
 なんだその状況は、どこに清楚な要素があるというのか。
「盗賊達はまだ娘さんの素性を知らないみたいで、いざという時の人質程度にしか認識していないのです。でもこのままだといつ何が起きてもおかしくないので、それは依頼者の貴族さんとしては絶対に避けたいみたいなのです」

「優先度としては貴族令嬢の安全確保、或いは迅速な盗賊達の撃破! イレギュラーズの皆さん、よろしくお願いしますなのです!」

GMコメント

 今回が初の依頼となります、ちくわブレードです。
 よろしくお願いします。
 こちらの情報とオープニングの情報は全てPCの皆様が知り得る情報となりますので、相談の際にお役立て下さい。

 以下詳細情報

●情報確度
 Aです。想定外の事態は絶対に起きません。

⚫︎依頼達成条件
 盗賊七名の撃破(生死は問わず)
 貴族令嬢『セレナーデ・エレイン・フェルゼンハント』の救出

⚫︎依頼失敗条件
 盗賊を一人でも逃す
 貴族令嬢の救出失敗

⚫︎状況
 リプレイではイレギュラーズの皆様が塔の前に到着した所からスタートします。
 王都郊外の森に近くにある完成したばかりのハリボテの塔が戦闘・救出の舞台となり、ハリボテかどうかは扉を開ける際に判明します。
 塔の内部は思いの外広い作りとなっており、螺旋階段は人が二人以上並べる程度の幅となっています。
 しかし高過ぎず低過ぎない塔内部の螺旋階段からの高低差を利用した、飛び道具による迎撃は嫌がらせとして最悪です。
 『階段中位』、『階段上位』の二ヶ所にクロスボウと短弓を装備した盗賊が二名ずつ配置されている為、連携を取られると痛いかもしれません。
 『最上階』ではクロスボウを持った盗賊が三名居ます。
 プレイング次第で貴族令嬢が天窓から降ろされて人質になっている可能性がある為、迅速に行動する内容があると良いかもしれません。

⚫︎敵情報
 盗賊。
 クロスボウとライトアーマーを装備した五人、短弓とライトアーマーを装備した二人。いずれも特筆すべきステータスの高さは持ちません。しかし地形と連携力が合わさり、対策無しでは苦戦するかもしれません。

⚫︎救出対象
 セレナーデ。
 ちょっとした商会や教会の運営に協力しているフェルゼンハント家の長女。
 幻想貴族としては大した力も持っていないからか家柄としては普通も普通、フェルゼンハント卿も割と真面目な仕事人。
 貴族の集まりでは清楚な印象を与える美女として知られているセレナーデだったが今回運悪く盗賊達に塔を占拠されてしまい、天窓の上で助けを待っている。ちなみに着ている鎧は割と良質な為、多少の炎や矢、衝撃では傷付く事はないでしょう。
 しかし人質に取られた場合を想定していないと盗賊を逃してしまう可能性があるかもしれません。

 アドリブの有無に関してはプレイングまたはステータスシートにて記して頂ければ確認致します。

  • 念願のマイタワー完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年05月22日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

新納 竜也(p3p000903)
ユニバース皇子
ウォリア(p3p001789)
生命に焦がれて
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)
海淵の呼び声
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
クロガネ(p3p004643)
流浪の騎士
シエナ・カレラ(p3p005128)
精霊術師

リプレイ

●後悔に混じる物
 陽が落ちようとしている。
 本来なら澄んだ空の下でのんびりと父の仕事を手伝っていたであろう一日の終わり。
 最も素敵な一日となる筈だった今日この日。塔の頂点、気紛れで取り付けた天窓に張り付いていなければ……そうなる筈だった一日である。
「どうしてこんな事に……」
 背中の天窓から自身の造り上げた塔を覗けば、その口から出る溜息は増すばかり。
 今この時、彼女の塔は突如押し掛けてきた盗賊達に占拠されていた。尤も、鎧と兜を除けば刃の無い模造剣しかまともに太刀打ちできそうな物も無く。そもそも貴族令嬢でしかないセレナーデに武の心得は持ち合わせていなかったのだから仕方ない。
 それよりも問題なのは今後である。盗賊達の素性を察した彼女は直ぐに最上階の天窓まで逃げた事で、幸いにも未だ盗賊の手に落ちてはいない。それは現在の姿格好に加え、彼等来訪者が憲兵や数人の『イレギュラーズ』に追われていた事に起因していた。
 程よく雰囲気ある広さと内部の螺旋階段にセレナーデが拘った事で盗賊達の連携と装備が完全に活かされているものの、男達の一人でも気を抜けば憲兵含めたギルドローレットの一員達が突入しかねない。そんな状況でおかしな先住民に構ってはいられないのだ。
 しかし。外の様子を塔の上から見ていたセレナーデは幾度目かの首を傾げた。
(なぜ……盗賊達はたった七人、いくら堕ちた憲兵でも数を揃えれば簡単なはず……)
 そう。塔の周辺では銀行を襲った盗賊を追って来た憲兵とイレギュラーズが何か困った様に攻めあぐねていたのだ。
 数時間も時折塔へ声を投げたり小規模の突入を繰り返しているも、大きな動きは一向に見せない。それ故にかえって盗賊達に余裕を与えてしまっている。
 セレナーデは知らない。自身の存在がこの困った状況を生み出し続けているなど、当人には分かる筈もなかった。

●入れ替わり、天上を目指す
 依頼の形式は変わった。最早これは銀行強盗の撃退にあらず。
 そう判断を下したローレットは新たな依頼人フェルゼンハント卿のオーダーを基に八人編成のイレギュラーズを派遣。
 セレナーデが張り付く天窓とは逆サイド。塔の裏側で彼等イレギュラーズは集まり、いよいよ作戦を決行しようとしていた。
「秘密基地作りは男の子の趣味かと思ってたよ」
 既に打ち合わせの済んだ彼等は一様に塔の壁に触れたり、まじまじと眺めていた。『応報の翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)もその一人である。
 しかしその音からも分かる通り、軽い。古びた塔に見えるがその中身や質は全てハリボテの類だった。
「素敵だよねこの塔。雰囲気というか、形から入るというか」
 愛らしく小さな首を頷かせ「うん、僕は好きだよ」と。高いと言うほど高くも無い塔を見上げる『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)。
 カタラァナの視線を辿って隣に立つ『流浪の騎士』クロガネ(p3p004643)が獣耳を揺らす。
(……というか、塔と聞いたが実物は低くないか?何故か妙だな?)
 煉瓦造りではないのはいいとして、仮にハリボテなのだとしたらもっと高く建てられなかったのか? という疑問があった。
 試しに壁紙をべりべり剥がして見れば中身は新しく板や骨組を新しくした木造のそれなのだ。恐らくここまで仕上げることが出来る技術や資材を手にできるならば、もっと本格的に造れた筈である。
「疑問はたくさんありますが、そもそも何のために建てたのか。とても気になります。依頼が終わったら、セレナーデさんに直接聞いてみましょう」
「───ハリボテとはいえ、中々に趣き深い趣向の塔ではないか。無粋な虫はさっさと掃除して主とご対面と行こう」
 『精霊術師』シエナ・カレラ(p3p005128)がブーツの紐を結び直し、手にグリモワールを持つ。
 そして静かに竜を模した全身鎧を着た、重厚感漂う雰囲気で塔の正面へと歩き出したのが『終焉の騎士』ウォリア(p3p001789)だった。
(清楚な印象を与える美女とは……いや、趣味はそれぞれだ。大事なのは、美女かどうか、だ!)
 ウォリアと並んで向かい始める『特異運命座標』新納 竜也(p3p000903)が、ぐっと拳を握って熱き何かを燃え上がらせる。
 少し離れた位置から。塔の上で天窓に張り付いている令嬢を見て何とも言えない表情をしていたとはいえ、令嬢のことが賊にバレないように言動に気をつける事を呼び掛ける辺りは流石である。
 それぞれが頷き、自然と打ち合わせ通りの隊形を作っていく。
 作戦はとてもシンプルであり能力が伴わなければ容易ではない物だ。しかし彼等イレギュラーズの誰もが疑い様の無い実力者。
 依頼人の愛娘、セレナーデ嬢を救い出すべく。塔の入り口である木扉を彼等は開け放った。

●迎撃する一矢
 勢いよく木扉が粉砕され、陽が落ち薄暗い塔内にその破砕音が轟いた。
 直後に中へと飛び込み姿を見せるのはクロガネとウォリアの二影。木扉を破壊したウォリアの全身から火焔が渦巻いて漏れ出し、力強い踏み込みと共に構える戦斧が暴風の如き圧力を周囲に与える。
 向かうは螺旋階段。一度の跳躍で上へと駆け上がろうとする……が。
 しかし、その足が止まる。
「……!」
 頭上から射ち込まれた弓矢が鎧に弾かれ、火花を散らすに留まったその一撃は、ウォリアがその身を咄嗟に捻った事で回避に成功したのだ。
 だがそこへ間を一切置かずに弓矢が、ボルトが、文字通り降り注いだのである。
「ふ……ッ!」
 黒いコートを翻して割り込む盾。螺旋階段へ飛び込んで来たクロガネが背中のラージシールドを振り抜き、降り注ぐ矢の嵐を弾き飛ばす。
 一呼吸の間。頭上を見上げようとしたクロガネの肩に鈍い衝撃が襲う。盾を振り抜いた彼の隙を縫って階段上位に身を屈めて潜んでいた敵が放った弓矢。それがクロガネの着込んでいる鎧に刺さったのだ。
 鏃は浅く魔鎧の持つ魔力の膜に食い込んでいるだけだったものの、僅かにその場に空白が生まれる。
「……ただの雑魚じゃない、なら。今から本気を出す!」
 止まるは愚策。続け、と。ウォリアとクロガネが階上目指し再び踏み込む。それに続いて駆け抜けるのは竜也と『特異運命座標』オリーブ・ローレル(p3p004352)の二人。
 くぐもった声で「了解です」とオリーブは答えながら、最上階目指して走り出す。階上から降り注ぐは僅か四人とは思えないほどの隙を一切与えない連携の取れた波状攻撃。時折彼等に細かな傷を作っていく。
 竜也が引き抜いたコズミックブラスターで数発階上に向けて射撃されるが、上手く高低差を活かしているのか身を低くして移動する盗賊達に当たらない。
 それでも、牽制としての効果はあった。盗賊達は竜也達の後続を見逃していたのだから。
「カックドゥードゥル オンドリの 活きのいいのが 穴に逃げ♪」
 薄暗く、音も僅かに木霊する狭い塔内に、美しい歌声が響き渡る。
「ここまでおいでと 手を鳴らし もったいないから 食べちゃった♪」
 即興かつどこか楽しげにも聞こえる歌。だが彼女……カタラァナの歌はただ伝えるだけではない。そこで盗賊達は階下で突入して来た新手の姿を捉えた。
 歌声の反響が塔の頂上にまで及び、そしてそれらの波紋は歌声の主であるカタラァナへと戻っていく。
「──────扉を十二時として、五時と六時の方向階段中位。十時と九時の方向、最上階に続く手前の階段近くに弓持ち!」
 歌を紡ぎながらも駆け抜ける。彼女の口を閉ざそうと階上からボルトが幾つか放たれるも、ある程度の位置を把握した竜也が射撃を続けた事で狙いは大きく逸れているようだった。
「ありがとうカタラァナ。それじゃ、援護は任せるよみんな」
「後ろは任せるですよミニュイさん!」
 翼を広げて身を屈めるミニュイの横へ並び立つ、魔力漲る聖遺物を翳す『希望を片手に』桜咲 珠緒(p3p004426)がシエナと共に階上を狙う。
 既に敵の位置はカタラァナによって示され、薄暗くとも一度そちらを意識して把握しようとすれば視界に捉えるのは難しくはない。彼女たちの目には確かに武器を構える盗賊達の姿が見えていた。
 直後、塔内に無数の風切り音と閃光が瞬く。まるで交差するかのように矢と四列目……即ち珠緒とシエナの魔法が飛び交った。
 幾つかは塔の最上階に当たる天井へ弾けるも、珠緒の放った魔弾が階段上位からウォリア達を狙っていたクロスボウを構えようとしていた男を見事射抜く。致命的一撃は盗賊に悲鳴を上げさせる事無く、階下へと沈ませたのだった。
「な!? くそ、来てるぞ下がれ下がれぇッ!!」
 上から降って来た仲間に目を見開くも、階段中位で粘っていた弓持ちの盗賊はそれどころではない。ついに螺旋階段対岸から目視される距離にまでウォリア達前衛組が迫って来ていたのだ。
 迎え撃とうと弓を引きながら転がるように後退し、ボルトを装填し終えた他の盗賊と肩を並べて矢を放つ。が、しかし。いずれもウォリアや後続の竜也にも致命的なダメージを与える事はない。
 何より恐るべきは鬼気凄まじいウォリア達よりも……
「何だアイツ堅ェ……!?」
「本気を出すって、言っただろ!」
 反応良く先頭へ出て来ては盾を振るうクロガネ。驚愕するのは無理もなく、ほぼ全ての射撃を防ぎ、無傷に等しい姿だったのだから仕方ない。
 そしていよいよ、盗賊達は追い詰められる。
「あとはもうその二人だけだよ、私は先に上へ行かせてもらうね」
「っ、はあ!?」
 階上から響く声。階下からの魔弾に加え毒撃らしき射撃を常に警戒していたが故に、盗賊達は最初に仲間が落とされた際に入れ違いに交差することで、階上まで飛び上がっていたミニュイに気が付かなかったのだ。
 思わずボルトをクロスボウから取り落とした盗賊の全身から冷ややかな汗が流れ始める。
「随分手こずらせてくれた……」
 ウォリアの全身から猛火が溢れだす。その勢いは最早ギフトではなく─────必殺の気配─────。
「ひ、いいい!? 畜生っ!!」
 とうとうクロスボウを投げ捨てた盗賊が螺旋階段から飛び降りようとする。階下には珠緒とシエナが魔法を準備していたが形振り構っていられなかったのである。
 跳ぼうとした瞬間、盗賊の足元。階段が爆発して男は予想だにしていない落下に見舞われる。
 真下の階段へと落ちた盗賊の前に立っていたのは、逃走を阻止するのも含め自身のスキルで爆破した竜也である。当然その手には剣を携えて。
「我こそは超銀河コズミック宇宙帝国皇子なり! 大人しく我が軍門に降れば良し。降らぬならば相応の対価を払ってもらう!」
 降伏を促す言葉。願ってもいない展開に盗賊はその場で武器を捨てて投降した。
───カキンッ
 その横を一人の男が駆け抜ける。その際くぐもった声で「やっと追い付きました」とその場に残滓を残して。
 崩れた階段から飛び上がって姿を見せたのは。両拳をこれまで何度も鳴らしながら階下を見ないように意識し努めていたオリーブである。最後の一人となっても弓から手を離さずに矢を放とうとしていた盗賊の眼前へ踏み込んで来たのだ。
「竜也さんの声は聞こえていた筈です。つまりそこで武器を捨てないなら……」
「う、おおおおおおお!!」
 最後の抵抗のつもりだろう。盗賊は一気に矢を放つと同時にオリーブへと突進して組み付こうとしてきた。
「……早く上へ、仕方ないので俺が倒します」
 チェインメイルに突き立つ矢を無視して、盗賊を壁際へ吹き飛ばしながら手を振る。ミニュイだけでは未だ令嬢の安否が懸念される。ならばとオリーブはウォリアがフレイムバスターを撃つ前に上へ行くことを促す。
 最上階の方を優先して、彼等は上へ駆け上がって行った。

●勇気を出して
 イレギュラーズが突入した時、盗賊達はそれぞれ騒ぎ始めていた。
 それもその筈で。新たに送り込まれたイレギュラーズは八人、つまり自分達を捕まえるか消す為にローレットが選んだメンバーという事になる。
 噂をある程度聞いている裏社会の一員だった彼等もこの事態には僅か数十秒もない内に追い詰められているのが見て取れた。
「こうなりゃ奴を降ろすしかないな」
 その声が聞こえた時、初めて楽観視して来たセレナーデにゾクリと悪寒が走った。
 鎧姿だから彼等は手を出して来ないのでは? などと甘い事を考えたのは間違いだった。盗賊達にしてみれば名も素性も知らない変な奴を人質にするより、消耗戦に持ち込んで逃げればいいだけだったのだから。
 盗賊の一人がクロスボウを天窓へ向けた。大きな声で「開けろ、降りて来い」と言いながら。
 心臓が跳ね上がり、凶器を向けられている事実に驚き、彼女は怯えた。例えそれなりの鎧を着込んでいても怖いものは怖い。故に、セレナーデは震えながらに天窓を開けようとして──
『上にいる人! 戸締りはしっかりね!! その窓開けちゃだめだよ、あ、でもいざと言う時は無理に逆らわず命を大事にね!』
『直ぐに僕たちがいくよ!』
 突如塔の外にまで響く声。恐らくは先ほどから階下で聴こえている歌の少女の物。セレナーデはカタラァナの声に手を止め、天窓の縁に背中を預けながら鎧をしっかり装着出来ているか検めた。
 助けはすぐそこに来ているのだ。ならここで彼等に迷惑をかけるわけには行かない、降りるわけには行かない。
「クソが……だったら降ろしてやるまでだ!」
 頭上へ向けて盗賊は引き金を引き、一本のボルトが天窓に突き立つ。ガラスは割れなかったものの、先端はセレナーデの鎧の表面を削り衝撃を彼女に与えた。

 そこで、突如翼が空気を叩く音が鳴り響く。
「助けに来たよセレナーデさん、っと……!」
 階下から翼を広げて飛び上がって来たのはミニュイである。彼女は未だ令嬢が敵の手に落ちていない事を確認するや否や即座に行動に出た。
 飛び込んで来た勢いそのままに砲弾のように突っ込み。セレナーデにボウガンを射った盗賊に翼をクロスして一閃。ただの翼だと思いきや斬撃に等しい一撃に鮮血が散り、更に素早い身のこなしによる連撃で打ち上げられ盗賊は錐揉みしながら壁に叩き付けられる。
 仲間が吹き飛んだ姿に息を飲む他の盗賊二人。ミニュイにボウガンを射ち込みながら、一ヶ所しかない出口である階下への階段に向かって逃げ出そうとした。
 そこへ、その身に光り輝く紋様を浮かび上がらせて立ち塞がる竜也の姿が現れる。
「そこまでだ。我こそは超銀河コズミック宇宙帝国皇子なり! 大人しく我が軍門に降れば良……
「天に輝く七の星を見よ……オマエに死を告げる赫赫たる虚ろの星こそが我……生まれる時を違えた者よ、地獄に堕ちる覚悟はできているな?」
 竜也の頭上を飛び越えて床板を踏み砕き、その手に握り締める戦斧を一振り薙いで突撃する鎧竜の戦士。竜也が名乗り口上を挙げ終らないうちに全身から殺気と焔を噴出させて踏み込んだウォリアは、近くで凍り付いていた盗賊を一刀両断した。
 有無を言わせぬ一撃。爆炎に包まれたが如き炎上と共に壁を突き破って塔の外へ吹き飛んだ仲間を見送った盗賊は、その場で武器を捨てて衣服まで脱ぎ捨てながら命乞いをしていた。
「………さぁ、オレ/我がオマエを此処で殺す……終焉の時は、来たれり」
「ひ、ぃいいいい!?!? いのちだけは! 命だけはお助けをォ!!」

●念願の夢
 無慈悲にもそのまま盗賊達は殺されるかと思われたが、結果として致命的一撃(クリティカル)によって即死した者以外は竜也の宣告通りに捕縛という形で依頼人と憲兵に引き渡される。
 珠緒の魔弾に貫かれて落ちた盗賊は一命を取り留めていたらしく、逃げようとした所をシエナと珠緒のカピブタに捕えられ、盗賊はこれで全員撃破され。令嬢のセレナーデは無傷で救出、保護された。
「この度は私のせいで皆様にご迷惑をおかけしてしまいました……本当にごめんなさい」
 ようやく地に足を着け、緊張から解放された彼女は今はもう鎧を脱ぎ、迎えの執事が用意したドレスを着て頭を下げていた。
 律儀にも他の憲兵や自分の家の使用人に対しても謝罪をしてきたようだった。
「ハリボテとはいえ、独力でこの大きさを作り上げるとはなかなかの御仁なのです。お友達になりたいくらいなのですよ?」
 仲間の傷を癒し終えた珠緒は小首を傾げてセレナーデにそう言う。
「謝罪は構いません。貴女は被害者ですから、ですがなぜこのような塔を?」
 一同は揃えてその点が僅かながらも気になっていたのだろう。鎮まる空気にセレナーデ嬢は塔を見つめながら恥ずかしそうに俯いた。
「実は、あまり知られていないおとぎ話……絵本の物語に、私は憧れていました。
 幼い頃に王都の祭り時に露店で売られていた様な、誰が書いたかも分からない『崩れない塔の騎士』の物語です。私はその、今も好きで……時折こうして児戯のようななりきりを、していたのですが……」
 しおしおと小さくなっていく姿にカタラァナが顔を覗き込む。
「隠すことなんてないと思うな、一人でびふぉーあふたーして小さい塔を造れるくらいだしね」
「カタラァナさん……」
 セレナーデは改めて頭を下げてから微笑んだ。
 その表情や仕草は確かに清楚な面もあるが、まだ夢見る幼い子供のそれにもイレギュラーズには見えたのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

イレギュラーズの皆様お疲れ様でした。
今回の依頼にご参加いただきありがとうございました。

余談になりますが盗賊達の本来の首魁(既に銀行で捕まっている)が用意した逃走後の隠れ家が塔の先に存在しました。
しかし肝心の詳しい場所や建物の特徴が下っ端には知らされておらず、大まかな方向に向かって逃走していた時にハリボテの塔を見つけて「これだァ」となってしまったのです。

皆様にお楽しみいただけましたら幸いに思います。
改めて、お疲れ様でした。

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