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シナリオ詳細

<Raven Battlecry>「祈ると、両手が塞がるぞ?」

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●無力な祈りは”愛”を求めて
 首都ネフェルスト近郊。
”聖堂”と呼ばれるその場所に、ずらりと信者たちが頭を下げている。
 彼らは、「砂明かり」の信者たち。
 ラサのごく一部で流行り始めた新興宗教だ。
 天義から流れ着いた一人の聖職者が始めた、もともとは小さな互助会のような組織。
 世情の不安定さを糧に、信者たちはどっと増えた。
「祈りなさい祈りなさい。隣人のために。全ては愛と平和のために」
 大鴉盗賊団が、すぐそこに迫っている。
 それでも、彼らはただ”祈る”。
 逃げることすらしなかった。
 外の喧騒など聞こえないかのように、耳をふさいで、体を折りたたみ祈っている。
 彼らの多くは、女性や老人、片腕や足をなくした傭兵たち。
 狂った聖職者が、彼らの聖書を紐解く。
「盗賊たち。彼らは哀れな生き物です。愛を知らぬ生き物です。決して逆らってはいけません。
差し出しなさい、何もかも。哀れな盗賊は気が付くでしょう。そのときこそ、仲間に迎え入れてあげようではありませんか」
 彼らは何もしようとしなかった。
 赤ん坊が泣きだす。子どもたちは状況がわかっていない。
「ねぇ、おかあさん、わるいひとがくるよ。どうして逃げないの?」
 幹部の一人はにこりと笑う。
「罪なき者たちよ。それが我々の戦い方だからですよ。
――ご安心を、我らが導き手は、より天に近い場所で祈りを捧げております」

●ルウナ・アームストロング
(馬鹿げておるのう。ただの生存の放棄ではないか)
 無論、そのような「説得」など、荒くれ物たちに通用するはずもなく、人々は蹂躙されるばかりだ。
 聖堂の屋根の上から、静かな狂気を冷めた目で眺める女の姿があった。
 その名を、ルウナ・アームストロングと言う。
「そうしているうちにすべてをなくすつもりか、馬鹿者どもめ」
 指導者は天に近い場所で祈ってる?
「いいから全部持ってこい! ありったけ全部だ!」
 肥え太った指導者とやらは、私財をパカダクラに積めるだけ積んで、逃げ出そうとしているところだ。思った以上に盗賊の襲撃が早かったために、未だ隠し部屋から出られずにいるが。
「愛と平和。愛と平和か。
儂に言わせれば、幸せというものは血のにじむような努力で、己の手でつかみ取るものじゃのう」
「お母さんに触るな!」
 喧騒のさなか、小さな子供がナイフを抜いた。大柄な男に斬りかかっていく。そのナイフはあえなく受け止められるが……同時に、鋭い雷撃が盗賊を貫いた。
「ふふふ、天は自ら助くる者を助く……などというのはちょっとロマンチックかのう?
さて、では、カラスどもにも、ちょっとばかり遊んでもらうとしようか」


「今回の依頼は、ケチな聖職者の”裏帳簿の奪取”さ」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)は暗い笑みを浮かべた。
「「砂明かり」という教団を知っているかい? 彼らは暴力を捨てて、隣人愛を解く。まあ、無害な類の新興宗教だけれども、そこの指導者はどうもきな臭い……。巻き上げた金で、武器やらを買い付けて無法者に売っているようだ。
ただ、狡猾で証拠がない。彼らの信者になるふりをして、探って来いというのが依頼だけどね」
 そこで、ショウはふと言葉を止める。
「どうにも、ラサは焦げ臭い。何か、予想外のことが起きるかもしれないな」
 ショウの言葉の通り……。
 大鴉盗賊団の来襲により、調査は放棄せざるを得ない。
 最も優先されるべきは信者の保護と、盗賊団の撃退となった。

 聖堂にたどり着いたイレギュラーズを、彼らは喜んで迎えるだろう。
「おお、イレギュラーズの方々。みなさい、我らの祈りが届いたのです!」
 盛大な拍手。
「ありがとう」の声。
 安心して泣き出すものもいる。
「祈れ、さすれば救われますとも!」

GMコメント

布川です。
まだNORMALです。

●目標
大鴉盗賊団の撃破
半数以上の信者の保護

※OPでは調査から始まっていますが、今回の目的は信者の保護と、盗賊団の撃退です。
今回、裏帳簿は見つかりません。盗賊団の襲撃により、慌てた指導者が燃やしてしまいました。

●敵
大鴉盗賊団×20
 ラサへと侵攻する大鴉盗賊団の荒くれ物たち。
 彼らは容赦がありません。道がすら、すべてを奪いつくしていくでしょう。

●中立
「砂明かり」の信者たち×50名ほど
 彼らは無力で、何もしません。
 女性や子供、老人、戦えない傭兵崩れなどが多いです。
 さすがに武器を振るわれてからは「無抵抗」でいることは難しく、ほとんどパニックになっています。

指導者「ムンド」
 真っ先に逃げようとしていますが、出る隙を逃しました。
 隠し部屋で私財をかき集めています。
 偉そうな信者を締め上げればわかる情報です。
 悪評の絶えない人物ですが、今のところは決定的な材料は見つかっていません。
 イレギュラーズたちには友好的というか、「とっととこれを解決してくれ!」という態度です。残念ながら、現状では逮捕するような証拠はありません。庇う信者も多くいるでしょう。

<色宝>を隠し持っていて、それが狙われているようです。
 ただしそれを差し出したとしても、盗賊団は「ついでに」略奪を働いていくでしょう。

ルウナ・アームストロング
「愛と平和、か……のんきな奴らじゃのう」
 たまたま居合わせた「傭兵」のようです。
 雷撃をまとわせた剣を振るって戦います。
 かなり腕が立つようで、盗賊たちを斬り伏せています。
 今回はイレギュラーズたちと敵対する気がありませんが、その意図は不明です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

  • <Raven Battlecry>「祈ると、両手が塞がるぞ?」完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年12月19日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
八田 悠(p3p000687)
あなたの世界
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
ルリ・メイフィールド(p3p007928)
特異運命座標
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)
あいの為に
雑賀 才蔵(p3p009175)
アサルトサラリーマン
バク=エルナンデス(p3p009253)
未だ遅くない英雄譚

リプレイ

●鼓動
 どくん、と。
『砂の幻』恋屍・愛無(p3p007296)の全身は脈打つ。
(懐かしい匂いだ。忘れもしない。忘れる事ができない匂いだ。だが何故ここに。何故何故何故)
 賊が何かわめいている。
 振り向く必要はなかった。
 粘膜塊は反射的に迎撃の構えをとっている。
 何度も反復したルーチン。
 酸で、装甲が腐り落ちるにおいがする。
 押しつぶす。
 盗賊は一撃で沈み、床にめり込む。
……殺してはいない。
 どうすれば人体は致命傷を負い、どうすれば形を保つのか、愛無はその技術を知っている。
(「何故」はつきないが。今は依頼に集中せねば。任務遂行を第一に考えろ。それが「彼女」の教えだから)
 この人の群れの向こうに……ルウナ・アームストロングが。
「幻戯」の団長がいる。

(裏帳簿の捜索が賊退治になるとは何とも運が良いのか悪いのか)
『アサルトサラリーマン』雑賀 才蔵(p3p009175)はこの状況に対して、「厄介だな」という”ごく普通”の感想を抱いていた。
 信者たちには困ったものだと思っている。人々を助けたいとも思う。
 ただ、その行動に、一般人のような動揺はなかった。才蔵の思考回路は結局のところ、「普段通り、やれることをできる限りやる」、というシンプルな結論に帰結する。
「それじゃあ……迅速に仕事を終わらせようか」
「はい」
『群鱗』只野・黒子(p3p008597)は頷いた。
 無辜の、無抵抗の民への粗暴に対する怒りは筆舌に尽くし難い。
 盗賊の群れを一瞥する。振り上げられる刃を止めるため、あの中に飛び込むことはできるだろう。それでも、幾らかは救えるだろう。
 内なる歯車が怒りを抑え込む。
 律せよ。そして、可能な限りの最高効率を。
 俯瞰して広くこの空間をとらえて最善を行うこと。
 黒子にはそれができる。
 何も言わずとも、仕事人たちは、示し合わせたかのように散開する。

「”半分”……ですか」
『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)は眼下に蠢く大衆を眺める。
 この中の半分、救い上げればいいと?
「それは結構なことですね」
 生と死を分けるのは運だろうか? たまたまいた場所が賊に近かったから、とか?
 いいえ、それはきっと。
(……自然と、自ら生きる意志を持つ物が残る事になるでしょうね)
 平和への祈りを手に、ライはほほ笑んだ。
 Good Luck。
 心からそう願っているのは、うそではない。

「うおらあああ!」
 盗賊が暴力を叩きつける相手は、つまるところ誰でもよかったのだ。
 しかし、その行動は、『あなたの世界』八田 悠(p3p000687)の強制調律に惹きつけられたものだった。
 それはあまりに自然に世界に溶け込み、自覚することはできない介入。
 人込みが割れれば、逃れるチャンスが生まれる。
「下がれ。足を止めるな!」
『新たな可能性』バク=エルナンデス(p3p009253)は戦場に身を置き、勇敢に叫ぶ。
「お主だ。今この場は、お主が指揮を執れ」
 幹部らしき人間を見つけて、力強く諭す。そして、自らは、深く深く刃の群れに分け入っていった。
(教義こそ無償の愛、とても素晴らしき事だ。平和な時であれば肯定もしていた。
しかして時勢の波は残酷であろう。故に儂は鬼畜生と呼ばれようと導くまで)
 ライと目が合った。
(お優しいのですね)
(必死だとも)
 とりもあえずは、助けましょう。
 半分でも、それ以上でも、以下でも。
 零れ落ちる数多に手を伸ばす。
「大丈夫です? 動けないようなら、とにかく、後ろへ!」
 重い説法台に飲み込まれそうな親子を、『特異運命座標』ルリ・メイフィールド(p3p007928)が力強く引っ張り上げた。
 親子はルリに神聖を見出し、涙を流す。
 足が悪い。ぱっとは動けない。
 なら、ここで耐えるしかない。群れる盗賊の前に、きらりと、流れ星の様に何かが降ってきた。
「魔法騎士セララ、参上!」
『魔法騎士』セララ(p3p000273)は、堂々と名乗りを上げる。人が助けを求めるならば、きっとどこだって現れる。
「お祈りは大切だよ。信じる力はきっと、皆の力になる!」
 でもね、と、セララは息を吸って、はっきりとした声で、言葉を紡ぐ。
「お祈りだけじゃあダメなんだ。
神様はね、行動した人しか助けれてくれないんだ!」
 守るべき者に、セララは背中を向ける。
 盗賊が何かを叫んで斬りかかる。
 見物人がはっと息を飲めば、ラ・ピュセルが盾へと変じる。
 鮮やかに、攻撃は跳ね返される。
「君達は避難っていう行動を取って、その上でお祈りすべきだよ。そうしてくれればボク達は全力で戦える。キミ達をもっともっと助けられる!
今だけはどうか、ボク達を信じて!」

●信じて
 振り上げられる刃。
 だが、その刃が切り裂いたのは、民衆をかばったバクの左腕だ。
「差しだせば片が付くと?」
 目を瞑ろうとする信者らに、一喝。
「戯け!」
 凛とした声が響き渡る。
「奴らの衣服に手にした剣につく血が見えぬというのか! 奴らが仕掛け、血を流す儂の傷が目に入らぬというのか!」
 力がこもる。
 負った傷以上に、失った翼が痛んだ。
 それは、この場に立ち続けるための現実的な痛み。
「あれは恩も愛も何もかも理解せず切り裂く外道の輩である! 儂のも貴様らの説法も聞くはずなかろう!」
 バクの手のひらから零れ落ちる燐光。シェルピアが癒したのは、信者の脚。……切り裂かれた、バクの腕ではなく。
 ぽたり、と血が落ちる。
「恐怖を感じたか? ならば四の五も言わずに早急に逃げよ! さあ、行け! あちらだ」
 バクは光を指し示す。
「……たに」
 人込みにまぎれる誰かが言った。それはあきらめのためではなく、どうしようもできないときに託すための祈り。
「あなたたちに、ご加護がありますように」
 光へ向かって、ひた走る信者たちを迎えるように、黒子の神気閃光が瞬いた。その狙いは正確で、賊のみを打ち滅ぼしていくものだ。
「逃げていいのでしょうか……」
「天寿を全せず、命を差し出しては差し出す総量が減り、教義に叶わないものです」
 黒子はそう言ってのける。
 事前情報と彼らの言動から演算した最適な返答だ。『今は』。どんな手段でもいい……助けられるならば。
「”退出せよ”」
 無駄に囲まれて、時間を取られたくない。
 男女とも分からない、不思議な響き。
 愛無の言動は重みを伴って響き渡る。
 ……あの人もそうだった。どんな荒くれ物でも、素直に従ってしまいたくなるような……そんな威厳を持っていた。
 人込みの群れ。この奥に。
「……団長」
 呼びかけに答えるように、轟音が鳴り響いた。
 叫ぶように、叩きつけるように、愛無は名乗り口上をあげる。此処にいる。そう示すために……。
「ああ、なつかしいものじゃ」
 風圧。それは嵐のような一撃。
 続くは、全てを薙ぎ払うような雷の一撃。
 一帯を狙ったものだったのは、信頼。
 愛無(お前)なら受け止められる、そうだろう?
 問うような一撃。
(可能)
 ルウナの一撃は、戦場を真っ二つに割る。
 射線上に立っていたのは愛無だけ。
「久しいのう、愛無」
「……」
(団長。戻って来てくれたのか。貴女さえいれば、全て取り戻せる。去っていった皆も戻ってくる。僕じゃダメなんだ。貴女でなければ)
 言いたいことはたくさんあった。
 けど、今は。
 背を預けあい、敵に向き合う。

「シスター、あなたこそが神から遣わされた」
 なにか、言ってる?
 ライは顔をしかめる代わりに完璧に首をかしげて、にっこりとほほ笑む。
「ええ、ええ、神があなたを導いています」
 そう思いたいなら、そうしなさい。
 まあ、喚かれるよりはマシか。いずれにせよ、”好きにすればいい”。
 祈るように掲げられたそれを、盗賊は聖印の類かと侮ったのだろう。
 ライが頼みにするそれは、それほど不確かなものではない。
 神秘の力を弾丸に変え敵へと放つ魔銃。
 狙いすまして、撃ち抜くような代物。
「銃声が鳴る度に、その数を数え祈りなさい」
 平和への祈りを捧げましょう。
 何度も、何度も。
 何度だって。
 狙いすまして、目はそらさずに。急所を。
 神の思し召し?
 コイントスよりも分の良い賭けだ。
 二度も三度も振るうならばそれはもはや必定の結果(クリティカル)となる。
 どうか……あなたの心へ届きますように。
 タアンと、小気味よい音を響かせて心臓が打ち砕かれる。

「これが見えねぇのか!」
「いやあ!」
「……」
 人質か。
 ライは、その様子を一瞥する。
(面倒くせぇな……纏めて撃てば良いだろ……あ、ダメですか?)
 内心はどうあれ。見た目にははっと息をのんだように、ライは祈るような仕草をする。
「はははは! 人質がいりゃあ、さすがに動けねぇようだな! 少しでも動いてみ」
 別の、銃声。
 才蔵のスナイパーズ・ワンが、盗賊の腕を撃ち抜いていた。研ぎ澄まされた一撃。
「ふぅ……」
 気配遮断による一撃。
 数瞬前、狩人の直感が、こそこそと動く賊をとらえていた。
 その隙に、ためらいもなくライの銃撃が響き渡る。
 祈っていた? まさか。弾を込めていただけ、だ。
(ひやっとしたな……)
 ええ、ほんとうに。
 やはり、ライはにこりとほほ笑む。
(間に合ったのですからね、喜ばしいことです)
「ほう……」
 女傭兵は面白そうに目を細めた。イレギュラーズたちは興味深い存在に思える。
「行け!」
 バクが割り込み、追いすがる盗賊たちを押しとどめる。
「なんだ、このガキ……」
 歯を食い縛り、腕にしがみつく。その力は驚くほどに強い。
「行くが良い!」
 破れかぶれに武器を左手でつかもうとした男。
 愛無の粘膜塊が、雪崩れるように男を打ち崩した。
 そうだ、確実に。それがあなたの教えだった。

(もぐもぐ)
 ドーナツを接種したセララの状態は万全。
 うさみみリボンがぴくりと動く。
 そして、直感はぴかりと冴えわたる。もう一人、床に倒れるようにして潜む盗賊が武器をとったのを見ていた。
「させないよっ!」
 振りぬかれた聖剣ラグナロク。
 セララストラッシュが振るわれれば、鋭い剣圧が一条の道を切り開く。
 くるりと一回転して、もう一撃。魔法騎士を前に半端な防備は意味をなさない。流れるように繰り出される。
 ちょうどよく、どうぞ、とでもいうように黒子が避けた。
「オッケー、任せて!」
 敵が通路上に一直線に並んだのは、彼の仕業か。
「なん……」
「いくよーっ! セララストラーッシュ!」

 押している。
 今や、立っている盗賊は少ない。
(この一幕を、英雄譚として唄おう。即興だけどね)
 悲鳴にも、喧騒にも負けず。イレギュラーズを讃える悠の歌が響き渡る。
 英雄叙事詩と、魔神黙示録。その声は……誰のものだったろうか。
 悠は、どんな顔をしているだろうか。
 盗賊たちは、悠を見ていただろうか。
(両手を広げて、顔を上げて。高らかに告げるように)
 こそこそ下を向く必要なんてない。
(救いを求める祈りなればこそ、来たるそれを受け入れられるように堂々とするべきさ!)
 声。韻律。
 交互にめぐる、陰と陽。世界の成り立ちを示す音の連なり。
 膠着する防衛線の真っただ中。大男3人を前にしてバリケードを守っていたルリのもとに、ふいに響き渡る歌声は、まさに悠のもの。
(魔力が、満ちてくる!)
 これならば。
 力を込める。細い腕はその見た目からは考えられないほどの力で、机ごと敵を押し返す。
 ここは安全。サンクチュアリが広がっていた。
「ここはまだ、大丈夫なのです!」
 ルリの癒しの力が、人々の傷をふさぐ。武器を振り上げる敵に、才蔵のハイロングピアサーが突き刺さった。

●掃討
 乱戦のさなか、愛無は敵を見据えていた。
(ナイフ。と見せかけて本命は鞭剣。……そうか)
 最小限の動きで一撃をかわした。
(……かわした!? だと!?)
 その動きはまるで人とは思えないもの。
 どこで踏み切ったか、でたらめにも思えるような動き。
 ぐらりと、像はぶれる。
(こいつの重心はどこだ?)
 背後からの矢。仲間からの援護は、不自然にかわされる。
 混乱する盗賊をよそに、愛無は虚空に向かって両腕を伸ばす。
 ぽたり、粘液が滴る。
「げっ!?」
 愛無の腕は効率よく相手を打ちのめし、そして、元の状態へと戻り、捕食する。
「やめ、やめ、来ないでくれ!」
 構っている暇はない。頃合いで切り上げて、襲い掛かってきた一体からの攻撃をかわした。
(手ごたえはない、な)
 後退する。懐かしい、乾いた空気がそれを伝えたから。
 一瞬ののち。
 ルウナの雷撃が落ち、戦場を焼き焦がした。
「おわあ……」
 刃物におびえて、つまづく物乞い。黒子の奪苦がケガを奪う。獲物を失ってこちらを向いた、大柄な賊。
 対処する必要はない。
 黒子は、一瞥して無視した。
「テメェ!」
 そして、それはセララに背を向ける形となった。
(うん、キミがいると戦いやすい!)
 セララがカードをかざす。雷が鳴る。
 ばしっと、矢がそのそばをかすめていった。
「……あっ!」
 カードが消えていった。
「いいじゃろう、おまけじゃ」
 ルウナの雷。いつもとは違う過激な”ばちばち”。
「! これなら! 戦えるよ!」
 ラグナロクは光り輝き、斬撃を放った。
 ギガセララブレイクが、どんと戦場に鳴り響いた。
 嵐のような雷撃をかいくぐって、愛無は俊敏に動いていた。
「決して諦めるな、恐怖に支配されるな。安心せよ、その為に儂らが居る」
 土煙で視界がふさがれる最中で、バクの声はこの上ない道しるべとなる。
「畜生、畜生、楽な、ただ奪うだけの仕事じゃねぇのか……」
 盗賊はコインをひっつかみ、自らをかばうように撤退する動きを見せていた。
 逃げる傭兵からはぎ取って、かなり立派な鎧を着こんでいる。
 だから?
「あなたに、静かな静かな平穏の時が訪れますように……」
 ライは祈る。神の御心のままに。装甲を撃ち抜くその一撃は、高らかに響き渡った。

 悠の声が。
 天使の歌声が響き渡る。動けぬ信者たちを癒し、零れ落ちる命をせき止めていく。
 敵の数を減らし、守るべき範囲は縮小していた。
 奮闘で、被害は驚くほどに少ない。
「大丈夫ですよ」
 ルリの守り抜いた一群は、動けない者たちの寄せ集め。彼らは、叫び、逃げ惑う代わりに祈っていた。逃げ惑われるよりはずいぶんと良い。
 防衛線を適切に維持し、縮めていったことで、破綻しなかったといえるだろう。

●一瞬だけすれ違う雷鳴
「っと、こんなものかな!」
「ありがとうございました……」
「祈るだけじゃダメなんだよ。何が正しいか、自分で考えてね」
 セララは隠し部屋を開けるまえに、あたりを見回す。
「ひっ……」
 そこにいたのは、情けない姿の指導者だった。

 生存者を探し、信者の手当てをして回る才蔵。
「貴女の目的が何であれ助かった、感謝する」
「こちらこそ、なかなか楽しかったぞ」
 ルウナは上機嫌のようだ。
「……団長、無事でよかった」
「愛無」
 どくんと、鳴る。
 団が壊滅して、あれから。
「「幻戯」の名誉を取り戻すため名もあげた。領地も得た。
 あの時のように。失った物は取り戻せないかもしれないが。やり直せる物はあるだろう。戻ってきてくれ。団長」
「やり直せる、か」
「団、長」
 胸騒ぎがする。
(ここで団長を止めなければ。そんな漠然とした不安がある。二度と手の届かない所に団長が行ってしまう。そんな不安が)

「のう、愛無」

 その雷鳴は、一瞬にして、あたりを切り裂いた。
 息のあった賊を。そして――指導者と幹部が貫かれていた。
「団長……」
「お前は見ていたか。この男は老人を足蹴にしておった。この賊は仲間を裏切って盾にした、こいつは……裏切った」
 こいつは、こいつはとルウナは述べていく。
 そのたびにまた雷が落ちる。
「伏せよ!」
 バクは立ちふさがる。もう立ち上がる気力もないが、どかない。
「無辜の民には興味はない。安心せい」
 ルウナは、愛無に剣を突き付ける。
 自然と、防備姿勢をとっていた。
「のう、愛無。どうして手加減した? どうして不殺など試みた?」
「団長」
 どうして、声が聞こえた気がした?
 否、違う。……違う。呼び声は旅人を招かない。
 ソンナハズはない。
 彼女が、”魔種”であるなどと。
「のう、愛無。儂は弱かった。弱かったからこそすべて失った。儂はもう何も失いたくはない、だから……強くなった。お前もきっと、強くなれる。そうは思わんか?」
「! ……敵に回るなら、ボクが相手になるよ!」
「半分、そうですね……どういたしましょうか」
「お待ちください」
 異を唱えたのは、黒子だ。
「幹部どもを追及するための、資料はここに。証拠には十分事欠かないでしょう。それ以上と言うのであれば」
「……庇い立てするか?」
「……はい」
 彼らには怒りを覚えながらも……。黒子は言った。
 裁きがある。やるべきことがある。
 才蔵の油断なく、スコープは定められている。
 ふ、と、気配が緩む。
「ラブアンドピース、そうじゃろ?」

●嵐の後
 後には、不釣り合いなほどの青空が残った。
 指導者を失った民衆は、どうしたらいいか呆然としている。けれども、彼らがいたから。まだ彼らは。
「差し出し祈るのみが平和の道に非ず。学び叡智を得るも、困難に手を取り合い己も他者も救うも、覚悟し武器を手に取るも一つの平和に繋がろう。
しかして愛無くして平和は成り立たず」
 バクの語らいに、そっと耳を傾ける。
「貴殿らはその大切さを元から知っているはずであろう。良き道を進むが良い」
「ルリ……様」
「ルリ様! どうか、我々をお導きください」
「どうしたら、どうしたら……」
 縋りつくような信者たちに、ルリは一瞬だけ寂しそうな顔をした。
「いいですよ、それで楽になるのであれば」
 女性はわっと泣き出す。今の彼らには必要だった。すがるものが……。
 でも、彼らはもう、何もしない人たちではない。
(指導者が裏で悪いことをしていたとしても、彼らが善き人でないという訳ではないのだから)
 悠の歌唱が響き渡る。
(ただ、そうだね。祈るだけで何もしないのは、助けられるものも助けられないから)
 勇気が出るような曲を。
(彼らの中に何かを残せればいいなって)
 何もしなかった彼らは歌いだす。小さな声で歌いだす。

 呼び声は。
 愛無は空を眺めていた。
 もう二度と、あの日々は戻らないのか……。

成否

成功

MVP

バク=エルナンデス(p3p009253)
未だ遅くない英雄譚

状態異常

バク=エルナンデス(p3p009253)[重傷]
未だ遅くない英雄譚

あとがき

弱さを悔いて、強さを望み。それでも誇りは彼女のまま。

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