シナリオ詳細
迷い桜の迷い路
オープニング
●一年に一度の迷宮
澄んだ空気。振りそそぐ薄紅色の花弁は雨のごとく。
風にのって香るは、まさしく『桜』の花香であった。
深く深く呼吸をすれば、きっとわかるだろう。
五月もはじめ、一般的なそれとは一足遅れた時期に満開を迎えるこの場所の名は――タオヤメ・ダンジョン。
一年に一度しか開かないという、不思議な迷宮。
「あんた、タオヤメに入りたいのかい? だったら来月まで待った方がいいなあ。
いつもそのくらいなのさ。
観測料をくれるなら、開いた朝に知らせてやれるぜ」
遡ること四月のはじめ。バミスヤシー山麓村。山道へ入る手前、石のベンチに腰掛けた男の話。
「あそこは年に一度しか開かないのさ。昔に子供が迷い込んで帰らなくなったって伝説もあるくらいでね。
知らないかい? 『タオヤメの娘』さ」
『タオヤメの娘』とは、家出をした娘が偶然桜の咲く庭へ迷い込み、綺麗な水と豊かな土と、どこまでも澄んだ空気と景色に心打たれ、何日かゆっくりと過ごすが……戻れば10年が過ぎていたという昔話である。
「絵本にもなってるから、里のやつは皆知ってる話さ。
うん? もっと詳しい情報だって? 10年行方不明はイヤだからな。誰も入って行きやしないさ。
あっ、ああ……確かひとつだけあったぞ。『からっぽ旅行記』って知ってるか」
●からっぽ旅行記断片『タオヤメの黄金枝』より
「これがそのページよ」
『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)がテーブルの上に広げたのは、ある本の一ページ。それを複写したものだ。
もし冒険好きなら知っているかもしれない。からっぽ旅行記とは古い冒険者があちこちのダンジョンを旅して集めた知識を本に記したものだ。
本の多くは失われ、バラバラになったページが世界のあちこちに散っていると言われている。
消失理由含め色々と憶測の飛び交っている稀覯本だ。
「たった一ページだとしても、原本はとてもじゃないけど手に入らないのよ」
そう語って示したのは、湖と桜の木。そして木の中に一本だけついた『黄金の枝』である。
「依頼主のオーダーは、この『黄金の枝』を手に入れることよ。
ダンジョン内で遭遇するエネミーとの戦闘も大事だけど、かなりの割合で探索術が求められるわ。
あなたは、そういうの得意だったかしら?」
資料によると、タオヤメ・ダンジョンは満開の桜があちこちに生えている森のような空間であるという。
入り口はバミスヤシー山に祀られているという岩戸である。
「開く許可は取ってあるわ。けれど時間は制限されているから、何があっても必ず戻ってくるように。いいわね?」
ダンジョン内には外からの侵入者を排除しようとするエネミーがおり、たびたび戦闘状態に入ることになるだろう。ペース配分を考えた構成が必要だ。
そして重要となる『黄金の枝』の探索だ。
「黄金の枝は周囲の木々から力を奪うと言われているわ。それが探す手がかりになると思う。
他に手があるとすれば……細かく分散してあちこちをしらみつぶしに見て回る、くらいかしらね。シンプルだけれど確実よ」
最後に、プルーは旅行記複製断片を渡して言った。
「素敵な所だからって、長居はしないように。10年もあなたの顔を見ないのは、流石に寂しいわ」
- 迷い桜の迷い路完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年05月20日 21時15分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
●タオヤメ・ダンジョン
「よう、待ってたぜ。あんたらかい。タオヤメに挑もうって奴らは」
石の上に腰掛けてパイプをふかす男が、顎で奥を指し示した。
大きな岩でふさがれていたであろう洞窟が開き、奇妙な光を漏らしている。
「そこを潜ればタオヤメだ。時間までには帰ってくるんだぞ。迎えには行かねえからな」
ゆっくりと光に歩み寄る『白き旅人』Lumilia=Sherwood(p3p000381)。
「桜の木に一つだけ、黄金の枝……見た目以外にも、生じた理由など、気になることは多いです。是非、手にとって見てみたいものですね」
鞘を腰に差して胸を張る『銀閃の騎士』リゲル=アークライト(p3p000442)。
「正に宝探しみたいだなっ! 発見できたら至近で眺めてみたいものだ」
「ふむ……」
いかにも神が身を隠しそうな岩戸である。『アマツカミ』高千穂 天満(p3p001909)はどこか微妙な顔で戸の前に立った。
「その『黄金の枝』を探してくればよいのだな?」
「らしいな」
両方の腰にさした剣の柄をぎゅっと握る『黄金の牙』牙軌 颯人(p3p004994)。
(こういった時、偶然にも自分が多少なりとも戦い以外において役立てる技術があった事に感謝出来るな。元々俺にとって戦いとは一人で行う物。他者との連携なども考えた事は無かったからな……)
「お仕事はがんばりマスよぉー」
ぽわぽわとした空気でグーにした手を突き上げる『不運な幸運』村昌 美弥妃(p3p005148)。
岩の洞窟を抜けると、そこは満開の桜が散る巨大な庭であった。
視界の端をちらちらとウサギだかカエルだかわからぬものがよぎる。
『ヨソモノダ』『ヨソモノダ』というささやきが耳に付いた。
「昔話に実在のモデルがあったとは驚きでござるな。年に一度しか出入りできぬとは、一体どういうカラクリなのか。この世はまだまだ不思議だらけでござる」
カエルそのものの『武者ガエル』河津 下呂左衛門(p3p001569)も刀の柄をトントンと叩いて呟いた。
「10年戻れなくなるなんて話もあるけれど、隠れ住んでみたい人もいるんじゃないかな。例えば駆け落ちにピッタリだよね」
肩をすくめてみせる『鳶指』シラス(p3p004421)。
冗談じゃ無い、とでも言うように『空狐』天津ヶ原 空海(p3p004906)が首を振った。
「神隠しの迷宮でなければ、花見にはいい場所なんだがな。異空間というのは、どうにも、いい思い出がない」
「しかし、桜ね……」
『特異運命座標』真白 純白(p3p001691)は木刀で肩をトントンとやって、散る桜を眺めた。
記憶にある桜とは随分と違うようにも思えた。桃色が濃く、まるで雪のようにばさばさと花弁が降るのだ。
「しっかし妖精がいてもおかしくなさそうな森だな。こうも桜が咲き乱れていると、日本が懐かしくなってしまうよ」
「思えばここ数年まともに桜を見た覚えがない。いい機会だ、少し楽しむとしよう」
『ShadowRecon』エイヴ・ベル・エレミア(p3p003451)は帽子のつばをつまんで、わずかに上げた。
「だが見とれて帰る時間を逃すのだけは避けよう。新たなおとぎ話になるつもりはない」
「だね」
振り返れば、通路のあった穴だけが、まるで宙に浮かべた幕のようにぽっかりと存在していた。それを除けば360度桜の森である。
「ここからは手分けして探しましょう」
「チーム分けは覚えているな」
「むろんでござる」
「では――」
五組に分かれた十人のイレギュラーズたちは、それぞれの方角に向かって歩き出した。
●水晶剣と銀の笛
香水をひっくりかえした鞄のようなにおいだ。
この異空間に入った時こそは、空(?)の明るさと花弁の鮮やかさに目を奪われ、穏やかな気温と花の香りに楽園めいた気持ちを抱いたものだが……。
「いつまでもいると、鼻がおかしくなりそうだな」
「デスねぇー。視界もチラチラしマス」
リゲルは腕を鼻の前に翳し、彼の後ろをついてあるく美弥妃はあたりを見回していた。
先程から植物疎通で意志を感じ取ろうとしているが、桜たちは皆『帰った方がいいよ』『よそもの』『帰れなくなるよ』といったような柔らかい拒絶の意志を放っていた。
それにしても激しい散り方だ。暫く見ているとリゲルや美弥妃にとってはもう『そういう色の幕』が全方位を覆っているようにしか見えなくなってきた。
そして、幕の間を駆け抜け、奴らが現われるのだ。
「右デスっ」
「おっと……!」
美弥妃の言葉通りに身を転じ、盾を翳すリゲル。
細い竹串みたいな物体が盾の表面をはね、その衝撃でリゲルは軽くよろめいた。
かすかに混じる毒の香りがわかっただろうか。長いロップイヤーをそのまま百合の花弁のようにしたウサギが、口から先程の竹串を発射していたのだ。
「よく見えない。援護を頼む!」
「なら、ウサギはワタシが……」
美弥妃は二発目のリゲルに任せると霊力弾を乱射した。着弾した花ウサギが派手に転倒。
舞い落ちる花弁が気流によってゆらぎはじめる。
これなら、とリゲルは走り出した。
「この場を荒らして済まないが、立ち塞がるなら容赦はしない。更なる先へと進ませて貰うぞ!」
突進と剣の突き。水晶のように美しい表面光沢をもった剣が花ウサギの身体を貫いた途端、花ウサギはびくんと身体をけいれんさせた。
そして大きくのけぞり、骨の存在を危ぶむほどに反った所で粉々に散った。
肉片としてではない、桜の花弁として散ったのだ。
「これは……」
ふと振り返ると、別の花ウサギたちがこちらを補足し、耳をばさばさとやっている。
リゲルは美弥妃を庇うように立つと、花ウサギを引きつけて戦い始めた。
●かみさまとかえるさま
「余は神であるぞ、神の言う事は正しいに決まっておるだろう」
右か左か、しばらく頭上で指をくるくると回した天満は、右を指さして自信げに言った。
『天神様の言う通り』という天満のギフト能力は二者択一の選択肢において、『選んだ選択肢が正しい確率が上がる』というものだ。
正しい選択ができる、や正しい方が分かる、ではなく主導権が天満の方にあるのがミソである。
既にある情報から推察して正解を探るのではなく、正解を向こうから来させる変わった探索方法なのだ。
「さすがは神様の一族でござるな……」
下呂左衛門は刀を納めて低く唸った。
天満の天衣無縫というか天真爛漫というか、雰囲気で生きてるカンジと能力がマッチして妙に神様っぽく見えたのだった。ロケーションも相まって、元からここに住んでいたような気すらしてくる。
というわけで、下呂左衛門は文字通りの神頼みで戦闘に徹することに決めていた。
「む、敵でござる……!」
しゃらんと抜いた刀。
花弁の幕を潜って飛びかかってくるカエル。
一般的なカエルさながらの四つ足ジャンプで一気に距離を詰めてきたかと思うと、腕を伸ばして殴りかかってきた。
腕というか、青い稲のようになった腕らしき部位である。
下呂左衛門は一度身を屈めて打撃を回避。
こちらも跳躍をかけて相手の上をとると、激しい縦回転でもって草ガエルを斬りつけた。
ピン、と空中に走る筋。
それが刀の筋をズラした。
着地し、振り返る下呂左衛門。
「手応えがない。これは一体――」
「稲だ。気をつけろ、そいつは腕の稲を防御にも使うぞ」
天満にそう言われ、改めて草ガエルを凝視した。
草ガエルは下呂左衛門と同じように二本足で立つと、青稲のような両腕を激しく振り回している。自分を中心とした球体のエリアに何も近づけないという防御の構えだ。
「鞭術でござるか。厄介な」
「いや、そうでもない」
天満は木で出来た腕輪をかららんと鳴らすと眼前に突きだした。
小さく祝詞を唱えると、神威が発動して草ガエルの背を衝撃が打った。
「ゲッ!?」
「背中ががら空きだ」
「さすがは神様でござる!」
ここぞ、というタイミングだ。
下呂左衛門は地面すれすれを滑るように走り、刀を高速で振り込んだ。
スパンと上下真っ二つに切断される草ガエル。
次の瞬間、草ガエルは桜の花弁になって散っていった。
「おや、これは……」
●無粋なお花見
「水っちゃー水だな……」
「思っていたのとは違うな」
頭をかりかりとやる純白。空海は流れる川にかがみ込み、ざわざわと音を立てる水面に指をつけた。
ひんやりと冷たい。
「水のありかを聞いて回ったんだ。こうもなる」
空海はここへ来るまでに植物疎通を使って桜たちから情報収集を試みていた。
『からっぽ旅行記』によれば黄金の枝は湖のそばにあるという。
植物は地中の水分に敏感なモノなので、水ー水ーとそれっぽい意志を探っていたが……。
「精霊もこの通りだ。どうしたものか」
腰を上げ、空に手を翳した。あたりに精霊らしいものの気配は感じられるが、どれも虫のような知性しかもっていなかった。
「不思議だ。こういう場所は大抵『やかましい』ものだが」
妖の住む霊山。魔の森。そういった場所には精霊やそれに類するものが沢山いて、中には高い知性をもった者も多く居る……ような気がしていたが。
ここはまるで逆だった。印象としては、枯木ばかりの死んだ森。開拓され尽くして平たくなった霊山。そういった、寂しさや空しさばかりを感じていた。
木刀を杖のようにして水面を弾く純白。
「いいじゃないか。川があるなら水のもとがあるだろ」
湖につながってるかもしれない。
なるほど、と二人は川をたどって歩き始めた。
視界の端を何かがよぎった。
川の上は流石に桜がないおかげですぐに分かった。
花ウサギと草ガエルがそれぞれ飛び出してきたのだ。
川幅は約10メートル。めちゃくちゃ頑張ればわたれないこともないが、その向こう側に花ウサギがいるのが厄介だった。
そしてこちら側には草ガエル。
「面倒な配置だな」
「なに、順番にやればいい」
草ガエルの腕は青い稲のようになっていた。それを振り回し、純白へと跳躍。砲弾のように飛び込んでくる。
それで引くような純白ではない。木刀をバットのように構えると、豪快なスイングで草ガエルを上空めがけて打ち出した。
「おらっ!」
「いいぞ、そのまま」
空海は手を翳し、霊力をふくれあがらせた。
応じるようにぶわりと膨らむ九本の尻尾。
周囲の草が渦巻くようにそよぎ、空海の手のひらに集まっていく。霊力弾となった力の塊を発射。
宙を泳ぐ草ガエルを打ち抜いた。
パッと花弁になって散る草ガエル。
「式神かなにかか? まあいいっ」
きゅっと方向転換。
耳を百合の花弁のようにした花ウサギが口から竹串のような矢を放ってきた。
間に滑り込み、木刀で打ち払う純白。
染めた金髪が風に靡いて大きく動いた。
花ウサギはむきになって矢を連射するが、純白はそれを次々と打ち払っていく。
これでもかと大きくのけぞった直後、空海の放った霊力弾が花ウサギを貫通。花弁に変えて散らした。
ふう、と息をつく空海。
そうして……ふと地面を見て『変だな』と呟いた。
首を傾げて振り返る純白。
「花弁がこれだけ散っているのに、地面に雑草しかない」
「……おい待て、川もだ」
思い立って川の水を手ですくう。
ただの水だ。
ただの水。
花弁の一枚たりとも、水面に浮いてはいなかった。
「どうなってんだ」
顔をしかめる純白の後ろで、空海が何か合点のいったような顔で頷いた。
「この光景……満開の桜と散る花弁……どうも、まやかしかもしれんぞ」
●影なるものたち
対物ライフルを当たり前のように持って歩くエイヴ。
「そこだ」
幕のように降り注ぐ花弁とむせかえるような花の香りに誤魔化されること無く、的確にピボットターン・アンド・ショット。
激しい銃声とほぼ同時に花ウサギが派手に打ち抜かれ、花弁になって散っていった。
一見難なく戦闘をこなしているように見えるエイヴだが、本人はどうも腑に落ちていない様子だった。
「アンタとペアで助かったよ、頼りしてるぜ」
「ああ――後ろだ」
「ん」
シラスはエイヴに言われた通りに振り向き、ねじれたような杖を翳した。印をきり、魔術を行使する。
空間をさくようにして飛び出した魔術の力が、花弁に紛れて接近しようとしていた草ガエルへと着弾。転倒し、花弁になって散る。
この調子ならまだ数十発は撃てるな、とシラスは目を細めた。
「便利だな、エネミーサーチ。敵にすぐ気づく」
「そうだな。だが……気づきすぎる」
こうまで花弁に覆われ、花がきかなくなるほどのにおいに包まれ、それでも花ウサギや草ガエルはこちらを的確に認識し、まっすぐ距離を詰めて攻撃を仕掛けてきた。
他人に見つからないことを特技とするエイヴにとって、ここまであからさまな状態には違和感があったようだ。
「それは、相手の耳がいいとか……か?」
「ならせめて回り込むなり数を揃えて迎え撃つなりするだろう。愚直が、なぜか、こう……」
うまく言葉にならず、エイヴは首を振った。
子供のやるチェス。
思考停止した蟻。
複数の知性を相手にしているというよりは……。
「旅行記を信じるなら黄金の枝はきっと湖の側の桜に生えてるんだろうね。この広い場所で枝一本探すのは気が遠くなるけれど、湖って考えたら少しは元気でてくるよ」
気づけばシラスが別の話題に移っていた。
湖を探す。
簡単なようでいて、妙に難しい話にも思えた。
何かとっかかりのようなものでもあればいいのだが……。
「ああ、それにしても……やっぱり綺麗な場所だなあ。モンスターさえいなければ」
「止まれ」
手を翳すエイヴ。
眼前の桜が僅かに動いたように見えたのだ。
先手必勝。エイヴは銃を構え、桜の木に発砲した。
木の枝がぐわりと動き、銃撃に対して防御する。
「歩き桜か!」
シラスは印をきり、魔術の射撃を開始した。
歩き桜は枝で防御しながらどすどづと距離を詰め、薙ぎ払わんと枝を振り込んできた。
対してシラスは距離をとり、エイヴがその場に残るようにして迎撃。
振り込まれた枝の打撃をライフルで防御すると、ごろごろと転がってすぐに体勢を整えた。
追撃――はさせない。
至近距離でライフルを突きつけ、引き金を引く。吹き飛んだ枝。えぐれる幹。かたむいたその好きに。シラスが魔術の弾をしこたま撃ち込んでいった。
どん、と爆発するような音をたてて歩き桜が転倒した。
そして、そのまま動かなくなる。
近づいてみると……。
「なんだ? 枯れ木だ……」
シラスの呟きに、エイヴは再び思案顔になった。
●黄金の枝
Lumiliaの目には、それが見えていた。
持ち前の色彩感覚で、舞い散る花弁がすべて『一定のパターンをとった立体映像』であることが、分かっていたのだ。
あまりに派手で、ついそういうものだと思ってしまいがちだが……。
「ガドウさん」
「ああ……」
フルートを手に、周囲に意識を走らせるLumilia。
一方で颯人は鞘から剣を抜き、周囲を警戒していた。
「やはり、変です。木々を観察していましたけれど……どれも色味が全く同じなんです」
「こっちも変だ。いや、意識しなければ気づかなかったくらいのものだが……」
超聴力で周囲の音を探っていた颯人は、ある巨大な違和感に気がついていた。
雪の日を想像してみてほしい。
雨と同じような物量が降り注いでいるのにザーッという音がしないのは、雪が音を吸収しているからだという。一方で桜の花にも似たような効果があって、大量に降り注いでも落下の音が殆ど聞こえない。風の音にまぎれるほどだ。
しかし颯人がよく聞き分けようとしてみても、花弁の落ちる音がしなかったのだ。
「幻術か」
「恐らくは……」
遠くから近づく無数の足音。
草ガエルが跳躍によって急速に距離を詰めてくるLumiliaは飛び退きながら翼を広げ、1メートル高度でホバリング。
短く歌を唱えると、大気を激しく摩擦させて草ガエルを炎に包んだ。
もがいて倒れる草ガエル。花弁になって散る。
それを踏みつけるようにして駆け寄ってくる複数の草ガエルに対して、颯人は突撃していった。
ふるわれた鞭――の射程に入るより早く、剣に黄金の炎をともす。炎は燃え上がり、輝きを増して草ガエルを切り裂いた。
正面から竹串のような矢が飛んでくる……が、颯人は鞘を翳して防御。
黄金の炎を更に燃え上がらせると、光線に変えて発射した。
花ウサギを貫き、散らせる。
その後、ふと颯人は『さらさら』という何かが落ちる音を聞いた。
水面に花弁の落ちる音だ。
これまでは少しもなかった、花弁の音である。
「向こうだ!」
走る颯人。
ひらけた視界に、黄金の桜があった。
枝にふれると、まるでそうされるのを待っていたかのようにほろりと一本だけが折れて落ちる。
そして――。
周囲に広がっていた満開の桜が、一斉に枯れ木へと変わった。
後日談ではない。
颯人たちはなんとか『黄金の枝』を獲得すると、岩戸を通じて外へと出た。
終了の合図を出す必要などない。なぜならあれだけ豪勢に咲いていた桜が全て枯れ木に変わったからだ。
「あのダンジョンは……『黄金の枝』そのものが作り出したものだったのですね」
枝を抱くようにして、Lumiliaはそんな風に言った。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――mission complete!
――good end!
GMコメント
【オーダー】
・成功条件A:『黄金の枝』を持ち帰ること
・成功条件B:決められた時間までに帰還すること
タオヤメ・ダンジョンへ入り、戦闘をこなしながら探索をします。割と探索メインの内容になります。
枝を発見し次第帰還することになりますが、その辺りの流れも解説していきましょう。
【『黄金の枝』探索と制限時間】
ダンジョン内は広大な森になっています。
岩戸を通った密閉空間の筈なのに不思議と空(?)は晴れ渡り空気は済んでいます。
あちこちに大きな桜の木がたっておりすべて満開。花をはらはらと散らしています。
なかなか壮観なのですが、そのぶん視界はまるで通らず嗅覚もききづらいので、探索には耳の良さやその他能力を頼ることになるでしょう。
また、木々の上には謎の結界が張られており飛行その他の能力で上から観測することができません。
有効な探索能力、それに加えてプレイングでの工夫諸々を要します。
厳密な話をするとで探索チームごと一括でダイスロール判定を行なっています。
有効なスキルがあれば底値が上がり、プレイングでしっかり工夫していると更に上がります。なので、スキルの有無に関わらず工夫はすればするほど良いでしょう。
メタ的救済措置として制限時間を厳密に設定していません。
漠然と『立ち止まってゆっくり休憩ができない』『合流や一時帰還をしてる余裕は無い』くらいに考えてください。あまり探索に時間がかかりすぎるようだと失敗判定のリスクが生じます。
基本的な流れは『できるだけ沢山』に分散してダンジョンを探索します。お勧めは2人×5チーム。どうしても戦闘が不安ならチーム数を減らしてください。
枝を発見したら帰還、発見しなくても制限時間には帰還。
……という具合になります。
なので合流手段や『枝を獲得した際の通達』はあんまり必要ありません。
●まとめ
・視界、嗅覚、高所観測×。音やその他能力で枝の探索・索敵をしよう。
・探索の工夫はすればするほどよい。
・とにかく急ごう。
・できるだけ分散して探索しよう
【戦闘】
ダンジョン内にはエネミーが存在しており、たびたび戦闘が発生します。
全体的に敵は弱めですが戦闘の頻度が多くなるのでAPのペース配分に注意してください。通常攻撃含め30発くらいは撃てていたい所です。
以下、エネミーデータです。
●花ウサギ
毒の香りをさせるウサギ。二足歩行をする。
・短所:HP、命中
・戦闘力:とても低い
・使用スキル
毒矢(神遠単)
●草ガエル
鞭のような草を操るカエル。二足歩行をする。
・短所:HP、防御技術、ファンブル値
・戦闘力:とても低い
・使用スキル
草鞭(物至単)
●歩き桜(ウォークブロッサム)
桜に擬態して襲ってくるモンスター。
・戦闘力:普通
・使用スキル
枝で殴る(物近列)
迷いの香り(神遠列【混乱】)
【アドリブ度】
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。
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