PandoraPartyProject

シナリオ詳細

スノーホワイトと【あか】い衝動

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●深雪に隠された秘密
「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」
『それは白雪姫でございます』

 もう何度も繰り返したやり取り。
 魔法の鏡はある日を境に、白雪姫だけを褒めちぎるようになってしまった。

 揺るぎない事実。彼女はとても美しい。
 雪の肌は白く、黒檀の髪は黒く。林檎のように赤い唇は数多の人を魅了し、命を喰らい尽くした。

「魔法の鏡、貴方も恐れているのね……白雪姫を」
『女王様、どうぞお静かに。あの御方はどんな遠くの囁きも聞き逃さず、美しさを穢す者を許しはしません』
「分かっているわ。それでも私は戦わなければいけない。白雪姫……異形の神と化してしまったあの娘と」

『お母様! お城に雪が積もったわ! なんて綺麗なんでしょう!』

 とても愛らしい娘だった。血の繋がりが無くたって、白雪姫は私のたった一人の愛しい我が子。
 なのに気づいてやれなかったのだ。彼女に忍び寄る凶悪な魔の手を。
 魔術師グリムと名乗る男は王に取り入り、幼い白雪姫を暗黒の儀式によって祀り上げた。気付いた時はすでに遅く、娘は邪悪な神と化し――この城を支配してしまったのだ!
 私を庇うようにして、王も従者の狩人も命の花を散らしていった。

 多くの犠牲の元、残された私にするべき事はひとつ。必ずや白雪姫を悪しき運命から救わなければ!

「……そう。これが"白雪姫"という物語の真実なんだね」

 ふと、部屋の入り口から聞き覚えのない声が響いた。振り向くとそこには見知らぬ女性が一人、苦い表情で立っている。

「貴方は誰?」
「僕は境界案内人。君達が無事に白雪姫を眠らせるよう、派遣された"毒林檎"さ」

●叛逆の黄色
「初めての顔も多いから、一応自己紹介をしておこうか。僕の名は神郷 黄沙羅(しんごう きさら)。
 この境界図書館に数多いる境界案内人のうちの一人だけれど、あえて特徴を挙げるなら……そうだな。君達のパンツに興味がある」

 様々な憶測でざわつき始めた特異運命座標をよそに、黄沙羅と名乗った女はローテンションのまま黒革の表紙の本を捲った。
 表題は白雪姫。美しく育った白雪姫に継母である女王が嫉妬し、毒林檎で葬り去ろうとする――というのが有名な筋書だが。

「この物語の紡ぎ手である魔術師グリムは、真実を歪めて湾曲した書き方をする事で、世界の異変を隠しているんだ。
 実際のところは……黒魔術の生贄にされて異形の神となってしまった白雪姫を、継母である女王が倒そうとする英雄譚。
 君達には女王の力添えとして、彼女に降りかかる火の粉を掃って欲しい。正気でいられる自身があれば、だけれど」

 黄沙羅いわく、戦いの舞台となるスノーホワイト城はすでに邪神・白雪姫の力が満ち、訪れた者へ強い吸血衝動を振り撒くのだという。
 衝動にあてられた者は吸血鬼のように牙が鋭く尖り、目が血のような赤い色に染め上がって――ついには、他人の首筋や唇へ齧りつきたくなる。
 それはまるで、みずみずしい林檎を目の前にしたかのように抗い難い魅惑の衝動。

「まぁ、いざとなったら僕を衝動の捌け口にしても構わないよ。これも仕事のうちだからね」

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 林檎のおいしい季節ですね。

◆目標
 お城の最深部まで女王を護送する

◆重要
 この依頼ではキャラクターに呪いがかかり、吸血衝動を与えます。
 衝動が強くなると瞳が赤く妖しく輝き、犬歯が通常よりも鋭くなります。
 また、急激に喉が渇き、他人の血を欲してしまうようです。

◆場所
 スノーホワイト城と呼ばれる西洋風のお城です。
 かつては女王と王様、白雪姫が仲良く暮らす幸せなお城でしたが、白雪姫が邪神と化してからはのっとられ、魔城と化しています。
 スタートは女王の秘密の地下室から。白雪姫はお城の最深部である王の間に眠っているそうです。

◆敵情報
白騎士
 元々はスノーホワイト城の勇敢な騎士でしたが、白雪姫の力により衝動のままに血を啜る狂人と化してしまいました。
 白い鎧が血で赤く染まる事に愉悦を覚え、侵入者を剣で斬りつけようとします。

◆その他登場人物
女王アナベル
 特異運命座標の護衛対象。黒い鎧で武装してはいるものの、戦闘力はほとんどありません。
 魔法の鏡をつくったり、若返りの薬をつくったりと、得意な魔術はクラフト系。白雪姫を邪神の宿命から救うため、魔剣『ポイズンアップル』を作り出しました。
 不思議な力で守られており、吸血衝動は効かないようです。

白雪姫
 魔導師グリムに目をつけられ、邪神に変えられてしまった哀れなお姫様。力を制御しきれず、心はすでに狂気へと塗り潰されてしまっています。

神郷 黄沙羅(しんごう きさら)
 今回の依頼をサポートする境界案内人。20代前半の女性です。腰までの長い銀の髪と、妖しく光る金色の瞳がトレードマーク。
 スタイルはいい方ですが、なぜか男装をしています。白い中折れ帽と白いジャケット。
 ポーカーフェイスで特異運命座標のサポートをしていますが、吸血衝動にあてられはじめているようで……?

魔道師グリム
 この世界の異変の元凶となった魔導師。消息不明で今もどこかに身を潜めているようです。

◆捕捉
 一章完結、オープニング一覧から消えるまでプレイングを受け付ける予定です。

 衝動に耐えながら凛々しく戦うもよし、狂気にあてられつつ女王を守り抜くもよし。
 同行者の黄沙羅に襲われてしまう事もあるかもしれません。
 純粋な戦闘ロールだけでなく、いかに敵をかわして女王を護送できるか非戦スキルを駆使するのも大歓迎です。

 他のPC様とご同行の際は、プレイングの一行目に【】でグループタグを記載して頂けるとスムーズに対応できます。
 どうぞご活用いただければ幸いです。

 説明は以上となります。それでは、よい旅を!

  • スノーホワイトと【あか】い衝動完了
  • NM名芳董
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年12月10日 21時37分
  • 章数1章
  • 総採用数14人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)
ワルツと共に

 金属が擦れ、ガチンと噛み合う音が響く。
「さぁ、準備は整った。此方へどうぞ女王陛下」
 手を差し伸べ、優雅に微笑むアントワーヌ。しかしその口には、冷たい鉄の轡が嵌められていた。
「苦しくは無いのですか?」
『白雪姫』は大好きな御伽噺の一つだが、目の前の女王は心底こちらを心配している様で、物語の中の嫉妬深い女王と同一だとは信じがたい。
(今回は王子様の出番も無いようだし、色々と違っているようだね。愛しい娘を救う為に剣を取った母親を護るのもまた一興だけれど)
「ああ、心配しないでくれ。いつだって【冷静沈着】なんだよ、私は。念には念を、って言うだろ?」
「それでも御礼は言わせて頂戴。……ありがとう。貴方の深慮は白雪姫の心を救うでしょう」
 笑う事に慣れていないのか、ぎこちなく微笑む女王。そんな彼女の肩へ、するりと這う長細い影。
「――ッ!?」
「彼等はとても頼もしい私の騎士(ナイト)でね。きっと女王陛下の力になってくれる筈だよ。例えば――こんな風に!」
 地下室の扉を蹴破り、突如なだれ込む白騎士達。彼らの刃へ式符の毒蛇が絡み、舞い散る黄色い花弁が、騎士の意識を女王からアントワーヌへと逸らしきる。
「私が欲しいのかい。プリンセス」
 誘われるがまま触れようとすれば最後。白騎士達は『黄金の円舞曲』の餌食となり、あっという間に畳の床へと棘の雨で縫い留められた。
「悪いけれど、その薔薇の棘で少し大人しくしていてくれよ?」

成否

成功


第1章 第2節

アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞

 呪いに汚染された騎士の群れは無意識のうちに更なる闇を求めて彷徨い歩き、やがてはアンナの元へ至る。彼女が舞う黒兎呪舞は蠱惑的な色の不吉を纏い、見る者の心を奪って離さない。
 誘われるがまま、振り上げられる騎士の剣。危ない、と女王が固く目を瞑った瞬間――アンナの手元で黒雷が爆ぜた。
 アーリーデイズで増幅された力は一瞬にして敵を討ち、魂までも灰に還す。
「あら、血眼になって怖い。淑女に対してそれは騎士失格ね」
 ダンスの相手としては論外。こうなる前は違ったのかもしれないけれど。
「アンナ、掌から血が……!」
「大した事は御座いません。不躾者は払いましたわ、女王様」
 雷華円舞はこの身すらも蝕む大技だ。指摘された掌へ視線を落とせば、確かに傷が出来ている。滲む血の香は芳しくーーこくん、と一口含んでみる。
「……美味しくない。何の慰めにもならないわね、これは」
 喉の渇きが止まらない。しかし衝動に身を委ねては、この騎士達と同じではないか。
(何か気を紛らわせないと……)
「女王様、不躾を承知でお願いを。あなたが愛する白雪姫は、どのような御方なのですか?」
「そうね……。美しさを鼻にかけない娘だったわ。雪の様に肌は白くーー」
「名に恥じない白い肌の持ち主なのですね。その血もさぞ美味し……」
「アンナ?」
 気付けば女王がキョトンとした顔でこちらを見つめている。
「……参ったわね。予想よりも厄介だわ、この呪い」

成否

成功


第1章 第3節

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂

『――降れ、レイチェル。御身の力は我が祖と同じ』
「安っぽい勧誘はそれで終わりか?」

 神は復讐を咎める、神の怒りに任せよと。
 だが神は手を差し伸べず。
 故にこの手を鮮血に染めよう。
 復讐するは”我”にあり──。

 術式の制限を解くと同時、左腕に牙を立て、零れた血を乱暴に拭う。
 鮮血に濡れた指先で宙へ描くは魔方陣。それは大気すら焦がす熱を帯び、悪辣なる騎士の群れを一瞬にして、憤怒ノ焔で焼き尽くした。

「すごい……」
 圧倒的な力もさる事ながら、更に驚くべきはレイチェルのパフォーマンスが落ちていないという事だ。
「邪神の力に抗おうとするほど、普通であれば疲弊するものだが」
「……吸血衝動? 俺は元から吸血鬼だしなァ、問題無い」
 とはいえ、怨嗟の焔は己が生命力を代償とする諸刃の剣だ。息切れを避けようとレイチェルは思考して、ドリーム・シアターを使うに至った。
 作られた幻影は見事に囮野役目を果たし、敵意を他所へと逸らしきる。
「さっきまで追われ続けていたのが嘘のようだ」
 素晴らしいと素直に褒めちぎる女王に、レイチェルはこの世界の表題を思い出す。
「白雪姫だったか。俺が知る噺とはまた違うが、女王サマが主役の噺も悪くは無い。
 女王サマのお供──ナイト役は務めようじゃないか」
「ありがとうレイチェル。私はーー」
 女王が何かを語っている。しかし意識は彼女の背後、魔眼が見せた悍ましい化け物へと逸れてしまった。

成否

成功


第1章 第4節

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚

 嗚呼、なんという高揚感! いくら喉が渇こうが、獲物をねじ伏せ欲望のままに血を啜ればよい事だ。何故ならこの身には、その暴虐を許される程の力がある。俺達は姫様に選ばれた特別な人間――。

 それが驕りだと気づくのが、あまりにも遅すぎた。
『何なんだよこいつ! 斬っても斬っても怯む気配すら――』
『どうして倒れねぇんだ! クソッ。心臓を貫かれたらよぉ、イキモノってのは死ぬべきだろうが!?』

 もう何度、剣を振るっただろうか。狙うは女王。ほんの少し魔法が使えるだけの貧弱な女。しかし彼女の前へ立ち塞がる"アレ"は何だ?

「此度の私は【盾】の真似事でも成すべきか。最も、外見は獣よりも化け物だがな――血を欲するよりも肉を欲するべきだ。私が肉の側と言うべきだろうよ」

 無数の剣が己の身を貫いていようと、オラボナは平然としたままだ。
 迫る白騎士達の攻撃を新たに受け、お返しにヌガーどもの飽撃を叩き込む。
『あ……あぁ、そんな……』
 グチャ、と絞り滅ぼされた仲間を目の前にして、前衛で剣を振るっていた騎士がとうとう膝をついた。

「貴様が此度の人間か――目玉も牙も生えていない、立派な三日月を覗き込み給え」

 圧倒的な力の差。たかだか怪物の力に染まりかけている程度の人間と、衝動に染まらず己が力を振るい続ける根っからの怪物――どちらが優位かなんて、少しでも考えれば分かる事だ。
 けれど、嗚呼。迫る三日月は思考すらも飲み込んで――。

成否

成功


第1章 第5節

メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女

 メリーが歩いた後は、噎せ返りそうな程に強い血の香が満ちる。
「これは……」
 味方ながらにキツイなと、女王は口元を手で覆う。対して同行している黄沙羅は表情ひとつ変えず、目の前で乱れ飛ぶ魔弾を眺めていた。
「手際がいいね」
「当然よ! 敵の数が多くて面倒なんだから、サクサク殺って進まないと」
 吸血衝動が生じれば威嚇術でとどめを刺し、敵の喉笛へとかぶり付く。チューチューと血を啜り、満足すればすぐに捨てての繰り返し。わざわざ生かして啜るのは、なんとなく生きたまま吸った方が美味しそうな気がしたからだ。
「なんとなく? いえ、それ以上に人としての良心は――」
「何それ。どうして我慢しなきゃいけないの? どうせ敵は殺すんだからいくら血を吸ったって構わないでしょ?」
 それはそうだがともにょもにょ口をすぼめる女王とは対照的に、黄沙羅はポンと手を叩く。
「なるほど、非情に効率的だね。敵で解消してしまえば、護衛対象の女王を襲う気が無くなると」
「そういう事よ。それになにより、わたしは我慢するのが嫌いなの!」
 屈しない者を殺し尽くして我を通す。それがメリーのやり方だ。新たに撃ち殺した白騎士をメリーは掴むと、今度は黄沙羅の方へとよこす。
「黄沙羅にも分けてあげるから、わたしに吸い付かないでね」
「ありがとう。メリーから初めて貰ったプレゼント……大切にする」
「用が済んだらさっさと捨てなさい!? あなたって結構ズレてるわね」

成否

成功


第1章 第6節

イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って

「アナベルさんが選んだ救済の形を考えると、白雪嬢の心と命を助けるのは難しいのかな……」
 命を奪ってしまえば、白雪姫は穏やかな眠りにつくだろう。しかし残された女王はどうなる?
 娘も信頼できる相手も、部下さえも失って。たった独り、冬枯れのような寂しさと抱いて生きる――それは、あまりにも残酷な結末ではなかろうか。

「……どうしたの、オフィーリア?」
 抱きかかえていたうさぎのぬいぐるみへ、イーハトーヴは驚き気味に問いかける。
「え? 一つ一つの世界に入れ込みすぎるのを、いい加減やめた方がいい?
 だって……どの世界も『本物』なんだよ?」

 大なり小なり命があり、今そこに息づいている。この世界の住人だって血の通った人間でーー。
「……嫌だな。何だか、喉が渇いてきちゃった」
 花束を手向けるように、襲い来る騎士へスケフィントンの娘を。黒いキューブが敵を包み、表面にじわりと血が滲む。
「そうだ。もっと赤が欲しいな。赤、赤赤赤赤……」
『衝動に流されはダメ! お願い、正気を取り戻して』
「あはは! やだな、オフィーリアったら!
 気が狂いそうなくらい、すっかり俺は正気なのに!」
 嗚呼、でもーー辺りに満ちた血の匂いで、頭がくらくらしっぱなしだ。衝撃の青で廊下にこもった香りを吹き飛ばし、思考を纏めて……気付いた真実に、イーハトーヴはオフィーリアを強く抱きしめた。
「ありがとう。オフィーリアが止めてくれなかったら、俺はーー」

成否

成功


第1章 第7節

チェルシー・ミストルフィン(p3p007243)
トリックコントローラー

(……何なんだろう、この気持ち)
 はぁ、と熱の籠った息を吐き出し、黄沙羅は苦しげに胸を押さえた。
 吸血衝動にあてられ狂気に染まる特異運命座標はいくらでも見てきた。しかし目の前で繰り広げられられているのは――何だ?

「この! 近寄らないでよ変態騎士!!」
 罵倒と共にチェルシーは翼を大きく広げ、魔剣ミストルフィンを射出する。襲い来る騎士は刻まれ血を零しながらも尚も彼女を求め、伸ばした手を紅糸の陣で強かに打たれる。
「私を襲おうだなんて100年高いのよ! この! この!」
 チェルシーの戦い方は弑逆的だが愛ある。求められる快感にゾクゾクと身体を震わせ、体躯のいい白騎士と絡み合う姿は艶やかな魅力に溢れていた。それは愛を知らない境界案内人の心を大きく揺さぶり、誘惑して離さない。

「貴方は確か、境界案内人の黄沙羅だったわね。何でそんなにこちらを見てハァハァしてるのかしら?」
「……分からない。だって喉の渇きよりも、ここが苦しくて」
 胸を押さえる黄沙羅の髪を誘うようにさらりと撫で、チェルシーは妖艶に笑う。
「それなら私が助けてあげる。喉が渇くなら血をあげるし、愛が足りないなら……」
 皆まで言う前に世界が大きく反転した。それが床に押し倒されたのだと気づく前に鋭い痛みが首筋に走り、欲望のままに貪られながら二人、快楽へと沈んでいく。
「ふふっ。ガッつかなくてもいいのに……でも、求められるって……カ・イ・カ・ン♪」

成否

成功


第1章 第8節

溝隠 瑠璃(p3p009137)
ラド・バウD級闘士
溝隠 琥珀(p3p009230)

「アハハ! 是なるは悪の白雪姫を討つ女王の英雄譚とな? 随分とアナベル、汝に都合の良い世界じゃな?」
 瑠璃の指摘は正しい。故に虚を突く一言は女王の心を揺るがせ、同時に冷静さを与えた。
「確かに。私の願いは大罪に他ならない。なのに都合よく味方が現れ、優位な側に立った」
 誰かにお膳立てされたかのように整いすぎている。更に深く考え込もうとする前に、彼女の気を逸らしたのは境界案内人だった。
「あまり悩まない方がいい。鈍るよ、刃が」
(……此奴)
 夢魔たる瑠璃は人の苦悩を愉悦する。
 本当に汝は白雪姫の異変に気付かなかったのか?
 心の奥底では血の繋がらない娘を疎ましく思ってたのでは?
 そういう悪意に濡れた言葉を投げかけられる前に、ばっさりと切り捨てるなんて。
「歪めたのは貴様か、黄さーーにょわっ!?」
「そこまでだよ、姉さん」
 容赦ないグー手が振り下ろされ、瑠璃の身体が大きくぐらついた。鉄拳の主は彼女の弟。名を琥珀というのだが、瑠璃に負けず劣らず彼女もまた癖が強い。
「全く……この状態の姉さんはすぐに周りに牙を剥いて…目が離せないよね」
 満更ではなさそうな声。琥珀にかかれば天下の夢魔の女王様も、少しやんちゃな飼い猫の様である。扱われ方に不満を覚えつつも、強く言えずに瑠璃は口を尖らせる。
「むぅ……琥珀、これくらいの戯れよいではないか。我とてちゃんと仕事はしておる…ゾ」
「確かに、姉さんのハイセンスのおかげで敵に遭遇せずにここまで来たけど――全てを躱しきるには、敵の数が多すぎるんだから」
 ほら、言っている間に奴らのおでましだ。敵に向かい、すぐさま琥珀が弓を引き絞る。広がる羽は世に降臨した天使のようで、神聖さに惹き込まれた敵を死の凶弾で強かに抉った。
「撃ち漏らしはお願い、姉さん」
「言われずとも――そら」
 此方へ襲い掛かった白騎士が、どちゃりとその場へ倒れ込んだ。身体じゅうから血が滲み、ビクビクと痙攣している――複合毒「シグルイ」の餌食になったが最後、彼の者は死の口付けに気づく事なく葬り去られたのだ。

「……ッ」
 床に広がる血溜まりにゾワリと背筋が泡立つ。琥珀は誘惑を耐えようと、慌てて目を逸らした。
「それにしても……この吸血衝動って言うのも厄介な物だよね。
 俺にはそんな嗜好なんてないはずなのに……今は血が飲みたい」
「ならば好きなだけ奪えば良いではないか。死体はそこらに転がっておろう?」
「分かってる癖に。……俺は、姉さんの血じゃなきゃ絶帯に嫌だ」
 琥珀の目は真剣だ。これには思わず瑠璃も一瞬だけ目を見開き、フッと口元を緩ませた。
「何だかんだ言って我の事が大好きだよな、琥珀。愛い奴よ」
 おいで、と手招き絡みあう身体。互いの首筋に噛みつけば、滴る血は格別に甘く。
「分かるか? 琥珀。我が血を求める事が許されるのは『特別』のみよ」
「嗚呼……俺の中に姉さんのが…姉さんの中に俺のが混じりあって…嬉しいよ」

成否

成功


第1章 第9節

茨木 蝶華(p3p009349)
酒呑衝動

「嗚呼……なんて事でござるか」
 普段から蝶華を縛る吸血衝動。その欲求を好き放題に解放できる依頼があるなんて!
 白雪姫から降った殺意は彼女の本能を加速させ、獲物を屠れと駆り立てる。
「あれもこれも、なんと美味しそうなのでござろう! もう我慢できない……食らう喰らうクラウ!!」
『ひィっ! な、何なんだよこの女!』
『早く逃げ、ぁ、がァッ!?』
 ザシュ、と白騎士の喉が引き裂かれ、鮮血がパッと廊下を彩る。屍と化したそれを踏み越え、蝶華のカプリ―ダンスは続く。華麗な身のこなしで繰り出される連撃は舞のように鮮やかで、飢えた獣と言い切るにはあまりにも美しく、狂気にかられた天女の様な。

「嗚呼! 嗚呼! 甘美!
 極上なる芳醇な美味が拙者の飢えを! 渇きを! 満たしてくれる!」

 痛みに悲鳴をあげる獲物の頭を押さえつけ、冷たい床へ叩きつける。ひしゃげた鎧を引っぺがし、グチャリ。壊した躯から溢れる血を乱暴に掬い上げ。
 返り血に濡れた指先を妖しく舐め取れば、前髪をかき上げフワリと笑った。

「感謝するでござる! 拙者は久々に満たされたでござるよ!」
「それは、よかった……」
 ふと声のした方へ首を傾げれば、離れた所に退避して、様子を伺う護衛対象と境界案内人。危なくハイになった結果、彼女達まで喰らいかけていたようである。
「アハハ……面目ござらん。つい鬼の本性が出てしまったでござる故。さあ、気を取り直してイクでござるよ!」

成否

成功


第1章 第10節

ボーン・リッチモンド(p3p007860)
嗤う陽気な骨
ヒナゲシ・リッチモンド(p3p008245)
嗤う陽気な殺戮デュラハン
シオン・リッチモンド(p3p008301)
嘲笑うリッチ

 死が命に平等であるように、死霊王も思慮深い。ボーンは呼び覚ました死者を敵の足止めに使い、尚も行手を阻む者のみ手をかけた。
 変幻邪剣。魔性の切っ先で惑わされた白騎士は、死を自覚する事なくストンと首を落とされてーーその死を儚む間もなく、暴走するヒナゲシに哀れ引き潰されたのだった。
「嗚呼……この血の匂い…モット! モット…ヨコセェエ!」
「貴方のお嫁さん、なんというか、その……個性的ね。凄く」
 戸惑いを見せつつもポジティブな方向へ感想を述べた女王に、ボーンは思わずぶはっと噴き出し、口元を抑えながらブルブル震えた。
「カッカッカ! いい女だなぁアナベルちゃん。ヒナゲシの事は心配するな。俺達が吸血衝動に襲われても、娘のシオンが――ほら」
「この馬鹿親ッ! 何これくらいで正気失ってんのよーー!」
 ばっしーーん!!
「Yeahぁあああぁ痛ーーっ!?」
 シオンが放った衝術は、馬上のヒナゲシを見事に仕留めた。これには荒ぶっていたセキトも正気に戻り、泡を食った様子で落馬した主人の元へ駆けつける。
 側から見れば容赦のない一撃だが、精神耐性で邪神の誘惑に打ち勝てるシオンなりの、精一杯の引き留め方がこれなのだ。
「うう……ありがとう、シオン! 危うく闇堕ちする所だったぜェ!大好きだZE!」
「はいはい、分かったから人前ではくっつかない!」
 すぐに復活したヒナゲシを気恥ずかしそうにあしらうシオン。仲が良さそうな2人を見つめる女王の瞳は、幾ばくかの羨望を滲ませていた。
「白雪姫ちゃんと、ああやって戯れてみたかったかい?」
「……えぇ。あの子がシオンと同い年になるまで育ったらと、有りもしない未来を描くくらいには」
 国を背負う者は何よりも責務を優先させなければならない。その枷の重さをボーンは誰よりも知っている。
「アナベルちゃん、あんたの心意気は買うぜ。けどな、無理だけはするなよ?
 どうしても辛くなったら、俺達に任せてもいい……いや、今のは無粋だったかもな」
「いいえ。その気持ちだけで私は充分」
 たった独りで立ち向かうなら、今頃とうに何処かで力尽きていた事だろう。特異運命座標の存在は彼女にとって、他ならぬ奇跡。
「協力、心より歓迎する。……ありがとう」
 女王の心からの言葉がシオンの胸にじわりと沁みた。
 大事な家族を知らない間に失い、別のナニカに変貌していた恐怖……そして、その為に犠牲が出た時の後悔。艱難辛苦を前にしても立ち向かおうとする想い。状況は違えど、己に重ねずにはいられない。
「私は貴女に協力するわ、アナベル女王様。けれど最深部へ向かう前に、確かめたい事があるの」
 何を、と一同がシオンの視線を辿ると、そこには我関せずといった様子で窓の外の月を見上げている境界案内人の姿があった。一拍の後、ようやく己の話かと黄沙羅は悟る。
「はて。君が疑うような事をしたかな」
「疑われない人間は、初対面でパンツに興味あるなんて言わないものよ!」
「境界案内人は大体胡散臭い人達ばかりだから、今更……だよね」
「母さんは静かにしてて! ポーカーフェイスなのも何かを取り繕って本性を隠してるようで……って、ちょっと、何?」
 いつの間に距離を詰められたのだろう。息がかかる程に接近され、警戒を露わにするシオン。彼女の前で黄沙羅は手を翻し――ぴら、と目の前にクマさんぱんつをぶら下げた。
「君達の住む『無辜なる混沌』では、パンツで経済を回すんでしょう? 情報屋として、そちらの世界のトレンドくらいは掴めるのだとアピールしたつもりなんだけど」
「アピールなら他にも方法はあるじゃないっ!?」
 視界を塞ぐクマさんぱんつを押しのけて、シオンはボーンの後ろに隠れ――ようとしかけ、取り繕うようにそっぽを向いた。年ごろの娘の可愛さに、ボーンは思わず相好を崩す。
「まぁ、落ち着けシオン。ロべリアちゃんみたいに可愛い子かも知れないだろう? 名字的に赤斗と蒼矢の旦那の縁者っぽいけど――」
「一緒にしないで」
 ボーンが喋りきる前にバッサリと、黄沙羅は強めに否定した。表情隠すように帽子を目深に被り、足早に歩き出す。
「僕が信用できないなら、家族を信じればいい。ヒナゲシ、君はどうしたい?」
「ボク? 女王を邪神の魔の手から守るとかすごく騎士っぽいし、依頼に異論なーし! デュラハン勇者のヒナゲシ・リッチモンド……いざ参る!」
「ああっ、先に行きすぎないでよ母さーんっ!」

成否

成功


第1章 第11節

17(p3p008904)
首狩り奴隷令嬢

「フフ、白雪姫様もなんてお可哀想な人かしら。邪神の生贄にされ継母には命を狙われて……そして悪役として倒される…なんて無様かしらね」
 女王が身を強張らせた瞬間、ガギィン! と鉄を弾く音が廊下へ響き渡った。
 白騎士の剣を弾き飛ばし、17はH・ブランディッシューー乱撃をもって後続の敵を刻みきる。
「あ、ありが――」
「お礼は結構。私は私の仕事をしているにすぎません」
 ギフトとハイセンスで過敏になってる四感では吸血衝動はツラい。闇夜に紛れて血を啜り、欲しくなればスニーク&ヘルで新たな得物の喉笛をかき斬った。
 抗う必要などないのだ。もはや醜いところに堕とされた己に、半端な優しさなど在ったところで邪魔なだけ。
「17の判断はシンプルで良いね。好感が持てるよ」
「お褒めに預かるだけでは物足りませんわ。それで……黄沙羅様はいつまでお戯れを?」
「……」
「貴方様はもっと悪辣で非道な御方でしょう?」
 暗がりで黄沙羅の金色の瞳が怪しく細まる。クツリ、喉奥で笑うと17の方へゆらりと近づき、そっと彼女の唇へ触れて――ガチャン、と鉄の轡を強引に咬ませる。
「!?」
「非道だなんてそんな。僕はただ、君を一方的に蹂躙する隙を探っていただけさ」
「……ンっ、んん!」
 首筋に噛みつかれ、痛みと陶酔感にぐらりと17の思考が揺らぐ。
「屠りたい? もどかしくて、どうにかなりそうでしょう。弱った君も可愛いよ」
 嗚呼、囁きは林檎より甘く――。

成否

成功


第1章 第12節

●エピローグ
「……ここが王座の間」
 見慣れていた頃とは随分と変わってしまった、茨だらけの重い扉を押し開けて、女王アナベルは城の最深部へと踏み入れた。
 大きな玉座の上に眠る少女は忘れる筈もない――。

「白雪姫」

 女王が語りかけても少女は目を閉じたまま。近づけばその身に幾重もの蔦が絡まり、ナニカに命を吸われているのが見てとれる。
「……怖かったね。寂しかったね。もう大丈夫……私が…お母さんが、眠らせてあげる」
 ポイズンアップル。紅き刃の魔剣は造り手の願望を叶えるようにと願いを込めて作られた一振り。それを姫の小さな胸の前に振り上げて、女王は――。
「君には病魔が憑いている」
 唐突に背後からかけられた言葉に、驚きながら振り向いた。境界案内人は女王の様子を気にする事なく淡々と続ける。
「その病名は"愛"。なぜ君が吸血衝動にかからかったか、分かるかい?
 衝動を振りまく厄災自身――白雪姫が、たったひとり守りたい人のために負わせたものだ」
「――ッ!!」

……私は、白雪姫にどれほど母親らしい事をしてやれただろうか。
「ない。何もないわ! 白雪姫が娘らしく私を包んでくれた。だから私はここに居るの。
 なのに私は奪うだけ? この娘を殺して……終わるなんて、嫌よ!」
 アナベルの激情に呼応して、握りしめた魔剣が輝き出す。その刃は造り手の願いを叶えるために姿を変え、白雪姫の胸元に添えられた。
 林檎の花が添えられた花束。花びらは白銀の輝きを帯び、神秘の光が少女の身を包み込む。
 
「本当に貴方へ渡したいのは、毒林檎なんかじゃなかった。貴方が私にくれたように

ーー私も、愛を」

「…………お母様?」

 か細くても聞き逃す筈もない、求めていた声。
 とめどなく溢れる涙を拭いもせず、女王は少女の身体を抱きしめた。

 物語は変わる。否、物語すらも変えられる。
 たとえそれが正史でなくとも、一冊くらいは避けられない悲劇を幸せにしたってバチは当たらないんじゃなかろうか。黄沙羅は被っていた帽子をゆっくりと脱いだ。
「物語の最後はこうしめくくられるべきだ」

『ーーそして、永遠に幸せに暮らしました』


第1章 第13節

●彩られる革命宣言
 某日、境界図書館。
「えっ、これが白雪姫の物語?」
 境界案内人の神郷 蒼矢(しんごう あおや)が一冊の本を夢中になって読んでいる。まるで新しい玩具をもらった子供のような無邪気な目で、心の底から楽しんでいる様な。

「……返してよ。それは僕が特異運命座標と完結させた本だ」
「あっ。君は確か……黄色の……えーと」
「神郷 黄沙羅。本当に命の狙い甲斐がない男だな君は」

 無辜なる混沌と境界図書館が繋がり暫く経つ。時の流れに比例して境界案内人の数は増え、そうともなればぶつかり合いや確執が生まれるものだと蒼矢は理解していた。しかしその渦中に自分が含まれるとなると話は別だ。ここに身一つで転がり込み、元居た世界から何かを持ち逃げした訳でもなく、恨みを買う心当たりもない。

「ねぇ黄沙羅。僕は君と争いたくないよ。
 だってこんなに素敵な物語へ特異運命座標を導く案内人が、悪い人のはずがない!」
「善悪の判断基準で測ろうとしている限り、真実なんて見えやしないさ。
……少しだけ猶予をあげる。僕が図書館じゅうの物語を"革命"する前に、せいぜい殺される理由を見つける事だね」

 待って、と蒼矢が口を開く前に黄沙羅は本棚の影へ溶けるように姿を消した。
「どうしよう。凄く怖い……けれど、何も知らないまま殺されるのを待つなんて、もっと嫌だ」

 知らなければ。彼女の事を。

 残された『白雪姫』の本を抱え上げ、蒼矢もまた、薄暗い廊下へと消えていく――。

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