シナリオ詳細
ぱるすちゃんフィギュアはお一人様一個までとなっております
オープニング
●アイドル闘士、ここに参る
鉄帝ラド・バウの大闘技場。
闘士が命をすり減らし、競い合い、奪い、認め合い、ぶつかる場所。
熱気渦巻くこの場所は、いつだって血に沸いている。
「やっほー! 毎度お馴染みパルスちゃんだよん」
「うおおおおおおおおおおお!」
そして、おなじみ『アイドル闘士』パルス・パッション(p3n000070)の出番ともなれば、会場は割れんばかりに沸き上がる。
「嘗めたまねしやがって! 何がアイドルだ? ちゃらちゃらしやがってよお!」
ブーイングと歓声が同時に上がる。
対戦相手は闘士レッド・ベアー……長い下積みで挑戦権を得たが、世間の評価は”無名の新人”といったところだろうか。
「マイクパフォーマンスなら負けないよ? みんなー! 応援してよねっ!」
自身の二倍を優に超す巨体を前にして。罵倒にも関わらず、パルスは笑顔を浮かべる。
「へっ」
相手だってそう。憎たらしい凶悪なプロレスラーの仮面は”パフォーマンスのため”、そうでしょう?
強そうに見せること、それすら戦略の一つなのだ。
豪快に振るわれる鉄柵。
どちらも、本気。
でも、目的は一緒。
観客を沸かせるんなら、笑顔にするならどんな手段だっていい。
「さー、皆一緒に!」
\ぱっるすちゃーん!/
コール&レスポンス。
時間にして、およそ20分のステージ。
激しい戦いを制したのは。
「皆ー! 応援、ありがとねー!」
\さすが僕らのぱっるすちゃーん!/
「勝ったのはアアアアア!」
\ぱっるすちゃーん!/
「へっ、いい根性してるじゃねぇかよ、アイドル」
「♪」
ウィンク。
……脇腹が痛い。倒れてしまいそうだった。
でもそれは、控え室までお預けだ。
●グッズ売り場
「うおおおおおおおぱっるすちゃーん!」
「ぱるすっ、ぱるすっ、ぱるすっ!」
大盛り上がりののち、限定グッズ売り場はおおいに盛り上がっていた。
(……)
気圧されて、少女はぽつんと立っていた。
お誕生日、絶対に「パルスの勝つ試合が見たい」と両親に頼んで、ここへやってきたのだ。
「勝つ試合」というのは絶対じゃないのは分かっていたけれど、パルスは期待に応えて勝利を収めた。
けど、……「まだ早いんじゃないか」という父の言葉はこういうことだったのか。
とてもじゃないけど、戦場だ。
(まけない。だって今日で12歳だもん)
お小遣いだって貯めたんだから。
少女はぐっと気合いを入れて、その群れの中に飛び込んでみた。
「押さないでください。押さないでください。ぱるすちゃんポンポン応援フィギュアはお一人様一個となっております! あっ」
少女の前の前で最後の一つが奪われた。
「へへっ」
「お客様、先ほども買われましたよね?」
「なんのことかなあ?」
男は別の男に、その箱をパスする。
「そうそう、俺は”一個目”。問題ないだろ? へへ、悪いなお嬢ちゃん。
ま、俺たちは別にフィギュアがほしいわけじゃないから……パパにねだって買ってもらうんだな」
これなら十倍は堅いな、と彼らは笑った。
●転売vsイレギュラーズ
「ラド・バウで、ボクのグッズが誰かに買い占められて、高い値段で闇に流されてるみたいなんだよねっ!」
ローレットにやってきたパルス。
一応サングラスをかけてきたが、それでもあちこちから「ぱるすちゃんだ……」「ぱるすちゃん……」と聞こえてくるが、別に本気で隠しているわけではなく、オンオフの気分の問題だ。
「うん、それもボクのだけじゃないんだ。ビッツもそうだし、知名度のある闘士は皆やられているっぽいよね。
なんかね、一人だけじゃなくて、集団で買い占めてる人がいるんだって。
ステージの上ならボクだっていくらでも受けて立つんだけど、そういう手合いにはどうしたらいいかわからなくて。……そういうときに、イレギュラーズなら助けになってくれると思ったんだ」
それと、と、パルスは控えめに言葉を続ける。
「……言いにくいんだけど、あの、君たちのグッズも勝手に作られて、売られてるみたいなんだよね……」
- ぱるすちゃんフィギュアはお一人様一個までとなっております完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年12月13日 22時50分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●非公式グッズ展開中
「転売屋……それはもっとも許しがたき悪人共だゾ!」
『ラド・バウD級闘士』溝隠 瑠璃(p3p009137)はぐっと拳を握る。
「何たって、純粋なファンを食い物にし、僕達ラド・バウ闘士達を金儲けの道具にしか見てない!
そんな所がすっごく頭にくるゾ!
というか僕もこいつらの所為でパルスちゃんのグッズを買えなかったんだゾ!」
「そうよそうよ。グッズ買い占めなど言語道断なのだわ!
飾って鑑賞用、箱のまま保管用と最低二つは必要なのに!」
「買い占めとるやん!」
アーデルハイト・フォン・ツェッペリンに華麗なツッコミを決める『蛮族令嬢』長谷部 朋子(p3p008321)。
「えっだめ!? 個数制限があるものね……」
「あなた……前からそんな感じだった?」
「ふふん」
『女怪』白薊 小夜(p3p006668)に、朋子はガムをぷーっと膨らませ、それから、グラサンをそっとずらしてちょっと照れた様子を見せた。今日は黒服でびしっと決めている。
「転売屋をとっちめるならこんな感じかなって。いやー、こういうのって映画やドラマで何度か見たことあるけど、実はちょっと憧れてたから演じるの楽しそう! がんばってとっちめるから、よろしくね!」
「成る程」
格好とふるまいで圧をかけるというわけだ。
(実力差を悟って引いてくれたら、楽ね)
相手のおそらくはほとんどが素人だろう。
「それにしても、何事にも道理というものがあるでしょうに、筋の通らない事をする輩もいたものね」
「いつかS級闘士になる身としてはファンを悲しませ、闘士達の誇りを傷つける様なこいつらを生かしておけない! ぶっころだゾ!」
「瑠璃ちゃん、ぶっころはだめよ?」
「……えっ、流石に殺すのは不味い?」
闘士ナターシャが柔らかく止める。
ノリは軽いが瑠璃ならばやりかねないのだった。
「……うう……わかったゾ……じゃあ再起不能で」
「それならいいわね」
……いいのか?
「供給を絶って値段釣り上げとは、また脳筋……もとい鉄帝らしからぬ悪賢さだな」
『我が身を盾に』グレン・ロジャース(p3p005709)は『グレン様ブロマイド』と銘打たれた非公式グッズをいぶかしげに眺めて、びりびりと破いた。
「物好きなこったぜ。こっぱずかしいもんは破棄だ破棄!」
アーデルハイトに見られなかったのは幸い。
(……私も、イレギュラーズの闘技大会では優勝したりもしてるし、嫌な予感がするわね)
ため息を吐く小夜。
「……この世界にも転売屋って概念が存在することが驚きだよ。しかも鉄帝に」
『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)は勝手にグッズを作られるイレギュラーズたちに同情しつつ、……ラド・バウにはあまり顔を出していないわけであるし、自分には被害はないだろうと思っていた。
そう、なんだかカイトにそっくりなバイザーをつけた人間がちらほらいるが、偶然だろう、うん。
「転売か」
『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)はふむ、と頷いた。
「数量限定品だとかライブのチケットだとか、元の世界でもよく聞いたな」
「物の売買に関しては……はっきり私にはどうでもええんやけど、本当に欲しい人が正しく買えんくなるんはあかんよねぇ」
胡蝶(p3p009197)は頬に手を当て、柔らかく首を傾げる。
(極力簡単に金を儲けたいという考えは否定しないし、俺に関わることでなければ転売行為も好きにすればいい……。
が、ルールに反してるというならばまた別だ)
なにより闘技場のアイドル直々のお願いを無下にはできまい。……貸しを作るべく尽力するのも悪くは無いだろう。
「分かった、引き受けよう」
「ほんとう!? ありがとね♪」
打算をしつつも、いつのまにか人のために働いているのはいつものこと。
「もちろん、協力するよ! ファンでも無い人がお金目的でグッズを買い集めて本当に欲しい人が買えないなんて……許せないよっ!」
『鋼のシスター』ンクルス・クー(p3p007660)も使命感に燃える。
「グッズだってそんな目的の人の処へ行くなんて可哀そうだよっ!
創造神様の名の元にしっかり天罰をお届けしないとね! それでね……」
ンクルスのアイデアを聞いたパルスは驚いた顔をして、笑顔で頷いた。
「うん、もちろん協力するよ♪」
「よかった。できたら、ほかの闘士さんたちにも協力してほしいんだけど……」
「もちろんだゾ! ナターシャも……協力してくれるよね?」
「ええ、可愛い可愛い後輩に協力を依頼されては先輩として協力せずにはいられないもの。
わたしはこれでもC級闘士。一部のファンからは熱狂的支持を頂いております。故にわたしもファンに仇名す転売屋を許せません」
「おっ、やるきだな!」
「ふふ、後は任せましたわ、瑠璃ちゃん」
ナターシャは楽しそうに微笑む。
●飛んで火に入る夏の虫
「じゃーん!」
そして集まった、公式グッズの数々。
その筋のファンであれば気絶しそうなものだろう。
「おおっ、サイン入りのフィギュアに……ブロマイド!」
「壮観だな。こんだけありゃあ十分か」
グレンは頷く。
「ありがとう、提供して貰ったグッズは最終的には絶対ファンの皆に届けるからねっ!」
きっとこれを待っている人たちがいる。
「皆に創造神様の加護がありますように」
標準出力に吐き出される定型のテキスト。
ンクルスは、創造神へと祈りと誓いを捧げる。
「おい、聞いたか!?」
「限定グッズ……先着順発売!?」
「あくまでも非公式らしいんだけどね?」
人混みに紛れ、噂を流すンクルス。
「ああ、『先着何名様限定』らしいぜ。並ぶ時間厳守でな。最近、買い占めとかで治安が悪いだろ? 間に合わない人間には売れないって話だ」
と、グレンが補足する。
「んぬぬぬぬ……」
葛藤するファンは、『ナターシャちゃんこっち向いて』うちわと『Z式防戦術』のたすきをかけている。
「で、でもこの時間だと試合を……」
(一般客なら試合やファンサを見逃すはずないが、マナー悪い奴なら『ルール厳守』なんて破る為の言葉だろ?)
……つまりは、これに引っかかるやつはテンバイヤである可能性が高い。
「う、うう、俺は……俺はっ! どうしよう……」
「あとから、十分な数を供給してくれるって話もあるなあ」
ンクルスはそっとフォローする。ファンまでもを悲しませるつもりはない。
「大丈夫、創造神様は見ていてくださるよ!」
「公式を信じるといいゾ!」
ウィンクする瑠璃。
「そうだ、ぱるすちゃんを……ナターシャちゃんを!」
「アーデル様とお小夜ちゃんを信じるんだ!」
公式ならきっと、手に届く形で供給してくれる……!
「KISS ME! 瑠璃蝶!」
「KILL ME!(斬って!) 小夜ちゃん!」
「お~。熱烈だゾ!」
(……)
妙なコールを聞かなかったことにする小夜。
「何かあったら言って頂戴、こんななりだけれど腕にはそこそこ自信があるから大丈夫よ」
「アンタたちが付いてくれるなら心強いよ!」
「専攻グッズ販売」に沸く売店に心配そうな店員であったが、ぱっと顔を輝かせる。これほどまでに心強い味方はいまい。というか普通に嬉しいようでそわそわしている。
「ンクルス、何人くらいいそうだ?」
「ん~、20人くらいかな?」
ンクルスの遠隔操作機体『AIM-N』が、ぱたぱたと一生懸命に会場の上空を飛んでいる。
「そんなにいやがるのか……そうか」
カイトの周りを、ふわふわとグッズを買い損ねたファンたちの霊魂が漂っている。そのどれもが怨念を纏っている。
あいつこそが、あいつに割り込まれたんだと口々に怨嗟を告げる。
(へえ……ルール違反をする連中は、ちょーっとお灸をすえてやってもいいよな?)
「あ、ぐれんさまだ!」
ちびっこがグレンを指さす。
(グレン様、ときたか)
きらきらとした目をしている。
「しゅごせいけんのるんほんもの?」
「こ、こら! すみません。試合はじまっちゃうわよ」
「いいさ」
「またね!」
手をあげて応える。
……ちびっこの目には、自分はキザったらしいヒーローに見えているだろうか?
(で、なんでアーデルハイトが誇らしげなんだ?)
会場からは、元気なコール&レスポンスが聞こえてくる。
(勝利者インタビューやファンサービスの時間を長くしてくれって頼んだからな。上手く行きゃ店員や一般客を巻き込まず穏便にぶちのめせそうだ。
売店の椅子に深く腰掛けるグレン。
「さて何人釣れるかね?」
(それにしてもイレギュラーズのグッズねぇ……当然と言うべきか有名な奴等のは大体あったな)
カイトのなりきりバイザーと、本物とは似ても似つかない小夜刀DXを見なかったことにする世界。このへんは、うん。まだかわいいものだろう。グレンのブロマイドと銘打たれた隠し撮りっぽいのは少々悪質か。瑠璃蝶ブロマイドはきわどすぎて純正品なのか迷う。
見た感じ、世界のものはなかったようだが、……想定内だ。
(さて)
仲間が実働部隊にあたりをつけているところだろう。となれば、世界が狙うのは指令部隊のほうだ。
ラド・バウ内でも既に何度も転売行為を行っているとなれば顔の知られてるテンバイヤも複数いる。……その世界の読みは、当たっていた。
(一回一回別の奴等を雇うなんて面倒なことしてるとも思えないしな)
「おい、なんだ……。なんか」
しらばっくれる間もない。
世界の魔眼が相手を見据える。テンバイヤは目を見開き、その場に崩れ落ちた。
「転売屋ってやつか。どのくらいの規模だ?」
「……ぐっ、し、しらねぇよ」
「これでも思い出さないか?」
極めつけに、ゴールドをちらつかせる世界。
「……」
ごくりと喉を鳴らすテンバイヤ。元々金欲しさに集まった連中だ。
「し、指示してるのは……3人で、元締めがひとり……」
「そうか」
そして、そのまま気絶させる。
餌をやるつもりもない。適当にその辺に転がしておけばいいだろう。
「あら、旦那さん、覚えあるなあ」
「……!」
胡蝶に呼ばれ、照れた様子の転売屋。二度並んだことよりも、可憐な胡蝶に顔を覚えてもらった嬉しさが勝ってしまった。
「何度も並ばれると他のお客さんに売れんくなってしまうから、1回購入したんやったら身を引いてもらえんかねぇ?」
「で、出直してきます!」
困った表情の上目遣いは、ぐっさりと刺さったようだ。
「穏便に済んだらそれが一番やね」
とはいえ、それほど素直なテンバイヤばかりでもなく……。
「旦那さんも二度目やねぇ」
「ああ? 言いがかりをつけんのか?」
「……」
音もなく、小夜が後ろに立っていた。
「……ここで私の刀が見たいのかしら?」
「……! げっ、アンタは!」
軽く脅せば、ぴゃーっと逃げていく。
刀を抜くまでもなかった。
●コール&レスポンス
「なんだてめぇら、全然買えてないじゃねぇかよ!」
すごむ男の肩を、ぽんぽんと叩く朋子。
「おう兄ちゃん、なんやおもろい商売してんやないの」
「ひっ!」
「んああそんな身構えんなや、ウチもちょい欲しいもんがあってな……」
ちっちっち、とサングラスをかけ直す朋子。
「こいつ、見たことがあるぞ」
「も、もしかして……」
「C級闘士で……人気沸騰中の……桃色髪の……そう! 美少女の~~~~??」
「「「ぱ る す ち ゃ ん !!」」」
「ってちゃうわド阿呆!」
棍棒をばしんと空に打ち付ける朋子。
「桃色髪の美少女言うたら長谷部朋子やろがい! いっぺんでわかれや!」
「え、えーと……」
「……あん? 「誰やそいつ」? 「まぐれで個人戦トーナメント進出して即行負けた雑魚」?」
「……」
「火力キャラ謳っとる割には微妙火力で安定性の欠片も無い地雷」ィ……?」
(あ、聞こえてた)
「――ライン越えたぞテメェ!!」
「ひ、ひいーー!」
鏖のネアンデルタールインパクトが、テンバイヤの台車を車輪の跡も残さずに破壊する。
「美少女朋子ちゃんは日夜進化しとるのを知らんのか! 最近鍛え直して見違えたんやぞオォン!?」
ばったばったとなぎ倒されていくテンバイヤ達。
「すみませんでしたーーーー!」
「……ちっ、これやからトーシロは。まままええわ、知らんもんはしゃーないわな、許したる。
で、朋子ちゃんのグッズはあるんやろな?」
「……」
「見してみ? 怒らんから」
「……えーと、その……」
「大変、言いづらいんですが……」
「……は? 無い? 需要皆無……???」
「……」
「ふぅー……」
一息。
鬼神経絡タトゥースがびきびきと浮かぶ。
「なんや兄ちゃん、とんだ節穴やんけ。じゃあいっぺん可愛い可愛い朋子ちゃんの実力見晒せや!
おう握手や握手、まずは握手交わすで――ふんっ」
「ぎゃああああ!」
テンバイヤの右手はヘンな方向に曲がった。
「なんだこいつ、やっちまえ!」
「転売行為は規約に違反、ご法度だゾ」
振り上げたこぶしを、瑠璃が思い切り蹴って止める。
吸精結界。蠱惑的に艶めく唇。
「きゃああ!」
男女関係なく、テンバイヤはその場に崩れ落ちていく。
「く、くそっ!」
「しつこいゾッ!」
「ぐげは」
蹴戦が思い切り股間に炸裂した。
「ナイス! 瑠璃ちゃん! ……やね!」
「口が割れねえってんなら、闘技場のルール外でヤらせてもらうぜ?」
転売屋たちの破れかぶれの攻撃を、グレンはしっかりと受け止める。周りに被害が行かないように、一歩も引く気はない。
小夜のすさまじい居合いが、まとめて3発。喉を潰して悲鳴すらあげさせない。
「報復が怖いってんなら安心しな。雇い主もキッチリ落とし前付けさせるぜ」
「グッズを大切にしなかったりルールとマナーを守らない人は滅っ! だよ!?」
ンクルスのプロティータ・キュオミールが、思い切りテンバイヤを壁にたたきつけた。反動で戻ってきた男を……白蛇の陣から生み出された白蛇が捕らえていた。
世界の合図で、身体の力が抜けていく。
「ペッ、この軟弱モンが! 今をときめく朋子ちゃんを知らずして転売なんざ百億光年早いっちゅーんじゃ。
せや、ウチが朋子ちゃんや。覚えたな? お ぼ え た な ?」
「お、覚えましたーーーー!」
正座して並べられたテンバイヤグループ。
「よし」
「んじゃお前らいっぺん豚箱で反省して、今度こそウチのフィギュア売るんやぞ」
「すみませんっ! 金型から作りますっ!」
「ぬいもアクリルフィギュアもな? クリアファイルもやで? 分かっとるな?」
「はいっ!」
「ええな? 約束したで。ウチは覚えとるからな!! シャバ出たら確認するからな~~!!」
「ひーーーー!」
●VSボス
「なんや、半分は連絡がないな。だが、儲かったわ」
「……な、なんかよお」
「ん?」
「寒気がしねぇか?」
「はは、まさか」
(そう、これは今までちゃんと買えなかった連中の怨嗟。正しく扱ってれば『お前らの聞く筈の無かった』もの)
カイトのスケフィントンの娘がテンバイヤたちに襲い掛かる。妄執、恨み辛みを伴ったその一撃は、重くのしかかる。
「ぐあー!」
胡蝶の壱式『破邪』が追い打ちをかける。
(流石に殺すのはあかんよねえ)
(死にはしないさ――)
「畜生! 戦利品を搔き集めて撤退やで!」
「どーも」
「なんだ、あんたら!?」
現れたのは世界。
「どうやら俺の顔は知らないみたいだし、是非ともこの際に覚えてもらうとしようじゃねえか。なぁ!」
世界のクェーサーアナライズを合図に、イレギュラーズたちと、ラド・バウのファンたちがテンバイヤを取り囲んでいた。
「ようこそお客様。先着限定特典『イレギュラーズとの場外乱闘』をプレゼント……返品は硬くお断りってな!」
天来聖盾ルキウスはきらりと光を反射する。押し寄せるテンバイヤを前にして一歩も引かず。
攻撃は完璧に逸らされる。
(まあ、このくらいはね?)
教えたから、できて当然。ひそかに胸を張るアーデルハイト。
「うちらは善意でやっとるだけや!」
「善意で、ね。護衛を雇っている時点で後ろ暗い事をしている自覚があるのでしょう?」
落花狼藉。小夜の流麗風雅なる花の剣。それはあまりに速すぎる。1、2、3。荒々しく振るわれるそれは悪のみを打ち砕いていく。人を効率良く、確実に殺す為の術……それは今この場では手に余るほどに、呆気なさ過ぎる。
胡蝶の神薙が一薙ぎする。
「くっ」
「さぁ天罰をお届けするよ!」
隕石のように落ちる、フルシニッカ・ヒュオネール。その一撃で、また一撃で。その動きは鈍っていく。
「善意でやってるなんて感動的過ぎて涙が出ちまうな! 俺は一度たりとも自分の為以外に行動をしたことないから憧れちまうぜ!」
「くっ」
逃げようとしたが、すでに周りは取り囲まれていた。瑠璃が目立つように強調していたし、世界が根回しをしていた。
「う、うわあ!」
悪あがきをする一人を、ンクルスががっちりと捕らえていた。2連の、流れるようなバックドロップ。からの、パワーボム。
「はいぱーじゃっじめんとっ!」
(ご愁傷様)
カイトは、泡を吹いた奴から片っ端に捕縛していく。
「ま、参った!」
グレンはピタリと剣を止める。もう一人、ただ逃げようとするリーダーに……。
守りを固め、抗う力を渾身に込めた一撃を、見舞う。
●確保!
「おわったー!」
伸びる朋子。
「これはちゃんと、ファンのみんなに渡さないとね!」
グッズを集めるンクルス。
「よし、持ち物検査するか――ってなんじゃこりゃ」
カイトは色違いのバイザーを見て固まる。
そこまでラドバウに顔出さない自分のグッズが存在している事実。
……見なかったことにするか。
そっとバイザーをダンボールに押し込むカイト。
「みんな、大丈夫やった? ケガしてたらちょっとおいでなあ」
胡蝶の緑の抱擁が傷を癒やしていく。
「身体は大事にせんとね?」
「いい、だいたいねえ!」
アーデルハイトはのした男たちに、パルスちゃん、およびラド・バウの魅力を滾々と語る。グレンが、「それほど悪質ではない」と判断した者たちだ。
(一パルスちゃんファン……いえ、この極寒の鉄帝を熱に浮かす闘技場を愛する者として!)
推しのマイナー闘士のグッズが出なかったことが、一因となっていたらしい。
「シークレットで推しが……外れ扱いされてるのが耐えられなくて!」
人気闘士ばかり持て囃されるやっかみ……あるのだろう。
「このアーデルハイトの情報網を侮らぬ事ね! マイナー闘士も網羅よ!」
推しを語っていく彼らの目には、次第に光がともりだす……。
「ええか!? ほんまに見に行くからな!?」
「は、はいっーーーー!」
連行される彼らを見送る朋子。
「闘技場にはよく来るからこまめに顔を出すわね」
釘を刺しておく小夜。
「ぱるすちゃんに、ちょっとお願いがあるんだゾっ」
「はいはい! 助けてもらっちゃったもんね。グッズ奮発しちゃうよ~」
「んー、とね、えへへ」
「欲しいファンの皆に届きますように……グッズが幸せに役目を果たせますように……。
皆に創造神様の加護がありますように」
「お一人様一個、よろしゅうな」
ンクルスと胡蝶らが売るグッズは、飛ぶように売れていった。
●事の顛末
「わあ!」
歓声をあげて、包みを破く子供。
少し遅い、誕生日プレゼント。
「ぱるすちゃんフィギュアだ~! それに、サインがあるっ!」
「良かったわねえ」
瑠璃の手配したフィギュアは、本来買えるはずだった人のもとへと届いたのだった。
「せーの!」
「ぱるすちゃーーーーん!」
舞台の上。ファンに手を振るパルス。遠くからでも、ファンの一人一人は何となく見えているものである。
(あれ?)
叫んでる人たちの中には、どうやらマナーの悪かったファンもいる。
(そっか。イレギュラーズのみんなが、がんばってくれたんだね♪)
「みんなーー! ありがとーー!」
「ぱっるすちゃーん!」
精一杯、声を張り上げる。イレギュラーズがもしも試合を見ていたら……そちらに向かってウィンクしていたのが分かるだろう。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
切に皆様のグッズがほしい今日この頃です!!!
お疲れ様でした。
GMコメント
●目標
転売屋たちの退治
(オプション:勝手に作られたイレギュラーズグッズの差し止め)
●登場
テンバイヤ×15程度
いわゆる転売屋です。強くありません。
転売目的でのグッズ販売は規約に違反しています。
ここでは明確に悪です。
とりあえず、試合後に何度も列に並ぶ怪しいそぶりをしている者たちをとっ捕まえればOKです。
闘士の試合後、彼らは徒党を組んで売店に押し寄せ、「お一人様一つ限定」のグッズを買い占めていきます。
基本的に柄が悪く、列を押しのけて並んだりしています。
アルバイト感覚で、悪さをしている自覚はありません。
彼らにとって大切なのは高く売れるかどうか。
「限定品」「サイン入り」につられがちです。
リーダー+護衛(数名)
「うちらは善意でやっとるだけや!」
「マニ」という通名で通っている男です。本名は不明。
元闘士崩れの男を雇っていて、こいつだけちょっと手強いです。
自分は実行舞台に加わらず、テンバイヤたちに指示を出しています。何人か締め上げれば吐くでしょう。
●状況
ラド・バウでポスターやフィギュア、グッズの転売騒動が起こっているようです。
それを止めるのが仕事になります。
また、イレギュラーズたちのグッズが勝手に売られてしまっているようです。
(ポスターやフィギュア、2等身フィギュア、ぬい、シール、etc……)
困る場合はテンバイヤをとっちめるときについでに回収しましょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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