PandoraPartyProject

シナリオ詳細

アトリアの旅情

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 美しきその星の名を、僕は知らない。

 冬空はキャンバスに濃紺を塗り固めたかのような美しさであった。点在する星々の煌めきは焔とは違う冴え凍える気配を感じさせる。悴む指先の痛みさえ忘却のかなたへと捨て去るが如き美しい空であった。手を伸ばせば届くと勘違いしてしまいそうな程に近く照る星々の美しさは人々を魅了する。それは――ひっそりと森で過ごす霊木とて同じであった。

 鬱蒼と茂る迷宮森林は中央に位置する大樹ファルカウの神域である。幻想種達の信仰の象徴であるその木は内部階層に都市が存在するそうだ。所変われば信仰も変わり、そしてその地に住む者達さえ変化する。
 故に、ファルカウの力を頂き、佇む『アトリア』とて日々の移り変わりをのんびりと眺めて居たのだ。
 霊木はその地から動かず。
 霊木はその地に座し続け。
 そして――霊木は思い知る。

 人の手が差し伸べられぬその閉鎖的な地は、なんと寂しいものであろうかと。


「行きたいところがあるのです」
 蒼穹の色彩を映す眸をぱちり、と音を立てて瞬かせた『聖女の殻』エルピス(p3n000080)は恐る恐ると言葉を発する。向かいたい場所は深緑の迷宮森林の中に存在する霊木なのだという。
 神域と位置される迷宮森林にはファルカウの力を別けた霊樹が無数存在して居るそうだ。
 その一区画、アトリアと名付けられた黒き大樹の守人よりローレットへと連絡が入った。
「人々の心が離れ、逢いに来る者が減ったことを大樹様は悲しんで居られるのです」と。
 寒々しい冬には天蓋飾った星々を見詰める大樹は『星雫の実』を実らせる。閉鎖的であった深緑でも、その実が人気になった際には随分と人の往来があったそうだ。
 だが、流行り廃りは直ぐに訪れ――何時の日か、特定の人物以外はアトリアの元へと訪れない。
「とても、さみしいことだと思います。
 ……すこし、ファルカウからは距離があるそうですが……ちょっとした旅行としてお付き合い頂けませんでしょうか?」
「エルピスさんは、其方に行きたいのですよね?」
 はい、と小さく頷いたエルピスにルーキス・ファウン(p3p008870)は行きましょうと頷いた。
「アトリアには何をしてあげればよいのでしょうか?」
「はい。寂しさで負の気配を溜め込んだ霊樹。その気配を祓うために周囲に湧き出たモンスターを倒すのだそうです。
 ……それはファルカウを救うことにも繋がると、そうお聞きしています。霊樹の浄化、と言うそうです」
 モンスターとして具現化した負の気配を祓うが為に。それが寂しさを払う行動に繋がるのならば、行いたいと聖女『だったもの』は願う。
「あ。あの……」
 そう、と彼女が取り出した小冊子には『旅のしおり』と書かれていた。
「こういうときに、『旅のしおり』を用意するのだと、雪風様が仰っていました」
 同僚の情報屋のアドバイスを受けて、共に行くための準備を整えたのだとエルピスは何処か恥ずかしそうにそう呟いた。
「……のんびりと、参りましょう。アトリアの寂しさを祓うために」

GMコメント

日下部あやめです。

●達成条件
 アトリア周辺の浄化

●霊樹『アトリア』
 迷宮森林に存在する美しい木。墨色をした木であり、その姿は一見すると禍々しくも思われます。
 人々が余り訪れなくなり寂しさの余り、負の気配を溜め込んだそうです。周囲に沸き出でるモンスターを排除することで負を祓うことが出来ます。
 夜になると空に呼応したように淡く光る木の実『星雫の実』を実らせるそうです。
 星雫の実はとても美味しい、と言われておりスイーツなどに調理が出来ます。

●『負のモンスター』*5体
 それは煌めく星空の様な体をした豹を思わせます。
 すばしっこく動き回る姿は流星のよう。鋭く研ぎ澄ました牙は冴えた星のよう。
 美しく、そして酷く寂しげなモンスターです。

●アトリアへの旅程
 時刻は皆さんにお任せです。
 昼だと冴えた森の気配を感じながら、夜は寒々しいですが美しい星を眺めながら。
 ファルカウを出立し、木々の中をピクニックのように進むことになります。 
 美しい星空に、茂る木々、氷の華を始めとした様々な風景を見ることが出来ます。
 エルピスは深緑ミルク工房のミルクで作った『ホットミルク』を水筒に入れて持ち歩いているようです。彼女はアトリアの傍で楽しい時を過ごしたいのだそうです。

●NPC:エルピス
 天義の元・聖女。世間知らずの、おっとり屋。
 元々は耳が聞こえず、ギフトと読唇術で皆さんの言葉を理解しています。
 回復等の支援行動は可能です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • アトリアの旅情完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年12月10日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
傲慢なる黒
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
アルメリア・イーグルトン(p3p006810)
緑雷の魔女
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
星影 昼顔(p3p009259)
陽の宝物

リプレイ


 冬の冴えた空気が頬を撫でる。ぴんと張り詰めた空気を和らげる柔らかな陽光が降注ぐ中、イレギュラーズの一行は迷宮森林を往く。『アトリア』とその名を呼ばれた墨色の霊樹は深き森の中でひっそりと人々を待っているらしい。
 その話を聞いたとき『終翼幻想』クロバ・フユツキ(p3p000145)の胸に浮かび上がった感傷は彼――ひょっとすれば彼女であるかもしれない――へのシンパシーだったのだろう。人々の訪れが減り鎖す国より僅かにでも間口を広げたアルティオ=エルム。故に、ヒトの訪れが減ったのだろう。
「木が寂しがるとはまあ。随分と難儀な話があったもんね。森と共生するこの国ならでは、って奴なのかしら」
 森と共生し、大樹を神格と崇める。その国の在り方を改めて実感するように『never miss you』ゼファー(p3p007625)は形良い唇に音乗せた。冬風の煽る銀糸を指先でそうと押さえつけ「まあ、でも」と言葉を滑らせる。
「独りよりは賑やかな方が面白いものね。そいつは間違い無いわ」
「霊樹がさみしがってしまっているのね。この森では霊樹は大切なものだもの。
 それで負(けがれ)を溜めたのならば、浄化をするわ。任せて置いて。そのさみしさも、里の人達に伝えないとね?」
 守り人であろう里の者達にも霊樹の澱みをしかりと伝えてやろうと『緑雷の魔女』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)は決意していた。生きとし生けるもの、それは樹であろうと関係はない。屹度、その心に触れる良い機会なのだ。
「夜のような大樹!? それってとっても綺麗な気がする! 行ってみたい!」
 きらり。曇りの色をした眸を輝かせて『希望の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)は笑みを零す。柔らかな色彩はまだ見ぬアトリアへの喜びを讃えていて。
「でも寂しさの余り負の気配をため込んだんでしょ? なんだか人間より人間っぽくて、私好きだな」
「まるで人間のよう。それもアトリアの美しさであるのかもしれませんね。
 美しいということですし、とても興味がありますね。ゆっくりと見る為にもさっさと邪魔者を排除してしまいましょうか」
 出立の準備を整える『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)の傍らで楽しげに準備を整えていた『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)――虚に変われと囁いた稔は「ふむ」と呟いた。
 霊樹のもの悲しさ。そのこころを彼は理解が出来る気がする。柔らかな濃紺の髪を掻いた指先は何時もより覇気が無い。
(人間はいつだって自分勝手な奴らばかりなんだ。そういう風に諦めてしまえば楽になれたのに――)
 自身とて似たような経験がある。胸に鎖した想いを知る由もない虚は『久々の旅行テンションあがるわ~!』と楽しげにその声音を弾ませた。
『俺さ、カメラ持ってきたから後で写真撮らない? せっかくだし思い出は形にして残しておきたいじゃん!』
「かめら?」
 ふと、そう呟いたのは『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)。神威神楽より馳せ参じた彼にとっては練達的技術は未だ馴染み無いものであるのかも知れない。
「旅行……遠足。其れで歩く森というのは楽しいですね。修行で森の中を走る時とは大違いです。
 旅の出会いは一期一会。出会う景色も人も、一つ一つが貴重なもの……それをカメラで残せるのですか?」
「そう。このインスタントカメラで『かしゃ』っとすれば取れる訳」
 持ち込んだインスタントカメラを紹介する『探究の冒険者』星影 昼顔(p3p009259)は折角ならば昼間の様子も撮影しておきたいと周囲に気を配りながらシャッターを落とす。かしゃり、の音と共に木々のうつろいが記録された其れに「きれい、ですね」と『聖女の殻』エルピス(p3n000080)はぱちりと瞬いた。
「……でしょ? 星空を見る場所が自然其の儘の所なら凄く綺麗だろうし。
 拙者、星に詳しいわけじゃないけど好きなんだよね。出来れば、沢山写真撮りたいよね」
 こく、と頷くエルピスに「じゃあ、遅くならないに行きましょうね」とアルメリアは微笑んだ。


 たいせつ。いとおしい。そうして感情が芽生えて増えて育つ度に。それと同じだけの悲しみが襲ってくる。そんな感情など、はじめからなかった物にすれば良い。手放して、何も見ない振りをする。それは期待をしないという意味合いと同義だった。期待しなければ落胆することもない。長きを生きてきた稔はそう考え、そう認識していた。故に――アトリアは、健気で『諦めきれないヤツ』なのだ。
 旅の醍醐味と言えばおしゃべりと美味しいご飯。音楽で花を添え、昼間の内に森を抜けようと歩き出す。淀む負の気配を具現化させたそのモンスター達を日中に倒し、のんびりと大樹との時間を楽しもうと進む脚は迷いなく。
「……所でモンスター討伐に拙者いります?
 いやだって……先達の圧倒的なオーラが見える気がする、し……ヒェッ……あ、拙者も出来る事は頑張るから……!」
 未だ召喚されて間もない昼顔にとって歴戦のイレギュラーズ達は途方もない存在に見えたのだろう。眼鏡の奥で淡い冬の色の瞳に怯えを乗せた彼にエルピスはぱちりと瞬く。
「昼顔様は、あの、雪風様に似ていらっしゃいます」
「雪風……?」
「はい。ローレットの情報屋で、あの……アニメやゲェムがお好きだそうです」
 彼も戦いは嫌いだとそう告げるエルピスは「わたしも、こわいことばかり。ですので、手を引いて貰っても良いでしょうか」と首傾いだ。
 歩む道程は決して平坦ではない。足下に気をつけるようにと声掛けるルーキスは「もう少しですね」と囁いた。
「そうね。どうやら余りに人が来なくて手厚いおもてなしを頂けそうだわ?」
 唇を三日月に。ゼファーが構えたのはひとふり。背丈ほどの高さがあるそれを真っ直ぐに向けて喜色を浮かばせた。直感的に、そう感じた。こころの赴くままの一声に木々の声聞くアルメリアがゆるやかに頷いた。
「来ます」
 ささめきごとを告げるように。静寂に沿う声音は只柔らかい。沙月は「エルピスさんは後方より支援を」と緊張に身を固くした元聖女に告げた。
 無手、されどその身を包み込むのは練り上げられた闘気。沙月は四季折々のかぜをその身に纏い息を整える。
「うわあ……すごい、綺麗……」
 警戒しながら。キトリニタスの欠片より創造した誰かのかんばせの、その眸の憤怒を覗き込んでからアリアは夜の色をした美しい大樹を見上げた。アトリアの孤高さはその気配よりも感じられる。
(……うん、今回は特別)
 痛かったり、苦しかったり。それが、アトリアのこころに落ちてしまわないように。アリアは後で歌うよとそうとその体を撫でた。来るという言葉に反応し、深蒼の刀身を陽の光の許に晒したクロバはその脚に力を込める。
 周囲を取り囲んだのは煌めく星空を思わせる豹。それらを双眸に映したクロバは背後のアトリアを確認した後、『無想流』に合わせ調整された宵色の太刀を引き抜いた。
「さて、遊んであげましょうか。寂しがり屋さん達?」
 槍の穂先は誘うように。ゼファーの声に誘われたかの如く、飛び込む負の豹達の尾が揺らぐ。まるで流星が地を奔るよう。魔素より編み出された緑の障壁の内側で世の理を論ずるウニヴェルズムが魅力を放つ。連なる雷撃のうねりを聞きながら翼広げた稔は目を伏せて交代した。深き夜が鮮やかな陽のいろに変貌するように。虚は焔を纏わせた拳で獣達を殴りつける。
 ぐう、と呻いたその声にルーキスは剣構え、無形の術を持って斬り伏せた。
「魔物とは思えぬ優美な姿……ですが、このまま放置は出来ません。斬らせて頂きます、御免!」
 魔物、と言えどもそれがアトリアより生み出されたのだとすれば沙月は『恐ろしくはない』とでも言うように緩急活かした殺人のすべをもっていなし続ける。
 悪いかみさまの話をしましょう。清浄な大地に根ざした古い神様。手遅れな怨嗟は狂気を孕み包み込む。
 その響きは悍ましく、負を体現した豹達を包み込む。星々の雲になんてことだろうと眉潜めたゼファーの傍らで虚の拳がその暗き闇をも振り払うように焔を孕んだ。
「後できちんとした歌を歌ってあげるから、ちょっとだけキミの近くにいさせて」
 アリアはそうと、寄り添うように。心だけは、傍に。体は恐ろしい事から護るが為にと前を向く。
「ひぃ」と声音漏らした昼顔はそれでも気丈にと絆の刀を引き抜いて恵みの風を周囲へと吹かせた。
「風よ、恵みを皆に運んで……!」
 増悪の爪牙で敵陣を圧倒蹂躙するそのすべに、重なるように撃鉄の落ちる音がする。
 ばちり、ばちり。
 焔が音立て弾かれる。それは刹那を切り裂くが如き鬼気。呪縛齎す秘術は周囲を漂う温い空気さえも拒絶する。
「昏き星のような哀しみよ、今ここで風と共に断つ!」
 それは決して恐ろしくはない事をアリアは感じていた。
 皆、その心には確かな想いを抱いているから。――助けに来たよ、と。告げるように。


 陽が傾けば其れを隠す木々達が夜の訪れを静かに告げる。夜が来れば昏き宵に沈むように大樹は静かに佇んだ。星を眺めればアトリアに繁る美しい葉が揺らぐ様子が見える。
「エルピス、冷えてきたしホットミルクを貰っても?」
「はい。その……アトリアも、よろこんでますね」
 そろそろとクロバにホットミルクを差し出すエルピスの戸惑うような瞳を覗いてクロバは小さく礼を言って頷いた。屹度、こうして誰かと過ごす夜はアトリアにとっても久しぶりだろう。
「エルピスさ……あ、えっと、これからはエルピスって呼ぶね」
 歳もさほど変わらない、自身のことも呼び捨てで良いと告げるルーキスにエルピスは「ルーキス、さん」と僅かな戸惑いを滲ませた。人との距離を測りかねて、不器用な元聖女はその言葉に緊張したように小さく笑う。
「ルーキスさんは、そのようにお話なさるのですね」
「口調? ……あぁ、うん。普段は癖で敬語になっちゃうんだけど、ちょっと堅苦しいかと思って……結構冷えてきたな。あのこれ……良かったら使って」
 マフラーをそっと、エルピスへと掛ければ「寒くはありませんか」とホットミルクを握った彼女が不安げに伺う。
「エルピスさん、体を冷やさないように。折角の機会ですしよろしければ星雫の実を見ませんか?
 とても美味しいと言われると気になってしまいますね――……ふふ、こう言えば食い意地と言われてしまうでしょうか?」
 沙月が揶揄い笑えばエルピスは「わたしも気になります」と頷いた。
 写真撮影をしたいと虚は稔へと告げていた。折角ならばこの寂しげな樹を喜ばせてあげた痛う気持ちが虚にはあったのだろう。対する稔はと言えば諦観と寂寞に心を揺らしている。
 その木陰に佇むだけではない。ハーモニアとしてアトリアに話を聞きたいと幻想種の心得のもと、アルメリアは声掛ける。
「こんにちは」と囁けば、怯えたように答えが返る。
「……話せるの?」
「ええ。話せるわ、だから、話しましょう」
 アルメリアとアリアが頷き合ったその傍らで、アトリアの『心の欠片』であったモンスター達の墓場を作りたいと昼顔は用意をしていた。倒すべきモンスターで、恐ろしい存在だったことは識れども、アトリアのかけらで合ったことに違いは無い。
「手伝っても、良いですか」
「うん。まあ、そりゃさ、倒すべきモンスターだったけど、倒したら終わりなんて……それこそ、悲しく、寂しいだろうから」
「昼顔さまは、お優しいのですね」
 首をこてりと傾げたエルピスに昼顔は「でも拙者に墓が作れるかが問題ですが」と僅かな早口で呟いた。悲しみだっていつかは癒える。心の傷を癒す時間のように。
「作れるか……あの、ルーキスさん、沙月様。よければ」
「うん。俺でよければ」
「ええ、お手伝いしましょう。その後は皆で星を眺めましょうね」
 皆が居れば直ぐだと張り切ってみせるエルピスに沙月は「アトリアの傍にしましょう」と微笑みを絶やさぬようにそう言った。美しい星雫が実る下、そのひかりを浴びる場所にそっと寄り添うように。
 きり、と冷えた空気の夜空は何処までも透き通っている。手を伸ばせば星さえ掴めそうな程の静寂に、混じり込んだ笑み。
「こんな森の中なのに、確りと空は見えるものなのねえ。街中で見るより、ずっと綺麗に感じるかな」
 嗚呼、とゼファーはさみしがり屋の霊樹の気持ちを察する様にくすりと笑う。
「でも、だからこそかしら、折角の星空ですものね。独りで楽しむには少し勿体ないかしら。
 ……そう思えば、なんとなくあなたのことが分かった様な気がするわ?」
 ゼファーの声に、そして墓を作った昼顔に何処か嬉しそうに揺らいだアトリアの。その気配。
 クロバは「答えてるのか」と顔を上げ、アルメリアとアリアは喜ぶように目を伏せる。
「今回は寂しさから負の気配を漂わせてしまったのよね。わかるわ。皆思ったより薄情だったりするのよね。今回は里の皆には私から伝えるわね。また顔を見せてあげてほしいって」
 だから、微笑んでいてとアルメリアの言葉が跳ねた。さみしがり屋は此れまでにして、これ程に星の綺麗な夜なのだから――
「夜通し大勢の人が踊って、歌う祝いの歌。キミの中の記憶が呼び起こされればいいな」
 踊りましょうと手拍子一つ。賑やかに華やかに。ステージは星空の下、アリアは唇に歌乗せて。
 人が来ない寂しさなんて、今はもういらないからと歌うアリアにゼファーが頷き手拍子一つ。
「今日は寂しがり屋さんの為に来た訳ですから。
 謳って笑って、ちょっとばかり賑やかにしてやりましょう? その為のリュートですからねぇ」
 その様子をカメラでぱしゃりととった昼顔は「エルピスさん、旅のしおりにでも……」と写真を手渡した。星雫を齧る沙月は「これは、とても美味しいですね」と目を細めて。
「旅のしおり、ありがとう。俺も準備してきたよ。
 昼間に観た景色のこと、早速記録してみたんだ。
 君の希望が叶えられて良かった。そしてまた、一緒に旅が出来て嬉しいな」
「はい、沢山の場所を知れると、うれしいですね」
 カンテラに照らされて仄かに微笑むそのかんばせに、釣られてルーキスもにまりと笑み零す。
 樹に感情があるなんて、まるで人間のよう。いのちがあるものは、こうして心を宿して話すのか。
 アトリアのことを伝えようと指先触れれば、樹はアリアの歌に、ゼファーの笑みに、喜ぶようにさざめいて。
「喜んでいるようですね」
 夜目を活かして夜を見て。笑み綻ばせて氷の華へと指先触れた。沙月の笑み綻べば、アトリアは幸せそうなリズムに聞き惚れるように言葉を呑込み風に揺れる。
「今日のところは、エルピスや私達がしばらくここで楽しく過ごさせてもらうから。さみしさを紛らわしてちょうだいな」
 屹度――これなら、寂しくないでしょうと。
 アルメリアが問い掛ける声に応えるように、揺らいだ星雫が稔の元へと落ちていく。案外、期待するのも、悪いことではないのだと、そう伝えるようにアトリアのこころが夜に揺れる。
「孤独、か」
 ぽつりと零したクロバはアトリアを見上げる.楽しげに舞踊る仲間達を眺めながら、似たような物だったかも知れないと小さく笑みを零す。
 喧噪のなかで、聞いておくれよアトリアとまるで語りかけるようにクロバは静かに声潜める。君にだけしか聞こえない、そのこころの内側を。
「家族はいたけど、ある日からずっと一人だった。寂しかったし苦しさもあったけど全部しまいこんで――だからお前にはそんな思いをさせないように、何か考えないとな、と」
 だから、と立ち上がる。夜空の樹にきらりと星が揺れている。
「夜が明ければアトリアを観光地として広めよう」
 名声高いクロバならば屹度その声も届くはずだ。「お供をしましょう」と微笑んだゼファーは頑張りましょうと拳を打ち付けて。
 虚は思いついたように振り返る。稔の諦観も総て置き去りにして。
『絶対またお前に会いに来るよ。約束するから!』
 君へと誓うように。指切りげんまんとは為らないけれど、その美しさへと微笑んで。

 もう、二度と寂しいなんて言わないで――夜のとばりに、星雫のキャンバスは幸福に彩られた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この度はご参加有難う御座いました。
 アフターアクションが『エルピスの往きたいところ』でしたのでご厚意に甘えさせて頂きました。

 皆さんのおかげできっとアトリアも寂しさを紛らわすことが出来たでしょう。
 また、気が向かれましたら会いに来てあげて下さいね。

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