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シナリオ詳細

人の肉を覚えた『獣』

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「ぎゃあああああッ!!」
「く、くそ! 護衛がいるなんて予想外だぞ、退けッ!!」
 天義の山道。駆け足で逃げるは山賊達だ。
 彼らはこの辺りを通る住民や商人を多々襲っている者達で、今日もまた獲物を見つけた……と思っていたのだが、突如謎の男が乱入。一人であったのだがこれが中々強く、割りに合わぬとみるや否や山賊達は逃げ失せて。
「あ、ありがとうございます。なんとお礼を言ったら良いか……!」
 であれば窮地を救ってもらった旅人はその者に礼を――
 言った瞬間。
「――えっ?」
 その腕が斬り落とされる。
 直後に走る激痛。なぜ、なにが、どうして!?
 助けてくれたのではないのか――痛みに苛まれながら見据えた視線の、先には。

「いやいやお礼なんていいよ。僕はね、僕の事情で彼らを斬っただけなんだから」

 振るった刃に纏わりついている血を舐める者がいた。
 瞬間に理解した。この者は己を助けた訳では無い。
 ただ、向こうの方が力があっただろうからとりあえず片付けただけで……
「さぁ邪魔者もいなくなった事だし楽しもうか」
「ひ、ひッ! やだ、誰か、助け」
 なんとか逃げようと身を翻そうとすれば、足の健が斬られた。右の次は左を。
 それは痛みを与えつつ『逃げられなく』する為の一撃。
 走れない。地に這いつくばって、しかしなんとか離れようともがけば。
「あははは――今日の獲物は元気だなぁ。嬉しいよ、さぁもっと叫んでね」
 耳元で囁かれた声に、恐怖は頂点へと達した。


「山賊と――『人狩り』を討伐してほしいのです」
 人狩り……? 天義の街に集められたイレギュラーズにそう紡ぐのは、地元の騎士団の一人。
 まず、主だった事情としてこの近くの山間部に最近山賊が出てきているらしい。山道を通る住民や商人が時折襲われているらしく、事態を把握した騎士団が討伐に出向く事になったのだが……
「問題になったのが『人狩り』の出現なのです。
 人狩りとは、その名の通り人を狩る…………賊でしてな」
 何故か些か言葉を濁らせるようにしながら、しかし話を続ける騎士。
 人狩り。彼は残虐であり人の肉を斬る感触に愉悦し、その悲鳴を酒の肴にする外道。
 それでも只の狂人なら騎士団が討伐するだけの話なのだが、奴の剣の腕は確かであるのに加え。
「騎士団の『臭い』を察知するのです」
「――臭い?」
「ええ。まぁ臭いというのは例えですが……騎士団が近くにいるのがなんとなく分かったり、或いは変装を施しても騎士であると察知しやすい奴なのです。その所為か、中々補足し辛くてですな……今まで何度も逃げられていました」
 奴が山賊と同様の山間部に潜んでいると分かったのは、被害者の凄惨な――死に方からだ。
 さてここで問題がある。山賊討伐の為に騎士団が動けば、人狩りは瞬時に察して逃げるだろう。そしてまたどこかで犠牲者を出す……かといって人狩りの方を主軸にして山間部に赴けば、今度は山賊達も逃げる動きを見せるかもしれない。
 人狩りも山賊も、等しく不正義だ。どちらも討伐したい――故に。
「成程。ローレットにそこでお鉢が回って来る、と」
「ええ。貴方達ならば実力も確かだ。まず、山間部に入り山賊を引っ張り出して頂きたいのです。人狩りは狩るべき対象がいると思えば後程そちらに出向いて来るでしょう――そこで双方ともに撃破してもらいたい」
 大人数であれば警戒するかもしれぬ故に、いつもよりは多少、少人数で。
 山賊も人狩りも撃破対象だ。一人も逃さずに――全員討伐する。
 成程それは承知した、が。
「何か隠してないか? 特に……その人狩りってヤツの事でな」
「……」
「話したくないなら無理にとは聞かないが」
 何か言葉を濁しながら話している事。
 剣の腕を知っていたり、向こうが騎士団を察知しやすい『理由』はなんだ?
「…………分かりました。お話しましょう。あまりに他言はしないでいただきたいですが……人狩りの名はウィリウスと言います。奴は――」
 一息。
「奴は元、騎士団のメンバーの一人なのです」
「……なんだって?」
「その頃から奴は些か過剰な行動が目立っていました。不正義を成している者があれば、斬る。我々の制止すら聞かなくなり段々と――恐らくその辺りから『人を斬る』感覚に愉悦を見出していたのでしょう」
 ある日あまりにも過激かつ性急であると逮捕に向かった日に奴は消えたらしい。
 その後は騎士団仕込みの剣術で――民すら斬る様になったのだとか。
 かつての同僚たちから逃れながら、己の心のままに人を苦しめている。
「奴はもう救えないでしょう。本来ならば我らの手で終わりを齎すべきなのですが……
 どうか、どうかお願いいたします」
 奴に終焉をと、騎士団の者は頭を下げて頼んでいた――

GMコメント

●依頼達成条件
 ウィリウス、並びに山賊達全ての撃破

●フィールド
 天義の山間部。時刻は昼。
 一本の山道が続いている所が戦場となります。歩いていると次第に山賊達が出てくる事でしょう。彼らの相手をしていると、暫くの後にウィリウムが乱入してきます。
 周囲には傾斜と共に林が広がっています。

●ウィリウス
 人狩りとも呼ばれる、比較的年若い男性です。
 元々は騎士でした。騎士団に属していた時は剣の腕は比較的優秀だったらしく、有望株とも目されていましたが――人を斬る独特の感触に魅入られていた危険な人物であり、騎士団に危険性を察知された頃に逃走。以後は行方を暗ましながら人を狩っていました。

 盾と剣を所持しており、防技・抵抗が高めな防御型の様です。安定した戦いを行いつつ、隙があれば針の穴を通す様な一撃を打ち込んでくる戦いを主としています。その剣筋は、残虐な行為を繰り返す人物にしては割と真っ当な戦い方をしてくるとも言えるでしょう。
 他、以下な特徴があります。
・付与で防御能力を上げつつ【反】の力を宿すことがあります。
・騎士団の者ではないか観察の後に乱入してくるようです。

●山賊×5
 最近この辺りを根城にし始めた山賊達です。全員前衛型。
 リーダーと言える人物もいないのか、各々好き勝手に行動している為にあまり統制はありません。旅人などに刃物を突き出し荷物を奪う事を多々繰り返しています。
 戦闘能力自体はウィリウスなどと比べても大した事はありません。
 逃がさないようにする事の方が重要でしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 人の肉を覚えた『獣』完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月30日 22時20分
  • 参加人数6/6人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
グレン・ロジャース(p3p005709)
理想の求心者
ルリ・メイフィールド(p3p007928)
特異運命座標
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの

リプレイ


「おい、てめえら、なぁーに我が物顔でここに陣取ってんだ? ああ!? ここがこのグドルフさまの縄張りってことを知っててやってんのかあ? 散々暴れやがって、クソ雑魚どもが! 調子に乗ってんじゃねえぞ!」
 山賊よりもガチ山賊である『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)は現れた山賊達に対して威圧的に挑んでいた――念の為言っておくがグドルフはローレット所属の山賊であり、この辺りに住んでいる山賊ではない。
 ともあれ予定通り山道を進んでいれば出てくるものだ山賊達が。
 雑に構えているナイフからはあまり闘志を感じる事が出来ない――ケッ。弱い者いじめばかりしてたタマ無し野郎どもが!
「この山には別の用事があるんだ。今なら見逃してやるから何処へなりと消えな」
「な、なんだとテメェ……! 俺達の事を舐めてやがるのか!?」
「あぁ? なんだお前ら――俺らと対等なつもりなのかよ」
 更に『我が身を盾に』グレン・ロジャース(p3p005709)もまた彼らに対して高圧的な視線を巡らせるものだ――彼らの神経を逆なでする様に。まるで同じ穴の狢同士の争いである様に。
 それは一重にウィリウスを誘い出す為のモノである。
 奴めは山賊達が襲っている途中で横からかっさらいに来る下劣畜生だ。だが逆を言えば初めから山賊達を圧倒してしまうと『奴が出てこない』可能性がある。
 潜まれたままどこぞへと消えてしまった場合、この広い山の中を探索するのは困難。
 故にあくまでも格下同士の戦いであるかのように。
 美女の前で格好つけたがりの優男が如く、不遜に偉そうにグレンは振舞うのだ――
「く、くそが! 舐めやがって……そのいけ好かねぇツラを潰してやんよ!」
「はぁ……全く。絵に描いたような三下山賊の台詞だな……」
「ともあれ『予定通り』に参りましょうかね。ええ――奴が出てくるまでは」
 吐息一つ。アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が山賊の山賊っぷりに惚れ惚れ――は別にしないが、呆れた様に零して。さすれば『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)と共に奴らを迎え撃つ態勢を。
 こいつらは問題ではない。
 問題ないのはウィリウスが出てくるタイミングと誰も逃がさぬ様にどうするか、だ。
 オーダーは全ての殲滅である。全力の出し時は――見据えなければならなくて。
 激突する。山賊達がナイフ片手にそれぞれに。
「あぁ? どうしたよんなもんか、なっちゃいねぇなオラァ!」
 直後、グドルフが吹き飛ばして――吹き飛ばした所へ、一発の銃声が鳴り響いた。
 それは『狼殺し』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)の一撃。クッキーを口に放り込みつつ、豪快に奥歯でかみ砕けば。
「んん~美味しいね、やっぱり絶品だよこれ。さーて、もう一発いっちゃおうかな?」
 更に狙う。グレン達が挑発を始めていた頃から狙撃の準備をしていたのだ――
 リコリスがいるのは少し離れた陰の中である。人数を誤認させ、かつ遠方からの狙撃で皆の援護となる位置に陣取っていたのだ。また、初撃が成功すれば次は動く。
 スナイパーの鉄則は一か所に留まらない事だ。
 一度撃てば『あちらにいる』と理解されてしまう。そして理解し、射線がバレてしまえば――回避も容易になってしまうのだ。それらを防ぐためにリコリスは動く。遠くから冷静な山賊を、或いは体力が削れている者を――食い破る為に。
「まったく。この後現れる奴の事を考えると、山賊さんの方がまーだかわいげがあるってもんですね」
 そして『特異運命座標』ルリ・メイフィールド(p3p007928)は戦闘の様子を見ながら治癒の術を紡いでいた。山賊達は曲がりなりにも生きる為に人を襲っている――いや細かい事情まで知っている訳ではないが、わざわざ真っ当ではないこんな山賊をしているのならばきっとそうだろう。別にどーじょーはしないが。
 しかしどうであれウィリウスは違う。
 奴は別に金が欲しい訳でも生きる為でもない。
 ただ己が欲望を果たす為に。快楽の為に――人を狩っている。
 屑だ。
 とても許せるものでも理解できるものでもない。
「ヒッ、な、なんだコイツら……強くねぇか!?」
「あぁ~? お前らがショボいんじゃねーかぁ?」
 直後。グレンが拳を持って山賊の腹を撃ち抜いた。
 彼の格好は騎士――の様であるが、その戦い方はまるで似合わぬラフファイト。
 どうだ? どこかで見ているんだろう? どこにいる――?
 グレンを始め、イレギュラーズ達は常に周囲を警戒していた。山賊と小競り合いが始まり、あまり苛烈に攻め立てぬ様にしつつ暫く――ただの感覚ではあるが、そろそろ出てきそうな『気配』が。
「どこかに――あるんだけどなぁ?」


 ――なんだ? あいつらは。
 ウィリウスは些か不信がっていた。いつもの襲われる商人や旅人とは異なる連中だ。
 戦う力がある様に見受けられる。が、騎士団である様な臭いではない。
「ふ、む……」
 どうしたものか。あまり無謀な事はしたくないが。
 先日も結局一人しか切れなかったのだ――自らの魂は血に飢えている。
 やるなら今。山賊達と争っている今、背後からかき乱しに出現する事だが――
「んっ? ああそうだ、ふふふっ。よし『アレ』を狙おう」
 口端を吊り上げウィリウスは笑った。
 襲うに足る丁度良い者が――一人いると思ったから。


「敵がいつも見える場所にいるとは限らないんだよ」
 リコリスは引き続き移動しながら射撃を繰り返していた。
 段々と距離を詰めながら、しかし位置はバレぬ様に動き続けて。
 後はウィリウス――どこから来るか。イレギュラーズの後方側から来るなら――注意喚起を――

「おっとぉ?」

 瞬間、リコリスは気付いた。
 自らに殺意を飛ばしている――何者かがいると。
 直後に跳躍。今いた位置から跳ぶ様に駆ければ――先程の地点に斬撃が一閃。
 ウィリウスだ。後衛として動いているリコリスをこそ狙ってきた、と言う訳か。
「ありゃ? 躱されちゃった……ああ、もしかして君は汚らしい獣だったのかな?」
「ふふ~ん? なんだいお兄さん、狩る人物にしても足取りが甘すぎないかい? 簡単な獲物ばかり狙う弱い者いじめ主義者だったのかな? バレバレだよ」
 ウィリウスの奇襲――反応できたのは獣種特有の超反射神経が故、だ。
 アレは己に対して不意打ちをする者がいた場合に本能が反応する代物。そう考えればウィリウスが狙いやすいと思って狙ったリコリスは実は罠だった――と考える事が出来なくもない。
 だってもうお前が来たと気付いたのだから。
 本来は――イレギュラーズの背後を突く者がいた場合の警告の予定だったが――

 あお――んッ!

 それは狼の遠吠えが如く。『目標』が来たと知らせる――合図の一手。
「ハッ。ついに出やがったか……ならもうお前らに構ってる暇ぁねぇな!」
「ええ――いずれにせよ貴方達を逃がす理由はありませんので、ここで潰えて頂きましょう」
 同時。グドルフとアリシスが山賊へと攻勢をかける。
 ウィリウスの位置さえ分かってしまえばもうお前達に用はないのだ。今まではそこそこ程度に抑えていたが――もう容赦はしない。叩き潰す。そしてウィリウスにだけ注視する。
「元騎士団とは、変わった経歴の辻斬りです……
 まぁだからこそかつての同僚の操作手腕を知り、掻い潜っているのでしょうがね……」
 アリシスが行使するのは邪悪を払う術式が一つだ。山賊へと打ち放ち、ウィリウス――狂気にあった騎士の討伐をローレットに託した騎士団の判断に些かの思考を。
 彼らにしてみれば自らの手で断罪をしたかった相手の筈だ。
 それを外部のローレットに苦渋を呑んで頼むとは……どれ程の葛藤と悔しさがあった事か。
「利よりも実を取る騎士団の判断を褒めるべき――ですかね。
 ……ならばこちらも彼らの信に応えるのが筋というものでしょう」
 ここで逃せば一体何のために彼らに代わって依頼を受けたのか。
 逃がせぬ――故に山賊を吹き飛ばして数を減らしていき。
「ヒッ。ヒィ! 冗談じゃねぇや! こいつらタダモンじゃねぇ……!」
「――今更気付いたのか? まぁ、そうでなくては色々困る所だったが」
 さすれば逃げようとする山賊も出る者だ――が、そこはアーマデルが即座に対応を。
 斜面を下って逃げようとするならば地を這う様に滑空し、その刃を割り込ませる。そして奏でるのは――音色だ。それは志半ばにして斃れた英霊が残した、未練の結晶が奏でる一幕。
 怨嗟が力となりて、物悲しく、そして狂気を秘めた不協和音が――山賊達を襲うのだ。
「失せろ。ああ、この世からな」
「ま、待てよ! さっきは見逃してやるから消えろって……!」
「んっ? ああ――ありゃ嘘だ。お前ら全員を逃さないのもオーダーなんでな」
 彼らの動きを縛る呪い。さすればアーマデルはまた一人とその命を穿って。同時、グレンは力なく傾斜を落ちていく山賊の遺体を眺めればオーダーの達成を確認する。
 やはり――山賊達の直接的な戦闘能力は大したことはない。しかし、最初から全力を見せていた場合やはり『逃れよう』とする動きを早期から見せていた事だろう。今、臆面もなく逃げ出そうとした様子から見ても簡単に推察できる。
 そしてそうなった場合ウィリウスも出てこなかった筈だ。
 ここまではイレギュラーズ達の思惑通りに事が運んでいる――後は。
「あなたをどーやってボコボコにしてやるかって所ですかね」
 リコリスを襲っているウィリウスをどうするか。
 リコリスはイレギュラーズ達のいる側へと下がりながら射撃を続けていた。流石に近接に特化しており、盾を持っているウィリウスの防御を突破するのは容易ではなく――些か押されている様であったが、ルリが間に合えば彼女の治癒術がリコリスへと注ぐ。
「チッ――あともう少しで狩れたのに、邪魔しないで欲しいなぁ」
「狩れた? 何をチョーシに乗ってるのかな?
 お兄さんの狩りの趣味が詰まらなくて欠伸が出そうなくらいだったんだけど?」
 舌打ちするウィリウス。しかしその表情にはまだ余裕が漂っていた。
 まだ勝てるつもりであるのか――? 山賊達が殲滅されれば一対六になるというのに。
「何。全員に勝つのは無理でも、一人ぐらいは殺しておかないとね――僕の魂が落ち着かないんだ」
「はっ、人斬りが趣味とは、ご立派な趣味を持つ騎士様だぜ。
 処刑人か拷問官にでも転職したほうがよかったんじゃねえか?
 最近じゃアドラステイアって転職先もあるみてーだしよッ!」
 そしてグレンもまた合流すれば、リコリスの前へと往く。
 これ以上は切らせまい。追いついた以上は――!
「俺の『盾』を超えれるか? 騎士様よぉッ――!!」


 ウィリウスの構えは堅牢かつ、刺突の一閃が鋭かった。
 常に焦らず攻撃を裁いて此方の隙を伺ってくる。
 一寸でも油断すれば肉を抉らんと剣筋が軌跡を描いて。
「――硬いね。なんとも、亀みたいだよ」
「おおそうかい。そいつは侮蔑のつもりか? 下手糞すぎて欠伸が出るぜッ!」
 それでもグレンもまた堅牢な要塞であるかの如くだった。
 自身を満たす不滅の概念がより守護の力を高めているのである。そしてその『防』は何も自分の身を護る為だけに注がれるものではない――リコリスやルリ。後衛を担う者達の身を害させぬ為にもあるのだ。
 決死の盾は崩れぬ領域として此処にある。
 ウィリウスの剣は決して甘いものではないが――それ以上にグレンは砕けないのだ。
「ああ苛つくなぁ苛つくなぁ。どうして斬らせてくれないんだい? 僕はただね、ずっと自分に気持ちよくいたいだけなんだよ――騎士団に居た頃からそうだったんだ」
 同時、ウィリウスは語る。己は国に尽くしていたと。
 己は反逆者を、不正義なる者だけに害を与えていた。
 その過程で己が『趣味』をほんのり、ささやかに挟んでいただけだったというのに――
「僕の何が悪いんだ。奴らは罰される存在だった。罰される奴を罰して何が悪いんだよぉ」
「――己の強さや掲げる大義に溺れる者は何処にでもいるものだが……それなら騎士団を抜けた後も同じことをやり続ければ良かったのだ。お前がやったことは、歯向かえぬ相手を斬り、己が愉悦を満たしただけではないか」
 その時、現れたのはアーマデルである。
「性根が外道なのだ。騎士より車軸回しの方が余程向いてるんじゃないか?」
「――なんだと?」
「戦いを楽しむのと殺しを楽しむのは違うという事だ。お前に理解が出来るかは分からんがな」
 跳躍、すれ違いざまに一閃。
 ウィリウスの腹――浅いが、確かに斬った。
 まぁ、なんだかんだとは言ったが、己は己で暗殺者であるが故に――あまり人に高尚な事も言えぬのだが、それでもお前と同じではないと思えばこそ出る言葉もあるものだ。
「まー話を一通り聞いた上でも、別にどーじょもなにも出来るもんじゃなかったですね。予測通りといえば予測通りですが……凄く遠回しに言うと、ここがおかしいんじゃねーですか?」
 ルリは治癒の術を変わらず振るい、グレンの身を援護しつつ――ウィリウスに対して己がこめかみを指差しながら彼の人生に対する感想を。全くふざけた元騎士様である。こんなのですら騎士に成れるとは……と。
「ハッ、騎士サマのご登場かい?一足遅かったねえ。ここの山賊どもは全員オネンネしてもらったぜ……ってオイオイ、何だよ。なんでこっちに剣向けてんだあ? やめてくれよぉ。おれさまは悪ゥい山賊じゃねえぜ?」
「戯言だね……もう分かってるよ。騎士団の連中が僕の討伐を依頼したんだろ?」
「ハッハ――!! なんだちゃあんと分かってんじゃねぇか、お前はいらないって言われてる事がよぉ!」
 そしてついにグドルフもウィリウスの下へと。
 ウィリウスは加護を用いて自らの守護の力を高めている――だからこそ放つのはクロスボウだ。これ自体はその御自慢の盾で簡単に止められるだろう、が。
「……なに!?」
 その加護さえ剥がす事が出来れば――結構。
 要はお前を万全な状態にさせなければ良いだけの話なのだ。
 ウィリウスが初めて焦ったような様子を見せる――!
「人を斬る事に躊躇いが無いのは才能ですが、騎士団に入ってしまったというのは……己が運命の渡し所を過ちましたね。異端審問のやらの様に違う『部署』でならば、その才能を謳歌する機会もあったでしょうに」
 なぜそんな性質で正しき道を歩んでしまったのかとアリシスは言う。
 不運か、或いは自分の道を探さなかった怠惰が故か。
 ――いずれにせよもう過去は戻らない。
 だから、貴方はここで断罪されるのです。
「クッ……! 馬鹿な。僕は狩る側だ! お前達は狩られる側なんだ!
 ずっとそれでうまくやり続けていた! それが、こんな所で……!」
「はぁ~……お兄さん、狩りの趣味が本当につまらないよね。『狩り』ってさ、そんな簡単でも甘っちょろいモノでもないんだよ。獲って喰う事ばかり考えすぎて”獲って喰われる”事を忘れちゃったのかな?」
 アリシスが紡いでいる光の刃――アレに当たる訳にはいかぬと動く、その動きをリコリスが牽制して。
「狩りってのはあくまでも対等な戦いなんだ。一歩油断すれば獲物に喉笛を噛み砕かれる……そんな緊張も持たないお兄さんじゃ、きっとどこかで死んでたよ。さ、これが肉を切らせて骨を断つ様な無骨で野生的な戦いのお手本だよ。よ〜く見ててね――お高く止まった人間サマ!!」
 リコリスより溢れるは食欲という本能。
 それはあらゆる生物に備わりしモノにして、暴力。
 一度吹き出せばもはや止まらぬ。満たされるまで、例えば自分の身が傷付こうとも。

「なるほど、今のボクは同族殺しを狩る同族殺し。
 これってつまり同族殺し殺しってことなのかな?」

 言うと同時、アリシスの光刃が射出。空を切り裂き盾を砕いて――
「く、ぁ、う、うわああああああああ――ッ!!」
 無防備となったウィリウスの身肉へと――狼を殺す狼の牙が、突き立てられた。
 その有り様はもはや捕食の段階。
 数多の人々を無為に殺し続けた人狩りは今日……狩られたのだ。
「ハッ……全く獣らしい似合いの末路だね」
 もはや武器は必要ないかとグドルフは仕舞いこみ、ウィリウスの末路に言を一つ。
 だがなんにせよこれで近隣を騒がせていた人狩りの悪夢は終わった。

 人の肉を覚えた『獣』は、人によって確かに打倒されたのだ――

成否

成功

MVP

なし

状態異常

リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)[重傷]
花でいっぱいの

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。

 彼の有り様はとても騎士ではないものでした。
 或いは、リプレイ中にもあった通り『それなりの部署』にいたのであればまだ天義の為に尽くしていたのかもしれませんが……しかし狂った者は捨て置けません。
 ともあれこれでこの地域の平穏がまた訪れるでしょう。

 ありがとうございました。

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