シナリオ詳細
再現性東京2010:こたつから出たくないでござる!
オープニング
●寒い!
希望ヶ浜にもそろそろ冬本番。
コートを着た生徒や、マフラーをつけている生徒。カーディガンやタイツなどの装いも増えてきたことがわかるだろう。
「うぶうっ、寒寒」
練達の技術によって再現された「冬」の気温は、旅人たちの故郷の記憶を参照して適切な、つまりは……「かなり寒い」と思える程度の気温を演出していた。
これもひとつの日常の形。
練達の技術によってつくられる、ありふれた四季である。
「野球部ー」
「おーっ!」
それでも元気なのはさすが運動部といったところだろうか。
今日も今日とて、校庭には練習の声が響き渡っている。
朝練を終えた生徒たちは真っ赤な鼻で、手のひらをこすり合わせて部室へと戻っていくのであった。
「おー、お疲れ~」
「うっす!」
凍えた後輩を迎えたのは、3年の先輩たちだった。声ばかり聞こえてくるが一向にやってこない。
「まあまあ、おまえたちもこっちにきてみなさい」
先輩方は、卓を囲んでいる。四角形の円卓にふとんをかぶせたもの……まあ、つまりはこたつだ。
「こたつだ! ひゃっほい!!!」
部員たちは次々とこたつに潜り込んでいくのだった。
総勢20人を超える部員たちを飲み込み、こたつはぐんぐんと伸びてゆく。
「あれなんでこんなところにこたつが?」
「さあ? きっと誰かの忘れ物だよな」
「「「あったかーい」」
生徒たちは深く考えることをやめた。
●こたつぬくぬくこたつ目おふとん科
「たいへんなのです! 希望ヶ浜で、生徒たちが次々と脱水症状を起こしているのです!」
ばばーんと現れた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は……ぬくぬくとしながら教室に現れた不自然なこたつにうずもれている。
なんということだ。既に手遅れだったようだ。
どうやらこの「こたつ」は。人々の警戒心を緩める効果もあるらしい。それに上のかごからはミカンが無限にリスポーンするという代物である。
「どうして脱水症状を起こしているのか……むぐむぐ……全く謎なのですよ。ボクの調査によると、むぐむぐ……これは絶対に、ごくん。ヨルが関係しているに違いないです!
あ、調査するならついでに飲み物とってきてくださいですよ」
ユーリカはもぐもぐとこたつで和みながら、言葉を続けている。だめだ、はやくなんとかしないと……。
- 再現性東京2010:こたつから出たくないでござる!完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年12月05日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●待ってるからねっ!
「あら、こっちにいるの?」
『刑天(シンティエン)』雨紅(p3p008287)はaPhoneを片手に、『蚩尤(チーヨウ)』月銀(ユェイン)からの返信を待っていた。
書き込み中を示すアイコンが何度も点滅しては消える。
「明日買い物付き合って欲しいわ。ついでに雨紅に似合う服も見繕いたいの」
時間の割には簡潔な文章。
一生懸命に言葉を選んだのだろうと、思わず笑みがこぼれる。
「明日なら予定も空いていますし大丈夫ですよ。月月とのお出かけ楽しみにしてますね」
「ぜったいよ? 遅れちゃだめだからね?」
約束をすっぽかすなんてことが……。
あるはずが……。
●まどろみ
「はっ……! ラヴィ様、今、何時ですか!?」
「大丈夫、寝過ごしていませんよ」
『魔法少女』ラヴィ(p3p009266)はaPhoneの画面を見せる。
「ああ、よかった……」
約束は明日。
雨紅はこたつにつっぷしかけて慌てて首を振る。
今日を耐えきれば問題はない。
(実際に入るとこれは……排除し難い……。しかし心を鬼にしなければ……)
「待っていろよ、ユリーカ!」
ユリーカを助けるべく、こたつにずぼりと足を入れる『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)。
「今、助けてやるからな!」
3秒かけて、ふにゃりと溶けるねこ。
「すまん、皆。
ねこにコタツは、特効レベル……ッ!」
『しあわせ紡ぎて』ニコル・スネグロッカ(p3p009311)は、幸せな光景に目を輝かせる。
次々とこたつに飲み込まれていくイレギュラーズたち。
「成程、コレがかの炬燵……実物は初めて見ました」
『痛みを背負って』ボディ・ダクレ(p3p008384)のモニタがぴかりと豆電球を示す。
「外気で頭部も冷えてしまいましたし丁度いいですね。差し入れを持ってきましたので、皆様、よろしければ」
「ありがとう。炬燵は幸せのカタチの一つよね」
ニコルはほんわりと笑みを浮かべる。
「これにはいっている人は、みんな一様に幸せそうだもの」
「人の笑顔と言うのは良いものですよね」
「そういう意味ではこたつはライバルとも言えるのかもしれないわ!」
「なるほど……?」
雨紅は思う。
人々を笑顔にするこたつはライバルなのかもしれない。
「ええ、ええ、そうとあらば、ここで負けるわけにはいかないわ!」
「はい……!」
「こたつ……故郷では上位の方が冬に利用していましたが、私は使用を許されておりませんでした」
やってきた『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)は冷静にこたつを見つめている。
『焦失』天使 黒重(p3p009257)もまた、こたつを冷たく見据えていた――というわけではなく、内心は依頼を成功させようと意気込んでいたのだが。
(初めての依頼で少し緊張するけど、出来ることをしっかりやろう)
……吸い込まれていった先輩のためにも。
(馬鹿な……コタツを目の前にして……正気を保っている、だと!?)
愕然とするねこ先輩。
「相談の時に簡単に使わせて頂いた感じでは、そこまで危険な物とは思いませんでしたが。入っても大丈夫そうですよ」
「そう? ……じゃあ、入っちゃおうかな……」
瑠璃はさりげなく黒重を気遣ったのかもしれない。
「それで、えっと……どっちのこたつが討伐対象なのかな?」
その部屋に――こたつは、二つあった。
「炬燵だと? 自分を差し置いて炬燵を名乗ろうとは片腹痛いぞ! 腹はないが!!」
『人を駄目にする炬燵』万能炬燵(p3p007480)はわさわさとうねりをあげ、ヨルを壁際に追い詰めていた。
ヨルも負けてはいない。ぎゅむぎゅむと押し返してくる。
「ぐぬおおおおお」
(ばたんばたん)
ぬくもるイレギュラーズをいたわりながらも、布団の下ではこたつ同士の熾烈なテリトリー争いが行われていたのだ。
どちらが真のこたつであるのか……。
「そういえば、私茶葉を持ってきていまして、ボディ様のお菓子にあうのではと」
雨紅が立ち上がりかけた時、万能炬燵の触手がばしゅっと伸びてやかんをとった。しかも器用に注いでくれる。
「あ、ありがとうございます」
「む、こちらは冷え冷えモードがある……」
誇らしげに布団をふっくらさせる万能炬燵。
負ける要素がない。
……本格的にだめになるのでは?
こたつは温かくて心地良くて……抜け出したくなくなる。でも、流石に実害が出てる状況は放っておけない。ヨルである以上は倒さないといけないのだ。
(もうちょっと後で……)
黒重は決意を固めていた。
●灼熱のこたつバトル
こたつたちは、よりどちらが人をダメにするかで競い合うことにしたらしい。
「……しかし、コレはとても暖かく快適だと判断します」
蜜柑を剥くボディ。
素早く万能炬燵の触手がチラシで折箱を作り、皮を放り込んだ。ただの炬燵にはできない芸当だ。
「ありがとうございます。こたつというのは、そんなものも可能なのですね」
「”万能”、と言うことだ」
「……いや、普通、無理だよ?」
そっと突っ込む黒重。
「……無理だ……」
この濁流がごとき眠気に逆らうことは無理だ。
ならば、いっそ一度身を任せればいい。
「く、まずい。もう既に眠ムニャムニャ」
汰磨羈が倒れた瞬間、万能炬燵により座布団がしゅぱっと飛んでくる。
「ぬぐぐ……せめて、aPhone10の目覚ましアラームをセットせねば!
うおおおお動け指! 働けマイ脳!」
ねこまた剣士は手を伸ばす。
どたどたどたと触手がリズムよく背中にマッサージを繰り出し、そのリズムはゆっくりになる。
「……よし、アラームセット! 私がどうしても起きない時は尻尾をギュっとしてくれ! それで飛び起きる筈だ! では、後は頼m」
スヤァ……。
ログアウト。
ぽんぽんと汰磨羈の背を叩く万能炬燵。
「私も、もし起きなかったら容赦なく叩き起こしてくださって構いませんので」
aPhoneのアラームを仕掛ける雨紅。「待ってるからね」……ログのメッセージに決意するように頷いた。
「おやすみなさい」
ニコルがそっと微笑んだ。
――幸せな夢を。
「夜を過ごす用意をしてきました」
ボディが取り出したのは愛読書だ。
「わあ、私も本を持ってきましたよ」
「『簡単!モンスター飯レシピ』……。知らない本です」
「読みます?」
「炬燵で本、こういった楽しみもあるのですね、初めての知識です。
この場にどのようなお菓子がふさわしいのかは、まだ情報が不足しています」
「ふふ、『こんなこともあろうかと!』アイスを買ってきておいたのよ!」
「アイス、ですか」
「わぁ、嬉しいです!」
「炬燵で食べるアイスは背徳の味というけれど、実は炬燵に入るのは初めてだから体験したことはなかったのよね!
冷たくて目も覚めるし、美味しいし一石二鳥というやつではないかしら!?」
「成る程……これは新感覚、ですね」
教わってビスケットにアイスを挟んでみるボディ。機械ゆえに味はよくわからないが、なんとなく納得をした。
「あ、皆さんも食べます? 色々買ってきたのでお好きなものをどうぞどうぞ
なんとかダッツとかレディなんとかとかなんとかカップとか」
「いいんですか? イチゴにしますね」
「別に。僕はなんでも……」
「スタンダードにバニラはどうかしら」
「うん。……ありがと」
「私は、カードゲームを持ってきました。瑠璃さんも一緒に遊びますか?」
「私は……そうですね、カードを配りましょうか」
思い思いに過ごすイレギュラーズ。
「うーん、でもアイスだけでは限界があるわ。そうそう、aPhoneって色々遊べるんですって?」
「ああ……これはパズルです。一人でやるものもありますが」
瑠璃がアプリを見せてくれる。
「たのしそうね! 見せて見せて」
瑠璃はいくつかのゲームを紹介する。画面内にパカダクラを積み上げていくやつとか、棒を引っこ抜く順番を間違えたらマグマが降ってくるやつだとか……。
(結構、得意かもね)
リズムゲームで、初見でなかなかのハイスコアを出す黒重だった。
●おっきろー!
「そろそろ交代の時間ですね」
瑠璃がそっとアラームを止めた。誰一人として起きては来ない。
「もうこんな時間……ですか」
起こすというのか。この気持ちよさそうに寝ている人たちを……。
いや、依頼のためだ。
「えーい!」
ラヴィのアシカールパンツァーがド派手な音を立てる。ボディの星夜ボンバーがそれを彩った。
「起きてくださーーい!」
ニコルが叫ぶ。
「……ふにゃ」
「おーい、起きる時間ですよー」
「……」
「おきろーーーーー!!!」
「ぐう」
「ひんやりしろ!!!」
「んんん」
アイスを押しつけられた雨紅。
「みぎゃあああ」
ぎゅっと尻尾を握られ、汰磨羈先生の悲鳴が響く。生徒にはとても聞かせられない。
「ついに寝る番ね!
いざいざ、至福の時間へ!!
おやすみなさーい!」
ニコルは布団へin。すやすやと幸せそうな笑みを浮かべている。
「ご、ごほっ、なんですか、これ……!?」
雨紅はわさびの刺激臭にむせかえっていた。
「お造りです」
「どうしてですか!?」
「食べ物を無駄にしてはいけませんので」
瑠璃はすました顔で大皿をこたつに乗せる。
「切れ味がすぱすぱですごかったんですよ!」
「どうして……あ、おいしい」
●VS眠気
「お疲れですか?」
「問題はありません」
皆がほどよくまどろみ始めても、瑠璃は微動だにしていなかった。基本的に睡眠が要らないボディもまた起きている。
平常心。正座の姿勢を崩すことはない。
諜報集団の生まれにあって、……幼少の頃はかなり厳しくしつけられたものだ。
(どうしたらもう少し過ごしやすくなるのでしょう)
無理矢理に形を変え、引きずり込もうとするヨル。
しかし、万能炬燵はヨルを止めた。
それが瑠璃の過ごし方のスタイルだというのならば。
本当に入ってくれる人のことを考えるというのならば……。
こたつをたのしんでくれるのなら、それでいいのだ。
「ふにゃあ」
「!」
またこたつに戻っていく汰磨羈を、黒重はそっと翼でくすぐってみた。
「へっくしゅ! む、むむむ。翼? うむ。目が覚めた。有り難う」
「それじゃ、おやすみ」
ぷいとそっぽを向くのは照れ隠しだ。
万能炬燵はじっとそれを見つめていた。
羽毛にも改善の余地があるかもしれない。
「んぬ、何とか起きられたか」
顔をくしくしとする汰磨羈。
「しかしこう、なんだ。深夜ともなると腹が減らないか?」
「ニコル様のアイス、食べて良いそうですよ。私たちのものまで用意してくださるなんて……」
うれしそうな雨紅は、どうやらいつもよりもテンションが高い。
「デザートはいいな。あとでいただこう」
「あとでということは何か案が?」
「……家庭科室から持ってきたコンロだ」
「!」
「これで、私が持ってきた肉じゃがと熱盛アヒージョを温めて食おうではないか」
「お造り、おいしいですね」
雨紅は器用に箸をあやつる。
太刀筋が全て均質で、薄い。
ただ者ではない。
(……イイ感じに煮えてきたか?)
「よし、では頂きまsアッヅイ!?」
猫舌に直撃する鍋。
万能炬燵がぱたぱたとうちわを仰いでくれていた。
「辛、辛いですねこれは」
「……舌がヒリヒリスル」
若干涙目の汰磨羈であった。
「あー……負けてしまいたね」
ジョーカーを引いてがっかりする雨紅。それでも、紅鏡の仮面の後ろには豊かな表情が見える。
触手は誇らしげに最後のペアを披露した。
「ふふ、こうやってわいわい遊ぶのは初めてです」
「いやしかし、これはいかんだろう、これは。飛んで炬燵にいる冬の猫とは、正にこの事か」
ここが自分の居場所だったような気もする。
「うう、だがしかし。この逆境に打ち勝つ事が出来れば、私は一皮むけた猫になれるに違いない」
(大晦日から炬燵でぬくぬくしながら年越しそばを啜り、そのまま初詣に行くこともなく、だらだらと寝正月を決め込むようなだらしない猫から進化するのだ、私は)
いつぞやの正月は。そのまた前の正月は。
かくりと落ちかけた頭を引き上げ、ブンブンと振る。
「大丈夫だ、耐えろ私!
これを乗り越えれば、正月を健康的に過ごす力が手に入るのだァーッ!」
「!」
蚊の鳴く声に遭わせて、素早く両手を打ち合わせた瑠璃。
「あ。私です」
雨紅のものだ。
「失礼しました。皆様も起こしましょう」
「茶を啜ってる場合ではないッ!」
うおああああサラバ温もり!!
いい温もりだったぞ、夜妖コタツよ
せめてもの礼だ。一太刀で楽にしてやろう!」
●決別の時
こたつは無理やり出ようとする仲間たちを押しとどめようとする。
それが、ヨルと万能炬燵との大きな違いだった。
(違う、それは違うんだ)
万能炬燵は、触手でこたつの足を押さえつける。
――もしも、出会う形が違ったなら。
だが、もし。
かなうというのならば。
なあ、ヨルよ。
万能炬燵は語りかける。
(そろそろこの炬燵はみっちり触手が入っててつらかったんだ。宿を変えるなら生きてる炬燵、しかもある程度大きさを自由に変えられる君はうってつけじゃないか。そうだ、ならば夜妖。君と自分を合体させてみないか。自分がいればギフトで冷やすことも可能、年中無休で人を駄目にすることができるのだ!)
「君とは友情を感じていたのだが。もし悪さをしないで自分の宿として一部になってくれるのなら、自分は迎え入れよう。自分は君が欲しい!!」
「……!」
ばたばたともがくヨル。
「炬燵で寝ることは、最悪、死に至ると本で読みました。
なら、いくら快適だろうが夜妖の排除を遂行します。命に関わることは止めましょう」
立ち上がったボディの体が加速する。
計算されつくした動き。
そのままの威力で、ブルーコメット・TSがヨルにさく裂した。ふらふらとするこたつ。もう一発、繰り出される攻撃はこたつを恍惚のうちに閉じ込めた。
「……うーん、もう一眠り……
…………。
ってダメよダメよ!」
ニコルは誘惑を振り切った。
「幸せをお届けするわたしが幸せにされてどうするの!
あなたのような強すぎる力を持った者は、今ここで倒してさしあげるわ!」
アクセルビート。人々の幸せのために。笑顔のために。突き動かされるように衝動が胸の内にある。
「炬燵さん、出会い方さえ違えば仲良くできたかもしれないわ……でも、私たちは戦うしかないのよ!
さようなら!」
あたたかな布団に、決別を。
雨紅のディープインサイトが、こたつの弱点を導き出す。アデプトアクションがこたつを阻んだ。
凍結。それはヨルの動きを鈍らせる。惑わしのうちに……。
「ラヴィ様!」
ラヴィはこたつから距離をとる。
魔法少女。魔術には慣れている。きらりと光った破式魔砲が、こたつを思い切り吹き飛ばした。
なおも起き上がるヨルに、万能炬燵が絡みつく。
「っ……! 炬燵様!」
「炬燵さんっ!」
「炬燵は人に仇なしてはならない。人を駄目にはするが、人を無理矢理そこに入れてはいけないのだ」
「その心意気、受け取りました」
射干玉が狙うはヨルの動力部……ではない。
それを覆っている布団の部分だ。
こたつの最大の武器はあたたかいということ。ならばぬくもりを失ったこたつはどうなるか。敷き布団を縫い止める一撃が、大きく破いた。……ヨルの方だけを。
(暖房器具としての意味を無くして差し上げます)
膨らんだ炬燵がしぼんでいく。
今が、好機かもしれない。けれど、黒重は冷静にその場にとどまった。
(僕の役割は、突出しないこと)
功を焦って無理をしないこと。
シャドウステップを踏み込み、生存の確率を上げること。
ふわりと、翼が羽ばたいた。そしてそれは正解だった。放たれる熱気。
万能こたつをはねのけ、雨紅に覆い被さるヨル。
「うっ……」
「雨紅さん!」
「大丈夫、今助けます!」
「だ、だめです……出なければ、約束が果たせない……!」
月月と一緒に、洋服を見繕うのだ。
一歩、一歩這い出していく。
万能炬燵ががっちりと、それを捕まえていた。
「さて」
汰磨羈は太刀を構える。
太極律道・斬交連鎖『刋楼剣』。温(ぬくい)と冷(ひえひえ)を分けるもの。
●さらばこたつ、そして――。
ボディを突き動かしているのは、Program:Accel……匣に刻まれた電子術式。計算で導き出された動きは鋭く。速く、無駄がない。
雨紅の刑天はヨルの突撃を華麗に受け流す。
そのステップは瑠璃の開けたこたつの穴を否応なく広げていく。
瑠璃の瞳法毒眼竜が、こたつを再起不能に追い込んでいた。何度も何度も立ち上がろうとうごめくこたつは、飲まれる。――もう、熱を出す力もないのだ。
「いきます!」
ラヴィの魔力撃に、ムーンライトドレスははためいた。
「煩悩、絶つべし!」
汰磨羈の放った一撃はまだ終わっていない。太刀筋は幾度も幾度も重なりヨルを貫いていく。
「せーのおお!」
ニコルのソニックエッジがこたつを押さえつけた。
黒重は深呼吸をひとつ。そして、太刀筋を。広がった傷口に叩き込まれる太刀筋に、一つ追加した。
「今だ、自分ごとやれぇぇぇぇ!!!! あ、やっぱやめ」
「その覚悟、しかと受け取った!」
こたつが、ぴかりと輝いた。
「!?」
「……!?」
「こたつ……?」
「万能炬燵さん!?」
汰磨羈の一刀は、すさまじく正確なものだった。
こたつをヨルの部分と、そうでない部分に分けるような……。
ヨルはそこにあった。
いや、万能炬燵――コタツ憑きとなった新たなこたつ。
よく見れば布団が変わっているだけかもしれないが、……打ち勝ったのだ。そして、ちょっと大きくなった。
「事は成ったか」
汰磨羈は納刀する。
「もしかして……万能炬燵さん?」
ラヴィの呼びかけに、頷く。
しゅるりと伸びてくる触手。
「これからも炬燵に入れるってことなのかしら?」
返事の代わりに触手がしゅばしゅばとお茶を入れていた。
「あのヨルは、生まれ変わったんだね」
黒重がつぶやく。
「これでみんなはもっと幸せになれるわね!」
ニコルがぱっと笑顔をみせる。
「こちらの残骸は……ここでは大型ゴミでしたでしょうか」
「そう分類されるようですね」
てきぱきと後片付けをする瑠璃とボディ。
「こたつ……恐ろしい敵でした……」
雨紅は空を仰ぐ。一度こたつでぬくぬくした後は、外がより寒く感じてしまう。そんなときにこのこたつがあれば……いやいや。戻ってはいけない。
あのヨルは、未熟だった。
万能炬燵は振り返る。
もし出会い方が違えば友となっていたかもしれない。あるいは自身が都市伝説となっているような道もまたあったかもしれない。
彼は……自分とともにここにいる。これからも人々を温め、そしてほどよく冷やすだろう。
幾人もを炬燵無しでは生きていけない体にするだろう。
炬燵の夢はまだ始まったばかり――。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
炬燵が増えました。
GMコメント
布川です。
このOPを読んでいると言うことは私は
ほか
でられな
●目標
ヨル<魔暖房器具コタツ>の退治
・寮でこたつとともに一夜を明かす
・コタツの支配からの脱出(討伐)
なおユーリカちゃんはフレーバーなので助けなくても大丈夫です。
●登場
コタツ
異常性を帯びたコタツです。
ほかほかで大変居心地が良いです。
人数によって伸縮し、大きさを変えますが、一般生徒が疑問を抱くことはない不思議な物体です。
見ているものに安心感を与えます。
ついうっかり入ってしまって、戦闘中にまったりしてしまうかもしれません。しかしHPにダメージをじわじわと受けてしまうのです!
神秘的に、精神的にダメージを与えてきます。
うっかり寝ないように注意します。起こしてあげてね。
全員寝てしまったら失敗です。
●お泊まりパート
このこたつは寒がっている人間の前に姿を現します。
こたつを油断させるために、まず寮でみかんを食べたり、だらだらとテレビを見たり、aPhoneをいじったりして十分にまったりしましょう。
おやつがあれば嬉しいですし、飲み物があるとダメージを軽減できます。
なお、一度入ったら出られないわけではなく、ふらふらと戻ってきてしまう感じです。安心ですね。
●支配からの脱出
夜を明かしているうちにはたと気がつきます。こんなことをしている場合ではないと。
コタツから脱出します。仲間も引きずり出して戦闘です。
こたつは覆い被さってなんとか寝かせようとしてきます。
●その他
この依頼の情報精
A
ねむ
すや
Tweet