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シナリオ詳細

Bal des Ardents

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「モンタルバン卿が?」
 聖騎士団のある一室、声を潜めてそう言ったリンツァトルテ・コンフィズリー(p3n000104)に「残念ながら」と呟いたのは仮面の男であった。
 仕立ての良い衣服に身を包んでいた男の傍らでは煙草を吸う――禁煙!と叱りつける見習いに小さく笑っている――サントノーレ・パンデピス(p3n000100)が立っている。
「証拠としましては此方が。然し、あなた方が彼の捕縛にと言うわけには行かないでしょう?」
「……確かに。モンタルバンの家は聖職者を代々輩出している上に、彼の厄災の際には多額の寄付と住民への支援を行ってくれていた。そんな家門を罪人として聖騎士団が捕縛するのは――」
 小さく呟いたリンツァトルテに「簡単に捕まえた! ではいけないのですか?」と桃色の眸を瞬かせるイル・フロッタ(p3n000094)は問い掛ける。
「無理だ」
「……ですよね」
 イルとて簡単に全てが解決するとは思って居ない。『一方的な』善悪だけの簡単な裁定だけで國を回していた過去より脱出したというのに『神の徒として悪と断ずる』とすればまた彼の時代に逆戻りで或る。
「で、でも……、放置しておけばまたあの『裏オークション』があるってことですよね?
 女の子が売られたり、奴隷が沢山売買されたり……私は、そんなの、酷いと思う」
「ああ。俺だって思うさ。そも、それ自体は重罪だ。だが、相手が貴族であるとなればある程度の段階を踏まなくてはならない」
「でも――!」
 その段階を踏む間に時間が経過してしまう。そして、犠牲者が増え続けることだって――

「……で? わざわざ俺に『リンツァトルテへと逢いたい』って依頼して来ておいて『捕縛に時間が掛るから諦めましょう』って話をしに来たのか」
 サントノーレの言葉に仮面の男は首を振った。そもそも、彼が此処にいるのはサントノーレが連れてきたからで或る。彼がそう易々と友人に『悪人』を会わせるわけがない。
「いいえ。モンタルバン卿を捕縛することは難しいでしょうが、その取引相手ならば様に捕縛できるでしょう。
 彼の取引相手には闇商人やマスケティア、各地の私兵部隊の残党が多く居ります」
「けど、モンタルバンを何とかしなくてはならないんだろう?」
 イルに仮面の男は頷いた。一つ一つ、小さな事件を解決するだけでは時間が掛りすぎる。大元で或るモンタルバンへと何らかの対処をしなくてはならない。
 ――実のところ、此の段階でサントノーレとリンツァトルテは『男の希望』が何であるか分かっていた。だが、其れをはっきり口にすることが彼等に憚られたのだろう。
「聖騎士団が動けないのならば、お二人には『仲の良い繋がり』があるではないですか」
「……仲の良い……? ……あっ」
 イルははっと口を押さえ、リンツァトルテを振り返る。彼は大きく頷いた。
「ならば、俺達とローレットで協力しろ、と言うことだろう。
 取引相手の身柄はローレットより聖騎士団へ引き渡す。そして、モンタルバンは彼等に――」
 先輩、と止める声にリンツァトルテは首を振った。そもそも、彼等のスタンスは『何でも屋』である。そして、これは強要するのではなくあくまでも『依頼』の形だ。
「はい。モンタルバン卿及び彼の私兵を暗殺して欲しいのです。
 ……此の儘放置しておく訳にはなりません。どうか、神の名の下に――素晴らしき、未来があらんことを」


 翌日、リンツァトルテの呼び出しに応じることになった六名は以前、仮面舞踏会に潜入したイレギュラーズ達である。
「あの裏オークションの『主催者』の暗殺をお願いしたい、そうだ」
 リンツァトルテの言葉に頷いた仮面の男は「宜しくお願いします」と微笑んだ。その身形の良さから貴族であろうことは分かる。だが、リンツァトルテもイルも「仮面の君」などと彼の名を呼ぶことはない。そもそも、彼等も正体を知っているのかは不明で或る。
「……あの、皆が、もし、殺したくないなら。私が……」
 イルがおそるおそると口にした言葉は――屹度、イレギュラーズの心を慮って事であった。
「……何かあれば俺達もサポートしよう。どうか、よろしく頼む」
 人を殺す事を依頼する、その口は。何時もより昏い声音を響かせていた。

GMコメント

 リクエスト有難うございます。
 当シナリオはリクエストシナリオ『華戦ぐバル・マスケ』の続編です。

●成功条件
 モンタルバン卿の暗殺

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『天義』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●モンタルバンの屋敷
 裏オークションや商売の準備を行うときにだけ使用される場所です。郊外に位置し、人気はありません。
 用心深いモンタルバンの屋敷には使用人(私兵)が屋敷の警備を行っているようです。

●参考:裏オークション
 割と規模が大きいようです。各国またにかける闇商人とマスケティア、私兵部隊の残党が手を組んで天義で開催されています。
 ――その主催者がリンツァトルテとサントノーレが調査をした結果、モンタルバン卿で有ることが判明しました。

●エメリコ・モンタルバン
 天義貴族。代々聖職者を輩出する家門です。アストリア枢機卿との繋がりがあったとも囁かれていましたが、『災厄』の際には率先して住民避難対応に当たったことでその疑惑は薄れたようです。
 裏オークション他、人身売買にも手を染め、時には幼い子供を暗殺者にまで育て上げ、悪事にその手を染めさせる等……裏では手酷い商売を行っているようです。
 暗殺が露見又は、表だって摘発しようものならトカゲの尻尾切りと言わんばかりに部下を囮に逃げ、今後捕まえることは難しくなるでしょう。
 当人も聖職者であるため神秘に造詣が深くそうした攻撃を使用されることが考えられます。

●モンタルバンの私兵*10
 少数精鋭。屋敷内を警備し、モンタルバンの商売の邪魔をする者を殺害する強者。
 逃せば、聖騎士団が暗殺に手を貸したことが露見するために捕縛又は殺害するしかありませんね。

●商売相手(??)
 モンタルバンの商売相手。其れが誰かは現在は判明していません。
 リンツァトルテ曰く、此方は『後に調査すれば分かるだろうから捕縛して欲しい』とのことです。

●リンツァトルテ・コンフィズリー(&イル・フロッタ)
 当依頼を持ってきた聖騎士&見習い。どうやら『名無し』と名乗った仮面貴族からの情報提供であったそうです。
 何かあればお手伝い&同行します。指示がなければ騎士団詰め所で待機です。
 依頼人である仮面貴族は聖騎士団に情報を流す他、モンタルバンの殺害に成功した暁には報酬を支払うとローレットへ確りと依頼を行ってくれています。

 それでは、行ってらっしゃいませ。

  • Bal des Ardents完了
  • GM名夏あかね
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年12月02日 22時10分
  • 参加人数6/6人
  • 相談8日
  • 参加費200RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
※参加確定済み※
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
※参加確定済み※
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
※参加確定済み※
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
※参加確定済み※
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
※参加確定済み※
コロナ(p3p006487)
ホワイトウィドウ
※参加確定済み※

サポートNPC一覧(2人)

イル・フロッタ(p3n000094)
凜なる刃
リンツァトルテ・コンフィズリー(p3n000104)
正義の騎士

リプレイ


 闇オークション。少女達が『売り払われる』その現場を目の当たりにした六名のイレギュラーズは、その行いを許せないとリンツァトルテ・コンフィズリーへと告げた。もしも、イレギュラーズが『殺し』を戸惑うのであれば自分が断罪の刃を振るう、と恐る恐ると口にしたイル・フロッタへと『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は「大丈夫」と首を振った。
「例え卿が、名門だろうと復興に支援をしてくれた人であろうと。
 ……あのオークションの光景を見てしまった以上、彼を放置するわけにはいかないわぁ」
 人を人と思うことなく。その現場を見詰めていた『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)はモンタルバン卿の邸へ向かう準備をしましょうと言った。
「うん……。聖職者であろう者が悪事に手を染めるなんて許せない!
 それに暗殺者を育てたり、人身売買にも手を出しているなんて……聖職者の風上にも置けないよ!」
 同じ天義の聖職者として。スティアの感じた苛立ちを親友たる『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)も同じく感じていると握り拳を震わせる。
「神に仕える聖職者の身でありながら、その立場を利用して悪事を働くなんて絶対に許せない!
 アストリアの事件で数は減ったんだろうけど……まだまだ根絶とはいかない。少しずつでも、天義をみんなが誇れる国にして見せる!」
 アストリアの事件――そう口に為た『大いなる厄災』。神々を尊び祈り捧げる国家の中枢に存在した毒の楔――それがこの国の心を惑わせたとするならば。あの日、握った断罪の刃を曇らせることはしないとサクラは再度決意する。
「先の大乱は足を洗ういい機会だったと思うのですが……。
 まだ隠れて悪事を働いている聖職者がいるのですね。たとえ表面上は悪と呼ばれようと正義を遂行しましょう」
 静かに囁いた『ホワイトウィドウ』コロナ(p3p006487)の『表面上の悪』という言葉にイルは「コロナ」と呼び掛けた。
「……どうか致しましたか? イル様」
「そんな……コロナやスティアが……サクラも、ポテトもリゲルも、アーリアだって……そんなこと、する必要が無いのに」
 リンツァトルテの静止を振り払い、イルは唇を噛んだ。その言葉に『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)はどこか困ったように柔らかに笑った。
「巨悪の根を立つ……それは寧ろ、光栄な任務だ。そうだろう? 聖騎士の二人とも」
 ぐ、と息を飲んだイルにリンツァトルテは「ああ」と静かに答えを返す。経験を積めども、人の命を奪うことには慣れやしない。慣れてはいけないだろうとリゲルは自身の掌をまじまじと眺めた。
「この前は一人助けるしか出来なかったけど、今回は大本を絶って今後こんなことがないようにしよう」
 そっと、愛しい人の傍らで『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)は笑みを零した。
「リゲル。きついなら私が代わる。
 ……大丈夫。普段攻撃当たらなくても、逃げられない相手なら当てられるはずだ」
 重苦しい空気を祓うように明るく微笑んだその言葉にリゲルは「ポテト」と擽ったそうに笑みを綻ばせた。
「だから、一緒に背負わせてくれ」
「……ああ。イルも、ポテトも気にしなくて大丈夫だよ。心配為てくれて有難う」
 作戦を遂行しよう、と。リンツァトルテが仲間達へと向き直る。侵入経路を確保するためにアーリアのファミリアーが先行し、モンタルバン卿の位置をある程度絞り込むことから始まる。
「リンツァとイルもよろしく頼む。万が一逃してしまった兵がいたら捕えて欲しい」
 ポテトの言葉にイルとリンツァトルテは大きく頷いた。「イルちゃん」と名を呼んで頬をぷに、と突いたスティアは「顔が怖いよ?」と揶揄い笑う。
「で、でも……スティアも、サクラも……辛くはないか?」
「どうかな。けど、此処で『見過す』事はできないでしょう?」
 サクラにイルはぐ、と息を飲んでから頷いた。見張りを、と付け足したは良いがイルはこの通り緊張し、そして不安げである。
「とは言え……リンツァ。待っている間にイルがガチガチに緊張してしまいそうだし、シャイネンナハトの予定とか、この後の楽しいことを話して、緊張をほぐしてやってくれないか?」
「そうだな。イルの守護を頼んだよ」
 アークライト夫妻の耳打ちにリンツァトルテは「は?」と目を丸くした。シャイネンナハト――その予定を語らうなどまるで恋にうつつを抜かしているようだと言いかけたリンツァトルテの前でスティアは「あーあ!」とわざとらしく声を上げた。
「逃さないように頑張るけどやっぱり保険は必要だからね! 仕方なくお願いしてるんだよ!
 二人きりにしてあげようなんて思ってないからね、たぶん」
「ふっ――」
 イルのかんばせに思い切り朱色が差した。どうにかしてくれとサクラをくいくいと掴むイルにも動じることなく「そろそろ行かなくちゃ」とサクラは微笑む。
「イル様、それでは『ご健闘を』」
「こ、コロナァ……」
 待ってと切なげに囁くイル。アーリアは二人共に聞こえるようにウィンク一つ。
「二人でシャイネンナハトの話でもしていてちょうだいなぁ、ふふ」
 ――リンツァトルテの咳払いとイルの「ひえ……」という情けない声がイレギュラーズを送り出した。


 耳を澄ます。その聴力は武器だ。商談の声を聞き分けて、突入するポイントを探すようにサクラは息を潜める。護衛の足音、呼吸音、全てが戦場を形作る要素で或る。
(……エメリコ・モンタルバン。用心深いようだけど、私達に未だ気付いてない見たい)
 夜よ踊れとアーリアが纏うのは魔女の外套。小さな噂話を耳に入れ、戯れ縫ったそれは簡単に彼女を招き入れることだろう。かちゃり、と鍵の回る音、共に息を潜めて入り込んだイレギュラーズは行く手遮る者を探すようにモンタルバンの許へと歩を進める。
 統率取るリゲルは鼻を生かして臭いを嗅ぎ分ける。急行するべく進む脚をサポートするのはポテトの周囲で踊る精霊達であった。
 護衛達も商談には耳を欹てないように。外で待ちうる其れ等を避けることは難しいか。ポテトは「サクラ、スティア」と小さく二人の名を呼んだ。
「ここは私達に任せて先に行って!」
 護衛達を引き付けるように聖刀を握りしめる。サクラ以外は扱えず、そしてその意志に呼応し力を発揮する聖刀は、『不正義』を芽吹かせて握るサクラに痛みを走らせる。
 然し、其れさえ気にせぬように。祖父の代より受け継ぎし正義を為す血をその身に巡らせてサクラは――サクラ・ロウライトは声を張る。
「さぁスティアちゃん! ガツンとやっつけちゃおう!」
「了解、サクラちゃん! 私達の力を見せてあげないとね」
 淡く輝く天使の羽。魔力の残滓をその身に纏い聖域の中でスティアはぎゅうとリインカーネーションを握りしめた。不屈なるヴァークライトの娘は魔力を旋律へと変えて神の福音を響かせる。聖職者たる証左の如く――そして、不正義を断ずる如く。
 想いを糧に、魔力を力に。結界の中で舞い散る花びらをウケながらサクラが地面を蹴った。柔らかな絨毯に食い込んだ爪先に込めた力は狂い咲く花を思わす居合の術を以て発揮される。
 風花の如く、舞踊るその光景に「任せます」と囁いてコロナは走る。闇討ちの形となれば普段口にする『名乗り』など此処には必要ない。心は冷たく、思考は冷静に、放つ手は容赦は無く――それが『コロナ』という聖女の掲げた今宵の手順であった。
 サクラとスティアの傍に踊ったファミリアーは二人と先行する四人を繋ぐ為の絲。
 目映い光と共に意識を奪い進みながらアーリアは「ここよ」と囁いた。扉を突破し、モンタルバンと商売相手の許へと飛び込めばその周囲の私兵達がどよめいた。
「何者だ!」
「何者……今、あなた方が何をしていたか……理解した上で誰と問いますか?」
 冴え冴えとしたコロナの声音に繋がるようにリゲルの銀の剣が美しくも輝いた。聖十字を揺らした白銀の騎士は意を決したように真っ直ぐに声を張る。
「あなた方がここより逃げる道は、私たちを倒すことのみ。さぁ、お覚悟を」
 コロナのその言葉を借りるように――「さあ、生き延びたくはここまで来い!」と慣れぬ人命を掌の上に転がして。
 周囲の出入り口を確認し、願いを護る名を冠する盾を手にポテトは戦いの最適化のための特殊支援を遂行した。妖精郷の主(スレイ・ベガ)の周囲に惑う精霊達に合図を送り、リゲルと共に背負うが為にしかと眼前の男を見遣る。
「ッ――何故此処が分かった!?」
「先日のオークションの『火事』大変だったわねぇ……『金髪の少女』にも逃げられて、ふふ」
 背後よりするりと近寄った魔女は笑みを零す。煽り文句を囁くように。命を奪うまでは行かず――『情報を得るために』とモンタルバン以外の意識を刈り取るためにアーリアは目を細める。
『おまじない』を込めた片手袋と、空いた指先の贈物に魔術が込められる。激しく瞬く神聖なる光の気配に惑うことなくアーリアは目を細めた。
「『おかわいそう』に」
 その言葉でモンタルバンはあの火事を手引きした者がこの場に居るのだと認識しただろう。そして、リゲルを見て「お前はアークライトの……」と呟いた。
「だから、どうした」
 この国で生きていくリゲル、ポテト、スティア、サクラ、コロナ、そしてアーリアは『その顔を知られる』程に活動を行っていた。先の大災の英雄と呼ばれても遜色ないほどの。
 故にモンタルバンを此処で逃したならば貴族の子息達が闇討ちにやってきたとよからぬ噂を流される。
(本当に、こういう人は何処まで行っても酷い男なのね……)
 アーリアは溜息を小さく漏らし、背後から聞こえる足音を聞いた。二つ。軽やかに駆けたそれと共に自身の使い魔が寄ってくる。どうやら『外の足止め』も無事に役目を終えたようだ。
「天義に蔓延る悪を一掃するためにもこちらの動きを悟られる訳にはいかないから!」
 そう堂々と告げて、スティアは飛び込んだ。仲間達をサポートするべく福音を鳴らし響かせる。
 リゲルは「有難う」と頷き、スティアと共に私兵達をなぎ倒す。
「これはこれは、天義の貴族の皆さんがお揃いで! 驚いたな。闇討ちとは!」
「それが何だ」
 ポテトは囁いた。だから、何だというのだ、と。苛立ちを滲ませて睨め付けるように視線を送る。
「お前のしたことは民に寄り添い、導くはずの聖職者として許される行為ではない。その命を持って罪を償え」
 ひ、と男が竦んだ様子を眺めながらリゲルは私兵の意識を奪い深く息を吐いた。
「貴方達にも良心があるのなら。間接的であろうとも、今後は悪事への加担はなされませぬ様」
 商売相手たる男はその様子を驚いたように見詰めている。モンタルバンを討ち取った正義の騎士、などと一面を飾れば慈善事業を手がけるモンタルバン卿をどうしてと彼等の家にも批難が向くかと『情報の値段』を考え始める。
「無駄なことを考えているね」
 そうサクラは囁いた。スティアは「そうだね」と頷き、商売相手の前へと立つ。命までは奪わないと囁いたのは誰であったか――
「いつぞや、イル様に言いました。
 真に悪を罰するためには、その偽装の殻を剥ぎ取るために正義とは思えない行動が必要になるのです、と」
 コロナは目を伏せて。覚悟は出来ていると商売相手の視界を覆い、その意識を刈り取った。
「この役は、イル様たちにさせられません」
 不正義と自身を攻め立てるかも知れないその行動を――そう、コロナは唇を引き結ぶ。
「卿にはステキな夢を見せてあげるわぁ。……貴方が売った女の子達よりはマシな夢よ」
 モンタルバンはアーリアをぎらりと睨み付ける。止めろと戦慄く声を、止めるものも救う者も居ない。
「どのような汚名を着る事になろうと、ロウライトは正義を為す事を恐れない」
 サクラの刃が煌めいた。その決意は固く――揺るぎない信念が乗っている。
「貴方は最早取り返しがつかない程に、あまりに堕ちてしまった。
 貴方にまだ人の心が残っており…犠牲としてきた人々へと詫びるご意思があるのであれば……せめて苦しまぬように、黄泉へとお送り致しましょう」
 リゲルと共に背負いたいとポテトは一歩踏み出した。彼を助ける者は居ない。
 聖職者たるスティアに、聖女たるコロナに助けを請う男を見下ろす眸は尚も暗い色をしている。
「ねえ」
 アーリアは唇に音乗せて小さく微笑んだ。
「――殺すわ」
 たまには――たまには私も……していることを、自覚しないと。

 その言葉と共に、淡い夢を見ながら男は逝った。撥ね飛ばされる首は二度とはその位置には戻らない。


「――それでは宜しくお願いします」
 捕縛した私兵や取引相手を引き渡し、イレギュラーズとの協力戦線であることを無事に伝えるとリンツァトルテは頭を下げた。
「捕えた私兵や商売相手、残った書類から今までの悪事がわかるはずだ。
 可能な限り、彼の犠牲になった人達を助けてくれないか?」
「ええ、これを証拠資料に。……ちょっと負担を掛けるかも知れないけれどいいかしら?」
 サントノーレには証拠資料を、とポテトとアーリアは手渡し事なきを得た――訳だが。
「……その、皆……」
 殺したのか、と問い掛けることが出来ずに暗い表情をしたイルにサクラは「大丈夫だよ。私はロウライトだから」と正義を掲げる自身の家紋を示してみせる。
「けど、どんな家でも、どんな人でも苦しいだろう……?」
「ふふ、大丈夫よぉ。後はサントノーレさんが『良い感じ』にしてくれるから。ね?」
 アーリアの慰めに唇をきゅ、と噛んだイルをまじまじと見詰めて――ふと、コロナは「イル様」と微笑んだ。
「リンツァトルテ様とのご予定は決まりましたか?」
「……仕事だ」
 浮かれて入れないとそっぽを向いたリンツァトルテに「あら」とコロナは首を傾ぐ。傍らのイルは「私も! 仕事を!」と挙手している。どうやら、『此れまでの積み重ね』でイルの気持ちに気付いてきたのかリンツァトルテも慎重な対応を見せたのだろう。
「なら、一日一緒だね?」
 スティアの悪戯めいた言葉に「夜は空いてるわよねぇ。お食事とか?」「寧ろ、アークライト家からの申し出で二人を有休にする?」「それは面白いな」とアーリアやポテト、リゲルが続く。
「っ―――……お疲れ様! その……ま、また皆と遊びに行くから!」
 頬を赤らめて、慌てたように声を張り上げたイルにコロナは「笑顔の方が貴女には似合いますよ」と柔らかに微笑んだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この度はリクエスト有難う御座いました。
 リンツァトルテ先輩はシャイネンナハトは仕事の予定らしいです。本当かなあ。

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