シナリオ詳細
首狩りヴォルフの最期
オープニング
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「そう言うことだから。興味があるなら来てくれよ」
――なぁ、ヴォルフさん。
長髪の男はそう言い残すと足早にその場を去った。一人残された者――ヴォルフと呼ばれた男は凍りついたように自分のつま先をただ見つめていた。
彼の名はイリヤ。ヴォルフと呼ばれたのは十年ぶりだった。先ほどの男は幼馴染のハン。ハンは風の噂で勇猛な戦士として名をあげたと聞いていたが。
「あなた、お客様は帰ったの? 外で長話は失礼よ」
妻の言葉で我に返る。自分はもう戦士ではない。細工職人として妻子と共に幸せに生きている。あの血塗られた世界に帰るつもりはない。
なのに、どうして――。あんな話は聞きたくなかった。私はどうすればいいのだ……。
グルカ村。ノルダインに名を連ねる村々の中でも勇猛さに定評がある。
イリヤはグルカ村で生まれ育ち、将来を嘱望された勇士であったが二十歳の時に村を出奔。主に工芸品の販売で生計を立てている、この『ククリ村』に移り住んでいた。
――明日、三人で村を出るぞ。貯蓄と、高く売れそうな細工をまとめておいてくれ。イリヤは妻の目を見ずにそう言った。
「あなた、さっきの人はやっぱりグルカ村の人なのね」
ああ、そうだ。妻にだけは自分の出自は明かしていた。彼女はこれから起きるであろう事態をぼんやりと認識しているようだ。
「あの人の要求は何だったの?」
妻の真っすぐな視線。澄んだ青い瞳。どうにも嘘はつけない。イリヤはハンに告げられた事実を全て妻に話した。
ハンは同僚のよしみでククリを近々襲撃することを教えてくれた。それだけではない、グルカに戻る口を聞いてくれるとも言った。妻子を捨てて来ればという条件付きだが。少しも同僚のよしみなんかじゃない。
「……何てことなの。でも、私達だけ逃げては絶対にいけないわ」
そのとおりだ。我々三人だけが助かれば良いって話じゃない。我ながら情けない判断だった。だが、この錆びついた体で何ができる? 一人でノルダインの精鋭を迎え撃てるというのか? そんなはずはない。
「ローレット!」
まだ一週間あるのよね? 唐突にあがった妻の声に寝た子が一瞬起きた。
だったらぎりぎり間に合うかもしれない。彼らはね、前にもノルダインの揉め事を解決してくれたって聞いたわ。勿論、お金を払ったらだけど。
藁にもすがる思いとはこのことだった。私は妻のいう……何でも屋に賭けることにした。
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「相手はノルダインの中でも手練れの一派らしい」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)は溜息を一つ。本日、鉄帝はヴィーザル地方から入った緊急依頼についてイレギュラーズの面々に説明をしていた。
話は単純だ。一週間後、武闘派のグルカ村が工芸品で有名なククリ村を襲撃する。どうやら交易で揉めたらしい。
グルカ村は別名、殺戮のグルカ。同じノルダインに属する村だとしても容赦なく皆殺しにして略奪するだろう。
「俺の見立てだと少々分が悪い。ククリの戦力なんて期待できない。介入したとしても下手をすると死人が出る」
ショウは調書をテーブルに伏せた。あまりイレギュラーズに勧めたい依頼ではないらしい。
――依頼主は何者なんだ? イレギュラーズの一人がショウに問う。
「グルカ村出身でありながら、ククリ村で隠遁している平和な男らしい……いや、」
ショウは再度調書に目を通した後に口を開いた。
「隠遁する年ではない。まだ三十だ。グルカ村で活動していた時期は十代のはずだが。……なかなか面白い」
調書によると依頼人のイリヤという男はかつて戦闘狂として名を馳せた。ノルダイン側の奥の手として小競り合いに投入され、ハイエスタの面々を震え上がらせた過去を持つ。
手斧を片手に、対峙する相手には一切の容赦はしない。敵対者全ての首を刎ねるという危険な噂から、首狩りヴォルフと渾名された。
その反動もあってか、二十歳の時に村を出奔し、それ以降は一度も戦闘をしていないというが……。
「依頼主の過去は置いておくとして、ククリはのどかな村で血生臭い話とは無縁のところだ」
一週間後、殺戮が起きるのは間違いない。もしイリヤが一人で戦ったとしても、敵いっこないだろう。ショウは参集した面々に向き合う。
「ノルダインは手ごわい。間違いなく危険な任務だが、村には女子供も多い。そこには腕比べも何もない。ただの殺りくだ。何とかしてやりたいじゃないか」
ヴィーザル地方にコネを作るのも悪くはないだろう? すまないが頼む――ショウは説明を締めた。
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夜半過ぎ、イリヤは床下から古ぼけた木箱を取り出した。そして十年ぶりに手斧を握る。
だが、まったくしっくりこない。ああ、やはり自分はもう戦士ではないのだ。一人、自嘲気味に笑みを零す。
ローレットは命がけの危険な任務に参加してくれるのだろうか。今だ返答の文は来ない。
運命の日まで後一週間。自分は絶対に逃げない。死ぬことになったとしても。妻にも村の皆にもそのように虚勢を張ってきた。自分は元戦士であるから安心してくれと。
だが、それだとあまりに寂しいじゃないか。一切の虚勢を捨てたイリヤの表情を月だけが見ていた。
- 首狩りヴォルフの最期Lv:10以上完了
- GM名茶零四
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年12月07日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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――夜が明ければ敵が来る。
その時に村の命運は決まるのだ。
グルカ村の戦士は休息と共に明日の戦いを夢見ていた――とはいえ、戦力差的に行われるのは一方的なモノ。虐殺か、制圧か……いずれにせよククリ村に明日は無い。しかし、だからこそ。
「今日ここで奴らを沈めてしまえば――問題ない」
『アサルトサラリーマン』雑賀 才蔵(p3p009175)は引き金に力を籠めるのだ。
見据える先にあるはグルカ村の入り口、にして周囲を警戒している見張りの者だ。そう、ここはククリ村ではない――依頼の文を受け取ったイレギュラーズ達が取った戦術は襲撃の一手。
「返答の文など不要。襲撃など無ければ良いのだから。
そう。『何もない』のだ明日と言う日には」
同時に『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)もまた闇夜に紛れて近付いていく。
そう――ククリ村に返答の手紙は出していない。
要は何もなければよいのだろう? 明日、ククリ村が平穏であれば。
時刻は夜が明ける前、暁の頃と言った所か……寝静まる折であれば警戒が最も緩みやすい時間である。
それ故にか見張りは一人。一人だけならば即時制圧すれば中へとも侵入出来よう。
無論『即座』に行かなければ逆に窮地に陥る事もありうる訳だが――
「取り逃がしはしないゾ。高名な戦士とこそ死闘したい所だけど……
ま、今日の所はノルダインで我慢しようっと」
攻撃は一人だけで行うものではない。『ラド・バウD級闘士』溝隠 瑠璃(p3p009137)もまた駆け抜けた。
後方。才蔵の一撃が鳴り響いたのを皮切りに、攻撃を集中させる。
誰も呼ばせない。どれだけの距離があろうとその命を貰い受けよう――
逃がさじの殺人剣の魂が刃に宿り、その首筋を穿たんとする。日が昇る前、闇に溶ける世界であれど見透かす『飴』を口に含んでいれば――微かながらにも敵の姿を捉えていて。
「さぁ行こうか。グルカ村を襲撃してしまえば、ククリ村が襲われることもないよね」
「ああ――しかし交易でもめたってのはちょっと気になるな、難癖付けられたか? こっちは武勇には優れているようだが、ククリ村と異なって工芸の類に優れているように見えない村だからな」
更に『龍柱朋友』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)の一閃も加わり、空よりファミリアーの目を用いて観察していた『壁を超えよ』杠・修也(p3p000378)もまた敵を取り押さえる。さすれば即座にシキは魔眼を見張りの者へ。
「ぐぁぁ、何を……!」
闘志漲る相手であれば魔眼は決して通用しまい。戦いの最中に掛ける事は出来ないが――戦闘力を全力の奇襲にて奪った後であればまだ話は別。騒がぬ様に逃がさぬ様に暗示をかけて黙らせれば。
「――しゃあッ。そんじゃ行くとするかね。
おっと、上手くいったからってまだ慎重に進めよ。罠がねぇとは限らねぇからな」
「ノルダイン……! 生活が苦しくとも戦士の誇りだけは捨てないのが貴方たちでしょうに。誇りすら忘れ、己が欲望を叶える為だけに同胞すら虐げるつもりならが……ヴィザールの一領主として黙ってはいられないわ」
他に警戒用の罠が仕掛けられていないか『マジ卍やばい』晋 飛(p3p008588)が周囲に視線を巡らせ、ローザ・グランツ(p3p009051)は義憤と共に奥を見据える。
この先にいるのは、戦いにもならない村を襲う気の者ばかり。
――浅ましい。なんと見るに堪えない者達なのか。
奥歯を噛み締め、しかし叩くのはまだだと己が心を落ち着ける。
曲がりなりにもここは敵の本拠地……無策で突っ込めば数で押し潰されるだけである。
「ゼシュテル魂を見せてやるわ。闘争に心震える、本当の魂をね……!」
滾らせるは瞳に。
光差すまであと少し――それまでに全てを終わらせる為、彼らは足を踏み入れた。
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「おおここがグルカ村でありますか――! なんとも簡単に侵入出来たでありますね――!」
叫ぶ声。グルカ村の内部にて張り裂ける様に言葉を放つはエッダである。
彼女は『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)と共に村を突き進んでいた。先程まで潜む様に進んでいたというのにその方針を一転させたのは、無論『誘い出す』為である。
「自分は鉄帝の騎士でありますよ――!
貴様ら北の戦士共はなるほどこの程度でありましたかはっはっは――!
悔しかったら捕まえてタイマンさせてみるであります!」
騎士――彼女の言にて『メイド』と読み、しかし侍従とかそういう意味は持たないが――とにかく彼女は目立つようにグルカ村を挑発しながら進んでいた。手持ちのビューグル……所謂信号ラッパの一種を吹けばより目立つ。
さすれば当然、眠っていた者も気付き家の中から出てくるものだ。
「侵入者だ! 見張りはどうした――ええい、とにかく始末しろ! 急げ!!」
故に集中攻撃されぬ様に家自体を利用する。
壁を盾にするだけで、攻撃が来るであろう方角は絞られる。万全たる守護の構えを身に纏いながら、届かんとする弓矢を叩き落としてルチアの護衛も果たす。
そのままの勢いで更に奥へ。目指すは修也より得ていた、開けた地点だ。
「よし……今の所は順調だな。流石に家の中までは偵察出来なかったが、その周囲の地形ぐらいは情報を得る事が出来た。後は――」
「後ろから奴らを殺戮する事だゾ。一人も逃さず、全員だゾ」
暗闇の中。眼鏡の位置を整える修也は瑠璃とローザと共に行動していた。
エッダ達を誘引班とするならば彼らは火力による殲滅班と言った所だろうか。ファミリアーにより得た地形情報をエッダ達に渡し、自ら達はその後方よりグルカ村の者達の背後を突く。
つまり包囲作戦だ。グルカ村は情報によれば20人は戦力がいる。見張りがその内の一人だったとしても、残り19人か。
3倍近い戦力にまともにぶつかり合うと地の利も向こうに在り、決して確実に勝てるとは言えない。故にイレギュラーズ達は彼らを『釣る』戦術を立てたのだ。幸いにしてファミリアーの偵察により火力を集中させる事が出来そうな場所は見つかっている――
「後は上手い事ぶちのめす準備を整えるだけってね……おっと。
あー、敵も馬鹿ばかりじゃねぇよなそりゃ、じゃあこれを逆に利用して……と」
そして飛は瑠璃達とはまた別の殲滅班として別れていた。シキと才蔵と共に潜み、侵入者用の罠がここにもないか確認しながら進んでいる。
さすれば見つけた。村の外周近くにはどうやら自動発車式の弓矢が仕掛けられているようだ。足元付近に仕掛けられている糸をうっかり踏んでしまえば作動する訳か……ならばと、いざ発動した時に村の内側に発動する様に飛は罠に細工を仕掛ける。
どうも外周以外には罠は危険だからか仕掛けられていないようだが――上手くすればこの一撃を敵に作動させることも出来るだろう。勿論、罠は残していくことを仲間には小声で伝えて。
「よし、急ごう。誘引班もそろそろ到達する筈だ……攻撃の瞬間は合わせなければ」
さすれば才蔵は周囲に敵意が無いか、近付く足音がないか警戒しながら前進を。
もしも万一誰かに発見されてしまえば即座に無力化する必要がある――が、入口の時とは状況が異なるのだ。あの時は八人で対処する事も出来たが、今は班を別けて別々に動いている。三人でグルカ村の戦士を即座に無力化出来るかは今一つ不明だ。
重要なのは包囲する為の戦力が潜んでいるとバレない事。
バレれば作戦は瓦解する――故に息を潜め、回り込む。
勝利の為にはそれぞれがそれぞれの役割を成す必要があるのだから。
敵よりも少数であれば、尚更に。
「それでも、やるんだ」
家の影に潜むシキ。エッダ達を追うグルカ村の戦士。
――かつて戦士として生きた者よ。イリヤの名を持つ、戦士よ。
多くの武を振るったろう。多くの戦場に生きたかもしれない。
それでも、君の今の生き方が戦いでないというのなら……
「大丈夫」
――この首狩り処刑人が全て斬り払ってあげるよ。
構える剣。荒事は、血塗られた身の者にこそ相応しいとシキは見据える。
さすれば集う、集う。
敵が開けた場所へ。敵がこちらの予測地点へ。
だから!
「――私はゼシュテルの戦士、ローザ・グランツ」
日の光が昇り始めると同時、光を背に姿を現したのは――ローザ。
「弱者を屠ることは誇りに非ず、常に死中に活を見出すのが戦士である。
戦う力を持たぬ民から糧を奪うなどもってのほか。
汝ら――否。この村を戦士失格とし、これより断罪する」
それは宣誓にして彼女の決意。握りし猟銃が、集った者達に照準を合わせて――
轟く銃声が、戦いの始まりを告げていた。
●
ローザの呪いに満ちた一撃が中心に撃ち込まれたのを皮切りにイレギュラーズ達の攻勢が始まった。ここまで悟られぬ様にエッダ達は守勢に徹していたが、ようやく反転攻勢の機会が訪れたのだ。
三方に別たれた彼らは当然三方より攻撃を重ねてきていて。
「むぅ――後ろだ! 後ろにも敵が潜んでいるぞ!
背を見せるな、前後に別れて敵に対処しろ――!!」
グルカ村は事実上奇襲された様な形を受けていた。が、曲がりなりにも彼らもノルダインの戦士……慌て荒む様な者達ばかりではない。早急に態勢を立て直そうと動きを見せている。
敵の数は未だイレギュラーズを大きく上回るのだ。勢い付かせる訳にはいかない!
「はっは。ようやく死闘の今際に辿り着く事が出来たか――
それじゃ。ラド・バウD級闘士『瑠璃蝶』。今宵は無慈悲に冷酷に……殺戮するゾ」
故に瑠璃は速攻を仕掛けた。名乗りを上げ、跳躍し。向かうは敵の集合地点。
投じるは――一つの小瓶。
地にて砕ければ内部に充満していた『何か』が周囲へと。それは人の肌を伝い、穴を見つけ侵食し。内部より苦しめる――地獄の権化。
瑠璃が調合した『毒』であった。
苦しみは多くの負を齎し隙を齎す。彼女自身は抗体を持っているが故にこそ、無害で。
「あ、が、ご、ぉぉ、あああ、な、なんだ、これ、は」
「――ああ命乞いなんてするんじゃないゾ。思わずブッチキレるゾ?
だって君達はこれからククリ村を略奪……殺戮を行う気だったんだろ?
ならまさか自分達に痛みを返されるなんて覚悟が――無かったわけじゃないよな?」
全てはお前達の選択だ。
お前達が略奪を選ばなければこうはならなかったんだ。
――自身の不運と選択を抱き後悔しながら死ね。
多くを巻き込む吸精の秘儀を撒き散らしながら彼女は舞う。
泡沫の快楽の中に死の罰を。絶頂の中で苦しみながら果てろ――
「……後ろは任された、援護するので派手に暴れてくれ。此処からはどれだけ早く敵を減らし、こちらの優位を保てるか、だ」
「ああ思いっきり暴れさせてもらおう。エッダ達が見事に敵を誘き寄せてくれたんだ――」
なら、私達も負けてらんないねぇ? とシキは才蔵に言を返しながら、地を蹴る。
後ろから放たれるのは才蔵の援護射撃だ。研ぎ澄まされた集中は彼に敵の姿を捉えさせ、その瞳に穿つべき運命の場所を悟らせる。混戦となる前に放つは――戦場に瞬き、全てを貫く魔弾。
空を穿ちて敵を撃つ。
その軌跡を追うように、シキは地を這う様に姿勢を低く。構えた刃は変幻邪剣の正にソレ。
首を断とう。椿の様に、華落ちる一時の音を鳴り響かせて。
「ま、これも戦争だし悪く思いなさんな。
第一どっちが吹っ掛けてきたかと言えば――そちらさんだろ? なぁ?」
飛の意思は闘志に塗れている。
徹底的な破壊衝動を内から沸き立たせれば、それは力となるのだ。何者の追従をも許さぬ一時を彼に。
――投擲するは炸裂榴弾だ。
力をもって投じるその一つは敵中枢に到達し、一瞬の後に衝撃の波を生み出す。
幾人かが取る防御姿勢が目線を潰して。
「――敵を前に目を瞑るなよ、素人か?」
直後、飛は跳躍して移動していた。
彼らの背後へ。炸裂による注意が彼の移動を目暗ませ、撃を飛ばすのだ。
連鎖する暴力は誰にも止められない――このまま潰す。確実に叩き潰そうと。
「臆すなッ! 敵の数……そう多くは無いぞ! 各個撃破するんだ! 有利はこっちだ!」
しかしその時飛ぶ声はグルカ村の一人より。あれは、まさか――
「ああ、貴方がハンかしら?
作戦を漏らすなんてね。よほどヴォルフが欲しかったのかしら?」
故、ならば。ローザが往く。
「だけど彼の悩みの果てに得た全てを捨てろだなんて――恥知らずも良い所ね。
自らの事しか考えていない……なんて視野の狭い輩かしら」
「黙れ。お前らがヴォルフに希望を与えたのか……? あの滅ぶ村に希望なんざ無かった筈だ」
不可視の銃撃。
放ちて、しかしハンはそれなりに実力を持っているのか――剣にて叩き落とす。
よくもやってくれたなと。お前らがいなければヴォルフは……
「きっとこの村に戻って来た……筈だったのによぉ!」
鬨の声を挙げてまるで士気を向上させるかのようにハンは叫ぶ。
攻撃の数からか、イレギュラーズ達が少数である事を察したようだ。同数でないのなら打つ手は在ると――グルカ村の戦力が狙ったのはエッダ達。
「チィ――流石に、キツイでありますね」
元より誘引の為に敵戦力に最も長く接していたのがエッダだ。彼女が耐久戦を試みればそう簡単には崩れぬまるで要塞が如き堅牢さを魅せる事が可能だ――が。敵の注意を引くために煽った事も含めてか攻勢もまた激しかった。
如何に不沈なる能があろうとも、少しずつその身は削れてしまうものである。
――崩れる。だが。
「鉄帝が突撃しか出来ぬ阿呆だと思ったか?」
最も近付いていた者。その者の胸倉を一瞬で掴み上げて。
「貴様らが名を忘れたと言うならば、思い出させてやろう」
雷神(フロールリジ)の名を。
その身に確かに味わうがいい――雷撃が如き一閃を。
鳩尾。内部に浸透する絶なる一撃は内臓器官の損傷を齎して爆ぜる様な感覚を。
道連れにしてやろう。
雷神の輝きは決して最後まで陰る事は無いのだと――知らしめてやろう。
それでも徐々にイレギュラーズ達は押されつつあった。
エッダと、続いてルチアもまた崩れたのを皮切りに戦力が残り二点に集中し始めるのだ。陣形が生きていれば包囲の様な形を続ける事が出来て、効率よく多くの敵を巻き込む攻撃を重ねる事が出来ていただろうが――崩れればそうはいかない。
「だが、そうはいかんよ……!」
魔の砲撃を放ち続ける修也。それは地を穿ち、建物をも貫く。
されど敵の多くが前衛に近寄ってくれば見方を巻き込む恐れが強まった――故に戦術を変えて一人一人に狙いを絞る。全身の膂力を魔術の構築物とし、投じて薙ぐのだ。敵の剣撃が押し寄せて来れば体術を持って捌き……されど圧が強まれば徐々に傷も増えるもの。
押し込まれる。
グルカ村の戦士達もイレギュラーズの反撃に相当息が上がっているが、しかし。
「……早朝・深夜手当を貴様らの命で払ってもらうつもりだったが、分が悪いか」
「チッ。こうなっちまったら一度態勢を立て直すか……!?」
銃撃を放つ才蔵。想起の技術にて創り出した銃にて連続的早打ちを叩き込む飛――
弾幕を張りつつ思考する。一度後ろに退いた方が良いかと。
幸いにして先程、飛が村の外周付近にあった罠の作動方向を変えている……あれを利用すれば敵の足を止める事も可能だろう。敵のルートを固定させ、その隙に村の外へと行くのも十分に可能となる筈だ。
「押し返せ……! 行けるぞ――!!」
「――ああそうかもしれないけれど」
勢いに乗るグルカ村の戦士。
故にシキは狙った。勝利に酔った恍惚なる表情を見せている愚か者の首を捉えて。
繰り出した直死の一撃は――魔性。
その命を貪り喰らうかのように断頭した。
「君達の首は一つでも多く刎ねさせてもらおうか。ふふ、なに――一瞬だよ?」
「やれやれ。ま、有名だって言う工芸品が失われるのは……惜しいしな」
シキが構える。修也はファミリアーで万一の際の退路ルートを確認しつつ、敵を見据えて。
「くっ! まだやるつもりか!? どうして貴様らはそこまで……!」
「腐り果てた者には分からないかしら?」
同時。ハンの戸惑いにローザは紡ぐ。
決して貴様らなどには屈さぬと刺す様な瞳を向けながら。
「見よ、ゼシュテル魂を。見よ、自らの姿を。そして知れ、自らの魂を。
薄汚れた自覚を持つならばまだ救いもある――さぁ魂の色を見定めろ!」
喝が如き声と共に戦士の在り様を――見せつけるのだ。
鳴り響く金属音。衝突、しかしやがて静寂は取り戻される。
グルカの村は大きな被害を受けた。しかしククリ村を目指す事を諦める事はないだろう。
やがてかの村に脅威は迫る。
如何なる運命が未来にあるのか――それを知る者は、まだいなかった。
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
この度代筆を担当しました茶零四です。
依頼、お疲れさまでした。残念ながら今回は失敗となりました。
しかしグルカ村にも甚大な被害がありました。万全な状態でククリ村が襲われるという事はなく、それ故に助かる命もあるのかもしれません。
ありがとうございました。
GMコメント
日高ロマンと申します。よろしくお願いいたします。
ノルダイン内部の小競り合いです。複数の戦闘ロケーションを選択することが可能です。是非、ご検討ください!
●敵対勢力
ノルダイン(グルカ村)の戦士×10名 【物至単】【物遠単】【BS耐性】
●依頼達成条件
ククリ村の防衛(村人の生死不問)
●シナリオ補足
ククリ村の村人を戦力として指揮することが可能です。
???:少しつよい(なかなか死なない)
村人1:よわい(すぐに死ぬ)
村人2:よわい(すぐに死ぬ)
村人3:よわい(すぐに死ぬ)
・グルカ村の位置は把握しているため先手を打って襲撃することも可能です。その場合、敵戦力の数は倍となります。
・防衛する場合の時間帯は昼夜不明です。
・防衛する場合はククリ村の施設は自由に利用可能です(籠城等)
・ククリ村は平地にあるログハウスが集まった村で人口は百人程度です
・ククリ村には物見櫓が一つだけあります
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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