シナリオ詳細
わらえよフォールエンドガイズ
オープニング
●夜ごと金持ちは手を叩く、clap clap
白く美しい足が後頭部を踏んでいる。
鼻先が雨上がりの泥に押しつぶされて、思わず涙が漏れた。
左腕は折れ、右腕は腰の後ろで押さえられている。誰かが体重をかけて地面に自分を押さえつけていることは分かるが、なぜだろう。
なぜだろうか。
後頭部に感じる柔らかい土踏まずの感触が、耳の裏に食い込む親指が、頭蓋骨をゴリッとにじるようなかかとの薄い皮が、泥水よりも折れた腕よりもなによりも、自分を支配してやまなかった。
「この方が、最後のひとりで宜しいですね?」
沁入 礼拝 (p3p005251)は拘束した男の後頭部を踏みつけながら、ゆっくりと首だけで後ろを振り返る。
ランプに照らし出されたベッドルームは狭く、寝泊まりするには固すぎるベッドと窓のない石壁と、瓶のなかでゆっくりと傾く透明な液体しかみえない。
見慣れぬ者にはここが安宿に見えるだろうし、実際土地を納める貴族には宿だということになっていた。それも、客と女中がどういうわけか一晩だけ恋仲になってしまう不思議な不思議な宿である。
「礼拝、あんた、壊すんじゃあないよ。ドアを蹴っ飛ばして『ぶっころす』なんてのは誰でも出来る仕事さね」
口にパイプをくわえ、僅かにひらいた赤い唇から煙を吐く。
部屋入口側の壁に背をつけて、老齢の美女は揺れるランプの炎を眼鏡のレンズに写し、その向こうで目を細めた。
ヴォルピア――通称マダム・フォクシー。
幻想の闇のひとつ、娼館街を牛耳る女のひとりだ。
パイプを歯でおさえ、ベルトからさげた剣を抜くとうつ伏せの男の前へと歩み出る。
そして礼拝に顎で合図を出すと、足を頭からどけさせた。
「あんた、虫を捕まえたことはあるかい」
男の顎を剣の切っ先でひっかけるようにして持ち上げると、小さく首をかしげてみせる。
無言のまま、そして震えて見上げる男。ヴォルピアはパイプを手に取り、片眉をさげた。
「なんだい、やったことがないのかい? 男の子だろう? ガキってのは森んなか走り回って虫をとっつかまえては女の子に見せびらかしにくるもんだろうに。
で、虫を箱にいれて持って帰って、次の日になって気づくのさ。
他の虫を入れたらどうなるだろうってねえ。それが、虫を食うような狂暴なやつだったらどんな風だろうってなもんさ」
そこまで語ってから、煙草の煙を胸いっぱいに吸い込み、まるで聖母のように微笑んだ。
「男ってのはいつまでもガキだからねえ。あんたみたいな『虫』を捕まえると、放り込みたくなるんだとさ」
何を?
と、尋ねるまでもない。
●フォールエンドガイズ・ショー!!
「レディースエンジェントルメン! 今宵も秘密のゲームスペースへお越しくださり誠に感謝!
これよりお届けしますのは恐怖のレースでございます!」
シルクハットに仮面の男がパチンと指を鳴らすと、幻想の街にはられたであろう指名手配書の拡大コピーが数枚、スポットライトに照らされた。
ワオ! とわざとらしく驚いて見せる男。
「この凶悪な犯罪者たちがなんとワルセザの森へ隠れてしまったそうでございます。
彼らはまさしく社会の癌。世界の膿。焼き捨てるべき廃棄物でございます。
そこでここにお集まりの紳士淑女の皆様は気高くも『猟犬』を放ってくださいました。
必ずや犯罪者たちは正義の牙に食いちぎられることでしょう!」
わざとらしく、しかし大声で、男は両腕を広げてみせる。
「フォールエンドガイズ・ショー!!」
- わらえよフォールエンドガイズ完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年11月30日 22時20分
- 参加人数6/6人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 6 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(6人)
リプレイ
●なべてこの世は嫌事ばかり
世界は不条理なくらいスマートだ。
子供の頃、大人はみんなしっかりしてるはずだと思わせたし、自分も大人になればしっかりするんだろうと思うものだ。
金持ちは偉いし強い人は弱い人を助けるのが常識だと思うものだ。
そうやって教え込まれた常識とかいうみせかけのルールは、しかし大人になるにつれ嘘だとわかるものである。
『流離人』ラムダ・アイリス(p3p008609)はこちらを観察している水晶玉をぶら下げた鴉に愛想の良い投げキスを送った。
そして、こちらを安全な場所から観察しているであろう人々に聞こえない程度の小声でつぶやいた。
「なかなかに高尚な趣味というかなんというか……はっきり言って悪趣味?
あ~でも観客がいるってだけでボク的には普段とやっていること変わらないかぁ~。うまくいけば路銀も稼げるし良しとしておくかな」
「犯罪者と、賞金稼ぎと、悪趣味な出資者。こう見ると、ろくな人間が関わっていない、な」
夜の薄暗い森の中。
不思議な霧に覆われたワルセザの森。
『愛娘』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は闇に溶けるような黒いボディスーツのファスナーを、自らの首まであげて各部の様子を確かめた。
スーツと同じ黒いキャップで頭を覆い、長い髪は服の中にしまわれている。というより、手足に巻き付いて動きを補助するための素材として服と一体化していた。
さしずめ、エクスマリア・アサシンモードといったところだろうか。
「まあ、雇われた以上は、誠心誠意、務めるとしよう」
一転、『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)は真っ白な意匠に白い素肌を露出させ、特に胸元を大きく開けて高いヒール靴で胸を張って見せていた。
夜の森を歩く格好には、ましてやマンハントゲームの参加者にはとても見ないが……。
「嗚呼、嗚呼! ぼくから目を逸らさないで下さいまし。
何たってすばしっこいから、もう一度見つけるのは至難の技で御座いましょう!」
だからどうかご注目を。
羽ばたく鴉へ、陶磁器のような繊細さで微笑みかけた。
ノイズ。
明けて、『深き緑の刺客』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)。
「フォールエンドガイズ・ショー、噂は聞いたことあるがホントだったのかアレ。
貴族らしいっつーか、なんつーか……こーゆー黒い発想はどの世界も変わらねぇんだな」
ライトで草や木の様子を確認して森のパターンを探るミヅハ。
深緑暮らしが板についてきたせいか、植物の様子から土の歩きやすさや木の間隔をおおまかに予想する癖がついたのだろうか。
よく手入れされた大弓を手に取り、矢筒から速射用の矢を選んで抜いた。
ハンターとしての呼吸が始まり、夜と森に身体がとけていくようだ。
そして今はただのハンターではない。警戒範囲内で特殊な技能が用いられればそれを鋭敏に察知する、特殊なマンハンターである。
「しっかし、獲物が人間とはね」
「気にすることはない。どうせ生きてたって何にもならないような奴らだ。
見世物として生き延びるチャンスがあるだけ幸運といっていい。
そのうえでボクらの懐が潤うのだから誰も損をしない素晴らしい仕組みだ。
それはそれとして不愉快であることには違いないが」
倒れた木の幹に腰掛け、やれやれといった風に組んだ膝に顎肘をつく『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)。
どう思う? と目で問いかけてくる彼に対して、『足女』沁入 礼拝(p3p005251)は頬に手を当てて微笑んだ。
海底のように優しく。
太陽のように冷たく。
猫の爪のような柔らかさで。
「困ってしまいます。本来ならばこんな場所に立つのは私の務めではありませんのに。
ええ、ええ、ですが、仕方ない事なのです。
負債を回収せよ、というのがマダムのご意向ですもの。私に否はございません」
答えているようで答えていない。
理解しているが説明する気は無い、といった様子だ。
もともと幻想の娼婦街で育った礼拝。特異な才能を生かして小規模ながらサロンをもつほどの『花』が、たとえ負債の回収とはいえこんなゲームに参加しているのだ。
するほうも、させるほうも、金以外の意図があるとみて間違いはないのだが……。
「さあ、皆様。ゲームが始まるようですよ」
空高くに花火が打ち上がり、わずかに夜を茜色に照らした。
そしてこれから散りゆく命のように、夜の闇へと消えていく。
●狩人と狩人
タン、タン……と鼓を打つような音がする。
エクスマリアが口の中で舌をうつ音である。こなれた者なら下駄の足音のように一定のリズムとトーンで鳴らせるらしく、この反響具合によって周囲の物体の位置関係を把握できるとも言われている。
エクスマリアはいつぞや教わったそのテクニックを用いて、薄暗く霧のかかった森の中を進んでいく。
と、そんな中で。
カァンという拍子木を打ったような音を聞きつけて足を止めた。
さっと手をかざし仲間達に同じような停止を求めるエクスマリア。
「これは……どちらでしょうか」
未散の問いかけに答えるように、アイリスが感情のサーチを開始。
「ターゲットがわざわざ自分の居場所を知らせるようなことはしない筈。音の感じからして、反響の具合で周囲の様子を確かめてるような気がする」
「マリアのように、か」
振り向くエクスマリアにラムダは頷き、無骨なナイフをすらりと抜いた。
「来るよ。ハンターだ!」
咄嗟に飛び退くラムダの足下を何かの衝撃が爆ぜる。
地面に片手を突いて側転すると、次弾を予測してナイフで飛来物を打ち落とした。
黒い球体……のように見える。
フリントロック銃にしては銃声がしない。
ラムダのハンドサインに応じて、未散は射撃のあった方向へと走り出した。
「罪の味に抗えず、ヴェールを暴く無礼者! 足元見えぬも気付かずに四肢を捥いで刻んでやろう!」
次なる弾丸が放たれ、それが直撃した――と同時に未散はその方向をビッと指さした。
いくつものゲートが開き無数の世界群をくぐり抜けた青い羽根が相手へと命中。
肉体を強引に貫いてその後ろの樹木までもを破壊していく。
が、そこで倒れるほどヤワな相手でもなかったらしい。
片腕だけになった黒ずくめの女が急速接近。
未散の顔面めがけて黒いナイフを繰り出してくる。
直前でナイフを差し込んだラムダがそれを防御。拮抗したタイミングでエクスマリアが飛びかかり、頭髪を仕込んだ腕で強烈な刀による斬撃をたたき込む。
相手は袈裟斬り……というより斜めに上下分割され、上半身が回転しながら転落する。
が、それでもがしりとエクスマリアの足にナイフを突き立ててくる。
「こいつ……」
集中攻撃を浴びせることには成功したが、それは転じて相手一人に集中してしまったということもである。相手側からすれば、引きつけに成功したようなものだ。
「ごきげんよう。いい夜ですね」
道化師の仮面を被った黒ずくめの男が音もなくエクスマリアの背後に出現。突如無数の黒い帯によってぐるぐると拘束されるエクスマリア。
と同時に何者かから治癒の術をうけた女がバラバラになった肉体を再構築。とんできた左腕を自らの肩にガチンと装着した。
手のひらに仕込んだ何かの穴を至近距離で突き出してくる。
とっさに後方に転んで回避すると、手のひらから発射された弾丸が背後の木の幹へとめり込んでいった。
「なるほどこういう絡繰で」
姿勢をもどし身構えるラムダと未散。
が、相手もまたぴょんと飛び退き距離をとる。
エクスマリアが内側から頭髪を加熱させて帯を切り裂き拘束から逃れると、道化師仮面の男は両手をクロスさせて不思議な姿勢をとっていた。まるで糸仕掛けの操り人形でも動かすかのように十指を小刻みに動かしている。
そんな彼から読み取れるのは、スマートかつ冷静な殺意。
「このままやり合ってもどちらかが死ぬのみ。取引しませんか」
「知る限りターゲット全員分の居場所を吐いてここから去るというのはどうだ」
「ご冗談を」
挑発してみたがまるでゆらぎがない。先ほどバラバラにしてやった女も、まるで無傷のごとく両手のひらをこちらに向けて射撃姿勢をとっていた。
「……ここから西に一人、東に一人、それぞれターゲットを見つけました。我々は彼らを追っている最中でしたが、二手に分かれてしまいましてね。いかがでしょう、山分けするというのは」
「それが嘘ではないという証明が?」
ふわりと指を突きつける僅かに浮きあがり、指を突きつける未散。
「残念ながらございません。その代わり、どちらをとるかをあなたに選ばせましょう」
「わかった。それでいい」
エクスマリアは『余計な消耗はさけたい』とラムダたちに述べると、東側を選んで走り出した。
一方こちらはセレマたちのチーム。
セレマはズボンのポケットに両手を入れ、鼻歌交じりに森の中を歩いて行く。
(早い話だ。自分たち以外にこの森に入り込んだムシケラ全員を潰せばいいんだろう?
虫取りというのは厄介でしぶとい虫から潰してしまうに限る。
総取りするのはその後でもいい)
セレマは同時に投入された他のハンターたちをすべて叩き潰すことでターゲットを総取りしようと考えているらしかった。
彼自身が非常に凶悪な『所見殺し』であるために、かなり有効な戦術であるように思えた。
普段から充分な用意をしていない人間に対して、彼の襲来は自然災害のそれに等しい。
「あー……そうだ忘れてた。これあくまでゲームなんだよな。
悪い悪い、淡々とやってちゃ面白くねーな。
んじゃここらで他のチームにちょっかい出してみるか?」
そんな考えを察してくれたのか、ミズハが自分のこめかみをトントンと叩いて見せた。
彼のレーダースキルに何かがかかったことを示す合図だ。
こんな森の中で人間を探し出そうというのだから、感情探知をはしらせたセレマのようになにかしらの非戦スキルを走らせて挑むのは常套。逆に、そうした存在を見つけ出すにはミズハの戦術はおおいにハマったのである。
して、結果は。
「お、なんだァ? ハンターにしちゃあ随分とまあ綺麗な連中じゃねえか」
小豆汁粉を固めたようなアイスバーをかじりながら、どこの国とも知れない軍服を来た若い男が足音をずかずかと鳴らしながら現れた。
軍服の下には何もきていないのか、ボタンの前を開け傷だらけの胸板を晒している。
「まァいい。こちとら運動不足なんだよ。高杉、天狗、下がってろや」
アイスバーをかみ砕き、ニィっと笑う軍服男。
それまで探索を仲間に任せていた礼拝がクスクスと笑った。
「お一人で、三人を相手になさるのですか?」
「自信家な男は嫌いかい?」
「ボクはちょっと嫌いかな」
セレマが礼拝よりも前に歩み出て、世にも美しく微笑んだ。
「そういう男はねじ伏せてやりたくな――」
次の瞬間、軍服男の拳がセレマの顔面に命中。なんともいえないボジャアという奇怪な音と共にセレマの首から上が爆散した。
「俺は……あー、テッドと呼んでくれ。美少年、名は?」
「セレマ」
首から上を再生させ、乱れた髪を整える。
「セレマ オード クロウリー。いと美しき至高の御方と呼んでくれ」
「ハッハァ! お前みたいなやつ嫌いじゃねえや『いと美しき至高の御方』ちゃん!」
再生したそばから連続でパンチを繰り出しセレマの肉体へマウントをとって粉々にしていくと、そのそばから再生するセレマのボディにスッと拳銃を突きつけた。
古めかしい拳銃だが、銃口の内側に見える闇にセレマは本能的にぞくりとなにかを感じ取った。
まずい、と察したのだろうか。協力を要請するサインを指先だけで出した。
そうされるのを待っていたのだろうか。礼拝はその美しい足でテッドの拳銃を蹴りつけた。
手から離れはしなかったものの、明後日の方向へと銃弾が撃ち出される。
その足に見とれていたテッドに、ミヅハが鋭く矢を放つ。
咄嗟に突き出して手のひらを矢が貫通。テッドは痛みなど知らないとばかりにその手を握り込み礼拝へと打ち込んだ。
防御姿勢をとるも派手に吹き飛ばされる礼拝。
「キミはひどく気に触る戦い方をするな」
セレマは表層的な自己再生を終え、アストラル体の槍を作り出すとテッドへと叩きつけた。
吹き飛ばされこそしたものの、すぐに宙で身をひねり着地するテッド。
「『術中にハマった振り』とはね」
「バッカ、ちげえよ。お前のことが知りたかったんだよ。お前がどういうやつかなんて、ハマってみねえとわかんねえだろ」
「同じことだ、全く」
まだにテッドへ狙いを定めているミヅハが、『どうするこいつやっちまうか?』という合図を送ってきたが……そんな時、礼拝から二人にハイテレパス通信が寄せられた。ぴたりと手を止める二人。
一方のテッドは矢が刺さったままで両手を挙げ、歯を見せて笑った。
「オーケー、今日はこの辺にしといてやるぜ。次に会ったときはテメェの死ぬときだ! じゃあな!」
まるで映画かなにかをマネしたような台詞を言ってからきびすを返し、闇から溶け出るように『ミズハの真後ろから』現れた天狗面の男が低空飛行でもってテッドを掴み、その場から撤退していった。
「マジかよあいつ……で? あのテッドにテレパスでなんて言ったんだ?」
ミヅハが弓を下ろして振り返ると、礼拝が口元の血を拭って起き上がる。
「『殴られた女が一番そそるのですって、ご存じ?』」
「やれやれ……今度は負けるフリとはね」
セレマは肩をすくめ、そして歩き出した。
進むべき方向は分かっている。
今の戦いを、隠れて観察していた人間がもうひとりだけいたから。
●鷹
「もし、其処のお人――嗚呼、嗚呼、可哀想に」
闇の中から声がする。
恐れを抱き声から逃げるように走り出すと、青い羽根の幻影を散らしながら『彼女』は男の目の前へ突如として先回りしていた。
彼女素肌のように白く美しい象牙のナイフを差し出すと、彼女は……未散は自らの首を晒すかのように頭をかしげて見せた。
「其れでぼくに歯向かっても良い。もしくは……自らの首に其れを突き立てるのも一興」
男は後じさりし、今度こそ未散から逃げようとしたその瞬間。いつの間にか背後へ迫っていたエクスマリアが男の首を掴んでその場に力強く押し倒した。
「せめて女の腕の中でお死になさい。疲れた蝶の堕ちた先、墓標に名前を刻んで差し上げます」
優しく語りかける未散。
無言で、表情の読めない目で見下ろすだけのエクスマリア。
そんなエクスマリアへ抵抗するかのように腕へナイフをふるった――が、刃がたつより早く男の手首は切り離されて飛んでいってしまった。
血のついたナイフをかざしたまま無言で歩み寄るラムダ。
「なんて嘘。――失敬、蛾に慈悲をくれてやる程、人間出来て無いので、さようなら」
未散は優しく冷たくささやきかけて、背を向けた。
男の首に、ラムダのナイフとエクスマリアの刀が添えられる。
「キミは運がいい。最後に美しいものを見て死ねるんだから」
必至に抵抗しようと殴りつける男に、セレマはひとりでマウントをとっていた。
まるで効果がない抵抗だというのに、男はそれをやめられずにいる。セレマに執着せずにはいられないのだ。
そして振りほどけもしないのは、二本の矢が彼の両足を貫きまともな稼働をできなくしているからである。
逃げようとする彼の足を的確に射貫いた、ミズハの腕の成せる技だ。
「た、たのむ。見逃してくれ。俺はあいつらがいうほどヤバい犯罪なんて犯してねえんだ。一人……そう、女を一人刺しただけだよ。貴族でもなんでもねえ、その辺の娼婦さ。あいつ俺があんだけ貢いだってのに俺のものにならねえから……なあ? いいだろ? こんなのたいした犯罪じゃねえよ」
「…………」
命乞い……なのだろうか。
必至に呼びかける男に、しかしセレマはただ冷たく見下ろした。
「死人は契約する魔性達の贄に捧げる。凄惨で、惨たらしい様を観客に届けてやろう」
「お、おい」
「けどボクは殺さない。殺すのは、彼女にやってもらうよ」
男の上からどいたセレマと後退するように、礼拝の足が男の傷口を柔らかく踏んだ。
その痛みと重み、そして覚えのある『快感』に、男は目を見開いた。
「なんで……あんたが……」
「さあ、なぜだと思いますか?」
垂れ下がる髪を指でかきあげ、顔をのぞき込む礼拝。
「凶悪犯罪者だなんて、身の丈に合わない呼ばれかたをして可愛そうに」
「だ、だろう? あんたも知ってるはずだ。なあ助けてくれよ俺はこんな死に方する義理なんてねえだろ。娼婦が怪我した程度でよお……ぐう!?」
うめいて言葉を止める。見ていられなくなったミズハが新しい矢を突き立てたのだ。
そして、礼拝は素足で男の頭を踏みしめる。
「私、貴方の望みを叶えに来ましたのよ。ねぇ……」
優しく、そして。
「今度は私の足で、眠らせて差し上げますから」
冷酷に、礼拝は男をぐしゃりと踏み抜いた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
――ゲーム終了
――各チームの指名者に賞金が支払われ、ハンターたちにも無事報酬が支払われました。
GMコメント
■オーダー
あなたは貴族達が行う闇の娯楽『フォールエンドガイズ・ショー』の猟犬役として雇用されました。
ゲームの内容は至ってシンプル。
森に放たれた犯罪者を見つけ、追い詰め、殺すだけ!
貴族達にブラックな娯楽を届けましょう!
■ルールとチーム
先述したように、森の中に放たれた四人の『犯罪者』を殺した者が勝利というゲームです。
一人殺すごとに一定額の賞金がゲットでき、投入されたいくつかの猟犬チームたちは我先にと犯罪者を追い、そして時にはライバルチームを蹴落とすのです。
皆さんは3人一組の猟犬チームを作って森へと入って頂きます。Aチーム&Bチームですね。チーム名が味気なかったなら、オシャレな名前をつけてもいいでしょう。
森は広く、急に鉢合わせにならないように場所やタイミングを散らしてスタートするようです。
メタ情報として付け加えますと、AチームとBチームが森の中で鉢合わせることはありません。なので、森の中で鉢合わせるのは敵や獲物だけだと思ってプレイングを組んでください。
■ポイント『探索と戦闘』
舞台となるのは夜のワルセザ森。この森は霧が深く空から森の中を見通せないというかわった特性をもちます。
ですので様々な探索スキルを駆使して『犯罪者』や『ライバルチーム』を探査し、森の中を進むことになるでしょう。
犯罪者たちは多少の戦闘力をもってこそいますが数の差が明白なので、接触したなら取り囲んで瞬殺できるでしょう。
しかし接触したのがライバルチームだったなら同格前後の戦闘力をもった連中との熾烈なバトルに発展するかもしれません。
もちろんこちらとて大けがを負っては賞金どころでなくなるので、鉢合わせたら多少バチバチに戦ってからすぐに撤退というのが安全かつ効率的です。倒しきろうと踏み込むとかえって大けがをおいかねません。(そしてお互い得しません)
■背景解説
『フォールエンドガイズ・ショー』は貴族達が嗜虐を楽しむために開催される闇のショーです。
森に放たれた『犯罪者』はこのために用意された哀れな男達であり、そのうち一人はマダム・フォクシーの管理する娼館で娼婦を刺したことへの報復として提供されました。
彼らにかかっている懸賞金はショーのゲストたちによって支払われ、雇われた『猟犬』たちはそれを餌として犯罪者たちを狩るのです。
猟犬らによる争奪戦と、犯罪者のあげる恐怖の叫び。それを特別なマジックアイテム越しに閲覧することで貴族達は楽しむという仕組みになっています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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