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シナリオ詳細

再現性東京200X:破滅の未来と来訪者

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●核戦争後の世界
 19XX年――世界はついに全面核戦争に突入。結果、世界国家は崩壊し、地は荒れ果て、水は枯れ……大地は死のそれへと変わった。
 しかし……人類は滅んではいなかった! 荒廃した大地に、しかし人々は強かに生き続けていた。
 だが、人類に傷つけられた地球環境は、残された人類へと牙をむく。核戦争の後遺症と、気候変動による温暖化により大規模に作物を育てることは難しくなり、放射線の影響を帯びた動物たちは、ミュータントと化して人々に襲い掛かる。
 そして敵は自然だけではなく。一部の人間は野盗、略奪者と化し、別の人間を襲う。
 この地球に、もはや秩序はない。此処は暴力がすべてを支配する地。奪い、奪われ、そして今日をか細く生きていく……未来の見えぬ、終末後の世界。それが、この時代であった。

 かつて東京と呼ばれた地。どこまで砂漠が広がり、あちこちにはかつての文明の残骸が見える。この土地では、力持たぬ人々は幾ばくかの集落を作り、身を寄せ合って暮らしている。此処は、そんな集落の一つである――。
「ヒャッハー! 水だ! 水をよこせ!」
 静かな集落に、下卑た叫びがこだました! ボロボロの貫頭衣に身を包み、手に手に凶器を持った荒くれの強奪者(レイダー)たちである!
「それから食い物だ!」
「ああ、そんな……この村には、もう蓄えは……!」
 村長がよぼよぼと歩きより、うなだれる。そう、この集落とて、ぎりぎりのところで生活している。こういっては何だが、他者に分け与えられるほどの余裕はない。
「うるせぇ! お前らが死んだところで知ったことか! 出せるだけ出せ!」
「ああ……」
 長老はうなだれると、近くにいた若者へと視線を移した。ほどなくして、若者は台車に満載した食料と水を持ってくる。
「あるじゃねぇかよ! たんまりとよ!!」
 強奪者のリーダーがゲヒヒ、と笑う。リーダーは部下に命ずると、それらを全て自分たちの乗ってきたトラックへと乗せた。
「また来るぜ! 俺達のために、せいぜい頑張って食料を集めてくれや!」
 強奪者たちは、改造したバイクやバギーにまたがり、爆音とともに集落から去っていく――集落の民たちは、そんな彼らを絶望の表情で見送る事しかできなかった。

 ――……。
「……しかしよぉ、妙じゃねぇか?」
 帰路、その途上。強奪者の男は、首をかしげた。
「これで、あの村襲ったの何回目だ? 毎回蓄えがねぇって言うけど、行くととりあえず喰いもん出してくれんだよなぁ」
「そりゃぁオメェ、ほんとは蓄えあるだけじゃねぇの?」
 そうは言いつつ、確かに妙だな、と男が唸った。
「妙って言えばよ、この国自体が変だぜ、なんか。確かに、魔物の類はいるけどよぉ、なんか……なんか、変な感じなんだよなぁ」
 男たちは、『国外』から流れてきた山賊であった。元々幻想で暴れていた彼らは、かつて幻想にて発生した『砂蠍』事件に呼応して挙兵――するも敗残。そのまま流れに流れ、気づけば練達の此処……再現性東京へと、知らず知らずのうちに流れていたわけである。
「練達って言ったら、妙な機械? の国って聞いてたが、こんな荒廃した所があるもんなんだなぁ」
 山賊たちにとって、奪い、奪われるこの国はまさに己が業にうってつけの国である……あるのだが……何か妙に、すわりが悪い。
「……なぁ、そう言えばよ」
 男の一人が、声をあげた。
「俺達ってさぁ、ここ来てから、人殺したか?」
 その言葉に、男たちは首をかしげた。
 確かに――言われてみれば、殺人は発生していなかった。
 いくら人が無力とは言え、過度に抑圧されれば暴力に訴えることもある。掠奪とは、すなわち逆襲されるリスクを常に抱えて行うものであるのだが――ここにきてから行われた掠奪は、あまりにもスムーズに行われ過ぎた。
 妙だ……とは思うモノの、しかし今日のみを生きる山賊たちにとっては、それもどうでもいい違和感の一つではある。
 とにかく、楽に食料を強奪出来て、楽に生きて行けるわけだ。悪い事ではないはずだ……。

●アポカリプスの真実
「へー、『崩壊後の世界のテーマパーク』かぁ」
 『ぷるぷるぼでぃ』レライム・ミライム・スライマル(p3n000069)は、ずず、とミネラルウォーターをストローで吸いながら、そう言った。
 再現性東京200X地区、通称『エブリディ・アポカリプス』の入り口ゲートにある管理スペースである。レライムは情報屋として、そして依頼を受けた八名のイレギュラーズ達が、そこに待機していた。
「再現性東京の中でも、ここはテーマパークとしての運用が強い場所でしてね。だってそうでしょう? いくら懐かしいからって、崩壊した世界を再現して住みたい、なんて人はそうそういませんし。だいたい、終末後世界(ポスト・アポカリプス)に生きていた人間が、混沌世界で生活できない、なんて逃げ出すほど神経細いわけがないですよ」
 管理者の男は、にこりと笑った。住みたいとは思わない。だが、体験してみたいとは思う。出来れば安全に。
 旅人たちから得られたポスト・アポカリプスの情報は、想像では補えぬ現実感を再現する。誰もが一度は体験してみたい、ポスト・アポカリプスの体験テーマパーク。それが再現性東京200X、という訳だ。
「ここでは、安全に終末後世界を体験できます。コンピュータ制御されたロボット・ミュータントが徘徊していて、これを、前時代の遺物、戦車やクルマに乗ってモンスターハントする遊びもできます。強奪者になって勢力争いをしたり、単純に集落で生活したり、伝説の暗殺者になって世界を救ったりも。とにかくルールとして『人の命を奪わない』さえ守っていただければ」
 なんでも可能です。と、差し出されたパンフレットを眺めながら、レライムは、ほえー、と感嘆の声をあげた。
「人間の考えることは面白いね。それに、皆ルールを守っているのは行儀がいいよね」
「それは、この区画を包む結界、それを維持するアーティファクトのおかげですね。この街の名前の下にもなっているアーティファクト、『エブリディ・アポカリプス』のおかげで、この区画内では、武力衝突による死者は絶対出ないように調整されているわけです。でも、同時に演出で派手に爆発しますし、死んだみたいに血を噴出して倒れたりもできます――死なないんですけどね?」
「ここが楽しそうなのは分ったよ。で、何が問題なの?」
 レライムが尋ねるのへ、男は頷いた。
「実はですね、幻想から流れてきた山賊たちがいるのですが、それが迷い込んできて、住み着いてしまいましてね」
 男が肩をすくめる。
「テーマ―パークでは、皆さん『わかっていて終末世界を楽しんでいます』。ですから、彼らがどれだけ略奪行為を働いても、受け入れてくれるため、今のところは問題は発生していません……が、彼らがこの街の外に出て掠奪を始めたり、他のお客様をしらけさせたりする可能性を考えると、厄介なのですね。それにほら、他国、というか幻想から『お前たちは我が国の悪党をかくまっているのか』なんて言われても面倒ですし」
「なるほど。つまりは、山賊たちを見つけて、捕まえてくる……っていうお仕事なわけだね?」
 レライムは頷くと、イレギュラーズ達へと、
「そう言うわけだよ。皆、死にはしないらしいけど気を付けてね。……せっかくだから、終末後の世界も満喫して来たら?」
 そう言って、送り出すのだった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 西暦も2020年になりましたが、終末後の世界が来る様子はありませんね。良い事です。

●成功条件
 『迷い込んだ山賊』達の撃破・捕縛。
 +オプション
  崩壊後世界を満喫する。

●状況
 核戦争により、荒廃した東京の大地――と言う設定の、練達『再現性東京200X』地区。此処では、終末後世界(ポスト・アポカリプス)を体験できる楽しいテーマパークとなっています。
 しかし、そこに異分子たる『本物の山賊』が迷い込んできました。
 皆さんは、これを捕まえてきてください。
 ……ちなみに、手早く敵を倒せた場合、ポスト・アポカリプス世界で遊んでくることができます。ポスト・アポカリプス世界では、水を求めてさまよったり、一子相伝の暗殺者になってホワタァしたり、元警官の放浪者になって悪党とV8エンジンカーレースしたりなどで遊べるようですよ。

●再現性東京200Xについて
 核戦争後、崩壊した世界をモチーフにした、練達の特殊地区。他の再現性東京地区とは違い、世界崩壊後テーマ―パークとしての、観光地としての要素が強いです。
 崩壊後世界、と聞いて想像する物は大体存在します。危険なミュータント。前時代の兵器。ヒャッハー盗賊。V8。変なロボット。種もみ。などなどなどなどです。

●特殊ルール
 このシナリオでは、『敵味方共に死亡判定が発生しません』。戦闘不能・重症判定は発生します。

●エネミーデータ
 『迷い込んだ山賊』 ×14
  斧、棍棒などで武装した山賊たちです。彼らはこのテーマパークの客(エキストラ)ではなく、国外から迷い込んできた本物の山賊になります。
  ただし、彼らもこの地区のルールには逆らえず、人を殺すこともありませんし、殺されることもありません。戦闘不能や重症にはなりますが。
  特筆するほど能力を持っていることはありません。数は多いですが、皆さんなら、油断なく当たれば問題なく討伐できるはずです。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • 再現性東京200X:破滅の未来と来訪者完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年12月05日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

主人=公(p3p000578)
ハム子
イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
メイ=ルゥ(p3p007582)
シティガール
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
アンジェリカ(p3p009116)
緋い月の
蜂八葉 黒丸(p3p009239)
けだもの

リプレイ

●ようこそ、崩壊後の世界
 どこまでも砂と廃墟が広がる大地。
 再現性東京200X、ここは災厄後の世界。
 その砂塵吹き荒れる大地を、一人、さすらう者あり。
「み……水……」
 ぼそり、と呟く――『けだもの』蜂八葉 黒丸(p3p009239)。緑の髪と、銀のしっぽは砂塵に吹かれ、砂がまとわりついてぱさぱさと渇いていく。
 黒丸がたどり着いたのは、小さな集落であった。崩壊したビルの残骸を住居にし、細々と暮らす数十名の人々が暮らす。そんな集落である。
「だ、誰だ!」
 集落の入り口にいた二人の男のうち、一人の男が、警戒した様子で黒丸へと声をかけた。
「い、行き倒れか?」
「や、奴らの手下かもしれん……捕まえておくか?」
 男二人は目くばせをして、黒丸を挟み込むように、手にした木の棒を構える――そこへ。
「いや、すまない。怪しいものではないんだ」
 砂塵の奥から、声が上がった。そこにいたのは『艶武神楽』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)で、黒丸の様子に苦笑しながら――黒丸は朝ご飯を食べ損ねてしまったので、あのようにふらふらとしているのである! ――両手をひらひらとあげつつ、男たちへと声をかけていた。
「私たちは仕事を頼まれてな。用心棒のようなもの、という設定だ」
 おお、と男たちが声をあげた。
「用心棒……では、近頃この辺りを騒がせている盗賊を……!」
 こくり、とブレンダは頷く。
「他にも仲間達はいるが、周囲の探索に出ていてる。全員で八名。噂の盗賊の討伐に来た。ひとまず、話を聞かせてくれないか? それと――」
「ごはん。ちょうだい……」
 黒丸がそう言うのへ、ブレンダは笑った。
「少し、食料を分けてくれないかな? 相棒が腹を減らしていてな。その分、しっかりと働くよ」

 一方、その集落より少し離れた場所。何の変哲もない岩場に見えたその場所は、実はテーマパーク従業員が緊急時に使う、非常通路の出入り口が隠されている。再現性東京200Xは、崩壊後世界を再現したテーマパークであるので、こういった従業員用の出入り口が、実は一見すればわからぬように、それとなく配置されているのである。
「強奪がイベント扱い……という事は、そのイベントを起こすための拠点や、発生地点も設定されているのだろう?」
 『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が、人工的に発生させられた砂塵に目を細めつつ、傍らに立つスーツ姿の男へと言った。
「ええ、強奪者(レイダー)役を楽しみたい方のための本拠地スペースがありますね……まさか外からやってきて、そこに住み着くとは」
 リアルすぎるのも考え物かなぁ、などとスーツの男――従業員が笑う。
「それがいい所でもあるのだろう? 確かに、この肌を打つ砂塵はリアルさ。ま、虚構を維持し続けるのも、相当に大変という事なのだろう……っと」
 そんな二人の間に、きゅいーん、と言う音を立てて何かが降り立ってきた。くるくると丸まって回転する、何か。それはぱっ、とはじけるように両手足を伸ばすと、人の形――より正確に言えば、ハリネズミの着ぐるみをまとった人――をとった。ちっちっ、と人差し指を立てて揺らすそのハリネズミは、着ぐるみを着た『シティガール』メイ=ルゥ(p3p007582)だ。
「感知に反応有りなのですよ! 山賊の皆さん、そろそろ出発のようなのです!」
「そうか……では、一度戻ろうか」
 汰磨羈は口元に手をやり、むぅ、と唸った。

「おお、その耳飾りは……文明崩壊以前、生産されていたというアンドロイド……破壊されずに残っていたのですな。いやはや、私も初めて拝見いたしました」
 偵察を終えて戻ってきたイレギュラーズの仲間達――そして『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)を出迎えた集落の人々は、イルミナの姿に驚き、おそらくはそうであろうな、と言う『設定』を述べてくれた。
(ははあ、なるほど。『変なロボット枠』と言うのがあると聞いていたッスけど、イルミナはそう言うカテゴリになるわけッスか。設定とは言え、なんだか新鮮な反応ッスね!)
 にこり、と微笑むイルミナ。おお、と感嘆の声をあげる集落の人々。
「それで、イルミナも盗賊討伐に参加するッスよ。仲間達の報告によれば、そろそろ盗賊たちが此方に向ってくるころらしいッス。そこを、イルミナたちで迎撃するわけッスね!」
「皆さんは、安全な……建物の中に隠れていてください」
 『緋い月の』アンジェリカ(p3p009116)が、周囲の建物を眺めながら、そう言う。ふと、空を飛ぶ鳥の視界とリンクしたアンジェリカの眼が、何かを捉えた。ボロボロのバギーやバイクにまたがって疾走する、暴徒たちの姿だ。
「来ましたね」
 村人たちからどよめきの声が上がる。些かワクワクしたような印象をうけるのも、まぁ仕方ないだろう。集落にいるのは、崩壊後世界を遊びに来た、ロールプレイするお客さんだ……これも一つのイベントか何かだと思っているに違いない。
(本物の山賊が紛れ込んでいる、とは知らないのでしょうけれど。とはいえ、今回はこの空気を守ることもお仕事の一つ。しっかり演じさせてもらいましょう)
 アンジェリカは胸中で呟き、立ち上がった。
「いきましょう、イルミナさん」
「了解ッス!」
 ぴっ、と敬礼などしつつ、イルミナも立ち上がった。

●救世主、あらわる!
「ヒャッハー! 喰いもんだ! 喰いもんをよこせ!」
 ヴォウ、ヴォウ、とけたたましくバイクのエンジンを鳴らす。それに負けじと、だみ声を張り上げる。
 幻想から流れ流れて幾日か。ついに見つけた安住の地――といった印象だろうが、彼らが『この世界』の異物であることは間違いない。そして異物であるならば。それは当然、取り除かなければなるまい。
「おっと、そこまでだよ!」
 廃墟のビル群から、何かが飛び降りた。空中を飛ぶその姿は、華麗なる鳥か。しかしそれは、死を運ぶ鳥である――。
 宙を舞うその鳥は、手にした必殺の槍を振るい、山賊の一人へと襲い掛かった。叩きつけられた槍の刃先が山賊を斬りつけて、ダメージを受けた山賊がもんどりうって倒れる。
「な――」
 突如として山賊たちの中心に降り立ったその鳥――いや、人。『ハム子』主人=公(p3p000578)は槍を構えて不敵に笑う。
「人々を苦しめる山賊ども――ここがお前たちの墓場、って奴だ」
 死なないんだけどね、と胸中で舌を出しつつ、公は思う。
「その通り――さぁて。なんだっけ、てめぇらに明日を生きる資格はねぇ! だっけ? ……あ、殺せないんだったここ」
 にぃ、と笑い、砂塵の中より現れる救世主――『策士』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)。ばさり、とその扇子、戦扇を開くや、その身体に満ちる闘気! それは、凡人たる山賊たちにも感知できるほどの、明確な『力量の差』だった。
「くそ! こいつら、イレギュラーズだ! 幻想からの追手か!?」
 山賊たちが悲鳴をあげるの。その通り、山賊たちの前には、待ち構えていたイレギュラーズ達がその姿を現していた! どよめく山賊へ、メーヴィンは鼻を鳴らす。
「無粋だなぁ。もう少しノッてほしいよ。まぁ、とはいえ、これが厳しい現実であることは確かだ」
「くそ、訳の分からないことを……やっちまえ!」
 リーダーらしき男が吠えるのへ、山賊のうち一人が、メーヴィンへと襲い掛かった。その棍棒を片手に、殴り掛かる――メーヴィンはそれを、扇子にて受け流すと、カウンターとばかりに扇子を叩きつけた。
 ぎゃっ、と小さい悲鳴を上げて、打撃を受けた山賊が転がる。
「一子相伝の暗殺拳でないのは申し訳ないが。とはいえ、此方の技術も、それに勝るとも劣るまい?」
「くそっ……」
 リーダーは舌打ちし、部下に目配せをする。乗ったバギーがうなりをあげて、方向を転換。逃走を図る――だが!
「ハッハー! 獲物が雁首揃えて間抜けを晒しに来たようだな!」
 ぎゃりぃ、と音を立てて、その行く手をバイクとハリネズミが遮る! 汰磨羈とメイが、後方から山賊たちを挟み撃ちにしたのだ!
「こうなっては、御主等自慢のバイクもその利を生かせまい。御主等はもう、敗けている」
「なのですよ!」
 ニヒルな笑みを浮かべる汰磨羈。そして人差し指を立ててちっちっ、と振ってみせるメイ。二人は同時にかけた。方やバイクに乗ったまま。方や青い閃光の如き速度で飛び出して!
 バイクに乗った汰磨羈が、くるりと回転しながら体当りをするメイが、山賊たちを次々と打ち倒していく。その過程で、汰磨羈は、自身の攻撃が、致命打にあたる寸前に防御結界のようなもので受け止められていることに気づいた。これが、この街を包むルール、不殺の正体なのだろう。致命傷になるようなダメージを、ある程度防ぐという魔術結界だ。
 一方、メイがハリネズミなら、こちらも『一匹の獣』には違いない、黒丸が戦場をかける。
「うう、やっつける……!」
 その猫のような足で機敏に戦場を駆け巡りながら、銀色の毛皮でおおわれた手で、一人一人山賊たちをノックアウトしていく――殴るたびに、山賊たちは「おうぶ!」とか「いわし!」とか変な悲鳴を上げていくので、
「……♪」
 無表情ながら、ちょっと楽しくなってくる黒丸である。
「貴様らの蛮行はこれで終わりだ。神妙にお縄につくがいい」
 ブレンダが燃え盛る長剣を振るい、山賊たちを次々と切り倒していく。山賊とて、決して雑魚という訳ではあるまい。だが、相手は歴戦のイレギュラーズ――いや、世紀末を救う救世主。これは相手が悪い。
「やれ、やれお前ら! やっちまえ!」
 悲鳴に近い号令をかけるリーダーであるが、イレギュラーズ達の攻勢は止むことは無い。
「8人の侍ではなく、8人の特異運命座標と言ったところでしょうね。貴方達の狼藉は其処までです。――覚悟していただきましょうか」
 アンジェリカの放つ裁きの光。世紀末の太陽よりも赤く熱いその光が、山賊たちを薙ぎ払う。ぎゃあ、と悲鳴上げながら、ド派手な爆発と共に吹き飛んでいく山賊たち――普段扱うスキルよりも、明らかに爆発量が増している。アンジェリカはちょっとだけ、目を丸くした。異常に派手なのも、この街の演出(ルール)なのだ。爆薬マシマシである。
「くそ、ようやく安住の地にたどり着いたってのに……なんで!」
 次々と倒れていく部下たちの姿に、思わず涙目になる山賊リーダー。とはいえ、此方としても容赦してやる義理はない。
「此処は貴方たちの安住の地などではないッス!」
 リーダーへと迫る、イルミナ。その四肢に、青のエネルギーフィールドが放出された。乾いた大地をかける、蒼雷の輝き。
「美すぃ……」
 その光景に瞳を奪われた山賊リーダーは、思わずそう呟いた。明らかにそう言うキャラではなかったが、これもこの街の演出なのかもしれなかった。
「てやーっ、ッス!」
 振るわれた青の斬撃が、山賊を切り裂いた! 爆発する、蒼の奔流! エネルギーが山賊の内部を駆け巡り(演出)、内側から炸裂し(演出)、爆発する(けど死んでない)!
「ふぅぐぅわぁぁぁぁぁぁ!」
 奇妙な悲鳴を上げながら、山賊は爆散(演出)した。後に残るのは、死屍累々と横たわる(死んでない)山賊たちの姿だった。
 戦闘の終わりを察して、集落の人々がその姿を現した。駆けよってくる集落の長へ、
「私達は流れの賞金稼ぎだ。礼などいらぬ」
 ふっ、とニヒルに笑い。
「こいつらの賞金さえ貰えれば、それでいいのさ」
 汰磨羈はそう言った。
 歓声が、辺りに響き渡った。

●そして、荒野を行く
 メーヴィンは、バイクを駆り、荒野を奔った。どこまでも続く砂地。果ての見えぬ砂塵。
 砂漠の真ん中で、メーヴィンはバイクを止めた。水筒から水を取り出し、のどを潤す。
「ここが、あり得る可能性の世界か……」
 そこに、生命の気配は感じられない。そうだろう。この世界は、崩壊しているのだ……いくつかの生命はしぶとく生き残っているが、それが決して、真っ当な生き方だとは思えない。
「そんな世界をテーマパークにしてしまえるのも、人のユーモアだろうか。しかし、私達がしくじれば、この世界が本当にこうなってしまうのかもな……」
 ぐ、と手を握った。未来はこの手の中に、とは使い古された文言だろうか。だが、確かに、自分たち……特異運命座標の手に、この混沌世界の未来は握られているのだ。
「重い……な」
 それは、その運命が、だろうか。使命が、だろうか。責務が、だろうか。
 メーヴィンはしばし、水筒に口をつけながら、砂塵に身を委ねた――。

「崩壊後世界を満喫する、として」
 アンジェリカは小首をかしげた。
「皆さんはどんなことをやってみたいですか? 私は――」
 依頼を無事達成したイレギュラーズ達に与えられたのは、ささやかな休暇だった。ここ、崩壊後の世界をモチーフとしたテーマパークを楽しめる権利。それが、依頼報酬の中に含まれていたのだ。
「私は、旅をしてみたいです」
 と、アンジェリカは笑った。多くの人々と出会い、多くの人々と手を繋ごう。時に騙されることも、裏切られることもあるかもしれない。この崩壊した世界で、人の営みを見つめ、楽しもう。
 アンジェリカは、仲間たちと別れて、砂塵の道を一歩踏み出した。そこは、一見すれば、何もない破滅した世界なのかもしれない。
 けれど、きっとそこには、様々な感情とロマンが、眠っているはずなのだ。
「こんな世界をテーマパークにする……その気持ち、少しだけ。今なら分かる気もします」
 アンジェリカの旅が、今ここに始まるのだ。

 一人の少年が、遺跡に足を踏み入れていた。前世紀の遺産。未だに発電システムがかろうじて息をし、内部を動かし続けた、ここはかつてのアンドロイド研究所。
 いくつもの、巨大な試験管のようなスペースが内部には見える。それらはほとんどが割れていたが、一つだけ、無事なものがあって、明かりが漏れている。
「綺麗だ……」
 少年が、思わずつぶやいた。中には、一体のアンドロイドが眠っていた。瞳を閉じ、まるで呼吸をするように上下する胸。分厚いボディースーツに包まれながらも、どこか神々しさを感じる姿。
 ぷしゅ、と、試験管に線が入る。そこからガラスが上下に分割されて収納すると、アンドロイドが目をさました。
「識別名、イルミナ・ガードルーン。現在マスターが登録されていません。マスター登録をしますか?」
 薄く目を開く、イルミナ。少年は導かれた様に、イルミナへと手を伸ばす。
 ここから始まる、少年と少女(アンドロイド)の物語。世界を揺るがす、ボーイ・ミーツ・ガール。崩壊後の世界で、今一つの運命が脈動する――。
 ――なんて、いいよね。

 激しいギターの音とエンジン音。ぶつかり合う鋼の音。
 繰り広げられる、いかれたスピードレース。砂塵を切り裂いて行われる、命知らずのオフロードレース。その一団に襲撃を仕掛けた公は、運転席に殴り込みをかけると、運転手を放り捨てて、車を奪った。
「さぁて、楽しいレースの始まりだ!」
 トレーラーの上に乗っていたレイダーが、ギターをかき鳴らす。V8のエンジン音が、場を盛り上げるように響き渡る。
 ゴールは遠く、砂塵の果てに。

「やれやれ。厄介ごとには事欠かんな、この地区は」
 ふぅ、とブレンダは小さく息を吐いた。足元には、モヒカンのレイダーたちが重なり合って倒れている。
 バギーを駆り、旅を続けてきたブレンダ。時に敵に襲われ、時に集落を救い。様々なトラブルと隣り合わせの旅だったが、不思議と、嫌だとは思わなかった。
 そこにあったのは、秩序が崩壊したというデメリットを得たうえでの、真実、自由な空間だった。自らを由とし、生きるという事。誰に頼るでもなく、己のみを頼りとして、生きる事。
「……意外と、この世界は性に合っているかもしれん」
 ブレンダは楽し気に、ふ、と笑ってみせた。

 走る、走る、走る――ハリネズミが走る。大地を、砂漠を、ハリネズミが走る。いや、それは、ハリネズミの着ぐるみを着た、メイだ。
 何で走るのかって? 決まってる。ハリネズミは、走るのが大好きだからだ。誰よりも早く走るのが、大好きだからだ。
 変な動物も、ロボットも、車も、バイクも、人も――すべてぶっちぎって。時に転がって、音速に手を伸ばすような速度で。ハリネズミは、崩壊後の世界を奔る。
 すべてをぶっちぎって――ハリネズミ少女は、笑うのだ。
「メイに追いつけるモノなんて、ないのですよー!」

「あ、あんなミュータント、倒せるのかい?」
 銃を手にしたハンターの一人が、怯えたように声をあげる。黒丸は、「ん」と一声あげると、瞬く間の速度で、鹿のようなミュータントへと襲い掛かった。その素早さに、鹿は反応できない。
 黒丸は相手の反撃を許さず、一撃でその頭部を殴りつけた。ぴぃ、と悲鳴を上げた鹿が活動を停止。それを確認して、黒丸がハンターたちを呼び寄せる。
「すげぇ……ほんとに倒しちまいやがった!」
「今日はご馳走だな……!」
 集落の狩人たちを連れて、黒丸は狩りに出ていた。目標は、ミュータント。一応、肉はちゃんと食べられるようになっているらしく、時折集落の人間も仮に出ている様子。
「皆で、たべよ……」
 無表情ながら、しっぽをパタパタさせて、黒丸はそう言った。ハンターたちも、笑顔で頷く。
 皆で食べる、お肉。
 世界が崩壊していようといまいと、それがきっと、一番おいしい。
 黒丸は、そう思うのだった。

「なんでい、テーマパークだぁ? 練達も変な事すんな」
 捕まえた山賊たちを連行しながら、汰磨羈は頭を振った。
「馬鹿にしたものではないぞ? 御主等、おかげで命を拾ったようなものだ」
 この奇妙な街に流れつかなければ、純粋な命の取り合いの果て、山賊たちも無駄に散っていた所だろう。命を拾えただけ、幸運といったものだ。
「まぁ、相応に罰は受けるだろうが。これを機に真っ当に暮らせよ」
「って言うかよ、山賊して商売になるなら、オレら此処で雇ってくれねぇかなぁ」
 汰磨羈は一瞬、きょとんとした顔をしてから、
「うってつけかもしれな」
 と笑ってみせた。
 崩壊後の世界の、日が暮れていく。
 崩壊していようといまいと。
 人はしぶとく、明日も生きていく。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆さんのご活躍により、テーマパークの異物は除かれました。
 崩壊後世界は、いつでも皆さんの来訪をお待ちしています。

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