シナリオ詳細
パンプキン・ハザード!
オープニング
●Pan Pan Pumpkin
ハロウィンも終わり、季節はいよいよ冬へと移り変わりつつあった。
オレンジの南瓜からもみの木とヒイラギへ。町の飾り付けも煌びやかに装いを変え、シャイネンナハトが近づいてくるのを今か今かと楽しみにする人々が増えてきた。
もうすぐ冬がやってくる。シャイネンナハトも勿論だが、来る厳しい冬に備えて薪を割り、暖炉を掃除したりと大忙しだ。
一家の一員でもある子供だって、家の中をあっちへこっちへ走り回り手伝いに勤しみ――臨時のお小遣いという輝かしい報酬をちらつかされて、ほどほどに手を抜きつつ与えられた家事をこなしていた。
横から母親の呼ぶ声が聞こえて少年が玄関へとしぶしぶ赴くと、そこには案の定お冠の母親が立っていた。
「あんた、ジャック・オー・ランタンをまだ片付けてなかったのかい? ハロウィンが終わったらすぐに片付けなさいって、あれほど言っていたでしょ?」
ぎろり、と睨んだ母親の視線から逃げるように目をそらし、しどろもどろになった少年は「だって」と唇を尖らせた。
「それは、その……。色々忙しかったというか」
「毎日遊び回っていて、とても忙しかったわね」
「うっ……。手が空いた時にやろうって思ってたんだからいいだろ」
「それじゃあだめだよ。そんなことしてたらジャック・オー・ランタンに食べられちまう」
脅かすように悪そうな表情をした母親を、少年は小馬鹿にしたように笑った。
「まさか! そんなこと言ってボクを驚かせようとしたってダメだよ」
「アンタが仕事をさぼったことには、変わりないけどね」
「今日はもう暖炉を煤を落として薪を割ってヘトヘトだから、また明日やるよ」
それじゃあ、と言い残しして、母親が引き留める間もなくそそくさと去って行く少年。
だがその晩、少年は後悔することとなる。
何故なら、その話は『現実』となって彼を襲うのだから。
●カボチャはカボチャでも食べられないカボチャはなーんだ?
ローレットにて。
「かぼちゃのパイがありましたー おっきなパイがありましたー♪」
ヘンテコな音階を付けて歌っているユリーカ・ユリカはご機嫌な様子で、皿にのったパンプキンパイを一口頬張った。
「は、ひにゃはん!」
慌ててパイを紅茶で流し込み、イレギュラーズ達へと向き直るユリーカ。
「お待たせいたしましたです! ハロウィンが終わったのですが、まだまだカボチャが恋しい季節だと思いませんか?」
ユリーカが意味ありげな視線をちらちら飛ばすのを受け止めながら、しかし返答に困った者が「せやな……」と思わず頷いた。
せやろか。
「カボチャが名産の村から、皆さんに存分にカボチャを満喫してもらう丁度良い依頼が舞い込んできたのです!
ちなみに食べられません」
えっ?
「カボチャ」
食べられない?
「食べられません」
なら一体どうやって満喫するのだろう。胡乱げな視線を感じたユリーカは、早速メモ帳を取り出してふふん、と胸を張った。おっとそれ以上はいけない。
「こんなお話をご存じですか?」
――ハロウィンを過ぎたらジャック・オー・ランタンを急いで片付けないといけないよ。
さもないと、カボチャに魂が宿って一家丸ごと食べられてしまうからね――
両手を怪物の爪に見立ててにやりと笑う。
「――とまあ、子供に『早く片付けなさい』という口実のように使われていたお話だったのですが、今年はこの世に留まりすぎたゴーストが取り憑いてしまったのです。
そうして本来の姿を取り戻した彼らは、自分たちをちゃんと片付けなかった家を魔法の火の玉で襲うのです」
大事になる前に阻止しなければ、と言うわけでローレットへと討伐依頼が舞い込んできたと言うわけだ。
「場所は幻想の辺境にある村ですね。少しずつ被害報告が上がっていたのですが、皆さん冬支度で忙しいせいかなかなかカボチャの片付けが進まず……大量に残されているです」
村の至る所で同時多発的に現われるジャック・オー・ランタンを見つけ出し、手際よく討伐する必要があるという。
「皆さんには村のあちこちからジャック・オー・ランタンを迎撃――破壊して欲しいのです。
元はカボチャなのですぐに倒せると思うのですが、数が多いので手分けして探すと良いかもしれないですね」
村人へは『夜に魔物が現われるから決して扉を開かないように』と伝えられているため、外に出る者はいないという。
「と言うわけで皆さん、ぐっどらっくです!」
元気よくサムズアップしたユリーカに見送られ、イレギュラーズ達は大量のカボチャ――もといジャック・オー・ランタン討伐へと出発したのだった。
- パンプキン・ハザード!完了
- GM名水平彼方
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年12月01日 22時00分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●カボチャ畑で捕まえて
夜も更けつつある村の中で、暗躍する八つの人影があった。
「わお、カボチャに祟られるとはな。片付けってやっぱり大事だね」
物陰から軒先のジャック・オー・ランタンの様子を窺う『先手必殺!』シラス(p3p004421)は、肩をすくめながらおどけた調子で呟いた。
「お祭りはひとときの騒がしさだからこそ楽しいものだ。名残惜しげなカボチャ達にも、来年まではお静かに願おう」
『屋根裏の散歩者』フラッフル・コンシール・レイ(p3p008875)が相槌を打つと「それじゃあ、僕はもう少し離れた場所を見に行くよ」とその場を後にした。情報屋曰く『簡単な依頼』だが、気を抜かないようにしなければ。
「かぼちゃのパイにはかぼちゃが入ってるけど、ユリーカのパイには何が入ってるんだろうねぇ」
『蔵人』玄緯・玄丁(p3p008717)が思考を巡らせるも答えは闇の中。
乙女の秘密には触れぬのが吉、銀色のナイフには気をつけなければ。
「ジャック・オー・ランタンなぁ。季節はずれにもほどがあるだろうに」
呆れるように『灰色の残火』グリジオ・V・ヴェール(p3p009240)が零して、「ま、この手の討伐依頼は慣れたもんさ」と同行する彼らをぐるりと見た。今は若い世代で活躍してる奴らもいるし、きっちり仕事するとしよう。そう考えながら視線を村の方へと戻す。
「ここのカボチャは食べられない種類なんだね、ちょっとざんねーん……」
「南瓜、食べられないのね、そう……」
こんなに沢山あるのに、と『森ガール』クルル・クラッセン(p3p009235)ががっくりと肩を落とすと、『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)もつられて残念そうに呟いた。
「カボチャ食べ……食べられぬのか……」
「30体も居るなら、お腹一杯どころじゃなく食べられそうなんだけれどもねー」
「まぁ、食べられぬなら仕方あるまい。きっちり仕事を為すまでじゃ!」
萎れていたフィラ・ハイドラ(p3p008154)だが、初めての戦闘とあってか気持ちをぐっと引き締めた。
ぽつぽつと離れた辺りで炎の色が見え始めた。
イレギュラーズ達は散開し、夜の村へと消えていった。
●オレンジ・スレイヤーⅠ
仲間達と別れたシラスは、村の中を通りながらジャック・オー・ランタンを探した。
光っているから見つけやすいはず、そうでなくとも相手の方から寄ってくるだろう。予想に違わず少し進めば「ニンゲンダ!」と声がして、振り向けば火球を投げつけ接近するカボチャ頭の姿があった。
法則を計算式に置換しパターン化させることで、自動演算を可能にし意識を戦闘に集中させる。
「そこだっ」
勢いよく放たれた魔力の礫が吸い込まれるようにオレンジ色の頭を粉砕した。
顔半分を吹き飛ばされ「パプー!」と悲鳴を上げながら地面に崩れ落ちるも、現われたもう一つのジャックが火の玉を投げつける。シラスは慌てること無く拳を突き出して炎の勢いを削いで防ぐ。
口や目を模した穴から炎を吹き出して激昂したジャックがこれならどうだと接近し、中身の炎を膨れ上がらせ大きな炎を作りだした。そのまま放つと、近づく炎がシラスを飲み込まんと迫る。
すんでの所で身を翻し、シラスの方からも距離を詰める。魔力により身体能力を向上させ、魔弾にも劣らぬ威力となった掌底と蹴りを流れるように繰り出して地面の上に沈めさせた。
数々の修羅場を潜り抜けてきたシラスにとって、これくらいは他愛ない。
「ま、こんなもんだな」
騒ぎを聞きつけたのか周囲に居たジャック・オー・ランタン達がシラスの所へと集まり始めた。
狙い澄まし、魔力弾を放ち撃ち落とす。
「カブ……」
恨めしげな声を上げて、カボチャが落ちる。
程なくして周囲には静寂が訪れた。
●Ⅱ
「――さあどうぞ、夜を召しませ。天地が逆転する幻象に、貴方は抗える?」
静かな声と共に星空が間近に迫る。
空が降りてくる。砂時計をひっくり返すように天地が逆転し、常識ではあり得ない現象に心の底を掻き毟られるような感情が湧き上がる。
得も言われぬこころを与えた少女から恨めしくて目が離せない。
唸り声を上げて手足をばたつかせ、くりぬかれた口元から見える炎がくらくらと燃え上がる。
投げつけた火の玉を受け止めて、ラヴはフィラへと目配せをした。
こくりと頷いたフィラはカボチャを指差して、先から伸びる茨が絡め取る。
ラヴがうまく引き付けている証だからか、じたばたと藻掻くカボチャ頭の視線は以前彼女へと向けられたままだ。「流石キューじゃのぅ」と感嘆すると、ふっとラヴの表情が和らいだ。
折角お膳立てされたのだから、ここで張り切らなければとフィラは握り締めた聖印へと魔力を伝わせ彼我の距離を一息に詰めた。
「こんがり美味しそうな焼きカボチャになるが良い!!」
迸る力が火花となって音を立てて弾け飛ぶ。
カボボーッ! という悲鳴を上げて燃え、皮を黒く焦がすジャック。ラヴがうまく引き付けたおかげで狙いが付けやすい。
繰り返し火花を当て続ければ、こんがりとした焼きカボチャが湯気を立てて地面尾上に転がった。
「おお、やったぞ! フィーの初手柄じゃ!」
見たか、とはしゃぐフィラへラヴはこくりと頷いた。
「おめでとう、とても上手よ」
「なに、キューの手助け合ってこその手柄じゃ! 怪我は無いか?」
「まだ大丈夫」
ラヴが答えたその時、近くでぱっとオレンジ色の炎が上がったのを見て二人は同時に駆けだした。
再び天地を逆転させ、ジャックの前に立ちはだかりながら抑えるラヴ。そこをフィラが茨で絡め取り火花で焼き焦がす。
「キューのように俊敏ではないが、この程度なら届く。いいや、届かせるのじゃ!」
遠くに映った赤い光目がけてフィラが死霊弓で撃ち抜くと、ラヴは再び足止めする。
二人のコンビネーションで次々とカボチャを砕いていく。通った道を示すように、固いカボチャの欠片が散らばっていた。
●Ⅲ
暗闇を旋回しながら、一羽の鳥が飛ぶ。
上空から俯瞰してジャック・オー・ランタンの位置を探り――暗闇の中赤々と燃える火は容易く見つけられた。
徐ろに腕を伸ばした『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)の放った雷が、直線上に居たカボチャ頭を撃った。
「あはっ!」
派手な音を立てて弾け飛んだオレンジ色の果肉がゴロゴロと道ばたに転がるのを見て、あまりの面白さに声を上げて笑ってしまう。
数だけが多い群は大好きだ、弱い相手を一方的になぎ払うのは気持ちがスカッとする。
「この前は残念だったけど、まあ気を取り直して楽しむとしましょうか」
加減せず存分に力を振るうチャンスを逃しては元も子もない、暗がりの中浮かび上がる炎を探して辺りを見回した。
「見ーつけた」
戸の内にこもり息をひそめる村人たちとは違って、それらは隠れもせずくりぬかれた頭の中に炎を点し我が物顔で闊歩している。
「粉々に吹っ飛ばしてやるわ!」
見つけてくださいと言わんばかりの姿に、メリーは嬉々として閃光を放つ。
「何奴ダ! ギャーッ」
「一七号ガヤラレタ! 何レ第二千六百五十四のカボチャカブーッ」
口上を述べるカボチャ達を問答無用で破壊して、メリーは悠々と破壊の手を広げていった。
「はいはい、そんなことはどうでもいいから。私のお祭りはこれからなのよ」
声を上げて楽しく盛り上がりましょう、と笑うメリーの声に合わせて光が辺りを包み込んだ。
●Ⅳ
ゆらゆらと揺れる炎を探して村の中を進んでいくと、玄丁の進行方向よりやや右手の家屋の方から「悪イ子ハイネェガー」と嗄れ声が聞こえて来た。身を潜めながら曲がり角を覗くと、巨大なカボチャが襤褸のマントを纏い宙に浮かんだ薄汚れた手袋で扉を乱暴に叩いているところだった。
見つけた。
「硬いカボチャ……うーん、頭蓋骨ぐらいの硬さ……だといいなぁ」
悪戯っぽい笑みを浮かべて躍り出れば、怪訝そうな表情を――不器用にくりぬかれた目と口だけなので変わりは無いが玄丁にはそう見えた、を向けて声を荒げた。
「何者ダ!」
「ふふふ、いっぱい壊しましょう。悪い子はここですよ?
ほら、皆、こっちにおいで、全部全部、壊してあげますよ」
「オレ達ヲ放置シテタノハオマエダナ!」
「モヤセー!」
玄丁の名乗り向上に逆上したカボチャ達がわらわらと湧き出てくると、一斉に火の玉を投げつける。それらを受け止め耐えながら、玄丁は相手の様子を窺った。
「これで終わりかな、それじゃあ今度は僕から行くよ」
たんっ、と地面を蹴り接近すると瞬く間に急所を穿ち的確に仕留めた。
更に飛んできた火球を受けてもう一度繰り返す。
「たまには刀で切る以外もしないとねぇ?」
にんまりと笑い、倒したカボチャの数を数えていく。この数が増えた分が、玄丁の手柄なのだ。
●Ⅴ
あちこちで炎と思しき光が上がる。
フラッフルはまだ人気の薄い辺りへと進みながら、炎の気配を探った。
暗闇の中にあって炎の輝きは目立つ。点在する光へと接近すると大きく一歩を踏み出し、光翼を背負い羽ばたかせた。
暗闇に飛び込むようにして、低空を滑るフラッフル。
現われた光刃と共に駆け抜け切り裂きながら脇を通り抜けた。
「敵ダ! 燃ヤセ燃ヤセ!」
カボチャ達は喚きながらランタンの中に点した炎をにんまりと笑う口元へと吐き出した。ボッと音を立てて炎が燃え上がりフラッフル目がけて飛んでいく。
肌を焦がした炎の熱を感じながら、もう一度繰り返す。
機械じみた動作で一つずつ確実に、着実にこなしていく。しかしそこに在るのは無機質になり入れない欲望の色があった。
変化の先を知りたいという好奇心を燻らせながら、神の呪いを欠けたカボチャへと与える。
どんな変化が訪れるだろう。そんな期待に歪なハートを高鳴らせながら、フラッフルは次の一撃を相手へ見舞った。
●Ⅵ
戦いの音が辺りから響く。
クルルはなるべく戦闘音の少ない方へと走りながら、弓の感触を確かめるように強く握り締めた。
まだ経験も浅くベテランには遠い。いざとなれば誰かと合流しておくほうがいいかな、と考えながら「カボーッ!」という奇天烈な悲鳴が聞こえた方へと忍びながら走った。
暗がりから様子を窺えば、ジャック・オー・ランタンが家の中には入れはしないかと家の周りをぐるぐると回っているところだった。
「……うん、一人頭、4体やっつければお仕事完了……の、筈! がんばろーっ!」
自分を励ますように言い聞かせると、射程ギリギリまで一旦距離を離し矢を番えた。
キリキリと弦を引き絞り狙いを定め放つ。
第一矢は見事カボチャ頭を貫いて、固い果肉を串刺しにするように刺さった。一見するとコミカルなイラストにあるような、芸術的な容貌だった。
「ナンジャコリャー!」
「二四号ォーッ! 誰ガコンナ酷イコトヲ!」
悲鳴を聞いて集まってきたカボチャ達が騒ぎ始める。矢の飛んできた方向に気づいたカボチャ達がクルルの居る方角へと顔を向ける。見つかった。
「アッチダ!」
こちらに向かって来る。クルルが身構えたその時、両者の間に割って入る人影があった。
「騒がしいから来てみれば、随分愉快な格好してるじゃねぇか。このグリジオの相手になるのはどの季節外れ野郎だ」
「誰ガ季節外レダ! チャント飾ッテリャイイモノヲ、グヌヌ……コイツダーヤッチマエ!」
矢の刺さったショボンこと二四号が叫ぶと、近くから集まったジャック・オー・ランタン達は一斉にグリジオへと向かって火の玉を飛ばした。
「さて、仕事の時間だぜ」
誰ともなく声をかけ、丁度クルルと向かい合うように――カボチャ達がクルルに背を向けるように位置を取るとメルヴェイユーズで防ぐ。螺旋を描く双子姫が腕輪から籠手に姿を変えると、腕を振り抜いて強かに打ち付けカボチャを砕く。
「怠け者の尻拭いと言えば聞こえは悪いが、特に文句を言う気はねぇな」
堅実に、確実に。経験に裏打ちされた判断と体に染みついた攻撃とが
クルルは落ち着いて狙いを定め矢を放つ。一つ二つとカボチャが落ちて、砕けていく。
そして最後のカボチャが音を立てて砕けると、グリジオはふっと息を吐いて構えを解いた。
「ここいらの敵はこれで片がついたぞ」
そうクルルへと声をかけると、クルルはグリジオと合流した。
「ありがとうございました」
そう言ってグリジオの傷をハイ・ヒールで癒やす。
すっかり快復して元の調子を取り戻したグリジオは、傷の具合を確かめるように体を動かすと満足げに頷いた。
「カボチャか。焚火に放り込むか潰してスープにするくらいしか料理法は知らないんだが」
「とりあえず、広さのある場所に纏めましょうか」
そう言って二人は大小様々な欠片になったカボチャを拾い上げ、その場を後にした。
●片付けまでがパーティーさ
30体のジャック・オー・ランタン達を倒したイレギュラーズ達は、村の中央にある開けた場所にカボチャを集めていた。
「ん、やっぱりカボチャって少し重いね?」
量も数も多いカボチャは小分けにして運ばざるを得ない。
メリーは憐れ砕け散ったカボチャ達を集めながら、耳に残る最後の声をリフレインさせていた。
物足りないが、まずは満足と言ったところだ。
フラッフルはゆっくり、崩れないように積み上げていく。丁寧に重ねていけばまるでひとつのオブジェのように見える。
「お祭りでは君たちもよく働いたね。また来年、遊びにおいで」
僕は面白いものを見聞きするのが好きなんだ、とフラッフル。
ひととき楽しみを得られるならば、それが死者だろうと魔物だろうとかまわない。
「俺は火を放つ迷惑なカボチャは勘弁被るな」
グリジオは堆く積み上げられつつあるカボチャの山を見上げ、どこか遠くを見るようにスッと目を細めた。
『南瓜だわ』
『南瓜なのだわ』
くすくす、と鈴を転がすような愛らしい笑い声がグリジオの耳朶を擽った。彼にしか聞こえない赤と青の双子姫の囁き声だ。
『パンプキンパイが食べたいのだわ』
『パンプキンシチューが食べたいのだわ』
「煩ェ今回食べられねぇよ、無事に報酬が手に入ったら買ってやるから黙っててくれ」
他人には聞こえないように潜めた声を聞くものは居ない。
「29、30……。うん、ちゃんと数が揃ってる」
クルルは取りこぼしがないか数えるとこれでよし、と頷いた。その横でシラスは見た目が悪くなったものを選り分けて埋め立て処理をしている。
退治以来だけこなして散らかし放題で帰るのは気が引ける。
それに、こうして集めれば片付けもしやすかろうという配慮であった。
「やっぱり仕事した後は綺麗になってる方が気持ちが良いからな」
綺麗に残ったカボチャを選ぶと、星や南瓜型、先取りしてツリーなど。いろいろな形に手を加えていった。
今度こそ村の子供たちに後片づけをしてもらおう。それなら楽しい雰囲気でやれたらいい、お祭りが嫌いになったら勿体ないし、と想いを込めて。
人が食べられなくとも肥料や飼料など別の使い道があるかも知れない、と考えたクルルは明日村人たちに提案しようと張り切っている。
戦場を共にしたラヴとフィラはクルルと一緒にカボチャを数える仕事を手伝い終わった後、比較的形の残ったランタンの空洞にお菓子をこっそり隠した。
「……うむ。片付けをしながら宝探しともなれば、少しはやる気も湧くじゃろうて」
綺麗に積み上げるとランタンのタワーみたいだな、と笑うフィラにラヴも穏やかな表情で頷いた。
「このカボチャ、供養というわけではないけれど……有効活用できたらいいわよね。
元々南瓜が名産の村なのだし、何かのオブジェに再利用するとか」
「どこかの工房などに相談しても良いかもしれんぞ。
良いように加工してくれるかもしれん。そうなれば村の外に売ることもできるかも」
「それとも、放っておいたらまた魔物になってしまうの?」
「きちんと片付けさえすれば大丈夫じゃないかな」
シラスの答えにフラッフルは満足げに頷くと、手頃な欠片を拾い上げ全体を見ながら上に乗せた。
「そちらは大丈夫? お腹、空いていないかしら」
「フィーはいつでも空いておるのじゃ。……キュー、こやつら煮たら柔らかく美味しくならんかのぅ?」
むぅと唇を尖らせ、お腹をきゅるきゅると鳴らしたフィラは恨めしげに積み上げたカボチャを靴先で軽く突いた。
「ハロウィンって言うのは体験したことがないけど、きっととても楽しいんだろうねぇ。
こんな風に飾り付けをして温かいお家の中で過ごすんだろう? 羨ましいなぁ」
含みを持たせた、冷めた調子で玄丁が笑う。
「ふー、沢山動いたからお腹空いちゃった。
ローレット戻ったら、ユリーカちゃんの食べてたあのパイ頼んじゃおっかな!」
クルルがぐっと背伸びをして体の力を抜く。疲れた時には甘いものが最適だ。
夜も遅いから、と村が用意した寝床へと向かう。
明日になったら村人たちと南瓜の行く末を皆で考えよう。その未来がよりよいものであることを、心密やかに願った。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
アデュー、パンプキンズ!
お疲れ様でした、季節外れのカボチャはシャイネンナハトまでに無事撤去完了しました! ありがとうございます。
GMコメント
パンプキーン! 南瓜は天ぷらがいいですね、味塩をかける派です。
悪い子はいねーがー!? というカボチャお化けを討伐(お片付け)しましょう!
●ミッション
全てのジャック・オー・ランタンの撃破
●ロケーション
幻想の辺境にある農村です。
人々が寝静まった深夜、同時多発的にジャック・オー・ランタンが魔物へと変わります。
ジャック・オー・ランタン自体が光源になる為、暗視ペナルティはありません。
村人は厳重に戸締まりをして、家の中に閉じこもっています。
●敵
ジャック・オー・ランタン×30
村の中にあるジャック・オー・ランタンにゴーストが取り憑いて魔物化したもの。
数は多いですが個体としては弱いです。
ランタンから魔法の火の玉を投げて攻撃します。
この攻撃による火災は発生しません。
●言い伝え
ハロウィンを過ぎてもジャック・オー・ランタンを放置していると襲われるぞ、という言い伝えがあります。
カボチャが名産であり、ジャック・オー・ランタンにしたのは固い飾り付け用の品種を使用しています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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