シナリオ詳細
再現性東京2010:てるてる坊主の怪。或いは、ゆらゆら揺れる…。
オープニング
●吊られた男
練達。
再現性東京のとある廃ビル。
月の無い夜に、そこでは決まって異変が起きる。
ビルの6階。中央付近の一室で、夜ごとに男が揺れている。
そんな噂が囁かれ始めたのは、一体いつの頃からだったか。
「ふむふむ? あそこが件のお部屋なんだね?」
ビルの対面。
古びた団地の屋上。
冷たい風を浴びながら『猫鬼憑き』綾敷・なじみ(p3n000168)は瞳を細めてビルの一室を注視する。
生憎と今夜は月のある夜。
噂が真実であるのなら、揺れる男は現れない。
それでもなじみが今宵この場を訪れたのは、噂を知って居ても立ってもいられなくなったからである。
要するに、それはつまり好奇心。
猫をも殺すと悪名高い、人の内に住む欲望の名だ。
「月のない夜、ビルの6階で男が首を吊っている。頭に白い布を被った男性で、風も無いのにゆらりゆらりと……ねぇ」
頭部に白い布を被ったその外見から、近隣の住人たちは“てるてる坊主”とそう呼んでいるそうだ。
なじみの調べでは、ビルが廃墟になったのは今より遙かに昔の話。
その頃から噂事態はあったようだが、つい最近になって「てるてる坊主を見た」という者が爆発的に増え始めたのだ。
なじみの脳裏によぎるのは“夜妖”という怪異の名であった。
「……って、あれ?」
ビルを眺めるなじみの視界に、1人の女性の姿が映った。
ダッフルコートにカーゴパンツ。
煙草を吹かす長身痩躯の女性であった。
なじみの記憶にない人物だ。
面識は愚か、街で見かけたことさえも無い。
けれど、なじみは彼女のことを知っていた。
「あれって、夜鳴さんだよね?」
夜鳴夜子。
再現性東京に住まう“霊媒師”の若い女性だ。
噂に聞いた夜子の容貌と、ビルの前に立つ女性の特徴が一致したことから、なじみは彼女が“夜鳴夜子”本人であると知ったのだ。
それと同時に「やはり噂は本当だった」という理解を得た。
噂に聞く“てるてる坊主”がいわゆる“本物”であるからこそ、夜子は廃ビルを訪れたのだろうから。
「……で、慌てて私を追ってきたって? オカルト研究部だかSF同好会だか知らないが、夜も遅いんだからさっさと家に帰っちまえよ」
不機嫌そうな顔をして、夜子は甘い紫煙を燻らす。
吐き出した煙草の煙が、暗い空へ細く細く昇っていった。
「言っておくが、事は既に“噂”の範疇を越えてんだぜ?」
「……噂の範疇を、越える?」
「あー、何て言えばいいか。時間の経過っつーか……」
つい、と。
夜子はビルの6階を指さした。
「ずっと首を吊ってると、どうなるか分かるか?」
「どうって……えっと、死んじゃう?」
「その後だよ。死体の首に紐をかけて、放置しておくんだ。すると、首の骨やら肉やらが胴体の重さに引かれて伸びるんだ」
そうして、限界まで伸びた首はやがてブツンと千切れるのだと夜子は言った。
「ちなみに“てるてる坊主”がぶら下がってるのは、部屋の中じゃなくて、ビルの外だ」
そう言って夜子はビルの6階を見上げる。
「もう数日ってところか? 降ってくるぞ」
●首吊りビル
「夜子さんの話だと“てるてる坊主”は1人だけじゃないんだって」
そう告げるなじみの手元には、新聞の切り抜きや雑誌の記事のコピーがあった。
これまで、件のビルで首を吊った人間の数は全部で6人。
一時は自殺の名所として名が知れた場所だったという。
「それが近々“降ってくる”んだって。だから、ねぇ……一緒に調べに行ってみようよ」
嬉々として。
オカルトと聞けば、じっとしていられないのがなじみという少女の性だった。
当日現場には夜鳴夜子も居るのだろうが、それでも危険な場所であるという事実は変わらない。
「って言っても具体的に何が起きるのか、どう危険なのかは分かっていないんだけどね」
ありきたりなところで言うなら、定番は「“てるてる坊主”を見た者も、気付けば首を吊っている」などだろうか。
死者が死者を呼び、そこは自殺の名所となる。
そんな噂の立つ場所は、探せば世界中に幾らだって存在するのだ。
それを死者の【呪い】と呼ぶ者もいれば、死者に【魅了】されたと形容する者もいる。
ともすると、単なる【不運】であったかもしれない。
理由は何にせよ、人が自死に至るのだ。そこには多大な【狂気】が渦巻くことだろう。
「もし襲われたら……そして“てるてる坊主”たちが追ってきたとしたら、その時は私を守ってよ」
一緒に、怪異について調査をしよう。
そう言ってなじみはにこりと笑う。
その腰元では、上機嫌に猫の尻尾が揺れていた。
「廃墟ビルの真下から、廃墟ビルの上の方まで、しっかりと散策しよ?」
そう、つまりこれは。
いわゆるひとつの、肝試しデートというやつだ。
- 再現性東京2010:てるてる坊主の怪。或いは、ゆらゆら揺れる…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年11月23日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●明日天気にしておくれ
とある廃ビル。
そこは、再現性東京に多くある心霊スポットの1つである。
「……自殺って連鎖するもんね。死ねば解決するって素晴らしい思いつきに感じる時があるのよ」
ビルを見上げて『初日吊り候補』セリア=ファンベル(p3p004040)はそう呟いた。今夜は月の無い夜だ。セリアの呟きを聞いて『猫鬼憑き』綾敷・なじみ(p3n000168)は我が意を得たりと深く頷く。
「そして道連れを求め始めるまでがセオリーだよね! うんうん、分かってるね! セリアさんもオカルト同好会に入る?」
「……えっと」
どうしよう、と助けを求めるような視線をセリアは『砂漠に燈る智恵』ロゼット=テイ(p3p004150)へと向けた。褐色肌の小柄な少女は困ったように笑みを返す。
本性は猫の獣種であるが、現在は人の姿を取っていた。
「私の世界にもてるてる坊主はありましたが、こちらの世界のてるてる坊主は恐ろしい存在なんですね……」
てるてる坊主が現れると言う6階に目を凝らし『魔法少女』ラヴィ(p3p009266)は言った。ラヴィの見つめるその先にはただ虚空が広がるのみ。
「ホラーも結構好きとはいえ、自分や知り合いが巻き込まれるのは勘弁かな。放っておいて赤の他人が襲われるのも夢見が悪いけどね!」
『アンラッキーハッピーガール』リズ・リィリー(p3p009216)は腰に下げた短刀に手を当て、そう言った。その短刀こそ、彼女が魔法少女(23歳)ラブリー☆ラズベリーへと変身するために必要なアイテムなのである。
ところで“少女”とはおよそのところ、幾つまでを指して言うのか。成人を指して少女と呼称することはきっと滅多にないだろうが。
否、魔法少女にきっと年齢制限などないのだ。
実際、日曜朝に大活躍する彼女たちとて、中の人は良い年r……。
女性の年齢に言及してはならない。
世の中には“侵すべからざる不文律”というものが、いくらか存在しているのだ。とくに混沌においては、年齢不詳などさして珍しい事象でもない。
重要なのはその心持。
若さの秘訣は、そうあれかしという想いにきっと他ならない。
「ふふ、デートのお誘いなんて嬉しいわ」
彼女『名残の花』白薊 小夜(p3p006668)もまた、外見と実年齢に乖離のある1人であった。白杖を携えた彼女ではあるが、周囲の状況把握は完璧だ。
光の灯らぬ瞳をなじみへと向け微笑んだ。
異変が起きたのは、ビルの真下に一行が辿り着いた時だった。
「あ、見て! 何か……揺れてるよ!」
ビルの上方を指さしてなじみが叫ぶ。
冷たい風に吹かれて揺れていたそれは、頭部に白い布を被った男性だった。
屋上の柵に括られた縄が、その首をきゅっと締め上げている。
「やれやれ、素直な魔物と違って幽霊、しかもホラーってのはなかなか厄介そうだ」
「怪談話は好きだけど、実際に出てくるとなると途端に気味が悪いな」
『不沈要塞』グレン・ロジャース(p3p005709)、そして弓を構えた『深緑の狩人』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)がなじみを守るべく前に出た。
「怪我、してるみたいだけど平気なの?」
グレンの首に巻かれた包帯を一瞥し、心配そうになじみは問うた。
グレンは笑みを1つ返して、剣を正眼の位置に構える。
「レディ達のエスコート役を、怪我如きで人に譲ってたまるかよ」
「彼は地面に堕ちたがっている、宙ぶらりんで名前の無い彼は、この冷たいコンクリートの街を俯瞰して何を思っているのだろうか」
そう呟いたのはロゼットだ。
今宵、廃ビルに訪れている人物は都合10名。
イレギュラーズ8人となじみ、そして再現性東京に住む霊媒師・夜鳴夜子だ。
そのうち、夜子の姿だけは現在確認できていない。
こうして“てるてる坊主”が現れた以上、近くにいることはおそらく間違いないのだろうが……。
「夜妖も怪異も、凡骨のこの身では及びつかぬことばかりだな……」
『凡骨にして凡庸』浜地・庸介(p3p008438)が見上げる先で、揺れる男の首が千切れた。
ブツン、と。
そんな音が聞こえた気がして……。
「っ……⁉」
数十メートルの高さから、男の身体が“降ってきた”
●てるてる坊主
どちゃり、と。
肉が潰れ、血の飛び散る音がした。
落ちて来たのは男性の身体。
あらぬ方向に折れ曲がった手足、皮膚を突き破り飛び出した肋骨。肘などは伸び切った皮膚と血管、筋繊維によって辛うじてつながっているという有様だ。
倒れた男の真上には、屋上から伸びた首つり縄が揺れていた。
『…………』
べちゃ、と滂沱と血を零しながら男は立ちあがる。
血に濡れた手を伸ばした先にはなじみの姿。男の手には、先端を輪にされた縄が握られていた。
なじみは、1歩前に出ると、縄を受け取るべく手を伸ばす。
「ちょっと!? なじみさん!」
それに気づいたセリアが、慌ててなじみの手首を掴んだ。
なお前に出ようとするなじみを後ろへ引き戻すのとほぼ同時。
ビルの正面入り口が音を立てて内に開いた。
「危ねぇって言っただろうが! 何で来てんだよ、お前!」
ドアを開けて現れたのは、煙草を咥えた長身痩躯の女性……霊媒師・夜鳴夜子であった。
「今は逃げましょう。攻撃役は私が……突出したり単独行動をしないようにお願いしますね!」
なじみを庇うべく、前に出たのはラヴィであった。
その手に握ったブーケが眩く光る。
周囲を渦巻く魔力の刃が、伸ばされた腕と縄を千々に刻んだ。
ラヴィがてるてる坊主と相対しているそのうちに、夜子の誘導に従って一行はビルの内部へと逃げた。
廃墟ビル2階。階段傍のソファーに座ってなじみはうつむき震えていた。
その首筋をぐるりと一周する黒い痣。
「わ、私……さっき、死のうとしてた。縄を受け取って、それを首にかけることが、とっても素敵なことのように思えて……そ、そんなはず、ないのに。でも……」
「死が救いになるかもしれない。でもそれは最後の決断よ」
そんななじみを抱きしめながら、セリアは告げた。
そんな2人のやり取りを、夜子は煙草を吹かしながら眺めている。
「見た顔がいるな……頼りになるのは間違いないが」
床に落とした煙草の火を踏み消して、夜子はじろりとなじみをにらむ。
数秒の後、彼女は大きなため息を零した。
それからなじみの首を指さし告げる。
「マーキング、みたいなものだろうな。今のところ、解除方法は分からねぇけどさ」
連れて行くしかねぇか、と。
荒い手つきで髪を掻き、夜子は再度、溜め息を吐いた。
ビルの調査を行っていた夜子は、窓の外を男が落ちていく瞬間を見たと言う。
そうして窓の下を覗いてみれば、そこにはなじみたちがいた、というわけだ。
てるてる坊主に襲われているのを見て、慌てて下へ降りたらしいが……。
「どうだった? 倒せそうだったか?」
問われたラヴィは、手にしたブーケを一瞥し頷いた。
「手ごたえは十分でしたね。そこまで強い相手では無いと思います……ただ、どうにも挙動に違和感があるというか、するりと気配が消えたような気がするというか」
ラヴィのブーケ……鋼花闘装アサルトブーケという機械式魔道具だ……は確かにてるてる坊主の胸部を打った。ダメージも与えた。
しかし、てるてる坊主はその場でするりと姿を消した。
瞬間移動……否、存在そのものが目の前から消失してしまったようだ、とラヴィは語る。
「……なるほどな。ってことは、あれだ」
新しい煙草に火を着けて、夜子はふぅと紫煙を吐いた。
「このビル自体が、てるてる坊主の腹の内ってことなんじゃねぇかな」
なんて、言って。
視線を窓の外へと向ける。
瞬間……。
「第二幕の始まりだ」
上半身を下にして落下してくる男と女。
どちゃり、と。
肉の潰れる音がした。
一行は階段を駆け上がる。
向かう先は、てるてる坊主たちが吊られているであろう6階だ。
「下の階から何かが追ってきています!」
「ここで止めるよ! らぶりーちぇんじーらずべりー。ばすたーはーとあうぇいきん。不運に負けずにキラメキシャイニー!」
ラヴィの言葉に反応し、リズは頭上に短剣を掲げた。
きらり、と短剣にはめられた宝石が光る。
瞬間、リズの身体をラズベリー色の輝きが飲み込んだ。きらきら、きらきら。散った燐光が形作るフリル満載のミニスカートに、少女趣味全開の衣装。
光に飲まれたリズの頬は、羞恥に赤く染まっていた。
けれど、笑顔は絶やさない。
いつもニコニコ。
それが魔法少女のルールなのだから。
「魔法少女!! ラブリー☆ラズベリー! ピカッと参上、ヨロシクねっ♪」
階下から姿を現すてるてる坊主に、リズ……否、魔法少女ラブリー☆ラズベリーは短剣を向けた。
展開される結界が、てるてる坊主の手にした縄を焼き尽くした。
「楽しくデートだけ出来ればよかったんだけれどね」
「なに、戦闘ならば得意とすること。タイ捨流に守りなどないのでな!」
その隙を突き、飛び出したのは小夜と庸介の2人だ。
音もなく仕込み刀を抜いた小夜が、まずは女性の身体に肉薄。
一閃。
女性の腕が切断される。
二閃。
その胸部に刻まれる深い裂傷。
三、四、五と次々その身を切り刻み、飛び散る鮮血はまるで舞い散る桜吹雪のようでさえある。
「首を斬ればいいのかしら、それとも縄を斬った方が困るのかしらね?」
長い黒髪が小夜の動きに合わせて泳ぐ。
そんな彼女へ向け、男性が縄を差し出すが……。
「こちらは俺に任されよ!」
階段の中ほどから跳んだ庸介は、大上段に構えた刀を力の限り振り下ろす。
響き渡る猿叫に、思わず夜子は耳を抑えた。
気合一閃。
本来であれば、獲物の頭蓋を断ち割る彼の斬撃だが、生憎とてるてる坊主たちに頭部は無い。
振り下ろされた刀がてるてる坊主の首から腹部にかけてを切り裂き、裂けた皮膚からは臓物と血が零れ落ちた。
返り血に顔を赤に濡らした庸介。残心の姿勢で一瞬、動きを止めたその首にしゅるりと縄が巻き付いた。
「っ⁉」
硬直する庸介の脳裏に響く誰かの声。
『縄ならあるぞ。ここにあるぞ』
庸介の思考が断裂し、気付けば彼は自身の腹部に刀を突き立てていた。
「ひっ⁉」
思わず、といった様子でなじみが悲鳴を零した。彼女の目を覆い隠すようにして、セリアが1歩後ろへ下がる。
代わりに前に出たのはロゼットだ。
「思うに、酷く遠く寂しいのでは、ないか。人の最後に見る世界としては、あまりにも」
首をくくって息絶える。
その瞬間に目にするであろう光景を想起し、ロゼットは静かにそう告げた。
縄を差し出すてるてる坊主のその姿が、どうにも彼女の目には“仲間を求めて”いるように、或いは“救いを求めているように”見えて仕方がなかったのだ。
ロゼの手から放たれた燐光。
暗闇を優しく照らすその光が、庸介の傷を塞ぎ血を止めた。
「トドメを刺せそうですね」
セリアの放った魔弾によって、てるてる坊主は胸部を穿たれ地に伏した。
暗闇の中に溶けるみたいに、その姿は薄くなってどこかへ消える。
5階に辿り着いてすぐ、ミヅハはぴたりと足を止めた。
「警戒は俺がしておくから気楽に肝試しを楽しもうぜ……とも、言ってられないな、これは」
狩人として暮らしてきた経験からか、ミヅハはてるてる坊主たちの接近を誰よりも速く察知した。
濡れた足音は5体分。
てるてる坊主が、後を追ってきているようだ。
「夜子になじみのカバーは頼むぜ。目を離した僅かな隙に守るはずの相手が魅入られて自分でふらっと消えてた、なんて笑えないからな」
盾を構えて階下を見据え、グレンは仲間たちへと告げる。
なじみと夜子の傍に控えたロゼットとラヴィは1つ頷き、武器を構えた。
「大本の原因を取り除かなきゃ、何度倒しても一緒ってことか。おい、いつまでもここで時間を消費してる場合じゃないぜ?」
「……でしたら、まずは私が先の安全を見てきます。安全が確認されたら、6階……それか、屋上へと向かいましょう」
「それなら、2人は私が守るわね」
白い手をそっとなじみの肩にかけ、小夜は静かに微笑んだ。
1歩、2歩と近づいて来る身体が5つ。
ゆらりゆらりと、アンバランスに左右に揺れる。
その手に握られた縄を、誰かの首にかけようと……。
伸ばされた腕を、ミヅハの放った矢が貫いた。
しゅるりと伸びた縄が2本、ミヅハの首に巻き付いた。
「狩人の精神はそんなもんじゃ揺るがねーぜ!不運にも慣れっこだ、ちょっと躓いたくらいで立ち止まってちゃ森は歩けないからな」
縄による【魅了】や【狂気】が彼を自傷に誘うことはあり得ない。【精神無効】の耐性を持つミヅハは、てるてる坊主たちにとって相性最悪の相手と言えるだろう。
首を吊る彼らの姿を見て、恐怖した者の心の隙間にそっと縄を差し入れる。
そしてその者を自死へと誘う……てるてる坊主たちは、そう言う存在だ。実際に、初めの1人はともかく、後を追うように首を吊った5人の犠牲者は、そのようにして“てるてる坊主”の仲間入りを果たしたのだから。
偶然、ビルの前を通りかかった者。
肝試しにやってきて、そのまま魅入られた者。
理由は経緯はそれぞれ異なるが、至った結末は皆、同じ。
首を括って、この世を去っていったのだ。
「はっ、俺が抑えるまでもなかったか?」
不敵に笑うミヅハを見やり、グレンはくっくと肩を揺らした。
しゅるりと伸びた縄を盾で弾きながら、その背に夜子となじみを庇う。
代わりにグレンの首を縄が締め上げるが……。
「宙ぶらりん坊主共の呪いなんざ、地に足付けた大地の加護を持って弾き飛ばす!」
床を踏みしめ、グレンはその場に留まった。
●ゆらゆら揺れる
仕事に、人間関係に、そして生きることに疲れた。
だから、彼は最後に自分の住んだ街の夜景を眺め、首に縄をかけ死を選んだ。
これで、すべてが終わるだろう。
やっと自分は楽になれる。
呼吸が止まり、首の肉が千切れ、骨の砕ける音がして。
意識が途切れる、その直前……。
『あぁ、羨ましい。そして、憎らしい』
眼下を行き交う人々の姿。
それを目にして、そんなことを考えて……。
気づけば彼は夜妖となっていた。
決して逃れえぬ永久の苦しみ。彼は永劫、首を括られ苦しみ続けることになる。
「晴れ請いの呪いと、男の怨嗟が混じってやがる」
屋上に足を踏み入れて、夜子はそう呟いた。
霊媒師である彼女の目には、イレギュラーズに感じ取れない“何か”が見えているのかもしれない。
屋上の縁に手をかけて、頭に布を被った男が現れた。その首には血に濡れた縄が巻き付いている。
「そも、アレは何であるのか? アレはただの末端で、もっと奥に、ナニカが潜んでいる可能性はあり得ぬのか?」
階下から迫るてるてる坊主を斬り捨てながら、庸介はそう問いを発した。首の無いてるてる坊主たちとの意思の疎通は失敗している。
彼らにあるのは、ただ「仲間が欲しい」というどこか悲しい想いばかり。
「さぁな。探せばそういう類の呪いもあるんだろうが」
それどころじゃねぇよ、と紫煙を燻らせ夜子は答える。
そんな彼女に迫る縄を、小夜が刀で斬り捨てた。
「心中のお誘い? でもごめんなさいね、死ぬ時は太刀の下でって決めてるの」
くすりと微笑む彼女の背後で、グレンは盾を構えなおした。その口元は血で濡れている。5体のてるてる坊主から仲間たちを庇い続けたことによる負傷であった。
ロゼットは彼に回復術を行使しながら、視線をてるてる坊主……頭部が残る1体へと向けた。
「あれを仕留めるべきですね」
そう告げて、ラヴィが駆け出した。
その後を追ってリズも短剣を構えるが、その首にしゅるりと2本の縄が巻き付き絞める。
「あっ、あ、苦し……ちょっと、気持ちい……あっといやいや! 私はまだまだ生きたいんじゃ!」
首にかかった縄に手をかけ、リズは身を悶えさせる。
「あいつ……私を見てる?」
そう呟いたなじみへ向けて、布を被った男が腕を差し伸べた。
しゅるり、と。
伸びた縄がなじみに届く、その寸前。
「させねぇっつーの!」
彼女を庇ったグレンの首に、縄はきつく巻き付いた。
血を吐くグレンの隣を抜けて、セリアとミヅハが前に出た。
「招かないで、じっと見守ってて」
セリアの放った魔弾によって、てるてる坊主は額を撃たれて仰け反った。数歩後退し、その背が屋上の柵に押しあたる。
「数に限りがあるからな、コイツは……とっておきをくれてやる」
ギリ、と弦の張る音がした。
番えた矢に魔力を籠めて、ミヅハはしかとてるてる坊主に狙いを定める。
白い布を被っているせいで、男の顔は分からない。
調べたところ、結局最後まで男の身元は不明のままに自殺者として処理されたということだった。
「最後に、名前ぐらい呼んであげられたらと、思ったのだが」
視線を伏せ、ロゼットがそう呟いた。
放たれたミヅハの矢が、テルテル坊主の胸部を穿ち……。
屋上の柵ごと、その存在を消失させた。
「あ……なんだか、呼吸が楽になった気がする?」
首を抑えなじみはそう呟いた。見れば首の痣み消えている。
「ふふ……私、すごい体験しちゃった」
「……どうやら終わったようですね」
ゆっくりと消えていくてるてる坊主たちを見ながら、ラヴィはそう呟いた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
無事にてるてる坊主は討伐され、事件は解決に導かれました。
オカルトをその身で体験できて、なじみも満足そうです。
また、肝試しデートに誘われることもあるかも知れないですね。
この度はご参加ありがとうございました。
また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
こちらは「再現性東京2010:夜鳴夜子。或いは、7つ塚の怪…。」のアフターアクションシナリオです。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4318
●ミッション
怪異“てるてる坊主”の調査及び必要があればその討伐。
●ターゲット
・てるてる坊主(夜妖)×6
廃墟ビル6階で揺れる夜妖。
頭に白い布を被った状態で、首を吊っているように見える。
夜鳴夜子の見立てでは、そろそろ“降ってくる”とのこと。
縄ならあるぞ:神中単に中ダメージ、呪い、魅了
自殺のすすめ。脳裏に響く甘い声。差し出されるのは1本の縄。
絞首:神近範に中ダメージ、不運、狂気
首に巻き付く丈夫な縄。貴方が7人目かも知れない。
・綾敷・なじみ
無ヶ丘(なしがおか)高校に通う一年生。
たった一人だけのオカルト研究部。
https://rev1.reversion.jp/character/detail/p3n000168
デートのお誘い(怪談スポットの調査)にイレギュラーズを誘った張本人。
・夜鳴夜子
霊媒師の女性。
20代半ばほど。
陰鬱な雰囲気を纏った長身痩躯の女性。
霊媒師には見えないラフな服装をしている。喫煙者である。
当日は彼女も廃ビルに来ていることと思われる。
●フィールド
6階建ての廃墟ビル。
かつてはショッピングセンターだったらしい。
バックヤードを除けば、フロア内に部屋らしい部屋はない。
エレベーターは止まっているので上下階への移動には階段の使用を推奨。
てるてる坊主は6階部分で揺れている。
屋上もある。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
Tweet