シナリオ詳細
オータムハバラ・メルクマール
オープニング
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――街角沿いに現れる盗賊を退治してほしい。
深緑にてそんな依頼を受けたのはシルヴェストル=ロラン (p3p008123)とフラン・ヴィラネル (p3p006816)であった。なんでも、ここ最近街の外を根城にした盗賊がいるらしく、度々旅の者や商人などが被害に遭っているのだそうだ。このままでは安心して外に出る事も出来ないと――
まぁそれだけならよくある盗賊退治の依頼であったのだ、が。
「ま、待ってください――!! イ、イレギュラーズの方ですよね!?」
「――んっ?」
「すみません、是非ともお願いしたい事があるのですが……!!」
正に今街を出ようとした瞬間に呼び止められたシルヴェストル。
声の主は若い女性数名だ。息を切らして何やら非常に焦っている様子……
「わ、私達を隣町まで護衛……いえ『これ』を隣街まで届けてもらえませんか!
どうしても隣町に行く用事があるのですが、盗賊が最近出ていて……!!」
「ああそれなら今から退治する依頼を受けていてね。暫くした後に街を出てもらえれば丁度……」
「それじゃ遅いんです!!」
物凄い剣幕で詰め寄られるシルヴェストル。何? 何事?
流石に怪訝な表情にもなるものだ――そんな急ぎの用事があるというのか――?
「今すぐ!!
今すぐ隣町にまで出発しないと間に合わないんです――原稿の、印刷に!!」
原稿の――印刷――?
説明されても尚頭に疑問符を浮かべるシルヴェストルだが、要するに彼女達は『同人誌』なる物を描いている集団らしい。締め切りに遅れてしまい、この街のどこの印刷所も最早間に合わないらしいのだが……隣街の『オータムハバラ』の印刷所であれば引き受けてくれる場所があるのだとか。
しかし締め切りをぶち破ってしまった故に事は一刻を争う。一分一秒でも惜しい彼女達は。
「お願いします! どうか、どうかこの原稿を隣街に……! 私達の集大成なんです!!」
「ふぅん? そんなに大事な同人誌なの――?」
ちらりと中身を見据えるのはフランだ。
同人誌。ああその存在を己は知っているとも――かつて本屋に入った時に見つけた、くんずほぐれつになっているアレな本に魂の感銘を受けて以来――いや何でもない。とにかく同人誌が如何なる存在なのかは知っている、が。一体どんな本を書いて……
「…………あれ。これって……」
ざっと見ただけではあるのだが、彼女達が描くイラストには特徴のある存在が映っていた。それは『奴隷商人』を名乗り、大きな目玉が目立つ人物で――これは――
「ええ最近噂の人がいるらしいじゃないですか。そんでもって『ハッピーに終わるもの』だけを敷き詰めた代物でして……概念がどうのこうのとか言うなら同人誌にしてやってぶちのめしてやろうと思いまして!!」
「――成程!!」
「なにが成程、なんだフラン?」
よくよく見れば女性達はいずれも幻想種の様な耳を携えている……そういう事なのかとフランは彼女達と目線を合わせてアイコンタクト。シルヴェストルは首を捻る。
――まぁとにかく女性達はこの同人誌に並々ならぬ情熱を抱いているようだ。
それほどのモノであり、強い願いを抱いているのならばわざわざ無下にする理由もない。どうせ盗賊退治の為に外には行くのだ……そのついで、いや時間制限があるのならとりあえずこちらを済ませてから盗賊退治を後にしてもいい。
「絶対に、絶対に汚さないようにお願いします。どうか、どうか……!」
「うん分かってるよ――私達に任せておいて!! 必ず届けるから!!」
熱い抱擁を交わす女性達をフラン――まぁ襲い掛かって来る盗賊がいれば倒せばいいし、コレを金目のモノと勘違いして釣られて出てきてくれれば色々楽ではあるか。二つの依頼を受ける事になってしまったが、両方相反する依頼と言う訳でもないし問題はない。
だから行こう! これは必ず届けるべきものだと、フランの熱は高まって――!!
「……ところで。本当に同人誌とは、同人誌とは一体なんなんだ?」
薄くて高い本の事だよ――
目を輝かせていたフランはそう語っていたのだとか。
- オータムハバラ・メルクマール完了
- GM名茶零四
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年11月28日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費200RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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はるばる往くよどこまでも。だって同人誌がこの手にあるのだから――!
「これが……噂の同人誌の原稿……!
尋常じゃない熱意と、魂がこもっている感じだわ……
作り手の総てと過ごした時間が籠った結晶なのね……!!」
『紅擁』ワルツ・アストリア(p3p000042)は何故か自らの内から湧き出る高揚感を止められなかった。『同人誌』……数多の英知が集る一片がこれかッ――!
「ああ、これは……普段色々な仕事をしている方が限られた時間を必死に費やし作り上げたようなオーラ……人の想いが……というか欲望と言うか……いずれにせよちょっと溢れすぎてる気もしますが……強く籠った本、必ず届けます!」
「うんッ! これは絶対に届けなきゃいけない本だよ!!
原稿はね、入稿しなきゃ死んじゃうんだよ!! これは日の光を見るべきなんだ――!」
次いで『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)と『緑の治癒士』フラン・ヴィラネル(p3p006816)もまた同人誌を護らねばならぬと強い決意を抱くものである。特にフランは今回の同人誌……『奴』めをひんひん鳴かせる事が出来るものとやる気全開ですよンッふっふ。
「とにかく盗賊さん達が来る前に対策はしとかないとね!
よーしこれとこれを準備して……そして本物の原稿は私が護るために、in!」
さておき盗賊が出てくるとの情報があるのだ――奴らに同人誌を奪われる訳にはいかない。故に用意するのはダミーである。それは腐ランちゃんの描いた……間違えた、フランちゃんの描いた『盗賊さんが商隊の用心棒さんに敗北して地下牢で色んな意味でメッ★される本』である。うわひどい。
ともあれこれをリンディスやワルツ達にも配り『本命』の守護とするのだ。
盗賊達にとってはどれが一番守るべき存在なのか分かるまい――そして本命はめっちゃまな板っぽい木材の板を拾って、おむねにin! 駄目ですよフランちゃんそんな事をしてもまな板おむねに明らかな違和感があるだけで……あ、なんでもないですヒッ!
「彼女たちの想いと労力の結晶……あのようにまでお願いされれば是非もありません。必ずやオータムハバラに送り届けあわよくばその一冊を――ごほん。ええ、必ずや形にしましょう!」
そしてダミー本を配るのはフランだけでなく『不義を射貫く者』小金井・正純(p3p008000)もである――邪な――いや己が内から湧き出る純粋な想いに忠実な正純もまた熱意に溢れていたのだ。ダミー本は正純も持ってきていた。所謂私物……元から持ってたもの……なんでそんなモノを元から持ってたのかは追及しないことにして、とにかくこれで数は十分な程にある!
「あ、中身も見られますか? あまり見ない方がいいとは思いますが、ええ、いえ興味があるならいいんですよ? 事が終わったら差し上げてもいいぐらいです。ええ、マイルドなモノを選んでますし。ええ!」
「…………いや、まぁ、うん。だがそんな装備で大丈夫か? もっと厳重に、例えば木箱にいれるとか……あまり大きいモノだと運びにくくなるので紙が入るぐらいのだな……」
「どうじんし……拙者にはなんとも聞き慣れぬ言葉ではあるが、拙者の勘が、妙に胸騒ぎと警鐘を鳴らしてくるので御座るよな……いや無論仕事となれば絶対に送り届けてみせるで御座るが!」
目を輝かせる正純はともかく! 『蛇霊暴乱』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は豪華な箱かいい布に詰めてよりダミーとしての価値を高めた方がいいだろうかと思案し。 『咲々宮一刀流』咲々宮 幻介(p3p001387)はダミーの本を風呂敷に包んで首に巻き、周囲の警戒は怠らない。
不審な足音がないか耳で探り、敵が飛び出していいように歩を進めているのだ。
しかし何故か妙な胸騒ぎと警鐘が脳裏に鳴り響いている。
危ない。オータムハバラには往くなと――なぜだろうか。此れが虫の知らせ?
されど思案の時は許されなかった。
「待て――どうやらこの先、罠があるみたいだ」
気付いたのは『デイウォーカー』シルヴェストル=ロラン(p3p008123)だった。
罠が無いか常に知識とその目を動かせていたのだが感知した先にあったのは落とし穴。
――ここか。この周辺が、盗賊達の出現ポイントと言う訳か。となると近くに盗賊達も潜んでいるとみて間違いない。
「ああ。そうみたいだな……不穏な影があると霊魂たちも呟いている……
即売会を前に斃れたのが心残りで彷徨う婦女子の霊達が……」
「ほほう。下手に突っ込む訳には行きませんが――かといって時間を取られる訳にもいきませんね」
アーマデルもまた不憫な……不憫、な? 婦女子たちの霊より情報を得て、さすれば『二輪』アルプス・ローダー(p3p000034)は――罠があるであろう微かな窪みをのぞき込む。
視えそうで見えないラインのミニスカメイドの衣装で、だ。練達の――というより旅人の文化が流入しているようなので、自身もその文化に合わせた格好をしている訳である。くっ、可愛い! 本体はバイクなのに……!
ともあれ盗賊が近いのならば戦いの時もまた近い。
こんな奴らに手間取っている暇はないのだ――なぜなら僕達の目的はオータムハバラの『TADIのあな』同人誌コーナーなのだから! 違った、同人誌を届ける事なのだから!!
●
罠に掛らぬ様子に痺れを切らしたのか、飛び出てきたのは新鮮な盗賊達でした。
「ひゃっは~! 金目のモノをおいてけや、怪我ぁしたくなかったらなぁ~!!」
なんということでしょう。イレギュラーズ達が持つ数々の物品を金目のモノと勘違いしたのか、世紀末的言動で襲い掛かってきました――それに対して迎え撃つは。
「邪魔はさせませんよ。喰らいなさいこれが化物を打倒する為に生み出された全集中の呼k」
違う違う! 流行りのアレじゃないですよアルプスさん!!
危ない言動を切りつつ、超速で飛来せしアルプスの一撃が盗賊を抉る。
その一撃――正に粉微塵になるかの如く。
速度に全てを注ぎあげた至高の一閃は盗賊なんぞ寄せ付けるものではなかった。仲間が『ひでぶッ!』的な事になったのを皮切りに、盗賊達の進む足が揺らいで。
「この機を逃す訳にはいかないで御座る――神妙にせい! さすれば痛い目に遭わずに済むで御座るよ!」
直後、幻介も動いた――盗賊の動きを先読みし、幻介が怯んだ者へと振るうは頭上より。それは天高く舞う裏咲々宮一刀流の秘儀が一つ、飛燕。
燕が如く虚空を自在に。精神を昇華させ、予知の一閃を加えた剣撃を防げよう筈もなく、ならばと彼を自動発射式の弓矢が在る地点へ誘おうと盗賊はするが……ソレに至るのは正純の矢。
「頼みの罠もご覧の有り様。機先はこちらが制しているのです――御覚悟を」
射かけられた一撃が罠の矢台を破壊するのだ。罠を感知する術は無いが、しかしシルヴェストルなどにより方向が察知されていれば後は目視でも十分に。破壊出来れば御の字と思っていたが――安物を使っているのか存外に脆いようだ。
「お前達早く降伏した方がいい……が、無理だよな。どうせ降伏しても街の牢行きだ」
今まで襲っていた獲物は無力であったが故に盗賊達は面食らっている。まさか彼らがイレギュラーズであるとは想像もしていなかったか――しかし気付いたのだとしてもアーマデルも容赦はしない。吐息一つで跳躍し、捻じ込む一閃は死神の呪いが如く。
渡さない、渡せない。万が一にでもこういう代物が誰か他者の手に渡ろうモノなら『積み荷を燃やして!』というのが定番らしいが――
「……燃やす訳にはいかない。代わりにあいつらをファイヤーしておこう。それが良い」
「ああ――だけれども、燃やす前に聞く事があるね」
アーマデルに続いてシルヴェストルもまた前衛を担う。奴らに後衛を狙わせはしない。
魔力を込めた一撃で叩き潰し、それでも尚に向かってこようとすれば地を這う雷撃で一掃を。
ああ感電死がご所望だったのかな――? そうだと判断するけれど、ただその前に。
「君は、知ってるかな?」
「な、なにをだよ!」
「当然――同人誌という存在をさ。支離滅裂な気がしつつも、一種の統一性を見せる同人誌……なにやら『くっ殺』という単語が有名だったりするらしいね。君達のような盗賊が姫騎士みたいな事をいう一種の喜劇だと認識したのだけれど……あっているかな?」
ま、まさかテメェ俺達を『同人誌』する気か!?
叫びおののく盗賊達。ふむ、同人誌とは動詞の意味もあるのか――? これは興味深いとシルヴェストルの思考は本人もあずかり知らぬままに明後日の方向へと暴走する! 誰か彼に早く真実を教えてあげて! いややっぱしない方がいいのか!?
「やれやれ。盗賊達は、今自分達が盗もうとしてる物が何なのかを知ったらどんな顔するのかしら……興味深いような、全然そんな事はないような……」
「いずれにせよ盗賊達にこの本を渡すわけにはいきません……!! これは、これは彼らなどには決して渡せない、大事なものなのですから……!! お金に変えられないモノなのですから――!」
次いでワルツの魔術が同じく振るわれ、盗賊達を薙ぎ払い――それでも金目のモノを寄こせと突っ走って来る者達の囮となるべくリンディスはあからさまに同人誌(ダミー)を庇わんとする。
さすればアレがきっと本命なのだと盗賊達が目を輝かせて、しかし奪えない。
リンディスの紡ぐ治癒術が彼らの攻撃を突破させないのだ――尤も隙をついて奪われた所で。
「あーだめだよ、そのお宝はー! だめー! 触っちゃ駄目だよ――!!」
「ひゃっは~~! そう言われたら手に入れたくなるのが盗賊人情だぜ~! って、なんじゃこりゃ~!?」
彼らに与えられるのは金ではなく精神的打撃だが。
フランの如何にもな演技声で期待した盗賊。
まさかの絡み合いの絵に精神へのダメージがより深く。
「おやおやダメだと言われ続けたというのに……そういえば貴方、この本(ダミー)の表紙の方に似てますね? ……本に手をかけた罪、しっかりと贖ってくださいね?」
思わず破り捨てようとした盗賊に禍々しき闘志をリンディスは。
いくら複製とは言え本を無碍に扱う人間は容赦はしない――
やがて盗賊達は急速に追い詰められていく。元々戦闘力的にはイレギュラーズが有利と言ってもいいぐらいだったからだ。罠を察知し掛からぬ様に動きつつ、或いは誘発させて敵へ当てんとすれば――次第に盗賊達は瓦解する。
「その矢――見えた! いっけぇ――!!」
フランの一撃。それが罠の矢に当たり、発動。さすれば盗賊の尻に当たって悶絶し、そのまま落とし穴のある地点へと落ちてしまえば――ああダメダメ! 命まで奪う気はないから助けるよとばかりにフランは走って。
「新刊のネタにするんだ……『モデル』をやってもらわないといけないんだからね――ぐふっ」
「ひっ、た、たすけて」
暴れる盗賊。絶対離さない腐ランちゃんの口から、おっと涎が。
「オラッ、こっちにはまだ奥の手があるんだぞ。あと何人いるんですかちゃっちゃと吐いてください。それとも同人誌されたいんですか、おぉん?」
「ひぇ~! も、もういません、いませんので見逃して~!」
ともあれそんな腐ランから加護を受け取ったアルプスは全力の疾走を幾度となく繰り広げる事が出来ていた。恐ろしい速度の一撃が何度となく降り注いで来ればもはや壊滅していて……
「よし。思わぬ時間を繰ってしまったで御座る――が、まだ間に合うであろう!
往くで御座る、いざやオータムハバラへ!」
ならばと幻介の一言により道を駆け抜ける事を優先とする。
そうまだ依頼は終わっていないのだ! 盗賊を倒して万々歳……じゃない! 入稿に間に合わなければ意味がないのだ、待ってて印刷所さん! あとちょっとだから――!
●
急速前進。本命の同人誌を持っていたフランをアルプスは乗せてゆく。
ただでさえ(そもそもそんなギリギリになってる依頼主が悪いのだが)遅れてるのに、そこから極道入稿なんてしたらむしろ印刷所から睨まれるのは必至であるとアルプスは思考して、まぁいざとなったら報酬を極道入稿に当てればなんとかなるという悪魔の囁きも――
「到着!!」
とか色々考えてたら着いた! 時間は――間に合っている!
「ふぅ。どうなる事かと思いましたが、一件落着ですね」
せっせと運び込み依頼完遂! であればリンディスも思わず吐息を漏らすものである。
リンディスには文字録を生成する祝福が宿っているが――しかしそれは字癖が出てしまう代物だ。対してこれは、これらは彼女たちの想いのままがしっかりと映し出される技術――
「どうか、彼女たちの想いが叶いますように」
祈る様に紡いで、リンディスは一礼と成せば――これにて作業は一段落。
いやー良かった良かった盗賊とのいざこざはあったが、終わりよければ全て良し……
「いやいやある意味ここからが本番ですよね。さぁドキュメンタリーでも売ってないかな~~」
「盗賊さん達も衛兵に突き出したらお買い物だね! さぁ有名な『TADIのあな』へ行こうか!」
目当てのモノを探しに行くアルプス。そしてフラン、ニッコニコである。『助けてー! 同人誌されるー!』と怯える盗賊達を肉体的言語交流で分からせ『また後でね!』と紡げば往くは街の中へと。そう、目当ては……
「あっ、ギ……さんのアンソロ新刊出てる! 買わなきゃ!」
「ええまさかG総受け新刊がこんなにも出てるとは! これは買いですね買い。やはりGは受けに限ります」
世界中の同人誌が集う店への来訪である。
フランは思わず口端を歪めながら新刊を買いあさり、同時に正純もまた同じ道を辿る様に『G』の本を見据えるものである――ちょっと待て君達、そのGって一体誰の事だい!?
「なるほど……ここがかの有名な『TADIのあな』か。
いつ出発する? 俺も同行する」
アーマデル院。彼は訪れるや否や想起するは――故郷の図書館であった。
禁書図書館。記憶と妄想を司る『五翼の蛇』の使徒が代々守り、時には新たな物語を紡いで守り継いでいた――かの地の事を。流石禁書と言われるだけあってか閲覧制限が厳しく殆どは見る事すら叶わなかったが……ここでなら、と。
「装丁がやけに豪華で、高くて、薄い本……ふっ、懐かしいな」
ちなみに閲覧制限とは主に年齢の事であり、禁書って言うか失われた神や英雄の実名出しちゃってる、歴史公証的にはほぼ正しい、ある意味とてもやばいナマモノ同人の地の事なのだが――まぁ意味は一緒一緒!
「おお……これが同人誌の数々……! おや、サンプルもあるのですか。少しばかり拝見を……」
「……皆熱心で御座るなぁ。斯様なまでに熱を灯すとは……」
そしてリンディスは存在こそ知っていれど中々行く機会が無かった『同人誌』という個人個人の愛の結晶をその目に捉えて。同時、幻介は店には入らず天を仰ぐ。
正直やる事はない。そうまで同人誌には興味が――というかなんか防衛本能が騒いで『行くなッ!』という想いが強くて足を進める事が出来なくて――と、その時。
「!? い、今……妙な悪寒が――拙者が題材にされたいかがわしい『くっ殺』・『絶対に負けないで御座る』書物が流通している様な、何とも言えぬ感覚が……気のせいで御座ろうか? それにしては何か妙に、こう具体的な悪寒だったような……」
背筋に走った不穏な気配は一体何だったのか。あまり追求したくない所である……!
同時。賢明な判断で足を進めなかった幻介だったが、シルヴェストルはあえて向かう。
だって書店だろう? きっと様々な本や、魔術書の類が並んでいるのだろう。だから、そんなに心配する事はな……おや? 正純達が尋常じゃない勢いで買い物カゴの中に放っていっているあの大量の本は一体……
一瞬だけ表紙が見えたが、なんかどこかの情報屋によく似てるな……
「きっと彼が出版したものかな」
流石色んな所から本が集まる地なんだなぁと、感心しながらサンプルをめくってみれば――
「……なに、これ……」
知らなかった純白の彼の世界に、新たなページが刻まれた――
そして皆それぞれ行動している中でワルツはコソコソと一目を憚りながら書店の中へ。
周囲を観察した上で……五回ぐらい警戒した上で入るのは――男性向けコーナー。ワルツさん?
(……この前、見たんだわ。私の数少ない親友のリ…………ットが、眼鏡でスーツ姿の決まった男に『お前の同人誌を流す』とチラつかされている所を……! あんなの、あんなの決して放っておけない……!)
こんな時友達として出来る事は何か? ――それは世に流れる前に未然に防ぐこと!
私が彼女を助けるのだと、見つけたのは『すりすりする本』であった。ああぁ、まさかこんな……彼女がこんなに、いい様にされた素敵な表情で……
「今、助けるからねっ!」
手に取る二冊。レジに向かう前に、表紙同士を合わせる様に同じ重ねれば表が見えず。
「…………あの、これください……会員とかは次回で……」
すぐおつくり出来ますよ~? いやいいんです次回で!
何か察してるっぽい店員との言葉の攻防。
外から見えない、透けない袋に入れてもらえれば――ああ早く皆と合流するとしよう。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ありがとうございました!!
同人誌への熱意が高すぎる……!
GMコメント
リクエストありがとうございます!!
どうしてこんな同人誌が……ともあれ依頼です!!
●依頼達成条件
隣街まで同人誌を無事に守り抜け!
依頼背景的には同時に盗賊団の撃破も受けていますが、今回のシナリオでは『同人誌を届ける』事のみの達成でOKです。
●フィールド
街道沿い。林の中を、人工的な道が一本道であります。
普段は穏やかな地らしいのですが、最近盗賊団が出ているらしく通行する者達はほとほと困っています……周囲は先述の通り林で満ちていますので人が隠れる事の出来る場所は多そうです。
時刻は昼。その為視界に問題はないでしょう。
●盗賊団×?名
最近この周辺を根城にしているとされる盗賊達です。ひゃっはー! な蛮族思考。
あまり規模の大きくない連中らしく、正確な数は不明ですがそう多くは無いでしょう。恐らく皆さんと同数程度です。また数の少なさからか襲撃してくるときは全員がその場にいるとの情報が在ります。
街道沿いに罠を仕掛けている事があるらしく『落とし穴』や自動発射式の『弓矢』が連続して襲ってくる地点があるのだとか。逆に言うとそこを察知出来れば近くに奇襲しようと潜んでいる者達がいると推察できるかもしれません。
大事そうに持っている同人誌を『金目のモノ』と勘違いし狙ってくる事でしょう。
絶対に取られてはいけませんし、汚してもいけません。守り抜きましょう!
●同人誌
女性達から託された同人誌。隣街にまで行ければ印刷所があるのだとか。
中身は『奴隷商人を名乗る大きな目玉が特徴的』な人物が出ています。どこかで見た事がある様な……
ざっと見ただけでもどうやらハッピーエンドな作品のようです。いずれにせよこれを隣町まで届けるのが目標ですので、必ず守り抜いてください……!! 紙袋に入っていますが汚れないようにも注意してくださいね。
●目標の街『オータムハバラ』
印刷所がある街です。印刷所の住所は分かってるので特に迷う事はないでしょう。
何でもこの街は同人誌で有名な街だとか。
あちこちの本屋には珍しい……薄くて高い本が多く在る事でしょう。
無事に辿り着けたら買い物と洒落込んでもいいかもしれません。ええ。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。どうしてですぞ。
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