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シナリオ詳細

再現性東京2010:怪異漏出

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●希望ヶ浜、とある雑居ビルにて
「――だから。君のやったことは非常に危険な事だぞ」
 希望ヶ浜の一角にある、目立たない雑居ビル。果たしてどんなテナントが入ってるか、近隣住民でも知らず、興味も持たないように『細工されている』その建物は、希望ヶ浜学園関係施設の一つであり、とりわけ『いわくつきの物品を人知れず保管する』施設である。
 その建物の入り口に。薄暗いロビーのソファに腰かけ、隣に座るセリア=ファンベル(p3p004040)へ向けて、ぶつぶつと説教を続けるのは、『練達の科学者』クロエ=クローズ (p3n000162)だ。
「分かった、分かってるよぉ」
 苦笑しつつ肩をすくめるセリア。事の起こりは一月ほど前。夜妖討伐中に異界に引きずり込まれたセリアたちイレギュラーズは、そこで非常に危険な怪異、『くねくね』と遭遇。異界からの、決死の脱出劇を繰り広げた経緯がある。
 その脱出行中、セリアは、aPhoneで『怪異の写真を撮った』のである。これは、クロエがくどくどと説教するように、非常に危険な事だ。見るだけで精神に異常をきたす、と言われる『くねくね』である。その姿を映したとなれば、その写真、いや、画像データを保存した端末自体が、特級の呪的物品になりかねない。ましてや、それを現実世界に持ち込んだとなれば。
 現に、件の端末は6層の霊的防護と、4層の物理防護によって厳重にシールドし、セリアをはじめとする8名のイレギュラーズが護衛について、ようやく学園からこの施設へと移送を完了したのだ。
「それで、一か月研究して、何かわかったことあるの?」
 キラキラと目を輝かせるセリア――夜妖については、分からないことだらけだ。その研究の一端になればいいとの思いで撮った写真であるから、役に立ったのならば、セリアも写真のとりがいがあるというもの。そんなセリアへ、クロエはため息などをつきつつ、答える。
「まず……幸いなことに、くねくねは写っていなかった」
「えー」
「えーじゃない! 写真には写らないタイプの怪異なのかもしれない。それから、トンネルの先にかすかに見える、街の風景。これは、希望ヶ浜のどのポイントとも一致しない。あるいは、別世界の日本の景色なのかもしれないが、それは探りようがないな」
「つまり……『わからないことがわかった』ってことだよね?」
 些か残念そうなセリアへ、クロエは不器用に笑う。
「夜妖の研究とはそういうものだよ。其れだって充分な成果だ。むしろ、さっきも言ったが! 大規模なハザードが起きなかっただけよしとするんだぞ」
 まずい、これはまた説教が来る――セリアが苦笑する。まぁ、それも仕方ない事だろうな、とセリアは思う。はっきりと言えば、夜妖の研究など――クロエにとっても、恐ろしい事なのだ。その恐ろしいものに触れた高揚と恐怖が、いまセリアに向っての説教と言う発散に向っているのだろう。
 しかたない、もう少しお説教に付き合ってあげよう――セリアが内心で頷いた――瞬間。
 ばちん。
 と音を立てて、施設の明かりが一斉に消えた。
「ん? 停電かな?」
 セリアがあたりを見回す――同時に。ぶちん、と音を立てて、ロビーに据え付けられていた液晶テレビの電源が入った。ざざ、ざざ、とノイズ交じりの映像が流れる。それは、夕暮れの街の光景だった。
 ぞ、と――。
 セリアの背筋に、寒気が走った。忘れるはずもない。その光景は、一月ほど前に訪れた『異界の街の光景だったのだから』。
「縺ァ縺阪◆」
 テレビから。
 声が聞こえる。
 理解しがたい言語だった。
「縺、縺ェ縺後▲縺溘h」
 ずず、ずず、ずず。と。
 音が聞こえた。
 何かを引きずるような音だった。
「ぽぽ、ぽぽぽっ。ぽぽぽぽ」
 違う声も、聞こえた。
 女のような、男のような、訳の分からない声だった。
「これは――」
 クロエが訝し気に声をあげた瞬間。
「伏せてっ!」
 セリアは叫び、残る七名のイレギュラーズ達も一斉に戦闘態勢に入った! セリアはクロエの後頭部を掴んで、無理矢理伏せさせて視界を遮る。
「驕翫?縺ォ縺阪◆繧」
 ず、と。テレビ画面に何かがうつる。それは、間違いなく、かつて異界で見たものの姿。忘れていた。でも、見れば何かは一瞬で理解できる。
 くねくねと呼ばれる怪異の姿だった。
 ぐるり、と意識が裏返りそうになるのを、セリアは耐えた。直視でないから、あるいはあの異界でないからか、精神面へのダメージは、以前のそれよりはるかに少ない――だが、可能性(パンドラ)の加護の無いクロエがそれを直視してどうなるかは分からなかったし、何より、長々と直視していては、前回と同じ轍を踏むことになるだろう。
 セリアは手加減抜きで魔力を込めた妖精を解き放つ。妖精の牙が、テレビを破壊した。あたりが暗くなる。
「何が……っ?」
 クロエの言葉に、セリアは叫んだ。
「くねくね! こっちに来た!」
 ずず、ずず、と。音が聞こえる。ぽぽっ、ぽぽぽ。と声が聞こえる。
「セリア! 入り口はダメだ! あかない!」
 仲間達の一人が声をあげる。脱出を試みたが、入り口は開かず、破壊することもできない。
「おそらくだが……っ! 件の異界の景色をとったaPhoneがゲートになっている可能性がある……っ! それを触媒にして、このビル全体を異界化したんだ!」
 伏せて目を閉じつつ――くねくねを直視しないためだ――クロエが叫んだ。
「って事は、元・わたしのaPhoneを破壊すれば、助かる可能性があるって事だね?」
 セリアの言葉に、クロエが頷く。
「正解だ! 件のaPhoneは、今日、六階の呪物保管庫に保管される予定だった……その際に取り扱い事故を起こしたのだろう。何にしても、今すぐ対処しなければ、この異界が外まで広がる可能性がある……!」
「了解! クロエさん、あなたはどうするの?」
 クロエは自嘲気味に、皮肉気な笑みを浮かべた。
「情けない話だが、ワタシは実地では役に立つまい……此処で目をつぶって君達の帰還を待つよ。直視しなければ、くねくねの被害は押さえられるだろう。……正直、目をつぶって独りと言うのはすごく怖いが……まぁ、致し方あるまい」
「分かったよ。なるべく早く解決するから、待ってて!」
 セリアはクロエにそう呼び掛けてから、仲間達へと視線を移した。イレギュラーズ達は頷き合うと、建物の奥へと向けて、進軍を開始した。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 驕翫?縺ォ譚・縺溘h縲ゅ♀蟋峨■繧?s繧ゅ▽繧後※縺阪◆繧医?

●成功条件
 施設六階、呪物保管庫にある『セリアのaPhone』の破壊

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 希望ヶ浜に存在する、希望ヶ浜学園関連の施設である『第三呪物保管庫』と呼ばれるビル。
 そこは、異界からの浸食によって異界化し、内部に『くねくね』たちが徘徊する危険地帯と化しました。
 くねくねとは、直視するだけで正気を失うとされる危険な夜妖です。その他、『ぽぽぽ』、と声をあげる夜妖もいるようですが詳細は不明です。
 これを排除しつつ、六階の呪物保管庫に向い、異界のゲートと化した『セリアのaPhone』を破壊しましょう。
 作戦エリアは一般的なビル内部。明かりはついていませんので、ライトなどを用意しましょう……ただ、その明かりに釣られて、怪異が寄ってきてしまう可能性は否定できませんが。

●このシナリオの特殊ルール
 このシナリオにおいては、AP=精神力として扱われます。
 APは、通常通りにスキルの使用によって増減するほか、夜妖との遭遇や戦闘によっても減っていきます。
 APが0になった場合、このシナリオでは『短期的狂気』と言う特殊なBSが付与されます。
 このBSを付与されたPCは、通常の行動が一切できなくなり、『泣き叫ぶ』『笑いだす』『怯えて逃げ出す』などの、精神に異常をきたした行動をとる様になります。
 プレイングに、自分のキャラは狂気に陥った時、どのような行動をとるかを記載すると、とても楽しいと思います。
 なお、このBSは時間経過の他、別のキャラクターによる適切な説得やスキル、最悪物理攻撃によって正気に戻すことができます。

●エネミーデータ
 くねくね ×たくさん
  今回の概ねの元凶の夜妖。恐らく無尽蔵にいます。全滅は狙わない方がいいでしょう。
  遭遇しただけで、戦闘しただけで、PCの皆さんのAPを減少させるという強い効果を持ちます。とはいえ、戦闘能力に関しては非常に弱いので、蹴散らすことは可能です。

 ぽぽぽ、と声をあげる夜妖 ×?
  何かいます。よくわかりません。情報が不足しています。ぽぽ。ぽぽっ、ぽぽぽ、ぽぽぽぽぽぽっ、ぽぽぽぽっぽ。
  縺シ縺上◆縺。縺ョ縺翫?縺医■繧?s縲?縺ィ縺」縺ヲ繧ゅd縺輔@縺上※縺輔∩縺励′繧翫??縺ゥ縺薙∪縺ァ繧ゅ∩繧薙↑繧偵♀縺?°縺代※縲?縺壹▲縺ィ縺?▲縺励g縺ォ縺?k繧

 以上となります。
 それではたのしく、みんなでこわれましょう。

  • 再現性東京2010:怪異漏出完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月30日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補
マヤ ハグロ(p3p008008)
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女
黒水・奈々美(p3p009198)
パープルハート
伽藍ノ 虚(p3p009208)
     

リプレイ

●怪異対決
 ビル内部の雰囲気は、まさに一変していた。
 確かに、元より薄暗く、あまり空気の良い環境とは言えなかった――それもそうだろう、元より危険な呪物を多数保管しているのだから――ビルではあったが、こと異界に侵食された今となっては、その薄暗い雰囲気を懐かしく思うほどに、異常な、ジワリとした感覚がにじみ出ている。
「クロエから、ビル内部の見取り図をもらったけど」
 『初日吊り候補』セリア=ファンベル(p3p004040)は、手元の簡易な見取り図を覗き込みながら、言った。ビル内の受付部分に置いてあったそれを、クロエの指示により回収したのである。
「なんだか……複雑な作りをしてるんだね。階段も、一気に六階までつながってなくて、何回も道を変えないといけなくなってる」
「おそらく、災害が起きた際に、その階で封じ込められるようにしているのだろうね」
 ふむ、と頷きながら言うのは、『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)だ。
「ダメージコントロールと言うやつだよ。このビルには至る所に呪物が設置されているわけだろう? 何かが起こった場合、その階、その部屋を封鎖してしまえば、よそに被害が漏れる可能性は少ない、となるわけさ」
「だが……この複雑さ。中の人間が脱出すことは考えていないんじゃな……」
 ぶるぶる、と恐怖に身体を震わせながら、『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)が言った。確かに、有事の際に脱出することを考えれば、この階層の煩雑な作りは、些か足かせになるだろう。詰まる所。人間の命より、怪異の封じ込めを最優先に考えている、という訳だ。
「はっ。それでビルごと異常に飲まれちまったんじゃ、元も子もないがな……ちょっとした拍子に一気に夜妖の巣窟かよ。めんどくせェなァ……!」
 『太陽の勇者』アラン・アークライト(p3p000365)が肩をすくめた。流石にこれは、怪異の方が一枚上手だったとみるべきか。あるいは、セリアの持ち込んだ物品が、よっぽど強力な呪物となってしまっていたとみるべきか。何にしても、おこってしまった以上は仕方がない。
「さて、話に聞けば。此処の怪異は、見ると精神に異常をきたす――だったな? 俺達なら、ある程度は耐えられると」
 アランの言葉に、答えたのは『非リア系魔法少女』黒水・奈々美(p3p009198)である。
「そっ、そうね。くねくねは、その正体を知ると狂ってしまうって話……ひひ、物語でも、正体は不明のまま終わる事ばかり、その正体を知れるっているのは良い事なのかしら……いや、やっぱりよくないわよ! 狂いたくないもの! あのクソマスコット、何でこんな仕事持ってくるのよ……!!」
 頭を掻きむしる奈々美。オカルト好きの奈々美ではあるが、それは安全な場所から楽しめるから好きなのであって、実際に現地に放り込まれたくなどはない。
「なんにしても。こうなった以上、いくしかないわね」
 『キャプテン・マヤ』マヤ ハグロ(p3p008008)がため息などをつきつつ、そう言う。
「アランの言う通り、ある程度耐えられるなら――こちらが壊れる前に倒してしまえば問題ない、という事よ。少しばかり厄介な制限がついているけれど、倒せるなら問題なし。いつもの依頼と一緒だわ」
 マヤの言葉に、賛同する者もいただろう。相手は驚異的な存在だが、何とか排除は可能だ。そしていつだって、驚異的な存在に立ち向かってきたのが、イレギュラーズ達なのだから。
「……それで、どう進むの? いくら耐えられても、無策で突撃……なんてしたら全滅じゃない?」
 『白い死神』白夜 希(p3p009099)が言うのへ、答えたのは『     』伽藍ノ 虚(p3p009208)だ。
「隊列を組んで、前衛、後衛、中衛で別れていくのがいいと思います……そうすれば、一気に壊滅と言うのも避けられますし、後方への警戒にもなりますし……」
「そうだね。前もそんな感じでやったし。それで行こうか」
 セリアが頷く。かくして一行は前衛・中衛・後衛のように隊列を組み。
「ま、魔法少女ナナミ……外なる者を封じるべく、た、ただいま推参……! ……お、おじゃましまーす……」
 蚊の鳴くような声の奈々美の言葉を合図にするように、ビルの奥へと向かって行くのであった。

●上昇する狂気
 一歩一歩、注意しながら足を進めて行く。あちこちから聞こえる縺ゅ◎縺シ縺の声。ずずず、ずずず、という、何かを引きずるような、それはくねくねの足音なのだろう。
「うう、やっぱり慣れないなぁ、この緊張感……」
 セリアが言う。一歩隣にある狂気との境目。そこを歩く恐怖は、なかなか慣れたものではあるまい。
「ひっ……い、いま、笑い声が聞こえたわよ……!?」
 奈々美のいう通りに、時折聞こえてくる狂ったような笑い声は、犠牲となってしまった職員たちの声だろうか。救う事は、もはやできまい。イレギュラーズ達ができることは、速やかにこの怪異の根元を断ち切り、これ以上の犠牲者の拡大を防ぐことだろう。
 この異常事態に、外部でも潜入と救出の算段をつけられているのかもしれない。だが、怪異相手にそれを待っていては、何が起こるか分かったモノではない。結局、現場にいる人間が真っ先に対応するのが最善手となるわけだ。
「……今、何か……」 
 最前列、まずは前衛に立った虚がペンライトを片手に、前方を注視する。ずず、ずず、と言う音が、ひときわ大きくなる。
 果たして前方、廊下の角からその姿を現したのは、二体のくねくねである。その姿は縺ソ縺?▽縺代◆、縺ェ縺ォ縺励※縺ゅ◎縺シ縺。
「ぐう……っ!」
 虚は思わず呻いた。ハンマーで頭をぶん殴られたみたいな衝撃――それが、見てはいけないものを見てしまったが故に発生した、脳の拒絶反応だと気づくのに、さほどの時間はかからなかった。
 奇妙なことに、果たしてくねくねの姿がどういうモノなのか、見ているのに認識できてはいなかった。これは、認識すれば狂う、と言う定義に基づく反応なのかもしれなかった。理解すれば狂う。故に、狂わなければ、人はそれを理解することはできない。だが、イレギュラーズ達は狂ってはいない。故に、それを正確に理解することはできない。狂ってはいないからだ。
「く……そぉっ!」
 堂々巡りの異常な思考に陥るのを、虚は自覚した。恐らくこれが、狂気に片足を突っ込んだ状態なのだろう。虚はその状態からいち早く逃れるために、全力で攻撃を行う事を選んだ。解き放たれた自走式の爆弾が、くねくねに張り付き、爆散した。その身体は千々に砕かれ、訳の分からないものへと変貌を遂げる。
「負担が……大きいですね……クソが――」
 肩で息を吐く。ぐるり、と何かが彼の思考を支配する。何かが目覚める。何かが。悪が――。
「おっと、落ち着き給えよ」
 ゼフィラが、ぽん、と虚の頭を叩いた。それだけで、些か思考がクリアになる。
「なるほど、狂気、か。気を付けてどうにかなるものではないが、これは厄介だ」
「でしょ。だから、ゼフィラ。あなたが要、ってわけね」
 セリアの言葉に、ゼフィラが頷いた。ゼフィラは、今回のヒーラーにして司令塔のようなものだ。仲間達の傷や消耗度合いを確認し、適宜交替させて休ませる。
 そのため、ゼフィラを重点的に守る形で、一行は進んでいる。
「なんだか重要人物のように守られているようで、なんとも面はゆいが」
 ゼフィラが言った。
「自分の役目は理解しているさ。しっかりと皆を守ろう。……まぁ、狂気に陥ったとしても、それはそれできちんと治すから、安心してくれたまえ」
 そう言うと、ゼフィラはくねくねの残骸に手を伸ばした。ぐちゃり、とした感覚。それは、生肉を触ったような感覚に近いかもしれなかった。色は縺イ縺ソ縺、縺?繧、だが認識すればしようとするほどに、何か意識が遠くなるような感覚を覚える。何故なら縺ソ縺溘i縲√∩繧薙↑縲√♀縺ィ繧ゅ□縺。縺?縺九i縺ュ。
「おっと」
 ゼフィラはとっさに、それを手放した。
「いけないいけない。実に興味深いが、今回は仲間が優先だ」
「頼むわよ? ほんとに。アンタが生命線なんだから」
 マヤの言葉に、ゼフィラはにこりと笑ってみせた。
 一階から二階へ。そして三階へ。消耗はあれど、一行は順調に階を進めて行く。
「もうすぐ目的地か……消耗はそこそこだな」
 アランが呟いた。すでに何度か前後衛を入れ替えて、休憩も行っている。とはいえ万全の状態とは決して言えず、依然油断ならない状況が続いていた。
「ここは……防火扉か? 何でルートをまたぐように扉が……」
 そこまでアランは呟いた、なるほどダメージコントロールか、と思い直した。要するに、有事の際にはこのように、細かに扉で区切りをつけて封印するのだろう。
 いくつか扉を開けて、進む。念のため、扉は締めて先に進む。扉の先に敵がいるかもしれないという緊張感が、イレギュラーズ達の精神を少しずつ削っていく。時には本当にくねくねに遭遇し、精神と体力を奪われる。
 と――先を行くイレギュラーズ達の後方、今しがた閉めた扉から、どんどん、どんどん、と激しいノックの音が聞こえた。
「ぴいっ!!」
 思わず悲鳴をあげる奈々美……一同の視線が扉へと集中した時、扉の向こうから声が聞こえてきた。
「ワタシだ! 聞こえるか、皆!?」
「……クロエ?」
 希が声をあげた。それは確かに、一階で待機中の、クロエの声に聞こえた。
「実は大変なことが起こった……頼む、ここを開けてくれないか」
「分かった、ちょっと待って……」
 希がそう言って扉をへと向かうのを、奈々美がその手を握って止めた。泣きそうな顔で、首を振る。
「だめ」
「いや、だって……」
「開けてくれ! ワタシでは開けられないみたいなんだ……頼む!」
「だ、だ、だめ! 何で一般人のクロエが、ここまで無事に来られるのよ!」
 言われてみれば――妙な話である。
 イレギュラーズ達ですら、完全に敵に遭遇せずにここまで突破することは不可能だった。仲間達が、敵の数を減らしたとはいえ、ここまで来られるはずが、無い。
「……一応聞くけど、貴方本当に、クロエ?」
 希が恐る恐る尋ねるのへ、扉の向こうの何かは、
「ワタシだ! 開けてくれ! ワタシだ! 開けてくれ!」
 がんがん。がんがん。扉を叩く。叩く。叩く。
「ワタシ、ワタシ、ねぇ、開けて、開けてよぉ。開けて、開けて。ぽぽ。ぽぽぽ。ぽぽぽぽぽぽぽ」
 瞬間! 部屋の中の温度が一気に下がったような感覚がイレギュラーズ達を襲った! ぽぽぽ、 ぽぽぽ、と言う奇妙な声が、そこら中から響き渡る。同時に、ずず、ずず、と言うくねくね達の足音が、部屋のあちこちから、陰から、隅から、陰から、隅から、隅から、隅から、隅から、隅から、
「走って! この部屋は危ない!」
 希が叫ぶ! 同時に、イレギュラーズ達は一気に出口の扉に向って殺到した。扉を開いて、今度は閉じる間もなく駆けだした。
 廊下のあちこちから、ずず、ずず、と言う足音が聞こえる。後方から、扉が、がちゃんと開かれる音も聞こえる――背筋に冷たいものが走る。
「ヤバいヤバいヤバい! これって大ピンチじゃない!?」
 セリアが叫ぶのへ、
「兎に角突破するしかない! 幸いゴールは近い!」
 アランが返した。
「こうなったら強行突破だ! そう出来るだけの備えはここまでして来た――!」
 アランの目の前に、くねくねが現れた瞬間、アランの中で何かが裏返った。はは、と口角が上がる。無性に高揚する身体。叩きつけたられた大剣が、くねくねを残骸へと変える。
「消えろ! 道を開けろ雑魚共!」
 次々と群がってくるくねくねたち。それはまるで、遊んでもらっている子供のようにも見えた。
「はははは! 楽しいなァァアア!?」
 アランは笑う。狂気に陥った瞳で。
「はははは! あー楽しいなァ! 剣でぶっ叩くのはよォ!?」
「まずい、狂気に――!」
 ゼフィラが叫ぶ――同時に、そのこめかみを闇が擦過した。
 狙われた――違う、後ろを狙ったのか? そう考えた瞬間には、後ろにいたくねくねが爆ぜていた。それは、確かに闇だ――形を持った闇。殺意を持った闇。敵意を持った闇。狂気に陥った闇。
 無差別に、殺し、殺す、そう言った闇の姿だ――。
「これは、希、キミか!?」
 ゼフィラの問いに、返事はない。ただ、殺意の暴風となった闇が、くねくねを排除して回る。濃密な死の気配が、ずん、と周囲に圧し掛かった。それがさらに、イレギュラーズ達の精神を削っていく。
「ひぃ……! いや、もういやぁ……!! こ、こんなところで……し、死にたくないぃ……! だ、誰か……誰か助けてぇ……!!」
 奈々美が頭を抱えて悲鳴を上げた。
「うひっ……うひひふひひひひひひっ……うひひっひひひっ……み、みんな死ぬのよ……死ぬ……うひひひ……っ」
 奇妙な笑い声をあげながら、奈々美は走り出した! 一度奔った狂気が、見る見るうちに仲間達へと伝染していく――!
「うるせぇぞ女! クソが! 人が気持ちよく寝てたってのによぉ……なぁんでよりにもよって俺を起こすかなぁ——このミミズどもがぁ!!」
 ぐちゃり、と虚はくねくねを殴り倒し、踏みつけた。びしゃ、と生肉のようなそれが飛び散って、ケタケタと笑う。
「くそ、一度瓦解するとこうもなるか……!」
 呻くゼフィラへ、マヤは言った。
「でも、これはチャンスよ。幸いみんな、狂気に陥ってなお勇敢なようね。対処をまかせられるわ」
「今のうちに行っちゃおうって事?」
 セリアが首をかしげる――マヤは頷いた。
「どのみち、この怪異を収めることができれば、皆も正気に戻るわ! だったらゴールまでもうすぐ……どっちが早いか、よ!」
 その言葉に頷くと、ゼフィラ、セリア、そしてマヤは走り出した。後方では、鋭い攻撃と剣戟の音が、鳴り響いている。
 それは、戦闘ではない。虐殺でもない。ただただ、狂気だけが踊り、狂気だけが笑う、狂気の演舞場であった。狂い暴れる暴風のようなものであった。そこにまともな神経で立つことはできない。飲み込まれるか、殺されるか。そう言った圏が、出来上がろうとしていた。
 そんな気配を後方に残しつつ、三人はひた走る。呪物保管庫へと向かって。道中に怪異は現れない。すべてが後方の狂気の中に置き去りにされていったみたいだった。あれは、怪異すらおびき寄せる狂気の渦なのだ。まるで、この世の全ての悪を煮詰めていくための鍋のようなものだった。その中心にそんなものがいるのだといっても、信じられるほどに恐ろしい場であった。
「呪物保管庫……六階の……!」
 セリアが叫び、廊下を走る。見取り図を確認する。階段からは遠い。走らなければならない。
「速く、早く!」
 マヤの叫びに、
「分かっている……!」
 ゼフィラが答えた。
 果たして、その扉に最初に飛び込んだのは、誰であったか。いずれにせよ、団子状態で、三人は扉の中へと飛び込んだ。同時に、殴られたような衝撃が、頭を奔った。現実と怪異の乖離のために起きる衝撃。くねくね。
「ここまで来て邪魔をさせないわ! 我は海賊マヤ・ハグロ! 恐れを知らぬ無法者ならばかかってくるがいいわ!」
 マヤは拳銃と剣を抜き放って、そう宣言した。驕翫s縺ァ縺上l繧九??。ずず、ずず、とくねくねがはい出す。
「マヤ! すまないが任せた!」
 ゼフィラが叫び、
「どれだ!? どのボックスに収納されていた!?」
 戸棚をあさり始める。おかれていた箱には、それぞれ収納物が記されたラベルが張ってある。それを目で追う。迂闊に違った箱は開けられない。間違った箱を開けて、違う呪物を呼び覚ましていては目も当てられない。
「どれも同じようなものばかりでー!」
 セリアは悲鳴を上げつつ、しかし次々と箱に視線を移していく。泣き言を言ってはいられない。マヤも直に限界だろう。時間にして、数秒だったか。数十秒だったか。数分だったか――正確な時間は、もう分からない。ただ、焦りが体感時間を増加させていた。
「あった、これか!?」
 ゼフィラが箱を取り上げる。

 TYPE-C:異界撮影型
 内容物:aPhone
 収蔵日:xxxx年11月11日

 記されたラベルを読んで、ゼフィラは箱を開けた。箱の中には、数枚のテープとお札のようなものに包まれたaPhoneの姿があった。バッテリは抜かれているはずなのに、画面が点灯している――。
 その画面を確認するまでもない。ゼフィラは力いっぱい、aPhoneを叩きつけた! 音を立ててaPhoneが粉砕される――途端! 周囲の雰囲気が一変した! 澱んでいた空気が一気に消え去って、清浄な何かがあたりを満たすようだった。
 はぁ、とゼフィラは息を吐いた。
「くねくねって奴がいきなり消えたわ!」
 マヤの声がした。
「やったのね!? ああ、わたしのaPhone……我が相棒よ、せめて安らかに」
 セリアの声が聞こえた。
「ああ」
 ゼフィラは静かに頷いた。
 先ほどまでと違う空気が、イレギュラーズ達を包み込んでいた。それは、外界の空気だった。異界とは違う、現実世界の空気だった。
 冷たく、心地よい十一月の空気が、ビルに正常さを取り戻していく。
 これでもはや、この怪異が現実を侵蝕することは無いだろう。そのはずだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆さんのおかげで、呪物データは物理破壊されました。これで異界との接続は断たれ――。
 ……はい? aPhoneには、クラウド上にデータをバックアップする機能があるって?
 ハハハ、そんな、まさか。

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