PandoraPartyProject

シナリオ詳細

メルヒェン喰い

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●1,000,000,000Gの絵画 ーLittle Red Riding Hoodー
 その絵画の落札者は、蒐集家として名高いバルツァーレク領の主であった。
 正確には、落札そのもを遂行したのは、その使いの者であった。
 絵画は、どこかの世界のどこかの土地に伝わる、寓話がモチーフのものだった。
 作者は不明。価値に作者の名はつきものだが、名高き者が目をつけたという一点で、値がつり上がった経緯だ。
 絵画は、複数の人物が描かれ、物語性があった。
 画中では、鉄砲を背負う猟師が、ハサミを持っている。
 老婆のような服を着た人狼が、呑気にすやすや寝入っていることがわかる。
 すやすや寝入っている狼の腹から、赤い頭巾をかぶった少女と、いかにもな老女が、顔だけだし、こちらも呑気な表情をしている。
 最初の猟師の表情をもういちど見ると、複雑な表情をしているのが分かる。
 登場人物たちが、次はどう動くのか、動かんとして、動かざる、その一瞬間を切りとってきたかのような部分に余韻があり、美があり、滑稽さも見え隠れもしている。
 戯画、されど良き絵画である。

 絵画は厳重な警備のもと、移送された。
 王都メフ・メフィートから、西へ西へ。バルツァーレク領を目指した。
 しかして、厳重な警備にもかかわらず、その道中の宿場町にて、魔物に襲われる。
 ただの魔物ではない。
 絵画――というよりは、寓話専門の捕食者だった。
「……なんということだ」
 使者は、力なく両膝を宿の床につけた。次に両手を床につく。
 その絵画は、おそろしい内容に変化していた。
 老婆は、人狼に喉笛を食いちぎられている。
 赤い頭巾の少女は、衣を捨てて暗い森へと逃げている。
 猟師の姿はどこにもない。
 それは、寓話が、まるで猟師のいないときに戻っているかのよう。
 外側から中心にむかって、白が侵蝕していく。
 内容を改変しながら、嗚呼! 絵画の寓話世界がきえていく!


●メルヒェン喰い ー Do you draw white?ー
「色彩を塗りつぶす色は、なにも、ブラックカラーだけとは限らない――のかしらね」
 『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)が差し出した依頼書は、バルツァーレク領の印章が備わっていた。
 場所は、ギルドローレットに一つの卓である。夜は更けているが、緊急とのことだった。
「通称『メルヒェン喰い』『ホワイトドロウの妖精』。寓話を食べる魔物を退治するのが、依頼の目的ね。寒い夜、暖炉の前で、お婆さんがお孫さんに物語を読み聞かせるような季節になると現れるのよ」
 依頼書を見るに、被害を受けているのは、活字の本ではなく、一幅の絵画であるという。
 特異運命座標《イレギュラーズ》の一人が、『寓話を食べる魔物』という部分について説明を求めた。
「彼女達はスピチュアルな性質の生き物よ。寓話に侵入して寓話を食べる。危機がせまると、食べた分の寓話の登場人物になりきって身を守ろうとする。退治すると、本は元通りになるわ」
 寓話に侵入する――プルーの話からして、退治が容易ではないことは明らかだ。
 続いて、この魔物が現れたときの一般的な対処について問うと。
「一般的な対処はスカーレットカラーの焚書よ。顕現したところをやっつける――けれど、それができない事情らしいわ」
 領主印が、ランプの明かりに煌めく。
 かくて、『アトリエに鎮座している彼《バルツァーレク領の領主》』の印章が、スカーレットカラーにできない理由を、雄弁に語っていた。
 少しでも、手段につながる手がかりが欲しいため、生体を問うと、もう少しばかり出てきた。
「知偏食家ばかりなのよ。絵画を好む個体は、同時に、特定の色も好む傾向があるかしら?」

GMコメント

 Celloskiiです。
 特定の非戦スキル、クラスで補正が加わるかもしれません。
 以下、詳細。

●目的
  成功条件:『メルヒェン喰い』を顕現させて撃破する
  失敗条件:1,000,000,000Gの絵画に瑕疵がはいること

●状況
 現場からリプレイ開始予定です。
 情報精度:予想外の事態は発生しません。
 地形:宿場町。戦う場所によって地形が変わります
 時間:夜。ガブリエルの手下が動いて人払い済み

 1,000,000,000Gの絵画について:
 サイズは1m×1m(常識的な範囲で移動は可能です)
 絵画の内容はOPの通り。
 到着時には全体の1/2がホワイトアウトしています
 使者等、それなりに雑用をやってくれそうな人がいます

●エネミー
メルヒェン喰い『レッドフード』形態
 物語の登場人物の語尾口調を真似て、録音機をランダム再生がごとく言葉を発する場合がありますが、ただの鳴き声です。知性はほぼ無いため、会話は成り立ちません。

A:
 ・石と裁縫による処置   物至単 【足止め】【出血】
 ・口が大きい理由     物近単 【出血】
 ・GLOWG(ガンスリンガー・リトル・オールド・ウルフ・ガール)  物貫4 【出血】

P:
 ・寓話侵蝕
  メルヒェン喰いを顕現させるまでの時間が遅延するほど、能力が強化されます。

 ・ペローの猫
  毎ターン猫科の生き物が唐突に現れて、BS回復10をかけます。
  BSを2つ以上つけると諦めて出てこなくなります。

※ 物語を食べている最中なので、特定の色の紙をちらつかせるだけでも顕現させるのに効果があるかもしれません。

  • メルヒェン喰い完了
  • GM名Celloskii
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年01月29日 21時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

春津見・小梢(p3p000084)
グローバルカレーメイド
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
シュクル・シュガー(p3p000627)
活菓子
スリー・トライザード(p3p000987)
LV10:ピシャーチャ
フレイ・カミイ(p3p001369)
レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
希うアザラシ
九重 竜胆(p3p002735)
青花の寄辺
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師

リプレイ

●寓話の絵画 -Sprit of white Draw-
 自らの眉を見ようとすれば、夜の天幕にきらきらした星が映じられる。
 石畳を見れば、霜がおり、月明りを受け、きらきらと白色に光っている。
 詩になるような、歌にもなるような。寓話のような、夢のような。
 天地に広がる星夜であった。

「ご安心を……絵画を焼こうなどとは考えておりません」
 『LV1:ワイト』スリー・トライザード(p3p000987)は、バルツァーレク公の使者に作法を伴った所作で言った。
 遮蔽物や明るさを考慮して選んだ戦いの場は、大通り。
 絵画を持ってきた使者たちに、粛々とこれからの流れを伝える。
 『活菓子』シュクル・シュガー(p3p000627)は、あごに手をあてながら、小首をかしげる。
 スリーが使者に相談をしている間、各人は準備をすすめている。
 「寓話ねぇ」
 シュクルは、『生きている砂糖菓子』である。
 知識者が観察すれば、飴細工の髪、黄金糖の瞳に気がつくことだろう。
「『ヘンゼルとグレーテル』は読んだことあるけど、子供にもお菓子の家にも感情移入して複雑な気持ちになる……ってトコかな」
 寓話のような少年が首を正して、「真っ赤なイチゴやキャンディをふんだんに飾ったお菓子の家を描いた絵」を準備する。ふんだんに『赤』を用いている。
 特異運命座標たちが用意した色は、『赤』だった。
 各人、絵画や色紙などを持ち寄ってきていた。
 『自称、あくまで本の虫』赤羽・大地(p3p004151)も、そのとおり。
 ぼんやりとした調子で、冷えた石畳に色紙を並べる。
「メルヒェン喰イ。寓話を喰らう魔物、カ。とんだ食いしん坊も居たモンだナ」
「いずれにしたって、誰かの物語を奪うなら、放ってはおけない」
 大地は、スイッチを切り替えるように『会話』をしていた。
 平時は「別に、静かに、本さえ読めればそれでいい」と考えている。本がたまらなく好きな『側』にとっては、嫌気が差す敵であった。
 『自称聖獣のアザラシと犬獣人』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)は変わりゆく絵画の前に立っていた。
 レーゲンは芸術家である。
 かの妖精が好みそうな色を参考にするため、絵画を観察たが、そのままグッと物語に引き込まれた。
「っああ、いけないッキュ! 準備するッキュ! マッチ売りの少女をモチーフにした絵を描いて来たっキュ」
 と、我にかえる。
『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735)がつーっと来て、心奪われかけていたレーゲンの横に並ぶ。
「世界を移り変わってから、またあの寓話の話を聞くなんてね。もう聞く事も無いと思っていたから、何だか少し不思議な気分よ」
 竜胆は、絵画に指を伸ばし、触れようとし、触れざる間で止める。
 森に逃げようとしている裸の少女。
 肉を覆えば、綺麗なものが隠れる。かくさねば、色を売ろうとするような画工の卑しさがにじみ出る。
 長め頭巾が肩から垂れ下がって、身体の輪郭は少し浮き上がり、隠しているには隠しているが――恐ろしい絵画ながら美しさを感じるものだった。
 美しいものを、ただ美しいと観て。慈しむようなそんな心持ちになる。
「でも、ええ。物語は美しくなくては……ね。だから私達の手で、この物語を取り戻してみせましょう?」
 と、竜胆は絵画から指を引いた。
「がんばるッキュ!」
 レーゲンも応じて、色紙をこしらえ出した。
 『カレーメイド』春津見・小梢(p3p000084)はカレーを食べていた。
「寓話を食べちゃうアレなんだ。どうせならカレーを食べればいいのに」
 ニンジンがギリギリ赤。もちろん赤の色紙も用意している。
「しかしなー、絵なんて味すんのかね? 薄っぺらで腹も膨れなさそーだな――お、うまそうじゃねえか」
 フレイ・カミイ(p3p001369)は、小梢のカレーみてカラカラと笑った。
 街中を探し遮蔽物になりそうなものを探して、戻ってきたところだった。
 店の立て看板や丸太など、無いよりマシだろうと押収した次第である。
「戻ったのじゃ」
 続いて、『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)も来た。
 礼儀作法などを用いて、住所不定の画工の老人を連れてくることに成功した。
 この天地の星夜を描こうとしていたらしい。
「何を描けばよいのかの?」
 髭をむしゃむしゃと生やした、ボロの老人が問う。
「先日のシャイネンナハトの、サンタクロースの寓話の絵などどうじゃろう?」
 老人は、ふと変わりゆく絵画を見て。
「よかろ。この夜に赤は映える」
 予め持参した絵画――お菓子の寓話、マッチ売り、色紙等が、問題の絵画の周辺に並ぶ。
 小梢は、カレーが冷めたので焚火をおこして煮はじめた。
「……本当に、これでうまくいくのか?」
 と、大地は、自らが並べた色紙を見ながら疑問をいだく。
 フレイは腕を組みながら、絵画を運ぶ役割のスリーに、ふと思いついた提案をしてみる。
「てか絵画は投げて渡しゃよくね? 駄目か? 優しくぶん投げればいけるんじゃね??」
 対して、スリーは無言を返してきた。
「そうか、ダメか。まあいい」
 フレイが悪びれもせず返答して、視線を絵画にもどしたところで。
 変化が現れた。
 問題の絵画から、光が飛びだした。
「!?」
 おどろく特異運命座標たち。
 反応したのはスリーだった。
「出たようです」
 スリーがバルツァーレクの使者たちに呼びかけると、彼等はすぐに動き出す。
 絵画から出た以上、運び役は不要となった。
 光は、レーゲンが用意したマッチ売りの絵画に飛び込もうとする。
 スリーは、光めがけて、塵の集合体がごとき暗い術式を放つ。
 光は、しかし、輪を描いてかわし、マッチ売りの絵画に飛び込んだ。
 速い。
 たちまち、レーゲン作のマッチ売りの絵画に変化が始まる。
「――焼くのだ。だれの作であれ、痛ましきことだが」
 そこへ、デイジーが連れてきた画工老人が言った。


●石畳に立つ赤い頭巾の狼少女 -G.l.o.w.g-
 ラサから西風で運ばれてくる雲の流れは速い。
 月明かり、冴えるがままに、チラチラと雪が降りだした。
 この天地の星夜なる、中を金切り声が響く。
 小梢がカレーを煮ていた焚き火に、絵画がくべられた。悲鳴は絵画から出ていた。
 レーゲンの絵画の焼失と同時に悲鳴は止まって、いよいよ顕現した。
『嗚呼、なんて暖かいんだろう。……嗚呼、いい気持ち』
 これしきのことでは朽ちぬとみえた。
 赤頭巾の形、少女の輪郭、狼の耳、老婆の如き衣装。手にはハサミが握られている。
 散開して戦闘態勢をとる。
『おばあちゃまに会いたいわ。マッチはどうしてそんなに大きいの。それはお前を食べるためさ』
 鮫のような笑みを浮かべた赤頭巾の少女が突如としてつっこんできた。
「っ!」
 前衛のフレイ、フレイの眼前。狼のごとき大口がせまる。避けられない。
 肩に食いつかれる。食いつかれながらも、一歩前へ出る。
「散々焦らされたんだ、楽しませてくれんだろ!?」
 身体をひねり、赤頭巾を払い、そのまま大剣を横薙ぎに。少女の胴を真っ二つにする。
『ケラケラケラケラ』
 真っ二つにしたと思えば、液体のようにくっつく。
 追撃とばかりに、投擲されたハサミが、フレイの足を石畳に縫いつけた。
 再生か? 否。
 見れば、鮫のような笑みが少し強ばっている。効いている。
「すぐに治すッキュ!」
 後退したレーゲンが破邪の光をはなつ。
 霜に反射した輝きが、たちどころにフレイを苛む出血や縫いつけを消し去った。
「ありがとよ」
「キュッ!」
 続いてシュクル。
「俺とも遊んでくれよ。生きた砂糖人形なんて、こっちの世界の常識から見れば最高にメルヒェンじみた存在だろ?」
 赤頭巾の背後から、ナイフを構え身体ごとぶつかった。
 腕に常に付けている赤スカーフを、とくに目立つように大きく結んでいる。
『それはお前を食べるためさ』
「おっと!」
 シュクルに対して赤頭巾が細腕を伸ばしてくる。絡みつかれる前に後方斜めへ跳躍する。
 シュクルが居た空間に、入れ替わるように、大地が放った魔弾を帯びる矢。
 矢が、赤頭巾の頭部を貫いた。
『Giiii! ギイイイイイ!!』
「絵はどうなってる? ちゃんと巻き込まないところにまで、持っていけたか?」
 大地からは、絵画を持って逃げるバルツァーレクの使者がみえた。
 距離はある程度は稼げていた。
 先ほど、メルヒェン喰いが、別の絵画に食いついたときに運搬を開始したためだ。
 特異運命座標の作戦は、使者たちが絵画を運び出すまで、注目をひくことが最初にして最大の目的であった。その上で、味方となるべる直線上に並ばないようにする布陣をとる。
 各人が用意した色紙などの色彩で、敵の注意を引き、被害を分散させて立ち回る。
 レーベンが癒やしの術式を心得ているため、簡単な傷や、ハサミの縫い付け、出血を対処できていた。
 やがて、絵画は戦闘領域である40m範囲を離れた。
 離れたと竜胆が判断し、本格的な攻撃に転じる。
「一刀三拝。死線の果てに無限に至る――私は九重 竜胆。いざ!」
 刀を構えて駆ける。
 この名乗りには意味があった。
 『ペローの猫』という敵を癒やす存在に対するものだった。
「それで2つです」
 と、後ろからスリーがいう。
「うむ」
 2つつけると猫は諦める。赤頭巾を癒やしていく存在は、スリーの大鎌を用いた戦闘術と、竜胆の名乗りの術によって退場す。
『ずいぶん探したぞ。お前、お前、お前をな!』
 怒りに駆られた赤頭巾。
 煌めくハサミ、鮫のごとき咀嚼でもって竜胆に迫る。
 一刀で足りなくば二刀を用いて、切り結ぶ。
 デイジーは、竜胆に注意が行った事を確認して、スタッフを構える。
「名も知れぬその作者が絵画に込めた想いは、お主には少々過ぎた供物じゃの」
 どこぞの蒐集家のことどうでも良いのじゃが。と胸裏に唱えて。放つ魔弾。
 大地も、集中を重ねた魔弾の術式を紡ぎ出す。弓の弦を引き絞り、矢をつがえ。
「……分かっちゃいるが、地道に攻撃するしか無いのは歯痒いな」
「マ、ウジウジ言ってる場合でもないナ」
 放つ、二つの魔弾。
 対して、赤頭巾は再び鮫のような笑みを浮かべ、四足獣のごとき四つん這いの姿勢からの跳躍で、竜胆から距離をとる。
『あっ、今、誰かが死んだんだわ。死んだおばあさんの言葉を覚えていました』
 詠唱のようなリズムを伴った支離滅裂な言葉の次に、何も無い星夜から、二挺の猟銃が現れた。
「おおット、やばソウな感じだ!」
「――!?」
 猟銃二挺が、デイジーと大地に向けられる。
 引かれるトリガーと同時に、衝撃波を伴った弾丸と形容できるものが、場を駆けぬけた。
 デイジーと大地の魔弾はあっさりはじき飛ばされた。


●取り戻す物語 -White draw out-
 乱射魔。
 ハッピートリガーという言葉が相応しい。
 見た目は古びた猟銃であるのに、リロードせずに連続で。衝撃波を伴う貫通弾が猛威を振るった。
 負けじと、特異運命座標が、反撃を繰り返す。
 スリーが用意した場の遮蔽物や、フレイが用意した遮蔽物も壊れ果て、ついには真っ向勝負の時が訪れる。
『庭にある石をたくさん持って来ておくれ。この悪いオオカミを、こらしめてやらないといけないのじゃ』
 迫り来る弾丸はシュクルへ。
「絵さえ守れればひとまず俺のミッションは成功――」
 これを受けたら戦闘不能、という状況。
 やがて来る痛みに覚悟を決めた――刹那、そこへ小梢が間に割って入ってきた。
「……あー回復手段がない、他人任せだ」
 と短くいって、小梢は倒る。
 拾った一回分ほどの体力。シュクルは倒すとまなじりを決してナイフを握りなおす。
「っキュ……!」
 レーゲンはまるで回復が間に合わないと悟った。
 悟って別の術式を織る。
 かくて、『守ったら負ける』の認識は全員が、乱射撃によって共通認識となる。
「皆の者! もう一息じゃ!」
 デイジーの鼓舞が奔る。
 分を裂いて、秒を縮め、刹那の短き時を、かく短く駆けぬけるような最後の攻防。
 特異運命座標の集中攻撃によって、決着は間もなく訪れた。
 レーゲン。短杖から放つ超遠の魔術弾。
 吸い込まれるように、赤頭巾の猟銃のバレルを暴発させた。暴発した銃は煙のように消える。
『Giii――ああ、怖かったわ』
 もう一挺の猟銃から衝撃波つきの貫通弾が発射される。
 竜胆はそれをかいくぐって、踏み込む。
「少しは私の相手もちゃんとしなさいよ―っと!」
 赤頭巾から鮫のような笑みが消える。猟銃が残っている腕を切断。切断部位は、また液体のように元に戻ろうとする。
 竜胆は軸足をずらして移動。移動と同時に敵の腹部を皮一枚のこして斬り抜ける。抜けて伏せる。
「攻撃は最大の防御つってなあ。俺としちゃ楽しいのが続くなら長引かせてえとこだが、そうもいかねえんでよ!!!!」
 血だらけのフレイ。前後を忘却したような無造作な一撃。
 剣の側面を横薙ぎにぶつける。これが竜胆のすぐ上を通り抜けていった。
 赤頭巾の上半身をちぎれ飛ぶ。残った側は、竜胆が竜巻の如く二刀を振って細切れにす。
『Giiii! ギIiiiイイイ!』
 赤頭巾は上半身だけになりながらも、手の復元して猟銃から弾丸を放つ。
 台詞選びの余裕は失われたとみられる。
「塵滅ぶ刻です」
 スリーの高められた視力は、疲労した状況で極点に達する。
 チラチラ降り出した雪の一粒を切断する刹那まではっきりと認識できるまでに。
 キン――と三日月のような軌跡が弾丸を切断した。
 敵の最後の抵抗は断たれた。
 追撃するシュクル。
 小梢によって残りの体力わずかながらも、拾ったナイフの一刺しが、人類でいうところの心臓部を刺す。
 浅い、と思った所で、後ろから「シュクル」と呼びかける声あり。
 緒戦と同様。ヒットアンドアウェイの跳躍をすると。
「クールにトドメってヤつだ」
 大地が放った矢が、シュクルが残したナイフの柄頭に命中する。
 矢がナイフを押し込むと――それが決定的な所を貫いた。
『Giiiiiiiiiiiii! Giiiii! Giiiiiiiiiiiiiiiiiiyyyyyyyyy!』
 赤頭巾の輪郭は崩れ、輪郭がとぼけた10cmほどの半虫半人生物が現れた。
 胴のど真ん中をナイフに貫かれて、もがき苦しんでいる。
「ホワイトドロウの妖精よ。返して貰うぞ、その寓話世界を」
 デイジーが掌を前に出して、握る。
 半虫半人生物にかかっていたものは、たちまち呪い爆ぜた。
 あとはただただ、光の粒となって消えていく。
 それは、雪の降る中に紛れて消えていく、白い輝きの粒子だった。


●ここにある物語 -The Beginning of a new story-
 バルツァーレクの使者達が待機する宿へ戻る。
 苦戦であることを察した使者たちは、絵画の退避後、西の方から回復魔術の使い手を呼びだしていた。
 手当をうけて、暖炉の前で一息つく特異運命座標たち。

 使者はお礼の言葉を述べに来たついでに、宿の費用をこちらで持つから、このまま使って良いと言った。
 絵画の護衛まで押し付けられた格好だが、暖炉つきの、食事も24時間応対してくれる高級宿であるから、アフターサービスに役得が加わったと考えればポジティブな気分になれる。
「いやあ強かった。スリルがあるのは良いなわ最高だ! 美味いなこれ」
 フレイは血が足りないからと、宿の者に食い物を持ってこさせた。料理を容赦無く平らげる。
「キュッキュ。レーさんはお菓子がとっても好きだッキュ」
 お腹いっぱい食べても十分な甘味。暖かいところで食べる氷菓子、クッキー、エトセトラ。
「一件落着!」
 デイジーは胸を張った。連れてきた画工老人にお礼を言おうと思ったが、いつのまにやら姿を消していた。
 天地の星夜を絵画にしようというのだから、出来る男だと怪しまれた。絵画といえば、と問題の絵画を見る。
 絵画はすっかり元に戻っていた。愛嬌ある画風に戻っている。
 絵の前には竜胆とシュクルがいた。
 特になにも言わない竜胆に、シュクルが何かいうか言わざるか窮していると、竜胆のほうから返事が来た。
「何だか少しだけ、懐かしくて……ね?」
 それだけ言って、竜胆は退室した。絵画の見張りの交代時間まで、別室で休む事にした。
「『赤ずきん』の話は知らないけど、なんか迫力のあるすげー絵だな」
 絵のほうに視線を戻したシュクルが感想を言う。
「あとで絵本でも買って読んでみようかな?」
 と思った所で、腹から呑気に顔を出している老婆と少女に、ややトラウマを刺激されてちょっと嫌かもしれないと思い直す。
 小梢はカレーを食べれば元気百杯。ごろーんとだらだらーんとする。
 この手の話は、召喚される前の世界において山ほどあったし、慣れているといえば慣れている心持ちだった。
 大地もくたびれた。
 暖炉の前で、赤色の髪を垂らしながら本を読む。
 気圧の変化で違和感を覚えたか、首の傷をさすっている。
 やがて時は過ぎていく。
 スリーが窓の外を見ると、月明かりはとっくに雲に隠れ、雪が白い線となって斜めに降る様子がみえた。
 明日はいよいよ寒くなる。と感じた。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 Celloskiiです。
 成功です。
 フレーバーになりますが、どの絵画に入るかは、スキル補正を加えて上でダイスで決定しました。
 お菓子の身体の赤頭巾もあったかもしれません。

 お疲れ様でした。

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