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シナリオ詳細

劇作家フランフォン・カルヴァーニの最終公演

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●最終公演、或いは殺人喜劇

――オペレッタや、オペレッタ。君は今どこにいるんだい? 君が望むなら雪の妖精にも雪の女王にもしてあげよう。だから戻っておいで。僕の愛しいオペレッタ!

               ――劇作家フランフォン・カルヴァーニ

 本日、『鉄帝』北国の辺境にあるルーラルタウンの聖レオ孤児院で公演会がある。
 地元の青年劇団「パイプ」による子供向け探偵劇が体育館で開催されている。

「なるほど、このダイイング・メッセージを解くと犯人に辿り着けるのか?」
「本当ですか、パイプ先生? ステージ前の良い子の皆、応援お願いね!」
 主演の探偵役の俳優が、パイプをふかして謎の暗号文を推理するシーンである。
 助手役の女優は、聴衆である子供達の顔色を窺いながらも劇を進行させていた。

 ところが、暗号文が単純過ぎたのであろうか、子供達は皆で正解を叫び出す。
 ステージでは、探偵役と助手役が困惑して劇の進行が中断されてしまう。
 激怒して暴れる脚本家を鎮める為に職員達も謝罪に現れては子供達を宥めた。

(なんで、こうなるんだよ? 俺達は、探偵劇がしたいだけなんだ!)

 脚本家は職員を怒鳴りつけながらも心中では孤独に泣いていた。
 劇団は青年期の鬱屈を晴らすが為に殺人の代償行為として探偵劇を披露している。
 彼らが三文劇団いう事は、本人達が苦しい程に理解しているからこそ無様だ。

「全く以って、なってないね……。 ふん、何が演劇だ!? 何が推理だ!? この未熟者共め!!」

 突然、浮浪者の様に薄汚い年配男が出現して劇を大声で罵った。
 一方で、劇団長である脚本担当は堪忍袋の緒が切れて謎の男に突っ掛かる。

「おい、浮浪者のおっさんよ? 俺達の劇が、なっていない、未熟だと!?」
 謎の男を鋭く睨み付ける団長は今にでも殴り合いを始めそうだ。
 しかし、喧嘩へ発展するまでもなく団長が文字通りに凍結して瞬殺された。
 平和な劇場であった体育館からは阿鼻叫喚の悲鳴が響き渡った。

「おいおい? 君達は探偵劇をしているのだろう? 劇にはリアリティがないとね? だからこそ、偉大なる劇作家、フランフォン・カルヴァーニ先生が、殺人を直々に教授してあげたんだよ」

 神出鬼没に乱入した魔種フランフォンの殺人を前にして皆、動転して逃げ回る。
 職員達は子供だけでも逃そうと奮闘するが、魔種の配下である魔物達が邪魔をする。

――探偵劇で殺人衝動を発散させている劇団よ? 君達の望みは殺人だろう? だったら、僕の配下になるがいい! 好きなだけ殺人をさせてあげよう!

 魔種の狂気に伝播された劇団員達が続々とフランフォンの軍門へと下る。
 フランフォンは制圧した人質、創造した魔物、配下にした狂人を眺めて冷笑した。

――役者も舞台も揃った。あとはローレットを誘き出してオペレッタを攫うまでだ。さて、天才脚本家がとっておきの殺人喜劇を公演してあげよう。

●フランフォン調査団
「皆さん、恐れていた緊急事態となりました。この町にある聖レオ孤児院がフランフォン・カルヴァーニによって先程制圧されました。現在、彼は人質を取って立てこもっています。
 犯行声明では『娘であるオペレッタを渡せば交換として人質を解放する。交換後、逃亡を見逃す事』と述べています。無論、私達の作戦はフランフォンの討伐と人質の解放となります」
『鉄騎学者』ロゼッタ・ライヘンバッハ(p3n000165)が鬼気迫る表情で事件内容を特異運命座標の調査団に伝える。

 先日、フランフォンを渓谷で撃破した後、『ふゆのこころ』エル・エ・ルーエ(p3p008216)がローレットに再調査を依頼した。
 再調査では、フランフォンが落ちた深淵に何かを引きずった痕跡が発見出来た。つまり、彼は、死亡した様に錯覚されたが生きていたのである。

「皆さん、エルのお父さんがご迷惑をお掛けして本当に申し訳ありません。お父さんは立てこもり事件を起こすのがもはや精一杯なのでしょう。お父さんを討伐してあげるのがせめてもの慈悲だとエルは思いますので、ご協力お願いします」
 フランフォンに関する調査団には依頼人のエル本人も参加していた。
 彼女の父の性格や行動範囲を推理した結果、今、調査団でこの町に来ているのだ。

「さて、フランフォンと人質がいる体育館は孤児院の中心部にありますが、建物は出入口の他に裏口もあります。おそらくどこにも配下はいるでしょうが、突入する際に何か良い作戦があれば立案をお願いします。
 なお、今回は非常時ですので私も戦闘に参加します。どうぞよろしくお願いいたします」
 戦場の情報は依然として錯綜している上に相手は強敵の魔種、魔物、狂人である。
 本件立てこもり事件の解決は特異運命座標の皆さんに委ねられている。

GMコメント

●注意事項
 当依頼はエル・エ・ルーエ(p3p008216)さんの『関係者依頼』です。
 前回『関係者依頼』の「アフターアクション」(エルさんから)でもあります。
 関係者以外の方、前回参加された方、前回不参加の方、いずれも大歓迎です。
 なお、優先枠ですが、他2名を前回から抽選でご招待しています。

●前日譚
 以下、前日譚として前回のシナリオと過去のSSを提示します。
 参考になるかもしれませんが、今回参加の際に必読ではありません。
 前回シナリオ「雪の妖精の裁きと訣別する為に」
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4058
 過去SS「カルヴァーニ家の昔話」
 https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/853

●目標
 以下の2つの条件を全て達成する。
 1.フランフォン・カルヴァーニの討伐または撃退。
 2.孤児院で囚われている人質の解放。
(フランフォン側に付いた劇団パイプの生死は問わない)

●ロケーション
 皆さんは調査団として『鉄帝』北国の辺境にあるルーラルタウンに来ています。
 この町の大きな孤児院「聖レオ孤児院」が今回の戦闘の舞台です。
 メインとなる戦場は、敵が占拠する「体育館」「裏庭」「孤児院出入口」です。
「体育館」と「裏庭」は広いので多人数で戦闘する事も出来ます。

●シチュエーション
 フランフォンによって「聖レオ孤児院」が占拠されています。
「孤児院出入口」を抜けるとすぐに「体育館」に出ます。
 ですが、狂人と化した劇団員達が「孤児院出入口」を護っています。
「体育館」ではフランフォンと魔物配下達が占拠して人質を捕えています。
 人質は、子供20人程度と職員10人程度です。
 なお、「体育館」の裏を出ると「裏庭」に繋がっています。
 雪が積もる「裏庭」には魔物配下達が待ち構えています。

●敵
 フランフォン・カルヴァーニ×1体(ボス)
『色欲』の魔種です。昔は有名な劇作家でしたが、現在は落ちぶれた殺人犯です。
 エル・エ・ルーエ(p3p008216)さんの実父です。
 彼はエルさんの事を実名の「オペレッタ」と呼んでいます。
 戦闘スタイルは、前衛から中衛の神秘アタッカーです。
 戦闘方法は以下。
・魔氷の脚本(A):氷の魔力の脚本で殴る攻撃をします。神近単ダメージ。BS凍結。
・雪の女王の亡霊(A):エリーゼ(妻)の亡霊を脚本から創造して神秘攻撃をします。
          神自域ダメージ。BS氷結。BS魅了。BS魔凶。識別。
・雪の妖精の裁き(A):雪の妖精を脚本から創造して神秘攻撃をします。
          神中域ダメージ。BS氷漬。BSショック。BS崩れ。識別。
・EX 殺人喜劇(A):殺人劇の脚本を召喚して神秘攻撃をします。1回だけ。
          複数のPCをランダムで戦闘不能にします。神特レ。必殺。
・雪国の加護(P):雪国の環境でHP、AP、BSが弱く自然回復します。
・オペレッタへの偏愛(P):エルさんが攻撃の標的になり易いです。
・若き日の栄光(P):劇作家全盛期を思い出して稀にクリティカル状態になります。

 フランフォンの魔物配下達×??体
 劇作家の脚本から召喚された配下達です。
 今回は自動的に創造されませんので数が限られています。
 魔物達は、フランフォンが討伐されると同時に消滅してしまいます。
 魔物には、妖精、魔犬、雪達磨等がいますが、魔種程強くはありません。
 いずれも、タイプ的にもスキル的にもフランフォンの下位互換です。
(魔物達にはEXスキルがありません)

 劇団パイプの狂人達×15人程度
 フランフォンの狂気に感化されて狂人となりました。
 人数はそれなりにいますが強くはありません。
 軽く武装していますが、至近から中距離の通常攻撃のみを行います。

●味方NPC
 今回は情報屋のロゼッタ・ライヘンバッハ(p3n000165)も戦闘に参加します。
 彼女は『鉄帝』仕込みの白兵戦が多少出来る上に情報操作の戦術等も使います。
 主役はPCの皆さんですので、彼女は戦闘では補助程度での参加です。
 ロゼッタに何かして欲しい場合は「プレイング」で指示をお願いします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●GMより
 前回は撃退までとなり、今回に改めて決着が持ち越されました。
 今回は所謂、人質がいる立てこもり事件を解決するお話でもあります。
 事件を鮮やかに鎮圧する怜悧な戦略に期待しています。

  • 劇作家フランフォン・カルヴァーニの最終公演Lv:20以上完了
  • GM名ヤガ・ガラス
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年11月30日 22時20分
  • 参加人数10/10人
  • 相談10日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
キミと、手を繋ぐ
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
エル・エ・ルーエ(p3p008216)
小さな願い
晋 飛(p3p008588)
倫理コード違反
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守

リプレイ

●突入準備

――エルは、オペレッタがお父さんを大好きだった事、忘れません。「オペレッタのお父さん」、ありがとうございました。

           ――『ふゆのこころ』エル・エ・ルーエ(p3p008216)

 孤児院で危機一髪の立てこもり事件が勃発した為、町中が戦々恐々としている。
 自警団のギルドを対策本部として特異運命座標の各自は突入準備に取り組んでいた。

「うん、エルの大事なお手紙は、こんな感じの文章で伝わるでしょうか?」
 自警団の施設で机と筆記用具を借りたエルが「手紙」を一通したためた。
 犯人側であるフランフォンの第一要求は「オペレッタを渡す」事である。
 それが真意ならば、「手紙」を渡して呼出した上で対話の機会を設ける策も取り得る。

「ジェイクさん、お父さんにお手紙を渡す役、どうぞよろしくお願いします」
『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)が白い封筒入りの手紙を渋い表情で受け取る。
「大丈夫なのかエル? 父親とは言え相手は魔種なんだぞ」
「はい。またご迷惑をお掛けすると思いますが、ジェイクさんが一緒にいればエルも安心です」
 そうは言われたもののジェイクは半ば保護者的な気持ちで憂慮していた。
(エルが魔種と話をしたいそうだが、俺は心配で仕様がねえ。エルには悪いが今度こそ奴の息の根を止めて、この糞ったれな舞台の幕引きをしてやる)

 エルが手紙を書き始めた頃、『マジ卍やばい』晋 飛(p3p008588)が笑顔で励ました。
「エル、お前は親父さんを『止めたい』つってたな。それがどんだけ……いや悪ぃ。俺がなんとかしてやるから任せときな!」
 エルは礼儀良く一礼すると今回の依頼でも彼の助太刀に感謝する。
「はい、晋さん。今回はぜひエルと一緒にお父さんを止めましょう」
 そして飛は団長室へ急ぐと、自警団の面子を何名か借りられるかどうか交渉に入る。
「なぁ、頼む団長! この通りだ! 決して、ここの自警団の奴らには、危ねぇ事はさせねぇと誓うからよ!」
 珍しくも飛がお辞儀をして必死に頼み込む事には列記とした理由がある。
 今回の作戦で人手不足な事は明白だが、ある事をする為に人数が必要なのだ。
 結果、交渉に成功した飛は、胸を撫で下ろすと決意を改めて対策本部へと戻る。
(この事件で死者は出さねぇ……。自分のせいで犠牲者が出たらずっとエルの心の傷になっちまうからな)

 対策本部では『鉄騎学者』ロゼッタ・ライヘンバッハ(p3n000165)が軍服を抱えて待機していた。
 どうやら、彼女の方も飛が調達をお願いした物を入手出来た様だ。
「おう、ロゼッタ、悪ぃな。例のブツ、ありがとよ!」
「はい、どうぞ。服屋から例の作戦人数分、借りられました『鉄帝軍』の軍服です」
 ロゼッタが準備したのは、飛、ジェイク、ロゼッタの三人分の軍服である。

 そんなロゼッタに対して、今度は連絡係の件で『白虎護』マリア・レイシス(p3p006685)から相談がある。
「ロゼッタ君、このリスをポケットに忍ばせてくれるかな? これは、私の遣い魔だ。作戦決行時だけれど、各班の状況を鑑みて、突入タイミングを知らせて欲しい」
「了解しました。突入時の見計らいはお任せ下さい」
 軍服のロゼッタはジャケットのポケットにマリアのリスを忍ばせた。
 時に今回の様に過酷な作戦の決行前、軍属気質のマリアは激励せずにはいられない。
「皆、大変な状況だが気を引き締めて人質を全員助けよう! 特にエル君は気をしっかり持ってね!」

 今回の戦場ではA(呼出)、B(陽動)、C(解放)と三つの班に分かれて作戦を遂行する。
 今、B班のマリアがA班のロゼッタにファミリアーを渡したが、C班とも連絡係は要る。
「C班の連絡係……ハロルドだな? このヤモリの遣い魔を渡しておく。作戦上、情勢把握が必要であります」
『号令者』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)が遣い魔を渡す。
「おう、受け取っておくな、ありがとう。こちらこそよろしく頼む」
『聖断刃』ハロルド(p3p004465)はヤモリを手渡されてジャケットのポケットに入れた。
 またハロルドの方からもハイデマリーに作戦上の理由から「式神」を手渡した。
 一方、B班とC班の連絡の他に、改めてA班とC班の連絡も繋ぐ必要がある。
「それとライヘンバッハ? 俺の遣い魔である鼠を預かって欲しい。ポケットにでも隠し持ってくれ。情報と戦況の把握を頼むな」
 時に今回の魔種事件ではハイデマリーとハロルドにもそれぞれの決意がある。
(ワタシは軍人として『鉄帝』の民を護りたいであります……)
(世界に害を為す魔種は皆殺しだ。まぁ、最終的に魔種が死ぬなら過程には拘らんさ)

 礼を述べ、ロゼッタは二匹目である遣い魔をジャケットの反対側のポケットに忍ばせた。
「はい。お任せ下さい。さて、連絡係はこれで以上でしょうか?」
『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)が静かに挙手する。
「うむ。各班の連絡はそれで良いだろう。だが、もしもの時もある。臨時で連絡を繋ぐ役目を担う人物もいる方が良いだろう。……つまり、私がなろう。私はハイテレパスが使えるからな。また、人数が多いB班内での連絡係も私が担当するが、良いだろうか?」
 作戦に穴があってはならないと提案するゲオルグに、問題ないと皆で同意した。
 彼は、いざという時はさり気なく提案する気概で作戦に参加しているのだ。

 要するに今回、連絡係は以下の様になる。
・A班(ロゼッタ)とB班(マリア)。
・A班(ロゼッタ)とC班(ハロルド)。
・B班(ハイデマリー)とC班(ハロルド)。
・臨時とB班内部(ゲオルグ)。

 対策本部の片隅で『青樹護』フリークライ(p3p008595)が己に変装を施していた。
 フリークライは秘宝種であり、その巨体の至る所に緑に溢れた植物が生息している。
 だが、今回は作戦の必要上、暗黒系で歪な魔の植物も「花咲く祠」に増殖させていた。
「人質ヲ見捨テテデモ 魔種討伐最優先&エル死守 スタンス 偽装 完了」
 要するに彼はB班の陽動班ではあるが、ある種の悪役を作戦では演じる事になる。
 それで肩書きが光る庭師の腕前を駆使して「悪そうな秘宝種」に変装しているのだ。
 だが、その本心は善良であり、友達思いのフリークライの決意は固い。
「エル フリック召喚後 最初ノ 友達ノ一人 命 心 護ル」

 フリークライの変装の傍らで『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)がサッカーボールを布で磨きながら心を落ち着けていた。
「で、オレらはC班で人質解放最優先っスね……。前回は逃がしちまったけど、今度はそうはいかねぇっスよ。魔種だから倒すってのはあるっスけど……エルの父親、なぁ。いや、部外者が口を挟むような事じゃないな。やるべき事はきちっとやらんと」
 前回の魔種戦でもストライカーとして活躍した葵であるがそのスタンスに揺らぎはない。
 如何なる事情でも、助けるべきを助け、倒すべきを倒し、ローレットとして貢献する。

 今回の魔種討伐では各自に思惑があるだろうが、強敵との対決である事にも違いはない。
 純粋に激闘のみに期待している訳ではないが、『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は腕が鳴る想いで作戦会議を聴いていた。
「反抗期ってのは推し込めずにキッチリぶつけて行かなきゃケンゼンじゃないからね。ハデに驚かせて行こうよ!」
 そして出陣時、イグナートはエルの小さな肩をぽんぽんと叩いて彼なりの激励をした。
 彼はB班の陽動で派手に暴れるつもりだが、エルの純粋な気持ちも応援している。
「エルがお父さんに真っ向からキモチをぶつけられるようにしてあげたいと思うよ! 魔物のアイテはオレらがやって、他に気を取られないように話させてあげたいな」

 さて、件の孤児院へ突入する前に今一度、作戦を振り返ろう。
・A班(手紙で呼出):エル、飛、ジェイク、ロゼッタ。
・B班(陽動):マリア、ハイデマリー、ゲオルグ、フリークライ、イグナート。
・C班(人質解放):ハロルド、葵。

●呼出(A班)
 正面玄関は狂人だらけ、裏庭は魔物だらけ、正に孤児院は魔窟の要塞と化している。
 そんな魔境の中、一匹の小さな鼠が手紙を咥えて孤児院の体育館へ侵入する。

「ん? なんだい、この変な鼠は? 僕に……? 手紙だと!?」
 不自然な状況だが、フランフォンはこの鼠が「オペレッタ」の遣いであると確信した。
 もっとも、正確にはジェイクが遣い魔を操作して手紙を届けているのだが。

――お父さんへ。
  エル達は、人質解放の条件を受け入れます。
  エルは裏口で、お父さんとちゃんと、お話がしたいです。
  お話ができたら、エルはお父さんと、一緒に遠くへ逃げたいと思います。

「おい、鼠? オペレッタとの話に僕が応じると伝えろ。ほら、これが回答の通知だ。
 それと魔物共、今から僕は裏口へ向かう。僕が留守の間も体育館の護りを固めておく様に。
 それから、人質共は死にたくなければ……変な事はしてくれるなよ?」

***

 体育館裏庭にある裏口の排気孔から鼠を放って数分後……。
 鼠は魔物共の警邏をくぐり抜けて無事に体育館まで到着した様だ。
 五感の繋がるジェイクは、まず、人質の状況からざっと確認に入る。
(よしよし……。人質らは怖がっているが無事みたいだぜ! ……おい、ロゼッタ? 体育館にいる魔物が多い事は各班に連絡してくれ……。さて、後はこの手紙を……)

 ジェイクの鼠がフランフォンへ無事に手紙を届け終えると即行で回答が貰えた。
 咥える通知もくれたが、五感が繋がるジェイクは耳で聴き取って即座に仲間へ伝えた。
(A班の皆、今から裏庭の裏口へ移動するぜ……。いよいよ奴とご対面だ!)

 そしてA班が裏口へ移動しようとすると驚くべき事態となる。
 裏庭を防衛していた魔物の群れが突然と姿を消滅させたのだ。
「どうやらフランフォンの奴は、エルを歓迎しているみたいだぜ? 覚悟はいいか?」
 ジェイクがA班の仲間達に確認を取ると皆、無言で頷く。
 A班は無人の雪原が広がる裏庭に足を踏み入れて体育館裏口へ静かに向かう。

 交渉にはまずエルを中心として、彼女の脇を飛とロゼッタが固めた。
 ジェイクは作戦上の理由からやや離れた雑木林の中に隠れて待機している。
 対するフランフォンもものの数分と掛からずに裏口から姿を現した。

「うむ。この娘は正しくオペレッタだ。ところで、君達は? ローレットかい?」
 フランフォンが飛とロゼッタに質問すると、まずは飛が溌剌とした笑顔で回答する。
「我々は『鉄帝』軍の者だ。間もなくローレットの者がやってくる。奴らが貴方を討伐しに来る前に、速やかに人質を解放して欲しい」
『鉄帝軍』の軍服を凛々しく着こなす飛は軍属のカリスマ将校に成り切っている。
 自分が本物の軍隊だと証明する為、背後に控える帝国の兵器(偽装AG)を見せた。
「はい、これが軍の手帳です。実は、私達軍とローレットは協議が決裂しました。苦渋の決断ですが、私達はオペレッタさんをお渡ししてでも人質の解放を唱えます。しかし、ローレットは人質を見捨てる覚悟で仲間のオペレッタさんを死守するそうです」
 同じく軍人を装うロゼッタが軍の手帳(偽造)を見せながら事情を説明する。

「そうか……。軍とローレットが決裂した、と。ご親切にも教えてくれてありがとう。さて、オペレッタ? あんな鼠まで差し向けて何か重要な話があるのかい? 手短に頼むね?」
 早々と逃亡したい所だが、愛娘の大事な話も聴いてあげなければならない。
 そんなジレンマに陥るフランフォンにエルが真剣な眼差しで話し始める。
「お父さん。オペレッタは、お外に出てから、新しい事ばかりでした。楽しい、悲しい、嬉しい。そんな出来事が、沢山ありました。なので、夢見るだけの『オペレッタ』は、イレギュラーズの『エル』になれました……」
「オペレッタ」であったエルが「エル」としての今の気持ちを痛切に告白する。
 成長した愛娘がもはや「オペレッタ」ではない事実を実父に叩き付けているのだ。
「な、なんだって……!? そんな、バカな! 君は『エル』ではなく『オペレッタ』であるはずだ、いや、あるべきだ!」
 錯乱し始めるフランフォンを前に、エルがとどめの一言で引導を渡す。
「エルは、オペレッタがお父さんを大好きだった事、忘れません。『オペレッタのお父さん』、ありがとうございました」

 交渉なんて初めから決裂する前提でエル達は臨んでいた。
 この「交渉」は「説得」の為の物ではなく「陽動と解放」の為の「交渉」だ。

「ふ、ふはは……! オペレッタ、君の真意がいまいち分からないし、僕は認められない。だが、一点だけ、君は大きなミスをしている。君はね、今、僕の狂気の射程内に入ってしまったという事だよ!」

 フランフォンが禍々しい狂気を魔種の躯から解放してエルに襲い掛かる。
 そう、「エル」がもはや「オペレッタ」ではないなら「オペレッタ」に戻せば良いのだ。
 例えば、魔種にとって究極の手段である呼び声で語り掛けて「エル」を消す事で……。

 エルが狂気に呑まれそうになるその刹那……。
 同刻に配下の魔物達も召喚されて飛とロゼッタが強襲される……。
 絶体絶命の窮地かと思えたその時、冬の冷気を切り裂く乾いた銃声が響いた。

「な、バカな……!? 邪魔をされた、だと……。ち、伏兵か……!?」
 フランフォンが自らの胸元を押さえると、裁きの弾丸が貫いて魔種の血が零れ出た。
 雑木林の陰で、ジェイクが大型拳銃『狼牙』の銃口から上がる煙を口で吹いている。
(この作戦は魔種を倒す為のものだが、同時にエルが父親へ想いを告げるためのものでもある。甘っちょろいかもしれねえが、俺はエルに協力をしたいと思っている。だからこそ、俺はリスクヘッジもやるんだぜ)

「おらぁ、チャンスだ、行くぞ! エル、俺の後ろで戦え! ロゼッタ、連絡だ!」
 最前衛の位置に駆け上がる飛が愛用の銃火器を装填して乱射を仕掛けた。
 気を取り戻したエルは飛の背後へ逃げ隠れながらも前衛の彼を援護する。
 その反撃として、乱射を派手に被弾したフランフォンと魔物達は飛を抑え込んだ。

「突入の連絡です。B班のマリアさん達、現在、A班がフランフォンと裏庭で交戦中です。至急、裏庭に突入して、群がる魔物相手に陽動をお願いします。
 ……C班のハロルドさん達、現在、B班が裏庭に突入しました。陽動が激しくなると体育館内の魔物達も援護の為に外へ出ざるを得なくなります。陽動が完了する迄、現場待機でお願いします」
 ロゼッタが早口で突入の連絡を伝達すると、各班が本格的に動き出した。
 B班が皆で一斉に裏庭に駆け抜けて来て魔物相手に乱闘を開始する。
 C班は陽動の完了を待って正面玄関前で息を潜めて見張りの狂人の動向を窺っている。

●陽動(B班)
 ローレットからそれなりの規模の部隊が孤児院裏庭へ侵攻している様だ。
 先頭で稲光するマリアの隣には赤毛の司祭がメイスを担いで構えている。
 その両脇を固める様にイグナートとハロルド似の式神が武装して追随する。
 後衛には暗黒植物で威嚇するフリークライに狙撃準備万端なハイデマリー。
 さらにゲオルグが鋭利な眼光を放って戦場を俯瞰していた。
 最後尾では飛が自警団から送って貰ったがたいの良い男達が三人程付いて来た。

「来たなローレットめ。……そうか、敵の数は十人程度? ふはは、愚かな奴ら、どうやらそれが総戦力の様だね? いいさ、煩い『鉄帝』軍の尖兵共々、どちらも地獄へ葬ってやろう……」
 フランフォンは、戦場に乱入したローレットの「総戦力」を視認すると不気味に笑う。
 もっとも、その視認が誤認に基づく「総戦力」である事を知る由もなかった様だが。
 さらに補足すれば、「総戦力」の内、「赤毛の司祭」はマリアが造り出した「幻影」である。
 またハロルド似の「式神」はハロルドが送り込んだ増援である。
 しかしどちらも戦力を持たないので「偽装作戦」が終了すると瞬時に撤退した。
「人数偽装」した自警団の方も「約束通り」に戦場を逃げ回るだけである。

「さて、派手に暴れるか! 皆、人質の安全よりも討伐が重要だから、ここにいる魔物はまず皆殺しにするとしよう! (……なんてね、そのふりだ)」
 偽悪者を装ったマリアが両手で稲妻が弾ける紅雷・領域放電を轟かす。
 紅の雷が膨大な電気磁力を蓄電すると蒼き雷となってマリアから放電された。
 高速度の電磁戦術を駆使したマリアが蒼き閃光と共に弾けながら軌跡を描く。
「ふふ、どんなもんだ? 追いつけないだろう? 体が重いだろう?」
 稲光するマリアの雷吠絶華が連打で炸裂する度に敵勢の行動力が削り飛ばされる。
 猛攻を吠えていた前衛の魔犬共は早くも技が鈍る。

「ヒャッハー! ハデに暴れてチュウイを引き付けるか! 敵の数をガンガン減らすよ!」
 イグナートは、気の流れを内功の原理に則って操りながらも掌底を構える。
 マリアの連撃を受けて回避能力の落ちた敵前衛共を掌打からの練気爆発で落した。
「ソラ、モラッタ! フランフォンの配下も大シタコトないね?」
 その後も無影拳・旋指雷槍の勢いは止まる事を知らず前衛の陣形を悉く爆破した。
 マリアとイグナートのコンビプレイにより敵前衛は着実に数が削がれていく。

 とは雖も初手で前衛陣を崩された魔物達も中後衛が決死の距離攻撃で反撃に出る。
 一方、戦況を危ぶんだフランフォンが体育館から配下の増援を呼び出した。
 魔物の数に押されて前衛二人の体力が危うく削られる上に身体も凍結すると……。
「フリークライ!」
 フリークライが秘宝種の祠から神聖な天使の福音を奏でて前衛を癒す。
 また古の祠から湧き出る言霊の号令がマリアとイグナートの凍える身体を解凍した。
 さらにフリークライ自身、長期戦に備えて祠の植物から生命力の充填も怠らない。

 前衛が憂う事なく全力で戦闘出来るのはフリークライの他にもゲオルグのお陰である。
 敵勢が増える度に仕事が多くなる為、フリークライと手分けして治癒魔術を行使する。
(ふう、また増援か? だが、体育館の魔物は減る事だろう。あと、もう一息か?)
 ゲオルグが仲間の治療をひと段落して終えると、そこでまさかの事態を目撃する。
(な、まさか!? 一般人か、あれは? ……自警団は何をしている? それよりも……)
 裏庭の出入口付近で眼前の戦闘光景に戸惑う一般人達が慌て蓋めいていた。
 自警団の件はともかく、ゲオルグは彼らの安全を考慮して念話を送り込む。
『そこの一般人達! ここは戦場だ。危険だから今すぐ立ち去りなさい』
 最初は念話で驚愕した一般人達も指示を受けると速やかに撤退してくれた。
 すると次は増援の狂人達が正面玄関側から回り込んで突入するのが視界に入る。
『ハイデマリー、聞こえるか? 回り込んで襲撃に来る増援を狙撃してくれ』

 ハイデマリーは友軍中後衛の位置から敵軍中後衛と熾烈な撃ち合いをしていた。
 対する中後衛の敵勢は雪達磨が雪玉で妖精が氷玉で狙撃の反撃で迎え撃って来た。
 時にゲオルグから敵増援への射撃指示が入ると、それも問題なく対処していた、が……。
(え、嘘!? 戦場に子供達が……!?)
 ハイデマリーが仰天するのも無理はなく、体育館裏口から子供達が逃走する。
 これは一方で体育館の監視体制が崩壊した事を意味して、他方で逃げた数名の子供達の安全が脅かされている事を意味している。
 そして、戦場で逃げ回る子供達は魔物にとって格好の餌食である。
「私の魔弾は敵しか当たらないであります!」
 ハイデマリーの鋭敏な思考回路が敵味方を瞬時に区別すると銃口から鋼の驟雨が舞う。
 レールガンから拡散放射された光の弾丸が魔犬達を仕留めると子供達は救助された。
 次の増援が迎撃に現れる前にハイデマリーは急いで子供達の元へ駆け寄った。
「魔法少女ハイデマリーが来たからにはもう安心! 今日は、相方はいないけどね!」
 緊張で固まる子供達の心を解凍するべく、魔術礼装リリカルエメラルドをひらり。
 昨今、『鉄帝』の巷で何かと人気の魔法少女をやると子供達は歓喜の声を上げた。

 保護した子供達を自警団に引き渡した後、ハイデマリーは戦場全体を俯瞰して確認する。
 友軍優位な上にB班の活躍によってフランフォンは魔物の増援を使い果たした様だ。
 機が熟した事を把握すると、ハイデマリーはC班のハロルドに連絡を入れた。
『C班、突入を開始して下さい。フランフォン本人も魔物多数も裏庭で戦闘中である上、敵陣は増援がもう出せません。体育館の人質を解放するチャンスは今であります!』

●解放(C班)
 正面玄関では元劇団の狂人達が軽く武装しながら警邏していた。
 対するハロルドは聖剣リーゼロットの効力で音や匂いという気配を消して息を潜める。
 葵も狂人に発見されない様に身軽なフットワークで逃げ隠れしていた。

「B班から突入の連絡が来た! 行こう、日向! 突撃だ!」
 ハロルドが聖剣を抜刀すると光を集積した灼熱の霊気が拡散放射した。
 不意を突かれた狂人達は強烈な閃光で意識を失い衝撃に呑まれて弾け飛んだ。
 もっとも不殺効果付きなので狂人達が死亡する事はなく安全だ。
「どけどけ、どくっスよ! オレらの邪魔をする奴は蹴り飛ばすっス!」
 葵の黄金の左足から繰り出される魔球の連続シュートが狂人達を次々とゴールする。
 敵勢を押し退けた後、流星印の黄色い魔球は鮮やかな紅の閃光を残して消えた。

 僅か十人程度の狂人の制圧は瞬時に終わり、問題となる体育館へ二人が急ぐ。
 体育館に着くとハイデマリーからの連絡が予想通りに正確だった事が判明する。
 敵陣の砦であった体育館は既に監視体制が崩壊して職員や子供達が逃げ回っていた。
 対する魔物達も大半が裏庭の増援へ狩り出された為に数が乏しい。
 あるいは、立場を失くした残りの魔物達が怒り狂いながらも人質を追い回していた。

「体育館にいる魔物共! 全力で殺しに来いよ? 俺が相手になってやる! 神殿騎士が掲げる翼十字は、不退転の決意たる証だ!」
 ハロルドが館内にいる荒れ狂う魔物達全ての気を引くべく宣戦布告を雄叫びした。
 聖剣リーゼロットから放たれる翼十字の怒号が館内を呑み込んで魔物達の憤怒を誘う。

 もはや大群とも言えない魔犬、妖精、雪達磨等の各数体がハロルドを包囲して強襲する。
 最初の内はハロルドも魔力障壁や破邪結界で防戦していたが何分敵も数がいる。
 一度は集中攻撃で撃破され様ともハロルドは不屈の大志で立ち上がった。
「ははは! その程度か、魔物共? 温い、実に温いな! 俺が本当の戦場を教えてやる!」

 ハロルドが挑発攻撃で館内の敵全てを引き付けたお陰で葵のマークが抜けていた。
 葵は安全な退路を確保すると、焦って散らばらず一箇所に集合する様に指示を出す。
「大丈夫っスよ、焦って転んでもいい事ねーぞ」
 葵は人質が逃げる際も襲われない様にと正面玄関前まで付き添う事にした。
 集団を率いての退却であったが、道中で逸れ魔物を退治する事があるぐらいだった。
「あ、自警団の人達っスか? すんません、人質を外の安全な場所へお願いするっス」
 準備段階で飛が請願した自警団の増援が駆け付けてくれたのだ。

 葵は正面玄関にて自警団へ人質を引き渡した直後、大急ぎで体育館へ戻る。
 体育館では血塗れのハロルドがバトル中毒の笑みを浮かべて魔物と殴り合っていた。
「ハロルド、先に魔種のとこ行ってこい。オレもすぐ追いつく」
「おう、頼むな日向? あばよ、魔物共!」
 選手交代で葵がこの場を引き受けて、ハロルドは離脱して魔種戦へと急いだ。

●魔種戦
 裏庭の最前衛で飛が「混世龍蛇」の刻印された三節棍を振り回して魔種と激闘していた。
 火事と喧嘩は漢の華とも云う様に飛の戦棍は苛烈な打撃となって暴れ回る。
 時に技から滲み出る憤怒の本能が魔種に伝播する為か、飛が集中攻撃を受けていた。
「ふん、どうしたんだい? さっき迄の元気は何処へ行った?」
 フランフォンが暗黒色の妖精を召喚して氷雷を轟かすと飛の身体に激痛が走る。
「うるせぇ! テメェにむしゃくしゃしてんだろが! この馬鹿たれ!」
 飛は激烈な破壊衝動を身に宿す術で己を強化したがそれでも戦力差は開けている。
「飛さん、只の挑発です! 気にせずにフランフォンを叩きのめしましょう!」
 飛の付近ではロゼッタが格闘術の蹴り技等で白兵戦に加勢している。
 最前衛を二対一で挑んでも相手は卑しくも魔種な為に力量の差を付けられていた。

 だが、飛達には強敵である魔種と共に戦ってくれる仲間達がいる。
 飛が背後を庇う中後衛の位置ではエルが超集中状態で封印魔矢を狙撃していた。
「お父さん……。その卑劣な技を止めて下さい。何度も言いますが、その召喚術の魔物はお母さんではありませんよ!」
 フランフォンは「雪の女王」であったエルの母親似の魔物を召喚しては猛威を振るう。
 苛烈な迄に不吉な魅了の魔雪攻撃が前中衛の奮闘を押し止まらせるが……。
「ち、この術はオペレッタか……。折角の技が空振りに終わったな……」
 何発かに一度はエルの封印魔矢のお陰でフランフォンは襲撃の手が鈍る。
「お父さん……。こんな醜い戦いはもう終わりにしましょう? 本当は、もう、嫌です」
 エルは悲愴な面持ちで辛苦の感情を抑え込みながらも生命吸収の術で狙い撃つ。
「だったらオペレッタ、君が降参しろ! 今からでも僕と逃げないか!?」
 魔種と化した父親は神秘撃で命が削られ様とも、反撃する手を休める事はない。

 B班の陽動が効いてはいるものの、増長する配下魔物の対策はジェイクが受け持つ。
「よお、エル達の所へは行かせねえぜ? おめえらはこの俺がまとめて一掃する」
 ジェイクの二丁拳銃『狼牙』と『餓狼』が過激に乱れ撃たれて鋼の驟雨が舞い降りた。
 標的が魔犬でも、妖精でも、雪達磨でも、次から次へと蜂の巣となり消滅していく。
 それでも歯向かう魔物の増援に対してジェイクは光学照準器を執拗に定め続けた。

「きゃあっ!? 皆さん、ごめんなさい……」
 最前衛にて、ロゼッタが撃破された事で一つの決着がつく。
 陣形を乱されたA班の戦法は崩され、次は飛かエルが撃破されるその寸前で……。
「命を懸けてる女の子をヒトリにするような男は居ないんだよ! イレギュラーズにはね!」
 必殺の稲妻の拳を振り翳してイグナートが最前線を閃光の如く駆け抜ける。
 鉄火仙流の過酷な修行の中で磨き上げられた絶招・雷吼拳が魔種に激突した。
「よお、元気カナA班? 遅れてスマン。だが、魔物は討伐しオエタよ」
 そして稲妻の拳の直撃から憤怒が誘発されたフランフォンは標的をイグナートへ変える。
「ふふ、君、滑稽だね? そんなに疲労困憊した姿でこの僕に挑むのかい?」
「負ける気はシナイよ?」
 これは罵倒ではなく、事実上、イグナートは足元が危うい程に疲弊していた。
 魔種は不気味な笑みを浮かべて召喚妖精の氷雷で激烈な迄に迎え撃つ。
 不屈の闘志を燃やすイグナートは、最後は運命の欠片が破壊され様とも起き上がる。

 絶望的な状況でも挑み続けるイグナートに対して魔種が引導の裁きを渡すが……。
「させるかっ!!」
 電磁加速戦闘術・迅雷を象る雷神の如く現れたマリアが神速の紅雷を連撃する。
『雷光殲姫』の異名は伊達ではなく迸る雷光の鮮やかな華々が魔種の行動能力を阻害した。
「くっ、疲労を誘う雷か……。確かに、術の源泉が枯渇して来たね……」
 フランフォンは以後、召喚術を駆使する事を止めて魔氷の脚本に武器を持ち変える。
 マリア相手に脚本で殴り合いをしながらも、彼は「切り札」を温存する事にした様だ。

「皆、遅れてすまない。だが安心して欲しい。こちらは回復役がいる上に敵はこの男のみだ」
 イグナートとマリアが魔種と最前線で拳を交わす中、ゲオルグが癒しの光と共に現れた。
 ゲオルグは万遍なく最前線の皆を癒したはずだが、飛が際立って疲弊していた。
 それもそのはず、彼が戦闘開始直後から最前線で仲間を庇い戦っていたからである。
「晋よ、ご苦労。痛むか? ならば体力の限界を引き上げるこの術で……」
 ゲオルグから聖なるかなを降ろされて飛は体力と抵抗力の増強が図られた。
「おお、すまねぇ、ゲオルグ……。恩に着るぜ」
 全快とまではいかないが持ち直した飛がエルと共に最前線へと駆け戻る。

 現在の戦力差は、特異運命座標側が増えている事で魔種側を押し掛けている。
 それでもフランフォンは体力も行動能力も尽き掛けているはずなのに冷笑していた。
 唐突千万、魔種が魔氷の脚本を大袈裟に開いて呪文を唱えるが……。

「その程度の攻撃では俺には通用しねぇよ! おら、俺を殺れるもんなら殺ってみろ!」
 フリークライに肩を抱えられながらハロルドが戦場に登場した。
 この道中に至る前迄にフリークライによる治療は受けたが彼は既に満身創痍である。
 さて、ハロルドは魔種の「切り札」を見抜いた様で翼十字の怒号を放ち再挑発するが。

「ふん、ならば君は死に給え。さらばだ、僕とオペレッタの邪魔をする不逞の輩共!」
 フランフォンは残された力の限りで最後で最大の必殺撃を放ち逆転勝利を狙う。
 凋落した劇作家の脚本からは魔氷のギロチン群―殺人喜劇―が召喚され戦場を跋扈した。
 冬の魔種の最後の奥義である数多の狂刃が特異運命座標の何人かを幾度も斬り裁いた。

「掛かって来やがれギロチン! エル、俺はお前の盾になってやるぜ!」
「えっ、晋さん!? きゃあああ!?」
 魔氷の刃がエルの首に振り注がれる直前で飛が彼女の前に現れて磔となる。
 飛は厳しい断絶の刃の痛烈さに歯を食い縛りながらも運命の欠片が割れた。
 それでもエルを護り切れた飛は結果往来で微笑していた。

「ち、やはり天敵である俺の所には来てしまったようだぜ……」
 獣の嗅覚で直感していたが、ジェイクも不俱戴天の仇である魔種からの断罪の刃は免れなかった様だ。
 運命の断片を手放しつつも、復讐の銃口をそっと構え直した。

「ふはは、やはりその程度か、アンタの切り札って奴は!? 全然痛くねぇよ!!」
 パンドラの光が舞い散る中、ハロルドが大声で高笑いをする。
 ハロルドは幾度も魔種を挑発する事によってその標的を自らに差し向けた。
 無論、仲間を庇う為の奇策ではあるが、己から進んで苦難を負うのが騎士らしい。

「フリッケライーーアクティベート!!」
 そしてもう一人、自らの運命を手放す事を恐れずにフリークライも前に出ていた。
 ゼピュロスの息吹を吹き荒すフリークライが己の限界を解除して治癒術式を連発した。
 秘宝種から戦場へ向けて響き渡る天使の歌声や生命の旋律が負傷した仲間達を救う。

――本当ハ 友達ダカラコソ エル優シイ 知ッテル。墓標ハ 一ツデ イイ。……一ツデスラ 多イ。

 フリークライの勇気に感化されて戦場の仲間達が続々と立ち上がる。
 ギロチンを免れたマリアとイグナートが追撃し、ゲオルグが回復に拍車を掛けた。
 その一方で、戦場の彼方から黄金の獅子を彷彿とさせる渾身の魔弾が連撃される。
「この瞬間を待っていたであります。そして、この引き金に迷いはないであります!」
 戦場の遠方から狙撃するハイデマリーが魔種の最後の体力をじわじわと削る。
 しかも狙撃は一方向からだけではなく、体育館の方からも魔球が乱れ飛んだ。
 強烈な無回転シュートが衝撃を貫いた直後、連続で一弾一殺の魔球が魔種を追い詰めた。
「遅れてすまねぇっス! だが、体育館に魔物はもういねぇ! 人質も皆、無事だ!」
 魔球の狙撃者の正体は体育館の制圧を終えた葵からの参戦だった。

 仲間達からの猛烈な援護攻撃の勢いに乗って飛が三節棍から渾身の暴力を放つ。
「劇作家なら劇作家らしくすげえ演劇で魅了すりゃあいい。妄執に囚われて苦しくねぇのか、情けねぇって思わねぇのか!」
 飛の怒りに猛攻で追い込まれながらもフランフォンの憎まれ口は未だに止まらない。
「ふん、君に僕達の何が分かる!? 僕には……オペレッタが必要なんだ……!」

「は、分からねぇぜ、魔種の事情なんか! おめえは楽に死ねると思うな? 狂い死ぬのが相応しい」
 持ち直したジェイクが最後の銃撃で終幕を迎えるべく特製の射撃術を撃ち込んだ。
「狼の口づけ」と称するその一撃は、熱狂の渦で怨敵の命を略奪する為にこそ放たれた。
「で、探偵劇だっけ? 犯人はお前で判決は死刑!」
 ジェイクの積年の恨みの爆発は収まる事を知らず、天敵を葬るべく追撃が冴え渡る。
 歴戦の凶手と化したジェイクが望むのは一弾一殺。
 それを叶える術は魔弾で仕留める事に尽きる。
「ぐ、ぐはっ……。負けて、たまるか……僕は……オペレッタと……帰る……」

 既に息絶え絶えのフランフォンであるが最期の一手はエルに委ねられた。
 エルは天地すらも揺るがす戦の号令が封印された瞬き魂を解放する。
 純真なエルの魂から放たれた滅殺の暗黒神秘術がフランフォンを討つ。

――お父さん、覚えていますか? エルが小さい頃、冬の童話を読み聞かせてくれた事を……。エルはお父さんのお陰もあって冬が好きになりました。でも、ごめんなさい、さようなら……。魔種になってしまった哀れなお父さん……。

●解決後
 フランフォン討伐後、劇作家だった彼は町外れの裏山にある墓地へ祀られた。
 数日、この町に滞在して後処理をするエル達は今、墓参りをしている所だ。

「エル 思イ出 全部 悲劇ニスル必要 ナイ」
 墓標の前で祈りを捧げるエルに一筋の涙が過ると友人のフリークライが励ます。
 フリークライは、大昔に大切な少女が天寿を全うするのを見届けた事を思い出していた。
 そして持参した冬の献花をエルと共に墓標へ納める。

「エル? 辛いだろうが、気を丈夫に持ち給え。何なら、これをもふって元気を出しなさい」
 付き添いで来ていたゲオルグが親切心からエルを心配してジークを召喚する。
「ふわもこフレンズ」と呼ばれるその愉快な羊のマスコットはエルともふもふした。
 さらにゲオルグは、にゃんたまクッキーをその場にいる皆へさり気なく配る。

「さて、お墓参りも済んだ事ですし、自警団のギルドへ帰りましょうか? ところで、エルさん? 飛さんから後で良いお知らせがあるそうですよ?」
 ロゼッタも共にこの町に残り本日の墓参りに付き添った。
 彼女なりにエルの心境を心配していた為というのもあるが。
 時にエルは「はて? 晋さんが?」と首を傾げるが、それは後でのお楽しみである。

「お父さん、それでは……」
 エルのギフトである幻の粉雪が亡き父への餞としてささやかに吹雪いた。
 エル達は一礼して感謝と惜別の気持ちを祈ると墓標を後にした。

***

「第一幕で子供達が怖い思いをしたのなら、皆が楽しめる第二幕があるべきだ」
 事件後、ジェイクは彼が発案したとある計画を仲間達に真顔で打ち明ける。
「オレは冬を越えられナカッタ子供を何人も見てきた。だからぜひヤロウ」
 イグナートが力強く頷いた為、孤児院の子供達へのショーが広場で開催となる。

「がおお! 俺は狼男、ジェイクだぜ!」
 ジェイクが必殺の獣化変身を遂げて、狼の毛皮を被った勇ましい姿で吠えていた。
「がるるる……! 私は『豊穣』の四神白虎の友達、マリア虎だ!」
 マリアの方はギフトで電気磁力の限界を突破して白虎の虎耳と尻尾が生えていた。
「ソレ、子供達! オレとイッショに踊ろう! コレがホンバの『鉄帝』ダンスだ!」
『鉄帝』北部の民族衣装に身を包んだイグナートがコサックダンスを愉快に踊り出す。
「よ、そら、ほれ……! ま、リフティングはこうやるっスよ。やってみ?」
 葵は普段の仏頂面から笑顔を解禁して子供達にサッカーの遊戯を優しく教える。
「サッカーのMFでキャプテンでエースストライカー」の肩書が今、役に立つ。
「この発煙筒だが、こいつは赤でな、危険信号を仲間に教えるんだ……」
 一方で「発煙筒の達人」の称号を持つハロルドは子供達に発煙筒講習をしていた。
「皆、お腹は減ってない? 兎耳のフレンチトーストを食べるでありますよ」
 魔法少女姿のハイデマリーがお手製の絶品フレンチトーストを配り歩く。
 今回の彼女は最初から最後まで子供が憧れる魔法少女像を崩さずやり通した様だ。

***

 自警団のキッチンでは飛が『美味しい一時』というレシピ集を片手に調理していた。
 魔牛の特製肉と新鮮な冬野菜をじっくり煮込んだ味わい深いビーフシチューである。
 なぜ、彼が懸命にも料理をしているのか、と言えば……。

――ま、エル、お前が泣くのはあんま見たくねぇのさ。任せときな。

 討伐終了後、飛はエルと上記の様な約束をしていた。
 そして今、町に滞在する最後の日の晩餐としてその約束を果たすのである。

 エルは父親を魔種の討伐という形で失ったが、それでも彼女は前に進めるであろう。
 なぜなら、特異運命座標という頼もしくも温かい仲間達が今のエルにはいるのだから。

成否

成功

MVP

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼

状態異常

ジェイク・夜乃(p3p001103)[重傷]
『幻狼』灰色狼
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)[重傷]
黒撃
ハロルド(p3p004465)[重傷]
ウィツィロの守護者
エル・エ・ルーエ(p3p008216)[重傷]
小さな願い
晋 飛(p3p008588)[重傷]
倫理コード違反

あとがき

シナリオ参加ありがとうございました。
また、初のEX10人枠にもお付き合い頂けて感謝しています。
皆さんのご尽力により「最終公演(殺人喜劇)」は無事に閉幕です。

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