シナリオ詳細
<Common Raven>レーツェルマンと不機嫌な宿場町
オープニング
●死の顛末と予測
『武器商人』レーツェルマン。
灰色の帽子に灰色のコートを纏い、灰色の髭をたくわえた男。
身体からは常に火薬の臭いがし、いつも陰鬱そうな目をしている。
特技は武器を売ることであり趣味は武器を売ること。そして夢は世界平和。
専門は銃火器と爆弾。
そんな彼が、箱馬車の座席に腰掛けていた。
箱馬車の座席に腰掛け、アタッシュケースを抱える男。レーツェルマン。
馬車は一定のリズムを鳴らして進み、日の照りつける砂漠をことことと横切っていく。
やがてたどり着いた宿場町は、数件の建物が向かい合わせに並ぶだけの閑散とした場所だった。
宿と酒場、そして最低限の仕立屋や修理屋があるだけだろう。旅の馬車が休むためだけにあるよいうな、そんな場所である。
レーツェルマンの乗った馬車が止まると、酒場らしき場所から顔を赤くした男が出てきた。仕立てが良いが奇妙に汚れた服を着て、片手を腰の後ろに回している。
「やあやあ、旅のお方ですかな。何も無いところですがゆっくりなさってください。宿と食事と、馬の世話を手配しますよ」
そう言って男は帽子をはずしてひっくり返し、馬車の御者へと突き上げてみせる。
世話を焼くのでチップをくれという意味だろう。
御者の男は渋い顔をしながらもポケットに手を突っ込み、数枚のコインを握って帽子へと落と――したと同時に、ズドンという銃声がした。
御者の腹が撃たれたと気づいたのはその一秒あとで、かざした帽子を目隠しにして銃を抜いたのだと気づいたのはそのまた一秒あとだった。
「テメェ!」
箱馬車に同乗していた傭兵が拳銃に手をかけて馬車を出ようとするも、窓越しに男は銃を三発。
更に酒場の二階にあるであろう宿と向かいの雑貨屋二階の住居エリアの窓が開き、ライフルによる過剰な撃ちおろしが始まった。
度重なる銃撃に背を丸め、アタッシュケースを抱えて頭を下げるレーツェルマン。
「おいあんた、ここから出るなよ!」
肩を撃たれたらしい傭兵は歯を食いしばって馬車の外へ出るも銃撃の雨に打たれ、反対側から飛び出した別の傭兵はかろうじて酒場まで転がり込めたが丁度そこでビールをかっくらっていた髭ズラの男が銀色のリボルバー拳銃を突き出して待っていた。
「ようこそォ、俺のスイートルームへ!」
ハハッ! と大口を開けて笑い、男は銃をぶっ放した。
酒場から飛び出し、頭に穴をあけ倒れる傭兵の姿を見たレーツェルマンは額から流れる汗を手で拭い、再び馬車の座席下に身をかがめる。
やがて銃声がやみ。
彼の背を固いものがつついた。
「あんた、レーツェルマンだな? パサジール・ルメスのお仲間になったっつー武器商人の」
髭ずらの男だ。ダミ声でそう言うと、再び背をつつく。銃口なのだと、見ずともわかった。
ハァとため息をつくレーツェルマン。
「だったらどうした」
「あんたの色宝はいただくぜ。ッカー、忙しい中でもこんだけの計画ができる。俺ってやつは偉いよなあ?」
四発の銃声。
そこで、命は途絶える。
「――と、いうのが俺の予想だ」
箱馬車の座席に腰掛け、アタッシュケースを抱える男。レーツェルマン。
馬車は一定のリズムを鳴らして進み、日の照りつける砂漠をことことと横切っていく。
「近場の安い傭兵を雇っていこうと思ったが、最近輪をかけて物騒でな。
今回はローレット、あんたらに護衛を頼むことにした」
馬車は、例の宿場町へたどり着こうとしている。
●色宝とパサジール・ルメスの民
遡ること三ヶ月ほど前。ラサにて発見されたファルベライズ遺跡群には色宝なるものが眠っていることが分かり、さらにはそれを狙う大鴉盗賊団なる組織も現れたことでローレットにはより一層の色宝あつめがラサ傭商連合より依頼された。
当初は遺跡をより多くそして早く攻略できるかにかかっているかに思われたが、あるときよりラサじゅうに危険なデマを流すやからが現れるようになった。
それはパサジール・ルメスの民と色宝のつながりを示すおとぎ話と抱き合わせにされた、『色宝はどんな願いも叶えてくれる』というデマである。
「人間は欲深い生き物だ。どんな願いでもと言われたら、莫大なコストをかけてでも奪いたくなる。高額当選の宝くじを殺してでも奪う事件があったが、こっちの世界でも似たようなことが起きて然るべき、だ」
煙草のケースを懐から取り出し、トントンとやって一本だけ露出させるとそれを歯でひっぱるように咥える。
「現にこの先の宿場町を仕切ってるザザーニンという男が鼻息荒くしてソイツを狙っているという噂があった。俺がそこを通ることも把握済だろうよ」
懐から今度は拳銃……いや拳銃型ライターを取り出すと、トリガーをひいて煙草の先端に火をつけた。
「狙われるのは明らかだ。戦力も充分、準備も万端。しかし宿をとらねば旅はできん。馬の水も食料も補充したいしな」
レーツェルマンはすぱすぱと煙草のけむりを楽しんでから、輪っか状の煙をぽっと浮かべた。
それ以上は言わない。
かわりに手で、『やっちまおう』というサインを出していた。
- <Common Raven>レーツェルマンと不機嫌な宿場町完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年11月24日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
進む二台の箱馬車が、まるで糸で繋いだかのような等間隔を維持している。
遠い砂漠の凹凸と、さんさんと照る太陽を背景に、パカダクラは馬車を引いてゆくのだ。
「色宝、ねェ」
箱馬車の中で足を組み、キセルのすいくちを甘くかじるようにする『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)。
「興味はあるが、叶えられる願いの規模が小せェって話だしなァ。
首都に持ってって報酬と引き換えた方が現実味があるってーか。
そーゆーのに夢見がちな男ってどこにでも湧くよな。浪漫とか言ってさ。バカじゃねェの?」
「バカいーよね。さらにクズだともっといーね。斬っても誰も悲しまなそーで」
『誓いの緋刃』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)がその向かいで体育座りをしながら身体を左右に揺すっている。
「相手が誰でも構わん。殺されない最大の方法は先に殺すことだ。奪い返されない最大の方法も同じだ。合理的だな」
武器商人のレーツェルマンは、アタッシュケースを膝に載せたまま馬車の外をぼうっと見つめている。
そしてふと、ことほぎと秋奈と、そして小窓越しに御者席に座った『罪の檻』ヴァイス・ヴァイス(p3p009232)へと問いかけた。
「トロッコ問題を知ってるか」
「……いいえ」
小さく振り向き、小声で返すヴァイス。かわりに秋奈が話に乗った。
「トロッコ動かしてどっち殺すかみたいな意地悪問題だっけ?」
「半分正解で半分間違いだ。こいつは倫理学……特に徳倫理学で提起された問題だ。内容は、人間がどのような倫理的道徳的ジレンマを解決するかというものだな。ちなみに原典はトロッコでなく洞窟に例える」
「洞窟でなにするってェ?」
首をかしげたことほぎに、レーツェルマンは指でトンとアタッシュケースを叩いて見せた。馬車が何かを踏んだのか、全体が僅かに揺れる。
「水位のあがる洞窟内で数人が脱出を試みている。しかし先頭の男は太っていて出入り口に詰まってしまい後ろの五人が出られない。このままでは全員溺れ死ぬが、お前の手にはダイナマイトがある。この場合は?」
「デブを花火にして出る」
「トーゼンじゃね?」
「この場合倫理的に自分を納得させやすい。が、次にこう続く。
瀕死の重病患者5人が血清を求めており、そこへ偶然健康な1人が病院へやってきた。これまた偶然にこの男の血は患者達とピッタリ合う。1人の血液をすべて抜いて血清を作れば5人が助かる。医者であるお前は?」
「知るかよ。金ももらわねーのに患者殺す意味がねェ」
「人間っていつか死ぬしね。それが病気だっただけ」
「一般的にはそうなる。1人を犠牲にして5人を救うという点では同じなのに、立場と状況が異なれば倫理的ジレンマが変化する……という俺の解釈だ。まあ未だに学者たちはこの議論に決着をつけていないがな」
何が言いたい? と首をかしげることほぎ立ちの中で、ヴァイスだけは真意を理解したらしい。
「罪は主観であると……?」
「そうだな。法の定めた罪と人間の感じる罪悪感は別物という意味でもある。
そこで問題だ。今から俺たちを殺してすべて奪おうとしている連中大勢を逆に皆殺しにしてすべて奪う場合、罪悪感は?」
「「ノー」」
二人同時に指でバッテンをつくることほぎと秋奈。
「そういうわけだ。頼んだぞ」
「レーツェルマン様の護衛……かの街の、敵性存在の鏖殺……任務、受諾しました。
この身の限りを以て……任務完遂、尽力致します」
ヴァイスは淡々とつぶやいてパカダクラから伸びた手綱を握った。
後方の馬車では、『青き砂彩』チェレンチィ(p3p008318)が馬車の御者席に座ってぼうっと前方の馬車を見つめていた。
「先の展開を予測できるほど襲われ慣れているなんて、レーツェルマン氏はなかなか大変な身の上のようですねぇ……それだけ商人として名が知られているということでもありますか。
護衛の仕事を受けた縁です、しっかりお守りして差し上げますよ」
目を細めるチェレンチィ。
その馬車の中では、『《戦車(チャリオット)》』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)と鏡(p3p008705)が何やらひそひそと話し合っている。
「やっぱり鏡たその脚…凄い魅力的で良き脚ですよねー。思わず切り……コホン」
「今日は何人イケますかねぇ?脚は全部あげるんで私の方が多く頂いても怒っちゃ嫌ですよぉ?」
控えめに言って常軌を逸した倫理観で生きていそうな二人である。たとえば真昼の公園ですれ違ったならまず話しかけるべきでない人々だ。
が、そんな人でも普通に依頼メンバーとして協力するときがくるのがローレットの愉快なところでもあった。
『フォークロア』スカル=ガイスト(p3p008248)はラサの風土にあったウェスタン風の帽子やローブを被り、目元を覆うタイプの仮面をつけて斜め下を向いていた。
冷淡な性格をした彼からしても、この馬車の中の人々はどうかしているように見えた。
特に……
「今日はよろしくお願いします。ふふ」
聖女のごとくにっこりと笑う『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)。
彼女の振るまいは穏やかそのものだったが、どうも嘘臭く感じてしょうがなかった。もちろんなんの証拠もないし、なにより……
(バカを相手にバカ騒ぎ……実に肌に合った分かりやすいお仕事です
撃って良い…殺せば終わる。そんなお仕事の助かる事助かる事……)
ライが内心こんなことを考えているなど、知るよしもないのだ。
●ザザーニンと不機嫌な旅行客
盗賊上がりのザザーニンにとって、この宿場町はパラダイスだった。
自分に逆らう奴は一人もおらず、ときおりやってくる旅人から略奪をすれば贅沢品にも困らない。
困りごとがあるとすれば、占領した宿場町に籠もった暮らしのせいで武器の調達が難しいことくらいか。
そんな折りに、偵察用の鳥を飛ばしていた部下から報告があった。
「ボス、ここへ武器商人が通りかかるそうですぜ。なんでもアタッシュケースに武器を山ほど詰め込めるんだとか」
そりゃあいい。ザザーニンは早速部下達に命じて待ち伏せの準備を始めさせた。
「武器商人ってこたぁ護衛もそれなりだ。お前等くれぐれもぬかるなよ?
俺はあのポストキングスコルピオンと言われたコルボと知り合いなんだ。いざとなればなんだってできるんだぜ」
やがて宿場町には二台の馬車。
先頭の馬車を操作していたローブの女に、酒浸りで赤ら顔をした男が近寄っていった。
諸々を手配するから駄賃をくれと帽子を返してみせる。
女がコインを財布を取り出そう――と、みせかけて。
「任務、開始します」
馬用の鞭を男の顔面へと打ち付け、ひるんだ所を蹴りつけた。
「なっ……!」
「私の基本の役割は、レーツェルマン様の護衛。
然れど、最初に仕掛けてくる男の排除も、私の役割と判じます」
そのすきに馬車から飛び出したことほぎはくわえたキセルからもくもくと煙を沸き立たせる。
激しい呪力を持った煙はたちまち男へ巻き付き、男はむせかえりながら崩れ落ちやがては息絶えた。
「やっぱバカじゃねェの? オレは護衛依頼で金が入るしぃ?
バカやってくれてアリガトウゴザイマスってか!」
罠がバレた。が、ザザーニンたちにとってやるべきことは変わらない。
向かいの雑貨店二階からライフルを持った男達が身を乗り出し射撃を開始。ことほぎはレーツェルマンに伏せるように言うと、馬車を盾にして応戦を始めた。
一方酒場側ものんびり罠が完了するまでくるごうとしていた男たちが銃を手に取り動き――出すより前に、ウエスタンドアが両扉とも内向きに吹き飛んだ。
「ハウスキーパーだ。“ゴミ”の掃除に来たんだが」
ドアにぶつかってよろめいた男めがけて素早く秋奈は距離をつめ、ナイフホルダーを展開し至近距離で突き立てた。
と同時にスカルもまた接近し、相手の胸に銃を押し当てると至近距離で発砲。そのまま二階へむけた階段へと走り出す。
そうはさせまいと階段側へ集まりテーブルをひっくりかえす男達だが、それを読んだかのようにスカルはサッと両手を組んで反転。
『ジャンプ台』の動作をとると、片足をのっけた秋奈を大きく上へ放り上げた。
「刮目して視よ! 我は戦神、叛逆の至剣なり!」
バリケードを飛び越え裏側へと着地する秋奈。
やっと緋色の刀を抜刀すると、慌てて振り返る男達を斬り付けた。
このまま二階に行かれては厄介だ。一階酒場スペースにいた男達は必死に銃撃をしかけるが、今度はスカルたちがテーブルを盾にして防衛を始めた。
なぜならば、彼らが二階へ向かう必要など元々ないからだ。
「敵の生死は問わないとのことですし、好きにやらせてもらいましょう」
箱馬車から出たチェレンチィは助走をつけて跳躍。酒場の向かいにあった壁を蹴って三角跳びすると素早く身をひねって翼を広げ、風を捕らえて急上昇。二階の窓を突き破って部屋の中へと突入した。
まさかここへ直接入ってくると思わなかったのか、ベッドで寝転がっていた男が咄嗟に枕元の拳銃に手を伸ばす……が、その手首をチェレンチィのナイフが貫通。切っ先がベッドの硬い面へと突き刺さる。
「これだけ飛行可能な人類がいる世の中で、『高いから安全』とか思っちゃうのは愚かすぎやしませんかねえ」
ライはやれやれと首を振ると、膝の隠しホルスターから抜いた銀の拳銃を握り跳躍。空中に生み出した半透明なパネルを階段のように駆け上がり、窓のクレッセント錠めがけて銃を乱射。
無理矢理ロックを解除すると、フレームごと蹴りつけて窓をこじ開けた。
「てめぇ勝手に入ってきてんじゃ――」
ベッドに腰掛け、半裸の姿でダブルバレルのショットガンを構える男。
「はっ…デカけりゃイイと思ってやがる、下手な男って大体そうですよね!」
ショットガンの発砲音に対し、ライは半身の姿勢で銃を連射。
双方ダメージを受けたものの、男の方はベッドから転げ落ちライのほうはまだ両足で立っていた。空になったマガジンを乱暴に滑り落とすと、袖の間から滑り出た予備弾倉へと交換。
ベッドへ飛び乗り、慌てて起き上がろうとする男を上から幾度となく打ちまくった。
「ハレルヤ」
この間向かいの雑貨店がノーマークだったかといえばもちろんそうではない。
ピリムが自慢の足の速さを生かして雑貨店の窓をクロスアームで突き破って突入。一階で雑用をしていた見知らぬ誰かを刀で斬り殺し、後ろ手にドアの鍵を開けた。
ゆらりと建物へ侵入する鏡。
「お邪魔しまぁ…おや? フフフ、ここまでレーツェルマン君の予想通りとはぁ」
階段を下りてきた男がライフルを手に取って鏡へ構えるが、そうしている間に一気に距離を詰め、相手の銃と腕をそれぞれ切り落としてしまった。
血を吹き上げながら階段を転落する男。
ピリムがじいっとそれを見つめるので、鏡は肩をすくめて『どうぞ』とジェスチャーした。
『別に殺し…いや、イーゼラー様に捧げるのは拘らねーので鏡たそに任せますが、脚は全部私が頂きますからねー?』と馬車で語っていたのを、思い出したのだった。
なので。
「私の方が多く(命を)頂いても怒っちゃ嫌ですよぉ?」
と、保険をかけるみたいに笑って言うのだった。
●
あちこちで銃声と怒声が響き、それがやがて弱まっていくのがわかった。
雑貨屋の二階から馬車を打ち続けていた男にも、例外なく。
「チッ……!」
こうなれば自分たちは襲う側であり続けることは出来ない。
真後ろに凶刃が迫らないともかぎらないのだ。
……いや。
「そこのアナタぁ、生き残るチャンス……欲しいですかぁ?」
今まさに、鏡が扉を開けて入ってきた。
振り向いてライフルを向けるが、ここは狭い部屋の中。相手は刀をぶら下げて笑っている。
自分が窓から飛び出すんでもない限りは、射程問題で極めて不利だ。
それを察したのだろうか。鏡は刀をゆっくりと鞘に収めた。
「実はですねぇ、私銃弾切りってやってみたいんですよぉ」
足をズッと横に大きくスライドし、今から抜刀しようという構えをとる。
一方の男は、調子に乗った敵を前にいかに自分が生き延びるかを考えていた。
言うとおりに『銃弾切り』を試させて、本当に斬れるならそのすきに逃げればいい。失敗して弾が当たったとしても同じことだ。外が安全という保証はないが、今この場所に留まるよりはずっといい。なにせ出入り口は鏡の真後ろなのだ。
「わかった、わかった。言うとおりにする。どこを狙って欲しい」
「さあ? どこでもぉ? 私を撃って弾を斬れたら私の勝ち、斬れなかったらアナタの勝ち。私が負けたらどうぞ逃げてくださぁい仲間もアナタを追いません」
随分都合のいい条件だ。
自分が相手だったらこんな約束は絶対にしない。
どうせドアの後ろに仲間が待ち構えているのだろう。そうはいくか……と内心で舌打ちをしながら、男は『OK』といって鏡の心臓に狙いをつけた。
「カウントしますよぉ。サン――」
と言った瞬間に、男の手首が切り取られていた。
「うっ……!?」
と同時に窓から目をギラギラと赤く光らせたピリムが這い入り、男の首を後ろから掴んだ。
刀が足の付け根に押し当てられ、耳元で声がする。
「アウトローな方々の脚も嫌いじゃねーですよー?しかし、鏡たその脚の”足元” にも及びませんねー。まあ、どちらにせよ回収することには変わりないのですがねー」
「クソテメェ騙し――」
男が叫び終わるより前に、彼の両足と首がそれぞれとんでいった。
酒場一階に陣取っていたザザーニンと手下たちは混乱の極みにあった。
バーカウンターの裏に身を隠し、二階へ向かう階段前を陣取っているスカルたちに攻撃を行うが、酒場入り口からもことほぎたちが侵入してきたからである。
ことほぎのキセルから立ち上る煙が無数の弾丸として凝縮され、くいっと指を曲げる動作に応じてザザーニンたちへ飛んでいく。
ことほぎはフウと息をつき、ヴァイスに守られる形で壁際に立つレーツェルマンへ視線をやった。
「アンタは戦わないのかい。武器なら山ほど持ってるんだろう?」
「使えば中古だ」
「商人だねェ。ま、金が入りゃなんでもいーけど」
ことほぎとヴァイスはレーツェルマンのガードを後退。
解き放たれたヴァイスはバーカウンターめがけて勢いよく突進を始めた。
彼女の肉体にいくつもの弾丸が打ち込まれるが……。
「この程度の痛みなれば……罪の贖いの足しとは、なりますまい……」
まるでそれを望んでいるかのように、ヴァイスは無抵抗だった。ザザーニンの部下達はそれに執着するかのようにポケットから小さなナイフを取り出し、ヴァイスへと群がっていく。
「お、おいお前等――!」
「イエーイかもうちちゃーんす!」
秋奈がバリケードから飛び出して突撃。
ヴァイスに群がり必至にナイフを突き立てる男達を次々に斬り捨てていく。
「この程度? ローレットのイレギュラーを倒すにはまだまだ甘かったようねっ!」
「命乞いのチャンスくらいはやるが?」
などと言いながらも、両手をあげた男の後頭部に押し当てた銃を発砲するスカル。
ザザーニンは畜生と叫ぶと、カウンターの裏にあった重機関銃を取り出して店内を乱射した。
咄嗟に仲間を庇って飛び退くスカルたち。
「俺にこんなことをしてタダで済むと思うなよ! 俺様はあのコルボと知り合いなんだ! てめぇのギルドだかなんだかを潰すことだってできるんだぜ!」
「できるものなら――」
しかしスカルは拳銃でもってザザーニンを射撃。
銃弾は当たらないものの、ザザーニンの意識を彼に一瞬だけ集中させることはできた。
なんのためにか、といえば。
「「やってみなさい」」
二階の通路から吹き抜け越しに飛び降りてきたチェレンチィ。
彼女のナイフがザザーニンの腕に突き立てられ、痛みにのけぞるザザーニンの脳天めがけてライが銃弾の限りを打ち込んでやった。
たとえ友人ですら判別できないほどに顔面を破壊されたザザーニンを見下ろして、ライは通路の手すりによりかかった。
「他人の威光でしか自分を飾れないとは……悲しい生き物ですね。いや、もう死にましたか」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――mission complete
――物資の回収と無料の宿の確保に成功し、一行は旅をエンジョイしました
GMコメント
●注意事項
この依頼は『悪属性依頼』です。
成功した場合、『ラサ』における名声がマイナスされます。
又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
■オーダー:護衛と襲撃
武器商人レーツェルマンを護衛しつつ、宿場町を武装占拠します。
あっちもあっちで総力をあげてこっちを殺しに来ているので、ここはある意味おあいこです。
手段は問わず、相手の生死ももちろん問いません。なんとなく『殺した方が早そうだ』という空気になっています。
■シチュエーションとエネミー
OP冒頭で描いたような街(というより数件の建物密集地帯)が舞台となります。
周りはほとんど砂漠で、そのなかにぽつんとこの場所があるのみです。
武装の種類や規模、襲いかかる手順もおそらくレーツェルマンの予想通りになるでしょう。なにげに襲われ慣れているのでこういう鼻と予測が効くのです。
街を仕切っているザザーニンという髭ずらの男がパサジール・ルメスの民を殺して色宝を奪おうと企んでいるようですが、レーツェルマンは色宝なんて持っていないのでした。
■NPC
・『武器商人』レーツェルマン
身一つで旅をして武器を売る商人。アタッシュケースの中に大量の銃器や爆弾を納めるギフト能力を持っており、そのせいでコストはかからないが襲撃されるリスクも高い。割と命を狙われるので危機察知能力は高め。
パサジール・ルメスの民に属しているが、出身世界の異なるウォーカーであり生き様が気に入って民の仲間入りをした。
夢は世界平和で、全人類が同時に同等の武力を持てば戦争が無くなると語っている。実際小部族間の争いに銃を流し込んだことで戦争を終わらせるなどした実績があるらしい。
■オマケ解説
・色宝(しゅほう、ファルグメント)
小さな小さな願いを叶える宝物群です。
真っ青なクリスタルや黄のマントなど、大きさや形状は様々です。どれも1つの色に染まっていることが特徴です。
願いを叶えると言われていますが、個々が持つ力は微々たるものです(かすり傷が治る程度)。
多く集めればそれだけの願いが叶うと言われていますが、詳細は定かでありません。
ラサ傭兵商会連合トップたちの話し合いにより、見つけ出された色宝は報酬と引き換えに、首都ネフェルストで管理されることとなっています。
・パサジール・ルメスの民
混沌世界を移動するある少数勢力『パサジール・ルメス』がある。主要七か国を渡り歩く民達は各国を渡り歩き様々な情報を手に入れています。
所謂、移動民族です。パカダクラや動物たちと共にキャラバン隊を率いています。
それ故に割と物知りですし、どこの国家にも属しません。
おとぎ話に語られたことによれば、彼らは精霊使いの一族であり、かつて共に過ごしていた精霊ファルベリヒトの位置が知られないように流浪の民となったと言われています。
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