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シナリオ詳細

<マジ卍体育祭2020>障害物競争。或いは、綾敷なじみと白い腕…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●マジ卍体育祭開幕
 錬達。再現性東京。
 澄んだ空気に、空は快晴。
 遥か上空で花火が爆ぜた。
 今日は希望ヶ浜学園の『体育祭』だ。
 リレーに綱引き、借り物競争、応援合戦。
 各々の参加種目に全力を尽くすべく、生徒たちは思い思いにウォーミングアップを開始した。
 
 グランドの端、救護テント。
 虫眼鏡片手に首を傾げる『猫鬼憑き』綾敷・なじみ(p3n000168)の姿があった。
「どういうことだろ? これは明らかに異常事態だよ」
 午前の部も終わりに近づいたころ。
 救護テントは怪我をした生徒たちで溢れかえっていた。
 怪我の程度はどれも軽いものばかりだが、それにしたって怪我人の数が尋常ではない。
 治療を終え、テントに戻っていった生徒たちもいることを考えれば、1つの種目につき数名、ともすると十名に近い人数の生徒が怪我をしていることになる。
 大玉転がしや組体操など、怪我をしやすい種目というものは確かにあるが……徒競走や応援合戦、果ては開会式でさえ怪我人が多発しているのだ。
「いつもこんなにたくさん、怪我人が出るものなの?」
 と、なじみは救護テントに待機していた保険医に問う。
 身体の細い保険医は、困り顔でゆっくりと左右に首を振った。
「まさか。そんなわけないわ。こんなに大勢の怪我人が運ばれてくるなんて、明らかに異常事態よ」
 そんな会話を2人が交わしている間にも、新たに1人の男子生徒が救護テントにやって来た。
 膝を庇うように歩いているところを見るに、どうやら転んで膝を強打したらしい。
「ねぇ、一体何があったの? ただ転んだだけ?」
 生徒の膝に虫眼鏡を近づけながら、なじみはそう問いかけた。
 困惑した様子の生徒は、ほんの少し迷いの表情を浮かべた後にこう告げた。
「……信じてもらえるかわからないんだけどさ、脚を引っ張られたんだ」
「脚を?」
「うん。地面から、白い手が伸びてきたような……きてないような?」
 そう言って生徒は、先に救護テントに来ていた別の生徒へ視線を向けた。
 視線を向けられたのは、額に絆創膏を貼った女子生徒だ。
 男子生徒の視線を受けて、彼女も頷きを返す。
「私と彼は同じ競技に出てたんだけど……」
 男子生徒に先駆けて、女子生徒もまた何かに脚を掴まれ転倒して怪我をした。
 そのことを男子生徒に話したところ、見間違いだろ、と一笑に伏されたのだというが……。
「ごめんな。見間違いじゃなかったみたいだ」
「仕方ないよ。実際、怪我をした生徒にしか見えていないみたいだし」
 そう言って女子生徒は、救護テントにいた生徒たちへと視線を巡らせる。
 生徒たちのうち何人かが「俺も手を見た気がする」と口にした。
 残る生徒たちも、何かに脚を掴まれた気はしていたという。
 陸上部に所属する女子生徒などは、ゴールまでの間に3回は脚を掴まれたらしい。
 それでもゴールまで駆け抜けたのは、流石陸上部といったところか。
「うぅん? これは怪しいね。オカルトの気配がびんびんするよ!」
 うん、と暫し思案して。
 なじみは救護テントを飛び出していった。
「さっそく調査に行かなくちゃ!」
 そんななじみの後ろ姿を見送って、保険医はふと首を傾げた。
「ところであんな子、うちの学園にいたかしら?」

●波乱の障害物競争
「それじゃあ臨時オカルト研究部の諸君……準備はいいね?」
 猫のしっぽを上機嫌に揺らしつつ、拳を突き上げなじみは告げる。
 なじみによって招集された一同は、障害物競争に参加予定のイレギュラーズたちだ。
 参加、といっても選手としてであったり、運営スタッフとしてであったり様々だが。
「目的は怪異の正体を突き止めて討伐すること! 今後、怪我人が出ないようにね!」
 今回の怪異について、判明している事実は少ない。
 曰く、それは競技中に脚を掴んで来るらしい。
 曰く、それは白い腕である。
 曰く、さほど力は強くないようで陸上部の生徒などは3回掴まれてなおゴールまで駆け抜けたとのこと。
「脚を掴まれると、身体から力が抜ける感覚がしたり、身体が重くなったりしたって生徒もいたよ」
 ここに来るまでの間に、怪我をした生徒たちから情報収集をしたのだろう。
 なじみの事前調査によって、怪我をした生徒以外にも競技の運営にかかわっていた教師や生徒数名が白い手を見ていたことが分かった。
「中には“髪の長い女の姿を見た”なんて話もあったね」
 なじみの話から判断するに、白い腕に掴まれると【停滞】や【苦鳴】といった状態異常が付与されるようだ。
 そして、現れるのは決まって競技中及びトラック内のみであるらしい。
 そこでなじみは、怪異調査の種目として障害物競争を選択した。
 グラウンドにまっすぐ置かれた各種障害物に紛れれば、多少の攻防はごまかせると判断したからだ。
「距離にしておよそ200メートル。障害物は全部で7つ。その間に“白い腕”が現れたら調査したり、討伐したりしてほしいの」
 正体不明の“白い腕”と、会話が成立するかは不明。
 加えて、競技中にそもそも会話などしている余裕があるのかどうか……。
「分かっているとは思うけど、一応障害物のおさらいをしておくね。障害物1つ目は3連ハードル。2つ目は平均台で、3つ目が2連続の跳び箱」
 イレギュラーズの身体能力をもってすれば、どれも突破は容易いものだ。
「4つ目は網潜り。地面に広げられた網の下を這って潜るのね。5つ目と6つ目はトンネルね。グランドに全長30メートルのトンネルを設置してあるのが見える? あの中を駆け抜けるの」
 トンネルの中は薄暗く視認性が低い。
 さらに、内部には所々に壁があって進めなくなっているらしい。生徒たちは壁にぶつからないよう注意しながら、トンネル内部を進行することになる。
 観客側からトンネル内部は窺えない。生徒たちのルート選択によっては、トンネル内部で順位が逆転することもある。
 いわば、障害物競争最大の盛り上がり所であるともいえた。
「トンネルを出たら、5連続でハードルを跳んでフィニッシュだよ」
 以上、7つの障害物を突破しながら怪異“白い腕”の調査を進めることになる。
「さぁ、それじゃ気合いれてこー!」
 おー! と。
 空に向かって、なじみは拳を突き上げた。

GMコメント

●ミッション
怪異“白い腕”の討伐。


●ターゲット
・白い腕×1(?)
競技中に選手の脚を掴み、転ばせる怪異。
地面から伸びる白い腕。
長い髪の女性の姿を見たという者もいる。
地面から腕を伸ばし、選手の脚を掴み転ばせるようだ。


白い手:神近単に中ダメージ、停滞、苦鳴
 対象の脚を掴んで転ばせる。

・綾敷・なじみ
無ヶ丘(なしがおか)高校に通う一年生。
たった一人だけのオカルト研究部。
https://rev1.reversion.jp/character/detail/p3n000168


●フィールド
希望ヶ浜学園、グラウンド。
参加種目は障害物競争。
距離にしておよそ200メートル。
3連ハードル
平均台
2連跳び箱
網潜り
巨大トンネル&トンネル内部に設置された壁
5連ハードル
以上7つの障害物が設置されている。

  • <マジ卍体育祭2020>障害物競争。或いは、綾敷なじみと白い腕…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月19日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

咲々宮 幻介(p3p001387)
刀身不屈
イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
一条 夢心地(p3p008344)
殿
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
小烏 ひばり(p3p008786)
笑顔の配達人
相川 操(p3p008880)
助っ人部員

リプレイ

●障害物競争、開幕
 入場門にずらりと並んだ生徒たち。
 前列には障害物競争に参加する者たちが、後列にはその次に行われる仮装競争の列が形成されていた。
「あれ? 夢心地さんは?」
 おや? と首を傾げて問うた『猫鬼憑き』綾敷・なじみ(p3n000168)。本来であれば隣に並んでいるはずの『殿』一条 夢心地(p3p008344)の姿が見当たらないことに気が付いた。

「調査か……そうだな、俺が囮になるから出てきたら踏んでみっか」
 腕を組んで笑う偉丈夫。『咲々宮一刀流』咲々宮 幻介(p3p001387)が志気も高くそう告げる。
 そんな彼のすぐ隣では『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)が準備運動の真っ最中だ。
「えへへー、楽しみにしてたんスよぉ」
「怪我したら大変ですからね! 準備運動は、皆さまもしっかりしてくださいね!」
『想い出渡り鳥』小烏 ひばり(p3p008786)は屈伸を数度繰り返し、並ぶ仲間へそう声をかけた。
「折角の体育祭、怪異による競技の妨害なんて放っておけないよね。あたしたちで懲らしめてやろう!」
『特異運命座標』相川 操(p3p008880)もまた、意気軒高に入場の時を待っていた。短い髪にしなやかな肢体。アスリート然としたその体にはうっすらと汗が滲んでいる。ウォーミングアップは既に終えているらしい。

「さて、この競技に出るのは白い腕だったか? 何処で出るかがわからん以上警戒は怠れんな……」
「まぁ、やるべきことは変わらんさ」
 言葉を交わす『艶武神楽』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)と『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)。
 教師たちの競技参加に、生徒たちがざわついているが当の2人はどこ吹く風と言った様子であった。

「心配せずとも大丈夫じゃ、麿が実際に競技に参加し、何ごとも無いことを証明する! ……ところでのぅ、麿は障害物競争に参加したいのだが、ここ違うことないか?」
 運営委員の女子生徒へ向け、夢心地は問いかける。
「……え?」
 上から下まで夢心地の姿を睥睨し、女子生徒は困惑した表情。
 白に塗った顔面に結った髷。
 橙の羽織に袴姿の夢心地は、誤って障害物競争の列に並ばされていたのであった。
「ごめんね! その人、障害物競争の選手だよ!」
 仮装競争の列に、至極自然と紛れ込んだ夢心地。
 その手を掴んで『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)は、彼を列から引っ張り出した。困惑する女子生徒に笑みを反して、茄子子は夢心地を障害物競争の列へと連れていく。
「手間をかけるの。さぁ、障害物競争に挑むのじゃ」
「会長はリレーには参加しないよ!!」
 何故なら彼女は、怪談の類がひどく苦手なのである。

●位置について……よーい、スタート!!
 空砲が空に鳴り響く。
 まず真っ先に駆けだしたのは幻介だ。
「障害物があろうが無かろうが、今まで鍛えた逃げ足を舐めんじゃねえぞ!」
 姉に追われ、逃げる日々。
 そんな過去が、彼の足腰を強靭にした。理由はともかくとして、その速力は本物だ。

 次いでハードルに辿り着いたのはイルミナだ。
「EXAの高さを見せつけてやるっすよ!」
 まっすぐに伸ばした足。前方へ倒した上体。
 眼鏡の奥で青の瞳がきらりと光る。
 そんなイルミナの瞳に映る白い影。
 ゆっくりと湧き出るように地面から伸びたその腕は、隣を走る汰磨羈の脚へと向いていた。
「ふっ……悪いな。足には自信があってね」
 白い腕が汰磨羈の足首を掴む、その寸前。
 彼女は腕を大きく振って、空中で無理やりに姿勢を変えてみせた。
 白い腕の想定よりもわずかに前方へ汰磨羈は着地。
 タン、と軽い音が響いた。
「お、ぉぉっ!」
 汰磨羈は地面を蹴って跳ぶ。くるりと空中で一回転して、2つ目のハードルを乗り越えた。その様子を間近で見ていたイルミナは、思わず感嘆の声を零す。
 否、イルミナだけでなく観客席からも黄色い歓声が木霊した。
 しかし、白い腕も躱されたままでは終わらない。
 するり、と地を這うように汰磨羈の後を追いかけた。
「やらせないっすよ!」
 着地と同時にイルミナは深く身を沈め、白い腕へと足刀を放った。
 紫電が散って、空気の爆ぜる音が鳴る。
 一瞬、白に染まった視界に生徒たちが悲鳴を上げた。
 蹴り抜かれた白い腕は、のたうつように空気に溶けて姿を消して……。
「お先に失礼しますねっ!」
「ハードル手前の踏み切るタイミングには要注意だね!」
「あっ、ひばり! 待つっすよ!」
 減速したイルミナの真横を、ひばりと操が駆け抜けていった。

 タン、と地面を蹴り抜いて操は素早く残りのハードルを跳び越えていく。
 走者がハードルを跳ぶ寸前、その意識は否応もなく目の前のそれに集中する。
 で、あるならば……白い腕が姿を現し、走者の脚を掴むのならば、その機会を逃すはずはないだろう。
 そう考えた操の意識は、ハードルと、そして自身の足元へ。
 案の定、姿を現した白い腕に向け彼女は鋭い蹴りを叩きこんで見せた。
 数々のスポーツを経験してきた操である。当然、サッカーや足技のある武道の心得もあった。
 彼女の蹴りが、白い腕を捉えたその瞬間……。
「う……ひぇっ!?」
 ぞわり、と背筋を這う悪寒。
 急速に体の力が抜ける不気味な感覚に、操は思わず走る速度を落としてしまう。

 エイヤ! とばかりに諸肌脱いで、剥いた瞳で周囲を睥睨。
 袴の裾をたくし上げ、夢心地は平均台に爪先を乗せる。
 その横を、ひばりが急ぎ駆け抜けていった。その背を見送り夢心地は、静かに深く息を吸い込む。
 その時、顎を若干しゃくらせるのがポイントだ。その様は歌舞伎役者か、或いはどこかのコメディアン。思わず「後ろ! 後ろ!」と叫びたくなる衝動が、観客たちの胸の内から湧き上がる。
 右手で作った手刀をズバっと自身の首元へと掛けて……。
「白い腕~? 無い無い無い無い、そんなものは無いのじゃ!」
 手にした扇を大きく広げ、口元を隠した夢心地。
 スタン、と平均台に両脚を乗せ瞳を閉じた。
 彼には分かる。この度、目撃された白い腕が、生徒たちの気のせいだと。
 体育祭。鍛えた身体や、己が特技を活かして見せれば意中の男子、或いは女子生徒たちから黄色い歓声を集めることも夢ではない。
 思春期の少年少女たちにとって、体育祭とは大イベントなのだ。
 けれど、しかし……勝者がいれば敗者も当然存在するもの。
 その日の体調が優れないということもあるだろう。
 結果が奮わぬこともあるあるだろう。
 そんな時、人は言い訳をするものなのだ。ちょっとお腹が痛かった。うっかり足をくじいてしまった。膝に矢を受けてしまった。白い腕に掴まれた。
 思うように成果の出ない現実を、誰かの、何かのせいにする。人の悲しい性であり、そして人の弱さの発露でもある。
「心配せずとも大丈夫じゃ、麿が実際に競技に参加し、何ごとも無いことを証明する!」
 後続の走者たちよ、安心せよ! 
 白い腕など存在しないということを、麿が証明してみせよう!
 高らかにそう宣言した夢心地。
 その背後から伸びた白く細い腕が、彼の脚へとするりと伸びる。ここぞとばかりに並走していた茄子子が叫ぶ。
「後ろ後ろ!」
「むむっ⁉ この気配は……」
 と、夢心地が視線を足元へと落とした、その瞬間。
 白い腕が彼の脚を掴んだまま、地面の中へと潜って消えた。平均台から無理やり引き摺り下ろされて、夢心地は股間を強打。
 その時、彼の脳裏に稲妻が走り……。
「あふん!?」
「うぉ……」
 その様子をうっかり見てしまった幻介は、思わず走る速度を落とした。

 時間は僅かに巻き戻る。
 夢心地が白い腕に襲われているその最中、生徒や観客の視線は先を進むひばりの方へと向いていたのだ。
 平均台の上で倒立。そのまま、ゆっくりと前転……否、前方宙返りを決めた彼女はほんの僅かに身体を揺らすこともなく、静かに平均台の上に着地した。
 まっすぐに伸びた肢体。
 瞳は凛と、真正面を見据えている。
 口元に浮いた僅かな笑みは余裕の現れであろうか。
 野を超え、山を越え、川を越え。
 来る日も来る日も、誰かの想いを預かり届けるために彼女は走り続けた。
 ゆえに、彼女にとっては平均台なぞ何ら障害になり得はしない。
「やっぱり、走るのって楽しいですね!」
 ひまわりの花が咲くように。
 浮かんだ笑顔は心の底から幸福そうなものだった。

 悲痛な悲鳴が背後で響く。
 夢心地の身を案じつつ、しかり幻介は先へと進む。平均台から飛び降りた彼は、次の障害……跳び箱へ。
「出てくるんなら出てきやがれ……踏まれりゃ痛えだろ、変態じゃなければな」
 仲間の仇は俺がとる、と言わんばかりに意気込んで、幻介は踏切台に足をかけた。
 晴れた空に響く小気味の良い音は、彼が地面を蹴った音。
 高く、高く、跳ぶ幻介の視界の隅。
 着地地点に白い腕が現れて……。
「そこだっ!」
 幻介が足を振り下ろすその寸前……白い腕は、すぅと空気に溶けるようにして消えた。

 続けざまに跳び箱2つを飛び越えて、幻介はさらに先へと進む。
 その後を追うブレンダは、悔し気に唇を噛み締めた。
「ふっ……やるじゃないか! 白い腕退治はもちろんだがこの勝負、体育教師として負けるつもりはない!」
 発気揚々。
 燃える闘志を胸に秘め、ブレンダは地面に敷かれた網へと体を潜らせる。
 ブレンダと並び、なじみもまた網の下へと身を潜らせた。
 しなやかに身体をくねらせ、彼女は網の下を這い進む。その後を追うブレンダは、どうやら豊かな胸が邪魔で速度が低下しているようだ。
「フレッフレッみんな! 目指せ、トップ!」
 操、夢心地の回復を済ませた茄子子がブレンダの真横に並び旗を振る。
 走りながら声を張り上げているせいか、彼女の頬には汗が滲んで、髪がしっとり張り付いていた。
 息も絶え絶えといった様子の茄子子だが、しかし応援の手を止めることはしない。
「頑張れー!!ㅤ……はぁ……はぁ、応援しながら走るのめっちゃキツい……うおー!ㅤ頑張れ会長! 負けるな会長! あと、みんな!」
「もう、彼女を楽にしてあげようよ……」
 血でも吐きそうな茄子子の様子を一瞥し、なじみはそっと視線を逸らした。

 操が、夢心地が、そして茄子子が苦しんでいる。
 せっかくの体育祭で、実力を発揮できずに怪我をした生徒たちがいる。
 その原因は白い腕。
 ならば、ブレンダは体育教師として、そしてイレギュラーズとして、それを放置しておくことなどできはしない。
「体育祭の邪魔をするなら倒させてもらおう……」
 そう呟いたブレンダの眼前。
 地面から這い出た白い腕に向け、彼女は握った拳を力いっぱいに叩き下ろす。
 ズドン、と。
 地面が揺れるほどの衝撃。
「というか私の一位の邪魔をするな!」
 白い腕は寸でのところで姿を消して、ブレンダの拳を回避する。
 地面にはただ、拳の形のクレーターが刻まれていた。

●1着は誰の手に
 グラウンド内に設置されたトンネルに、まず辿り着いたのは幻介だった。
 暗闇の中、視線を凝らしそろりそろりと駆ける彼は周囲に視線を巡らせる。
「やっぱり俺が1番か。さて、先行して調べとくかね」
 前に伸ばして手の平に、冷たい壁の感触が返る。
 トンネル内部に設置された壁という障害物のせいで、思うように速度を出せない。この場でもたついてしまえば、大逆転も起こり得るという仕掛けだ。
 真っ先にトンネルを抜けて、ゴールへ向かうのは誰か。
 観客たちは固唾をのんで見守っていることだろう。 
 
 トンネル内部で悲鳴が響いた。
「う、おぉっ!?」
 それは先行した幻介の悲鳴だ。トンネル手前でほんの一瞬足を止め、イルミナ、操、ひばりの3名は視線を交わす。
 そんな3人の横を、飄々とした笑みを浮かべて汰磨羈が駆け抜けていった。
「幻介に何かあったようだな……何にせよ、これ以上の邪魔は許さん」
 トンネルへ入って行った汰磨羈を追って、女生徒3人組も駆け出した。
 それからほんの少し遅れて、ブレンダとなじみもトンネルに到着。
 全員がトンネル内部へ駆け込んだのを見送って、夢心地はふっと微笑む。
 内股になりひょこひょこと進む夢心地。
 彼がトンネルに辿り着くのは、もう少しだけ先のことになりそうだ。
 そんな夢心地をコースの外から、茄子子は必死に応援していた。

 数メートル先の様子も怪しいほどの暗闇の中、イルミナはにぃと笑んで目を見開いた。
 きゅい、とその瞳孔が収縮し、赤い光を灯したではないか。
 彼女の瞳には暗視機能が備わっている。ゆえに、この程度の暗闇であれば、問題もなく様子を見通すことが可能なのだが……。
「このカメラ・アイによる暗視機能が……って、何すか、これ!?」
 ぎょっ、と目を見開いたイルミナ。
 素早く足を蹴り出した。弾けた紫電が暗闇を白に染め上げる。
 明るくなったトンネルの中、顕わになったそれは無数の白い腕に掴まれた幻介の姿であった。

「何だ? 1体ではなかったのか?」
 手刀を一閃。
 首を傾げて汰磨羈が問うた。
「っていうか、これってあれじゃない? 幽霊の集合体ってやつかも!」
 きらきらとした瞳のなじみが、そんなことを口にする。
「ふむ……よくわからないが、全部斬ってしまえばいいか」
 低く腰を落とした汰磨羈は、そう呟いて地面を蹴った。
 弾丸のように疾駆した彼女は、駆ける勢いを乗せた手刀によってさらに1本、白い腕を斬り捨てる。

 霊とは本来、ひどくか弱い存在である。
 よほどに強い恨みや憎しみ、憎悪や怒りを抱いていなければただそこに存在するだけ。生きた人間の持つエネルギーに弾かれ、そのほとんどは何ら影響を及ぼすことなどできはしない。
 道連れを欲する霊がいたとして……その手を生者に伸ばしたとして、できることはせいぜいが転ばせる程度。ほんの少しの怪我をさせるのが関の山。
 で、あれば……。
 1体で足りないのであれば、2体、3体と寄り集まってしまえばどうか……。
 体育祭という賑やかな場に集まった浮遊霊の集合体……それが夜妖と化したものが“白い腕”の正体である。
 と、解説するなじみを他所にイレギュラーズは白い腕たちの殲滅を開始した。
 腕の数が多くとも、その本体となる夜妖が何処かに居るはずだ。
「お見通しだよっ!」
 地面を這って伸びる腕を、操はバックステップで回避。
 伸びた腕に向けイルミナが足刀を打ち込んだ。
 イルミナと手を繋いだひばりが、薄れる白い腕に向けて問いかける。
「ねぇ、どうしてこんなことをするんですか?」
 囁くようなその問いに、終ぞ返事はないままに。
 白い腕は、闇の中に溶けて消えた。

自身に【イモータリティ】を行使し、操は暗闇を駆けまわる。
 フェイントを交えた軽快なステップは、バスケットボールのそれに似ていた。
「ここでリタイアとかありえないからねっ!」
 彼女を追って、次々襲いかかる腕。
 その1本を、ブレンダの拳が捉えた。
「ゴールはもうすぐそこ。邪魔をするな!!」
 大喝一声。
 響く怒号がトンネル内に響き渡った。猫の耳を抑えた汰磨羈となじみが顔を顰めて蹲る。
 ふと、そんな2人の視線が交差し……。
「程よく腹が減ってきたことだし、どうだ、なじみ。同じ猫のよしみという事で、一緒に飯を食わないか?」
 汰磨羈はなじみを昼食に誘う。

 地面に倒れたその影は、心なしか内股気味の夢心地。
 皆に遅れ、トンネルへと踏み込んだ彼に向けて襲い掛かった白い腕。それを逆に捕らえた彼は関節を極めてその動きを封じていた。
「なーーーっはっはっは! もはや泣いても許してやらぬぞ!」
「おう、そいつが本体っぽいな! そのまま抑えてろよ!」
「ついでに出口までの壁も斬ってくれる!」
 夢心地の抑えた白い腕には、半透明の“身体”があった。白く、朧げな肉体。よくよく見れば、それは無数の“顔”の集合体にも見える。
 ペンを構えた幻介と、あろうことか剣を持ち込んだブレンダはイルミナの起こしたスパークに合わせ白い腕本体へと接近。
 大上段から振り下ろされた2人の剣戟に、夢心地は白い顔をより一層に白くする。
「や、ちょっ……麿もおるのだぞ!」
 悲痛な叫びは、しかしあまりに遅かった。
 駆ける勢いを乗せた2人の斬撃により、白い腕は切り裂かれ、トンネルの壁は吹き飛んだ。衝撃で地面を転がる夢心地。
 その後を追って駆けだしたのは、操であった。
「競技はまだ続いてるんだよ!」
 最後の障害、5連ハードルを跳び越えて操は1位でゴールテープを切ったのだった。

 操に次いで、なじみ、汰磨羈、幻介、ブレンダがゴールを潜る。
 少し遅れて、手を繋いだイルミナ&ひばりがレースを終わらせた。
「二人でぶっちぎりゴール……とはいかなかったっすけど」
「楽しかったから、いいんです!」
 ひばりの右手はイルミナと。
 左の手を取る白い腕は、ゴールの手前で空に溶けてどこかへ消えた。
「女生徒も女教師も……キャーステキと群がってくる未来、が」
 這う這うの体でゴールを潜り、夢心地は地面に倒れる。
 そんな彼の隣には、同じく体力の限界を迎えた茄子子の姿。
「会長は、もうへとへとだよ……帰りたい」
 力尽きた彼女の姿を、記録係が写真に収めて第一レースは終わりを迎えた。

成否

成功

MVP

一条 夢心地(p3p008344)
殿

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。
無事に白い腕は討伐され、障害物競争は終了しました。
依頼は成功となります。

この度はご参加ありがとうございました。
ドタバタとした障害物レース、お楽しみいただけたなら幸いです。

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