シナリオ詳細
DIDRABOCCHS
オープニング
●スクレイパー
はじめ、どのようにしてそれがやってきたのか、どのようにしてそれが現出したのか、誰もわからなかった。誰も気づくことはなかった。
こんなにも巨大で、こんなにも瘴気で溢れているというのに、本当に誰も、気づかなかったのだ。
それは、やはり、あと言う間に現れたのだ。
「な……え……?」
男が呆けてしまうのも無理はない。突如として目前に、本当に目と鼻の先に、自分より遥かに大きな顔があったなら、それが顔だとはわかるまい。ましてや、それが巨人であろうなどと誰が考えるだろう。
だが巨人の方がぼうとした相手に合わせてやるという道理もなく、長い長い腕を振り回せば、家屋のいくつもが、それだけで倒壊してみせた。
悲鳴があがる。悲鳴があがる。誰かが叫び、誰かが嘆き、誰かが失われたのだ。
そうやって巨人が動いたから、男の目にもようやっと全貌が見えてくる。
それは規格外の大きいが、それでもひとの形をしているというのに、獣のように四足で己の身体を支えていた。
フォルムは一見細身だが、筋肉は引き締まっている。眼球が左右に2つずつ存在し、額に切れ込みのようなものがある。
女とも、男ともわからない。そんなものは、巨人にはないのかもしれない。
形だけが人間のようで、まるで人間ではないそれ。しかし男はそれを知っていた。小さい頃から、夢物語の中で知っていたのだ。
「ディドラ、ボックス……? 嘘だろ……」
それはおとぎ話の中の怪物のハズだった。ひとの成功を奪い、成立を崩し、成形を脅かすと言われた巨人。
逃げなければならない。男の知る限り、ディドラボックスとは話し合うことも、見逃してもらうこともできない。破壊の限りを尽くして過ぎ去るか、誰か英雄の手で葬り去るか、そうしなければ終わらない災害のたぐいであった、
しかし、残念ながら、男はこの場を去ることすらかなわない。
振り向いて走り出そうとした矢先、足がもつれ、その場から一歩として動く事ができなかったのだ。
「あれ、なんで……?」
立っていられなくなって、地に手をついて、顔を上げれば、またそこに怪物がいる。
それだけで男は動くことが出来ない。本能は逃げろと叫んでいるのに、震えてしまって何も出来ない。ただ口がゆっくりと開き、自分を咥えて、臼歯だらけの歯並びが何もかもをすりつぶすまで、何もすることが出来なかった。
●プライマリーサーフェイス
「ディドラボックス伝説って、知ってるッスか?」
皆を集めた情報屋がそういうと、何人かは首をかしげ、何人かは心当たりがあるのか、しかしどうしてそのような話をするのかわからず、同じ様に首を傾げていた。
どうやら、豊穣では有名なおとぎ話であるらしい。
なんでも、出鱈目に破壊を振りまき、ひとの成功を食べて生きている怪物なのだとか。
幼子に向けて、「悪い子でいると、ディドラボックスがやってくる」と脅すこともあるのらしい。
しかし、その口ぶりからすれば。
「はい、出現したッス。正確には、外見や行動が地域伝承上の生物『ディドラボックス』に酷似しているため、仮称としてディドラボックスと呼ぶことになったッス」
それはそうだろう。誰も見たことがない怪物が確実にそうであると断言できる要素はない。
「このディドラボックスが出現し、破壊行動をとっているッス」
つまるところ、仕事の内容は討伐だ。その一点においては非常にわかりやすい。
「観測上、非常に強力な個体と思われるッス。くれぐれも、無理は禁物ッスよ」
- DIDRABOCCHS完了
- GM名yakigote
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年11月26日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●カットソウ
それは、分け与えるものであった。己の肉を使って山々を作り、髪を使って草花をこさえた。心を使って命を育み、魂を削って傷を癒やした。そうするたびにそれはすり減り、何も持たなくなっていったが、分け与えられたものを喜び、笑ってくれることが嬉しくて、それを思えばそんなことをはまるで苦にならなかった。そうしていつしか、それは分け与えられるものがなくなるほどに虚ろになっていった。
それが、どれであるかということなど、渡された資料には書かれていなかったが、その必要などまるでないのだと思い知らされた。
遠目に見てもなお、その巨体。手を振り上げ、薙ぐだけで何かが倒壊する音と、悲鳴と、土埃があがっている。
あれがそうなのだろう、という表現は正しくない。あれがそうに違いない。
ディドラボックス。成功を奪う巨人。
「ディドラボックス伝説ですか。なんだかとんでもないお話ですね。成功を食べるだなんて」
『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)は疑問に思う。他人の成功を奪うことに、どのような意義があるとうのだろうか。経過も努力も伴わず、ただ完成されたそれを奪い去る行為など、虚しいもののように思えるが。
それとも、他に意味があるのだろうか。
「僕達から成功を奪うなら奪ってご覧なさい。僕達は全員で成功を収めてみせますから」
「どうせ現実になるなら、『めでたしめでたし』で終わる幸せなおとぎ話だけにしなさいよね……!」
ディドラボックスの巨体に、『二人でひとつ』藤野 蛍(p3p003861)が怯まなかったわけではない。大きいということは、それだけで脅威なのだから。しかし、恐怖とは麻痺させるものではない。抱えた上で、なお拳を握る強さを、蛍は持ち合わせていた。
「こんな残酷なおとぎ話、必ずボク達がリアルから消し去って、伝説の中に叩き返してあげるわ!」
「他者の成功を奪う巨人……何故でしょうね、伝承の類ですのに、近代資本主義の暗部が具現したようにも思えます」
意図を考えようとして、『二人でひとつ』桜咲 珠緒(p3p004426)は首を横に振り、それを掻き消した。今考えても、せんのないことだ。
「……思索は後、ですね」
意識を戦うことへと向けていく。先鋭化していく。尖らせていく。その存在がどうであろうと、目の前で起きている悲劇だけがわかりきった現実であるのだ。
「大きい!」
その巨人を見上げて、『雷虎』ソア(p3p007025)が出した言葉は率直なものであった。
大きい、見上げるほどに大きい。どうしようにも、まずはそれが目についてしまうのだ。外観の美醜よりも、振り翳される膂力よりも、どうしようもなく、大きい。
だが、その一挙手一投足の次に悲鳴が起こるものだから、思わず眉を顰めていた。
「巨人ってどんなものだろうと思ったけれどこいつは完全に魔物だね。ボクたちが退治しなくっちゃ」
「まったく、デカいだけならまだしもなんて面倒なモンスターなのでしょうか」
『騎士の忠節』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)が聞いた話をまとめれば、その見た目に反して、行いはどうにもトリッキーなものだ。
成功を奪い、自分のものとする。行動を掠め取り、なかったことにする。それでいて凶暴とくれば、なるほど、始末の悪い生き物であるようだ。
「面倒くさいですが僕のやることは変わりません、仲間を守るだけです」
「はっ、でけぇな!」
まるで牙を剥き出しにして、戦意を示すような笑みを『マジ卍やばい』晋 飛(p3p008588)は浮かべてみせた。
「だがよ、最高だぜ! 人が人を殺す血腥い戦いより、化け物退治。自分を疑うことなく思うがままに暴れられる!」
そうだ腕が鳴る。誰それの思惑に左右されることはなく、理由や大義を抱え称える必要もなく、ただ一個の武人として振る舞える。
「こういう戦いが俺ぁしたかったのよ! 行くぜ蚩尤!」
「山を盛ったか湖掘ったか」
どことなく、その名前の響きに、『守護竜』マリア・ドレイク(p3p008696)は覚えがあった。
ディドラボックス。もう少し、別の音であったかもしれないが。
「私が知ってる昔話は、山や湖を作っていたけど、地域によってこれだけ話が変わるのは、面白いわね」
もしくは、なにか歪められた後であるのか。
「ディドラボックスのことは知っておったが、行動を奪うとはなんともよくわからん奴じゃな……」
地方によって子細の違いはあるかもしれないが、『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)も、このおとぎ話の大概は慣れ親しんだものだった。
曰く、成功を奪い、成立を崩し、成形を脅かす巨人。実在するとは、思っても見なかったことではあるが。
「幽世歩きであるわしも似たようなものか。確かなのはどっちも面倒じゃということじゃな」
「今回の戦いは、いわばカードゲームのようなものですね……」
『 』伽藍ノ 虚(p3p009208)が、現時点で知る限りの確定情報をもう一度振り返っている。
「こちらがどんなカードを切り、相手に手札を切る選択を強いるか……」
何をするかはわかっていて、どこでするかはわかっていない。だが、相手が生き物だという前提があるのだから、やりようはあるはずだ。
「……それができれば、勝機はあります」
走るほどに家々が流れていって、そろそろ巨人の全貌も拝めそうだというところ。『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)が合図をしたので、全員がその足を止めていた。
何のことはない。ゆうくりとでも、すみやかにでもなく、巨人がこちらを向いたのだ。
愉悦も快楽もない顔で、こちらを向いたのだ。
●トップコート
それでも、彼らは言う。もっと欲しいのだ。もっと分け与えて欲しいのだ。それが出来るというのに、出来るはずなのに、それは何をしているのだ。それは擦り切れてちっぽけになってしまった心を痛めた。彼らにまた喜んで欲しいのに、彼らにずっと笑っていてほしいのに、それができない。彼らは与えられなければ喜ばない。笑わない。もう自分にはそれができないのに。できないほど、小さくなっているのに。
ディドラボックスは立ち上がらない。
それは目についたほうへ四つん這いのまま移動する。その間に家々が建ち並ぼうと、崩し、潰し、跳ね除けてやってくる。
巨人が目の前にたどり着く頃には、大きな道が出来上がっていた。
●セメント
ああ、そうだ。奪えばいいんだ。奪って、奪って、自分を増やせば、自分を大きくすれば、また分け与えることができる。今や彼らのほうが自分よりもたくさんのものを持っているのだから。奪おう、奪い尽くそう。そうして自分の中に貯め込んで、また分け与えられれば、彼らは喜んでくれる。また笑っていてくれる。そのために奪おう。成功も、到達も、完成も、いつかきっと、彼らのためになる。
はて、何をしていたのだったか。
ぼおんやりとして思い出せず、思い出そうとする行為すら霞がかっていく。風景も何だかぼやけており、どこにいたのか、何をしていたのか、まるでわからず。
ただ手を伸ばし、そのひとに声をかけようとして。
「…………嗚呼、夢ですね」
靄が弾けて消えれば、そこには倒壊した家々と、眼前の巨人。何のことはない、見せようとしたものを、見せられた。それだけの話しだ。これはそういうもので、そういうことをするのだから。
「成功を奪って楽しいですか? 虚しくないですか?」
身体は時間を奪われたかのように動かない。心は蝕まれたかのようにじくじくと痛む。しかし何のことはないと思えていた。この瞬間が切り取られたとて、これまでが無に帰すわけではないのだから。
「成功は自分で築き上げるからこそ意味があるのです。貴方の成功はあくまで偽物。貴方の築き上げた成功も全て偽物。何の意味があるというのですか?」
ぐらりと傾きかけた身体を踏みとどまらさせ、ずきずきと痛む脳の警告をゲオルグは黙殺することにした。
誰の何を奪われたのか、考えている余裕はない。目の前の怪物に集中しろ。人の成功を奪う得体のしれない巨人の、何一つとして見逃すな。
ひとつ、と。脳でカウントする。戦闘のために身体を動かしながら脳を働かせるという行為は、がなり立て続けている頭痛を助長させたが、それで弱音を吐く余裕もない。
敵の動きを見る。味方の攻撃を見る。どれが成立していて、どれが消えているのか。不自然なつなぎ目の隙間があるはずなのだ。
と。
不意に味方の攻撃が途切れた。その隙間を埋めるようにして、巨人が、怪物が、ディドラボックスが腕を振りかざす。
ふたつ。
呼び出すは炎狼。痛みでノイズが流れる思考でも、術式が乱れることはない。焔でできたそれらは巨人を取り囲み、その大きな体を飲み込むだろう。
細く、長い息を吐く。さあ、もう一度数えよう。
ディドラボックスから放たれた炎を前にして、蛍は迷うことなくその前に自身を晒し、受け止めていた。
「ぐ、うう……!」
痛みの種類と、攻撃の予測を立てることが難しい。言うなれば、こちらの攻撃の全てを使用する可能性がある。事前に行動の如何を察知することは出来ず、それでも仲間の盾として機能しているのは、ひとえに蛍自身の経験則によるものだった。
戦い、血を流し、それでも危険の中に身を晒し続けてきたからこそ、盾として成立している。こればかりは、如何に大きな怪物が成功を喰らおうと、手にできないものだ。
成立の瞬間を掠め取ろうと、過程を得てはいないのだから。
覚えている言葉を暗唱する。言葉に癒術を乗せ、展開を試みるが、何も起きない。
奪われた、奪われた。そうは思うが、それでも問題はない。その分だけ、誰かが傷つくことはないのだから。
得も言われぬ喪失感は幻想だ。この瞬間を切り取られたに過ぎない。
「これ以上、もう誰も死なせない……!」
珠緒はじっと、ディドラボックスのことを観察している。
かと言って、完全な『見』に回らせてくれるほど、生易しい相手ではない。奪われた一撃一撃は重く、しかし奪われなければ、もっと手痛い一撃が待っている。
奪われないようにするのではなく、奪いたいものをこちらで絞ってやらねばならない。思考を巡らせながら、それでも攻撃の手を緩めることは許されなかった。
「奪取は防げなくても、挙動を読めば対応の幅が増えるはずです!」
行動の一貫性。おとぎ話に出てくるようなモノとは言え、生物である以上は習性が、特徴があるはずだ。
そうやって見ていたからこそ、気づいた。
「……つまみ食いを、しているみたい」
そう、怪物は特定の行動に目をつけて奪い続けるようなことはしていない。まるで集めるように、幅広く蒐集するように、あらゆる行動をひとつひとつ、奪い取っていた。
その意味を掘り下げる暇はなく、今は疑問を抑え込んで、ただ仲間に伝えることとした。
自分の体が動かないことを自覚したソアであったが、しかしにやりと笑みを浮かべていた。その顔は『してやったり』と言わんばかりだ。
怪物が首を傾げている。奪ったはずの成功が、掠め取ったはずの成立が、自分のものとして完了しないことが不思議でならないのだろう。
「ボクの攻撃は精霊であるボク自身が使ってこそなんだ。真似をしたって、雷は上手く言うことを聞いてくれないよ」
ディドラボックスがソアから奪ったイカズチが降るのは、もう少し後のことだ。彼女がそれを瞬時に発生させるのは彼女自身の練度に依るものであり、現在として成立するそれそのものには由来しない。
この瞬間の成功しか奪えぬ巨人では、その練度まで自分のものとすることができないのだ。
攻撃の隙間。十秒に満たないが、明らかに出来上がったディドラボックスの停滞。
ソア自身は動けなくとも、仲間がその瞬間を見逃すはずがなく、集約されたそれらが怪物を嘶かせた。
降ったイカヅチは重く、アルヴァの全身に強い痛みをもたらしたが、彼は何のことはないと言うように、手首を軽く振ってみせた。
「悪いけど、お前の攻撃は僕が受けることになっています。大人しくこっちに攻撃してくるといい」
盾役の矜持である。たとえ膝をつこうが腕がもげようが、その攻撃を受け止め、最初に倒れるのは己であれという自負。たとえその相手がどれほど巨大で、どれほどの痛みを伴おうと、構え続けなければならない。標的となるのは自身でなければならない。
「…………?」
だが、様子がおかしい。攻撃が、こないのだ。自分の手の届く範囲外に何をしているわけでもない。
「…………何回、奪われました?」
予感と言おうか、経験則と言おうか。猛烈に感じるそれを根拠にアルヴァは一歩前へと進み出る。
「ッ……僕の、後ろへ!!」
怪物が口を開く。何かを食べるような、食らうような、そんな動きの直後。
「僕が生きてる間は、後ろの人へ指一本触れさせません!」
高周波のような音を感じて、飛は意識を覚醒させた。
額を抑え、首を振ってその音を振り払おうとしたが、収まらない。どうやら、轟音で一時的に耳がやられたようだ。
アームドギアの巨体を起こし、周囲を確認しようとしたが、巻き起こった砂埃で視界が悪く、全容を確認することは不可能であると思われた。
だが、声が聞こえる。痛みに耐える仲間の声ではなく、悲劇に嘆く民衆のそれでもなく、さっきからずっと聞いている、怪物のもの。雄叫びのような、怨嗟のような、葛藤のような、巨人の声。
ならばやることはシンプルだ。敵を倒せ兵隊。エンジンを噴かせろマシンナー。
敵がいて、自分がいて、どちらもまだ立っている。ならば銃を回せ。弾幕放火に晒してさしあげろ。
引き金を絞れば、轟音と火薬の匂い。四つん這いで立つその肘一点に、ありったけをぶち込んだ。
「ここで沈んでやるかよ。俺が終わらせてやらぁ!」
ぐらりぐらりと揺れる視界の中で、マリアは懸命に自身を立たせようとしていた。
土埃で視界は悪く、しかしまだ戦っている音がする。鋼のぶつかる音が、銃弾の放たれる音が聞こえるのだ。
そちらへと脚を向ければ、ようやく土埃が晴れて、見えたのは巨人の背中だった。
ぐるりと振り向く怪物。四つの目が自分を捉え、大きな手が振り翳されている。
近くで見た巨人の顔に悲壮感も享楽的なものもない。敵を痛めつけてやったという愉悦のそれも見当たらず、何か焦っているような、義務感に囚われた顔のように思えた。
「……目が4つもあったら、死角にならないのかしら?」
覚えているのはそこまでだ。視界が暗転する前に、目の前は巨人の大きな手のひらで覆い尽くされていた。
虚の頭の中で、脳がずっとアラートを流している。
痛みや怪我への警告ではない。こんな怪物と戦うと決めた時点で、それを伴うことはとうに覚悟の内に含めている。
「…………これは、もっとわかっていたことへの警鐘ですね」
それは、いまさら計測しても、もう意味はない。いくら巨人が成功を奪えても、その成功に費やした過程を奪うことができないのと同じ様に。過ぎ去った時間を、なかったことや巻き戻すことなど出来はしないのだから。
だから、残されたのは選択肢だ。過程は変えられない、いつだって選び取れるのは未来だと限定されている。
だがその中で、過ぎ去ったことへの疑問を脱ぎきれずに何時。
「……戦い始めてから、どれだけ経っていますか?」
巨人が咆哮をあげる。食らうような仕草を見せる。全身から吹き出す赤いもの。時間がない。差し迫ったその瞬間が訪れたのだ。
さあ、未来への選択肢だ。
退くか、抗うか。
瑞鬼は急に喉をせり上がってきたそれを、かふりと地に吐いた。
砂埃でよくは見えないが、どうやら赤いものであるらしい。今の一撃で、臓腑のどれかを傷つけたのだろう。
「なに、肺や心臓ではないわ」
傷んでいることには違いないが、それは巨人とて同じだ。見ろ、今や片側の腕を失い、獣のように走ることも出来ず、そのままの意味で這うている。
どちらも片膝をついて剣を持つような状況であることに変わりはないようだった。
「ここから先はどちらが先に倒れるかの勝負というわけじゃな。面白い、まぁ最後に立っているのはわしらじゃがな」
思い切り睨みつけ、大仰に腕を動かし、印を組む。何一つ誤りのない所作。どこからどう見ても、成功の技。
だから奪われた。巨人がそれを掠め取り、完成を己のものとする。しかしその術式で、瑞鬼が傷つくことはなかった。
「そいつは傷をつけるものではないからのう。それとな……使うほうが、痛むのじゃよ」
巨人の全身から、赤いものが噴き出した。
●リューター
そうやって蓄える。奪って、奪って、蓄える。だけどすり減った心だけは戻らなかったから、それはいつしか、どうして奪っているのか、わからなくなってしまった。
巨人が消えていく。
塵となり、霞となって消えていく。
死んだ、ようには見えなかったが、健在であるようにも思えない。
おとぎ話の国の住人であるから、きっとおとぎ話の国に帰っていくのだろう。
そう思うことにして、顔を上げたときには、何か台風でも過ぎ去ったかのように、壊れた町並みが残るだけだった。
了。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
いずれ山々に。
GMコメント
皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。
豊穣のとある町にして巨人型のモンスターが出現しました。
これを討伐してください。
【エネミーデータ】
■≒ヘカトンケイル “ディドラボックス”
・四つん這いの巨人。全長は遥か見上げるほどになると思われますが、二本の足は退化しているのか、立ち上がろうとはしません。
・非常にHPと攻撃力に優れている。
・1ターンに2度の主行動・副行動を行う。HPが25%を下回ると、1ターンに3度の主行動、副行動を行うようになる。
・必ずターンの最後に行動する。
・以下のスキルを持つ。
◇成功ヲ貪ルモノ
・相手の任意の行動を無効とし、代わりにその行動を取る(このスキル効果のみ、ターンの最後ではなく行動を無効化された相手と同時に行動する)。対象を再選択し、数値はディドラボックスのものを参照する。行動を無効にされた相手はこのターン、行動できない。
・このスキルを使用すると、ディドラボックスの同一ターン内に行う主行動・副行動が1回減る。
・クリティカル判定を得た行動には任意ではなく、必ず使用する。
・ファンブル判定を得た行動には任意ではなく、絶対に使用しない。
・このスキルはディドラボックスが主行動・副行動を行えない場合、使用できない。
◇飢ゑ
・ディドラボックスの行動手番時、主行動・副行動が2回以上行える場合に使用する。
・シナリオに参加している全てのプレイキャラクターに攻撃する、万能、防無、必殺。
・このスキルの使用後、同一ターン内にディドラボックスは行動できない。
・シナリオ開始から20ターン経過後、主行動・副行動の残り回数に関係なく、毎ターンの最後に必ず使用するようになる。
◇乀
・広、貫、レンジは以下のどちらかを選択する。
①R0~R2において命中補正+10
②R2~R4において命中補正+5
◇△<<
・このシナリオでは不運、不吉、魔凶には誰もならない。
【シチュエーションデータ】
■豊穣にある町
・いつもはにぎやかな町並みですが、町民の全員が避難しているか、既に助けを必要としていません。
・並ぶ建物の殆どが半壊している。
・昼間。
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