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シナリオ詳細

<Common Raven>ダンジョンの基礎を学ぼう(With盗賊団

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●新人研修の時間外だ!
「では、新しい仲間の門出のためにもここはダンジョンアタックといきましょう! ちょうど今はファルベライズの依頼が多いですからね!」
「楽しみであるな。我を素人扱いせぬような、本格的なものなのだろう?」
 ハンス・キングスレー (p3p008418)が満面の笑みで遺跡群のひとつ、そこそこ歯ごたえがある場所と噂のところへと楼蘭 (p3p008421)を案内する。楼蘭は新人ながらも尊大(というか威勢のいいと言うか)態度を崩さず、挑戦的な笑みで仲間達を見回した。……そう、仲間達である。
 今回、ハンスの師匠である源 頼々 (p3p008328)、冒険を多くともにしたボディ・ダクレ (p3p008384)、マッダラー=マッド=マッダラー (p3p008376)、マッチョ ☆ プリン (p3p008503)、そしてこちらも新米のオデット (p3p008824)ら……『ギャザリング・キャッスル』の面々と来ているのである。主に楼蘭とオデットが依頼とはなんぞや、今の情勢はどうなっているのかというのを学ぶ一貫であり、丁度いい所に色宝回収という事案が転がっているのだから喜ばしいと言えようか。
「会長が2人だけは倒れないように全力で癒やすからね! まあ他のみんなもだけど!」
「ところでなんで茄子子は我の頬を定番の流れみたいに免罪符でひっぱたいてくるのか」
 自信満面に宣言する茄子子。こいつ当たり前のように頼々イジりが加速してるけど多分このシナリオだけだよこういう傾向。
「プリン!!! 甘イニオイ! ウオオオオオ!!」
「新しい物語を紡げる、そんな予感と雰囲気のある遺跡だな。こう、入り口が複数あるところとか……」
「……複数っていうかあそこ。人、いませんか?」
 甘い匂いにつられたマッチョは置いといて、マッダラーは歌い出しそうな流れで不審な点に気付いていた。そしてボディは怪訝な顔をする。……人?
「アニキ! あいつら見かけない顔ですぜ!」
「チッ、遺跡を探索に来たイレギュラーズか! お前等! この遺跡はなんとしてもこの大鴉盗賊団、『無音瞬速のリッド』様達が頂くってことを教えてやろうぜ!」
 ……どうやら、というか間違いなく、彼らは昨今話題に上っている『大鴉盗賊団』の面々。そしてリーダー格はどうやらそれなりに『デキる』類らしい。
 すわ戦闘か、と思った一同はしかし、明らかに人が入れる大きさではない入り口からにゅっと消えていった大鴉盗賊団の面々に目を瞬かせる。
「こちらはやたら大きな入口、あちらは小さな入口……どう思いますボディさん?」
「もしかしたら、入口の大きさになにか意味があるのかもしれません。ですが彼らの突入した方は封鎖されていますね」
 明らかに妖しい2つの入口、そしてそのサイズ。
 絶対に何かある――だがそれ以前に、色宝を奴らに奪われるのはまずい。絶対に追い越さねば!

●ちいさく、でっかく
 暫し後、『小さい入口』側の通路。
 何も考えずに突っ込んでいった大鴉盗賊団は、天井から降る小さな雫、ダンジョンに住み着いたネズミたちに大いに困らされることとなった。
 彼らは入り口の大きさに合わせ、大幅にちいさくされていたのだ。要は、それだけこう色々と厄介事が増えるわけで。
「こんなことなら大きい入り口から入れば良かった!」
「……そうでもないですぜ、アニキ」
 リッドが嘆くと、部下の一人が首を振った。あちらは簡単か? 否、そういうわけではない。
 噂によれば――『大きい入り口』は、ビッグサイズで大雑把で、それでいて『ヤバい』罠が揃っているのだ……!

GMコメント

 ご指名ありがとうございます。
 容赦はしないからな。

●達成条件
 遺跡探索を完遂し、『大鴉盗賊団』より先に色宝を手に入れる
(オプション)盗賊団の損耗7割以上
(オプション2)『無音瞬速のリッド』撃破

●ファルベライズ遺跡群『ビッグ・オア・スモール』
 入り口が極端に小さいものと、かなり大きいものに分かれている遺跡。それぞれに1グループずつ入り、双方の全滅かクリアでのみ次の挑戦ができる仕組み。
 小さい入口から入ると体が小さくなるが遺跡の通路は通常サイズ。水漏れや小動物をなんとかして小さい自分と折り合いをつけつつ攻略せねばならない。
 大きい入り口(PC側)から入ると、巨大な罠、通常の罠のサイズアップ版、めっちゃでかい敵などを蹴散らし進む必要がある。
 前者はスニーキング向け、後者は純然たるハクスラ向けというわけである。当然ながら後者のがめっちゃ厳しい。つづらも欲も小さい方が徳を積んで得をするってか。
 遺跡(入り口大)内はめちゃくちゃ大きいトラバサミとか広範に亘る落とし穴とか杭みたいなのが飛んでくる矢トラップとか、大味でデケェのがくる。
 現れるモンスターも様々だがでかいので通常よりHPが多めである。
 まあ、色々あるよ。

●遺跡ボス『ビガー・ケージズ』
 巨大な檻そのものがボスのようなもの。ボスフロアに到達した者達を部屋ごと閉じ込め、最終的に消化してあらたな仕掛けに魂を組み込もうとする。サイズは50m四方、本体は檻。めっちゃ極悪では?
 特性上「すべての攻撃射程が命中減衰なしで当てられる」が「檻に当てるためそもそも命中補正にややマイナスがかかる」仕様。命中に自信がないなら行動を待機して皆の集中攻撃に合わせよう。
 その代わり、檻なので怒りなんて通じない。
 大鴉盗賊団とは純然たるダメージレースになるので、妨害も必要だろう。
・檻の熱(神特レ:戦闘エリア全域。火炎)
・檻の毒(レンジ同上、毒)
・檻の槍(物特レ:檻の上下左右端部から1レンジ貫通、高CT)

●大鴉盗賊団
○リーダー『無音瞬速のリッド』
 その名の通り反応が高く攻撃・非戦ともに「存在感を消す」ことを得意としている。
 攻撃に高確率で不意打ちとなる特性を持つ。
 主に幻惑系の攻撃が多く、精神面でキツい相手となっている。

○部下×5
 リッドの部下。リーダー想いでEXFが高め。庇いにもくる。

 そんなかんじで、いっちょいってみましょう。
 よろしくおねがいします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <Common Raven>ダンジョンの基礎を学ぼう(With盗賊団完了
  • GM名ふみの
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年11月23日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

源 頼々(p3p008328)
虚刃流開祖
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
ハンス・キングスレー(p3p008418)
運命射手
楼蘭(p3p008421)
龍帝
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
目的第一
オデット(p3p008824)
Continued

リプレイ

●成長は人それぞれ
「今回はギャザキャスから新人の後輩が三人も参加してくれたね! 楼蘭くんにオデットくんにプリンくん……あれ、プリンくん強くない? この場の誰よりも強くない?」
 『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)は居並ぶ『ギャザリング・キャッスル』の新人達――『龍帝』楼蘭(p3p008421)、『Continued』オデット(p3p008824)、『たんぱく質の塊』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)――を順繰りに見て、最後にマッチョのところで視線を止めた。高い防御技術、底なしともとれる魔力、そして失敗とは無縁のその安定感。ぶっちゃけ守りに入ればこの中の誰よりも頑健だ。こいつ夏頃からセミおっさん追いかけたりしてたけど新人枠は無理がない?
「宝ハ手ニ入レル、後輩達ニプリンヲ教エル……ドッチモ出来テコソノコノオレ! マッチョ☆プリンダッ!」
 完全に先輩枠だもんな。「黄宝」、要は「トレジャーなプリン」のために気合十二分だもんな。
「守られて戦場を進むというのは久々であるな。皇帝となって戦場を駆けていた時はいつも先陣を切り敵を一騎当千に薙ぎ倒していたものよ」
「さあ、準備は出来ているかな? 蘭爺様。油断大敵。なにせこの世界は、『何でもない日を祝いたい』ほど刺激的なことに満ちているーー!」
 『虚刃流直弟』ハンス・キングスレー(p3p008418)は楼蘭に芝居がかった話しぶりで語りかけつつ、遺跡の中から発散される悪意の波長に舌なめずりをする。凶悪無比な罠の匂い、手配書に載っていそうな悪人の先行。何れにせよ、新人を先導すべき「なんでもない日」に似つかわしくない状況が雪崩のごとくに押し寄せている。
「葡萄酒の如く芳醇な罠の匂い。酔いしれるまで飲み干すもよし、知識と経験で楽しむのもよし。さて、行こうか友人達よ。ルーキーの手前無様な姿をさらしてくれるなよ」
「どうやらイレギュラーが発生したようですね。こうした事態もまた依頼の日常、これを機にお二人にも知って頂ければ幸いです」
 『泥人形』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)と『痛みを背負って』ボディ・ダクレ(p3p008384)は楼蘭とオデットに笑いかけると、仲間達に気を引き締めるよう釘を刺す。この場の面子が状況や敵の強弱で気を緩めるとは思っていないが、不測の事態は僅かな気の緩みも失敗に直結しかねない。
「前回の竹林では酷い目に遭った故、今回はおふざけ無しである。ここらで虚刃流を宣伝がてら、我の本来の強さを見せねばな!」
 『虚刃流開祖』源 頼々(p3p008328)に下心が無いといえば嘘である。が、竹林城の一件でかなりの痛い目に遭っている手前、後輩、ひいては将来の門下生(希望的観測)の前で無様を晒すわけにはいかないのである。
「多分なんだけどさ、このギルドって変な人多いよね? 竹林の城で大変な目に遭った報告書、凄まじかったし……」
「他の皆は兎も角、会長はマトモだよ! 会長だからね!」
(多分一番曲者なのはこの人なんだけど、突っ込むと面倒なんだよなぁ)
 オデットはこのタイミングで先輩方に対して恐れを知らない言葉をぶつけに行った。心外だとばかりに即座に茄子子が否定に入るが、ハンスからすれば正直、どこか重い場面で一番やらかしそうなのは彼女に他ならぬわけで。言わぬが花とはよく言ったものだ。
「まこと混沌は暇を持て余す時など与えてはくれぬな! 世の初陣、華々しき“でびゅー戦”と行こうではないか!」
 楼蘭の非常に気合いの入った言葉は、先輩達や同輩のオデットをもやる気にさせた。なお、マッチョは「色宝というトレジャーなプリン」「どこの馬のプリンともしれぬ敵」「新人プリン達への教導」の動機三本柱で既にやる気がオーバーフローしているのだが。いや新人プリンとかどこの馬のプリンとかどういうモン食ったらこの発想に至るんだよ。プリンか。
「クエスト・スタート……この遺跡は『ギャザリング・キャッスル』が踏破する!」
 ハンスの勇猛な声に応じるように、主張も性格もバラバラだった面々は統率が取れたように隊列を組んで遺跡へと足を踏み入れる。
 彼等を待つ遺跡は困難を極めるだろう。だが、竹林城ロボを退けた面々が何を恐れるというのか。
 「今日という日の花を摘め」と謂うならば、目の前の最悪を摘み取るのもまた、イレギュラーズの有り様であろう。

●巨大遺跡の巨大な罠
「今回の依頼も、俺の冒険譚のレパートリーになることだろうな。サスペンスか喜劇かはわからんが」
「よし後輩達、今のうちに焼きそばパン買ってこいよー!」
 マッダラーはマッチョとともに先頭をあるきつつ、これからの展開に興味津々といった体だった。以前の竹林城もさることながら、彼にとっては危機こそ甘露みたいなところがある。
 その行為の良し悪しは別として、罠に対して絶対的な優位があるのは事実だ。あちこちから飛んでくる明らかに人間サイズを超えた罠の数々は絶えずマッダラーとマッチョを打ち据えた。だが、マッダラーは倒れない。倒れても、立ち上がる。
「ユクゾ、マッダラーヨ! 我ガ漢気……新人プリン達ニ見セルノダァ!」
「応とも、マッチョ。罠とは常に解除することだけを考えずともよい。時には踏み越える気合も必要だとな」
 マッチョとマッダラーのコンビは罠を次々と潰し、躱し、次へ次へと進んでいく。楼蘭とオデットはその様子をただ呆然と見つめながら進んでいく。
「……待て、余の龍の眼と直感が告げておる。皆この先特に重篤な罠がある、注意せよ」
「繊細な試練じゃない分、重篤っていうと余計きつそうだね。蘭爺殿、場所は分かる?」
 楼蘭は卓越した眼力で前衛2人が踏み潰そうとした罠を察知し、止まるように声をかける。ハンスは彼の直感を信じ足を止めると、自身も周囲を調べ、慎重に一歩ずつ進んでいく。
「見つけましたよ。仕掛けは単純ですが、避けづらいですね。大穴のようだ」
 ボディはマッチョの大音声を利用して罠の位置を特定すると、素早く解除する。失敗していれば先に進むのは困難だっただろう。……そして、その罠で殺された者がいる以上、罠解除への対策も在り得るわけで。
「楼蘭くんが凄く頼りになるな……? 大丈夫か先輩! なんかあっちから大きな音がするけど!」
「デカブツなら我の出番よ! ハンス!」
「1体ずつ確実に潰していきましょう! 的が大きいから当たるでしょう!?」
 茄子子が感じ取った衝撃にあわせるように、奥から巨大な影がぬっと現れる。巨体に単眼、大棍棒……典型的なサイクロプスだ。それは周囲を叩きつつ、罠を起動しながら襲いかかってくる。厄介極まりない。
 頼々とハンスは声を掛け合い、タイミングを重ねて攻撃を叩き込む。慮外の威力にたたらを踏んだその目を狙ったのは、オデットの魔眼だ。偽典聖杯の試作品は、彼女の魔力を大いに底上げし、僅かな間の視界を奪うことに成功する。
「少しくらいは役に立ちたい、な!」
「その意気ですよ! いくら強そうに見えても攻撃を続ければ必ず倒せますからね!」
 オデットを励ましつつ、ボディはサイクロプスに速力の乗った連撃を叩き込む。無防備になった胴には、虚刃の一撃は殊更によく徹る。
「よし次! まだまだ敵は居るのだろう!」
「頼々くんは会長が治せる程度に怪我してね! 本当に!」
 猪武者のごとくに突っ込んでいく頼々の姿は頼もしくもあり危なっかしくもある。だが、一秒を争うこの状況では何より心強い。奥に見える大扉がボスフロアなら、最後のひと押しとばかりに現れる巨大モンスター達の密度も合点がいくというもので。

「来たかよ。もう少し遅れてくれりゃあ楽だったのに」
「追い詰めたよ! わたしは仲間の方が大事だからね。ここで帰ってくれるならよし、退いてくれないなら殺すつもりで行くよ!」
 ボスフロアに踏み込んだ一行を待っていたのは、今しがた到着したと思しきリッド達盗賊団だった。
 オデットの挑戦的な言葉にあわせるように落下してきた檻は、一同に挨拶代わりの毒を振りまき苛もうとする。一瞬の隙が生まれた彼女をリッドが狙うのは必然――が、それを押し留めたのはハンスだった。
「盗賊団は僕が止めるから檻を壊すのに集中して、どうせ範囲攻撃なら盗賊も檻も狙える!」
「無理はするなよ、先輩共。余も足手まといになるつもりはないからな」
 ハンスの言葉に楼蘭が、そして仲間達が応じる。ナメられたものだと怒りを顕にした盗賊団はしかし、マッダラーが演奏と共に放った泥に翻弄され、マッチョが投げてくるプリンに混乱を大きくする。次いでオデットが放つ魔力の糸に絡め取られた面子は強烈な打撃のもとに沈んでいく……リッドがハンスを狙わぬ理由は、そこにはなかった。

●音なく敵意なく前兆なく
 リッドとハンスの剣戟は十合を超え、未だ決さず。
 彼の配下らは立てる状態にあらず、イレギュラーズは未だ檻の番人と一進一退の攻防を続けていた。
 彼等の力不足か? 否、それだけ番人の実力が強大であったことの証左である。
「確かに早いね。もしかすれば僕よりも。けれど、その程度。瞬速を冠すには遅すぎる――」
「悪は寡黙なモンだ。俺はそういう意味では半端モンだよ。だがな小僧、速度の程度で上だ下だはまだまだ青いぜ」
 ハンスは加速し、リッドの間合いに踏み込んでいく。それに応じたリッドは唐突に足を止め、速度勝負から敢えて『降りた』。馬鹿げている、とハンスが目を剥いた次の瞬間、彼は重力を無視するように宙へと打ち上げられていた。空を踏んだ角度ごと、上へと向けられたように。
「ハンスさん?!」
「大仰で派手で強い。なるほどヒーロー様向けだぜお前。でも目に見えたものだけに頼っちゃいけねえな」
 ハンスの『着弾点』狙って肘を置いたリッドは、そのまま前転するように身を捻って宙へ舞い、踵でもってハンスの肩へと振り下ろす。そのまま踏みつけるように床へ叩きつけた彼へ、ボディの速力にあかせた一撃が突っ込んでくる。――衝撃。結果は『両者ともに吹き飛んだ』。
「会長がすぐに回復するから倒れないでね! 大丈夫でしょ2人とも! 死ななきゃ大丈夫だよ!」
 茄子子はハンスとボディの惨状に呻きつつ、しかし見た目ほどに傷が深くないことを理解する。彼女の魔力なら十分に治癒しうる。それに、ハンスは未だ運命の加護を残している。ボディの速力に、リッドは『置く』ことすらままならなかった。これは光明だ。そして、ハンスを痛めつけ、ボディと相打ったリッドの傷が深いことも分かるだろう。
「殴った側から痛ェな、何しやがった?!」
「――カカッタナ、阿房メッ!!」
 血を拭いながら立ち上がったリッドに、勝ち誇るように指を突きつけたのはマッチョだ。予め仲間達に聖躰降臨を付与し、それを維持していたことでリッドの疲労と負傷を蓄積させたのである。無論、要する魔力は並のイレギュラーズが軽々に賄えるものではない。マッチョだからできるのだ。
「やっぱり先輩の戦い方は参考になるなぁ……」
「会長がさっきやったのは真似しないでね! 一瞬で魔力無くなって置物になるからね! 会長は特別なんだよ!」
 感心したように呟くオデットに、茄子子はちゃんと真似できない事実を伝えていた。魔力消費を限界まで絞ったがゆえの治癒力は、普通に真似していいものではないのである。マッチョのも然り。
(まあ、うちの戦闘員組は極端過ぎて参考になる奴が1人もいないが……特に頼々とハンスは参考にさせたら軽々に死ぬからな……)
 マッダラーは楼蘭とオデットにこまめにアドバイスを加えつつリッドとの戦いをちらりと見る。虚刃流の2人は決意と意志が確たる域になければ確実に倒れる戦い方だ。マッチョと茄子子の戦い方は一朝一夕では身につかない。他を捨てて攻めと速力に振ったボディは現実的ラインかもしれないが仲間の支援が必須。マッダラーは耐久力の鬼だが必殺もってこられたらスグ死ぬ。
 ……まあ、少なくとも目標としてはアリだが教導向けの能力とは遠い。
「混沌流の戦闘はまこと面白きことよな! この檻も生きているが如くに暴れるのだから理解が追いつかぬ!」
「……ん?」
 頼々は、楼蘭が十分に檻の端から離れて戦っていたため気付かなかったが、ここにきて自らの肩を穿った向けられた一撃に気付きがあった。檻から放たれた槍。棘のような突起物。……これは、まさか。
「今槍を出したよな貴様? 実質角では? さてはこの檻、鬼であるな?」
 足蹴にされていたハンスはその状態から脱し、ボディは檻とリッドとを見比べながら状況を確認する。2人は、そしてオデットと楼蘭を除く全員は「始まったな」と思った。
「鬼が我の前に立つばかりか我を閉じ込めるなど笑止千万! 貴様がその内に捕らえたのは鬼殺しであるぞ! せいぜい腹を下すが良いわたわけが! 我らギャザリング・キャッスルのショップに並べてやるから角全部置いていけェ!」
 頼々は鬼が嫌いである。
 鬼も彼が嫌いになり易く、そのためカムイグラでは散々な目に遭い通しであった。それはいい。
 彼のヤバいところは、些細なきっかけから鬼を感じ、敵意を向けていくことにある。思い込みでの戦闘力ブーストと考えればそれなり効果はあるのだが……制御しきれているわけじゃないのでトラブルを起こしやすい。
 熱を発し毒を撒き散らし槍を次々と向けてくる檻の猛攻は、翻って檻に囚われた一同をも巻き込む。だが頼々は止まらない。槍を叩き折り毒を無視し熱を受けながら動じず、あらんかぎりの力で檻をブッ叩く。殺し合う為に研ぎ澄まされた乱舞が、彼等を捉える檻を穿つ。
「……冗談じゃねえ」
 リッドは舌打ちと共に無防備な姿を一瞬晒すと、その異常に素早く反応したボディの一撃を鼻先で躱し、地を蹴る。無音。
 踏み込みは音を立てず。オデットの魔弾が腹を掠めつつ、頼々の歪めた檻の隙間へ身をねじ込んで外へと飛び出す。仲間達を残して。
「仲間達と築く名誉を捨てたか。盗賊団としても男としても浅はかだな」
「……言ってな。次は殺す。死んだなんて気付かないうちにな」
 マッダラーの挑発に短く、先程までの陽気さをかなぐり捨てた殺気を顕にリッドは駆ける。音に敏い彼ですら、その足音を追えない。ただ聞こえるのは凄絶な殺意を湛えた心拍数。
「もうあとは頼々君が檻を壊すだろうから2人はマッダラー君とマッチョ君に庇ってもらってね! ああいうのを『倒せる』って安易に追っかけると君達や会長みたいな弱い方から殺しに来るから駄目だよ! 会長それで昔痛い目見たからね! あと入信して!」
「何とも騒々しいな。だがその言葉は留め置こう。余も要らぬ事をして足手まといにはなりたくないのでな」
「そうだね、わたしも色宝が手に入ればいいから……」
「宝ノプリン! ウオオオオオオ!」
 楼蘭とオデットは茄子子のついでみたいに告げられた勧誘を無視しつつ、その意見には同意する。飽くまで目標は遺跡の踏破。無理に諍いの種を増やすこともないのである。
 彼等が納得する脇で頼々が檻を壊しきり、降りてきた色宝を我先にとプリンが掴み取っていた。
 ハンスは痛み分けの結果に終わったため敗北はしていない、むしろ概ね優勢だったのだが、それで納得できるものでもない。何れ、何かの機会が訪れることだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 リッドが逃げられたのはほんとうに偶然だと思います。

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