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シナリオ詳細

<Common Raven>ローストフェイスのバッケル

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『ローストフェイス』バッケル、またの名を、都市伝説キラー
「あんたらと仕事をするのも、思えば久しぶりだねえ」
 擦ったマッチの淡い炎を、チョコレートのような色をした紙巻き煙草に近づける。
 するとこれまたチョコレートめいた香りが立ち上り、深く吸い込んだ煙が吐き出された。
 煙に紛れた彼女の顔。その半分以上は火傷跡が覆い、マッチの炎で生き物のように揺らめいた。マッチを振って火を消すと、それを砂地へと落として踏みつける。
 彼女の名はバッケル。『ローストフェイス』バッケル。
 パサジール・ルメスの民、ローストフェイスキャラバンを率いるリーダーであり、ある噂に事欠かない人物である。
 その噂とは。
「まあた、今回も都市伝説に出くわすのかねえ」

 バッケルはパサジール・ルメスらしく旅を続ける行商人だが、人が死ぬような都市伝説のある場所を通ると十中八九それに遭遇してしまうという奇運の持ち主である。
 顔の火傷もその時に負ったものであり、そして同時に毎回生き延びるという悪運の強さも持っていた。
 それはあくまで彼女のかわった特徴に過ぎないのだが、昨今かわったデマが流れるようになった。
 曰く、彼女はファルベライズの色宝を所有しており、それによって悪運の強さを獲得しているのだと。
「アタシがこうして世界中をほっつき歩いてんのは、あんたらローレットがきっちり仕事を果たしたからだろうに。ねえ?」
 そう思うだろう? と、煙草のけむりをやんわりと吐きながら苦笑して振り返る。
 今日は、そんな彼女の護衛が任務であった。
 そしてこれがお決まりであるかのように、こう続けるのだ。
「ところでこの道には噂があってね――」

●大鴉盗賊団、『灼顔』のカイシングオ
 昨今活動を激化した大鴉盗賊団。
 彼らはローレットが主体として請け負っているファルベライズ遺跡群から得られる願いの叶う宝こと色宝を狙って遺跡攻略はもとより運送中のキャラバンを狙った強盗などをはかるようになり、ラサ国内でも注意が高まっている連中だ。
 今はまさにその色宝を遺跡から運び出し、ラサの首都フェルネストへと輸送する最中である。
 馬車は三台。バッケルが乗る馬車と、それを護衛するローレットの馬車だ。
「ところでこの道には噂があってね――」
 バッケルはかたことと回る車輪の上で、こんな風に語り始めた。
「大鴉盗賊団で名を上げてる『灼顔』のカイシングオ。こいつを筆頭にしたチームがこの辺を縄張りにして輸送団へ強盗を働いてるって噂でね。
 そいつは顔にファイアパターンの刺青をいれた男らしい。なんでも団長のコルボに顔半分を鏝で焼かれたのを誇りにしてるんだそうだ。
 うん? まさか、アタシが出くわす都市伝説は狼の女王やら骨の馬車やら風船頭やらのバケモンたちさ。人間くさい盗賊の噂なんざ引き当てるわけが……」
 そこまで語ったところで、空に向けた三発の発砲音が響いた。
 音の方向を見れば五台の馬車。
 大鴉盗賊団おなじみのスカーフを巻いて、黒いリボルバー拳銃を天にかざす、顔半分をファイアパターンの刺青で覆った男がこちらをにらんでいた。
 近づいてくる馬車。
 バッケルはあなたへもう一度振り返り、左右非対称に笑った。
「これはアタシのせいじゃあないだろ」

GMコメント

■オーダー:バッケルの馬車を守り、カイシングオの一団を撃破すること
 あなたはファルベライズ遺跡群から持ち帰った色宝を首都フェルネストへ届ける最中、大鴉盗賊団による襲撃を受けました。
 敗北すれば色宝が奪われるのみならず、護衛対象であるバッケルの命も危ういでしょう。
 砂漠の上を走る馬車を舞台に、チェイスバトルが始まります。

■チェイスバトル
 敵も味方も馬車の上。動く足場での戦闘となります。
 むこうはこちらの馬車に射撃を仕掛けたり、時には馬車を寄せて飛び移ったり、自分の馬にのって近づいたりといった戦い方をしてきます。
 こちらもそれに対抗して馬車上なりの戦い方をしなければなりません。
 PC側の馬車はバッケルが操作している幌馬車を含めて『三台まで』です。
 うち二台は、PCが馬車ないし馬車相当のアイテムを装備している場合に限り『その馬車を使っていた』ことにできます。こだわりの品などありましたらご利用ください。
 馬車を用いた戦闘には以下のルールが今回限定で適用されます。

・馬車枠のアイテムはどんなものであっても性能に違いは出ません
・馬車に対する直接攻撃、スリップや転倒等によるリタイアは敵味方共に発生しません
・馬車の上はひどく揺れるため命中回避防御技術の三つにペナルティがかかりますが、これらは運転手がスキル『輪動制御』を活性化することで大幅に軽減できます。(バッケルは『輪動制御』を持っています)
・馬車の運転にはバッケルを含め三人の運転手が必要です。
 運転手は戦闘を並行して行えますが、運転席から離れることができません。
 (バッケルは非戦闘員扱いとなります)
・機動力が8以上ある場合、自力で走って戦うことが可能です。この場合ペナルティ対象外となります。

■シチュエーション
 こちらは三台。盗賊側は五台の馬車を用いて砂漠地帯を疾走している所です。
 護衛対象はバッケルひとりのみ。バッケルは多少のレベルがあり耐久力もそこそこですが、敵の中に放り込んでおいたらまずいでしょう。

  • <Common Raven>ローストフェイスのバッケル完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月22日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ミスティル ハーティ(p3p006858)
ストレス発散!
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
シエル・アントレポ(p3p009009)
運び屋

リプレイ


「馬車でチェイスすることになるなんてね! これはこの中のダレかの日頃のオコナイが悪いからに違いないよ!」
 ハハハと声を上げて笑い、馬車から身体を大きく乗り出す『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)。
 馬車の柱を手で掴み、片足だけを足場に乗せている。かざした手のひらで日差しを遮りながら近づく盗賊達の馬車をのぞき見ると、けむる砂漠のゆるやかな凹凸の向こうから急速に馬車が併走し近づいてきているのがわかるだろう。
「バリキが倍だ。振り切るのはムリだね」
「馬車強盗ってのはみんなそうさ。で、誰の行いが悪いって?」
 特に慌てた様子もなく煙草をくわえ、御者席から馬を操作するバッケル。
「さっきも言ったが、今回はアタシのせいじゃあない」
「…………」
 そんなバッケルを、真横を馬車で並ぶように走る『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)がじっと見ていた。
「なんだい」
「まだ何も言っちゃいないよ」
 そのパターンで何度都市伝説と出くわしたと思ってる。とまでは、言わないラダである。活動地域と特技が近いからかバッケルの出す依頼をよく受ける手前、バッケルの巡り合わせに若干慣れてきたとも言えた。
 ラダの馬車から背伸びするように敵の馬車をのぞきみる『放浪の剣士?』蓮杖 綾姫(p3p008658)。
「『灼顔』のカイシングオでしたっけ? 顔にファイアパターンの入れ墨は正直ダサいのでは……?
 こう、なんというか。ちょっとハシャいだティーンの香りが……」
「ハシャいだティーン! あっはは、折角顔を焼かれたのに酷い言われようね!」
 『ストレス発散!』ミスティル ハーティ(p3p006858)は馬車上部の骨組みに捕まると、イェーガー鉄棒跳びで幌の上へと飛び乗った。
「『都市伝説キラー』さんとは大違いね。楽しくなってきたじゃない」
 ぴょんと馬車から飛び降り、すさまじいスピードで走ることで馬車にすぐさま追いついてくるミスティル。
 『運び屋』シエル・アントレポ(p3p009009)は火のついた煙草を口にくわえ胸いっぱいに煙を吸い込むと、ピンと煙草を指で弾いた。
「積荷を奪おうだなんてふてぇ野郎どもだぜ。ここは手を貸してやるとしよう
オレも荷をパクられたらキレるからな」
 燃えるものなど何もない砂の野へ、回転しながら煙を引いて飛んでいく。
 と同時に、広げた翼で風をとらえ尋常ではない速度で急上昇をかけていく。
 常人のおよそ四倍の上昇速度。身体をくるりとひねると、両腕を伸ばしてグライダー降下をかけた。
「ヤバくなったらオレを呼べ。積荷は死ぬほど悔しいと思うが命は運んでやる」

 バッケルの後方を走っていた『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)の馬車が、速度をあげて盗賊達に割り込むように位置を調整しはじめる。
「『灼顔』のカイシングオか……。リボルバーを選ぶセンスは認めてやるが、腕前はどうだ?」
「さあ。噂話が広がってるってことは、皆殺しにはならなかったんじゃない?」
 『never miss you』ゼファー(p3p007625)が馬車から立ち上がり、戦闘姿勢を取り始めた。日よけの幌を素早く畳み、荷物をバッグに詰め込んでくくりつける。多少の格闘をしても大丈夫なスペースを確保するためだ。
「それにしても……いるのよねぇ、何でもかんでも呼び込む女。雨女の厄介ごと版って感じかしらねえ?」
「バッケルのことか? 俺らとしちゃあ仕事が入りやすくて結構なことだけどな」
 『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)はナイフとナイフを擦りあわせて切れ味を整えると、両手の指でくるりと回した。
「バッケルと色宝を守りきり、ついでに大鴉盗賊団の中で名を上げてるカイシングオを倒して名声を得て、ネフェルストで旨い酒を飲む。うーん、カンペキ」
 回したナイフを握り込むと、白妖精魔術で作った手製の爆竹を指に引っかけて取り出した。


 カイシングオ率いる五台の馬車。一部が前方を、また一部が後方をおさえ、側面から迫るように接近してくる。こちらの逃げ足を奪うつもりかバッケルめがけて数度の発砲があったが、イグナートはヒュウと呼吸を素早く整え空を両手でかき混ぜるような動作をとった。
 いつの間にか握り込んだ手のなかには、数個の弾丸。
「あっちは走りながらヤル気だね!こっちの機動力を舐めたことをコウカイさせてやろう!」
「そのつもりさね。ジェイク、仕事だよ。さっき撃った奴全員に当てられたら煙草一箱だ」
「乗った」
 ジェイクはリボルバー弾倉を一度開いて残弾を確認すると、手綱を握った片手間で銃を水平に構えた。
「ヒャッハー! 面白くなってきやがったぜ!」
 こちらを囲む馬車の前方、側面、後方へ的確に二発ずつ。ぽいっと投げて素早くホルスターから網一丁ぬくと更に二発ずつを打ち込んだ。くるくると回転して落ちてきた銃を器用にキャッチ。するとカイシングオたちの馬車からまとめて十人分の悲鳴が聞こえた。
 二人ほどに至ってはそのまま馬車から転げ落ち、砂漠をバウンドしながら遠ざかっていく。
「いただき」
「あっ、ずりい! 俺も俺も!」
 キドーは爆弾をナイフの柄頭のキャップ部分でジュッと擦ると不安に点滅するそれを後方の馬車めがけて放り投げた。
 爆発。悲鳴。燃え上がる馬車と、暴れる馬。そして遠ざかっていく盗賊。
「やりい! 俺も一箱ー!」
「ばかいうんじゃないよ。アタシの分がなくなるだろうが」
「えー!?」
 ンだよといって悪態をつくキドーだが、一方カイシングオの馬車からウェスタンハットの男が身を乗り出した。
 顔の下半分をごっそり多うくろい口ひげ。鋭い目に、眼帯。
 肩幅が広く服は鉱山夫のようなシャツとジーパンというやけに個性の強い男だが、それ以上に黄金の重機関銃を馬車の中から引っ張り出し、キドーたちへと向けていた。
 ブゥンという予備動作の音を聞いて二度見するキドー。
 その間に割り込むように立ち槍を回転させるゼファー。
 黄金の炎と鉛の咆哮が浴びせられ、ゼファーはそれを暴風を纏った槍の回転でもって弾き飛ばした。
 すべて弾いた……ように見えたが、肩や足にかすった跡がある。
「相手もやるわね。こちとら近付いてなんぼだってのにやりにくいったら……いつも通りと行かないのは歯がゆいわ?」
「乗り込まれたら厄介だ。バッケルの馬車を反対側に遠ざけつつ敵を減らすぞ」
 ラダは馬車をあやつりながらも片手でライフルを発砲。無穴接続弾倉によって自動再装填されたLBL音響弾を、ラダはカイシングオめがけて打ち込んだ。
 カイシングオはニッと笑って発砲。着弾の直前で音響弾が爆発し、爆風が歪んで散っていった。
「ネームドは伊達ではない、か」
「だったら手下から倒していくまでです!」
 綾姫は何本かさげた剣のうち一本を抜くと、自分の馬車を斬らないようにしつつ斜めに剣を振り込んだ。
 大気を切り裂いた剣気がそのまま衝撃となり、回転しながら敵対馬車へと接近。こちらにむけて拳銃を乱射していた銀歯の男が吹き飛ばされ、砂漠をバウンドしていった。
「今です、ミスティルさん!」
「オーケー、精々引っ掻き回してやるから覚悟してなさい!」
 腕を大きく振って加速モードにはいったミスティルは急速に馬車へと追いつき、跳躍。
 慌てて銃を向けた盗賊の腕を掴み、相手が発砲するよりも早く相手の脇腹にぐさりと短剣をたてた。
 そこから背負い投げの要領で馬車の外へと放り投げると、御者の男が振り返ったのを見て素早く転がり馬車から離脱。頭の上を銃弾が抜けていくが、構わず走行状態へと移った。
 反撃の必要はない。なぜならば――。
「クハハハ! 久しぶりに自由に飛べるたぁいいねぇ! 空は広い!!!」
 馬車の周りをぐるんと囲むように旋回してみせるシエル。
 桁違いの機動性に御者の男は混乱し銃を乱射。シエルその反対側をとると、腰から抜いたウージー短機関銃を乱射した。
 背を打たれ御者席から転げ落ちる男。
 シエルはマガジンを放り捨て新たに装填すると、自分を狙う馬車へ牽制射撃をかけながら急速に離脱していった。

 残り三台となったカイシングオの馬車。数だけではこちらと同数。頭数も同じくらいだが、戦力で見ればこちらの優位。
 しかしカイシングオは撤退することなく、馬車を寄せてさらなる攻撃を仕掛けてきた。
「下がってて、オレがトツゲキする!」
 イグナートはジェットパックを背負うと、スイッチを入れて跳躍。カイシングオの馬車から離れていくバッケルの馬車を尻目に、三台あるうち戦闘の敵馬車へと自由落下した。
 こちらへと銃弾がいくつも撃ち込まれ、身体に鉛玉がめり込む感覚があったが、この際無視。
 イグナートは拳に気を集中させると、着地と同時に自らの拳を馬車にたたき込んだ。
 ボッという音と共に砂煙……いや砂の柱が舞い上がった。
 馬車にのっていた盗賊が砂に半分埋まった形で取り残され、そのそばに立っていたイグナートは手を振った。
 素早く駆けつけたシエルがそれを回収。ジェイクの馬車へと運搬していく。
 それを打ち落とそうと例の髭眼帯黄金機関銃の男が銃撃を浴びせてきた。
 流石のシエルも無事とはいいがたい……が、いつまでも自由に撃たせるミスティルたちではない。
「しかし色宝、ね。こんなに派手に略奪しようとしてくるなんて、ちょっと興味はでてきたかもっ」
 ミスティルは助走をつけて投擲用の薄く軽い短剣を袖の間からスッと抜くと機関銃男めがけて投擲。
 男はフンと鼻息を荒くしてナイフを回避したが、その後ろに積んでいた荷物に剣が突き刺さる。否、荷物にかかった男の影に刺さったのだ。
 それによって身体がグンと重くなり、僅かによろめきを見せる男。
「飛ばしてくからしっかり捕まってろよ? レディ」
 そこへ、今度はゼファーを抱えたシエルがまっすぐに男へと接近。
「サンキュー! 行って来るわ!」
 まるでミサイルを放つ戦闘機のごとく抱えた状態から放出されたゼファーは、その勢いをまるごと乗せて男の顔面を殴りつけた。
 さすがに転倒する男。馬車の一部を掴んで転落をこらえるゼファー。
「ハロー! 追剥ぎ生活長くっても、こういう展開は初めてかしら?」
 ゼファーは転倒した男の背中にフックをかけると、その反対側にくっついていた荷物を馬車の外へと蹴り出した。
 重量に引っ張られる形で転落していく男。
 遠ざかる悲鳴に御者の男が振り返るが、ゼファーは肩をすくめてみせてやった。
「テ、テメェ――」
 拳銃を抜いてゼファーに向ける……が、その瞬間には男の頭部を鉛玉が貫通しきっていた。
 ラダが通りがかりに打ち込んだ弾である。
 更にラダは馬車を巧みにあやつってカイシングオの乗る馬車へと近づけ、車体を滑らせることでガツンと接触させた。
 その衝撃で振り落とされそうになったカイシングオが馬車の一部を掴むその隙をついて綾姫が彼の馬車へと飛び込み、首を狙って剣を打ち込んだ。
 直撃コース……だったが、途中で剣がとめられた。
 ゆるやかな三日月型の刀身を持ったショーテルである。
「これは……!」
 目を見開いた綾姫の剣を絡め取るようにねじり、払い、剣の間合いを保って構える男。白いターバンをかぶり白いスカーフで鼻から下を隠した褐色の男性である。鷹のように鋭い目が印象的だった。
「女、かわった剣術だな。異界のものか」
「剣士が口で質問なんて無粋じゃありませんか」
 でしょう? とでも言いたげに別の剣を抜く綾姫。
 今度は刺突に適した剣でフェンシングのように鋭く細かく連続で打ち込んでいく。
 ターバン剣士はそれを風のように絡め取り防ぎ続けた。
 が、それが決定的な隙となった。この戦いは一対一の戦いではない。誰か一人に集中するということは、それすなわち『集団からのよそ見』である。
「お前も焼き直してやろうか、カイシングオ!?」
 不思議な発光をする爆弾を握りしめ、キドーが馬車へと飛び込んできた。
 と同時に綾姫が激しい跳躍と後方宙返りで離脱。シエルに空中で回収されていく。
 その行動の意味を察した剣士は咄嗟にその場から飛び退いた。
 キドーが爆弾を床にたたきつけたと同時に爆発が起き、キドー以外の全体を炎に包み込んだのだった。
 火にまかれるカイシングオ。
「灼けてるのが片面だけじゃバランス悪いだろオラ? バッケルの婆ちゃんにも色宝にも指一本触れさせるかよっ」
 炎に混乱している隙に首筋を斬り付ける必殺のコンボ――だが、カイシングオは繰り出したキドーのナイフを黒いリボルバー拳銃でもって打ち払った。
 銃に走るファイアパターンのペイントがカイシングオの顔の模様とリンクしたように炎の光を照り返す。
「よう『ザ・ゴブリン』、炎はいいぜ。人を生まれ変わらせる」
「チッ、こいつ火が――」
 額に押しつけられる銃口。
 そして散発の銃声。
 キドーは耳の先から血を流しながらも飛び退き、すぐそばに接近していたジェイクの馬車へと転がり込んだ。
「あンの野郎キザなことしやがって!」
 にらみつけるキドーに、しかしカイシングオは銃を向けたまま……炎にまかれたまま笑った。
「コルボさんが教えてくれたんだよ。炎が俺の顔を焼くたびによお。頭んなかでチーズが溶けるんだよぉ。ガキんころお袋が暖炉で焼いたみてぇにトロォーってよお。そうすっと、そうすっとよぉ――」
 カイシングオはジッポライターを擦ると、通常ではありえないほど激しく火をあげ、それを用いて自分の顎から額にかけてをぐるぐると炙り始めた。
「『発射』したくなるよなァ!? アァ!?」
 舌を出して銃を乱射。
 対するジェイクは飛来するすべての銃弾めがけて発砲した。
 双方の間で弾丸と弾丸がぶつかり合ってあらぬ方向へ飛んでいく。
「格好いい化粧をしてるじゃねえか。だが俺に出会ったのが運の尽き。てめえの誇りを俺が撃ち砕いてやる」
 空中でぶつかり合った弾の一つが、カイシングオの額へと直撃。
 ガハッと叫んだカイシングオは燃えながら馬車から転落。たちまちのうちに遠ざかっていった。

 しばらく馬車で走り続けたバッケルたちは、安全を確認すると馬車を止めてキャンプの準備に入った。
 懐から出した煙草の一箱を投げてよこすバッケル。
 ジェイクはそれをキャッチすると、サンキューといって一本取りだした。
「やっべ、ライター忘れちまった。誰か火ぃくれ火」
「おう」
 鞄から爆弾をかざしてくるキドー。
「おめーもローストフェイスの仲間入りしようぜ」
「じゃあおめーはサードアイの仲間入りな」
 弾の入っていない拳銃を額に向けてやるジェイク。
 そうこうしていると、シエルが自分のジッポライターに火をつけて口元へ突き出してやった。
「なあバッケル。これでカイシングオってやつの伝説もおしまいか?」
「さあてね。顔を焼かれても生きてるやつってのは、大抵タフなもんさ。変人ならなおさらね」
 顔半分を覆った火傷跡を歪ませて、バッケルは煙草をくわえた。
 そしてポケットを叩いて、穴が開いていることにきがついた。
 どうやら戦闘のドサクサで落としたらしい。
「シエル、火」
「ん」
 シエルは自分の咥えているたばこをそのまま近づけ、バッケルのたばこに火をつけてやった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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