PandoraPartyProject

シナリオ詳細

再現性東京2010:アンハッピー・レクイレム・レター

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ウワサ話
 ねえねえ、こんなウワサは知ってる?

 大っ嫌いなあの子を不幸な目に合わせるとびっきりなおまじない!
 白い便せんに赤いインクで相手の名前を書きましょう。
 それから、ピンクのチョークで塗りつぶす。
 髪の毛を二本と切ったばかりの小指の爪を便箋に包んで赤い封筒に。
 その封筒を誰にも見られずに放課後、大嫌いなあの子の靴箱に忍ばせておいてね。

 三日以内にあら不思議――きっと大嫌いなあの子は泣いてこういうわ!

「助けて!」ってね。

●公立中学校
「アンタなんて死んじゃえばいいんだ!」
 そう言って、突き飛ばされた。くすくす、くすくす、笑い声が付いてくる。
 少しの変化が大きな溝になっていく。髪の毛も明るく染めて携帯電話を手にしたクラスメイト達が私を見てそう笑った。
「何で生きてるの?」
「よく学校来れるよね?」
 塞ぎこむ。
 怖い、怖い。どうして学校に来なくちゃいけないんだろう。
 お母さんは「頑張っていきなさい」と私の背中をぽん、と押す。
 誰も味方が居ないのに。

 2-F 酒田 天使――私は、この名前が嫌いだった。

 天使と書いて、アンジュと呼ぶこの名前はお母さんとお父さんが私を想って付けてくれた名前だった。
 けれど、クラスメイト達は「お前のどこが天使なんだよ」と笑い貶す。
 そんな日に、もう、辛くなったから。

 2-F 新井 りる。

 私をいじめていた貴女へと、私はこのお手紙を送ります。
 アンハッピー・レクイレム・レター――

●カフェ・ローレット
「という噂話があるそうだ」
『半人半鬼の神隠し』三上 華(p3p006388)はそうにんまりと微笑んだ。希望ヶ浜の少女達はおまじないや噂話が大好きだ。嫌でも耳に入ったその『噂話』は何ともド直球に相手の不幸を呪うもの。
 その名も『アンハッピー・レクイレム・レター』だそうだ。

「何とも滑稽」
 音呂木・ひよのは肩を竦める。その手紙は今や小中学校で大ブレイク。確かに、そうした『相手を不幸にする』お手紙だというならば高校生よりもより幼い方が好むだろう。
「その噂話を本当に実行する奴がいるかは気になるけれどね」
「ああ。いるみたい、ですね」
 ひよのはそう呟いた。カウンター席に向かって背を丸く縮めていた小さな少女は生まれつきの柔らかなミルクティーブラウンの髪をだらりと下して肩を震わせている。
「酒田さん、此方へ」
 ひよのの声にびくりと肩を由良がしたのは中学生、酒田 天使(あんじゅ)は「こんにちは」と呟いた。
「その……わたし、いじめられてて……それで、そのいじめをする女の子に、アンハッピー・レクイレム・レターを送ったんです」
 震える声に、罪悪感が見え隠れ。『アン』と呼んで欲しいとイレギュラーズへと名乗る彼女は不安げに「でも、それって、怖い事が起こるんじゃないか不安になって」と呟く。
「まあ、『不幸の手紙』を送ってしまった事を懺悔しにウチ――音呂木神社にいらっしゃったので、其の儘連れてきました。
 調べたところ、アンハッピー・レクイレム・レターは一種の交霊術です。時限爆弾式の。
 三日後の放課後に突如として夜妖(おばけ)が『送られた側』の背後に現れる……と言った様子です。黄昏の影に隠れて忍び寄ってくる夜妖(おばけ)となればさぞ恐ろしいでしょう」
「おばけが、でるんですよね?」
「そんな感じですね。アンさんが『おばけが出て驚かしてほしい』ってお願いしたらお手紙が叶えちゃうかもしれません」
 あくまで『神秘の秘匿を行うように』ややこしい言い回しをするひよの。
 だが、イレギュラーズには十分な説明だろう。
 明日の夕方、一人で帰る『新井 りる』と言う少女へと夜妖が襲い掛かる。「お化けが出て驚かしてほしい」程度ではない恨み辛みを込めたアンハッピー・レクイレム・レターは彼女の命を奪うだろう。
「と、いう訳で。アンさん。あのお姉さんたちに『お化け退治』をお願いしませんか?」
「え、か、カッコイイ……!」
「ふふ。そうでしょう。それでは『お化けを退治』してきますから、温かいカフェオレを飲んで待って居てくださいね」

GMコメント

 夏あかねです。寒くなってきたので、怪談でギャーっとして心を落ち着かせましょう!

●成功条件
 悪性怪異:夜妖『アンハッピー・レクイレム・レター』より『顕現』する夜妖の討伐。

●悪性怪異:夜妖<ヨル>『アンハッピー・レクイレム・レター』
 再現性東京のウワサのひとつ。
 嫌いな人の靴箱にお手紙を入れましょう、という噂話です。
 いじめられっ子『アンちゃん(酒井 天使という名前ですが名前を好まないようです)』はいじめに苦しみ、このウワサを実行しました。
 いじめの主犯格の『新井 りる』はこのままでアンハッピー・レクイレム・レターで顕現した夜妖に殺されてしまいます。

 アンハッピー・レクイレム・レターそのものは撃破不可です。それによって呼び出される夜妖へと対処してください。

●顕現夜妖『後ろのみゆきさん』
 長い黒髪を下した典型的な女幽霊の外見をしています。
 影に潜み、影を伸ばし襲い掛かります。非常に恐ろしい外見をしています。
 攻撃方法は遠距離攻撃が中心。後述『みゆきさんの影』がアタッカーの役割を担います。
 本体である『後ろのみゆきさん』を『影』が庇う場合があるようです。

●『みゆきさんの影』*5
 みゆきさんより伸びる影は蠢きそれぞれが1個体としての意志を持ちます。
 非常にお邪魔虫。ですが、みゆきさんを斃さない限りは倒しても復活してきます。

●新井 りる
 いじめっ子。小学生の頃はアンとも仲良しでしたが、クラスメイトの男子が「アイツ、天使って名前なんだろ~」と揶揄った事をきっかけに虐めを始めました。
 片思いの男の子がアンにちょっと気を持つ振りをしたのもそれを加速させたきかっけのようです。良くあるいじめの様子です。
 夜妖が顕現した時、ひよのは手っ取り早く意識を奪うか、隔離した方が良いと考えています。
 また、アンに関して触れるのは彼女の今後に関わるので、慎重になった方がいいかもしれませんね。

●アン
 いじめられっ子。天使とかいてアンジュちゃん。ミルクティーブラウンの髪をだらりと伸ばしており、いじめられたことをきっかけにおしゃれとは程遠いようです。
 可愛らしい外見ですが、おしゃれと手入れが整ってないというイメージです。
 いじめを苦に『アンハッピー・レクイレム・レター』を使用。ですが怖くなって神社を頼ったようです。
 おばけ退治を素直に信じる中学生。カフェ・ローレットで待機してます。お仕事が終わったら「おばけは退治できたよ」とアドバイスしてあげるといいかもしれませんね。

●音呂木ひよの
 お馴染み夜妖専門家の音呂木神社の巫女。指示がなければカフェ・ローレットに居ますが、何かお力になれそうでしたらお声かけください。ちょっとしたことなら手伝います。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 再現性東京2010:アンハッピー・レクイレム・レター完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月15日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
三上 華(p3p006388)
半人半鬼の神隠し
フランドール=ジェーン=ドゥ(p3p006597)
パッチワーカー
メイ=ルゥ(p3p007582)
シティガール
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
ウロ ウロ(p3p008610)
虚虚実実
アシェン・ディチェット(p3p008621)
玩具の輪舞
黄鐘 呂色(p3p008738)
記憶喪失ゼノポルタ

リプレイ


「アンハッピー・レクイレム・レター」
 そう、口にした『半人半鬼の神隠し』三上 華(p3p006388)。噂という媒体でどんどんと『おまじない』の方法を広げれば実行するものが出てくる。そうして悪性怪異:夜妖が増えるというのは面白い。
「おまじないに便乗するなんて夜妖も考えたなぁ……」
 呟いた『記憶喪失ゼノポルタ』黄鐘 呂色(p3p008738)に華も頷いた。ふと、カフェに残ったという天使(アンジュ)――アンの事を思い出しながら『虚虚実実』ウロ ウロ(p3p008610)は「手紙出すだけで自分の手は汚さずに対象者に不幸をお願いする、ねぇ」と考えやる。
「……責任能力低い子供がう〜っかり手ェ出しちゃいそ〜〜で嫌だねこういうの。
 おまじない程度のお手軽な方法で降霊術じみた噂広がるの良くないね。呪いは本来相応の覚悟ないとやっちゃあダメだよ、人を呪わばなんとやら〜〜ってね」
「まあ、けれど、手軽だから『やる』のだろう」
 華に渋い顔をしたのは『玩具の輪舞』アシェン・ディチェット(p3p008621)であった。アンがいじめを苦に手軽なおまじないに手を出したことはこの場の誰もが分かっている。故に、今回の発端たるアンを責めることも出来なければ――狙われるりるが犠牲になることも見逃せないのだ。
「手遅れにならなくてよかったのだわ」
「そうだね。今はソレを喜ぶしかなさそうだ。
 古今東西、人の恨みほどなくならないものはないだろうし、手軽なおまじないに夜妖の召喚が着くというのは、とても効率がよさそうだ」
 もしかして自分もそう言う対象になったのだろうかと考えれども『思い出せない』呂色はアシェンに「きっちり倒したいね」と声を掛けた。
「ええ。アンお姉さんはとっても苦しかったと思うわ。
 きっとそのお化けは、嫌いって気持ちに乗っかっているだけで、悪い子を懲らしめようとか、アンお姉さんと助けようなんて気持ちは無いと思うもの……だから、此の儘りるお姉さんが死んでしまったら――」
 その罪悪感は全てアンの小さな肩へとのし掛り、きっと彼女は耐えることも出来ないのだ。
「ううん、どっちもどっち、といった風情よねぇ……人が三人いれば対立が生まれる、というのは聞いたことのある話だけれど……ううん。悲しいものね」
 些細なことで虐めに発展した。しかし、それが当人に立ってはとても大きな問題だったことは『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)も想像に易かった。
「なんだかね~、勝手だよね~。
 呪って~、怖くなって~、やっぱりや~めた、なんて~。うん~解ってるよ~、お仕事はちゃんとやるよ~」
 こてりと首を傾げた『パッチワーカー』フランドール=ジェーン=ドゥ(p3p006597)。その言葉に「でも!」と耳をぴょこりと揺らした『シティガール』メイ=ルゥ(p3p007582)は眸をきらりと輝かせる。
「アンさんが間違ったことに気づいたのは良かったのですよ!
 ちゃんとオバケ退治して、まずは安心してもらわないといけないですよ!」
「まあ~、そうかもしれないね~? オバケ側だって~、呼び出された~、だけだし~」
 誰が悪いなんて事を考えても栓は無い。「私にはよくわからんな」と呟いた『艶武神楽』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)は頬を掻く。
「誰になんと言われようと自分は自分ではないか」
 天使――両親に愛され付けられた愛らしい名前。それが、いじめの標的になったならば。
 自身でどうしようもない事を、責めたてられたと彼女は悲しんだか。生徒のケアというのは何とも難しいことであるとブレンダはゆっくりと踏み出した。
「なんにせよ起きてしまうのであれば止めねばな、一応教師でもあるわけだし」
 のっぺり伸びた影の向こう側、迫りくる夜妖(おまじない)は唯、その時を待っている――


 aPhoneを眺めながら歩くりるの後ろ姿を観察していたウロは気配を殺し夜妖の出現を待っていた。
「隙さえ出来れば味方もいるし、ま〜〜ぁなんとかしてくれるでしょ」
「ええ、任せて」
 小さく頷いたアシェンの傍らでブレンダは作戦が開始したとひよのに告げる。ひよのにりるの回収を、と頼もうとしたが呂色が自身が連れて行くとブレンダを見て頷いた。
「……ならば、任せようか」
 頷き、静かに息を吐く。教師として生徒達を護る事が使命だ。故に、その動きを逃さぬようにと目をこらし――今だ、とブレンダは地を蹴った。
 前往くりるを襲わんとする影が伸び上がる。それを最初に『不意打ち』したのはウロであった。ついで、ブレンダが影とりるの間へと滑り込む。突然の喧噪に振り向かんとしたりるの手をぎゅう、と握ったアシェンは「あなた!」と叫んだ。
「近くにいたら危ないのだわ!」
「な、何!?」
 通り魔の出現だと逃げるようにおろおろとしてみせたアシェンに呂色はりるの意識を落とすようにとん、と首を叩く。
「お任せしても?」
「……ああ、あっちの――『夜妖』の方は任せた」
 頷く。アシェンと擦れ違うように意識を失ったりるを運ばねばと呂色がその脚に力を込める。「カフェ・ローレットに逃げろ」とは告げられなかった。其処にはアンが『おばけ退治』を待っている。妙な諍いを起こすわけにもならないならば、行かせるわけには行かないと気を配った結果だ。
「妖精の木馬にりるさんを乗せてあげてくださいですよ!」
 メイはにんまりと微笑み、木馬に「お菓子をあげるから呂色さんの言うことを聞くのですよ!」と指示をする。じゃじゃ馬な不思議な木馬にりるを乗せ、呂色が戦線を離脱すると同時に、メイは動く幻影を『先程まで見ていた』りるの姿を作り出す。
「さあ、みゆきさん! お相手はメイなのです!」
 ロケッ都会羊で走り出す。みゆきさんの影を引き付ける。幻影りるを使って本体のみゆきから遠ざけることを意識してその動きを奪うようにと攻撃を重ねる。
 影は、危険だ。影こそが、みゆきさんの脅威そのもの――ならば、遠ざけるが吉である。故に、周囲の影を引き付けるように手にした指揮棒を揺らし、倒れる事無きようにと闘志を自信に漲らせた。不屈なるフランドールは大いなる逆転を望むが如く、カルネアデスの板を手にする。
「ほらほら~、鬼さんこっちだよ~」
 出来うる限り、影を『みゆきさん』より引き離す。フランドールへと向かわぬ影たちへと攻撃を重ねるヴァイスは、執念深き悪質の刃に力を乗せる。白い薔薇咲き誇るが如くふわりとした戦闘装束を揺らし、周囲を吹き飛ばすような暴風を生み出した。それは彼女にとっての意地と『無理』。精神力の消耗に、痛みがその腕を伝い登ってゆく。
「降霊術、と言うことかしら? 見た限りはみゆきさんは『悪性怪異:夜妖<ヨル>』だものね。
 アンハッピー・レクイレム・レターが一種の降霊術としてみゆきさんを呼び出した……と言うことしか分からないわね」
 りるを気遣うように視線を向けて。ヴァイスは影たちを蹴散らし続ける。フランドールへと集う影へと「移動を援護しようか?」と華は何気なく声を掛け――全身全霊で吐き出す大喝で影を彼女の許へと飛ばしていく。
 影が集まっていくならば。『本体』は隙だらけだ。燃えさかる炎を刀身に宿した長剣を振り上げる。対するモノを逃さぬ圧倒的な手数の連撃が物言わぬ『みゆきさん』へと飛び込んだ。
 だらりと垂れ下がった黒髪の隙間からブレンダを見遣る眸が覗いている。影に庇われることなく、そしてアタッカーである影の紫煙のない状況ではみゆきさんは不利そのものだ。
「触れられるのであればお化けだろうと怖くはない! 消えろ!!」
 ――ただし、外見はかなりのオバケである。
 その言葉に「確かに、オバケって触れることできないよね~~?」とウロは白い死神を手に、本体へと死の凶弾を放ち続ける。りるの幻影が消え去り、探すように影が蠢くが、そちらへは『向かわさぬように』と勘の良い遠距離攻撃は強かに阻み続けた。
「それにしても~、影って~、結構しぶといんだね~?」
 フランドールの言葉にメイは「この影、凄いうごうごしてるのです!」と大きく頷く。みゆきさんいとっては全てのリソースが影に集まっているのだろう。
 有り得るはずだった『可能性』をその身に纏い、目を開く。アシェンは研ぎ澄まされた狙いから放たれる銃弾を幾重にもみゆきさんへと放った。
(りるさんはもう安全……なら、あとは、倒すだけなのだわ!)
 安全地帯で木馬が少し面倒を見てくれていると、そう告げた呂色が「待たせた!」と戦線へと復帰する。華は「待ってたよ」と告げる。記憶無くとも呂色は赤き殺戮の剣を振り上げて、衝撃波を放つ。
「戦えるね」
「オレは何も覚えてないけど、なんか体が覚えてることってあるじゃん? きっとそれ」
 そうか、と頷いた華は呂色が何かに迷っている素振りをしたことにふと、気付く。
 ダイナマイトキックをするには高さが足りないと攻撃手段に悩む呂色の前でそっと華は腕を組んだ。
「華?」と問い掛ければ、笑顔が返ってくる――「あー、なるほど。そういうことか。ほんっとに君は最高だな!」
 からからと笑う。助走を付け、そして飛び上がったまま呂色は華の腕を踏み台に高く飛び上がって渾身のキックをみゆきさんへとお見舞いした。
 飛び込んだその蹴りを見詰めてヴァイスは「まあ……姿勢を崩したのね」とくすりと笑う。影による疲弊の強いフランドールとメイ。それでも二人が引き付けてくれていることが最短ルートで『倒す』可能性になる事をヴァイスは知っている。
「さあ、往きましょう」
「ああ――此の儘倒しきる!」
 ヴァイスの疾風が貫いた。その軌道の中で、ブレンダは剣を振り上げ、研ぎ澄ます。
 目の前に存在するのは悪性怪異――『手紙から顕現した悪しき存在』だ。人を害することだけを考え、ソレだけのために生み出された怪異へ大して、メイは「倒しちゃえです!」と合図を送る。
「それじゃ~一気に押し込むとしましょ」
 ウロの言葉にアシェンは引き金を引いた。終いの詩は悲劇ばかりで好きではない。けれど、最後にあるのが悲劇と分かってページをめくるのはなんと喜劇な事であるか。
 必中を期するライフルの弾丸が、みゆきさんを抉っていく。影が、厭だというようにフランドールへと襲い掛かった。
「これで~、お終いだからね~……」
 フランドールは目を伏せる。痛む体を押さえても、尚、みゆきさんに伝えたいことがあったからだ――
 みゆきさんへと飛び込んだ再度の呂色の蹴撃。合わせるブレンダの連撃が重なれば、ぴたりと影が動きを止めて静かに『消え失せた』。まるで、何もなかったかのような平穏の夕暮れを其処に残して。
「君は何の為にここに来たのかな~? この子を殺す為~? それとも偶然かな~?」
 倒れたみゆきさん――夜妖を見下ろしてフランドールは静かに告げた。『後ろのみゆきさん』と呼ばれた怪談がどうしてここに居るかは分かっている。
「……違うよね~」
 フランは倒れ、影に溶けるように姿を消していく夜妖を見下ろしてぽつり、ぽつりと言葉を零した。
「手紙がこの子に届いたから、不幸にしてって、呪ってって言われたから、だよね~?
 ……ごめんね、勝手だよね。君は自分の存在意義を果たしにきただけだよね、でも……ごめんね」
 それ以上はない。悪性怪異:夜妖<ヨル>。そう呼ばれた存在が顕現してしまったと言うならば、倒すしかなかったのだ。それも、自然発生ではなく『何らかの条件』から発生したとしても――倒すしかなかった。
「……ごめんね」
 重ねた言葉は影に溶けて、とぷりと消えた。


「天使チャン」
 そうウロが呼ぶ声にアンはびくりと肩を跳ねさせた。アンジュと呼ばれ慣れない彼女はどこか緊張したようにウロを見上げる。
「ど〜にかしたいコトがあって、そのために動く意思があるなら手段は後悔しないもの選んだ方が良いよ。そ〜〜いうの、形はどうあれ自分に返ってくるからね」
「この……『おまじない』みたいに?」
「そ~~だね」
 頷いたウロに緊張した様子のアンは「けれど、どうすれば良かったのか分からないの」と呟く。呂色はアンの事を気遣い、aPhoneで作戦が終了する連絡を終えていたが、と悩ましげに離れた席で珈琲を飲むりるに視線を遣った。
「……出来れば大団円で終わって欲しいよ」
「……そう、だけれど」
 名前で笑われ続け、陰口をたたかれてエスカレートしたいじめに自らの命を絶ちたいと『甘い考え』で思ったのだとぼろりぼろりと涙を落とす天使へと華は「ふむ」と呟いた。
「一つ約束してくれ。人に危害を加える可能性のあるおまじないは行わないように。
 それがどんな噂でも、転じれば何かが起る可能性がある。分かるな?」
 華、と呼んだ呂色に彼女は答えない。アンが頷くのを待っているかのようだった。
「ああ、けれど。ういじめに負けない強い心を持てるように、オレとおまじないでもかけるか?」
「おまじないを……?」
 首を傾いだアンに華は「そうだ」と笑った。おまじない、と繰り返して不安げであったアンにヴァイスは「まぁ、耐えられないのも分かるけれど」と口を開いた。
「……やり返しちゃいけないのよね。どこかで断ち切らないといけないのだもの……それが最も大変だというのも分かるけれど、ね」
 俯いて、おまじないがあればいじめられない? と問い掛けたアンにブレンダは首を振る。昔はミルクティーブラウンの髪を愛らしく結っていた彼女も『いじめ』きかっけにお洒落をするのを怖れたのだろう。
「まずは君が変わるべきだ。名前に負けない様に努力すればいい。
 名は体を表す、という言葉もある。だから名前に合う君に変わればいい。おしゃれをして、髪を整えて。自分が動かなければ世界は変わらないのだ」
「おしゃれ……を?」
 ブレンダは大きく頷く。おしゃれに目覚めれば周囲の目なんてどうでも良くなるはずだ。それに、美しいかんばせをして居るのだと微笑むブレンダにメイががばりと飛び出した。
「そうです! メイも気になってたのですが、アンさんもっとオシャレするのですよ!
 メイはシティガールとして、今の格好のアンさんは見過ごせないのですよ! ということで、メイとお買い物に行くのですよ♪」
「えっ、えっ」
 ぐいぐいと腕を引くメイにひよのは「りるさんの『おばけ』問題を解決してからにしましょうね」と窘める。大きく頷き「なら待ってるのです!」と微笑んだメイにアンは「待っていてね」と息を吐いた。
「自分をいじめてたやつが怖い思いにあうのが嫌だと思ってそれを懺悔できたなら、そんな優しいアンタの心は十分天使らしいんじゃないか?
 それに、自分の名前は嫌いじゃないんだろう? なら、その名前に誇りを持てばいい」
 華の言葉に、アンは――天使(あんじゅ)は頷いた。
 優しいのね、とアシェンは微笑む。オバケを見てしまったらしいのと『彼女が不安げにしていたおばけを解決したこと』を告げていたアシェンは「りるお姉さんもとっても不安だとおもう」と告げる。
「しばらく一緒に帰ってあげると安心してくれるかしら……」
 アシェンの言葉に天使は息を飲んだ。彼女も罪悪感がある。そして、優しい彼女はきっと、りるへ歩み寄ることが出来る強い心の持ち主であるとアシェンは認識していた。
「お友達、だったんでしょう?」
「……うん」
 ゆっくりと、不安げに俯いたりるの傍へと歩み寄ってから、天使は口を開く。
「あ、の。りるちゃん。大丈夫? 怖いことがあったって、皆にきいたの。
 ……それで、もし、よければわたしと……それから、その……りるちゃんを連れてきてくれた――」
「メイなのです!」
「メイちゃんと、お買い物に行ってくれないかな? ……りるちゃんに沢山教えて欲しい」
 二人の手をぐいぐいと引っ張ってメイはにんまりと微笑んだ。アシェンが歩み寄ってみて、と声を掛けたそれを実践することが出来たと輝かんばかりの笑みを見せた天使に「強いわね」とアシェンは頷く。
「何事も形から入るのがいいのですよ! メイはやりたいことが合ったら、まずは格好から入るので!
 メイとりるさんがアンさんを立派なシティーガールに仕立てちゃうのですよ!」
 不幸のお手紙はなかったことに。丸めてゴミ箱に捨てれば、少しずつの歩み寄りを気をつけて。
 行ってきますと手を振った彼女を見遣ってからブレンダは「気をつけて」と見送った。

成否

成功

MVP

アシェン・ディチェット(p3p008621)
玩具の輪舞

状態異常

フランドール=ジェーン=ドゥ(p3p006597)[重傷]
パッチワーカー
メイ=ルゥ(p3p007582)[重傷]
シティガール

あとがき

 ご参加有難う御座いました。
 おまじないは一種の降霊術。生み出されるものがあるとかんがえると、怖いですね。

PAGETOPPAGEBOTTOM