シナリオ詳細
<Phantom Night2020>疾走パンプキン。或いは、善意溢れる厄介ごと…。
オープニング
●ハロウィンの魔物
収穫祭。
それは、混沌世界各地で10月31日に行われる、豊穣と子どもたちの成長を祝う祝祭だ。
古き御伽噺に端を発するその催しの正しい由来は分からねど、世界中の子どもたちが毎年のそれを楽しみにしていることは事実。
その理由の1つに、三日間の魔法が挙げられる。
10月31日の夜から11月3日までの間、世界にかかるその魔法の効力は絶大なものだ。
何しろその間、混沌世界の住人たちは『なりたい姿になれる』のだから。
猫となって、3日間を寝て過ごす者。
悪魔に扮し、あちこちで悪戯して回る者。
子どもに戻って、地域の大人たちに菓子を強請る者。
各々が好き勝手に過ごすものだから、毎年のようにそれ相応のトラブルも発生するのだが、それすらも人々は『祭の一環』として受け入れている節さえあった。
そして、今年……。
そんな秋の祭を愉快に彩るべく、ある研究者が動き始める。
ところは練達。首都セフィロトの一角にある移動研究所“ソシエール”
その管理人は1人の女性研究者であった。
黒いドレスにウィッチハット。
意図的に古の魔女の服装をした妙齢の女性、名を“ドクター・ストレガ”という。
生来の虚弱体質と、慢性的な寝不足により突飛な発明を繰り返すという性質から、近隣では“トラブル・メーカー”として名を馳せた女性だ。
その発明により騒ぎを起こし、人に迷惑をかけてしまったことも両手の指では足りないだろう。
けれど、しかし、彼女の本質を善か悪かに分けるのならば紛う事なき“善”である。
生きづらい世を生きやすく。
結果はともかくとして、彼女の発明は“誰かの為”を思って成される物ばかり。
迷惑をかけた数よりも、人様の役に立った数の方が圧倒的に多いのだ。
そんな彼女、ストレガが今年発明した物は“自立式機動かぼちゃ”であった。
「や……っばぁ。勝手に人ん家に行って、お菓子を集めてくれる機械とか、すっごく便利だとおもったんだけどなぁ」
と、口元を伝う血を拭いストレガは呟いた。
ちなみに吐血は彼女の持病によるものである。
「私みたいに病弱な子どもとか、怪我や病気で入院してる子どもでも収穫祭を楽しめればいいな、って思ったんだけど」
そう言ってストレガは手にした小型モニターに視線を落とす。
モニターに映るは街の風景。
流れゆく道路に人々の姿。
高速で通りを駆け抜ける“自立式機動かぼちゃ”から送られてくる映像だ。
「室内にいながら、外の様子を楽しめる優れもの……のはずが、ちょっと速くし過ぎたかしら?」
モニターの様子を眺めていても、速すぎて景色は楽しめない。
おまけに……。
『ト"リッ、ク"……オア、ト、リ"ート"……ト"リッ、ク"……オア、ト、リ"ート"』
ヒビ割れた子どもの声。
自立式機動かぼちゃの発する声だ。
『お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ』と宣いながら、かぼちゃは菓子を奪いにかかる。
本当は、もっと澄んだ綺麗な音声になるはずだった。
菓子を強奪するのではなく「貰った菓子を操縦者のもとに届ける機能」になるはずだった。
それが、実際に稼働させてみたらこの有様。
カメラの向こうでかぼちゃに襲われた女性が、悲鳴を上げて気絶した。
「暴走し始めるんだものね。参っちゃったわ」
と、そう呟いたストレガは視線を部屋の片隅へ向ける。
そこにあるのは、都合14の小型モニター。
そう……現在、街中を暴走している自立式機動かぼちゃは15体。
一抱えほどのかぼちゃに、8本の機械の脚が付いたその見た目は……例えるのなら蜘蛛に似ている。
『ト"リッ、ク"……オア、ト、リ"ート"……ト"リッ、ク"……オア、ト、リ"ート"』
モニターの向こうでは、新たに1人が菓子を強奪されていた。
●悲しい出来事でしたね
「やはり練達……かぼちゃもひと味違うです。煮ても焼いても食べられないとは」
うむむ、と唸る『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)。
ストレガの脳内設計図に想いを馳せているのだろう。
かぼちゃに8本の脚を付ける辺り、日頃の睡眠不足が祟って正常な思考ではなかったのかもしれない。
とはいえ、既にかぼちゃ達は街に解き放たれている。
「楽しい収穫祭のためにも、皆さんにはかぼちゃの捕縛をお願いするです」
かぼちゃたちは現在、練達の街を疾走中。
ストレガの研究所である“ソシエール”近辺が主な活動範囲となる模様だ。
「かぼちゃの数は15体。戦闘能力は持ちませんが【泥沼】状態を付与する技を使うです」
かぼちゃはお菓子を所持している者を優先的に狙う傾向にある。
この際、本来の「人からお菓子を貰う」という命令が優先されているためか、店頭に並んだ菓子や、人の持っていない菓子は狙わない。
必ず「誰かが持っている」菓子……或いは「菓子を持っている誰か」を襲うようだ。
「壊してしまっても問題ないですが、一応ストレガさんから“かぼちゃ捕獲銃”が貸し出されるです」
それを使えば、かぼちゃの機能を本来ストレガが予定していたものに書き換えられるらしい。
いまさら書き換えたところで……という話ではあるが。
ちなみに貸し出し数は1人1つ。弾丸も3発のみである。
「かぼちゃのおよその位置は、小型モニターに映る景色を見れば判断できるかと思うです。絶えず移動しているうえに速いですが……」
モニターに映る風景を見れば、およその位置は分かるだろう。
現在地を知るための、発信器の類は搭載されていないらしい。
「直径1キロ程度の区画です。南側が居住区です。北側は広場となっていて、仮装した人たちがパーティを開いているです。ソシエールがあるのは東側で、周辺には倉庫が幾つか。西側は研究所が並ぶ区画となっているです」
夜とはいえ街中だ。
幸いなことに視界に問題はないだろう。
北、東、西は通りも広い。一方で南側は細い通りが多く道も入り組んでいる。
「皆さん……かぼちゃ狩りの時間です」
顎の下で手を組んで、ユリーカはそう告げたのだった。
- <Phantom Night2020>疾走パンプキン。或いは、善意溢れる厄介ごと…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年11月17日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●はた迷惑な発明品
収穫祭。
それは、混沌世界各地で行われる、豊穣と子どもたちの成長を祝う祝祭の名だ。
場所は練達。
『貴方の為の王子様』ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)は小型モニターを覗き込んで苦笑を浮かべる。
「ううん、練達の技術はすごいけれど。まぁ、こんなこともあるよね」
「思うのだが、初稼働ならば1体だけでテストしてみれば被害は少なかったのでは……あぁいや、練達の科学者だからか」
『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)の脳裏に浮かんだそんな疑問は、即座に「練達の科学者だから」という一答で消え去った。
理解はできたが、理解できない。
そんな不可思議な感覚に、リュグナーは口元をもごつかせた。
パカラパカラと蹄がタイルを蹴る音がした。
老馬に跨る『観光客』アト・サイン(p3p001394)はひとくちクッキーを齧り、言葉を零す。
「幽霊の仮装をして楽しむ行事だが、これじゃあゴースト・イン・ザ・マシーンだな。ちゃっちゃと止めてくれようか」
小柄な体に、女性のようなすっきりとした顔立ち。性別不明の旅人……否、観光客である。
そんなアトに並んで歩く『ささぐうた』九重 縁(p3p008706)。彼女は、どこか兎を彷彿とさせるフォルムの人型機体“ルナ・ヴァイオレット”に搭乗していた。
周囲を行き交う仮装した人々は、アトへ向けて訝し気な視線を送る。馬がそんなに珍しいのか。 ここ練達においては縁の搭乗した人型機体はどうにも見慣れたものらしく、そちらは見事にスルーであった。
「走るカボチャ? どうして? ふしぎですね?」
「そういうもんだよ。気にしなさんな」
困惑する縁に言葉を返し、アトは視線を通りの先へと向けている。
遥か遠く、地面を這って進む影。
それはどうやら、8本脚のかぼちゃのようで……。
自立式機動かぼちゃ。
病気や怪我で収穫祭を楽しめない子供たちのために、ドクター・ストレガが発明した機械の名称である。
小型のモニターで操縦し、家庭を回り、菓子を貰って子どもたちの元へと帰る。子供たちは収穫祭の雰囲気をモニター越しに楽しめる……と、本来はそのような稼働を想定していた。
ところが、何をどう間違えたのか……。
「なかなか面白そうな機械だな。これがあれば今後はこの時期の菓子集めに難儀しなさそうだ」
そう呟いた『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)の視線の先で、かぼちゃは菓子を抱えた女性に襲い掛かっていた。
女性が手にしたクッキーやキャンディの袋に飛びつき、開いた頭部にそれを格納。8本の脚で着地して、次の獲物を探して駆ける。
菓子を貰い集めるのではなく、菓子を強奪するようにバグっているのが自立式機動かぼちゃの現状だった。
「なかなか速いな。俺の命中力じゃ一発当たれば御の字ってとこだろうし、これはリコリスに預けてしまおう」
そう言って世界は『血濡れ赤ずきん』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)へ小型の拳銃……ストレガの作製したかぼちゃ捕獲銃を手渡した。
「やったぁ! 二丁拳銃だよ!」
捕獲銃を受け取ったリコリス。
体の前で腕を交差させ、両手に持った捕獲銃を横に倒して構えてみせた。
「似合う? 似合う?」
「……まぁ、似合うな。そういう種類の都市伝説みたいだ」
目深にかぶった真っ赤なフード。
暗がりの中で赤く光る2つの瞳。
左右の手には拳銃を持ったその姿。
怪しくないとは、口が裂けても言えない世界は視線を逸らしてほんの小さな溜め息を零す。
狭く暗い路地裏で、『玩具の輪舞』アシェン・ディチェット(p3p008621)と相模 レツ(p3p008409)は2体のかぼちゃと相対していた。
「かぼちゃの馬車なら知っているけれど、自分で走り回るかぼちゃなんて初めてお聞きするのだわ」
「化生の類かな? と思ったら違った。からくりだったか。……いやどちらにせよ物の怪な気がしてきたけど」
捕獲銃を構えたアシェンを庇うように、レツは1歩前に出る。
左の手には菓子の小袋。
右の袖は風に揺れていた。
レツの背後で、アシェンは長い髪を掻きあげ、その手に捕獲銃を構えた。捕獲銃にストックされた弾は3発。
『ト"リッ、ク"……オア、ト、リ"ート"……ト"リッ、ク"……オア、ト、リ"ート"』
ガチャガチャ、と。
地面を蹴ってかぼちゃが駆ける。
その狙いはまっすに、レツが手にした菓子の袋に向いていた。
●お菓子をくれなきゃ
錬達の街に、解き放たれたかぼちゃは都合15体。
4チームに分かれ、かぼちゃの対応に向かったイレギュラーズのうち最も早くにかぼちゃとの交戦を開始したのはレツ&アシェンの組だった。
壁や地面を足場とし、縦横に跳ね回るかぼちゃを相手にレツは素早い足捌きで対応。
ひょい、と菓子袋を宙へと投げると素早く左の手で腰の短刀を引き抜いた。
菓子袋目掛けて跳んだかぼちゃの眉間に向けて刀を一閃。折れて刃の失われている短刀であるが、直後『斬』とかぼちゃの顔に深い裂傷が刻まれる。
地面に叩き落されたかぼちゃへ向け、アシェンが捕獲銃の引き金を引いた。
放たれるはワイヤー付きのニードルだ。それはかぼちゃに突き刺さりスパーク。
びりびりと痙攣したかぼちゃから、赤や青やの煙が昇る。
『ト"リッ、ク"……オア、ト、リ"ート"……ト"リッ、ク"……オア、ト、リ"ート"……ト“ト“ト“ト“……………………………………………………………トリックオアトリート♪』
かぼちゃから放たれる澄んだ声。幼き子供の無垢な声。
先ほどまでのノイズ混じりの濁音声は一体どこから出ていたのかとさえ思わせる。
「……動かなくしてしまっても、良いみたいだけれど、こういう風になるのなら、ぜんぶ直してあげたいかしら?」
「同感だね。あまり壊してしまいたくはないので攻撃は控えめにしておこう」
アシェンとレツが見守る先で、かぼちゃはてってこ通りへ向けて歩いて行った。ストレガが何かしらの操作をしているのだろう。
残る1体のかぼちゃへ向けて、レツが視線を向けた……その瞬間。
「うっ……!?」
かぼちゃから吐き出されたパステルカラーの粘液が、レツの脚に降りかかる。
動きを封じられたレツへ向けてかぼちゃが加速し、接近するが……。
「お化けもカボチャもいらっしゃい。甘いお菓子が待ってるわ!」
レツの背後から差し伸ばされたアシェンの手には捕獲銃。
捕獲銃の弾に射貫かれ、かぼちゃはボトリと地に落ちた。
並んで立ったアトと縁の背後には、賑わいを見せるパーティ会場。
甘い菓子に甘いドリンク。友人知人との語らいと、どこまでも明るい笑い声。
ルナ・ヴァイオレットの操縦席で縁はその様子をモニター越しに眺めていた。
もぐもぐとその口元はしきりに何かを食んでいる。かぼちゃの囮とするために持参した幾つかの菓子を、どうやら食べているらしい。
「せっかくパーティが楽しまれてるんだ、僕らは影のごとく邪魔させないようにすべてを終わらせてしまおう」
「むぐっ……ん、ごく。あ、そ、そうですね! 被害が大きくなって皆が悲しむ前に止めないと!」
「……君、もしかしてお菓子食べてない?」
なんて、言葉を交わす2人の視界。
通りの先からパーティ会場へ向けて集まってきたかぼちゃの数は全部で5体。人で賑わう場所ゆえか、かぼちゃの数もやたらと多い。
「発想がトンチキですよね……でも、ちょっとかわいい?」
「かわいいか? これ?」
シャカシャカと、かぼちゃの歩む足音にアトは顔を顰めてみせる。
捕獲銃を手にアトは駆けだす。【ヴァルハラ・スタディオン】を自身に掛けて、滑り込むようにかぼちゃへ肉薄。
狙いを付けられたかぼちゃが回避を試みるものの、飛来した粘着弾に絡めとられてそれは失敗に終わる。
粘着弾を放ったのは縁だ。動きの止まったかぼちゃへ向けて、アトは捕獲銃を撃ち込む。
停止したかぼちゃは1体。
残る4体のかぼちゃは散開し、四方からアトと縁に目掛けて駆ける。
『ト"リッ、ク"……オア、ト、リ"ート"!!』
直後、かぼちゃが吐いたパステルカラーの粘液が、アトと縁に降り注いだ。
「うへー、塗装がべしゃべしゃなんですけど!」
練達の街に、縁の悲鳴が木霊する。
肩を並べて駆ける2人。
菓子を手にしたリュグナー&ラクロスである。
「さぁ、ここに美味しい練り切りを持っている人がいるぞ! お菓子が欲しい子は寄っておいで!」
練り切りを手に名乗りを上げたラクロスを、2体のかぼちゃが追尾していた。
移動研究所“ソシエール”から離れるように逃げているのは、万が一にも研究所内のストレガが被害に逢わないためである。
幸いなことにかぼちゃの狙いはラクロスへと向いていた。走る速度はほぼ同じ……となれば、ラクロスが追い付かれることはないだろうが。
「命中に自信が無い訳ではないが……」
傍らの倉庫の影に、リュグナーは素早く滑り込む。
瞬間、ラクロス目掛けて吐き出された粘液が倉庫の壁を斑に染めた。
粘液が命中する直前、ラクロスは残像を描き加速したのだ。しびれを切らしたかぼちゃが1体、倉庫の壁へと這いあがった。
上空からラクロス目掛けて襲い掛かる算段だろうか。タン、と壁を蹴りかぼちゃが跳んだ。8本の脚を綺麗に揃えたフライングフォーム。さながらかぼちゃの彗星のごとく……まっすぐ、早く……なればこそ、リュグナーにとってそれは単なる的でしかない。
「念には念を……な」
倉庫の影からリュグナーの放った半透明の黒鎖が宙を疾駆した。即座にそれは、かぼちゃの身体に絡みつく。
蜘蛛の巣に捉えられた蝶のように……鎖に囚われたかぼちゃだが……停止したかぼちゃへ向けて、ラクロスは素早く身体を反転。
地面を滑るようにしながら身を沈めると、両手で捕獲銃を構えた。
「トリックオアトリート! 悪い子にはお仕置きだよ!」
響く銃声。
スパークがはじけ、かぼちゃが地面に落下する。
8本の脚で着地の衝撃を殺し、かぼちゃは数度激しく震えた。
『ト"リッ、ク"……オア……ト"、ト"、ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"トト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"トトトトトト……と、トリックオアトリート♪』
「ハイ!」とでも挨拶するように脚を1本、宙へと掲げかぼちゃは跳ねる。
そして、直後背後から迫る別の1体へと向け粘液を吐いた。
どうやら研究所に残るストレガが操作しているらしい。
そうして動きの止まった残り1体へと向けて、リュグナーは捕獲銃の弾を撃ち込む。
「奇妙な依頼が多いものだな……飽きぬが故、我は構わぬがな」
呆れたように、けれど直後に頬を緩めてリュグナーはそう呟いた。
人気の少ない西区画。
研究所の並ぶ通りに佇む世界の周囲に、ひらりはらりと舞う燐光。
金貨を模したチョコを手にした精霊たちだ。
「ふふん……俺特性の『GOLDがないよチョコ』ならば何の問題も無い! 最後までチョコたっぷりだもんな!」
かぼちゃの数が少ないことが予想される西区画。人の数も少ないため、暴れまわるのなら絶好のロケーションである。
ならば、そこにかぼちゃを誘き寄せれば良いのだ。事前に小型モニターで確認したところ、周囲に2体ほどかぼちゃが潜んでいることは判明している。
「カボチャさん上手に捕まえたら、中に入ってるお菓子食べてもいい? やっぱり持ち主さんに返さなきゃダメ?」
精霊から受け取ったチョコを齧りつつ、リコリスは問うた。
どうやら小腹が空いていたようだ。
「さぁ、どうだろうな。それより、そろそろ持ち場についてくれよ?」
かぼちゃが来るぞ、と。
世界が呟いたその直後……。
『ト"リッ、ク"……オア、ト、リ"ート"!!』
通りの左右に建つ研究所、その屋根の上に2体のかぼちゃが現れた。
踵を返し、狭い通りへリコリスが駆けこむ。その後を追って、世界と精霊も走り出した。
世界の後を追いかけるかぼちゃ。
時折、吐き出す粘液が世界の肩や腿をかすめた。【クェーサーアナライズ】の発動準備を整える世界の足首に、しかしとうとう粘液が命中。
黒い靴がピンクに染まった。
「うおっ⁉ せ、精霊たち、リコリスのところに機動カボチャを誘導してくれ!」
粘液に足を取られた世界が地面に倒れ込む。
その頭の上を乗り越え、かぼちゃが通りを駆け抜けた。ご丁寧に世界の手からチョコを奪っていく徹底ぶり。どうやらかぼちゃは職務に忠実であるらしい。
「い……てぇ」
顔に付いた土を片手で払いつつ、世界はゆっくり顔をあげ……。
「すごいすごい! おもしろいくらいカボチャが罠にかかってる! これなら撃ち放題だね!」
精霊に誘導されたかぼちゃに向けて、捕獲銃の弾を撃ち込むリコリスの姿を視界に捉えた。狙い違わず撃ち抜かれたかぼちゃが2体地面に転がる。サブクラス【シューター】の面目躍如といったところか。
ちなみにメインクラスは【不審者】である。
リコリスは落ちたかぼちゃに近づくと、それをそっと持ち上げて……。
「じゅる……あぐ!」
あろうことか、機械のかぼちゃに大口を開けて喰らい付いたのであった。
●悪戯するぞ
今宵は楽しい収穫祭。
甘い菓子に、かぼちゃのケーキ、思い思いの仮装に身を包んだ人々が知人や友人、家族たちと談笑している。
そんな愉快なパーティ会場のすぐ近く、アトと縁はかぼちゃ相手に奮闘していた。
最初は5体だったかぼちゃも、気付けば9体へと増えた。うち3体は既に捕獲しているが、それでもまだ6体がいる。
たった2人で6体のかぼちゃを押し留めるのもそろそろ限界に近かった。
「やむを得ないな。突破されるわけにもいかないし」
身を低く沈めたアトの頭上を、かぼちゃが1体通過した。アトの手にした菓子の袋を狙っているのだ。
「疾っ!」
地面を叩いた反動で、アトは素早く立ち上がる。
その勢いを利用して、捕獲銃のグリップをかぼちゃの顔面へと叩きつけた。
ぐしゃり、とかぼちゃの顔が潰れガラスの破片が周囲に飛び散る。かぼちゃの頭部に搭載されたメインカメラが砕けたのである。
「ほら、此方からもプレゼントですよ、そーい!」
次いで縁が粘着弾を撃ち出すが、残念ながらかぼちゃはそれを素早く回避。
ルナ・ヴァイオレットの懐にかぼちゃは身を潜り込ませて……。
『ト"リッ、ク"……オア、ト、リ"ート"!!』
その顔面へ向け、オレンジ色の粘液を吐きつけたのだった。
ルナ・ヴァイオレットの搭乗ハッチにかぼちゃが3体群がった。どうやらハッチをこじ開けようとしているらしい。中にいる縁が菓子を持っていることを理解したのだ。
「あわ……あわわわ」
視界を奪われ、動きの鈍った縁が慌てた声を零すが……。
「おっと、君たちの相手はその子じゃないよ、この私ラクロス・サン・アントワーヌだ!」
戦場に駆け込む軍馬が1頭。
その背に乗ったラクロスが声高らかに名乗りを上げた。
馬の手綱を握ったままに、ラクロスは馬上で倒立。長くしなやかな脚を旋回させ、かぼちゃの1体を鋭く蹴った。
『ト“リ”ッ……!!』
地面に転がるかぼちゃの元へ、無言のままにリュグナーが駆けた。その影の中から、ぞろりと這い出す赤黒い蛇。地面を這って、それはかぼちゃに巻き付いた。
ギシ、と金属の軋む音。
「もう弾が残っていないのだが……」
「だったら私に任せてちょうだい!」
リュグナーの隣を駆け抜ける影。
白い髪を靡かせながらアシェンが捕獲銃を構えた。
放たれた弾丸は狙いも違わずかぼちゃに命中。機能を回復させたかぼちゃへ向けて、アシェンは菓子の小袋差し出す。
「ふふ、治ってよかったのだわ。さぁ、お菓子をどうぞ?」
アシェンの手から菓子を受け取ったかぼちゃは、“ソシエール”へ向け帰って行った。
疾風のごとく。
身を低くしたレツが戦場を駆ける。
視認できぬほどの速度で振るわれる左腕。握られた短刀によって、かぼちゃが次々宙を舞う。
でたらめに撃ちだされる粘液を、回避しながら跳ぶ紅い影。それはリコリスのものだった。
くるり、と宙で体を反転。頭を下にした姿勢のまま、彼女は捕獲銃を撃つ。
タタン、と続けざまに鳴る銃声。
撃ち抜かれたかぼちゃが2体、空中で激しくスパークした。
「やっぱり狩りはいいですね!」
「壊すのは最終手段だぞ?」
短刀を振るうレツへ向け、世界はそう言葉をかける。
「あぁ、分かっているよ」
にこり、と爽やかな笑みを反してレツは短刀を構えた。世界の周囲にはチョコを手にした精霊の群れ。
ひらりはらりと飛ぶ精霊に誘われて、残るかぼちゃが2人へ迫る。
世界がかぼちゃを誘き寄せるその周囲……捕獲銃を構えたアシェンやリコリスが囲む。
かぼちゃが世界に殺到した、その瞬間……。
タラララララと、暗い夜空に銃声が鳴り響く。
「さて……しでかしたからには、行いの贖いも必要だろう」
と、そう言って。
レツはかぼちゃを引き攣れて、夜の街へと消えていった。
そんな彼を見送って、世界はチョコをひと口齧った。
「それじゃ、俺はドクター・ストレガにハロウィンパイでも渡してこようか」
それから少し、かぼちゃたちの見送って。
面をかぶって“ソシエール”へ向け歩き出す。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。無事に自立式機動かぼちゃは捕獲され、強奪された菓子は持ち主たちに返還されました。
ドクター・ストレガもパンプキン・パイを貰ってホクホク顔です。
美味しいお菓子を糧として、彼女は今後も発明に精を出すことでしょう。
依頼は成功となります。
この度はご参加ありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
自立式機動かぼちゃ15体の捕獲or破壊
●ターゲット
・自立式機動かぼちゃ×15
顔の付いたかぼちゃを模して作られた機械。
目の部分にはカメラ。口の部分にはスピーカー。
頭頂部を開けると、菓子を保管するスペースがある。
8本の機械の脚で駆け回る様は蜘蛛の如し。
機動4~5相当。
カメラの映像は、ストレガの持つ小型モニターに映る。
トリック:神中単に無ダメージ、泥沼
脚先より粘性の液体を噴出する。
赤や青、緑など液体の色は多用。とてもカラフル。
そして甘い香りがする。ハッピーナイト♪
・ドクター・ストレガ
黒いドレスにウィッチハット。
顔色の悪い妙齢の女性科学者。
体が非常に弱いため、移動研究所“ソシエール”にて待機中。
今回は彼女が作成した“かぼちゃ捕獲銃”が1人1つ付与される。
「まぁ、捕獲せずに壊しちゃってもいいけどさ」とはストレガの言葉。
・かぼちゃ捕獲銃
見た目は拳銃。1人1つ貸し出される。
射程はおよそ15メートル。対象は単体。
機能としてはテイザーガンに近い。
自立式機動かぼちゃの機能を書き換える弾丸を射出することが出来る。
3発装填。換えの弾丸は無し。
機能を書き換えた自立式機動かぼちゃは『澄んだ声を発するようになり』『小型モニター経由でコントロールできる』ようになる。
●フィールド
練達。首都セフィロト、郊外付近の区画。
直径1キロほど。
南側が居住区(狭い通りが多い)
北側は広場。仮装した人たちがパーティを開いている。
東側には倉庫とソシエール(ストレガの本拠地)
西側には研究所が並んでいる(あまり人はいない)
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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